近似理論(approximation theory)とは、関数を多項式・三角多項式・有理関数のような扱いやすい関数の族で近似する方法と、その誤差を研究する解析学の分野である。近似できる関数の範囲(Weierstrass・Stone–Weierstrass の定理)、最良近似の存在と特徴づけ(Chebyshev の交代定理、直交射影)、誤差の減り方と関数の滑らかさの関係、補間や線形作用素による近似の作り方が主な問いである。閉区間上の正の線形作用素の列は、$1,x,x^2$ を一様に近似すればすべての連続関数を一様に近似し(Korovkin の定理)、補間の誤差は最良近似の誤差の $1+\Lambda_n$ 倍以下である(Lebesgue の不等式)。
近似理論(approximation theory)は、複雑な関数を、多項式・三角多項式・有理関数のような扱いやすい関数で近似する方法と、その誤差の大きさを研究する解析学の分野である。関数の値をコンピュータで計算するとき、微分方程式の解を数値で求めるとき、測ったデータを式で表すとき、実際に扱うのは有限個の係数で決まる関数であり、「どの関数族で、どれだけ正確に、どうやって近似できるか」が問題になる。
この記事では、まず近似理論の基本の言葉(近似の族と誤差 $E_n(f)$)を定義し、分野の主な問いと代表的な定理を記事とともに一覧にする。続いて、正の線形作用素の列が連続関数を一様に近似するための条件を与える Korovkin の定理 を完全に証明し、そこから Bernstein 多項式による Weierstrass の近似定理を導く。また、補間多項式の誤差を最良近似の誤差で抑える Lebesgue の不等式 を証明する。最後に、学ぶ順に記事を並べた道筋を示す。数の近似(有理数による実数の近似)は数論の Diophantus近似 が扱い、この記事の主題とは別である。
$a< b$ とし、$[a,b]$ 上の実数値連続関数全体を $C([a,b])$ と書き、一様ノルム $\|g\|_\infty:=\max_{a\le x\le b}|g(x)|$ を入れる。$\|g_n-g\|_\infty\to0$ は $g_n$ が $g$ に一様収束することと同じである。
もっとも基本の例は、$X=C([a,b])$、$V_n=\mathcal P_n$(次数 $n$ 以下の実数係数の多項式全体)の場合である。周期関数には三角多項式 $\sum_{|k|\le n}c_ke^{ikx}$ の族を、2 乗の積分で誤差を測る場合には内積空間のノルムを使う。$E_0(f)\ge E_1(f)\ge\cdots$ であり、$E_n(f)\to0$ が成り立つかどうかが最初の問題になる。
| 定理 | 主張の要点 | 記事 |
|---|---|---|
| Weierstrass の近似定理 | 閉区間上の連続関数は多項式で一様に近似できる | Weierstrassの近似定理 |
| Stone–Weierstrass の定理 | コンパクト空間上で点を分離し、どの点でも消えない実数値関数の代数は、実数値連続関数の空間で稠密 | Stone–Weierstrassの定理 |
| Runge の定理 | コンパクト集合 $K$ を含む開集合上の正則関数は、$\hat{\mathbb C}\setminus K$ の各連結成分と交わる集合に極をもつ有理関数で、$K$ 上一様に近似できる | Rungeの定理 |
| Chebyshev の交代定理 | $\mathcal P_n$ による最良一様近似は、誤差が絶対値の最大値を符号を交互に変えて $n+2$ 回とることで特徴づけられ、ただ 1 つ | 最良近似 |
| Chebyshev の最小最大定理 | 最高次の係数が $1$ の $n$ 次多項式($n\ge1$)の $[-1,1]$ での絶対値の最大値は $2^{1-n}$ 以上 | Chebyshev多項式 |
| 直交射影と最良近似 | 内積空間の有限次元部分空間への直交射影は最良近似 | 内積空間 |
| Korovkin の定理 | 正の線形作用素の列が $1,x,x^2$ を一様に近似すれば、すべての連続関数を一様に近似する | この記事 |
| Lebesgue の不等式 | 補間の誤差は、最良近似の誤差の $1+\Lambda_n$ 倍以下 | この記事 |
Bernstein 多項式、Fourier 級数の部分和の平均(Fejér 平均)、畳み込みによる平滑化など、近似を作る操作の多くは、関数 $f$ に関数 $Lf$ を対応させる線形写像で、$f\ge0$ なら $Lf\ge0$ という性質をもつ。この性質をもつ写像については、わずか 3 つの関数 $1,x,x^2$ で近似がうまくいくかを確かめるだけで、すべての連続関数の近似がうまくいく。
線形写像 $L\colon C([a,b])\to C([a,b])$ が、$[a,b]$ 上で $f\ge0$ を満たすすべての $f$ について $Lf\ge0$ を満たすとき、$L$ を正の線形作用素という。
$e_0(x):=1$、$e_1(x):=x$、$e_2(x):=x^2$ と書く。正の線形作用素 $L$ は単調である:$f\le g$ なら $g-f\ge0$ なので $Lg-Lf=L(g-f)\ge0$。とくに $-|f|\le f\le|f|$ から $|Lf|\le L|f|$ である。
$L_1,L_2,\ldots$ を $C([a,b])$ 上の正の線形作用素の列とする。$i=0,1,2$ について $\|L_ne_i-e_i\|_\infty\to0$($n\to\infty$)ならば、すべての $f\in C([a,b])$ について $\|L_nf-f\|_\infty\to0$ である。
$f\in C([a,b])$ と $\varepsilon>0$ をとり、$M:=\|f\|_\infty$、$c:=\max(|a|,|b|)$、$\eta_{n,i}:=\|L_ne_i-e_i\|_\infty$ とおく。$f$ は閉区間上で一様連続なので、$|t-s|< \delta$ なら $|f(t)-f(s)|< \varepsilon$ となる $\delta>0$ がある。
2 次式で上下から挟む。 すべての $s,t\in[a,b]$ について
$$
|f(t)-f(s)|\le\varepsilon+\frac{2M}{\delta^2}(t-s)^2
$$
である。実際、$|t-s|< \delta$ なら左辺は $\varepsilon$ 未満であり、$|t-s|\ge\delta$ なら $(t-s)^2/\delta^2\ge1$ なので左辺 $\le2M$ は右辺以下である。
$s\in[a,b]$ を固定し、$t$ の関数 $g_s(t):=(t-s)^2=e_2(t)-2se_1(t)+s^2e_0(t)$ を考える。上の不等式は、$t$ の関数として
$$
-\varepsilon e_0-\frac{2M}{\delta^2}g_s\ \le\ f-f(s)e_0\ \le\ \varepsilon e_0+\frac{2M}{\delta^2}g_s
$$
と書ける。$L_n$ は線形で単調なので、$L_n$ を施して点 $s$ で値をとると
$$
\bigl|(L_nf)(s)-f(s)(L_ne_0)(s)\bigr|\le\varepsilon(L_ne_0)(s)+\frac{2M}{\delta^2}(L_ng_s)(s)
$$
である。
右辺を評価する。 $s^2-2s\cdot s+s^2=0$ を使うと
$$
(L_ng_s)(s)=\bigl[(L_ne_2)(s)-s^2\bigr]-2s\bigl[(L_ne_1)(s)-s\bigr]+s^2\bigl[(L_ne_0)(s)-1\bigr]\le\eta_{n,2}+2c\,\eta_{n,1}+c^2\eta_{n,0}
$$
であり、$(L_ne_0)(s)\le1+\eta_{n,0}$ である。よって
$$
|(L_nf)(s)-f(s)|\le\bigl|(L_nf)(s)-f(s)(L_ne_0)(s)\bigr|+|f(s)|\,\bigl|(L_ne_0)(s)-1\bigr|\le\varepsilon(1+\eta_{n,0})+\frac{2M}{\delta^2}\bigl(\eta_{n,2}+2c\,\eta_{n,1}+c^2\eta_{n,0}\bigr)+M\eta_{n,0}.
$$
右辺は $s$ によらず、$n\to\infty$ で $\varepsilon$ に収束する。よって十分大きいすべての $n$ で $\|L_nf-f\|_\infty< 2\varepsilon$ であり、$\varepsilon$ は任意なので $\|L_nf-f\|_\infty\to0$ である。$\square$
$f\in C([0,1])$ の Bernstein 多項式
$$
(B_nf)(x):=\sum_{k=0}^nf\Bigl(\frac kn\Bigr)\binom nkx^k(1-x)^{n-k}
$$
は、$n\to\infty$ で $f$ に一様収束する。
$B_n$ は線形で、$[0,1]$ 上で係数 $\binom nkx^k(1-x)^{n-k}$ は $0$ 以上なので、$f\ge0$ なら $B_nf\ge0$ である。Weierstrassの近似定理 の補題「Bernstein 多項式の積率」により
$$
\sum_kb_{n,k}=1,\qquad\sum_kk\,b_{n,k}=nx,\qquad\sum_k(k-nx)^2b_{n,k}=nx(1-x)
$$
($b_{n,k}(x):=\binom nkx^k(1-x)^{n-k}$)である。3 つ目を展開して前の 2 つを使うと $\sum_kk^2b_{n,k}=nx(1-x)+n^2x^2$ なので、
$$
B_ne_0=e_0,\qquad B_ne_1=e_1,\qquad (B_ne_2)(x)=x^2+\frac{x(1-x)}n
$$
である。$0\le x(1-x)\le\frac14$ より $\|B_ne_2-e_2\|_\infty\le\frac1{4n}\to0$ なので、thm-at-korovkin により $B_nf\to f$(一様)である。$\square$
1 次式の変数変換で $[0,1]$ を $[a,b]$ に移せば、閉区間上の連続関数が多項式で一様に近似できること(Weierstrassの近似定理)が従う。Weierstrassの近似定理 の記事では、同じ積率の計算から直接 Bernstein 多項式の一様収束を示している。Korovkin の定理は、その議論のうち「$f$ を 2 次式で挟む」部分を、正の線形作用素一般に通用する形に取り出したものである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $L_n$ が正 | $[0,1]$ 上で $L_nf:=f+\varphi(f)e_0$($n$ によらない)、$\varphi(f):=f(1)-3f(\frac23)+3f(\frac13)-f(0)$ | $\varphi$ は次数 $2$ 以下の多項式で $0$ なので $L_ne_i=e_i$($i=0,1,2$)だが、$\varphi(e_3)=\frac29$($e_3(x):=x^3$)で $L_ne_3=e_3+\frac29$ は $e_3$ に近づかない |
| 試す関数に $x^2$ を含める | $[0,1]$ 上で $(L_nf)(x):=(1-x)f(0)+xf(1)$($n$ によらない) | $L_n$ は正で $L_ne_0=e_0$、$L_ne_1=e_1$ だが、$L_ne_2=e_1$ で、$f=e_2$ について $\|L_nf-f\|_\infty=\frac14$ のまま |
1 行目の $L_n$ は線形だが正でない($f\ge0$ で $f(\frac23)$ だけが大きい関数では $(L_nf)(0)< 0$ になる)。2 行目は両端を結ぶ線分による近似で、1 次式は正確に再現するが、2 次式の曲がりを捉えない。
最良一様近似は一般に求めにくいので、実際には補間多項式で代用することが多い。補間点を決めたとき、補間がどれだけ最良近似に劣るかは、補間点だけで決まる 1 つの数で測れる。
$a\le x_0< x_1< \cdots< x_n\le b$ を補間点とし、
$$
\ell_k(x):=\prod_{j\ne k}\frac{x-x_j}{x_k-x_j}\qquad(k=0,1,\dots,n)
$$
とおく。$f\in C([a,b])$ に対し $I_nf:=\sum_{k=0}^nf(x_k)\ell_k$ は、$x_0,\dots,x_n$ で $f$ と同じ値をとる次数 $n$ 以下のただ 1 つの多項式である(Lagrange補間 の定理「Lagrange 補間」)。
補間点 $x_0,\dots,x_n$ の Lebesgue 定数を $\Lambda_n:=\max_{a\le x\le b}\sum_{k=0}^n|\ell_k(x)|$ で定める。
すべての $f\in C([a,b])$ について
$$
\|f-I_nf\|_\infty\le(1+\Lambda_n)\,E_n(f)
$$
である。ここで $E_n(f)$ は $\mathcal P_n$ による最良一様近似の誤差である。
$I_n$ は線形である。$p\in\mathcal P_n$ なら $p$ 自身が $x_0,\dots,x_n$ で $p$ と同じ値をとる次数 $n$ 以下の多項式なので、一意性から $I_np=p$ である。また任意の $g\in C([a,b])$ と $x\in[a,b]$ について
$$
|(I_ng)(x)|\le\sum_k|g(x_k)|\,|\ell_k(x)|\le\|g\|_\infty\sum_k|\ell_k(x)|\le\Lambda_n\|g\|_\infty
$$
なので $\|I_ng\|_\infty\le\Lambda_n\|g\|_\infty$ である。$p^*$ を $f$ の最良一様近似とすると(存在は 最良近似 の命題「有限次元の部分空間での存在」)、$I_np^*=p^*$ から
$$
f-I_nf=(f-p^*)-I_n(f-p^*)
$$
であり、$\|f-I_nf\|_\infty\le\|f-p^*\|_\infty+\Lambda_n\|f-p^*\|_\infty=(1+\Lambda_n)E_n(f)$ である。$\square$
$[0,1]$ で $n=1$、$x_0=0$、$x_1=1$ とすると $\ell_0=1-x$、$\ell_1=x$ で、$|\ell_0|+|\ell_1|=1$ なので $\Lambda_1=1$ である。よって両端を結ぶ線分による近似の誤差は $2E_1(f)$ 以下である。$f=x^2$ なら $E_1(f)=\frac18$(最良近似 の例「2 次関数の最良な 1 次式」)、$\|f-I_1f\|_\infty=\max_{[0,1]}(x-x^2)=\frac14=2E_1(f)$ で、この場合は等号が成り立つ。
Lebesgue 定数は補間点の選び方で大きく変わる。等間隔の点では次数を上げると補間の誤差が大きくなる関数がある(Lagrange補間 の Runge の現象の段落)。一方、$[-1,1]$ で Chebyshev 多項式 $T_{n+1}$ の根を補間点にすると、$f\in C([-1,1])$ について $\|f-I_nf\|_\infty\le\bigl(\frac2\pi\log(n+1)+2\bigr)E_n(f)$($\log$ は自然対数)であることが知られており(VKG14 の式 (6.21)、p. 528。この記事では証明しない)、補間は最良近似にほぼ匹敵する。
近似理論は、次の順に記事をたどると学べる。
一様ノルムでの多項式近似と、そこに現れる Chebyshev 多項式は、P. L. Chebyshev(1821–1894)の名を負っている(VKG14 第 6 章の Historical remarks、p. 598)。閉区間上の連続関数が多項式で近似できることは Weierstrass が示し、のちに Bernstein が確率論の考え方にもとづく多項式で証明し直した。正の線形作用素の収束を 3 つの関数で判定する定理は Korovkin の名で呼ばれる。
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