Nielsen–Schreierの定理

同義語:Nielsen–Schreier theoremNielsen-Schreierの定理Schreierの定理(自由群)

概要

Nielsen–Schreierの定理(Nielsen–Schreier theorem)とは、自由群の任意の部分群は自由群である、という定理である。階数 $n$ が有限の自由群の指数 $k$ が有限の部分群の階数は $k(n-1)+1$ になり(Schreier の指数公式)、部分群の階数はもとの群より大きくなりうる。証明は、右剰余類の代表元を語の頭の部分で閉じるように選んだ Schreier 横断系から部分群の基底を書き下す組合せ的な方法と、被覆空間とグラフの基本群による位相的な方法がある。たとえば階数 2 の自由群の交換子部分群は、可算無限個の元を基底とする自由群である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 自由群, 部分群の指数, 剰余類

Nielsen–Schreier の定理は、自由群の任意の部分群がまた自由群であることを述べる。さらに、階数 $n$ の自由群の指数 $k$ の部分群の階数は $k(n-1)+1$ であることがわかる(Schreier の指数公式)。部分群の階数はもとの群の階数より大きくなることがあり、階数 $2$ の自由群の中に階数 $3$ の自由群や、無限階数の自由群が部分群として含まれる。
この定理の標準的な証明は 2 通りある。一つは被覆空間を使う位相的な証明で、自由群をグラフの基本群として実現し、部分群に対応する被覆空間もまたグラフであることを使う。もう一つは剰余類の代表元をうまく選んで部分群の基底を具体的に書き下す組合せ的な証明で、この記事ではこちらを完全に述べる。使うのは、自由群の元が既約語としてただ一通りに書けることだけである。

定理の主張

以下、$X$ を集合、$F:=F(X)$ を $X$ 上の自由群とする。自由群 の記事と同じく、$x\in X$ とその逆 $x^{-1}$ を文字といい、文字の有限列を語という。隣り合う $aa^{-1}$ を含まない語を既約語という。$F$ の各元はただ一つの既約語で表され(自由群 の定理「既約語の群」)、積は連接してから簡約したものである。元 $g\in F$ を表す既約語の長さを $\lvert g\rvert$ と書く。

Nielsen–Schreier の定理
  1. 自由群 $F$ の任意の部分群 $H$ は自由群である。
  2. $F$ の階数 $n$ が有限で、$H$ の指数 $k=[F:H]$ が有限ならば、$H$ の階数は $k(n-1)+1$ である。
主張の読み方と証明の場所

階数とは基底の濃度のことで、基底の取り方によらない(自由群 の定理「階数の一意性」)。指数は左剰余類の個数で定義されるが、$gH\mapsto Hg^{-1}$ が左剰余類と右剰余類の間の全単射を与えるので、右剰余類 $Hg$ の個数と等しい。以下では右剰余類を使う。1 は thm-nielsen-schreier-basis で、2 は cor-nielsen-schreier-index-formula で証明する。

直感

階数 $n$ の自由群は、頂点 $1$ 個に $n$ 本のループを付けたグラフ($n$ 個の円周のウェッジ和)の基本群である。指数 $k$ の部分群には $k$ 重の被覆空間が対応し、それは頂点 $k$ 個・辺 $kn$ 本のグラフになる。連結なグラフの基本群は、極大な木を 1 つ選んだときにその木に入らない辺の数を階数とする自由群であり(Hat02 Proposition 1A.2)、木は頂点 $k$ 個・辺 $k-1$ 本なので、残る辺は $kn-(k-1)=k(n-1)+1$ 本である。
組合せ的な証明は、この図をそのまま代数に翻訳する。被覆グラフの頂点は右剰余類 $Hg$ に当たり、木は「各剰余類の代表元を、語の頭の部分が閉じるように選ぶ」ことに当たる。木に入らない辺が、部分群の基底を一つずつ与える。

Schreier 横断系

Schreier 横断系

$H$ を $F$ の部分群とする。既約語の集合 $T$ が $H$ の Schreier 横断系(Schreier transversal)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。

  1. 各右剰余類 $Hg$ はちょうど 1 つの $T$ の元を含む。
  2. $T$ の元の頭の部分はすべて $T$ に属する。すなわち $a_1\cdots a_m\in T$ ならば、$0\le i\le m$ について $a_1\cdots a_i\in T$ である。
    $g\in F$ に対し、$Hg$ に含まれる $T$ の元を $\overline{g}$ と書く。

条件 2 から空語 $\varepsilon$ は $T$ に属し、$\varepsilon\in H$ なので $\overline{h}=\varepsilon$($h\in H$)である。定義から $H\overline{g}=Hg$、したがって $g\,\overline{g}^{\,-1}\in H$ であり、$\overline{hg}=\overline{g}$($h\in H$)、$\overline{\overline{g}}=\overline{g}$ が成り立つ。$T$ の 2 元が同じ右剰余類に入るなら、条件 1 によりそれらは等しい。

Schreier 横断系の存在

自由群 $F$ の任意の部分群 $H$ は Schreier 横断系をもつ。さらに、各 $t\in T$ の長さは、剰余類 $Ht$ に属する元の長さの最小値に等しくとれる。

右剰余類 $C$ に対し、$C$ に属する元の長さの最小値を $\ell(C)$ とおく。$\ell(C)\le m$ となる剰余類 $C$ の全体に、次の性質をもつ代表元 $t_C\in C$ を $m$ についての帰納法で選ぶ:$t_C$ は長さ $\ell(C)$ の既約語で、その頭の部分はどれも、すでに選んだ代表元である。
$\ell(C)=0$ となるのは $C=H$ だけで、$t_H:=\varepsilon$ とする。$m\ge1$ とし、$\ell(C)\le m-1$ の剰余類には代表元が選ばれているとする。$\ell(C)=m$ の剰余類 $C$ ごとに、長さ $m$ の元 $w\in C$ を 1 つ選び(選択公理を使う)、その既約語の最後の文字を $a$ として $w=ua$($\lvert u\rvert=m-1$)と書く。
剰余類 $Hu$ について $\ell(Hu)=m-1$ である。実際 $\ell(Hu)\le\lvert u\rvert=m-1$ であり、$v\in Hu$ が $\lvert v\rvert< m-1$ を満たせば $va\in Hua=C$ かつ $\lvert va\rvert\le\lvert v\rvert+1< m$ となって $\ell(C)=m$ に反する。よって $t_{Hu}$ は選ばれていて長さ $m-1$ である。$t_{Hu}a\in Hua=C$ なので $\lvert t_{Hu}a\rvert\ge m$ であり、語の連接 $t_{Hu}a$ の長さは $m$ だから、この連接は簡約されない既約語である(簡約が起これば長さは $m-2$ 以下になる)。$t_C:=t_{Hu}a$ とおくと、その頭の部分は $t_C$ 自身と $t_{Hu}$ の頭の部分なので、性質が保たれる。
すべての剰余類は有限の $\ell(C)$ をもつので、$T:=\{t_C\}$ はすべての剰余類の代表元を 1 つずつ含み、頭の部分で閉じている。$\square$

部分群の生成系

$t\in T$ と $x\in X$ に対し
$$ \gamma_{t,x}:=t\,x\,\overline{tx}^{\,-1} $$
とおく。$H\overline{tx}=Htx$ なので $\gamma_{t,x}\in H$ である。これを Schreier 生成元という。

Schreier 生成元は部分群を生成する

$T$ を $H$ の Schreier 横断系とする。$H$ は $\{\gamma_{t,x}\mid t\in T,\ x\in X\}$ で生成される。

$h\in H$ を語 $a_1\cdots a_n$($a_i$ は文字)で表し、$t_i:=\overline{a_1\cdots a_i}$($0\le i\le n$)とおく。$t_0=\overline{\varepsilon}=\varepsilon$、$t_n=\overline{h}=\varepsilon$ なので、
$$ h=(t_0a_1t_1^{-1})(t_1a_2t_2^{-1})\cdots(t_{n-1}a_nt_n^{-1}) $$
である(隣り合う $t_i^{-1}t_i$ が消える)。$Ht_{i-1}a_i=Ha_1\cdots a_i$ なので $t_i=\overline{t_{i-1}a_i}$ である。
$a_i=x\in X$ ならば $t_{i-1}a_it_i^{-1}=\gamma_{t_{i-1},x}$ である。$a_i=x^{-1}$($x\in X$)ならば、$Ht_ix=Ht_{i-1}x^{-1}x=Ht_{i-1}$ より $\overline{t_ix}=t_{i-1}$ なので、
$$ t_{i-1}x^{-1}t_i^{-1}=\bigl(t_i\,x\,t_{i-1}^{-1}\bigr)^{-1}=\gamma_{t_i,x}^{-1} $$
である。よって $h$ は Schreier 生成元とその逆元の積である。$\square$

$\gamma_{t,x}=1$ となるものは生成系から除いてよい。次の補題は、除かれずに残る生成元の既約語の形を決める。

自明でない Schreier 生成元の形

$t\in T$、$x\in X$ とし、$s:=\overline{tx}$ とおく。$\gamma_{t,x}\ne1$ ならば次が成り立つ。

  1. 語の連接 $tx$ は既約語で、$T$ に属さない。
  2. 語の連接 $sx^{-1}$ は既約語で、$T$ に属さない。
  3. 語の連接 $t\,x\,s^{-1}$ は既約語であり、$\gamma_{t,x}$ を表す。
  1. $t$ の最後の文字が $x^{-1}$ だとすると、$t=t'x^{-1}$ と書けて $t'\in T$(頭の部分)であり、$tx=t'$ なので $s=\overline{t'}=t'=tx$、すなわち $\gamma_{t,x}=1$ となる。よって連接 $tx$ は既約語である。この既約語が $T$ に属せば $s=\overline{tx}=tx$ となり、やはり $\gamma_{t,x}=1$ である。
  2. $s$ の最後の文字が $x$ だとすると、$s=s'x$ と書けて $s'\in T$ であり、$Hs'=Hsx^{-1}=Htxx^{-1}=Ht$ なので $s'=t$、したがって $s=tx$ で $\gamma_{t,x}=1$ となる。よって連接 $sx^{-1}$ は既約語である。これが $T$ に属せば、$Hsx^{-1}=Ht$ から $sx^{-1}=t$、すなわち $s=tx$ となり、$\gamma_{t,x}=1$ である。
  3. $t$ と $s^{-1}$ は既約語であり、境目 $t\mid x$ は 1 により、境目 $x\mid s^{-1}$ は 2 により($xs^{-1}$ は $sx^{-1}$ の逆の語)簡約されない。よって $txs^{-1}$ は既約語である。$\square$

自由性の証明

$Y:=\{(t,x)\in T\times X\mid\gamma_{t,x}\ne1\}$ とおき、自由群の普遍性により準同型
$$ \Phi\colon F(Y)\to H,\qquad (t,x)\mapsto\gamma_{t,x} $$
を定める。prop-nielsen-schreier-generate により $\Phi$ は全射である。

Schreier 生成元は基底をなす

$\Phi$ は同型である。したがって $H$ は、自明でない Schreier 生成元 $\gamma_{t,x}$($(t,x)\in Y$)を基底とする自由群であり、$(t,x)\mapsto\gamma_{t,x}$ は $Y$ の上で単射である。

単射性を示す。$F(Y)$ の単位元でない元を既約語 $y_1^{\epsilon_1}\cdots y_m^{\epsilon_m}$($m\ge1$、$y_i=(t_i,x_i)\in Y$、$\epsilon_i=\pm1$、隣り合う $y_i^{\epsilon_i}y_{i+1}^{\epsilon_{i+1}}$ は $y_{i+1}=y_i$ かつ $\epsilon_{i+1}=-\epsilon_i$ とはならない)とし、その像 $\gamma_1^{\epsilon_1}\cdots\gamma_m^{\epsilon_m}$($\gamma_i:=\gamma_{t_i,x_i}$)が $1$ でないことを示す。
各因子を次のように書く。$s_i:=\overline{t_ix_i}$ として、$\epsilon_i=1$ なら $u_i:=t_i$、$c_i:=x_i$、$v_i:=s_i$、$\epsilon_i=-1$ なら $u_i:=s_i$、$c_i:=x_i^{-1}$、$v_i:=t_i$ とおく。すると $\gamma_i^{\epsilon_i}$ は既約語 $u_ic_iv_i^{-1}$ で表され、$u_i,v_i\in T$ であり、lem-nielsen-schreier-shape により

  • (A) 連接 $u_ic_i$ と $v_ic_i^{-1}$ は既約語で、どちらも $T$ に属さない。
    $c_i$ をこの因子の中心の文字と呼ぶ。積は
    $$ u_1c_1\,(v_1^{-1}u_2)\,c_2\,(v_2^{-1}u_3)\,c_3\cdots(v_{m-1}^{-1}u_m)\,c_m\,v_m^{-1} $$
    と書ける。各 $i< m$ について、$v_i$ と $u_{i+1}$ の共通の頭の部分のうち最長のものを $p_i$ とし、$v_i=p_iv_i'$、$u_{i+1}=p_iu_{i+1}'$ と書く。$v_i^{-1}u_{i+1}$ は $F$ で $r_i:=v_i'^{-1}u_{i+1}'$ に等しく、$p_i$ の最長性から $v_i'$ と $u_{i+1}'$ の先頭の文字は(両方あれば)異なるので、$r_i$ は既約語である。
    語 $W:=u_1c_1r_1c_2r_2\cdots r_{m-1}c_mv_m^{-1}$ が既約語であることを、各境目で確かめる。
  • 先頭の $u_1c_1$ と末尾の $c_mv_m^{-1}$ は (A) により既約語である。
  • 境目 $c_i\mid r_i$:$v_i'$ が空でなければ、$r_i$ の先頭の文字は $v_i$ の最後の文字の逆であり、$v_ic_i^{-1}$ が既約語なので $v_i$ の最後の文字は $c_i$ でなく、簡約は起きない。$v_i'$ が空で $u_{i+1}'$ が空でなければ、$u_{i+1}=v_iu_{i+1}'$ である。$u_{i+1}'$ の先頭が $c_i^{-1}$ なら、$v_ic_i^{-1}$ は $u_{i+1}\in T$ の頭の部分として $T$ に属し、(A) に反する。
  • 境目 $r_i\mid c_{i+1}$:$u_{i+1}'$ が空でなければ、$r_i$ の最後の文字は $u_{i+1}$ の最後の文字で、$u_{i+1}c_{i+1}$ が既約語なので簡約は起きない。$u_{i+1}'$ が空で $v_i'$ が空でなければ、$v_i=u_{i+1}v_i'$ であり、$r_i$ の最後の文字は $v_i'$ の先頭の文字の逆である。それが $c_{i+1}^{-1}$ なら $u_{i+1}c_{i+1}$ は $v_i\in T$ の頭の部分として $T$ に属し、(A) に反する。
  • $r_i$ が空のとき($v_i=u_{i+1}$):$c_i$ と $c_{i+1}$ が隣り合う。$c_{i+1}=c_i^{-1}$ と仮定する。$\epsilon_i=1$ なら $c_i=x_i\in X$ なので $c_{i+1}=x_i^{-1}$ は $X$ の元ではなく、$\epsilon_{i+1}=-1$、$x_{i+1}=x_i$ である。このとき $v_i=s_i=\overline{t_ix_i}$、$u_{i+1}=s_{i+1}=\overline{t_{i+1}x_i}$ が等しいので $Ht_ix_i=Ht_{i+1}x_i$、よって $Ht_i=Ht_{i+1}$ で $t_i=t_{i+1}$ となる。$\epsilon_i=-1$ のときも同様に $\epsilon_{i+1}=1$、$x_{i+1}=x_i$、$t_i=v_i=u_{i+1}=t_{i+1}$ となる。どちらも $y_{i+1}=y_i$、$\epsilon_{i+1}=-\epsilon_i$ であり、もとの語が既約であることに反する。
    各部分 $u_1$、$r_i$、$v_m^{-1}$ は既約語なので、$W$ は既約語である。$W$ は中心の文字 $c_1,\dots,c_m$ を含むので長さが $m$ 以上($m\ge1$)であり、$F$ の単位元ではない。$W$ は $F$ で $\gamma_1^{\epsilon_1}\cdots\gamma_m^{\epsilon_m}$ に等しいので、これは $1$ でない。
    よって $\Phi$ の核は自明で、$\Phi$ は同型である。$\Phi$ が単射なので、$Y$ の相異なる元は相異なる $\gamma_{t,x}$ に写る。$\square$

lem-nielsen-schreier-transversal-exists により Schreier 横断系はつねに存在するので、thm-nielsen-schreier-basis から thm-nielsen-schreier-main の 1 が従う。証明の要点は、各基底元 $\gamma_{t,x}$ の中心の文字 $x$ が、どのように基底元を掛け合わせても簡約で消えないことである。

Schreier の指数公式

$X$ が $n$ 元の有限集合で、$H$ の指数 $k$ が有限ならば、$\lvert Y\rvert=k(n-1)+1$ である。したがって $H$ は階数 $k(n-1)+1$ の自由群である。

$T$ は $k$ 個の元からなるので、$T\times X$ は $kn$ 個の元をもつ。$\gamma_{t,x}=1$ となる組 $(t,x)$ が $k-1$ 個であることを、$T\setminus\{\varepsilon\}$ からの全単射を作って示す。$t\in T\setminus\{\varepsilon\}$ の最後の文字で場合を分ける。

  • 最後の文字が $x\in X$ のとき:$t=t'x$、$t'\in T$ と書き、$t$ に組 $(t',x)$ を対応させる。$t'x=t\in T$ なので $\overline{t'x}=t'x$ で、$\gamma_{t',x}=1$ である。
  • 最後の文字が $x^{-1}$($x\in X$)のとき:$t$ に組 $(t,x)$ を対応させる。$t=t''x^{-1}$、$t''\in T$ と書けば $tx=t''\in T$ なので $\gamma_{t,x}=1$ である。
    前者の組 $(t',x)$ では $t'$ の最後の文字は $x^{-1}$ でなく($t'x$ が既約)、後者の組 $(t,x)$ では $t$ の最後の文字が $x^{-1}$ なので、両者の像は重ならない。それぞれの場合の中では $t$ が組から復元できるので、この対応は単射である。
    全射を示す。$\gamma_{t,x}=1$、すなわち $tx=\overline{tx}$ とする。$t$ の最後の文字が $x^{-1}$ なら後者の像である。そうでなければ連接 $tx$ は既約語で、$F$ の元として既約語 $\overline{tx}\in T$ に等しい。既約語の一意性から $tx=\overline{tx}$ は語として等しく $tx\in T$ となり、$(t,x)$ は前者の $tx$ の像である。
    以上で自明な組は $k-1$ 個あり、$\lvert Y\rvert=kn-(k-1)=k(n-1)+1$ である。階数の一意性により $H$ の階数はこの値である。$\square$

例

指数 2 の部分群

$F_2=F(\{a,b\})$ から $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ への準同型 $a\mapsto1$、$b\mapsto0$ の核を $N$ とする。$N$ の右剰余類は $N$ と $Na$ の 2 つで、$T=\{\varepsilon,a\}$ は Schreier 横断系である。Schreier 生成元は

$(t,x)$$\overline{tx}$$\gamma_{t,x}$
$(\varepsilon,a)$$a$$1$
$(\varepsilon,b)$$\varepsilon$$b$
$(a,a)$$\varepsilon$$a^2$
$(a,b)$$a$$aba^{-1}$

となり、$N$ は $b,\ a^2,\ aba^{-1}$ を基底とする階数 $3=2(2-1)+1$ の自由群である。自由群 の例「指数 2 の部分群」が直接確かめた生成系と一致し、それが基底であることもわかる。自明な組 $(\varepsilon,a)$ は $T\setminus\{\varepsilon\}=\{a\}$ に対応する。

交換子部分群は無限階数

$F_2=F(\{a,b\})$ の交換子部分群 $H=[F_2,F_2]$ は、可算無限個の元を基底とする自由群である。
実際、$H$ はアーベル化 $F_2\to F_2^{\mathrm{ab}}\cong\mathbb{Z}^2$(自由群 の定理「自由群のアーベル化」、$a\mapsto(1,0)$、$b\mapsto(0,1)$)の核なので、右剰余類 $Hg$ は $g$ の像 $(i,j)\in\mathbb{Z}^2$ で決まる。$T:=\{a^ib^j\mid i,j\in\mathbb{Z}\}$($a^ib^j$ は既約語)は各剰余類をちょうど 1 つずつ含み、その頭の部分は $a^{i'}$ や $a^ib^{j'}$ の形でまた $T$ に属するので、Schreier 横断系である。$(a^ib^j,b)$ については $a^ib^jb=a^ib^{j+1}\in T$ なので $\gamma=1$ である。$(a^ib^j,a)$ については $\overline{a^ib^ja}=a^{i+1}b^j$ なので
$$ \gamma_{a^ib^j,a}=a^ib^j\,a\,b^{-j}a^{-(i+1)} $$
であり、$j=0$ なら $1$、$j\ne0$ ならこの語は既約で $1$ でない。よって $H$ は $\{a^ib^jab^{-j}a^{-i-1}\mid i\in\mathbb{Z},\ j\in\mathbb{Z}\setminus\{0\}\}$ を基底とする自由群である。たとえば $(i,j)=(0,1)$ の元は交換子 $bab^{-1}a^{-1}$ である。

この例は、Schreier の指数公式で指数を有限と仮定したことが必要であることを示す。階数 $2$ の群の部分群が、有限個の元では生成されない。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
全体の群が自由群である$\mathbb{Z}^2$ とその部分群 $2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$(指数 2)部分群が自由群であること
指数が有限である$F_2$ の交換子部分群(ex-nielsen-schreier-commutator)部分群の階数が有限であること
全体の群の階数が有限である可算無限集合 $X$ 上の $F(X)$ の指数 2 の部分群部分群の階数が有限であること

1 行目:$2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}^2$ と同型なアーベル群で、$\mathbb{Z}^2$ は自由群でない(自由群 の例「反例:階数 2 の自由アーベル群」)。この部分群は $(2,0)$ と $(0,1)$ の 2 元で生成され、指数公式の値 $3$ より少ない。3 行目:$x_0\in X$ を 1 つとり、$x_0\mapsto1$、それ以外の $x\mapsto0$ で定まる $F(X)\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の核を $H$ とすると、$T=\{\varepsilon,x_0\}$ が Schreier 横断系で、cor-nielsen-schreier-index-formula の証明と同じく自明な組は 1 個だけなので、基底 $Y$ は $(T\times X)$ から 1 元を除いた無限集合である。

被覆空間による証明

位相的な証明の所在

被覆空間による証明は次のとおりである。基底 $X$ の自由群 $F$ を、$X$ で添字づけた円周のウェッジ和 $B$ の基本群と同一視する。部分群 $H$ に対応する連結な被覆空間 $\tilde B\to B$ をとると、$\tilde B$ は頂点と辺がそれぞれ $B$ の頂点と辺の持ち上げであるグラフで、その基本群は $H$ と同型である。連結なグラフの基本群は、極大な木に含まれない辺に対応するループを基底とする自由群である。証明は Hat02 §1.A の Theorem 1A.4(p. 85)と Mun00 §85 の Theorem 85.1(p. 514)にあり、指数公式は Mun00 Theorem 85.3(p. 515)にある。この記事では位相的な証明の細部(被覆空間の存在とグラフの基本群の計算)は述べない。
組合せ的な証明の Schreier 横断系 $T$ は、被覆グラフ $\tilde B$ の極大な木の頂点を基点から辿る道に当たり、自明でない Schreier 生成元 $\gamma_{t,x}$ は木に入らない辺に当たる。ex-nielsen-schreier-index-two では、被覆グラフは頂点 2 個、辺 4 本で、木の辺は $(\varepsilon,a)$ に当たる 1 本である。

DF04 §6.3 の Theorem 19(p. 218)も、自由群の部分群は自由群であることを Schreier の定理として述べているが、そこでは証明を与えていない。

関連項目

参考文献

[2]
James R. Munkres, Topology, 2nd ed., Prentice Hall, 2000, §85 Subgroups of Free Groups:Theorem 85.1(p. 514)、Lemma 85.2(p. 514)、Theorem 85.3(p. 515)
[3]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §6.3 Theorem 19(p. 218、Schreier の定理の言明。証明は与えていない)

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