72の法則(rule of 72)とは、年利 $100r\,\%$($r>0$)の複利(1 年に 1 回)で元金が 2 倍になる年数 $T(r)=\frac{\log 2}{\log(1+r)}$ を、72 を年利の百分率の数で割った $\frac{72}{100r}$ で近似する目安である。$r-\frac{r^2}{2}<\log(1+r)<r$ から、$0<r<2$ で $\frac{\log 2}{r}<T(r)<\frac{\log 2}{r-r^2/2}$ が従い、$r$ が小さいとき $T(r)$ は $\frac{\log 2}{r}+\frac{\log 2}{2}$ に近く、年利 8% 付近でこれが $\frac{72}{100r}$ にほぼ等しい。相対誤差は年利とともに減少し、年利 1% から 20% では 5.4% 未満である。単利や大きな年利では外れる。
年利 $8\%$ の複利で預けたお金は、1 年ごとに $1.08$ 倍になる。元金が 2 倍になるのは何年後だろうか。「72 を年利の百分率の数で割ると、2 倍になるまでのおよその年数になる」という目安がある。年利 $8\%$ なら $72\mathbin{÷}8=9$ 年である。この目安を 72 の法則 という。本当にそうなるか、まず計算してみる。以下の利率はすべて計算のための仮の値である。
$1.08$ を次々に掛けると
$$
1.08^8=1.8509\ldots,\qquad1.08^9=1.9990\ldots,\qquad1.08^{10}=2.1589\ldots
$$
である。9 年後にはほぼ 2 倍($1.999$ 倍)になり、10 年後に 2 倍を超える。$1.08^t=2$ となる実数 $t$ を常用対数で求めると、$\log_{10}$ をとって $t\log_{10}1.08=\log_{10}2$ から
$$
t=\frac{\log_{10}2}{\log_{10}1.08}=\frac{0.30103\ldots}{0.033424\ldots}=9.006\ldots
$$
である。72 の法則の答え $9$ との差は $0.01$ 年より小さい。
年利 8% の複利で、元金の何倍になるかを年ごとに示した棒グラフ。9 年後は 1.999 倍、10 年後は 2.159 倍で、曲線 y = 1.08^t が y = 2 と交わるのは t = 9.006… である
図 1 のように、2 倍になる年数は「指数関数 $y=1.08^t$ のグラフが直線 $y=2$ と交わる $t$」である。どの例でも 72 の法則はよく合っている。なぜ $72$ という数なのか、どのくらい正確なのか、どんなときに外れるのかが、この記事の問いである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 使う道具 |
|---|---|---|
| $1.08^t=2$ を対数で解く | 2 倍になる年数 $T(r)=\dfrac{\log2}{\log(1+r)}$ | 対数 |
| $\log(1+r)$ を $r$ で近似する | $r-\dfrac{r^2}2<\log(1+r)< r$ | 微分と関数の増減 |
| $72\mathbin{÷}(\text{年利の百分率})$ | $\dfrac{0.72}r$ による近似 | 1 次近似 |
| 近似がどのくらい合うか | 相対誤差の範囲 | 減少関数の端の値 |
以下、$\log$ は自然対数(底 $e$ の対数)を表す。複利とローンの計算 と同じく、1 年ごとに利息が付いて残高に加わる複利を考える。
$r>0$ とする。年利 $100r\,\%$ の複利(1 年に 1 回、残高の $r$ 倍の利息が付く)では、$t$ 年後に元金の $(1+r)^t$ 倍になる。$(1+r)^t=2$ となる正の実数 $t$ を、2 倍になる年数 といい $T(r)$ と書く。両辺の自然対数をとると $t\log(1+r)=\log2$ なので
$$
T(r)=\frac{\log2}{\log(1+r)}
$$
である。年利の百分率の数 $100r$ で $72$ を割った $\dfrac{72}{100r}=\dfrac{0.72}r$ を $T(r)$ の近似として使うことを、72 の法則 という。
$T(r)$ は実数で、実際に 2 倍以上になるのは $T(r)$ 以上の最小の整数の年数、つまり $T(r)$ を切り上げた年数の終わりである(ex-r72-start では $T=9.006\ldots$ なので 10 年後)。この記事では、72 の法則を「$T(r)$ という実数の近似」として調べる。
$T(r)$ は対数の底によらない。$a>0$、$a\ne1$ とし、$x>0$ とする。$a^{\log_ax}=x$ の両辺の自然対数をとると $(\log_ax)(\log a)=\log x$ なので、底の変換の式 $\log_ax=\dfrac{\log x}{\log a}$ が成り立つ。これを使うと
$$
\frac{\log_a2}{\log_a(1+r)}=\frac{\log2/\log a}{\log(1+r)/\log a}=\frac{\log2}{\log(1+r)}
$$
となるからである。ex-r72-start で常用対数を使って計算できたのは、このためである。
関数電卓で自然対数の値を計算すると($\log2=0.693147\ldots$)
$$
T(0.01)=69.66\ldots,\quad T(0.04)=17.67\ldots,\quad T(0.08)=9.006\ldots,\quad T(0.12)=6.116\ldots,\quad T(0.20)=3.801\ldots
$$
である。72 の法則の値はそれぞれ $72$、$18$、$9$、$6$、$3.6$ である。年利 $1\%$、$4\%$、$8\%$、$12\%$ では差が $2.4$ 年以内で、割合で見ると $4\%$ 以内の差しかない。一方、年利 $1\%$ では 72 の法則が大きめ、年利 $20\%$ では小さめに外れている。
$T(r)=\dfrac{\log2}{\log(1+r)}$ の分母 $\log(1+r)$ を、$r$ の簡単な式ではさむ。$r$ が小さいとき $\log(1+r)$ はほぼ $r$ である($y=\log(1+r)$ の $r=0$ での接線が $y=r$)。その誤差を不等式で押さえる。
$r>0$ のとき、次の不等式が成り立つ。
(R1) $\log(1+r)< r$
(R1) $r-\dfrac{r^2}2<\log(1+r)$
(R1) $\log(1+r)< r-\dfrac{r^2}2+\dfrac{r^3}3$
(R1) $\dfrac r{1+r}<\log(1+r)$
方針:どの不等式も「右辺 − 左辺」を $f(r)$ とおくと $f(0)=0$ で、$r>0$ で $f'(r)>0$ になる。関数の増減と極値 の定理「導関数の符号と増減」により $f$ は $r\ge0$ で増加するので、$r>0$ で $f(r)>f(0)=0$ である。$(\log x)'=\dfrac1x$(指数関数の微分 の系「自然対数の導関数」)で $x$ を $1+r$ にすると、$\bigl(\log(1+r)\bigr)'=\dfrac1{1+r}$ である。
段 1(条件 (i))。$f_1(r)=r-\log(1+r)$ とおくと $f_1(0)=0$、$f_1'(r)=1-\dfrac1{1+r}=\dfrac r{1+r}>0$ である。
段 2(条件 (ii))。$f_2(r)=\log(1+r)-r+\dfrac{r^2}2$ とおくと $f_2(0)=0$ で
$$
f_2'(r)=\frac1{1+r}-1+r=\frac{1-(1+r)+r(1+r)}{1+r}=\frac{r^2}{1+r}>0
$$
である。
段 3(条件 (iii))。$f_3(r)=r-\dfrac{r^2}2+\dfrac{r^3}3-\log(1+r)$ とおくと $f_3(0)=0$ で
$$
f_3'(r)=1-r+r^2-\frac1{1+r}=\frac{(1-r+r^2)(1+r)-1}{1+r}=\frac{(1+r^3)-1}{1+r}=\frac{r^3}{1+r}>0
$$
である。$(1-r+r^2)(1+r)=1+r^3$ は展開して確かめられる。
段 4(条件 (iv))。$f_4(r)=\log(1+r)-\dfrac r{1+r}$ とおくと $f_4(0)=0$ で、$\dfrac r{1+r}=1-\dfrac1{1+r}$ の導関数は $\dfrac1{(1+r)^2}$ なので
$$
f_4'(r)=\frac1{1+r}-\frac1{(1+r)^2}=\frac{(1+r)-1}{(1+r)^2}=\frac r{(1+r)^2}>0
$$
である。$\square$
y = log(1+r) のグラフと、上からはさむ y = r、y = r − r²/2 + r³/3、下からはさむ y = r − r²/2、y = r/(1+r) のグラフ。r が 0 に近いほど、どれも log(1+r) に近い
図 2 は lem-r72-log の 5 つの関数である。$r$ が $0$ に近いところでは、5 本のグラフはほとんど重なる。$r=0.1$ では $\log1.1=0.09531\ldots$ で、$r=0.1$、$r-\dfrac{r^2}2=0.095$、$r-\dfrac{r^2}2+\dfrac{r^3}3=0.09533\ldots$ で、最後の式は小数第 4 位まで一致する。この補題から、2 倍になる年数をはさむ不等式が出る。
$0< r<2$ のとき
$$
\frac{\log2}r< T(r)<\frac{\log2}{r-\frac{r^2}2}
$$
である。
$0< r<2$ なので $r-\dfrac{r^2}2=r\left(1-\dfrac r2\right)>0$ である。lem-r72-log の条件 (i)・(ii) を合わせると
$$
0< r-\frac{r^2}2<\log(1+r)< r
$$
である。正の数どうしの不等式は、逆数をとると向きが変わるので
$$
\frac1r<\frac1{\log(1+r)}<\frac1{r-\frac{r^2}2}
$$
である。各辺に正の数 $\log2$ を掛けると、$T(r)=\dfrac{\log2}{\log(1+r)}$ なので定理の不等式になる。$\square$
ex-r72-bounds で見たように、$\dfrac{\log2}r$ と $T(r)$ の差は、$r$ が小さくてもなくならない。この差を不等式で調べる。
$0< r<2$ のとき
$$
\frac{\log2}r+\log2\left(\frac12-\frac r3\right)< T(r)<\frac{\log2}r+\frac{\log2}{2-r}
$$
である。とくに、$r$ が $0$ に近いとき、差 $T(r)-\dfrac{\log2}r$ は $\dfrac{\log2}2=0.3465\ldots$ に近い。
方針:$L=\log(1+r)$ とおく。差は $T(r)-\dfrac{\log2}r=\log2\cdot\dfrac{r-L}{rL}$ と 1 つの分数になる(通分した)。分子 $r-L$ と分母 $rL$ を lem-r72-log で上と下から押さえる。条件 (i) から $r-L>0$、条件 (ii) と $r<2$ から $L>0$ である。
段 1(上から)。条件 (ii) から $r-L< r-\left(r-\dfrac{r^2}2\right)=\dfrac{r^2}2$、また $rL>r\left(r-\dfrac{r^2}2\right)=r^2\left(1-\dfrac r2\right)>0$ である。分子を大きく、分母を小さくすると分数は大きくなるので
$$
\frac{r-L}{rL}<\frac{r^2/2}{r^2\left(1-\frac r2\right)}=\frac1{2-r}
$$
である。
段 2(下から)。条件 (iii) から $r-L>r-\left(r-\dfrac{r^2}2+\dfrac{r^3}3\right)=\dfrac{r^2}2-\dfrac{r^3}3$、条件 (i) から $0< rL< r^2$ である。分子は正なので、分母を大きくすると分数は小さくなり
$$
\frac{r-L}{rL}>\frac{r-L}{r^2}>\frac{\frac{r^2}2-\frac{r^3}3}{r^2}=\frac12-\frac r3
$$
である。
段 3。段 1・段 2 の不等式に $\log2>0$ を掛けて $\dfrac{\log2}r$ を足すと、系の不等式になる。$r$ を $0$ に近づけると、$\dfrac12-\dfrac r3$ も $\dfrac1{2-r}$ も $\dfrac12$ に近づくので、差は $\dfrac{\log2}2$ に近づく。$\square$
$r=0.08$ では、系の下の端は $8.664\ldots+0.328\ldots=8.992\ldots$、上の端は $8.664\ldots+0.361\ldots=9.025\ldots$ で、$T(0.08)=9.006\ldots$ をはさむ。
cor-r72-shift から、$r$ が小さいとき
$$
T(r)\approx\frac{\log2}r+\frac{\log2}2=\frac{100\log2+50\log2\cdot r}{100r}=\frac{69.31\ldots+34.65\ldots\times r}{100r}
$$
である。つまり、正確な年数に合わせるには、年利の百分率の数で割る数を $72$ に固定せず、$69.3+34.7r$ にすればよい。この数は、年利 $2\%$($r=0.02$)で $70.0$、年利 $8\%$ で $72.1$、年利 $10\%$ で $72.8$ になる。年利が数 % から十数 % の範囲、とくに $8\%$ 前後でよく合うのが $72$ である。
$72$ は $2,3,4,6,8,9,12$ で割り切れるので、暗算しやすいという利点もある。年利 $1\%$ や $2\%$ のような小さな年利では、$70$ の方が合う(ex-r72-values で $T(0.01)=69.66\ldots$)。
72 の法則がどのくらい正確かを、相対誤差(近似値と正確な値の差を、正確な値で割ったもの)で測る。
$$
E(r)=\frac{\frac{0.72}r-T(r)}{T(r)}=\frac{0.72}r\cdot\frac{\log(1+r)}{\log2}-1
$$
である。$E(r)>0$ なら 72 の法則は長めの年数を、$E(r)<0$ なら短めの年数を答える。
相対誤差 $E(r)$ は、$r>0$ で $r$ について減少する。したがって、$a\le r\le b$($0< a< b$)では
$$
E(b)\le E(r)\le E(a)
$$
である。$E(0.01)=0.0335\ldots$、$E(0.20)=-0.0530\ldots$、$E(0.02)=0.0284\ldots$、$E(0.15)=-0.0321\ldots$ なので、年利 $1\%$ から $20\%$ までは相対誤差の大きさが $5.4\%$ 未満、年利 $2\%$ から $15\%$ までは $3.3\%$ 未満である。
方針:$E(r)=c\cdot g(r)-1$、$c=\dfrac{0.72}{\log2}>0$、$g(r)=\dfrac{\log(1+r)}r$ と書けるので、$g$ が減少することを示せばよい。$g$ の導関数の符号を lem-r72-log の条件 (iv) で決める。
段 1(導関数)。商の微分により、$r>0$ で
$$
g'(r)=\frac{\frac1{1+r}\cdot r-\log(1+r)\cdot1}{r^2}=\frac{\frac r{1+r}-\log(1+r)}{r^2}
$$
である。
段 2(符号)。lem-r72-log の条件 (iv) により $\dfrac r{1+r}<\log(1+r)$ なので、分子は負で、$g'(r)<0$ である。関数の増減と極値 の定理「導関数の符号と増減」により、$g$ は $r>0$ で減少する。
段 3($E$ の減少と範囲)。$c>0$ なので $E(r)=c\,g(r)-1$ も減少する。$a\le r\le b$ なら $E(b)\le E(r)\le E(a)$ である。
段 4(端の値)。端の値は、自然対数の値を計算して求めた数値である。$c=\dfrac{0.72}{0.693147\ldots}=1.038740\ldots$ で、たとえば $g(0.01)=\dfrac{\log1.01}{0.01}=0.995033\ldots$ から $E(0.01)=1.038740\ldots\times0.995033\ldots-1=0.03358\ldots$、$g(0.2)=\dfrac{\log1.2}{0.2}=0.911607\ldots$ から $E(0.2)=-0.05307\ldots$ である。$E(0.02)$、$E(0.15)$ も同じように計算した。$\square$
$E(r)$ は減少し、$E(0.07)>0>E(0.08)$ なので(ex-r72-table の表の値)、中間値の定理(高校数学) により $E(r)=0$ となる $r$ が $0.07$ と $0.08$ の間にただ 1 つある。数値で求めると $r=0.0784\ldots$ で、年利約 $7.85\%$ のとき 72 の法則はぴったり正しい。それより低い年利では長めに、高い年利では短めに答える。
正確な年数 $T(r)$ と、72 の法則・69.3 の法則($\dfrac{69.3}{100r}$)の値と相対誤差を並べる(関数電卓で計算した値)。
| 年利 | $T(r)$ | 72 の法則 | 相対誤差 | 69.3 の法則 | 相対誤差 |
|---|---|---|---|---|---|
| $1\%$ | $69.66$ | $72.00$ | $+3.36\%$ | $69.30$ | $-0.52\%$ |
| $2\%$ | $35.00$ | $36.00$ | $+2.85\%$ | $34.65$ | $-1.01\%$ |
| $4\%$ | $17.67$ | $18.00$ | $+1.85\%$ | $17.33$ | $-1.97\%$ |
| $6\%$ | $11.90$ | $12.00$ | $+0.88\%$ | $11.55$ | $-2.91\%$ |
| $7\%$ | $10.24$ | $10.29$ | $+0.40\%$ | $9.90$ | $-3.37\%$ |
| $8\%$ | $9.006$ | $9.000$ | $-0.07\%$ | $8.663$ | $-3.82\%$ |
| $10\%$ | $7.27$ | $7.20$ | $-1.00\%$ | $6.93$ | $-4.71\%$ |
| $12\%$ | $6.12$ | $6.00$ | $-1.90\%$ | $5.78$ | $-5.58\%$ |
| $15\%$ | $4.96$ | $4.80$ | $-3.22\%$ | $4.62$ | $-6.85\%$ |
| $20\%$ | $3.80$ | $3.60$ | $-5.31\%$ | $3.47$ | $-8.86\%$ |
1 年に 1 回の複利では、どの年利でも 69.3 の法則は短めに答える(thm-r72-bounds の左の不等式 $T(r)>\dfrac{\log2}r$ そのもの)。72 の法則は、$\dfrac{\log2}r$ に cor-r72-shift の差の分を足したものにあたり、表の年利 $4\%$ 以上では 69.3 の法則よりずっと正確である。年利 $1\%$・$2\%$ では、69.3 の法則の方が近い。
年利 1% から 20% について、正確な 2 倍の年数 T(r) と、72 の法則、69.3 の法則の値を重ねたグラフ。縦軸は対数目盛で、72 の法則の破線は正確な値の曲線にほぼ重なる
72 の法則、70 の法則、69.3 の法則の相対誤差を年利 1% から 20% について描いたグラフ。どれも年利とともに減少し、72 の法則は年利約 7.85% で誤差 0 になる
図 3 は年数そのもの、図 4 は相対誤差である。図 4 の 3 本の線はどれも右下がりで、thm-r72-error のとおり相対誤差は年利とともに減る($c$ を $0.70$、$0.693$ に替えても証明はそのまま使える)。70 の法則は年利約 $2\%$ で、72 の法則は約 $7.85\%$ で誤差が $0$ になり、69.3 の法則は 1 年 1 回の複利ではどこでも負である。
ある量が毎年 $2\%$ ずつ増える(1 年ごとに $1.02$ 倍になる)とき、2 倍になる年数は $T(0.02)=\dfrac{\log2}{\log1.02}=35.00\ldots$ 年である。72 の法則では $72\mathbin{÷}2=36$ 年、70 の法則では $70\mathbin{÷}2=35$ 年である。rem-r72-why の $69.3+34.7r$ は $r=0.02$ で $70.0$ なので、このくらいの小さな増え方では 70 の法則の方が合う。指数モデルとロジスティックモデル の例「倍加時間を使う」で、「$70$ を百分率の数で割る」目安が出てくるのは、連続的に増える量を考えているからである(「大学数学で見る」の節)。
72 の法則は「1 年ごとの複利で、年利が数 % から十数 % の量が、増えて 2 倍になる」場合の目安である。条件を外すと、次のように外れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 複利で増える | 年利 $8\%$ の単利 | 2 倍の年数が $\frac{72}{8}=9$ 年に近い(実際は $12.5$ 年) |
| 年利が小さい | 年利 $50\%$ の複利 | 相対誤差が数 % 以内(実際は約 $-16\%$) |
| 増えていく量 | 毎年 $5\%$ ずつ減る量の半減 | 半分になる年数が $\frac{72}5=14.4$ 年に近い(実際は $13.5$ 年) |
単利 では、利息は最初の元金にだけ付き、利息には利息が付かない。年利 $8\%$ の単利なら、$t$ 年後に元金の $1+0.08t$ 倍になる。2 倍になるのは $0.08t=1$、つまり $t=12.5$ 年で、72 の法則の 9 年とは大きく違う。一般に年利 $100r\%$ の単利では $\dfrac1r=\dfrac{100}{100r}$ 年で 2 倍になり、「100 の法則」になる。複利では利息にも利息が付くので、単利より早く 2 倍になり、100 の代わりに $69.3$ から $72$ くらいの数になる。
年利 $50\%$ では $T(0.5)=\dfrac{\log2}{\log1.5}=1.709\ldots$ 年で、72 の法則の $\dfrac{72}{50}=1.44$ 年との相対誤差は $-15.8\%$ である。thm-r72-error により相対誤差は年利とともに減り続けるので、年利が大きいほど外れ方は大きくなる。年利 $100\%$ では $T(1)=1$ 年(1 年でちょうど 2 倍)なのに、72 の法則は $0.72$ 年と答え、相対誤差は $-28\%$ である。rem-r72-why の $69.3+34.7r$ を使うと、年利 $50\%$ で $\dfrac{69.3+17.3}{50}=1.73$ 年となり、ずっと近い。
毎年 $5\%$ ずつ減る量(1 年ごとに $0.95$ 倍)が半分になる年数は、$0.95^t=\dfrac12$ から
$$
t=\frac{\log2}{-\log0.95}=13.51\ldots
$$
年である。72 の法則のように $\dfrac{72}5=14.4$ 年とすると、相対誤差は $+6.6\%$ になる。減る場合は、$0< s<1$ について $-\log(1-s)>s$ である。これは lem-r72-log の条件 (iv) に $r=\dfrac s{1-s}$ を代入したもの($1+r=\dfrac1{1-s}$、$\dfrac r{1+r}=s$ となる)で、増える場合の $\log(1+r)< r$ と逆向きである。したがって $s=0.05$ でも半減の年数は $\dfrac{\log2}s$ より短い。増える場合の「$69.3$ に足す」補正とは逆に、$69.3$ から引く補正が必要になる。
利息を 1 年に $n$ 回に分けて付けると、1 年で $\left(1+\dfrac rn\right)^n$ 倍になり、$n\to\infty$ の極限(連続複利)では $e^r$ 倍になる(1の∞乗型の極限 の節「連続複利」)。連続複利では $t$ 年後に $e^{rt}$ 倍なので、2 倍になる年数は $e^{rt}=2$ から
$$
t=\frac{\log2}r=\frac{69.31\ldots}{100r}
$$
で、69.3 の法則は連続複利ではぴったり正しい。これは 指数モデルとロジスティックモデル の命題「倍加時間と半減期」の式 $T_2=\dfrac{\log2}k$ と同じものである。
1 年に 1 回の複利では、thm-r72-bounds のとおり年数は $\dfrac{\log2}r$ より長くなり、その分を補うのが 72 である。利息を付ける回数を増やすほど、正確な年数は $\dfrac{\log2}r$ に近づき(1 年に $n$ 回なら年数は $\dfrac{\log2}{n\log\left(1+\frac rn\right)}$ で、thm-r72-error の証明の $g$ を使うと $n\log\left(1+\dfrac rn\right)=r\,g\!\left(\dfrac rn\right)$ である。$g$ は減少するので、$n$ を増やすとこれは増え、年数は減る)、72 より 69.3 の方が合うようになる。
年利 $100R\%$ を 12 で割って毎月付ける複利では、$t$ 年で $\left(1+\dfrac R{12}\right)^{12t}$ 倍になり、2 倍になる年数は $\dfrac{\log2}{12\log\left(1+\frac R{12}\right)}$ である。$R=0.06$ で $11.58\ldots$ 年、$R=0.12$ で $5.805\ldots$ 年で、69.3 の法則の $11.55$ 年、$5.775$ 年の方が 72 の法則の $12$ 年、$6$ 年より近い。cor-r72-shift を $r=\dfrac R{12}$ に当てはめると、差の補正が 12 分の 1 になるからである。
cor-r72-shift の近似は、関数 $\dfrac1{\log(1+r)}$ の $r=0$ のまわりの展開
$$\frac1{\log(1+r)}=\frac1r+\frac12-\frac r{12}+\frac{r^2}{24}-\cdots$$
の最初の 2 項に $\log2$ を掛けたものにあたる(この展開はこの記事では証明しない。書いた 4 項は数式処理で確かめた)。第 3 項 $-\dfrac r{12}$ まで使うと、$T(r)\approx\log2\left(\dfrac1r+\dfrac12-\dfrac r{12}\right)$ で、$r=0.2$ でも $3.8007\ldots$ となり、正確な値 $3.8017\ldots$ に近い。
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