p進Hodge理論

同義語:p進ホッジ理論p-adic Hodge theory

概要

p進Hodge理論(p-adic Hodge theory)とは、$\mathbb{Q}_p$ の有限次拡大体 $K$ 上の多様体の $p$ 進エタールコホモロジー(絶対 Galois 群 $G_K$ の $p$ 進表現)と de Rham コホモロジーなどを比べる理論である。Fontaine は $G_K$ が作用する周期環 $B$ を使い、$(B\otimes_{\mathbb{Q}_p}V)^{G_K}$ の次元が $\dim V$ に等しい表現を $B$ 許容的と呼んで、Hodge–Tate・de Rham・半安定・クリスタリン表現の階層を作った。Hodge–Tate 分解は複素 Hodge 分解の $p$ 進類似であり、比較定理により還元の型を Galois 表現から読み取れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: p進数, 局所体, 絶対Galois群, Tate捻り

複素数体上の滑らかな射影多様体 $X$ では、特異コホモロジーと de Rham コホモロジーが微分形式の積分によって比べられ(de Rhamの定理)、さらに $H^n(X,\mathbb{C})\cong\bigoplus_{i+j=n}H^{j}(X,\Omega^i)$ という Hodge分解 が成り立つ。$p$ 進 Hodge 理論($p$-adic Hodge theory)は、これらの $p$ 進数での類似を扱う理論である。$\mathbb{Q}_p$ の有限次拡大体 $K$ 上の固有で滑らかな多様体 $X$ には、2 種類のコホモロジーがある。1 つは $p$ 進エタールコホモロジー $H^i_{\mathrm{et}}(X_{\bar K},\mathbb{Q}_p)$ で、有限次元 $\mathbb{Q}_p$ ベクトル空間に $K$ の絶対 Galois 群 $G_K$ が連続に作用するもの($p$ 進表現)である。もう 1 つは de Rham コホモロジー $H^i_{\mathrm{dR}}(X/K)$ で、フィルトレーション(Hodge フィルトレーション)をもつ $K$ ベクトル空間である。$p$ 進 Hodge 理論の中心にある比較定理は、Fontaine が構成した周期環 $B$ を係数に使うと両者が同じ情報をもつことを述べる。
この理論のもう 1 つの顔は、$G_K$ の $p$ 進表現の分類である。$\ell\ne p$ の $\ell$ 進表現と違い、$G_K$ の $p$ 進表現は非常に多く、そのうち「幾何から来るもの」を取り出す条件が必要になる。Fontaine は周期環 $B$ ごとに「$B$ 許容的」という条件を定め、Hodge–Tate 表現・de Rham 表現・半安定表現・クリスタリン表現という階層を作った。この記事では、周期環の形式論と Hodge–Tate 表現を定義から述べて証明し、その上に立つ主定理の地図を示す。

設定と記号

以下、$p$ を素数、$K$ を $\mathbb{Q}_p$ の有限次拡大体(標数 $0$ の局所体)とする。$\bar K$ を $K$ の代数閉包、$G_K:=\operatorname{Gal}(\bar K/K)$ を $K$ の絶対Galois群とし、Krull 位相で副有限群とみる。$K$ の $p$ 進絶対値は $\bar K$ に一意に延び($\bar K$ の各有限次部分拡大への付値の延長の一意性。局所体 の定理「標数0の局所体と有限次拡大」の 1)、一意性から $G_K$ はこの絶対値を保つ。$\bar K$ の完備化を $\mathbb{C}_p$ と書く($\bar K=\bar{\mathbb{Q}}_p$ なので $K$ によらない)。$G_K$ の作用は連続性によって $\mathbb{C}_p$ に延びる。

$p$ 進表現

$G_K$ の $p$ 進表現($p$-adic representation)とは、有限次元 $\mathbb{Q}_p$ ベクトル空間 $V$ と、連続な群準同型 $\rho\colon G_K\to\operatorname{GL}(V)$ の組である。ここで $\operatorname{GL}(V)$ には、基底を選んで $\operatorname{GL}_d(\mathbb{Q}_p)\subset\mathbb{Q}_p^{d^2}$ とみたときの $p$ 進位相を入れる(基底の選び方によらない)。$g\in G_K$、$v\in V$ について $\rho(g)v$ を $gv$ とも書く。

$p$ 進表現を調べるときの基本の道具は、$G_K$ が作用する環 $B$ と $V$ のテンソル積 $B\otimes_{\mathbb{Q}_p}V$(作用は $g(b\otimes v)=g(b)\otimes gv$)をとり、その $G_K$ 不変部分を見ることである。これが後で述べる周期環の形式論である。

円分指標と Tate 捻り

$\mu_{p^n}\subset\bar K$ を $1$ の $p^n$ 乗根の群とする。$g\in G_K$ は $\mu_{p^n}$ に $\zeta\mapsto\zeta^{a_n}$($a_n\in(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times$)で作用し、$a_n$ は $n$ について両立するので、$p$ 進整数 $\chi(g):=\varprojlim a_n\in\mathbb{Z}_p^\times$ が定まる。$\chi\colon G_K\to\mathbb{Z}_p^\times$ を $p$ 進円分指標という(Tate捻り の定義「円分指標」で $\ell=p$ としたもの。$K$ の標数は $0$ なので $p$ と異なる)。$\chi$ は連続である。実際、$\chi(g)\equiv1\pmod{p^n}$ となる $g$ の全体は $\operatorname{Gal}(\bar K/K(\mu_{p^n}))$ で、これは開部分群である。
$n\in\mathbb{Z}$ について、1 次元の $\mathbb{Q}_p$ ベクトル空間 $\mathbb{Q}_p e_n$ に $g e_n:=\chi(g)^ne_n$ で $G_K$ を作用させたものを $\mathbb{Q}_p(n)$ と書き、Tate 捻りという(Tate捻り の $\mathbb{Z}_p(n)$ に $\mathbb{Q}_p$ を掛けたもの)。$G_K$ が作用する $\mathbb{Q}_p$ 加群 $M$ について $M(n):=M\otimes_{\mathbb{Q}_p}\mathbb{Q}_p(n)$ とおく。たとえば $\mathbb{C}_p(n)$ の元 $x\otimes e_n$ には $g(x\otimes e_n)=\chi(g)^ng(x)\otimes e_n$ で作用する。したがって
$$ \mathbb{C}_p(n)^{G_K}\cong\{x\in\mathbb{C}_p\mid g(x)=\chi(g)^{-n}x\ \ (g\in G_K)\} $$
である。

$p$ 進表現の例
  1. Tate 捻り $\mathbb{Q}_p(n)$。とくに $\mathbb{Q}_p(0)=\mathbb{Q}_p$ は自明な表現である。
  2. 像が有限の表現。$K$ の有限次 Galois 拡大 $L$ について、$\operatorname{Gal}(L/K)$ の $\mathbb{Q}_p$ 上の有限次元表現を $G_K\to\operatorname{Gal}(L/K)$ と合成したもの。核 $\operatorname{Gal}(\bar K/L)$ は開なので連続である。
  3. 楕円曲線の Tate 加群。$K$ 上の楕円曲線 $E$ について、$V_pE:=\mathbb{Q}_p\otimes_{\mathbb{Z}_p}T_pE$ は 2 次元の $p$ 進表現である(Tate加群 の例「楕円曲線の等分点」)。
  4. エタールコホモロジー。$K$ 上の固有で滑らかな多様体 $X$ について、$H^i_{\mathrm{et}}(X_{\bar K},\mathbb{Q}_p)$ は $p$ 進表現である(エタールコホモロジー)。1 と 3 も、この形の表現の双対や Tate 捻りとして幾何から得られる(Ber04 I.2.2。たとえば $V_pE\cong H^1_{\mathrm{et}}(E_{\bar K},\mathbb{Q}_p)(1)$ である。Tate加群 の命題「1次のℓ進コホモロジーとPicard群」の後の段落で $X=E_{\bar K}$ とする)。

円分指標の像

$\mathbb{Q}_p(n)$($n\ne0$)が像の有限な表現でないことは、円分指標の像が大きいことから分かる。これは $p$ 進 Hodge 理論の出発点となる計算である。

$\mathbb{Q}_p$ の円分指標の全射性

$n\ge1$ とし、$N:=p^{n-1}(p-1)$ とおく。

  1. 円分多項式 $\Phi_{p^n}(X):=\sum_{j=0}^{p-1}X^{jp^{n-1}}$ は $\mathbb{Q}_p$ 上既約である。したがって $[\mathbb{Q}_p(\mu_{p^n}):\mathbb{Q}_p]=N$ であり、$\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}_p(\mu_{p^n})/\mathbb{Q}_p)\to(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times$ は同型である。
  2. $p$ 進円分指標 $\chi\colon G_{\mathbb{Q}_p}\to\mathbb{Z}_p^\times$ は全射である。
  3. $K$ が $\mathbb{Q}_p$ の有限次拡大なら、$\chi(G_K)$ は $\mathbb{Z}_p^\times$ の指数 $[K:\mathbb{Q}_p]$ 以下の部分群であり、無限群である。さらに $m\ne0$ なら $\chi^m(G_K)$ も無限群である。

1.$(X^{p^{n-1}}-1)\Phi_{p^n}(X)=X^{p^n}-1$ が $\mathbb{Z}[X]$ で成り立つ。$\mathbb{F}_p[X]$ では $X^{p^k}-1=(X-1)^{p^k}$ なので、法 $p$ で還元すると $(X-1)^{p^{n-1}}\,\overline{\Phi_{p^n}}=(X-1)^{p^n}$ となり、$\mathbb{F}_p[X]$ は整域だから $\overline{\Phi_{p^n}}=(X-1)^N$ である。$f(Y):=\Phi_{p^n}(Y+1)\in\mathbb{Z}[Y]$ とおくと、$f$ はモニックで次数 $N$、$\bar f=Y^N$、定数項は $f(0)=\Phi_{p^n}(1)=p$ である。
$f$ が $\mathbb{Q}_p$ 上既約であることを示す。$f=gh$($g,h\in\mathbb{Q}_p[Y]$ はモニックで次数が正)と仮定する。$g,h$ の根は $f$ の根なので $\mathbb{Z}_p$ 上整であり、$g,h$ の係数は根の基本対称式だから $\mathbb{Z}_p$ 上整な $\mathbb{Q}_p$ の元である。$\mathbb{Z}_p$ は離散付値環で整閉なので $g,h\in\mathbb{Z}_p[Y]$ である。法 $p$ で還元すると $\bar g\bar h=Y^N$ で、$\mathbb{F}_p[Y]$ は一意分解整域だから $\bar g=Y^a$、$\bar h=Y^b$($a,b\ge1$)である。よって $g(0),h(0)\in p\mathbb{Z}_p$ で $f(0)=g(0)h(0)\in p^2\mathbb{Z}_p$ となり、$f(0)=p$ に反する。
$X^{p^n}-1$ は標数 $0$ で重根をもたないので、$\Phi_{p^n}$ の根はちょうど原始 $p^n$ 乗根である。原始 $p^n$ 乗根 $\zeta$ を 1 つとると $\mathbb{Q}_p(\mu_{p^n})=\mathbb{Q}_p(\zeta)$ で、その次数は $\zeta$ の最小多項式 $\Phi_{p^n}$ の次数 $N$ である。これは $X^{p^n}-1$ の分解体なので Galois 拡大で、Galois 群の元 $\sigma$ は $\sigma(\zeta)=\zeta^a$ となる $a\in(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times$ で決まる。こうして得られる単射 $\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}_p(\mu_{p^n})/\mathbb{Q}_p)\to(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times$ の両辺の位数はともに $N$ なので全単射である。
2.制限 $G_{\mathbb{Q}_p}\to\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}_p(\mu_{p^n})/\mathbb{Q}_p)$ は全射である(絶対Galois群 の定理「有限次分離拡大と開部分群の対応」 の 3)。1 と合わせると、$\chi$ と $\mathbb{Z}_p^\times\to(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times$ の合成は、すべての $n$ で全射である。したがって $\chi(G_{\mathbb{Q}_p})$ は $\mathbb{Z}_p^\times$ で稠密である。一方 $G_{\mathbb{Q}_p}$ はコンパクトで $\chi$ は連続なので、$\chi(G_{\mathbb{Q}_p})$ はコンパクト、したがって閉集合である。よって $\chi(G_{\mathbb{Q}_p})=\mathbb{Z}_p^\times$ である。
3.$\bar K=\bar{\mathbb{Q}}_p$ なので $G_K$ は $G_{\mathbb{Q}_p}$ の閉部分群で、その指数は $[K:\mathbb{Q}_p]$ である(絶対Galois群 の定理「有限次分離拡大と開部分群の対応」 の 1 を $F=\mathbb{Q}_p$、$E=K$ で使う)。$G_K$ 上の $p$ 進円分指標は $G_{\mathbb{Q}_p}$ 上のものの制限である。群準同型は部分群の指数を増やさないので、$\chi(G_K)$ の $\chi(G_{\mathbb{Q}_p})=\mathbb{Z}_p^\times$ での指数は $[K:\mathbb{Q}_p]$ 以下である。$\mathbb{Z}_p^\times$ は無限群なので $\chi(G_K)$ も無限群である。$m\ne0$ で $\chi^m(G_K)$ が位数 $r$ の有限群なら、$\chi(G_K)$ のすべての元 $x$ は $x^{mr}=1$ をみたし、体 $\mathbb{Q}_p$ の中でこの方程式の根は $\lvert mr\rvert$ 個以下なので、$\chi(G_K)$ が有限になって矛盾する。$\square$

$p=3$、$n=2$ では $\Phi_9(Y+1)=Y^6+6Y^5+15Y^4+21Y^3+18Y^2+9Y+3$ であり、最高次以外の係数がすべて $3$ で割り切れ、定数項 $3$ は $9$ で割り切れない(Eisenstein 多項式)。証明の 1 はこの形の多項式が $\mathbb{Q}_p$ 上既約であることの証明である。
この定理の 3 から、$m\ne0$ のとき $\mathbb{Q}_p(m)$ は像が有限の表現ではない。$p$ 進表現には「像の小さい表現」の枠に収まらないものが自然に現れ、それが周期環を使う理由の 1 つになる。

周期環の形式論

Fontaine の方法では、$G_K$ が作用する環 $B$ を 1 つ固定し、$p$ 進表現 $V$ に $B$ 上の「不変部分」$D_B(V)$ を対応させる。$B$ に次の条件を課すと、$D_B(V)$ の次元が $V$ の次元を超えないことが一般に示せる。以下この節では、$G$ を群、$F$ を体とする(応用では $G=G_K$、$F=\mathbb{Q}_p$)。

正則な周期環

$B$ を可換な $F$ 代数で整域であるものとし、$G$ が $B$ に $F$ 代数の自己同型として作用しているとする。$C:=\operatorname{Frac}B$ とし、$G$ の作用を $C$ に延ばす。次の 2 条件をみたすとき、$B$ は $(F,G)$ 正則($(F,G)$-regular)であるという。

  1. $B^G=C^G$。
  2. $b\in B$、$b\ne0$ で、直線 $Fb$ が $G$ で安定(すべての $g\in G$ で $g(b)\in Fb$)なら、$b$ は $B$ の単元である。
    $E:=B^G$ とおく。$F$ 上の有限次元表現 $V$($F$ ベクトル空間 $V$ に $G$ が $F$ 線形に作用したもの)について、$G$ を $B\otimes_FV$ に $g(b\otimes v)=g(b)\otimes gv$ で作用させ、
    $$ D_B(V):=(B\otimes_FV)^G,\qquad \alpha_V\colon B\otimes_ED_B(V)\to B\otimes_FV,\quad b\otimes x\mapsto bx $$
    と定める。$D_B(V)$ は $E$ ベクトル空間である。

条件 2 から $E$ は体である。実際 $b\in E$、$b\ne0$ なら $Fb$ は $G$ で安定なので $b\in B^\times$ であり、$g(b^{-1})=g(b)^{-1}=b^{-1}$ から $b^{-1}\in E$ である。条件 1 は、分数体に移っても不変な元が増えないことを要求している。

Fontaine の形式論の基本定理

$B$ を $(F,G)$ 正則、$E=B^G$、$V$ を $F$ 上の $d$ 次元表現とする。

  1. $\alpha_V$ は単射である。
  2. $\dim_ED_B(V)\le d$ である。
  3. $\dim_ED_B(V)=d$ であることと、$\alpha_V$ が同型であることは同値である。

1.$C=\operatorname{Frac}B$ とする。$V$ は $F$ 上自由なので $B\otimes_FV\subset C\otimes_FV$ であり、$D:=D_B(V)$ は $E$ 上自由なので $B\otimes_ED\subset C\otimes_ED$ である。したがって $\alpha'\colon C\otimes_ED\to C\otimes_FV$、$c\otimes x\mapsto cx$ が単射であることを示せばよい。$G$ を $C\otimes_ED$ に $g(c\otimes x)=g(c)\otimes x$ で作用させると、$x\in D$ は $G$ で固定されるので $g(cx)=g(c)x$ となり、$\alpha'$ は $G$ の作用と可換である。
$\alpha'$ の核が $0$ でないと仮定し、核の $0$ でない元のうち、$E$ 上 1 次独立な $x_1,\dots,x_r\in D$ と $c_i\in C$ を使って $\sum_{i=1}^rc_i\otimes x_i$ と書けるもので $r$ が最小のものをとる。$r$ の最小性から $c_i\ne0$ であり、$C$ は体なので $c_1^{-1}$ を掛けて $c_1=1$ としてよい。$g\in G$ について、核は $G$ で安定なので
$$ g\Bigl(\sum_ic_i\otimes x_i\Bigr)-\sum_ic_i\otimes x_i=\sum_{i=2}^r\bigl(g(c_i)-c_i\bigr)\otimes x_i $$
も核に入る。項の数が $r$ より少ないので、最小性からこれは $0$ であり、$x_i$ の 1 次独立性から $g(c_i)=c_i$(すべての $g$ と $i$)となる。よって $c_i\in C^G=B^G=E$(条件 1)である。すると $\sum_ic_i\otimes x_i=1\otimes\sum_ic_ix_i$ で、その $\alpha'$ による像は $\sum_ic_ix_i\in D\subset C\otimes_FV$ である。$x_i$ は $E$ 上 1 次独立で $c_1=1$ なので $\sum_ic_ix_i\ne0$ となり、核に入ることに反する。
2.1 の $\alpha'$ は $C$ ベクトル空間の単射なので、$\dim_ED=\dim_C(C\otimes_ED)\le\dim_C(C\otimes_FV)=d$ である。
3.$\alpha_V$ が同型なら、$B\otimes_ED\cong B^{\dim_ED}$ と $B\otimes_FV\cong B^d$ が同型な自由 $B$ 加群となる。可換環上の自由加群の階数は一意なので $\dim_ED=d$ である。
逆に $\dim_ED=d$ とし、$D$ の $E$ 基底 $e_1,\dots,e_d$ と $V$ の $F$ 基底 $v_1,\dots,v_d$ をとる。$e_j=\sum_ib_{ij}v_i$($b_{ij}\in B$)と書き、$M:=(b_{ij})$ とおく。$M$ は基底 $1\otimes e_j$ と $1\otimes v_i$ に関する $\alpha_V$ の行列なので、$\alpha_V$ が同型であることは $\det M\in B^\times$ と同値である。1 の証明の $\alpha'$ は $d$ 次元 $C$ ベクトル空間の間の単射なので同型であり、その行列も $M$ だから $\det M\ne0$ である。
$g\in G$ について、$V$ への作用の行列を $R(g)\in\operatorname{GL}_d(F)$($gv_i=\sum_kR(g)_{ki}v_k$)とする。$e_j$ は $G$ で固定されるので
$$ \sum_kb_{kj}v_k=e_j=g(e_j)=\sum_ig(b_{ij})\,gv_i=\sum_k\Bigl(\sum_iR(g)_{ki}\,g(b_{ij})\Bigr)v_k, $$
すなわち $M=R(g)\,g(M)$ である。行列式をとると $g(\det M)=\det R(g)^{-1}\det M$ で、$\det R(g)^{-1}\in F^\times$ だから直線 $F\det M$ は $G$ で安定である。条件 2 により $\det M\in B^\times$ となり、$\alpha_V$ は同型である。$\square$

$B$ 許容的な表現

$B$ を $(F,G)$ 正則とする。$F$ 上の有限次元表現 $V$ が $B$ 許容的($B$-admissible)であるとは、$\dim_{B^G}D_B(V)=\dim_FV$、すなわち(thm-pht-admissibility により)$\alpha_V$ が同型であることをいう。このとき $B\otimes_{B^G}D_B(V)\cong B\otimes_FV$ の 2 組の基底の間の行列の成分を $V$ の周期という。

$\alpha_V$ が同型であることは、$B\otimes_FV$ が $B[G]$ 加群として $B^d$(自明な作用の $B$ の直和)に同型であることとも同値である。実際、同型なら $D_B(V)$ の $E$ 基底が $G$ 不変な $B$ 基底を与え、逆に $G$ 不変な $B$ 基底があれば、それは $D_B(V)$ に入り $E$ 上 1 次独立なので次元が $d$ 以上となる(Ber04 I.2.3 の言い換え)。
$$ \xymatrix{ B\otimes_{E}D_B(V) \ar[r]^-{\alpha_V} & B\otimes_{F}V \\ D_B(V) \ar@{^{(}->}[u] \ar@{^{(}->}[ur] & } $$
図式の斜めの矢印は包含 $D_B(V)=(B\otimes_FV)^G\subset B\otimes_FV$、縦の矢印は $x\mapsto1\otimes x$ であり、$\alpha_V(1\otimes x)=x$ なので図式は可換である。$V$ が $B$ 許容的とは、$V$ の情報が不変部分 $D_B(V)$ から $B$ の係数で完全に復元できるということである。

最初の例:$\bar K$ を周期環にする

$B=\bar K$(位相は考えない)、$G=G_K$、$F=\mathbb{Q}_p$ とする。$\bar K$ は体なので条件 2 は自動的にみたされ、$C=B$ なので条件 1 も成り立つ。$E=\bar K^{G_K}=K$ である(絶対Galois群 の定理「有限次分離拡大と開部分群の対応」 の 1 で $E=F=K$ とする)。

$\bar K$ 許容的な表現

$G_K$ の $p$ 進表現 $\rho\colon G_K\to\operatorname{GL}(V)$ が $\bar K$ 許容的であるための必要十分条件は、$\rho(G_K)$ が有限群であることである。

要点:像が有限なら、核の固定体 $L$ への Galois 降下で $D_{\bar K}(V)$ の次元が $d$ になる。逆に許容的なら、$D_{\bar K}(V)$ の基底と $V$ の基底をつなぐ可逆行列の成分を含む有限次拡大 $L$ について、$\operatorname{Gal}(\bar K/L)$ が $V$ に自明に作用する。

詳しい証明を開く

$d:=\dim V$ とし、$V$ の基底 $v_1,\dots,v_d$ を固定する。

(有限 ⇒ 許容的)$H:=\ker\rho$ は連続写像による閉集合 $\{1\}$ の逆像なので閉部分群であり、指数が有限なので、補集合($H$ と異なる有限個の剰余類の和)も閉で、$H$ は開部分群である。したがって固定体 $L:=\bar K^H$ は $K$ の有限次拡大で $H=\operatorname{Gal}(\bar K/L)$、さらに $H$ は正規なので $L/K$ は Galois 拡大である(絶対Galois群 の定理「有限次分離拡大と開部分群の対応」の 2 と 3)。$H$ は $V$ に自明に作用するので、$\sum_ib_i\otimes v_i\in\bar K\otimes V$ が $H$ 不変であることは各 $b_i$ が $H$ 不変、すなわち $b_i\in L$ であることと同値であり、$(\bar K\otimes V)^H=L\otimes_{\mathbb{Q}_p}V$ である。したがって $$ D_{\bar K}(V)=\bigl((\bar K\otimes V)^H\bigr)^{G_K/H}=W^{\operatorname{Gal}(L/K)},\qquad W:=L\otimes_{\mathbb{Q}_p}V $$ である。$W$ は $d$ 次元 $L$ ベクトル空間で、$\operatorname{Gal}(L/K)$ は $W$ に半線形に作用する($\sigma(\ell w)=\sigma(\ell)\sigma(w)$)。Galois 降下により $W^{\operatorname{Gal}(L/K)}\otimes_KL\to W$ は同型である(Poo17 Lemma 1.3.10)。よって $\dim_KD_{\bar K}(V)=\dim_LW=d$ である。

(許容的 ⇒ 有限)$D:=D_{\bar K}(V)$ の $K$ 基底 $e_1,\dots,e_d$ をとり、$e_j=\sum_ib_{ij}v_i$($b_{ij}\in\bar K$)と書く。thm-pht-admissibility の 3 の証明と同じく、$\alpha_V$ が同型なので $M:=(b_{ij})$ は $\bar K$ 上可逆である。有限個の $b_{ij}$ をすべて含む $K$ の有限次 Galois 拡大 $L$ をとる。$g\in\operatorname{Gal}(\bar K/L)$ は $b_{ij}$ を動かさないので、同じ計算で $M=R(g)\,g(M)=R(g)M$ となり、$R(g)=1$ である。よって $\ker\rho\supset\operatorname{Gal}(\bar K/L)$ で、後者は指数 $[L:K]$ の部分群だから $\rho(G_K)$ は有限である。$\square$

thm-pht-cyclotomic-surjective と合わせると、$\mathbb{Q}_p(m)$($m\ne0$)は $\bar K$ 許容的でない。$\bar K$ は周期環として小さすぎ、興味のある表現の周期を含まない。そこで $\bar K$ を完備化した $\mathbb{C}_p$、さらに $t$ という「$2\pi i$ の $p$ 進類似」を添加した環へと進む。

Hodge–Tate 表現

Tate の定理

$\mathbb{C}_p$ の $G_K$ 作用について、次の 2 つの事実が基本である。この記事では証明しない。

Ax–Sen–Tate の定理と Tate の定理
  1. (Ax–Sen–Tate)$\mathbb{C}_p^{G_K}=K$ である。
  2. (Tate)$G_K$ の連続な指標 $\psi\colon G_K\to\mathbb{Z}_p^\times$ が $\ker\chi$ 上で自明で、かつ $\psi(G_K)$ が無限群なら、$\{x\in\mathbb{C}_p\mid g(x)=\psi(g)x\ (g\in G_K)\}=0$ である。とくに $m\ne0$ なら $\mathbb{C}_p(m)^{G_K}=0$ である。

1 と 2 の前半は Ber04 II.1.1 にあり、2 はそこで Tate の一般化されたトレース写像を使った証明の筋も述べられている(前半の $\psi$ が有限商を経由しないという条件は、像が無限であることから従う)。2 の「とくに」は、$\mathbb{C}_p(m)^{G_K}$ が $\psi=\chi^{-m}$ についての集合であること(「設定と記号」の式)と、thm-pht-cyclotomic-surjective の 3 により $\chi^{-m}(G_K)$ が無限群であることから従う。

2 つの事実の意味

1 から、$\mathbb{C}_p$ は $(\mathbb{Q}_p,G_K)$ 正則(体なので条件 2 は自動的)で、$\mathbb{C}_p^{G_K}=K$ である。2 は、$\mathbb{C}_p$ の中には $\mathbb{Q}_p(m)$($m\ne0$)の周期がないことを意味する。複素数では $2\pi i$ が「円分指標の周期」にあたるが、$\mathbb{C}_p$ には $2\pi i$ の類似物がない。

周期環 $B_{\mathrm{HT}}$

Hodge–Tate 周期環

変数 $t$ についての Laurent 多項式環 $B_{\mathrm{HT}}:=\mathbb{C}_p[t,t^{-1}]$ に、$G_K$ を
$$ g\Bigl(\sum_na_nt^n\Bigr):=\sum_ng(a_n)\chi(g)^nt^n $$
で作用させる。この作用は $\mathbb{Q}_p$ 代数の自己同型による作用であり、$B_{\mathrm{HT}}$ の $n$ 次の部分 $\mathbb{C}_pt^n$ は $G_K$ の作用を込めて $\mathbb{C}_p(n)$ と同一視できる。

$B_{\mathrm{HT}}$ は正則

$B_{\mathrm{HT}}$ は $(\mathbb{Q}_p,G_K)$ 正則であり、$B_{\mathrm{HT}}^{G_K}=K$ である。

要点:$\mathbb{C}_p(\!(t)\!)$ の不変元を係数ごとに調べると、thm-pht-tate により $t^0$ の係数 $K$ しか残らない。安定な直線を張る元も、2 つ以上の項をもてば係数の比が $\mathbb{C}_p(n-m)^{G_K}=0$ に入って矛盾するので、単項式すなわち単元である。

詳しい証明を開く

$B_{\mathrm{HT}}$ は体上の Laurent 多項式環なので整域である。形式的 Laurent 級数体 $\mathbb{C}_p(\!(t)\!)$ に同じ式で $G_K$ を作用させる。これは係数ごとに $g$ を施す環同型と、代入 $t\mapsto\chi(g)t$ の合成なので環の自己同型であり、$\operatorname{Frac}B_{\mathrm{HT}}=\mathbb{C}_p(t)\subset\mathbb{C}_p(\!(t)\!)$ への作用を延長している。

(条件 1)$\sum_na_nt^n\in\mathbb{C}_p(\!(t)\!)$ が $G_K$ 不変であることは、すべての $n$ で $g(a_n)=\chi(g)^{-n}a_n$ が成り立つこと、すなわち $a_n\in\mathbb{C}_p(n)^{G_K}$ と同値である。thm-pht-tate により $n\ne0$ ではこれは $0$、$n=0$ では $K$ である。よって $\mathbb{C}_p(\!(t)\!)^{G_K}=K$ であり、$K\subset B_{\mathrm{HT}}^{G_K}\subset\mathbb{C}_p(t)^{G_K}\subset K$ から条件 1 と $B_{\mathrm{HT}}^{G_K}=K$ が従う。

(条件 2)$b=\sum_{n\in S}a_nt^n$($S$ は有限集合、$a_n\ne0$)で、$\mathbb{Q}_pb$ が $G_K$ で安定とする。$g(b)=\eta(g)b$($\eta(g)\in\mathbb{Q}_p$)と書けて、$t^n$ の係数を比べると $g(a_n)\chi(g)^n=\eta(g)a_n$ である。$S$ に異なる $n,m$ があれば、$x:=a_n/a_m\ne0$ は $g(x)=\chi(g)^{m-n}x$ をみたし、$x\in\mathbb{C}_p(n-m)^{G_K}=0$(thm-pht-tate)となって矛盾する。よって $S$ はただ 1 つの元 $n$ からなり、$b=a_nt^n$ は $B_{\mathrm{HT}}$ の単元である。$\square$

Hodge–Tate 表現と Hodge–Tate 重さ

$G_K$ の $p$ 進表現 $V$ が Hodge–Tate 表現であるとは、$B_{\mathrm{HT}}$ 許容的であることをいう。$G_K$ は $t$ の次数を保つので
$$ D_{\mathrm{HT}}(V):=D_{B_{\mathrm{HT}}}(V)=\bigoplus_{n\in\mathbb{Z}}D_n,\qquad D_n:=\bigl(\mathbb{C}_p(n)\otimes_{\mathbb{Q}_p}V\bigr)^{G_K} $$
は次数付き $K$ ベクトル空間である。

Hodge–Tate 分解との同値

$G_K$ の $d$ 次元 $p$ 進表現 $V$ について、次は同値である。

  1. $V$ は Hodge–Tate 表現である。
  2. 整数 $h_1,\dots,h_d$ があって、$\mathbb{C}_p$ 半線形な $G_K$ 作用を込めて $\mathbb{C}_p\otimes_{\mathbb{Q}_p}V\cong\bigoplus_{j=1}^d\mathbb{C}_p(h_j)$ となる。
    このとき各整数 $h$ が $h_1,\dots,h_d$ の中に現れる回数は $\dim_KD_{-h}$ に等しく、とくに $(h_j)$ は並べ方を除いて $V$ だけで決まる。$h_1,\dots,h_d$ を $V$ の Hodge–Tate 重さ(Hodge–Tate weights)という。

要点:$\mathbb{C}_p(n)\otimes V$ の不変部分の次元を thm-pht-tate で数えると重複度の式が得られ、逆に $\alpha_V$ の次数 $0$ の部分が求める分解を与える。

詳しい証明を開く

(2 ⇒ 1 と重複度)2 の同型に $\mathbb{C}_p(n)\otimes_{\mathbb{C}_p}$ を施すと、$\mathbb{C}_p(n)\otimes_{\mathbb{Q}_p}V\cong\bigoplus_j\mathbb{C}_p(n+h_j)$ である。thm-pht-tate により $\mathbb{C}_p(n+h_j)^{G_K}$ は $h_j=-n$ なら $K$、そうでなければ $0$ なので、$\dim_KD_n=\#\{j\mid h_j=-n\}$ である。$n$ について和をとると $\dim_KD_{\mathrm{HT}}(V)=d$ となり、$V$ は Hodge–Tate 表現である。重複度の主張もこの式そのものである。

(1 ⇒ 2)$\alpha_V\colon B_{\mathrm{HT}}\otimes_KD_{\mathrm{HT}}(V)\to B_{\mathrm{HT}}\otimes_{\mathbb{Q}_p}V$ は $G_K$ と可換な同型で、$D_n$ に次数 $n$、$t^k$ に次数 $k$ を与えると次数を保つ。両辺の次数 $0$ の部分を比べると、$G_K$ と可換な同型 $$ \bigoplus_n\mathbb{C}_pt^{-n}\otimes_KD_n\;\cong\;\mathbb{C}_p\otimes_{\mathbb{Q}_p}V $$ を得る。$D_n$ は $G_K$ で固定されているので、$D_n$ の $K$ 基底を選ぶと $\mathbb{C}_pt^{-n}\otimes_KD_n\cong\mathbb{C}_p(-n)^{\oplus\dim D_n}$ である。よって 2 が $h=-n$ を重複度 $\dim_KD_n$ で並べた形で成り立つ。$\square$

重さの符号は文献によって逆の規約もある。この記事の規約(Ber04 II.1.2 と同じ)では $\mathbb{Q}_p(1)$ の重さは $1$ である。

Hodge–Tate 表現の例
  1. $\mathbb{Q}_p(m)$ は $\mathbb{C}_p\otimes\mathbb{Q}_p(m)=\mathbb{C}_p(m)$ なので、重さ $m$ の Hodge–Tate 表現である。
  2. 像が有限の表現は、重さがすべて $0$ の Hodge–Tate 表現である。実際 prop-pht-finite-image より $\bar K\otimes V\cong\bar K\otimes_KD$($D$ は $G_K$ 固定)なので、$\mathbb{C}_p\otimes_{\bar K}$ を施して $\mathbb{C}_p\otimes V\cong\mathbb{C}_p^{\oplus d}$ となる。
  3. $K$ 上の楕円曲線 $E$ の $V_pE$ は、重さ $0$ と $1$ の Hodge–Tate 表現である(Ber04 II.1.2)。
  4. $X$ を $K$ 上の固有で滑らかな多様体とすると、$G_K$ と可換な同型
    $$ H^i_{\mathrm{et}}(X_{\bar K},\mathbb{Q}_p)\otimes_{\mathbb{Q}_p}\mathbb{C}_p\;\cong\;\bigoplus_{j=0}^iH^{i-j}(X,\Omega^j_X)\otimes_K\mathbb{C}_p(-j) $$
    がある(Hodge–Tate 分解。Sch13 Corollary 1.8 は固有で滑らかな剛解析多様体について述べており、代数多様体はその解析化で含まれる)。したがって $H^i_{\mathrm{et}}$ は Hodge–Tate 表現で、重さ $-j$ が $\dim_KH^{i-j}(X,\Omega^j_X)$ 回現れる。$E$ の $H^1$ は重さ $0,-1$ をもち、その双対にあたる $V_pE$ の重さ $0,1$ と合う。

ex-pht-ht-examples の 4 は、複素多様体の Hodge分解 $H^i(X,\mathbb{C})\cong\bigoplus_jH^{i-j}(X,\Omega^j)$ の $p$ 進版である。複素数の場合との違いは、Hodge 成分が Tate 捻り $\mathbb{C}_p(-j)$ で区別され、Galois 群の作用が「どの成分か」を記録していることにある。
Hodge–Tate 表現は、$\mathbb{C}_p$ 許容的な表現よりは広いが、$p$ 進表現全体よりは狭い。次の表はこの違いを示す。確かめは表の下にある。

外す条件反例成り立たなくなること
重さがすべて $0$$\mathbb{Q}_p(1)$Hodge–Tate 表現は $\mathbb{C}_p$ 許容的である
像が有限($\bar K$ 許容的)$\mathbb{Q}_p(1)$Hodge–Tate 表現は像が有限である
Hodge–Tate 性$\begin{pmatrix}1&\log_p\chi\\0&1\end{pmatrix}$$p$ 進表現はすべて Hodge–Tate 表現である
反例の確かめ

表の 1 行目は thm-pht-tate から、2 行目は thm-pht-cyclotomic-surjective から、3 行目は Sen の理論から従う。

各行の確かめを開く
  1. $\mathbb{Q}_p(1)$ は重さ $1$ の Hodge–Tate 表現だが、$D_{\mathbb{C}_p}(\mathbb{Q}_p(1))=\mathbb{C}_p(1)^{G_K}=0$(thm-pht-tate)なので $\mathbb{C}_p$ 許容的でない。一般に $\mathbb{C}_p$ 許容的であることは $B_{\mathrm{HT}}$ の次数 $0$ の部分だけで許容的なこと、すなわち重さがすべて $0$ の Hodge–Tate 表現であることと同値である(prop-pht-ht-decomposition の重複度の式による)。
  2. $\mathbb{Q}_p(1)$ は Hodge–Tate 表現だが、thm-pht-cyclotomic-surjective の 3 により $\chi(G_K)$ は無限群なので、像は有限でなく、$\bar K$ 許容的でもない(prop-pht-finite-image)。像が有限な表現と $\mathbb{C}_p$ 許容的な表現の間の違いについては、$\mathbb{C}_p$ 許容的な表現は惰性群の作用が有限商を経由するものにちょうど一致する(Sen の定理。Ber04 I.2.3、IV.4.2)。この記事ではこの同値を証明しない。
  3. $V=\mathbb{Q}_pe_1\oplus\mathbb{Q}_pe_2$ に $ge_1=e_1$、$ge_2=\log_p\chi(g)\,e_1+e_2$ で作用させた表現は Hodge–Tate 表現でない(Ber04 II.1.2)。$n\ne0$ の $D_n$ が $0$ であることは次のように分かる:$a\,e_1+b\,e_2\in\mathbb{C}_p(n)\otimes V$ が不変なら $e_2$ の係数から $b\in\mathbb{C}_p(n)^{G_K}=0$、次いで $a\in\mathbb{C}_p(n)^{G_K}=0$ である。残る $D_0$ が $2$ 次元にならないこと(したがって $\dim_KD_{\mathrm{HT}}(V)<2$)はこの記事では証明しない。Ber04 II.1.2 は、Sen の理論で $V$ に付随する作用素が対角化できない行列 $\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ になることからこれを述べている。

周期環の階層

Hodge–Tate 表現は、$\mathbb{C}_p\otimes V$ が Tate 捻りの直和に分かれるという「次数付きの」情報しか見ない。Fontaine はより細かい周期環を構成した。以下の構成と性質はこの記事では証明せず、所在を示す。

  • $B_{\mathrm{dR}}$:完備離散付値体で、$G_K$ の作用、フィルトレーション $\operatorname{Fil}^iB_{\mathrm{dR}}=t^iB_{\mathrm{dR}}^+$ をもち、$B_{\mathrm{dR}}^{G_K}=K$ である。ここで $t$ は $g(t)=\chi(g)t$ をみたす元で、「$\log$ をとった $1$ の $p$ 冪乗根の系」として作られる(Ber04 II.2.3)。$\operatorname{gr}B_{\mathrm{dR}}\cong\bigoplus_i\mathbb{C}_p(i)=B_{\mathrm{HT}}$ である。$B_{\mathrm{dR}}$ 許容的な表現を de Rham 表現といい、$D_{\mathrm{dR}}(V)$ はフィルトレーション付き $K$ ベクトル空間になる。
  • $B_{\mathrm{cris}}$:$B_{\mathrm{dR}}$ の部分環で、Frobenius 作用素 $\varphi$ をもつ。$B_{\mathrm{cris}}^{G_K}=K_0$($K$ の中の $\mathbb{Q}_p$ の最大不分岐拡大)である。$B_{\mathrm{cris}}$ 許容的な表現をクリスタリン表現といい、$D_{\mathrm{cris}}(V)$ はフィルトレーション付き $\varphi$ 加群になる(Ber04 II.3.1)。
  • $B_{\mathrm{st}}=B_{\mathrm{cris}}[Y]$:さらにモノドロミー作用素 $N$ をもつ。$B_{\mathrm{st}}$ 許容的な表現を半安定表現という(Ber04 II.3.3)。
    周期環の包含 $B_{\mathrm{cris}}\subset B_{\mathrm{st}}\subset B_{\mathrm{dR}}$ と $\operatorname{gr}B_{\mathrm{dR}}=B_{\mathrm{HT}}$ から、表現のクラスには次の包含がある(Ber04 I.3 の表、II.2.3)。
    $$ \xymatrix{ \{\text{クリスタリン}\} \ar@{^{(}->}[r] & \{\text{半安定}\} \ar@{^{(}->}[r] & \{\text{de Rham}\} \ar@{^{(}->}[r] & \{\text{Hodge–Tate}\} \ar@{^{(}->}[r] & \{p\text{ 進表現}\} } $$
    たとえば「de Rham ならば Hodge–Tate」は、$D_{\mathrm{dR}}(V)$ のフィルトレーションの跳びが Hodge–Tate 重さの符号を変えたものになる、という形で示される(Ber04 II.2.3)。各クラスと、対応する幾何の性質・$\ell$ 進の類似を並べる。
    表現のクラス付随する線形代数の対象幾何での意味($V=H^i_{\mathrm{et}}$)$\ell$ 進表現での類似
    クリスタリンフィルトレーション付き $\varphi$ 加群よい還元よい還元(不分岐な $\ell$ 進表現)
    半安定フィルトレーション付き $(\varphi,N)$ 加群半安定還元惰性が単冪的に作用
    de Rhamフィルトレーション付き $K$ ベクトル空間固有で滑らかなら常に成り立つすべての $\ell$ 進表現
    Hodge–Tate次数付き $K$ ベクトル空間Hodge 数を記録—
    表の $\ell$ 進の列と還元の列は Ber04 I.3 の表と II.5.1 による。

主定理の地図

$p$ 進 Hodge 理論の主な定理を、この記事の言葉で並べる。どれもこの記事では証明しない。

  1. de Rham 比較定理。$K$ 上の固有で滑らかな多様体 $X$ について、$V=H^i_{\mathrm{et}}(X_{\bar K},\mathbb{Q}_p)$ は de Rham 表現で、$D_{\mathrm{dR}}(V)\cong H^i_{\mathrm{dR}}(X/K)$ がフィルトレーション付き $K$ ベクトル空間として成り立つ(Ber04 I.2.3 の 3、II.5.1。剛解析多様体への拡張と Hodge–de Rham スペクトル系列の退化は Sch13 Theorem 1.6、Corollary 1.8)。複素数での同型 $\mathbb{C}\otimes H^i_{\mathrm{dR}}(X)\cong\mathbb{C}\otimes H^i(X,\mathbb{Z})$(微分形式の積分)の $p$ 進類似である。
  2. 半安定比較定理とクリスタリン比較定理。$X$ が半安定還元をもつなら $V$ は半安定表現、よい還元をもつならクリスタリン表現である(Tsuji、Faltings、Nizioł による。Ber04 II.5.1)。
  3. 弱許容加群の定理(Colmez–Fontaine)。$V\mapsto D_{\mathrm{cris}}(V)$ はクリスタリン表現の圏から許容的なフィルトレーション付き $\varphi$ 加群の圏への圏同値であり、半安定表現と $(\varphi,N)$ 加群についても同様である(Ber04 II.3.1、II.3.3)。ここで「許容的」は Newton 多角形と Hodge 多角形の比較で定まる線形代数の条件で、以前は「弱許容的」と呼ばれていた。
  4. $p$ 進モノドロミー定理。de Rham 表現は潜在的に半安定である、すなわち $K$ の有限次拡大 $L$ に制限すると半安定表現になる(Ber04 IV.5)。$\ell$ 進表現がすべて準単冪的(quasi-unipotent)であるという Grothendieck の $\ell$ 進モノドロミー定理の類似である(同 IV.5.1)。
  5. 還元の判定。$K$ 上のアーベル多様体 $A$ がよい還元をもつことと $V_pA$ がクリスタリン表現であることは同値で、半安定還元についても同様である(Coleman–Iovita、Breuil。Ber04 II.5.1)。$\ell$ 進表現での Néron–Ogg–Shafarevich の判定法の $p$ 進版である。
    大域的な問題への応用として、Fontaine–Mazur 予想がある。数体の絶対 Galois 群の $p$ 進表現が「幾何から来る」のは、有限個を除く素数で不分岐で、$p$ の上の分解群への制限が潜在的に半安定であるとき、かつそのときに限る、という予想である(Ber04 II.5.1)。$p$ 進 Hodge 理論は、Galoisコホモロジー の中の Selmer 群の局所条件(Bloch–加藤の指数写像)に使われる(Ber04 V.2)。

直感

$p$ 進 Hodge 理論が扱うのは、「Galois 群の作用」と「フィルトレーションや Frobenius などの線形代数の構造」という、まったく種類の違う 2 つの情報の翻訳である。周期環 $B$ はその翻訳の辞書にあたる。$B$ の中には $V$ と $D_B(V)$ の両方の基底が入り、その間の行列(周期)が 2 つの情報を結びつける。複素幾何での周期(微分形式を輪体上で積分した値)が $\mathbb{C}$ に値をとるのに対し、$p$ 進の周期は $\mathbb{C}_p$ よりはるかに大きい $B_{\mathrm{dR}}$ に値をとる。$\mathbb{C}_p$ だけでは $\mathbb{Q}_p(1)$ の周期すら表せない(thm-pht-tate)ことが、大きな周期環が必要になる理由である。

関連する概念との区別

  • $\ell$ 進表現との違い:$\ell\ne p$ の $\ell$ 進表現は、$G_K$ の位相と $\ell$ 進位相の相性が悪いため代数的な性格が強く、周期環なしに扱える。$p$ 進表現は解析的な性格をもち、表現が多すぎるので、幾何から来るものを周期環で選び出す(Ber04 I.1.1)。
  • 複素 Hodge 理論との違い:複素数の Hodge 分解は Kähler 多様体についての調和形式の理論から得られる。$p$ 進の Hodge–Tate 分解は、Kähler 条件にあたる仮定なしに、固有で滑らかな剛解析多様体で成り立つ(Sch13 Corollary 1.8 の後の注意)。
  • $(\varphi,\Gamma)$ 加群:すべての $p$ 進表現を線形代数の対象(Frobenius と $\Gamma_K=\operatorname{Gal}(K(\mu_{p^\infty})/K)$ の作用をもつ加群)で記述する Fontaine の別の理論で、周期環の階層と補い合う(Ber04 III)。

関連項目

参考文献

[1]
Laurent Berger, An introduction to the theory of p-adic representations, arXiv:math/0210184, 2004, arXiv 版 I.1.1(ℓ 進表現との違い)、I.2.2(p 進表現の例)、I.2.3(Fontaine の戦略、許容的表現、$\bar K$・$\mathbb{C}$・$B_{\mathrm{dR}}$ の例)、I.3(表現のクラスの表)、II.1.1(Ax–Sen–Tate の定理、Tate の定理)、II.1.2(Hodge–Tate 表現、楕円曲線の重さ、Hodge–Tate でない表現)、II.2.3($B_{\mathrm{dR}}$、de Rham ならば Hodge–Tate)、II.3.1・II.3.3($B_{\mathrm{cris}}$、$B_{\mathrm{st}}$、Colmez–Fontaine の定理)、II.5.1(比較定理、還元の判定、Fontaine–Mazur 予想)、III($(\varphi,\Gamma)$ 加群)、IV.4.2(Sen の定理)、IV.5(p 進モノドロミー定理)、V.2(Bloch–加藤の指数写像)
[2]
Peter Scholze, p-adic Hodge theory for rigid-analytic varieties, arXiv:1205.3463, 2013, §1 Theorem 1.6(de Rham 比較)、Corollary 1.8(Hodge–Tate 分解、Hodge–de Rham スペクトル系列の退化)とその後の注意
[3]
Bjorn Poonen, Rational Points on Varieties, American Mathematical Society, 2017, §1.3.4 Lemma 1.3.10(有限 Galois 拡大についての Galois 降下)、p.9–10

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