Ravi置換

同義語:ラヴィ置換Ravi substitution

概要

Ravi置換(Ravi substitution)とは、三角形の 3 辺 $a,b,c$ を正の数 $x,y,z$ で $a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ と書き直す置き換えである。半周長を $s$ とすると $x=s-a$、$y=s-b$、$z=s-c$ で、これは頂点から内接円の接点までの距離に等しい。三角形の成立条件を満たす正の数の組 $(a,b,c)$ と正の数の組 $(x,y,z)$ は、この式で 1 対 1 に対応する。そのため三角形の辺の不等式を、制約のない正の数の不等式に直せる。例えば $abc\ge(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)$ は $(x+y)(y+z)(z+x)\ge8xyz$ になる。三角形でない $(a,b,c)$ では $x,y,z$ の一部が負になり、この方法は使えない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角形の成立条件, 相加平均と相乗平均, 三角形の内心と傍心

高校での出発点:内接円が辺を 3 つずつに分ける

三角形の内接円は、3 つの辺にそれぞれ 1 点で接する。接点は各辺を 2 つの部分に分けるので、3 辺はあわせて 6 つの部分に分かれる。この 6 つの長さを具体的な三角形で求めてみる。

3 辺が $13,14,15$ の三角形の接線の長さ

$a=BC=14$、$b=CA=15$、$c=AB=13$ の三角形の内接円が、辺 $BC$、$CA$、$AB$ に接する点を $D$、$E$、$F$ とする。1 つの点から円に引いた 2 本の接線の長さは等しいので(prop-rav-tangent で証明する)、
$$ AE=AF=x,\qquad BF=BD=y,\qquad CD=CE=z $$
とおける。各辺は 2 つの部分の和なので
$$ y+z=14,\qquad z+x=15,\qquad x+y=13 $$
である。3 式を足すと $2(x+y+z)=42$、つまり $x+y+z=21$ で、
$$ x=21-14=7,\qquad y=21-15=6,\qquad z=21-13=8 $$
となる。$21$ は周の長さ $42$ の半分(半周長)である。

3 辺が 13、14、15 の三角形の内接円は、辺を 7 と 6、6 と 8、8 と 7 に分ける。同じ頂点から出る 2 本の接線の長さは等しい 3 辺が 13、14、15 の三角形の内接円は、辺を 7 と 6、6 と 8、8 と 7 に分ける。同じ頂点から出る 2 本の接線の長さは等しい
逆向きに、正の数 $x,y,z$ を先に決めて、$a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ とおいてみる。

正の数 $x,y,z$ から 3 辺を作る
  1. $x=y=z=1$ なら $a=b=c=2$ で、正三角形の 3 辺になる。
  2. $(x,y,z)=(3,2,1)$ なら $a=2+1=3$、$b=1+3=4$、$c=3+2=5$ で、直角三角形の 3 辺 $3,4,5$ になる。半周長は $6=x+y+z$ である。
  3. $(x,y,z)=\left(\dfrac12,\dfrac32,\dfrac52\right)$ なら $a=4$、$b=3$、$c=2$ で、鈍角三角形の 3 辺になる(三角形の成立条件 の $2,3,4$ の三角形)。

どの例でも、正の数 $x,y,z$ から作った $a,b,c$ は三角形の 3 辺になっていた。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 三角形の 3 辺と正の数の組 $(x,y,z)$ は、ちょうど 1 対 1 に対応するか。→ thm-rav-main
  2. $x,y,z$ は図形の上で何の長さか。→ prop-rav-tangent
  3. この置き換えは、三角形の辺の不等式を示すのにどう役立つか。どんなときに使えないか。→ thm-rav-padoa、ex-rav-oly83、ex-rav-cx-124
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    接線の長さを連立方程式で求めるRavi 置換 $a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$1 次変換とその逆変換
    三角形の成立条件を確かめる$x,y,z$ がすべて正錐(1 次不等式の領域)を正の象限に移す
    辺の不等式を示す条件のない正の数の不等式に直す制約を外す変数変換

Ravi 置換の定義と主定理

Ravi 置換

正の数 $a,b,c$ に対して
$$ x=\frac{-a+b+c}2,\qquad y=\frac{a-b+c}2,\qquad z=\frac{a+b-c}2 $$
とおく。逆に、$x,y,z$ から
$$ a=y+z,\qquad b=z+x,\qquad c=x+y $$
で $a,b,c$ を作る。三角形の 3 辺 $a,b,c$ をこのように $x,y,z$ で書き直すことを Ravi 置換 という。半周長を $s=\dfrac{a+b+c}2$ とすると、$x=s-a$、$y=s-b$、$z=s-c$ である。

定義の式で計算する
  1. $a=14$、$b=15$、$c=13$ では $x=\dfrac{-14+15+13}2=7$、$y=\dfrac{14-15+13}2=6$、$z=\dfrac{14+15-13}2=8$ で、ex-rav-start の接線の長さと一致する。
  2. $a=5$、$b=5$、$c=6$ では $x=3$、$y=3$、$z=2$ で、$y+z=5$、$z+x=5$、$x+y=6$ ともとにもどる。

主定理は、この 2 つの向きの計算が互いに逆で、三角形の成立条件がちょうど「$x,y,z$ が正」に当たることを言う。

Ravi 置換の 1 対 1 対応
  1. 正の数 $a,b,c$ が三角形の成立条件 $a< b+c$、$b< c+a$、$c< a+b$ を満たすなら、def-rav の $x,y,z$ は正で、$a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ が成り立つ。
  2. 逆に、正の数 $x,y,z$ から $a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ とおくと、$a,b,c$ は正で三角形の成立条件を満たし、def-rav の式でもとの $x,y,z$ にもどる。
    したがって、三角形の 3 辺になる正の数の組 $(a,b,c)$ と、正の数の組 $(x,y,z)$ は、Ravi 置換で 1 対 1 に対応する。
2 つの向きの計算

方針:$b+c-a$ などを $x,y,z$ で書くと、ちょうど $2x$ などになる。これを 2 つの向きで確かめる。
段 1((1) の正であること)。三角形の成立条件 $a< b+c$ から $-a+b+c>0$ なので $x=\dfrac{-a+b+c}2>0$ である。同じく $b< c+a$ から $y>0$、$c< a+b$ から $z>0$ である。
段 2((1) の式)。定義から
$$ y+z=\frac{(a-b+c)+(a+b-c)}2=\frac{2a}2=a $$
である。同じく $z+x=\dfrac{(a+b-c)+(-a+b+c)}2=b$、$x+y=\dfrac{(-a+b+c)+(a-b+c)}2=c$ である。
段 3((2) の成立条件)。$a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ のとき
$$ b+c-a=\underbrace{(z+x)}_{b}+\underbrace{(x+y)}_{c}-\underbrace{(y+z)}_{a}=2x $$
である。$x>0$ なので $b+c-a>0$、つまり $a< b+c$ である。同じく $c+a-b=2y>0$、$a+b-c=2z>0$ である。$a=y+z>0$ なども成り立つ。
段 4((2) のもどり)。段 3 から $\dfrac{-a+b+c}2=\dfrac{2x}2=x$ で、同じく $\dfrac{a-b+c}2=y$、$\dfrac{a+b-c}2=z$ である。つまり def-rav の式でもとの $x,y,z$ にもどる。
段 5(1 対 1)。段 2 は「$(a,b,c)$ から $(x,y,z)$ を作り、それから $(a,b,c)$ を作るともとにもどる」ことを、段 4 は「$(x,y,z)$ から $(a,b,c)$ を作り、それから $(x,y,z)$ を作るともとにもどる」ことを示している。互いに逆の対応なので、1 対 1 である。$\square$

ex-rav-reverse の 3 つの例が三角形になったのは、thm-rav-main (2) による。正の数 $x,y,z$ をどう選んでも三角形の 3 辺ができ、しかもすべての三角形がこうして得られる。

$x,y,z$ は接線の長さ

頂点から接点までの長さ

三角形 $ABC$ の内接円が辺 $BC$、$CA$、$AB$ に接する点を $D$、$E$、$F$ とすると
$$ AE=AF=x,\qquad BF=BD=y,\qquad CD=CE=z $$
である。ここで $x=s-a$、$y=s-b$、$z=s-c$ は def-rav の値である。

接線の長さは等しい

方針:1 つの点から円に引いた 2 本の接線の長さが等しいことを示し、ex-rav-start と同じ連立方程式を解く。内接円があること(3 つの角の二等分線が 1 点 $I$ で交わり、$I$ を中心とする円が 3 辺に接すること)は 三角形の内心と傍心 で示されている。内接円の半径を $r$ とする。
段 1(接線の長さは等しい)。接線は接点を通る半径に垂直なので、$\angle AEI=\angle AFI=90^\circ$ である。直角三角形 $AIE$ と $AIF$ で、斜辺 $AI$ は共通、$IE=IF=r$ なので、三平方の定理から
$$ AE^2=AI^2-r^2=AF^2 $$
で、$AE=AF$ である。同じく $BF=BD$、$CD=CE$ である。
段 2(連立方程式)。$p=AE=AF$、$q=BF=BD$、$t=CD=CE$ とおく。接点は辺の上にあるので $q+t=a$、$t+p=b$、$p+q=c$ である。3 式を足すと $2(p+q+t)=2s$ で $p+q+t=s$ である。
段 3(解く)。$p=(p+q+t)-(q+t)=s-a=x$ である。同じく $q=s-b=y$、$t=s-c=z$ である。$\square$

同じ計算は 三角形の面積の公式 でも、内接円の半径を求める準備として行っている。Ravi 置換の $x,y,z$ は、頂点から内接円の接点までの距離という、目に見える長さである。$x>0$ は「頂点 $A$ から接点までの距離が正」ということなので、三角形の成立条件が $x,y,z>0$ に当たることも、図形として納得できる。
3 辺が 4、3、2 の鈍角三角形では x = 1/2、y = 3/2、z = 5/2 で、鈍角の頂点 A から接点までの距離 x が小さい 3 辺が 4、3、2 の鈍角三角形では x = 1/2、y = 3/2、z = 5/2 で、鈍角の頂点 A から接点までの距離 x が小さい

辺の不等式を正の数の不等式に直す

三角形の 3 辺 $a,b,c$ についての不等式を示すとき、$a,b,c$ は「三角形の成立条件」という制約を満たしていなければならない。Ravi 置換で $x,y,z$ に直すと、制約は「$x,y,z$ が正」だけになり、相加平均と相乗平均 などの正の数の不等式がそのまま使える。同じ式が $(a,b,c)$ と $(x,y,z)$ でどう書けるかを並べる。

辺 $(a,b,c)$ で接線の長さ $(x,y,z)$ で
成立条件$a< b+c$、$b< c+a$、$c< a+b$$x>0$、$y>0$、$z>0$
半周長$s=\dfrac{a+b+c}2$$x+y+z$
正三角形$a=b=c$$x=y=z$
Heron の公式 $S^2$$s(s-a)(s-b)(s-c)$$(x+y+z)xyz$
内接円の半径 $r^2$$\dfrac{(s-a)(s-b)(s-c)}s$$\dfrac{xyz}{x+y+z}$
Padoa の不等式$abc\ge(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)$$(x+y)(y+z)(z+x)\ge8xyz$
$2(ab+bc+ca)-(a^2+b^2+c^2)$(符号が見えない)$4(xy+yz+zx)$

Heron の公式と内接円の半径の行は、三角形の面積の公式 の注意 rem-taf-heron-tangent で導かれている。ex-rav-start の三角形では $S^2=21\cdot7\cdot6\cdot8=7056=84^2$、$r^2=\dfrac{336}{21}=16$ である。

Padoa の不等式

三角形の 3 辺 $a,b,c$ について
$$ abc\ge(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c) $$
が成り立つ。等号は $a=b=c$ のときに限る。

Ravi 置換と相加平均・相乗平均

段 1(置き換え)。thm-rav-main により、正の数 $x,y,z$ で $a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ と書ける。$-a+b+c=2x$、$a-b+c=2y$、$a+b-c=2z$ なので、示す不等式は
$$ (y+z)(z+x)(x+y)\ge8xyz $$
になる。
段 2(相加平均と相乗平均)。正の数 $y,z$ について $y+z\ge2\sqrt{yz}$ で、等号は $y=z$ のときに限る(相加平均と相乗平均)。同じく $z+x\ge2\sqrt{zx}$、$x+y\ge2\sqrt{xy}$ である。
段 3(掛ける)。3 つの不等式の両辺はすべて正なので、辺々掛けてよく、
$$ (y+z)(z+x)(x+y)\ge8\sqrt{yz\cdot zx\cdot xy}=8\sqrt{(xyz)^2}=8xyz $$
である。
段 4(等号)。段 3 で等号が成り立つのは、3 つの不等式がすべて等号のとき、つまり $y=z$、$z=x$、$x=y$ のときに限る(どれか 1 つが真の不等号なら、正の数を掛けた積も真の不等号になる)。$x=y=z$ は $a=b=c$ と同じである。$\square$

Padoa の不等式を数で確かめる
  1. $a=14$、$b=15$、$c=13$($x=7$、$y=6$、$z=8$)では、左辺 $abc=2730$、右辺 $8xyz=8\cdot336=2688$ で、$2730\ge2688$ である。
  2. $a=3$、$b=4$、$c=5$($x=3$、$y=2$、$z=1$)では、左辺 $60$、右辺 $8\cdot6=48$ である。
  3. $a=b=c=2$($x=y=z=1$)では、左辺 $8$、右辺 $8$ で等号になる。

Padoa の不等式は、外接円の半径 $R$ と内接円の半径 $r$ について $R\ge2r$ となること(Eulerの三角形の定理)と同じ内容である。そこでもこの置き換えが使われている。

等号条件は辺の言葉にもどす

Ravi 置換で示した不等式の等号条件は、$x,y,z$ の言葉で出てくる(prf-rav-padoa の段 4 では $x=y=z$)。答えとしては、def-rav の式で $a,b,c$ の言葉にもどして述べる。$x=y=z$ のとき $a=y+z=b=z+x=c=x+y$ なので正三角形である。逆に正三角形なら $x=y=z=\dfrac a2$ である。

もう 1 つ、辺のままでは符号が見えにくい式の例を挙げる。

3 辺の 2 乗の和の上からの評価

三角形の 3 辺 $a,b,c$ について
$$ a^2+b^2+c^2<2(ab+bc+ca) $$
が成り立つ。

両辺を $x,y,z$ で展開する

$a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$ とする。
$$ a^2+b^2+c^2=(y+z)^2+(z+x)^2+(x+y)^2=2(x^2+y^2+z^2)+2(xy+yz+zx) $$
である。$(y+z)(z+x)=z^2+xy+yz+zx$ で、ほかの 2 つの積も同じ形なので
$$ ab+bc+ca=(x^2+y^2+z^2)+3(xy+yz+zx) $$
である。よって
$$ 2(ab+bc+ca)-(a^2+b^2+c^2)=2(x^2+y^2+z^2)+6(xy+yz+zx)-2(x^2+y^2+z^2)-2(xy+yz+zx)=4(xy+yz+zx) $$
で、$x,y,z>0$ なので正である。$\square$

ex-rav-start の三角形では $a^2+b^2+c^2=196+225+169=590$、$ab+bc+ca=210+195+182=587$ で、$2\cdot587-590=584$ である。$4(xy+yz+zx)=4(42+48+56)=584$ と一致する。

数学オリンピックの問題から

1983 年第 6 問:巡回的な不等式

国際数学オリンピック(1983 年)第 6 問

$a,b,c$ を三角形の 3 辺の長さとする。
$$ a^2b(a-b)+b^2c(b-c)+c^2a(c-a)\ge0 $$
を示せ。等号が成り立つのはどのようなときか。
出典:国際数学オリンピック(1983 年)第 6 問 Oly83。筆者による和訳。

高校数学で解く:Ravi 置換と平方

方針:Ravi 置換で $x,y,z$ の式に直し、$xyz$ で割って、$\dfrac{x^2}y\ge2x-y$ の形の不等式を 3 つ足す。
段 1(置き換えて展開する)。$a=y+z$、$b=z+x$、$c=x+y$($x,y,z>0$)とすると $a-b=y-x$、$b-c=z-y$、$c-a=x-z$ である。3 つの項をそれぞれ展開すると
$$ \begin{aligned} a^2b(a-b)&=(y+z)^2(z+x)(y-x)\\ &=xy^3-x^2y^2+xy^2z-2x^2yz-xyz^2-x^2z^2-xz^3+y^3z+2y^2z^2+yz^3,\\ b^2c(b-c)&=(z+x)^2(x+y)(z-y)\\ &=x^3z-x^3y-x^2y^2-x^2yz+2x^2z^2-2xy^2z+xyz^2+xz^3-y^2z^2+yz^3,\\ c^2a(c-a)&=(x+y)^2(y+z)(x-z)\\ &=x^3y+x^3z+2x^2y^2+x^2yz-x^2z^2+xy^3-xy^2z-2xyz^2-y^3z-y^2z^2 \end{aligned} $$
である。足すと、$x^2y^2$、$y^2z^2$、$x^2z^2$、$x^3y$、$y^3z$、$xz^3$ の項は打ち消し合い
$$ a^2b(a-b)+b^2c(b-c)+c^2a(c-a)=2\bigl(xy^3+yz^3+zx^3-x^2yz-xy^2z-xyz^2\bigr) $$
となる。右辺のかっこの中は $xy^3+yz^3+zx^3-xyz(x+y+z)$ である。
段 2($xyz$ で割る)。$xyz>0$ なので、示すことは
$$ \frac{xy^3+yz^3+zx^3}{xyz}\ge x+y+z,\qquad\text{つまり}\qquad \frac{y^2}z+\frac{z^2}x+\frac{x^2}y\ge x+y+z $$
と同じである($\dfrac{xy^3}{xyz}=\dfrac{y^2}z$ などを使った)。
段 3(平方で評価する)。正の数 $x,y$ について
$$ \frac{x^2}y-(2x-y)=\frac{x^2-2xy+y^2}y=\frac{(x-y)^2}y\ge0 $$
なので $\dfrac{x^2}y\ge2x-y$ で、等号は $x=y$ のときに限る。同じく $\dfrac{y^2}z\ge2y-z$、$\dfrac{z^2}x\ge2z-x$ である。3 つを足すと
$$ \frac{y^2}z+\frac{z^2}x+\frac{x^2}y\ge(2y-z)+(2z-x)+(2x-y)=x+y+z $$
である。
段 4(等号)。等号は段 3 の 3 つの不等式がすべて等号のとき、つまり $x=y$、$y=z$、$z=x$ のときに限る。rem-rav-equality のとおり、これは $a=b=c$(正三角形)と同じである。答え:不等式は成り立ち、等号は正三角形のときに限る。$\square$

大学数学で見ると:巡回式と制約を外す変換

左辺は $a\to b\to c\to a$ と文字を回すと変わらないが、$a$ と $b$ を入れかえると変わる(巡回式であって対称式ではない)。対称式の不等式なら、大小の順を仮定して Schur の不等式などの標準形(Schurの不等式)に持ち込めるが、巡回式ではその手が使いにくい。Ravi 置換は、三角形という制約を正の象限という制約に変えるので、段 3 のような「正の数の分数の和」の評価が使えるようになる。段 3 の不等式は、Cauchy–Schwarz の不等式の分数の形 $\dfrac{x^2}y+\dfrac{y^2}z+\dfrac{z^2}x\ge\dfrac{(x+y+z)^2}{x+y+z}$ とみることもできる(Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学))。
三角形であるという仮定は外せない。ex-rav-cx-146 のとおり、三角形の成立条件を満たさない正の数 $1,4,6$ では左辺が負になる。不等式の証明の技法 の国際数学オリンピック(1964 年)第 2 問は、見た目は三角形の問題だが Schur の不等式により $a,b,c\ge0$ ならいつでも成り立つ。1983 年の問題はそうではなく、三角形の条件が本当に必要な問題である。

例と反例

Ravi 置換が使えるのは、$(a,b,c)$ が三角形の成立条件を満たすときだけである。条件を外すと次のようになる。

外す条件反例成り立たなくなること
三角形の成立条件$(a,b,c)=(1,2,4)$(ex-rav-cx-124)$x,y,z$ がすべて正
三角形の成立条件$(a,b,c)=(1,4,6)$(ex-rav-cx-146)1983 年第 6 問の不等式
三角形の成立条件$(a,b,c)=(1,1,10)$(ex-rav-cx-1110)$a^2+b^2+c^2<2(ab+bc+ca)$
反例:三角形でない組を置き換える

$(a,b,c)=(1,2,4)$ は、$4<1+2$ が成り立たないので三角形の 3 辺ではない(三角形の成立条件)。それでも def-rav の式を計算すると
$$ x=\frac{-1+2+4}2=\frac52,\qquad y=\frac{1-2+4}2=\frac32,\qquad z=\frac{1+2-4}2=-\frac12 $$
で、$y+z=1$、$z+x=2$、$x+y=4$ ともとにはもどる。しかし $z<0$ である。相加平均と相乗平均の不等式 $x+y\ge2\sqrt{xy}$ などは正の数についての不等式なので、$z<0$ のときには使えない。置き換えの式そのものはいつでも計算できるが、「正の数の不等式に直す」という利点は、三角形のときにしかない。

反例:1983 年の不等式が崩れる

$(a,b,c)=(1,4,6)$ は $6<1+4$ が成り立たないので三角形ではない。左辺は
$$ 1^2\cdot4\cdot(1-4)+4^2\cdot6\cdot(4-6)+6^2\cdot1\cdot(6-1)=-12-192+180=-24<0 $$
で、ex-rav-oly83 の不等式は成り立たない。Ravi 置換では $x=\dfrac92$、$y=\dfrac32$、$z=-\dfrac12$ で、prf-rav-oly83 の段 1 の式でも
$$ 2\left(\frac{243}{16}-\frac3{16}-\frac{729}{16}+\frac{297}{16}\right)=2\cdot\frac{-192}{16}=-24 $$
となる($xy^3=\dfrac{243}{16}$、$yz^3=-\dfrac3{16}$、$zx^3=-\dfrac{729}{16}$、$xyz(x+y+z)=-\dfrac{297}{16}$)。証明が崩れるのは、段 2 で $xyz<0$ で割ると不等号の向きが変わること、段 3 の $\dfrac{y^2}z\ge2y-z$ が $z>0$ を使っていることによる。

反例:2 乗の和の評価が崩れる

$(a,b,c)=(1,1,10)$ は三角形ではない。$a^2+b^2+c^2=1+1+100=102$、$2(ab+bc+ca)=2(1+10+10)=42$ で、$102>42$ である。Ravi 置換では $x=5$、$y=5$、$z=-4$ で、$4(xy+yz+zx)=4(25-20-20)=-60=42-102$ となり、prf-rav-squares の式どおり負である。

大学数学で見る:錐を正の象限に移す 1 次変換

Ravi 置換は、行列で書くと 1 次変換とその逆変換である。
$$ \begin{pmatrix}a\\ b\\ c\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1&1\\ 1&0&1\\ 1&1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\ y\\ z\end{pmatrix},\qquad \begin{pmatrix}x\\ y\\ z\end{pmatrix}=\frac12\begin{pmatrix}-1&1&1\\ 1&-1&1\\ 1&1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a\\ b\\ c\end{pmatrix} $$
2 つの行列を掛けると単位行列になる(行列式は $2$ と $\dfrac12$)。thm-rav-main は、「三角形の 3 辺になる $(a,b,c)$ 全体」が、正の象限 $\{(x,y,z)\mid x,y,z>0\}$ のこの 1 次変換による像であることを言っている。

三角形の集合の形と「三角形になる確率」を開く

三角形の 3 辺になる $(a,b,c)$ の集合は、3 つの 1 次不等式 $a< b+c$、$b< c+a$、$c< a+b$ で決まる。正の数を掛けても条件は保たれるので、原点から出る半直線の集まり(錐)である。正の象限も 3 つの 1 次不等式 $x>0$、$y>0$、$z>0$ で決まる錐で、Ravi 置換は錐を錐に移す。

和を $a+b+c=2$ に決めて切ると(このとき $x+y+z=1$)、$a,b,c\ge0$ の範囲は 3 頂点 $(2,0,0)$、$(0,2,0)$、$(0,0,2)$ の正三角形で、その中で三角形になる範囲は、3 辺の中点 $(0,1,1)$、$(1,0,1)$、$(1,1,0)$ を結ぶ三角形の内部である(図 3)。中点を結ぶ三角形の面積はもとの $\dfrac14$ なので、和が一定の 0 以上の 3 数をこの正三角形の上で一様に選ぶと、三角形の 3 辺になる確率は $\dfrac14$ である。中点 $(0,1,1)$ は $x=1$、$y=z=0$ に当たり、Ravi 置換は正三角形の頂点 $(x,y,z)=(1,0,0)$ などを中点に移している。


a + b + c = 2 で切った図。外側の正三角形が a, b, c ≥ 0 の範囲、青い三角形が三角形になる範囲で、x, y, z > 0 に当たる。1, 2, 4 は外、13, 14, 15 は内にある a + b + c = 2 で切った図。外側の正三角形が a, b, c ≥ 0 の範囲、青い三角形が三角形になる範囲で、x, y, z > 0 に当たる。1, 2, 4 は外、13, 14, 15 は内にある

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  • 三角形の辺の対称な不等式は、Ravi 置換で $x,y,z$ の対称な不等式に直したあと、Schur の不等式や平方の和の形で示すことが多い(不等式の証明の技法)。
  • 内接円の代わりに傍接円を使うと、頂点から傍接円の接点までの距離として $s$、$s-a$ などが現れる(この記事では証明しない。傍接円は 三角形の内心と傍心 で扱っている)。
  • Padoa の不等式は $R\ge2r$(Eulerの三角形の定理)と同じ内容で、等号は正三角形のときである。

関連項目

参考文献

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