単体近似定理(simplicial approximation theorem)とは、有限単体複体 $K$ の多面体から単体複体 $L$ の多面体への任意の連続写像 $f$ について、$K$ を十分な回数だけ重心細分すれば、$f$ の単体近似、すなわち各頂点 $v$ の開星状近傍の像が $g(v)$ の開星状近傍に入る単体写像 $g$ が存在し、$f$ と $g$ が直線ホモトピーでホモトピックになるという定理である。証明は、開星状近傍の逆像による開被覆の Lebesgue 数と、重心細分で単体の直径が $\frac{n}{n+1}$ 倍以下になることによる。応用として $k<n$ のとき $\pi_k(S^n)=0$ が従い、有限多面体の間のホモトピー類は可算個である。定義域の細分・有限性・連続性のどれを外しても成り立たない。
多面体の間の連続写像は、一般にはどんなに複雑でもよい。単体近似定理(simplicial approximation theorem)は、定義域が有限単体複体なら、定義域を重心細分で十分細かく分けることで、どんな連続写像も、頂点の行き先だけで決まる単体写像にホモトピーで取り替えられることを主張する。単体写像は $k$ 単体を $k$ 次元以下の単体へ写すので、像の大きさや次元を組合せ的に制御できる。たとえば $k< n$ のとき、$k$ 次元球面から $n$ 次元球面への連続写像は単体写像に取り替えると全射でなくなり、そこから 1 点に縮められることが従う。この考え方は Brouwer と Alexander によって 1920 年より前に展開された(Hat02 §2.C, p. 177)。
この記事では、単体近似を開星状近傍で定義し、その特徴づけと、単体近似がもとの写像にホモトピックであることを示したうえで、単体近似定理を完全に証明する。応用として、球面の低次のホモトピー群の消滅と、有限多面体の間のホモトピー類が可算個であることを示す。
以下、単体複体・多面体・重心座標・台の用語は単体複体の記事にしたがい、多面体 $|K|$ の点 $x$ の頂点 $v$ に関する重心座標を $t_v(x)$ と書く。$x$ の台は $\{v\mid t_v(x)>0\}$ が張る単体である。多面体は、必要なら抽象単体複体の幾何学的実現 $|K|\subset\mathbb{R}^{(V)}$ に取り替えて考える(単体複体 の定理「頂点図式の実現は元の多面体と同相」により、幾何的単体複体の場合もこれで扱える)。
単体複体 $K$ の頂点 $v$ について
$$
\operatorname{st}v:=\{x\in|K|\mid t_v(x)>0\}
$$
を $v$ の開星状近傍(open star)という。これは $v$ を頂点にもつ単体の開単体の和集合である。$v$ を含む単体の和集合を $v$ の閉星状近傍(closed star)といい $\operatorname{St}v$ と書く。
(i):関数 $t_v\colon|K|\to[0,1]$ は、各単体への制限が重心座標の一つか定数 $0$ なので連続であり、弱位相の定義から $|K|$ 上で連続である。よって $\operatorname{st}v=t_v^{-1}((0,1])$ は開集合である。$t_v(x)>0$ なら $x$ の台は $v$ を含むので $x\in\operatorname{St}v$ である。(ii):各点は正の重心座標をもつ(和が $1$)。(iii):$x$ が共通部分に属すれば、すべての $t_{w_i}(x)>0$ なので $\{w_0,\dots,w_k\}$ は $x$ の台の頂点の部分集合であり、面として $K$ の単体である。逆に単体なら、その重心はすべての $\operatorname{st}w_i$ に属する(Hat02 Lemma 2C.2, p. 178)。$\square$
$K$、$L$ を単体複体、$f\colon|K|\to|L|$ を連続写像とする。頂点の写像 $g\colon V(K)\to V(L)$ が、$K$ のすべての頂点 $v$ について
$$
f(\operatorname{st}v)\subset\operatorname{st}g(v)
$$
を満たすとき、$g$ を $f$ の単体近似(simplicial approximation)という。
条件を満たす $g$ は自動的に単体写像になる(prop-sa-characterization)。以下 $g$ とその線形拡張 $|g|$ を同じ文字で書くことがある。
$f\colon|K|\to|L|$ を連続写像、$g\colon V(K)\to V(L)$ を頂点の写像とする。
(R1) $g$ が $f$ の単体近似ならば、$g$ は単体写像である。
(R2) 単体写像 $g$ が $f$ の単体近似であるための必要十分条件は、すべての $x\in|K|$ について $|g|(x)$ が $f(x)$ の台($L$ の閉単体)に属することである。
(i):$\sigma=\{v_0,\dots,v_k\}$ を $K$ の単体とし、その重心 $x$ をとる。$x\in\operatorname{st}v_i$ がすべての $i$ で成り立つので、$f(x)\in\operatorname{st}g(v_0)\cap\cdots\cap\operatorname{st}g(v_k)$ である。lem-sa-star の (iii)(重複した頂点は 1 つにまとめる)により、$\{g(v_0),\dots,g(v_k)\}$ は $L$ の単体である。
(ii):単体近似とし、$x$ の台を $\{v_0,\dots,v_k\}$、$f(x)$ の台を $\tau$ とする。$x\in\operatorname{st}v_i$ なので $f(x)\in\operatorname{st}g(v_i)$、すなわち $g(v_i)$ は $\tau$ の頂点である。よって $|g|(x)=\sum_it_{v_i}(x)\,g(v_i)$ は $\tau$ に属する。逆に条件が成り立つとし、$x\in\operatorname{st}v$ とする。$|g|(x)$ の頂点 $g(v)$ に関する重心座標は $t_v(x)$ 以上なので正であり、$g(v)$ は $|g|(x)$ の台の頂点である。$|g|(x)\in\tau$ なのでその台は $\tau$ の面であり、$g(v)$ は $\tau$ の頂点である。台 $\tau$ の頂点に関する $f(x)$ の重心座標はすべて正なので、$f(x)\in\operatorname{st}g(v)$ である。$\square$
$K$ を有限単体複体、$L$ を単体複体とし、単体写像 $g$ が連続写像 $f\colon|K|\to|L|$ の単体近似であるとする。このとき
$$
H(x,s):=(1-s)\,f(x)+s\,|g|(x)\qquad(x\in|K|,\ 0\le s\le1)
$$
は $f(x)$ の台の単体の中で定まり、$f$ から $|g|$ へのホモトピーである。$H$ は $f(x)=|g|(x)$ となる点 $x$ で $s$ によらない。とくに $f$ と $|g|$ はホモトピックである。
$f(x)$ と $|g|(x)$ はともに $f(x)$ の台 $\tau$ に属する(prop-sa-characterization の (ii))ので、凸集合 $\tau$ の中の線分として $H(x,s)$ が定まる。
連続性を示す。$f(|K|)$ はコンパクトなので、単体複体 の系「多面体の基本性質」の (ii) により $L$ の有限部分複体 $L_1$ の多面体に含まれる。$|g|(|K|)$ は有限個の単体の像なので有限部分複体 $L_2$ の多面体に含まれる。$L':=L_1\cup L_2$ は有限部分複体で、その頂点の集合 $V'$ は有限である。$|L'|$ は $\mathbb{R}^{V'}$ の有限単体複体の多面体として実現され、その位相は $\mathbb{R}^{V'}$ からの相対位相である(同じ記事の命題「有限単体複体の多面体の位相」)。また $|L'|$ の位相は $|L|$ からの相対位相でもある(同じ記事の補題「部分複体の多面体」)。したがって $f$ と $|g|$ は $\mathbb{R}^{V'}$ への連続写像とみなせ、$H$ はベクトルの演算で書かれているので $|K|\times[0,1]\to\mathbb{R}^{V'}$ として連続である。$\tau$ は $L_1$ に属する($f(x)$ を含む $L_1$ の単体の面)ので $H$ の値は $|L'|$ に属し、$H$ は $|L'|$ への、したがって $|L|$ への連続写像である。$H(x,0)=f(x)$、$H(x,1)=|g|(x)$ であり、$f(x)=|g|(x)$ なら $H(x,s)=f(x)$ である。$\square$
定義域 $K$ が有限でない場合も同じ式でホモトピーが定まる。その連続性は、各単体 $\sigma$ の上の $\sigma\times[0,1]$ で確かめればよい($|K|\times[0,1]$ の位相がこれらの閉集合で判定できることは、CW複体 の積の性質 Hat02 Theorem A.6, p. 524 による。この記事では証明しない)。
単体複体 $K$ の頂点に全順序を 1 つ定め、単体 $\sigma$ の最大の頂点を $\max\sigma$ と書く。重心細分 $\operatorname{sd}K$ の頂点($K$ の単体)$\sigma$ を $\max\sigma\in V(K)$ へ送る写像 $\gamma$ を最後の頂点写像という。$h\colon|\operatorname{sd}K|\to|K|$ を頂点 $\sigma$ を重心 $b(\sigma)$ へ送る同相写像(重心細分 の定理「重心細分は単体複体の細分である」)とすると、$\gamma$ は $h$ の単体近似である(Jar04 §3, p. 43)。実際、$\operatorname{sd}K$ の点 $y=\sum_js_j\sigma_j$(鎖 $\sigma_0\subsetneq\cdots\subsetneq\sigma_k$ の単体の点)が $\operatorname{st}\sigma$ に属するとは、$\sigma$ がこの鎖に現れ、その係数が正であることである。このとき $h(y)=\sum_js_jb(\sigma_j)$ の頂点 $\max\sigma$ に関する重心座標は、$b(\sigma)$ の寄与だけで $s_\sigma/\#\sigma>0$ 以上なので、$h(y)\in\operatorname{st}\max\sigma$ である。よって thm-sa-homotopy により $|\gamma|$ と $h$ はホモトピックである($K$ が有限の場合)。
線分 $K=\{\{0\},\{1\},[0,1]\}$($0<1$)では、$\operatorname{sd}K$ の頂点は $0$、中点 $m$、$1$ で、$\gamma$ は $0\mapsto0$、$m\mapsto1$、$1\mapsto1$ である。$|\gamma|$ は $[0,m]$ を $[0,1]$ へ引き伸ばし、$[m,1]$ を 1 点 $1$ へつぶす。単体近似は同相写像を近似していても単射とは限らない。
$K$ を有限単体複体、$L$ を単体複体、$f\colon|K|\to|L|$ を連続写像とする。このとき $r\ge0$ と、$f$ の単体近似である単体写像 $g\colon\operatorname{sd}^rK\to L$ が存在する($|\operatorname{sd}^rK|=|K|$ とみる)。したがって $f$ は $|g|$ とホモトピックであり、ホモトピーは $f(x)=|g|(x)$ となる点で動かないようにとれる(Hat02 Theorem 2C.1, p. 177)。
段 1(距離):$K$ は有限なので、Euclid 空間 $\mathbb{R}^N$ の有限な幾何的単体複体として実現でき、$|K|$ は $\mathbb{R}^N$ の距離でコンパクトな距離空間である(単体複体 の命題「有限単体複体の多面体の位相」)。$\operatorname{sd}^rK$ も $\mathbb{R}^N$ の幾何的単体複体で、$|\operatorname{sd}^rK|=|K|$、位相も一致する(重心細分 の定理「重心細分は単体複体の細分である」)。$|K|=\emptyset$ なら主張は明らかなので、$|K|\ne\emptyset$ とする。
段 2(Lebesgue 数):開星状近傍は $|L|$ の開被覆をなす(lem-sa-star)ので、$\mathcal{U}:=\{f^{-1}(\operatorname{st}w)\mid w\in V(L)\}$ は $|K|$ の開被覆である。細分 の定理「Lebesgue 数の存在」により、$\delta>0$ で、直径が $\delta$ 未満の空でない部分集合はどれも $\mathcal{U}$ のある成員に含まれるものがある。
段 3(細分):重心細分 の系「反復した重心細分の網目」により、$\operatorname{mesh}(\operatorname{sd}^rK)<\delta/2$ となる $r$ をとり、$K':=\operatorname{sd}^rK$ とおく。
段 4(頂点の行き先):$K'$ の頂点 $v$ について、$\operatorname{St}v$ の点 $y$ は $v$ を含む $K'$ の単体に属するので $\|y-v\|\le\operatorname{mesh}K'<\delta/2$ であり、$\operatorname{diam}\operatorname{St}v<\delta$ である。よって $\operatorname{St}v\subset f^{-1}(\operatorname{st}w)$ となる $L$ の頂点 $w$ があり、その一つを $g(v)$ とする(頂点は有限個なので有限回の選択である)。このとき
$$
f(\operatorname{st}v)\subset f(\operatorname{St}v)\subset\operatorname{st}g(v)
$$
なので、$g$ は $f$ の単体近似であり、prop-sa-characterization の (i) により単体写像 $K'\to L$ である。
段 5(ホモトピー):thm-sa-homotopy を $K'$ と $g$ に当てはめれば、$f$ から $|g|$ への、$f=|g|$ となる点で動かないホモトピーが得られる。$\square$
証明の要は、段 3 で単体の大きさを $\frac{n}{n+1}$ の評価(重心細分 の定理「重心細分の直径の評価」)によって一様に小さくできることと、段 2 で有限性(コンパクト性)から一様な $\delta$ がとれることである。どちらが欠けても定理は成り立たない(ex-sa-infinite、ex-sa-no-subdivision)。
thm-sa-main で、$K'=\operatorname{sd}^rK$ の頂点 $v$ が $L$ の頂点 $w$ に写る($f(v)=w$)なら、単体近似は必ず $g(v)=w$ を満たす。したがって、ホモトピーは $f$ が頂点を頂点へ写すような $K'$ の頂点で動かない。とくに $K$ の頂点 $a$ と $L$ の頂点 $w$ について $f(a)=w$ なら、$f$ は $a$ を固定したまま単体写像にホモトピックである。
$v\in\operatorname{st}v$ なので $w=f(v)\in\operatorname{st}g(v)$、すなわち $w$ の $g(v)$ に関する重心座標が正である。頂点 $w$ の重心座標は $w$ 自身に関してだけ $1$ で他は $0$ なので $g(v)=w$ である。$K$ の頂点は $\operatorname{sd}K$ の頂点($0$ 単体の重心)なので、$\operatorname{sd}^rK$ の頂点でもある。$\square$
$n\ge1$、$0\le k< n$ とする。任意の連続写像 $f\colon S^k\to S^n$ は、基点 $s_0\in S^k$ の像を固定したまま定値写像にホモトピックである。とくに $\pi_k(S^n)=0$ である。
$K:=\partial\overline{\Delta^{k+1}}$、$L:=\partial\overline{\Delta^{n+1}}$(単体の真の面の全体)とすると、単体複体 の例「単体の面の全体と球面の三角形分割」により同相写像 $h_k\colon|K|\to S^k$、$h_n\colon|L|\to S^n$ がある。直交変換を合成して、$K$ のある頂点 $a$ について $h_k(a)=s_0$、$L$ のある頂点 $w$ について $h_n(w)=f(s_0)$ となるようにしておく(直交群は球面の上で推移的に働く)。$F:=h_n^{-1}\circ f\circ h_k\colon|K|\to|L|$ は $F(a)=w$ を満たす。
thm-sa-main と cor-sa-vertex により、$F$ は $a$ を固定したまま単体写像 $g\colon\operatorname{sd}^rK\to L$ の線形拡張 $|g|$ にホモトピックである。$\operatorname{sd}^rK$ は $k$ 次元なので、$|g|$ の像は $L$ の $k$ 次元以下の単体の和集合に含まれる。$k< n$ なので、$L$ の $n$ 単体の重心 $p$ は像に含まれない。$|L|\setminus\{p\}$ は $S^n$ から 1 点を除いた空間と同相で、立体射影により $\mathbb{R}^n$ と同相である(球面 の命題「Euclid 空間の一点コンパクト化」。直交変換で除く点を北極にしてから使う)。この同相写像を $\psi\colon|L|\setminus\{p\}\to\mathbb{R}^n$ とし、
$$
G(x,s):=\psi^{-1}\bigl((1-s)\,\psi(|g|(x))+s\,\psi(w)\bigr)
$$
とおくと、$G$ は $|g|$ から定値写像 $w$ への、$a$ で動かないホモトピーである($\psi(|g|(a))=\psi(w)$)。ホモトピーをつなぎ、$h_k$、$h_n$ で $S^k$、$S^n$ に戻せば、$f$ は $s_0$ の像を固定したまま定値写像にホモトピックである。$\pi_k(S^n)$ の元は基点を保つ写像の、基点を固定したホモトピー類なので、すべて自明な元である。$\square$
一般の連続写像については、像が 1 点を逃すかどうかはすぐにはわからない。単体写像に取り替えることで、像が $k$ 次元の部分に収まることが保証される点が、この証明の要である。この系は球面のホモトピー群 の命題「消滅域と対角線」の 1 の根拠として引かれている。同じ結論は胞体近似定理(Hat02 Theorem 4.8, Corollary 4.9, p. 349)からも得られる。
$K$、$L$ を有限単体複体とする。連続写像 $|K|\to|L|$ のホモトピー類の全体 $[|K|,|L|]$ は高々可算である。
各 $r$ について、$\operatorname{sd}^rK$ の頂点も $L$ の頂点も有限個なので、単体写像 $\operatorname{sd}^rK\to L$ は有限個しかない。thm-sa-main により、各ホモトピー類はある $r$ とある単体写像 $g$ の $|g|$ を含む。よってホモトピー類の全体は、可算個の有限集合の和集合の像であり、高々可算である。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 定義域を細分すること | 三角形の周を 2 周する写像 | 固定した単体構造の単体写像にホモトピックであること |
| 定義域が有限 | 実数直線から三角形の周への $x\mapsto$(角度 $2\pi x^2$) | 何回かの重心細分で単体近似がとれること |
| 写像の連続性 | $[0,1]$ 上の階段関数 | 単体近似が存在すること |
$K=L$ を三角形の周(3 頂点 $w_0,w_1,w_2$ と 3 辺)とし、単体複体 の例「単体の面の全体と球面の三角形分割」の同相写像で $|L|=S^1$ とみなす。$f\colon S^1\to S^1$、$f(z)=z^2$(複素数の積)は、生成元のループを 2 周するループへ写すので、基本群 の定理「円周の基本群」の同一視 $\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ の上で 2 倍写像を誘導する。一方、$K$ から $L$ への頂点の写像は $3^3=27$ 個あり、どの 2 頂点も辺を張るのですべて単体写像である。全単射なら $|g|$ は同相写像で基本群の同型を誘導し、全単射でなければ像は 1 本の辺に含まれ、$|g|$ は可縮な空間を経由するので基本群に $0$ を誘導する。もし $f$ が $|g|$ にホモトピックなら、基本群 の命題「ホモトピー不変性」により $|g|_*$ は $f_*$ と同型を合成したものになり、像の部分群の指数は $f_*$ と同じ $2$ でなければならないが、$\mathbb{Z}$ と $0$ の指数は $1$ と無限大である。よって $f$ は $K$ から $L$ へのどの単体写像ともホモトピックでない(Hat02 §2.C, p. 178 の注意)。$K$ を 1 回重心細分すると 6 頂点の六角形になり、頂点を順に $w_0,w_1,w_2,w_0,w_1,w_2$ へ送る単体写像は周を 2 周する。満たす性質は「$f$ は連続写像である」、満たさない性質は「$f$ が $K$ のままで単体写像にホモトピックである」で、thm-sa-main で $r=0$ とは限らないことを示す。
$K$ を整数を頂点とする実数直線の三角形分割(頂点 $k\in\mathbb{Z}$、辺 $[k,k+1]$)とする。各点の近くには有限個の単体しかないので、$|K|$ の弱位相は通常の位相である。$L$ を前の例の三角形の周とし、$|L|=S^1$ とみて $f(x):=(\cos2\pi x^2,\sin2\pi x^2)$ とおく。$r\ge0$ を任意にとり、$\operatorname{sd}^rK$(辺の長さ $h:=2^{-r}$)の頂点 $a:=2^r$ とその次の頂点 $a+h$ を結ぶ辺を考える。開いた辺 $(a,a+h)$ の上で角度 $2\pi x^2$ は $2\pi(2ah+h^2)>4\pi$ だけ変わるので、$f((a,a+h))=S^1$ である。もし単体近似 $g$ があれば、$(a,a+h)\subset\operatorname{st}a$ から $S^1=f((a,a+h))\subset\operatorname{st}g(a)$ となるが、$\operatorname{st}g(a)$ はほかの 2 頂点を含まないので矛盾する。よってどの $r$ についても $\operatorname{sd}^rK$ から $L$ への $f$ の単体近似は存在しない。満たす性質は「$K$ は単体複体で $f$ は連続」、満たさない性質は「$K$ が有限」であり、thm-sa-main の段 2 の一様な $\delta$ がとれないことが原因である。
$K=L=\overline{[0,1]}$(線分とその端点)とし、$f(x):=0$($x<1/2$)、$f(x):=1$($x\ge1/2$)とする。$\operatorname{st}0=[0,1)$、$\operatorname{st}1=(0,1]$ である。どの $r$ についても、$\operatorname{sd}^rK$ のある頂点 $v$ で $1/2\in\operatorname{st}v$ となり(lem-sa-star の (ii))、$\operatorname{st}v$ は $1/2$ を含む $[0,1]$ の開集合なので $1/2$ より小さい点も含む。よって $f(\operatorname{st}v)=\{0,1\}$ で、これは $\operatorname{st}0$ にも $\operatorname{st}1$ にも含まれない。したがって単体近似は存在しない。満たさない性質は「$f$ が連続」で、証明では $f^{-1}(\operatorname{st}w)$ が開集合であること(開被覆の Lebesgue 数)に連続性を使った。
有限単体複体(またはそのレトラクト)$X$ の自己写像 $f$ の Lefschetz 数が $0$ でなければ $f$ は不動点をもつ(Hat02 Theorem 2C.3, p. 179)。証明では、$f$ が不動点をもたないと仮定し、$X$ の細分 $L$ とそのさらに細分 $K$ をとって、$f$ の単体近似 $g\colon K\to L$ で各単体 $\sigma$ について $g(\sigma)\cap\sigma=\emptyset$ となるものを作り、$g$ が誘導する胞体鎖複体の自己写像の跡がどの次数でも $0$ になることから Lefschetz 数が $0$ であることを導く(Hat02 pp. 180–181)。値域も細分すると、単体近似をもとの写像の近くにとれる(Hat02 p. 179)。Lefschetz不動点公式 の定理「Lefschetz の不動点定理」を参照。
CW 複体の間の任意の連続写像は胞体写像($n$ 骨格を $n$ 骨格へ写す写像)にホモトピックで、すでに胞体写像である部分複体の上ではホモトピーを動かさないようにとれる(胞体近似定理、Hat02 Theorem 4.8, p. 349)。単体近似定理はその単体複体版の先駆けで、cor-sa-spheres と同じ議論で $\pi_k(S^n)=0$($k< n$)が胞体近似からも従う(Hat02 Corollary 4.9, p. 349)。単体的集合については、重心細分 $\operatorname{sd}$ を使った単体近似の定理があり(Jar04 Theorem 4.7, p. 50)、Kan の $\operatorname{Ex}^\infty$ の理論の基礎になっている(重心細分 の節「単体的集合の重心細分」)。また単体近似は、単体ホモロジーが多面体の特異ホモロジーと一致すること(Hat02 Theorem 2.27, p. 128)と組み合わせて、単体写像による計算に帰着させる議論に使われる。
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