Cliffordの定理(代数曲線)

同義語:クリフォードの定理(代数曲線)Clifford's theorem on special divisors

概要

Cliffordの定理(代数曲線)(Clifford's theorem on special divisors)とは、代数閉体上の滑らかで連結な射影曲線の因子 $D$ が $\ell(D)\ge1$ かつ $\ell(K-D)\ge1$ を満たせば $2\dim\lvert D\rvert\le\deg D$ が成り立ち、等号は $D\sim0$、$D\sim K$、または曲線が超楕円的で $D$ が $g^1_2$ の倍数と線形同値なときに限る、という定理である。証明は、2 つの線形系の和の次元が次元の和以上になる不等式と Riemann–Roch の定理を組み合わせる。補正項が残る範囲 $0\le\deg D\le2g-2$ で $\ell(D)$ を上から抑え、超楕円的な曲線を線形系で特徴づける。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Riemann–Rochの定理, 因子, 標準因子, 超楕円曲線

曲線の上の因子 $D$ について、$D$ 以下の極しか許さない関数の空間の次元 $\ell(D)$ は、Riemann–Rochの定理
$$ \ell(D)-\ell(K-D)=\deg D+1-g $$
によって $\deg D$ と種数 $g$ から「ほぼ」決まる。$\deg D>2g-2$ なら補正項 $\ell(K-D)$ は消えて $\ell(D)=\deg D+1-g$ となるが、$0\le\deg D\le2g-2$ の範囲では補正項が残り、$\ell(D)$ は $D$ の線形同値類によって変わる。この範囲で $\ell(D)$ がどこまで大きくなれるかに答えるのが Clifford の定理 である。補正項 $\ell(K-D)$ が $1$ 以上の因子(特殊因子)について
$$ \ell(D)-1\le\frac{\deg D}{2} $$
が成り立ち、等号は $D\sim0$、$D\sim K$、または曲線が超楕円曲線で $D$ が次数 $2$ の線形系の倍数であるときに限る。
上界の証明の核心は、「2 つの線形系を足すと次元は少なくとも和になる」という不等式(lem-cl-sum)を $D$ と $K-D$ に当てることである。この記事では、その不等式を 1 点での位数の数え上げから示し、上界と等号の場合を完全に証明する。等号の場合の議論から、超楕円曲線の次数 $2$ の線形系が一意であることと、標準因子がその $g-1$ 倍であることも従う。

設定と記号

この記事を通して $k$ を代数閉体とし、曲線とは $k$ 上の滑らかで連結な射影代数曲線 $X$ のこととする。点、関数体 $k(X)$、位数 $\operatorname{ord}_P$、因子、線形同値 $\sim$、$L(D)$、$\ell(D)=\dim_kL(D)$、標準因子 $K$、種数 $g$ の記号は Riemann–Rochの定理 の節「設定と記号」と同じである。$k=\mathbb{C}$ なら、曲線はコンパクトで連結なリーマン面と同じものである。

完備線形系と特殊因子

曲線 $X$ の因子 $D$ について、$D$ と線形同値な有効因子の全体を $\lvert D\rvert$ と書き、$D$ の完備線形系という。その次元を $\dim\lvert D\rvert:=\ell(D)-1$ と定める。$\ell(K-D)\ge1$ のとき、$D$ を特殊因子(special divisor)という。次数 $d$ で次元 $r$ の線形系を $g^r_d$ と書く。

$f\in L(D)\setminus\{0\}$ に有効因子 $\operatorname{div}(f)+D$ を対応させると、$f$ と $cf$($c\in k^\times$)は同じ因子を与え、逆に $\operatorname{div}(f)+D=\operatorname{div}(f')+D$ なら $f'/f$ は零点も極もない関数なので定数である。したがって $\lvert D\rvert$ は射影空間 $(L(D)\setminus\{0\})/k^\times$ と 1 対 1 に対応し、$\dim\lvert D\rvert$ はその射影空間の次元である。$\ell(D)=0$ なら $\lvert D\rvert=\emptyset$、$\dim\lvert D\rvert=-1$ である。
Riemann–Roch の定理を次元で書くと $\dim\lvert D\rvert-\dim\lvert K-D\rvert=\deg D+1-g$ である。$\ell(D)\ge1$ かつ $D$ が特殊因子なら、$D$ と $K-D$ はどちらも有効因子と線形同値なので、次数は $0\le\deg D\le2g-2$ を満たす(Riemann–Rochの定理 の補題「$\ell(D)$ の基本性質」の 3 と、系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 2)。この範囲で知られている評価を並べると次のようになる。

評価式根拠
下界(Riemann の不等式)$\ell(D)\ge\deg D+1-g$Riemann–Roch の定理で $\ell(K-D)\ge0$
初等的な上界$\ell(D)\le\deg D+1$1 点ごとに $\ell$ は高々 $1$ 増える
Clifford の上界$\ell(D)\le\deg D/2+1$thm-cl-inequality

線形系の和の次元

1 点での位数の個数

$D$ を因子、$V\subset L(D)$ を部分空間、$P$ を点とする。$V\setminus\{0\}$ の元 $f$ の位数 $\operatorname{ord}_P(f)$ がとる相異なる値の個数は $\dim V$ に等しい。

$n$ を $D$ の $P$ での係数とし、整数 $m$ について $V_m:=\{f\in V\mid f=0\ \text{または}\ \operatorname{ord}_P(f)\ge m\}$ とおく。$V_m$ は部分空間で、$V_{-n}=V$ であり($f\in L(D)$ なら $\operatorname{ord}_P(f)\ge-n$)、$m$ が十分大きければ $V_m=0$ である($V_m\subset L(D-(m+n)P)$ で、$\deg D< m+n$ なら右辺は $0$)。$t$ を $P$ での局所パラメータとすると、$f\mapsto(t^{-m}f)(P)$ は $V_m\to k$ の線形写像で、その核は $V_{m+1}$ である。よって $\dim V_m/V_{m+1}\le1$ であり、等号は $\operatorname{ord}_P(f)=m$ となる $f\in V$ があるときに限る。$m=-n$ から十分大きい $m$ まで足し合わせると、$\dim V=\sum_m\dim V_m/V_{m+1}$ は位数として実際に現れる値の個数になる。$\square$

逆に、位数が相異なる元 $f_1,\dots,f_s$ は線形独立である(線形関係で位数が最小の項を打ち消せない)。

線形系の和

因子 $D,E$ が $\ell(D)\ge1$、$\ell(E)\ge1$ を満たせば
$$ \ell(D+E)\ge\ell(D)+\ell(E)-1,\qquad\text{すなわち}\qquad\dim\lvert D\rvert+\dim\lvert E\rvert\le\dim\lvert D+E\rvert $$
である。

点 $P$ を 1 つ固定する。lem-cl-orders により、$L(D)$ の元の $P$ での位数は相異なる $a:=\ell(D)$ 個の値 $\alpha_1<\cdots<\alpha_a$ をとり、$L(E)$ の元の位数は $b:=\ell(E)$ 個の値 $\beta_1<\cdots<\beta_b$ をとる。位数 $\alpha_i$ の $f_i\in L(D)$ と位数 $\beta_j$ の $h_j\in L(E)$ を選ぶと、積 $f_ih_j$ は $\operatorname{div}(f_ih_j)+D+E=(\operatorname{div}f_i+D)+(\operatorname{div}h_j+E)\ge0$ を満たすので $L(D+E)$ に入り、その位数は $\alpha_i+\beta_j$ である。
$$ \alpha_1+\beta_1<\alpha_2+\beta_1<\cdots<\alpha_a+\beta_1<\alpha_a+\beta_2<\cdots<\alpha_a+\beta_b $$
は $a+b-1$ 個の相異なる値なので、対応する積は位数が相異なり、線形独立である。よって $\ell(D+E)\ge a+b-1$ である。$\square$

$\ell(D)\ge1$ の仮定は外せない。たとえば $\ell(E)\ge3$ の有効因子 $E$ と $D=-E$ では $\ell(D)=0$ で、$\ell(D+E)=\ell(0)=1<\ell(E)-1$ となる。

Clifford の不等式

Clifford の不等式

曲線 $X$ の因子 $D$ が $\ell(D)\ge1$ かつ $\ell(K-D)\ge1$ を満たすとする($D$ が有効因子と線形同値な特殊因子であるとする)。このとき
$$ 2\dim\lvert D\rvert\le\deg D,\qquad\text{すなわち}\qquad\ell(D)\le\frac{\deg D}{2}+1 $$
が成り立つ。

lem-cl-sum を $D$ と $K-D$ に当てると、$\ell(D)+\ell(K-D)\le\ell(K)+1=g+1$ である($\ell(K)=g$ は Riemann–Rochの定理 の系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 1)。Riemann–Roch の定理 $\ell(D)-\ell(K-D)=\deg D+1-g$ を辺々足すと $2\ell(D)\le\deg D+2$ を得る。$\square$

証明が示すとおり、不等式は「$\lvert D\rvert$ と $\lvert K-D\rvert$ を足すと $\lvert K\rvert$ に入る」ことと Riemann–Roch の定理の組合せである。等号 $2\dim\lvert D\rvert=\deg D$ は、lem-cl-sum の不等式 $\ell(D)+\ell(K-D)\le g+1$ が等号になることと同値である。

超楕円曲線の次数 2 の線形系

超楕円的な曲線

種数 $g\ge2$ の曲線 $X$ が、$\ell(H)=2$ となる次数 $2$ の因子 $H$(すなわち $g^1_2$)をもつとき、$X$ は超楕円的であるという。

$\ell(H)=2$、$\deg H=2$ とする。$\ell(H)\ge1$ なので $H$ は有効因子と線形同値であり、$\ell$ は線形同値で変わらないから、以下 $H\ge0$ とする。$x\in L(H)$ を定数でない関数とする。$x$ の極の因子は $H$ 以下で次数 $1$ か $2$ であり、次数 $1$ なら $X\cong\mathbb{P}^1$(Riemann–Rochの定理 の定理「射影直線の特徴づけ」)となって $g\ge2$ に反する。よって $x$ の極の因子は $H$ そのもので、$x\colon X\to\mathbb{P}^1$ は次数 $2$ の有限射である。逆に次数 $2$ の有限射 $x\colon X\to\mathbb{P}^1$ があれば、$\infty$ のファイバー $F$($x$ の極の因子で、次数 $2$ の有効因子)について $1,x\in L(F)$ から $\ell(F)\ge2$ である。$\ell(F)\ge3$ なら $F$ に現れる点 $P$ について $\ell(F-P)\ge2$ となり、$F-P$ は 1 点なので $X\cong\mathbb{P}^1$ となって $g\ge2$ に反する。よって $\ell(F)=2$ で、$F$ は $g^1_2$ である。$k$ の標数が $2$ でなければ次数 $2$ の拡大はつねに分離的なので、この定義は 超楕円曲線 の定義「超楕円曲線」と一致する。標数 $2$ でも、$k(X)\supset k(x)$ が分離的でなければ純非分離な 2 次拡大なので $k(X)=k(x^{1/2})$ となり、$X$ は種数 $0$ になる。したがって $g\ge2$ なら $x$ はやはり分離的である。

超楕円曲線の上の線形系

$X$ を種数 $g$ の超楕円的な曲線、$H$ を $\ell(H)=2$ となる次数 $2$ の因子とする。

  1. $0\le r\le g-1$ について $\ell(rH)=r+1$ である。
  2. $K\sim(g-1)H$ である。
  3. $\ell(H')=2$ となる次数 $2$ の因子 $H'$ は、すべて $H$ と線形同値である。すなわち $g^1_2$ はただ 1 つである。

主張 1〜3 はどれも $H$ の線形同値類だけによるので、$H\ge0$ としてよい。上の段落の $x$ をとる。$x^i$ の極の因子は $iH$ なので、$1,x,\dots,x^r\in L(rH)$ であり、$H$ に現れる点 $P$ での位数 $\operatorname{ord}_P(x^i)$ は $i$ について狭義に減少するから、これらは線形独立である。よって $\ell(rH)\ge r+1$ である。
2:$r=g-1$ とすると $\ell((g-1)H)\ge g$ で、$\deg((g-1)H)=2g-2$ である。Riemann–Rochの定理 の系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 4 により、次数 $2g-2$ の因子の $\ell$ は $K$ と線形同値なら $g$、そうでなければ $g-1$ なので、$(g-1)H\sim K$ である。
1:$0\le r\le g-1$ なら、2 から $K-rH\sim(g-1-r)H$ であり、$\ell(K-rH)\ge g-r\ge1$ である。$rH$ は有効なので $\ell(rH)\ge1$ で、thm-cl-inequality から $\ell(rH)\le r+1$ となる。
3:lem-cl-sum と 1 から $\ell(H'+(g-2)H)\ge2+(g-1)-1=g$ であり、$\deg(H'+(g-2)H)=2g-2$ なので、2 と同じ理由で $H'+(g-2)H\sim K\sim(g-1)H$ である。両辺から $(g-2)H$ を引いて $H'\sim H$ を得る。$\square$

2 は、Riemann–Rochの定理 の例「超楕円曲線の正則な微分形式」の $\operatorname{div}(dx/y)=(g-1)(\infty_++\infty_-)$ を、方程式によらずに述べたものである($\infty_++\infty_-$ は $x$ の極の因子で、$g^1_2$ の 1 つの因子である)。

等号の場合

Clifford の定理の等号条件

曲線 $X$ の因子 $D$ が $\ell(D)\ge1$、$\ell(K-D)\ge1$ を満たすとする。$2\dim\lvert D\rvert=\deg D$ となるのは、次のいずれかの場合に限る。

  1. $D\sim0$。
  2. $D\sim K$。
  3. $X$ は超楕円的で、$X$ の $g^1_2$ の因子 $H$ と $1\le r\le g-2$ について $D\sim rH$。
    逆にこれらの場合には等号が成り立つ。とくに、超楕円的でない曲線では、等号は $D\sim0$ と $D\sim K$ のときに限る。

等号が成り立つこと:$\ell(0)=1$、$\deg0=0$ であり、$\ell(K)=g$、$\deg K=2g-2$ である。3 の場合は prop-cl-hyperelliptic の 1 により $\ell(rH)=r+1$、$\deg(rH)=2r$ であり、同命題の証明のとおり $\ell(K-rH)\ge1$ である。
逆を示す。等号が成り立ち、$D\not\sim0$、$D\not\sim K$ とする。$\deg D=2r$、$\ell(D)=r+1$ とおく。$\deg D=0$ なら $\ell(D)\ge1$ から $D\sim0$、$\deg D=2g-2$ なら $\ell(K-D)\ge1$ から $K-D\sim0$ となるので(Riemann–Rochの定理 の補題「$\ell(D)$ の基本性質」の 4)、$0<2r<2g-2$、すなわち $1\le r\le g-2$ である。とくに $g\ge3$ である。
段 1($X$ は超楕円的):$r$ についての帰納法で示す($r$ より小さい値ではすべて成り立つと仮定する)。$r=1$ なら $D$ は $g^1_2$ であり、$g\ge3$ なので $X$ は超楕円的である。$r\ge2$ とする。まず、因子 $A=\sum_Pa_PP$、$B=\sum_Pb_PP$ について $\min(A,B):=\sum_P\min(a_P,b_P)P$ とおくと、$L(A)\cap L(B)=L(\min(A,B))$ であり、$A+B-\min(A,B)$ の係数は $\max(a_P,b_P)$ なので $L(A)+L(B)\subset L(A+B-\min(A,B))$ である。したがって $\ell(A)+\ell(B)\le\ell(\min(A,B))+\ell(A+B-\min(A,B))$ である。$\ell(K-D)\ge1$ なので有効因子 $E\sim K-D$ がとれ、$\deg E=2g-2-2r>0$ だから $E$ に現れる点 $P$ がある。$E$ に現れない点 $Q$ をとる。$\ell(D-P-Q)\ge\ell(D)-2=r-1\ge1$ なので、$0\ne u\in L(D-P-Q)$ をとって $D_1:=\operatorname{div}(u)+D$ とおくと、$D_1\sim D$ かつ $D_1\ge P+Q$ である。$C:=\min(D_1,E)$ とおく。$C$ の $P$ での係数は $1$ 以上、$Q$ での係数は $0$ なので、$1\le\deg C\le\deg D_1-1=2r-1$ である。上の不等式を $A=D_1$、$B=E$ に当てると、$D_1+E-C\sim K-C$ なので $\ell(C)+\ell(K-C)\ge\ell(D)+\ell(K-D)=g+1$ である。$C\ge0$ かつ $D_1+E-C\ge0$ なので $\ell(C)\ge1$、$\ell(K-C)\ge1$ であり、lem-cl-sum を $C$ と $K-C$ に当てた $\ell(C)+\ell(K-C)\le g+1$ と合わせて等号が成り立つ。よって $2\dim\lvert C\rvert=\deg C$ であり、$\deg C$ は偶数だから $2\le\deg C\le2r-2$、とくに $0<\deg C<2g-2$ なので $C\not\sim0$、$C\not\sim K$ である。帰納法の仮定から $X$ は超楕円的である。
段 2($D\sim rH$):$H$ を $g^1_2$ の因子とする。prop-cl-hyperelliptic の 1 から $\ell((g-1-r)H)=g-r\ge1$ なので、lem-cl-sum により
$$ \ell\bigl(D+(g-1-r)H\bigr)\ge(r+1)+(g-r)-1=g $$
である。左辺の因子の次数は $2r+2(g-1-r)=2g-2$ なので、prop-cl-hyperelliptic の 2 の証明と同じ理由で $D+(g-1-r)H\sim K\sim(g-1)H$ となり、$D\sim rH$ を得る。$\square$

段 1 の帰納法は、$D$ と $K-D$ の有効な代表の共通部分 $C$ をとり、等号を保ったまま次数を下げている。これは Har77 の Theorem IV.5.4 の証明(pp. 344–345)と同じ方針であり、最後に prop-cl-hyperelliptic の 2 によって $D\sim rH$ を得る点も同じである。

例

種数 2 の曲線

$g=2$ なら $\deg K=2$、$\ell(K)=2$ なので $K$ は $g^1_2$ であり、種数 2 の曲線はすべて超楕円的である。thm-cl-equality の 3 は $1\le r\le0$ となって起こらず、等号は $D\sim0$ と $D\sim K$ に限る。$0<\deg D<2$ の特殊因子は次数 $1$ の $D=P$ で、$\ell(P)=1$(Riemann–Rochの定理 の定理「射影直線の特徴づけ」)なので $2\dim\lvert P\rvert=0<1$ である。

$y^2=f(x)$ の曲線の線形系

$k$ の標数を $2$ でないとし、$f\in k[x]$ を相異なる $2g+2$ 個の根をもつ多項式($g\ge2$)とする。$y^2=f(x)$ の滑らかな射影モデル $X$ では、$x$ の極の因子 $H:=\infty_++\infty_-$ が $g^1_2$ である(超楕円曲線)。$\ell(rH)$ は次のようになる。

$r$$\ell(rH)$$L(rH)$ の基底$rH$ は特殊かClifford の上界との比較
$0\le r\le g-1$$r+1$$1,x,\dots,x^r$特殊等号
$r=g$$g+1$$1,x,\dots,x^g$特殊でない上界の対象外
$r\ge g+1$$2r+1-g$$x^i$($i\le r$)と $x^jy$($j\le r-g-1$)特殊でない上界の対象外

$r\le g-1$ の行は prop-cl-hyperelliptic の 1 である。$r\ge g$ では $\deg(rH)=2r>2g-2$ なので $\ell(rH)=2r+1-g$ である(Riemann–Rochの定理 の系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 3)。$y$ は $\infty_\pm$ でそれぞれ $g+1$ 位の極をもち、アフィン部分では正則なので(同記事の例「超楕円曲線の正則な微分形式」の位数の計算)、$x^jy\in L(rH)$ となるのは $j\le r-g-1$ のときである。表の $x^i$ と $x^jy$ は合わせて $(r+1)+(r-g)=2r+1-g$ 個あり、$k(X)=k(x)\oplus k(x)\,y$ なので多項式 $a,b$ について $a(x)+b(x)y=0$ なら $a=b=0$ であるから、線形独立である。個数が $\ell(rH)$ に等しいので基底になる。

滑らかな平面 4 次曲線は超楕円的でない

$X\subset\mathbb{P}^2$ を滑らかな 4 次曲線とする。種数は $(4-1)(4-2)/2=3$ である(Riemann–Rochの定理 の例「平面曲線の種数」)。1 次形式 $\lambda$ について、直線 $\lambda=0$ と $X$ の交わりの因子(各点の交点数を係数とする有効因子)を $(\lambda\cdot X)$ と書くと、$\operatorname{div}(\lambda/\mu)=(\lambda\cdot X)-(\mu\cdot X)$ であり(滑らかな点での交点数は位数に等しい。Ful08 §3.3 の性質 (8)、p. 40)、Bézoutの定理 により $\deg(\lambda\cdot X)=4$ である。$L:=(z\cdot X)$ とおくと $\deg L=4=2g-2$ であり、$1,x/z,y/z\in L(L)$ から $\ell(L)\ge3=g$ なので、Riemann–Rochの定理 の系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 4 により $L\sim K$、$\ell(L)=3$ である。とくに $L(L)=\{\lambda/z\mid\lambda\ \text{は 1 次形式}\}$ で、$\lambda/z\in L(L-P-Q)$ は $(\lambda\cdot X)\ge P+Q$ と同値である。
$X$ が超楕円的なら $\ell(P+Q)=2$ となる 2 点 $P,Q$ があり、Riemann–Roch の定理から $\ell(K-P-Q)=\ell(P+Q)-(2+1-3)=2$ となる。しかし $P\ne Q$ なら $P,Q$ を通る直線はただ 1 つであり、$P=Q$ なら $P$ で $X$ と 2 位以上で交わる直線は接線だけである($P$ を通る直線の位数は、接線でなければ $1$。Ful08 §3.2、p. 35)。どちらの場合も $\ell(L-P-Q)=1$ で矛盾する。よって $X$ は超楕円的でなく、Clifford の不等式の等号は $D\sim0$ と $D\sim K\sim L$ のときに限る。たとえば次数 $2$ の因子 $D=P+Q$ はつねに $\ell(D)=1$ で、$2\dim\lvert D\rvert=0<2$ である。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
$D$ が特殊因子$X=\mathbb{P}^1$、$D=dP$($d\ge1$)$2\dim\lvert D\rvert\le\deg D$
$\ell(D)\ge1$種数 $g\ge1$ の曲線の $D=-4P$$2\dim\lvert D\rvert\le\deg D$
等号の 3 で $D\sim rH$種数 $g\ge3$ の超楕円的な曲線の $D=H+P$超楕円的なら等号
反例の確かめ

1 行目:$\mathbb{P}^1$ では $\ell(dP)=d+1$ なので $2\dim\lvert D\rvert=2d>d$ である。$\ell(K-D)=0$($\deg(K-D)=-2-d<0$)なので $D$ は特殊因子でない。$\ell(D)\ge1$ は満たす。
2 行目:$\ell(-4P)=0$ なので $2\dim\lvert D\rvert=-2>-4=\deg D$ である。$L(K)\subset L(K+4P)$ なので $\ell(K-D)\ge\ell(K)=g\ge1$ であり、$D$ は特殊因子である。
3 行目:$\deg D=3$ である。$L(H)\subset L(H+P)$ から $\ell(D)\ge2$、thm-cl-inequality から $\ell(D)\le5/2$、よって $\ell(D)=2$ で $2\dim\lvert D\rvert=2<3$ である。特殊であることは、prop-cl-hyperelliptic から $K-D\sim(g-2)H-P$ で、$\ell((g-2)H-P)\ge\ell((g-2)H)-1=g-2\ge1$ による。曲線は超楕円的だが $\deg D$ が奇数なので $D\sim rH$ になりえず、等号は成り立たない。

補足

  • 等号の場合は、超楕円的かどうかを線形系で判定する道具になる。たとえば $g\ge2$ のとき「$\ell(P+Q)=2$ となる 2 点がある」ことと超楕円的であることは同値であり、これは Weierstrass点 の命題「非空隙値 2 と次数 2 の写像」とも対応する。
  • 標準線形系 $\lvert K\rvert$ は $g\ge2$ なら基点をもたず(標準因子 の命題「標準線形系は基点をもたない」)、射 $X\to\mathbb{P}^{g-1}$ を定める。この射が閉埋め込みであることと $X$ が超楕円的でないことは同値である(Har77 Proposition IV.5.2、p. 341。この記事では証明しない)。超楕円的なら、prop-cl-hyperelliptic の 2 のとおり $\lvert K\rvert$ は $g^1_2$ の $g-1$ 倍になり、射は次数 $2$ の写像 $x$ を経由する。
  • Clifford の不等式の主張と等号の条件は Har77 Theorem IV.5.4(p. 343、補題 5.5 と証明は pp. 344–345)、不等式は Ful08 §8.6 Corollary 4(p. 109)にもある。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, IV.5:Proposition 5.2(標準線形系が非常に豊富であることと超楕円的でないこと、p. 341)、Proposition 5.3(超楕円曲線の g^1_2 の一意性と標準線形系、pp. 342–343)、Theorem 5.4(Clifford の定理、p. 343)、Lemma 5.5 と Theorem 5.4 の証明(pp. 344–345)

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