球面三角法

同義語:球面の余弦定理球面の正弦定理spherical trigonometry

概要

球面三角法(spherical trigonometry)とは、球面の上で 3 本の大円の弧に囲まれた球面三角形の辺と角の関係を扱う計算法である。単位球面の上で、辺 $a,b,c$ を頂点の位置ベクトルのなす中心角、角 $A,B,C$ を頂点での接線の向きのなす角とすると、球面の余弦定理 $\cos a=\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A$ と正弦定理 $\frac{\sin A}{\sin a}=\frac{\sin B}{\sin b}=\frac{\sin C}{\sin c}$ が成り立つ。北極と 2 地点の三角形に使うと、緯度と経度から 2 地点の大円距離が求まる。辺が球の半径に比べて小さい三角形では、平面の余弦定理と正弦定理で近似できる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 球面三角形の面積, 余弦定理(高校数学), ベクトルの内積(高校数学), 一般角と弧度法

高校での出発点:平面の余弦定理は球面で使えるか

平面の三角形では、2 辺 $b$、$c$ とその間の角 $A$ から、残りの辺 $a$ が余弦定理 $a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$ で求まる(余弦定理(高校数学))。地球の上の 2 都市の距離のように、球面の上の三角形でも同じ計算をしたい。まず、平面の式がそのままでは使えないことを確かめる。

球面を 8 等分した三角形

半径 $1$ の球面の上に、$A(1,0,0)$、$B(0,1,0)$、$C(0,0,1)$ をとる。3 点を結ぶ大円(球の中心を通る平面で切った円)の弧は、どれも円周の $\dfrac14$ で、長さは $\dfrac\pi2$ である。この 3 本の弧で囲まれた三角形は、球面を座標平面で 8 等分した 1 つで、3 つの角はどれも直角である(球面三角形の面積)。
(1) 平面の余弦定理に $b=c=\dfrac\pi2$、$A=\dfrac\pi2$ を入れると、$a^2=\left(\dfrac\pi2\right)^2+\left(\dfrac\pi2\right)^2-0$ から $a=\dfrac{\sqrt2\,\pi}{2}=2.221\ldots$ となる。実際の辺の長さは $\dfrac\pi2=1.570\ldots$ で、4 割以上ずれる。
(2) 内角の和は $\dfrac\pi2\times3=\dfrac{3\pi}2$($270^\circ$)で、$180^\circ$ ではない。

球面の三角形には、球面のための余弦定理と正弦定理が要る。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 球面三角形の辺と角の間には、どんな関係があるか。→ thm-strig-main
  2. 地球の上の 2 地点の距離は、緯度と経度からどう求めるか。→ cor-strig-distance
  3. 小さい三角形では、なぜ平面の余弦定理で間に合うのか。→ rem-strig-small
    平面の三角形球面三角形(半径 $1$)
    辺線分の長さ大円の弧の長さ=中心角
    余弦定理$a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$$\cos a=\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A$
    正弦定理$\dfrac{\sin A}{a}=\dfrac{\sin B}{b}=\dfrac{\sin C}{c}$$\dfrac{\sin A}{\sin a}=\dfrac{\sin B}{\sin b}=\dfrac{\sin C}{\sin c}$
    内角の和$\pi$$\pi$ より大きい
    使う道具三角比、座標位置ベクトルの内積

球面三角形の辺と角

以下、原点 $O$ を中心とする半径 $1$ の球面(単位球面)で考える。球面の上の点 $X$ を、位置ベクトル $\vec x=\overrightarrow{OX}$(長さ $1$)と同一視する。
球面三角形とその角は 球面三角形の面積 で定義した。要点を再掲する。1 つの大円の上にない 3 点 $A,B,C$ を頂点とし、2 点ずつを大円の短い方の弧で結んだ三角形を 球面三角形 という。頂点 $A$ における 角 は、弧 $AB$ と弧 $AC$ が $A$ から出ていく向き
$$ \vec t_{AB}=\vec b-(\vec a\cdot\vec b)\,\vec a,\qquad \vec t_{AC}=\vec c-(\vec a\cdot\vec c)\,\vec a $$
のなす角($0$ と $\pi$ の間)である(単位球面なので 球面三角形の面積 の $R^2$ は $1$)。$\vec t_{AB}$ は $\vec b$ から $\vec a$ の方向の成分を除いたもので、$\vec a$ に垂直、つまり $A$ での接平面の上にある。

球面三角形の辺

球面三角形 $ABC$ の 辺 $a,b,c$ を、中心角
$$ a=\angle BOC,\qquad b=\angle COA,\qquad c=\angle AOB $$
($0< a,b,c<\pi$)で定める。単位球面では、これは弧 $BC$、$CA$、$AB$ の長さに等しい。位置ベクトルの内積で書けば
$$ \cos a=\vec b\cdot\vec c,\qquad\cos b=\vec c\cdot\vec a,\qquad\cos c=\vec a\cdot\vec b $$
である。角 $A,B,C$ はそれぞれ頂点 $A,B,C$ における角とする。

$0< a<\pi$ となる理由:$B=C$ なら $a=0$、$B$ と $C$ が向かい合う($\vec c=-\vec b$)なら $a=\pi$ である。どちらの場合も、$O,B,C$ と $A$ を含む平面があり、$A,B,C$ はその平面で切った大円の上にのってしまう。よって球面三角形では $0< a<\pi$ で、$\sin a>0$ である。$b$、$c$ も同じである。

北極と赤道を使った三角形

$A(0,0,1)$(北極)、$B(1,0,0)$(赤道上)、$C\left(0,\dfrac{\sqrt2}2,\dfrac{\sqrt2}2\right)$(北緯 $45^\circ$)とする。
(1) 辺:$\cos c=\vec a\cdot\vec b=0$ から $c=\dfrac\pi2$、$\cos b=\vec c\cdot\vec a=\dfrac{\sqrt2}2$ から $b=\dfrac\pi4$、$\cos a=\vec b\cdot\vec c=0$ から $a=\dfrac\pi2$ である。
(2) 角 $A$:$\vec t_{AB}=\vec b-0\cdot\vec a=(1,0,0)$、$\vec t_{AC}=\vec c-\dfrac{\sqrt2}2\vec a=\left(0,\dfrac{\sqrt2}2,0\right)$ で、内積は $0$ なので $A=\dfrac\pi2$ である。
(3) 角 $B$:$\vec t_{BA}=\vec a-(\vec b\cdot\vec a)\vec b=(0,0,1)$、$\vec t_{BC}=\vec c-(\vec b\cdot\vec c)\vec b=\vec c$ で、内積は $\dfrac{\sqrt2}2$、長さはどちらも $1$ なので $\cos B=\dfrac{\sqrt2}2$、$B=\dfrac\pi4$ である。
(4) 角 $C$:$\vec t_{CA}=\vec a-\dfrac{\sqrt2}2\vec c=\left(0,-\dfrac12,\dfrac12\right)$、$\vec t_{CB}=\vec b-0\cdot\vec c=(1,0,0)$ で、内積は $0$ なので $C=\dfrac\pi2$ である。
内角の和は $\dfrac\pi2+\dfrac\pi4+\dfrac\pi2=\dfrac{5\pi}4$ で、$\pi$ より $\dfrac\pi4$ 大きい。球面三角形の面積 の Girard の定理により、この三角形の面積は $\dfrac\pi4$ である。

単位球面の上の球面三角形 ABC を赤で、頂点の位置ベクトルを青で、頂点 A で弧 AB と弧 AC が出ていく向きを緑の矢印で示す 単位球面の上の球面三角形 ABC を赤で、頂点の位置ベクトルを青で、頂点 A で弧 AB と弧 AC が出ていく向きを緑の矢印で示す
図 1 のように、辺は位置ベクトルどうしのなす角、角は接平面の上の 2 つの向きのなす角である。どちらも内積で計算できるので、辺と角の関係も内積の計算で出る。

主定理:球面の余弦定理と正弦定理

球面の余弦定理と正弦定理

単位球面の上の球面三角形 $ABC$ の辺を $a,b,c$、角を $A,B,C$ とする。
(1)(球面の余弦定理)
$$ \cos a=\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A $$
であり、$b$ と $B$、$c$ と $C$ についても同じ形の式が成り立つ:$\cos b=\cos c\cos a+\sin c\sin a\cos B$、$\cos c=\cos a\cos b+\sin a\sin b\cos C$。
(2)(球面の正弦定理)
$$ \frac{\sin A}{\sin a}=\frac{\sin B}{\sin b}=\frac{\sin C}{\sin c} $$
である。

方針:角 $A$ の余弦を $\vec t_{AB}$ と $\vec t_{AC}$ の内積で計算する。正弦定理は、余弦定理から $\sin^2A$ を求めると、$a,b,c$ について対称な式が現れることから出る。
段 1(接ベクトルの長さ)。def-strig-sides から $\vec a\cdot\vec b=\cos c$、$\vec a\cdot\vec a=1$ なので、$\vec t_{AB}=\vec b-\cos c\,\vec a$ で、
$$ \lvert\vec t_{AB}\rvert^2=\vec b\cdot\vec b-2\cos c\,(\vec a\cdot\vec b)+\cos^2c\,(\vec a\cdot\vec a)=1-2\cos^2c+\cos^2c=1-\cos^2c=\sin^2c $$
である。$\sin c>0$ なので $\lvert\vec t_{AB}\rvert=\sin c$ である。同じく $\vec t_{AC}=\vec c-\cos b\,\vec a$、$\lvert\vec t_{AC}\rvert=\sin b$ である。
段 2(接ベクトルの内積)。$\vec b\cdot\vec c=\cos a$、$\vec a\cdot\vec c=\cos b$、$\vec a\cdot\vec b=\cos c$ を使うと
$$ \begin{aligned} \vec t_{AB}\cdot\vec t_{AC}&=(\vec b-\cos c\,\vec a)\cdot(\vec c-\cos b\,\vec a)\\ &=\vec b\cdot\vec c-\cos b\,(\vec a\cdot\vec b)-\cos c\,(\vec a\cdot\vec c)+\cos c\cos b\,(\vec a\cdot\vec a)\\ &=\cos a-\cos b\cos c-\cos c\cos b+\cos b\cos c\\ &=\cos a-\cos b\cos c \end{aligned} $$
である。
段 3(余弦定理)。角 $A$ は $\vec t_{AB}$ と $\vec t_{AC}$ のなす角なので、段 1・段 2 から
$$ \cos A=\frac{\vec t_{AB}\cdot\vec t_{AC}}{\lvert\vec t_{AB}\rvert\,\lvert\vec t_{AC}\rvert}=\frac{\cos a-\cos b\cos c}{\sin b\sin c} $$
である。分母を払うと (1) の式になる。頂点 $B$、$C$ でも、文字を入れ替えて同じ計算をすればよい。
段 4(正弦定理)。段 3 から
$$ \sin^2A=1-\cos^2A=\frac{\sin^2b\sin^2c-(\cos a-\cos b\cos c)^2}{\sin^2b\sin^2c} $$
である。分子を $\sin^2=1-\cos^2$ で書き直して展開すると
$$ \begin{aligned} \sin^2b\sin^2c-(\cos a-\cos b\cos c)^2&=(1-\cos^2b)(1-\cos^2c)-\cos^2a+2\cos a\cos b\cos c-\cos^2b\cos^2c\\ &=1-\cos^2a-\cos^2b-\cos^2c+2\cos a\cos b\cos c \end{aligned} $$
である。これを $\Delta$ とおく。$\Delta$ は $a,b,c$ を入れ替えても変わらない。$0< A<\pi$ から $\sin A>0$、また $\sin b,\sin c>0$ なので、$\sin A=\dfrac{\sqrt\Delta}{\sin b\sin c}$ で、
$$ \frac{\sin A}{\sin a}=\frac{\sqrt\Delta}{\sin a\sin b\sin c} $$
である。右辺は $a,b,c$ について対称なので、頂点 $B$、$C$ で同じ計算をしても同じ値になる。これで (2) が示された。

$0< A<\pi$ となること:$A=0$ または $A=\pi$ なら、$\vec t_{AB}$ と $\vec t_{AC}$ が平行で、$\vec b$、$\vec c$ が $\vec a$ と 1 つの向き $\vec t_{AB}$ で張られる平面に入り、$A,B,C$ が 1 つの大円の上にのる。球面三角形ではこれは起こらない。

公式を確かめる

ex-strig-sides の三角形($a=\dfrac\pi2$、$b=\dfrac\pi4$、$c=\dfrac\pi2$、$A=\dfrac\pi2$、$B=\dfrac\pi4$、$C=\dfrac\pi2$)で確かめる。
(1) 頂点 $B$ の余弦定理:右辺は $\cos c\cos a+\sin c\sin a\cos B=0\cdot0+1\cdot1\cdot\dfrac{\sqrt2}2=\dfrac{\sqrt2}2$ で、左辺 $\cos b=\cos\dfrac\pi4=\dfrac{\sqrt2}2$ と一致する。
(2) 頂点 $A$ の余弦定理:右辺は $\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A=\dfrac{\sqrt2}2\cdot0+\dfrac{\sqrt2}2\cdot1\cdot0=0$ で、左辺 $\cos a=0$ と一致する。
(3) 正弦定理:$\dfrac{\sin A}{\sin a}=\dfrac11=1$、$\dfrac{\sin B}{\sin b}=\dfrac{\sqrt2/2}{\sqrt2/2}=1$、$\dfrac{\sin C}{\sin c}=1$ で等しい。$\Delta=1-0-\dfrac12-0+0=\dfrac12$ で、$\dfrac{\sqrt\Delta}{\sin a\sin b\sin c}=\dfrac{1/\sqrt2}{\sqrt2/2}=1$ とも一致する。

外積で見る

空間の平面と法線ベクトル の外積を使うと、同じ計算を次のように見ることができる。

外積による見方を開く

平面 $OAB$ の法線ベクトル $\vec a\times\vec b$ と平面 $OAC$ の法線ベクトル $\vec a\times\vec c$ のなす角は、2 つの平面が交線 $OA$ のまわりで開く角、つまり角 $A$ に等しい(球面三角形の面積 の角の説明)。Lagrange の恒等式 $(\vec p\times\vec q)\cdot(\vec r\times\vec s)=(\vec p\cdot\vec r)(\vec q\cdot\vec s)-(\vec p\cdot\vec s)(\vec q\cdot\vec r)$(空間の平面と法線ベクトル の定理「外積の性質」)から、$(\vec a\times\vec b)\cdot(\vec a\times\vec c)=(\vec a\cdot\vec a)(\vec b\cdot\vec c)-(\vec a\cdot\vec c)(\vec b\cdot\vec a)=\cos a-\cos b\cos c$、$\lvert\vec a\times\vec b\rvert=\sin c$、$\lvert\vec a\times\vec c\rvert=\sin b$ である。よって $\cos A=\dfrac{\cos a-\cos b\cos c}{\sin b\sin c}$ となる。

また、$\Delta$ は $\vec a,\vec b,\vec c$ を並べた行列式の 2 乗 $\det(\vec a,\vec b,\vec c)^2$ に等しい(内積を並べた行列 $\begin{pmatrix}1&\cos c&\cos b\\\cos c&1&\cos a\\\cos b&\cos a&1\end{pmatrix}$ の行列式が $\Delta$ で、これは $\det(\vec a,\vec b,\vec c)^2$ に等しい)。$\lvert\det(\vec a,\vec b,\vec c)\rvert$ は $\vec a,\vec b,\vec c$ の張る平行六面体の体積なので、正弦定理の共通の値は「平行六面体の体積を $\sin a\sin b\sin c$ で割ったもの」と読める。

余弦定理の使い方

平面の三角形と同じく、球面の余弦定理は「3 辺から角を求める」ことにも、「2 辺とその間の角から残りの辺を求める」ことにも使える。

3 辺がどれも $60^\circ$ の三角形

単位球面の上で、3 辺がどれも $a=b=c=\dfrac\pi3$ の球面三角形の角を求める。余弦定理から
$$ \cos A=\frac{\cos a-\cos b\cos c}{\sin b\sin c}=\frac{\frac12-\frac14}{\frac34}=\frac13 $$
で、$A=\arccos\dfrac13=70.528\ldots^\circ$ である。対称性から $B=C=A$ で、内角の和は $211.58\ldots^\circ$ である。平面の正三角形の $60^\circ$ より、1 つの角が $10.5^\circ$ ほど大きい。
球面三角形の面積 の Girard の定理から、面積は内角の和から $\pi$ を引いた
$$ 3\arccos\frac13-\pi=0.5512\ldots $$
である($31.58\ldots^\circ$ をラジアンに直した値)。余弦定理と Girard の定理を組み合わせると、3 辺から面積が求まる。

2 地点の距離

地球の上の 2 地点の距離を、緯度と経度から求める。地球を半径 $R$ の球とみなすと、2 地点を結ぶ最短の道は大円の短い方の弧で(この記事では証明しない)、その長さは $R\times$(中心角)である。

大円距離の公式

緯度 $\varphi_1$、経度 $\lambda_1$ の地点 $P$ と、緯度 $\varphi_2$、経度 $\lambda_2$ の地点 $Q$ について、中心角 $d=\angle POQ$ は
$$ \cos d=\sin\varphi_1\sin\varphi_2+\cos\varphi_1\cos\varphi_2\cos(\lambda_2-\lambda_1) $$
を満たす(南緯・西経は負の値で表す)。半径 $R$ の球では、2 地点の大円距離は $Rd$ である。

半径 $1$ で考える。緯度 $\varphi$、経度 $\lambda$ の点の位置ベクトルは $(\cos\varphi\cos\lambda,\ \cos\varphi\sin\lambda,\ \sin\varphi)$ である。
$P$ と $Q$ の内積を計算すると
$$ \cos d=\cos\varphi_1\cos\varphi_2(\cos\lambda_1\cos\lambda_2+\sin\lambda_1\sin\lambda_2)+\sin\varphi_1\sin\varphi_2=\cos\varphi_1\cos\varphi_2\cos(\lambda_2-\lambda_1)+\sin\varphi_1\sin\varphi_2 $$
である(加法定理 $\cos(\lambda_2-\lambda_1)=\cos\lambda_1\cos\lambda_2+\sin\lambda_1\sin\lambda_2$ を使った)。
これは、北極 $N$ と $P$、$Q$ を頂点とする球面三角形の余弦定理でもある。$N$ から $P$ までの辺は $\dfrac\pi2-\varphi_1$、$N$ から $Q$ までの辺は $\dfrac\pi2-\varphi_2$ で、$N$ での角は経度の差 $\lvert\lambda_2-\lambda_1\rvert$($\pi$ を超えるときは $2\pi$ から引いた値。余弦は変わらない)である。$\cos\left(\dfrac\pi2-\varphi\right)=\sin\varphi$、$\sin\left(\dfrac\pi2-\varphi\right)=\cos\varphi$ なので、thm-strig-main (1) は上の式になる。

東京とロンドン

東京を北緯 $35.68^\circ$・東経 $139.69^\circ$、ロンドンを北緯 $51.51^\circ$・西経 $0.13^\circ$(経度 $-0.13^\circ$)とする。経度の差は $139.82^\circ$ である。cor-strig-distance から
$$ \cos d=\sin35.68^\circ\sin51.51^\circ+\cos35.68^\circ\cos51.51^\circ\cos139.82^\circ=0.0702\ldots $$
で、$d=85.97\ldots^\circ$ である。$R=6371\ \mathrm{km}$ とすると、大円距離は $6371\times85.97\ldots\times\dfrac{\pi}{180}=9559\ldots\ \mathrm{km}$ である。

地球儀の上で東京とロンドンを結ぶ大円航路を赤で示し、北極の近くを通る 地球儀の上で東京とロンドンを結ぶ大円航路を赤で示し、北極の近くを通る
経度と緯度をそのまま目盛りにした地図の上で、東京とロンドンを結ぶ大円航路は北緯 70 度付近までふくらみ、地図の上の直線とは違う 経度と緯度をそのまま目盛りにした地図の上で、東京とロンドンを結ぶ大円航路は北緯 70 度付近までふくらみ、地図の上の直線とは違う

図 2 は大円航路を地球儀の上で、図 3 は経度と緯度をそのまま横と縦の目盛りにした地図の上で描いたものである。大円航路は地図の上では北へふくらみ、北緯 $70.9^\circ$ 付近まで上がる。地図の上の直線は、球面の上の最短の道ではない。

北緯 60 度で経度が反対の 2 地点

北緯 $60^\circ$ で、経度が $0^\circ$ と $180^\circ$ の 2 地点を考える。
(1) 大円に沿う道:cor-strig-distance で $\cos d=\sin^260^\circ+\cos^260^\circ\cos180^\circ=\dfrac34-\dfrac14=\dfrac12$ なので $d=60^\circ$ である。この大円は北極を通り、北極まで $30^\circ$、北極から $30^\circ$ 進む。距離は $6371\times\dfrac\pi3=6671\ldots\ \mathrm{km}$ である。
(2) 緯線に沿う道:北緯 $60^\circ$ の緯線は半径 $R\cos60^\circ=\dfrac R2$ の円なので、半周は $\pi\times\dfrac{6371}{2}=10007\ldots\ \mathrm{km}$ である。
緯線に沿うと、大円に沿うより 1.5 倍長い。緯線は(赤道を除いて)大円ではないからである。

小さい三角形では平面の余弦定理に戻る

半径 $R$ の球面の上の三角形で、辺の長さ(弧の長さ)を $\alpha,\beta,\gamma$ とすると、中心角は $\dfrac\alpha R,\dfrac\beta R,\dfrac\gamma R$ で、thm-strig-main は
$$ \cos\frac\alpha R=\cos\frac\beta R\cos\frac\gamma R+\sin\frac\beta R\sin\frac\gamma R\cos A $$
となる(半径 $R$ の球面を $\dfrac1R$ 倍に縮めて単位球面にしても、角は変わらない)。

小さい三角形での近似

辺の長さ $\alpha,\beta,\gamma$ が半径 $R$ に比べて小さいとき、$x$ が $0$ に近いときの近似 $\cos x\approx1-\dfrac{x^2}2$、$\sin x\approx x$(関数の近似とTaylor展開)を使うと
$$ 1-\frac{\alpha^2}{2R^2}\approx\left(1-\frac{\beta^2}{2R^2}\right)\left(1-\frac{\gamma^2}{2R^2}\right)+\frac{\beta\gamma}{R^2}\cos A=1-\frac{\beta^2}{2R^2}-\frac{\gamma^2}{2R^2}+\underbrace{\frac{\beta^2\gamma^2}{4R^4}}_{\text{さらに小さい}}+\frac{\beta\gamma}{R^2}\cos A $$
である。$\dfrac{1}{R^4}$ の項を無視して両辺に $2R^2$ を掛け、整理すると
$$ \alpha^2\approx\beta^2+\gamma^2-2\beta\gamma\cos A $$
となり、平面の余弦定理に戻る。正弦定理も、$\sin\dfrac\alpha R\approx\dfrac\alpha R$ から平面の正弦定理 $\dfrac{\sin A}{\alpha}=\dfrac{\sin B}{\beta}=\dfrac{\sin C}{\gamma}$ に近づく。ここでは近似の形を示しただけで、誤差の大きさの評価はしない。

地球の上の小さい三角形と大きい三角形

地球($R=6371\ \mathrm{km}$)の上で、2 辺の長さがどちらも $s$、その間の角が $60^\circ$ の三角形の第 3 辺を、球面の余弦定理と平面の余弦定理(第 3 辺も $s$ になる)で比べる。

$s$球面の余弦定理による第 3 辺平面の式との相対誤差
$10\ \mathrm{km}$$9.999997\ \mathrm{km}$$0.00003\%$
$100\ \mathrm{km}$$99.997\ \mathrm{km}$$0.003\%$
$1000\ \mathrm{km}$$996.9\ \mathrm{km}$$0.31\%$
$5000\ \mathrm{km}$$4601.7\ \mathrm{km}$$8.7\%$

$s$ が $10$ 倍になると誤差はおよそ $100$ 倍になり、$s^2$ に比例して小さくなる(図 4)。測量のような小さい範囲では平面の式で十分だが、大陸をまたぐ距離では球面の式が要る。ex-strig-tokyo の三角形(北極と 2 都市)に平面の余弦定理を使うと、辺を弧の長さ(北極から $54.32^\circ$ と $38.49^\circ$、間の角 $139.82^\circ$)として第 3 辺は $9711\ \mathrm{km}$ となり、$1.6\%$ 長くなる。

2 辺が s で間の角が 60 度の三角形について、平面の余弦定理の相対誤差を s に対して両対数で描いたグラフで、誤差は s の 2 乗に比例して小さくなる 2 辺が s で間の角が 60 度の三角形について、平面の余弦定理の相対誤差を s に対して両対数で描いたグラフで、誤差は s の 2 乗に比例して小さくなる

平面・球面・双曲平面の比較

球面と平面のほかに、内角の和が $\pi$ より小さくなる双曲平面の幾何がある(双曲幾何学)。3 つを並べると、余弦定理の $\cos$ が、平面では 2 乗に、双曲平面では双曲線関数 $\cosh x=\dfrac{e^x+e^{-x}}2$、$\sinh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}2$ に替わる。双曲平面の式は紹介だけで、この記事では証明しない。

平面球面(半径 $1$)双曲平面(紹介)
余弦定理$a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$$\cos a=\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A$$\cosh a=\cosh b\cosh c-\sinh b\sinh c\cos A$
正弦定理$\dfrac{\sin A}{a}=\dfrac{\sin B}{b}$$\dfrac{\sin A}{\sin a}=\dfrac{\sin B}{\sin b}$$\dfrac{\sin A}{\sinh a}=\dfrac{\sin B}{\sinh b}$
内角の和$=\pi$$>\pi$$<\pi$
小さい三角形—平面の式に近づく平面の式に近づく

双曲平面の余弦定理と正弦定理は Hit18 Theorem 5.4.12 (a)(c)(p. 104)にある(そこでは角 $\gamma$ と向かいの辺 $c$ についての形 $\cosh c=\cosh a\cosh b-\sinh a\sinh b\cos\gamma$ で書かれている)。$\cosh x\approx1+\dfrac{x^2}2$、$\sinh x\approx x$ を使うと、rem-strig-small と同じ計算で平面の余弦定理に近づく。

例と反例

外す条件・誤り反例成り立たなくなること
辺は中心角(弧の長さ)で測る辺を弦の長さで測る球面の余弦定理
平面の余弦定理は小さい三角形でだけ近似として使う大きい三角形に平面の式を使う第 3 辺が正しく求まる
球面三角形の内角の和は $\pi$ より大きい内角の和を $180^\circ$ として残りの角を求める角が正しく求まる
3 つの誤りを球面の 8 等分の三角形で見る

ex-strig-start の三角形(3 辺がどれも $\dfrac\pi2$、3 つの角がどれも $\dfrac\pi2$)で確かめる。
(1) 弦の長さ:$A(1,0,0)$ と $B(0,1,0)$ を結ぶ線分の長さは $\sqrt2$ である。辺を弦の長さ $a=b=c=\sqrt2$ として球面の余弦定理に入れると、左辺 $\cos\sqrt2=0.155\ldots$、右辺 $\cos^2\sqrt2+\sin^2\sqrt2\cos\dfrac\pi2=0.0243\ldots$ で一致しない。余弦定理の $a,b,c$ は、位置ベクトルのなす角(中心角)でなければならない。
(2) 平面の式:ex-strig-start (1) のとおり、第 3 辺が $2.221\ldots$ となり、正しい値 $1.570\ldots$ と大きくずれる。ex-strig-small のとおり、平面の式の誤差は三角形が小さいほど小さく、この三角形のように球面の 8 分の 1 を占める大きさでは使えない。
(3) 内角の和:2 つの角 $\dfrac\pi2$、$\dfrac\pi2$ から、内角の和を $\pi$ として 3 つ目の角を求めると $0$ になる。正しくは $\dfrac\pi2$ で、余弦定理 $\cos A=\dfrac{\cos a-\cos b\cos c}{\sin b\sin c}=\dfrac{0-0}{1}=0$ から求まる。

大学数学で見る

曲率が一定の 3 つの幾何(球面の幾何、平面の幾何、双曲平面の幾何)では、三角法が同じ形の式で書ける。

楕円幾何と極三角形を開く

単位球面の上で、向かい合う 2 点($\vec x$ と $-\vec x$)を同じ点とみなした幾何を 楕円幾何 という。そこでの三角形(辺の長さが $\dfrac\pi2$ 以下のもの)について、余弦定理 $\cos c=\cos a\cos b+\sin a\sin b\cos\gamma$ と正弦定理 $\dfrac{\sin a}{\sin\alpha}=\dfrac{\sin b}{\sin\beta}=\dfrac{\sin c}{\sin\gamma}$ が成り立つ(Hit18 Theorem 6.3.14、p. 138。$\alpha,\beta,\gamma$ は角、$a,b,c$ は向かいの辺)。向かい合う点を同じとみなしても、小さい三角形の辺と角は単位球面の上と同じなので、式は thm-strig-main と同じ形になる。

半径 $R$ の球面は曲率 $\dfrac1{R^2}$ の曲面で、$R\to\infty$ で曲率は $0$(平面)に近づく。rem-strig-small はこの極限を三角法で見たものである。曲率が負の一定値の曲面が双曲平面で、双曲計量 で扱う。

球面三角形 $ABC$ の各辺の大円の極(その大円の平面に垂直な単位ベクトルのうち、向かいの頂点の側のもの)を頂点とする三角形を 極三角形 という。必要なら $B$ と $C$ の名前を入れ替えて $\det(\vec a,\vec b,\vec c)>0$ とすると、極三角形の頂点は $\vec a'=\dfrac{\vec b\times\vec c}{\sin a}$、$\vec b'=\dfrac{\vec c\times\vec a}{\sin b}$、$\vec c'=\dfrac{\vec a\times\vec b}{\sin c}$ である($\vec a'\cdot\vec a=\dfrac{\det(\vec a,\vec b,\vec c)}{\sin a}>0$ なので $A$ の側にある)。Lagrange の恒等式から $\vec b'\cdot\vec c'=\dfrac{(\vec c\cdot\vec a)(\vec a\cdot\vec b)-(\vec c\cdot\vec b)(\vec a\cdot\vec a)}{\sin b\sin c}=\dfrac{\cos b\cos c-\cos a}{\sin b\sin c}=-\cos A$ なので、極三角形の辺 $a'$ は $\pi-A$ である。$b'$、$c'$ も同じく $\pi-B$、$\pi-C$ である。また $(\vec c\times\vec a)\times(\vec a\times\vec b)=\det(\vec a,\vec b,\vec c)\,\vec a$(ベクトルの 3 重積の公式 $(\vec u\times\vec v)\times\vec w=(\vec u\cdot\vec w)\vec v-(\vec v\cdot\vec w)\vec u$ による。空間の平面と法線ベクトル の定理「外積の性質」の 5)から $\vec b'\times\vec c'$ は $\vec a$ の正の数倍なので、極三角形の極三角形はもとの三角形 $ABC$ である。これに上の結果を当てはめると、もとの三角形の辺 $a$ は $\pi-A'$、つまり極三角形の角は $\pi-a,\ \pi-b,\ \pi-c$ である。極三角形に thm-strig-main (1) を当てはめると、$\cos(\pi-A)=\cos(\pi-B)\cos(\pi-C)+\sin(\pi-B)\sin(\pi-C)\cos(\pi-a)$、つまり角についての余弦定理 $\cos A=-\cos B\cos C+\sin B\sin C\cos a$ が得られる。ex-strig-sides の三角形では、左辺 $\cos\dfrac\pi2=0$、右辺 $-\dfrac{\sqrt2}2\cdot0+\dfrac{\sqrt2}2\cdot1\cdot0=0$ で一致し、ex-strig-equilateral では左辺 $\dfrac13$、右辺 $-\dfrac19+\dfrac89\cdot\dfrac12=\dfrac13$ で一致する。

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関連項目

参考文献

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