累乗根(n-th root)とは、$2$ 以上の整数 $n$ と実数 $a$ について $x^n=a$ を満たす実数 $x$($a$ の $n$ 乗根)のことである。$a>0$ なら正の $n$ 乗根がただ 1 つあり(中間値の定理と累乗の単調性による)、これを $\sqrt[n]a$ と書く。実数の $n$ 乗根は、$n$ が奇数ならどの $a$ にもただ 1 つ、$n$ が偶数なら $a>0$ で $\pm\sqrt[n]a$ の 2 つ、$a=0$ で $0$ だけ、$a<0$ ではない。$a,b>0$ では $\sqrt[n]a\sqrt[n]b=\sqrt[n]{ab}$ などの性質が成り立って分数の指数 $a^{\frac mn}=\sqrt[n]{a^m}$ の土台になるが、負の数では $\sqrt[6]{(-8)^2}\ne\sqrt[3]{-8}$ のように崩れる。
前提知識: 平方根, 中間値の定理(高校数学), 数学的帰納法, 展開と因数分解の公式
$2$ の平方根は「2 乗して $2$ になる数」で、正のものを $\sqrt2$ と書いた。数学 II では、同じことを 3 乗・4 乗・…について考える。まず方程式 $x^n=a$ の実数の解を、小さな場合に求めてみる。
3 乗して $2$ になる正の数を探す。$1^3=1<2<8=2^3$ なので、$1$ と $2$ の間にある。さらに
$$
1.25^3=1.953125<2,\qquad 1.26^3=2.000376>2
$$
なので、$1.25$ と $1.26$ の間にある。同じように区間を狭めていけば、いくらでも細かく挟める。このような数が本当に 1 つだけあることを、この記事で示す(thm-root-positive)。
この 2 つの例から、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| グラフ $y=x^n$ と直線 $y=a$ の交点 | 中間値の定理による存在と、単調性による一意性 | thm-root-positive |
| $n$ が奇数か偶数かで場合分け | $(-x)^n=\pm x^n$ による解の対応 | thm-root-count |
| 累乗根の性質 | 「どちらも正で、$n$ 乗が等しい」に帰着 | thm-root-laws |
| $a^{\frac mn}=\sqrt[n]{a^m}$ | 表し方によらないことの確認 | rem-root-rational-exponent |
$n$ を $2$ 以上の整数、$a$ を実数とする。$n$ 乗すると $a$ になる実数、つまり
$$
x^n=a
$$
を満たす実数 $x$ を、$a$ の $n$ 乗根 という。$2$ 乗根を平方根、$3$ 乗根を立方根といい、$2$ 乗根、$3$ 乗根、$4$ 乗根、…をまとめて累乗根という。
ex-root-start-equations によれば、$8$ の $3$ 乗根は $2$ だけ、$16$ の $4$ 乗根は $2$ と $-2$、$-16$ の $4$ 乗根は(実数の中には)ない。この記事では、とくに断らない限り実数の範囲で考える。
まず、累乗が大小の順序を保つことを確かめる。
$n$ を正の整数とする。$0\le x< y$ ならば $x^n< y^n$ である。
方針:$x^n< y^n$ から、1 つずつ掛けて $x^{n+1}< y^{n+1}$ を導く。
段 1($n=1$)。仮定 $x< y$ そのものである。
段 2($n$ から $n+1$ へ)。$x^n< y^n$ が成り立つとする。$x^n\ge0$ と $x< y$ から $x^n\cdot x\le x^n\cdot y$ である($x^n=0$ なら両辺 $0$、$x^n>0$ なら不等号は $<$)。また $y>0$ と $x^n< y^n$ から $x^n\cdot y< y^n\cdot y$ である。2 つをつなぐと
$$
x^{n+1}=x^n\cdot x\le x^n\cdot y< y^n\cdot y=y^{n+1}
$$
となる。数学的帰納法により、すべての正の整数 $n$ で $x^n< y^n$ である。$\square$
$n$ を $2$ 以上の整数、$a$ を正の実数とする。$x^n=a$ を満たす正の実数 $x$ は、ちょうど 1 つある。
方針:関数 $f(x)=x^n-a$ が閉区間の両端で異符号になることから、中間値の定理で解を見つける。解が 2 つあると lem-root-monotone に反することから、一意性を示す。
段 1(両端の符号)。$b:=1+a$ とおく。$f(0)=-a<0$ である。一方 $b>1$ なので、$b^n=b\cdot b^{n-1}\ge b\cdot1=b$(lem-root-monotone より $b^{n-1}\ge1^{n-1}=1$)であり、
$$
f(b)=b^n-a\ge b-a=1>0
$$
である。
段 2(存在)。$f(x)=x^n-a$ は整式で表された関数なので、閉区間 $[0,b]$ で連続である(中間値の定理(高校数学) の定理「連続関数の和・差・積・商・合成」)。$f(0)<0< f(b)$ なので、同じ記事の定理「閉区間での中間値の定理」により、$f(c)=0$、$0< c< b$ となる $c$ がある。この $c$ は正で、$c^n=a$ を満たす。
段 3(一意性)。正の数 $c$、$c'$ がどちらも $c^n=a$、$c'^n=a$ を満たすとする。もし $c< c'$ なら lem-root-monotone により $c^n< c'^n$ となって $a< a$ となり矛盾する。$c'< c$ としても同様に矛盾する。よって $c=c'$ である。$\square$
存在を中間値の定理から出す証明は Leb26 Example 3.3.11 にもある。この定理で得られる数に名前を付ける。
$a>0$ のとき、thm-root-positive の正の $n$ 乗根を $\sqrt[n]{a}$ と書く。$\sqrt[n]{0}:=0$ とする。$n=2$ のときは $\sqrt[2]{a}$ を $\sqrt a$ と書く。
定義から、$a\ge0$ のとき $\sqrt[n]a\ge0$ かつ $(\sqrt[n]a)^n=a$ である。逆に、$x\ge0$ かつ $x^n=a$ ならば $x=\sqrt[n]a$ である($a>0$ なら thm-root-positive の一意性、$a=0$ なら $x^n=0$ から $x=0$)。以下の証明では、この言い換えを何度も使う。
$n$ を $2$ 以上の整数、$a$ を実数とする。
方針:$(-x)^n$ は、$n$ が奇数なら $-x^n$、偶数なら $x^n$ である。これを使って、負の解の問題を正の解の問題に移す。
段 1($n$ が奇数)。$a>0$ とする。$x\le0$ なら、$-x\ge0$ から $(-x)^n\ge0$ であり、$x^n=-(-x)^n\le0< a$ なので、解は正である。正の解は thm-root-positive によりただ 1 つで、$\sqrt[n]a$ である。$a=0$ なら、$x^n=0$ から $x=0$ だけが解である。$a<0$ とする。$x$ が解であることと、$-x$ が $(-x)^n=-x^n=-a$ を満たすことは同じである。$-a>0$ なので、前半により $-a$ の $n$ 乗根はただ 1 つ $\sqrt[n]{-a}$ であり、$x=-\sqrt[n]{-a}$ がただ 1 つの解である。
段 2($n$ が偶数)。$n=2m$ と書くと、実数 $x$ について $x^n=(x^2)^m\ge0$ である。よって $a<0$ なら解はない。$a=0$ なら解は $x=0$ だけである。$a>0$ とする。$x$ が解なら、$|x|^n=x^n=a$ なので $|x|$ は正の解であり、thm-root-positive により $|x|=\sqrt[n]a$、つまり $x=\pm\sqrt[n]a$ である。逆に、$(\pm\sqrt[n]a)^n=(\sqrt[n]a)^n=a$ なので、この 2 つはどちらも解であり、$\sqrt[n]a>0$ なので互いに異なる。$\square$
$n$ が奇数で $a<0$ のときも、ただ 1 つの $n$ 乗根を $\sqrt[n]a$ と書く。つまり $\sqrt[n]a:=-\sqrt[n]{-a}$ である。たとえば $\sqrt[3]{-8}=-2$ である。$n$ が偶数で $a<0$ のときは、$\sqrt[n]a$ を(実数としては)定めない。
$y=x^3$ のグラフは左下から右上へ増え続けるので、どの高さの水平線 $y=a$ とも 1 点で交わる。これが thm-root-count の 1 である。$y=x^4$ のグラフは $y$ 軸について対称で、$y\ge0$ の範囲にしかないので、水平線 $y=a$ とは $a>0$ で 2 点、$a=0$ で 1 点で交わり、$a<0$ では交わらない。これが 2 である。
高校で使う累乗根の計算規則は、次の定理にまとまる。この定理では、記号をそろえるために $\sqrt[1]{a}:=a$ とする。
$a>0$、$b>0$ とし、$m$、$n$、$p$ を正の整数とする。
方針:def-root-symbol の後の言い換え「$x\ge0$ かつ $x^n=c$ ならば $x=\sqrt[n]c$」を使う。各式で、左辺(または右辺)の数 $x$ が正であることと、その累乗が根号の中の数に等しいことを確かめればよい。整数乗の指数法則 $(xy)^n=x^ny^n$、$(x^m)^n=x^{mn}$ を使う。
$\sqrt2$ と $\sqrt[3]3$ の大小を比べる。どちらも正で、6 乗すると $(\sqrt2)^6=2^3=8$、$(\sqrt[3]3)^6=3^2=9$ である。もし $\sqrt2\ge\sqrt[3]3$ なら、lem-root-monotone により $(\sqrt2)^6\ge(\sqrt[3]3)^6$、つまり $8\ge9$ となって誤りである。よって $\sqrt2<\sqrt[3]3$ である。数値でも $\sqrt2=1.414\ldots$、$\sqrt[3]3=1.442\ldots$ である。
$\dfrac1{\sqrt[3]2-1}$ の分母から根号をなくす。$t:=\sqrt[3]2$ とおくと $t^3=2$ で、性質 3 から $t^2=\sqrt[3]4$ である。$t^3-1=(t-1)(t^2+t+1)$ なので、分母と分子に $t^2+t+1$ を掛けて
$$
\frac1{\sqrt[3]2-1}=\frac{t^2+t+1}{(t-1)(t^2+t+1)}=\frac{t^2+t+1}{t^3-1}=\frac{\sqrt[3]4+\sqrt[3]2+1}{2-1}=\sqrt[3]4+\sqrt[3]2+1
$$
となる。分母に平方根がある場合の有理化と、それが数の集まりについて何を意味するかは 分母の有理化と数の体 で扱う。
累乗根を使うと、指数を分数に広げられる。$a>0$、$m$、$n$ を正の整数とするとき
$$
a^{\frac mn}:=\sqrt[n]{a^m},\qquad a^{-\frac mn}:=\frac1{a^{\frac mn}}
$$
と定める。たとえば $8^{\frac23}=\sqrt[3]{64}=4$ である。
$\frac23=\frac46$ なので、$8^{\frac23}$ は $\sqrt[6]{8^4}$ とも書ける。実際 $\sqrt[6]{8^4}=\sqrt[6]{4096}=4$ で、値は一致する。一般に、性質 3(thm-root-laws)により $\sqrt[n]{a^m}=(\sqrt[n]a)^m$ なので、上の定義は 指数関数と対数関数はどう定義するか の定義 $a^{\frac mn}=(a^{1/n})^m$ と同じものである。その値が分数 $\frac mn$ の表し方によらないこと、指数法則 $a^ra^s=a^{r+s}$ が成り立つことは、同じ記事の命題「有理数乗の性質」で証明する。性質 5 は、その特別な場合 $\frac{mp}{np}=\frac mn$ である。
thm-root-laws は $a>0$、$b>0$ を仮定している。この仮定を外すと、次のように崩れる。
| 外した仮定 | 崩れる式 | ボックス |
|---|---|---|
| 性質 5 の $a>0$ | $\sqrt[6]{(-8)^2}$ と $\sqrt[3]{-8}$ が違う | ex-root-cx-table の 1 |
| 性質 3 で $m=n=2$ とした $\sqrt{a^2}=a$ の $a>0$ | $\sqrt{(-3)^2}=3\ne-3$ | ex-root-cx-table の 2 |
| 性質 1 の $a>0$、$b>0$(虚数へ広げる) | $\sqrt{-4}\sqrt{-9}\ne\sqrt{(-4)(-9)}$ | ex-root-cx-table の 3 |
thm-root-positive は、$x\ge0$ の範囲の関数 $y=x^n$ が、$[0,\infty)$ から $[0,\infty)$ への 1 対 1 の対応であることを言っている(単調性で 1 対 1、中間値の定理ですべての値をとる)。したがってその逆関数 $y=\sqrt[n]x$ がある(逆関数)。$n$ が奇数なら $y=x^n$ は実数全体で 1 対 1 なので、$\sqrt[n]x$ は実数全体で定義される。
$\sqrt[3]2$ は有理数でない。実際、$\sqrt[3]2=\frac pq$($p$、$q$ は互いに素な正の整数)と仮定すると、$p^3=2q^3$ なので $p^3$ は偶数であり、$p$ も偶数である($p$ が奇数なら $p^3$ も奇数)。$p=2r$ とおくと $8r^3=2q^3$、つまり $q^3=4r^3$ で、$q$ も偶数になる。これは $p$、$q$ が互いに素であることに反する。
この例は、thm-root-positive の証明に中間値の定理(その土台にある実数の連続性)が欠かせないことを示している。有理数だけの世界では、$x^3=2$ は解をもたない(実数の連続性)。正の整数 $m$ の $\sqrt[n]m$ が有理数になるのは $m$ が整数の $n$ 乗のときだけであることは、無理数 の定理「冪根の無理性」で証明する。
複素数まで広げると、$0$ でない複素数 $a$ に対して $z^n=a$ の解はちょうど $n$ 個ある。$a=1$ の場合が 1のn乗根 である。ex-root-cx-table の 3 のずれは、複素数の範囲では「正のほうを選ぶ」という決め方ができないことから起こる。
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