倍加測度(doubling measure)とは、距離空間の上の Borel 測度で、すべての開球の測度が正かつ有限であり、半径を 2 倍にした球の測度がもとの球の測度の定数 $C$ 倍以下になるものである。$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度($C=2^n$)、$\mathbb{R}$ 上の重み $|t|^\alpha\,dt$($\alpha>-1$)、Ricci 曲率が $0$ 以上の完備 Riemann 多様体の体積測度が例である。倍加の不等式と $5r$ 被覆補題から、中心をとらない Hardy–Littlewood の極大関数の弱 $(1,1)$ 型評価(定数 $C^3$)と $1<p\le\infty$ での $L^p$ 有界性、Lebesgue の微分定理が導かれ、$\mathbb{R}^n$ の実解析を一般の距離空間へ移すときの基本の仮定になる。
前提知識: 距離空間, 測度, Vitaliの被覆定理, Hardy–Littlewoodの極大関数
倍加測度(doubling measure)は、距離空間の上の測度で、どの球についても、半径を 2 倍にした球の測度がもとの球の測度の一定倍以下になるものである。$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度では半径を 2 倍すると体積はちょうど $2^n$ 倍になる。倍加測度は、この性質を不等式の形で取り出したものである。この性質と Vitaliの被覆定理 の $5r$ 被覆補題だけから、Hardy–Littlewood の極大関数の弱 $(1,1)$ 型評価と Lebesgue の微分定理が導かれる。このため倍加測度は、$\mathbb{R}^n$ の実解析(極大関数・特異積分・関数空間)を、Ricci 曲率が $0$ 以上の Riemann 多様体や重み付きの測度などへ移すときの基本の仮定になっている。距離を擬距離まで広げた同じ枠組みは 等質型空間(space of homogeneous type)とよばれる(CW77 §2)。
以下、$(X,d)$ を距離空間とし、$B(x,r):=\{y\in X\mid d(x,y)< r\}$ を開球、$\overline B(x,r):=\{y\in X\mid d(x,y)\le r\}$ を閉球とする。測度は Borel 集合の上で定義されたもの(Borel 測度)とする。
$(X,d)$ 上の Borel 測度 $\mu$ が 倍加測度(doubling measure)であるとは、次の 2 つが成り立つことをいう。
1 は、球の上の平均 $\frac1{\mu(B)}\int_B|f|\,d\mu$ を考えるための条件である。点 $x_0$ を 1 つ固定すると $X=\bigcup_{k\ge1}B(x_0,k)$ なので、倍加測度は σ-有限である。2 の比の上限が $C_\mu$ であり、$B(x,r)\subset B(x,2r)$ から $C_\mu\ge1$ である。
$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度 $|\cdot|$ は平行移動で変わらず、$2$ 倍の拡大で $2^n$ 倍になる(Lebesgue測度 の注意「$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度の性質」)。$B(x,2r)$ は $B(0,r)$ を 2 倍に拡大して $x$ だけ平行移動したものなので、$|B(x,2r)|=2^n|B(x,r)|$ である。よって倍加測度で、倍加定数は $2^n$ である。
$\alpha>-1$ とし、$\mathbb{R}$ の上で $\mu_\alpha(E):=\int_E|t|^\alpha\,dt$ とおく。$\rho:=\max(|x|,r)$ とすると、すべての $x\in\mathbb{R}$、$r>0$ について
$$
6^{-|\alpha|}\,r\rho^\alpha\le\mu_\alpha(B(x,r))\le K_\alpha\,r\rho^\alpha,\qquad K_\alpha:=\frac{2^{|\alpha|+1}3^{\alpha+1}}{\alpha+1}+2^{|\alpha|+1}
$$
が成り立つ。
$|x|\ge2r$ のときは $\rho=|x|$ で、$B(x,r)$ の点 $t$ は $\rho/2\le|t|\le3\rho/2$ を満たすので $2^{-|\alpha|}\rho^\alpha\le|t|^\alpha\le2^{|\alpha|}\rho^\alpha$ であり、長さ $2r$ を掛けて評価を得る。$|x|<2r$ のときは $r\le\rho<2r$ である。$B(x,r)\subset(-3r,3r)$ なので $\mu_\alpha(B(x,r))\le\int_{-3r}^{3r}|t|^\alpha\,dt=\frac{2(3r)^{\alpha+1}}{\alpha+1}$ であり、$r^\alpha\le2^{|\alpha|}\rho^\alpha$ から上からの評価を得る。また $B(x,r)$ から $(-r/2,r/2)$ を除いた部分の長さは $r$ 以上で、そこでは $r/2\le|t|<3r$ なので $|t|^\alpha\ge3^{-|\alpha|}r^\alpha\ge6^{-|\alpha|}\rho^\alpha$ である。よって $\mu_\alpha(B(x,r))\ge6^{-|\alpha|}r\rho^\alpha$ である。
$(M,g)$ を $\mathrm{Ric}\ge0$ の完備な $n$ 次元 Riemann 多様体とし、$\mu$ をその体積測度、$B(p,r)$ を Riemann 距離の開球とする。Riemann幾何学 の定理「Bishop–Gromov の体積比較定理」($\kappa=0$)により $r\mapsto\mu(B(p,r))/(v_nr^n)$ は非増加である($v_n$ は $\mathbb{R}^n$ の単位球の体積)。よって
$$
\frac{\mu(B(p,2r))}{v_n(2r)^n}\le\frac{\mu(B(p,r))}{v_nr^n},\qquad\text{すなわち}\qquad\mu(B(p,2r))\le2^n\mu(B(p,r))
$$
である。同じ定理から $\mu(B(p,r))\le v_nr^n<\infty$ であり、開球は空でない開集合なので体積は正である。よって $\mu$ は倍加定数 $2^n$ 以下の倍加測度である。断面曲率が $0$ 以上なら Ricci 曲率も $0$ 以上なので(Ricci 曲率は断面曲率の和)、断面曲率が $0$ 以上の完備 Riemann 多様体(曲率が $0$ 以上の Alexandrov空間 の代表例)の体積測度も倍加測度である。
$\mathbb{R}$ の上の $\mu(E):=\int_Ee^t\,dt$ は定義の 1 を満たすが、倍加測度ではない。$\mu(B(x,r))=e^x(e^r-e^{-r})=2e^x\sinh r$ なので、比 $\mu(B(x,2r))/\mu(B(x,r))=\sinh2r/\sinh r=2\cosh r$ は $r\to\infty$ で有界でない。半径を $r\le1$ に限れば比は $2\cosh1$ 以下なので、小さい球だけで見れば倍加の不等式を満たしている。
倍加の不等式を繰り返し使うと、球の測度は半径の冪で抑えられる。冪の指数 $s=\log_2C_\mu$ は次元の役割を果たす(Lebesgue 測度では $s=n$)。
$\mu$ を倍加測度とし、$s:=\log_2C_\mu$ とおく。$0< r\le R$、$x\in X$、$y\in B(x,R)$ について
$$
\mu(B(x,R))\le C_\mu\Bigl(\frac Rr\Bigr)^s\mu(B(x,r)),\qquad\mu(B(x,R))\le C_\mu^2\Bigl(\frac Rr\Bigr)^s\mu(B(y,r))
$$
が成り立つ。
$R\le2^kr$ となる最小の整数 $k\ge0$ をとる。2 を $k$ 回使うと $\mu(B(x,R))\le\mu(B(x,2^kr))\le C_\mu^k\mu(B(x,r))$ である。$k=0$ なら $C_\mu^0=1$ で主張は明らかである。$k\ge1$ なら最小性から $2^{k-1}r< R$、すなわち $k<1+\log_2(R/r)$ なので、$C_\mu^k\le C_\mu\cdot C_\mu^{\log_2(R/r)}=C_\mu(R/r)^s$ である($C_\mu^{\log_2t}=t^{\log_2C_\mu}$)。これで 1 つ目の式を得る。$y\in B(x,R)$ なら三角不等式から $B(x,R)\subset B(y,2R)$ なので、1 つ目の式を $y$ と $2R$ に使って $\mu(B(x,R))\le C_\mu(2R/r)^s\mu(B(y,r))=C_\mu^2(R/r)^s\mu(B(y,r))$ である($2^s=C_\mu$)。$\square$
倍加測度 $\mu$ をもつ距離空間 $X$ では、すべての $x\in X$、$r>0$ について、$B(x,2r)$ は半径 $r$ の開球の $C_\mu^4$ 個以下で覆える。とくに $X$ の有界集合は 全有界 であり、$X$ が完備なら有界閉集合はコンパクトである。
$y_1,\dots,y_N\in B(x,2r)$ が $i\ne j$ のとき $d(y_i,y_j)\ge r$ を満たすとする。開球 $B(y_i,r/2)$ は互いに交わらず、どれも $B(x,5r/2)$ に含まれる。$B(x,5r/2)\subset B(y_i,9r/2)\subset B(y_i,16\cdot\frac r2)$ なので、2 を 4 回使うと $\mu(B(x,5r/2))\le C_\mu^4\mu(B(y_i,r/2))$ である。$i$ について足すと
$$
N\,\mu(B(x,5r/2))\le C_\mu^4\sum_{i=1}^N\mu(B(y_i,r/2))\le C_\mu^4\,\mu(B(x,5r/2))
$$
であり、$0<\mu(B(x,5r/2))<\infty$ から $N\le C_\mu^4$ である。そこで、この性質をもつ点の組のうち個数が最大のものをとる。$z\in B(x,2r)$ がどの $y_i$ からも距離 $r$ 以上なら $z$ を加えた組も同じ性質をもち、最大性に反する。よって $B(x,2r)\subset\bigcup_iB(y_i,r)$ である。
これを $m$ 回使うと、$B(x,2^mr)$ は半径 $r$ の開球の $C_\mu^{4m}$ 個以下で覆える。有界集合 $E\subset B(x,R)$ と $\varepsilon>0$ について $2^m\varepsilon\ge R$ となる $m$ をとれば、$E$ は半径 $\varepsilon$ の有限個の開球で覆えるので全有界である。完備距離空間の有界閉集合は完備かつ全有界なので、全有界 の定理「コンパクト性との関係」によりコンパクトである。$\square$
$\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$ に、$m\ne n$ のとき $d(m,n)=1$ とする距離を入れる。$B(n,2)=\mathbb{N}$ は半径 $1$ の開球($1$ 点集合)の有限個では覆えないので、prop-dm-covering により $\mathbb{N}$ の上に倍加測度はない。たとえば $\mu(\{n\})=2^{-n}$ は定義の 1 を満たすが、$\mu(B(n,2))/\mu(B(n,1))=2\cdot2^n$ は有界でない。同じ理由で、無限次元の Hilbert 空間(単位球が全有界でない。全有界 の例「反例:Hilbert空間の単位球」)の上にも倍加測度はない。
以下 $(X,d,\mu)$ を倍加距離測度空間とする。可測関数 $f$ が 局所可積分 であるとは、すべての開球 $B$ で $\int_B|f|\,d\mu<\infty$ であることをいい、その全体を $L^1_{\mathrm{loc}}(\mu)$ と書く。開球の測度は有限なので、Hölderの不等式 により $1\le p\le\infty$ で $L^p(\mu)\subset L^1_{\mathrm{loc}}(\mu)$ である。
$f\in L^1_{\mathrm{loc}}(\mu)$ に対し
$$
Mf(x):=\sup\Bigl\{\frac1{\mu(B(a,r))}\int_{B(a,r)}|f|\,d\mu\ \Bigm|\ a\in X,\ r>0,\ x\in B(a,r)\Bigr\}\in[0,\infty]
$$
を $f$ の Hardy–Littlewood の極大関数(中心をとらないもの)という。$R>0$ について、上限を $r\le R$ に限ったものを $M_Rf(x)$ と書く。
$Mf(x)>\lambda$ なら、$x$ を含む開球 $B$ で平均が $\lambda$ を超えるものがあり、$B$ のすべての点 $x'$ で $Mf(x')>\lambda$ である。したがって $\{Mf>\lambda\}$ と $\{M_Rf>\lambda\}$ は開集合であり、$Mf$ は Borel 可測である。中心を $x$ に固定した球だけで上限をとった関数は $Mf$ 以下なので、下の評価はそれにも当てはまる。$\mathbb{R}$ で中心を固定したものは Hardy–Littlewoodの極大関数 で扱われている(その記事の命題「中心をずらした平均と二進区間の平均」により、$\mathbb{R}$ では二つは $2$ 倍の範囲で一致する)。
$(X,d,\mu)$ を倍加距離測度空間とする。$f\in L^1(\mu)$ と $\lambda>0$ について
$$
\mu(\{x\in X\mid Mf(x)>\lambda\})\le\frac{C_\mu^3}{\lambda}\,\|f\|_{L^1(\mu)}
$$
が成り立つ。
まず $R>0$ を固定し、$E_R:=\{M_Rf>\lambda\}$ を評価する。$r\le R$ かつ $\int_{B(a,r)}|f|\,d\mu>\lambda\,\mu(B(a,r))$ となる組 $(a,r)$ の全体を $\mathcal{A}$ とすると、$E_R$ はそれらの開球 $B(a,r)$ の和集合である。閉球の族 $\{\overline B(a,r)\mid(a,r)\in\mathcal{A}\}$ は半径が $R$ 以下なので、Vitaliの被覆定理 の系「$5r$ 被覆補題」により、閉球が互いに交わらない部分族 $\mathcal{G}\subset\mathcal{A}$ で
$$
E_R\subset\bigcup_{(a,r)\in\mathcal{A}}\overline B(a,r)\subset\bigcup_{(a,r)\in\mathcal{G}}\overline B(a,5r)
$$
となるものがある。
$\mathcal{G}$ は高々可算である。実際、$(a,r)\in\mathcal{G}$ の開球 $B(a,r)$ は互いに交わらないので、$\mathcal{G}$ の有限個について $\int_{B(a,r)}|f|\,d\mu$ の和は $\|f\|_1$ 以下である。よって $\int_{B(a,r)}|f|\,d\mu>1/k$ となる $(a,r)\in\mathcal{G}$ は $k\|f\|_1$ 個以下であり、$\mathcal{G}$ のどの元でもこの積分は $\lambda\mu(B(a,r))>0$ より大きい。
$\overline B(a,5r)\subset B(a,8r)$ なので、倍加の不等式を 3 回使って
$$
\mu(E_R)\le\sum_{(a,r)\in\mathcal{G}}\mu(B(a,8r))\le C_\mu^3\sum_{(a,r)\in\mathcal{G}}\mu(B(a,r))\le\frac{C_\mu^3}\lambda\sum_{(a,r)\in\mathcal{G}}\int_{B(a,r)}|f|\,d\mu\le\frac{C_\mu^3}\lambda\|f\|_1
$$
である(最後は $B(a,r)$ が互いに交わらないことによる)。$R$ を大きくすると $M_Rf$ は増加して $Mf$ に近づくので、$\{Mf>\lambda\}=\bigcup_{R\in\mathbb{N}}E_R$ は増加列の和集合である。測度の下からの連続性により $\mu(\{Mf>\lambda\})=\lim_R\mu(E_R)\le C_\mu^3\|f\|_1/\lambda$ である。$\square$
$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度では $C_\mu^3=8^n$ である。$\mathbb{R}^n$ の中心を固定した極大関数については定数 $5^n$ の評価が Bass24 Theorem 14.2(p. 124)にある。一般の倍加距離測度空間(擬距離でもよい)での同じ形の評価は、定数を倍加の定数と擬距離の定数で決まるものとして CW77 Theorem (3.5)(p. 624)に述べられている。
$1< p<\infty$ と $f\in L^p(\mu)$ について
$$
\|Mf\|_{L^p(\mu)}\le2\Bigl(\frac p{p-1}\Bigr)^{1/p}C_\mu^{3/p}\,\|f\|_{L^p(\mu)}
$$
であり、$\|Mf\|_\infty\le\|f\|_\infty$ である。
$Mf\le\|f\|_\infty$ は定義から明らかである。$M$ は $L^1(\mu)+L^\infty(\mu)$ の上で劣線形($M(f+g)\le Mf+Mg$、$M(cf)=|c|Mf$)であり、thm-dm-weak により定数 $C_\mu^3$ の弱 $(1,1)$ 型、上の評価により定数 $1$ の弱 $(\infty,\infty)$ 型である。Marcinkiewiczの補間定理 の定理「Marcinkiewiczの補間定理」を $p_0=1$、$p_1=\infty$、$K=1$、$1-\theta=1/p$ で使えばよい。$\square$
次の Lebesgue の微分定理の証明では、連続関数では主張が明らかであることと、極大関数の評価で誤差を抑えることを組み合わせる。そのために次の補題を使う。
$\nu$ を距離空間 $X$ 上の有限な Borel 測度、$g\in L^1(\nu)$、$\varepsilon>0$ とする。$X$ 上の有界連続関数 $h$ で $\int_X|g-h|\,d\nu<\varepsilon$ となるものがある。
Lp空間 の命題「単関数の稠密性」と三角不等式により、Borel 集合 $A$ の指示関数 $1_A$ を近似できればよい。Radon測度 の定理「距離空間上の有限Borel測度の正則性」により、閉集合 $F$ と開集合 $U$ で $F\subset A\subset U$、$\nu(U\setminus F)<\varepsilon$ となるものがある。$F=\emptyset$ なら $h:=0$、$F\ne\emptyset$ かつ $U=X$ なら $h:=1$ とする。それ以外では $F$ と $X\setminus U$ は交わらない空でない閉集合である。空でない閉集合 $D$ への距離 $d(x,D):=\inf_{y\in D}d(x,y)$ は $|d(x,D)-d(x',D)|\le d(x,x')$ を満たして連続であり、$d(x,D)=0$ と $x\in D$ は同値である。よって $h(x):=\dfrac{d(x,X\setminus U)}{d(x,X\setminus U)+d(x,F)}$ の分母は $0$ にならず、$h$ は連続で $0\le h\le1$、$F$ の上で $1$、$U$ の外で $0$ である。どの場合も $1_A-h$ は $U\setminus F$ の外で $0$、絶対値は $1$ 以下なので、$\int|1_A-h|\,d\nu\le\nu(U\setminus F)<\varepsilon$ である。$\square$
$(X,d,\mu)$ を倍加距離測度空間とし、$f\in L^1_{\mathrm{loc}}(\mu)$ とする。$\mu$-ほとんどすべての $x\in X$ について
$$
\lim_{r\to0}\frac1{\mu(B(x,r))}\int_{B(x,r)}|f-f(x)|\,d\mu=0
$$
が成り立つ。とくに $\mu$-ほとんどすべての $x$ で $\frac1{\mu(B(x,r))}\int_{B(x,r)}f\,d\mu\to f(x)$($r\to0$)である。最初の極限の式を満たす点 $x$ を $f$ の Lebesgue 点 という。
$x_0\in X$ と $N\in\mathbb{N}$ を固定し、$B_0:=B(x_0,N+1)$ とおく。$x\in B(x_0,N)$、$0< r<1$ なら $B(x,r)\subset B_0$ である。$\nu(E):=\mu(E\cap B_0)$ は有限な Borel 測度で、$f1_{B_0}\in L^1(\nu)$ である。$\varepsilon>0$ について lem-dm-continuous-dense の $h$ を $\int|f1_{B_0}-h|\,d\nu<\varepsilon$ となるようにとり、$e:=(f-h)1_{B_0}$ とおくと $e\in L^1(\mu)$、$\|e\|_1<\varepsilon$ である。
$x\in B(x_0,N)$、$0< r<1$ とする。$B(x,r)$ の上で $f-f(x)=e+(h-h(x))-e(x)$ なので
$$
\frac1{\mu(B(x,r))}\int_{B(x,r)}|f-f(x)|\,d\mu\le Me(x)+\sup_{y\in B(x,r)}|h(y)-h(x)|+|e(x)|
$$
である。$h$ は連続なので中央の項は $r\to0$ で $0$ に近づく。左辺の $r\to0$ での上極限を $L(x)$ とすると $L(x)\le Me(x)+|e(x)|$ である。$\lambda>0$ について、thm-dm-weak と Chebyshevの不等式 により
$$
\{x\in B(x_0,N)\mid L(x)>2\lambda\}\subset\{Me>\lambda\}\cup\{|e|>\lambda\},\qquad\mu(\{Me>\lambda\}\cup\{|e|>\lambda\})\le\frac{(C_\mu^3+1)\varepsilon}\lambda
$$
である。$\varepsilon>0$ は任意なので、左の集合は測度がいくらでも小さい Borel 集合に含まれ、それらの共通部分である測度 $0$ の Borel 集合に含まれる。$\lambda=1/k$、$N$ をそれぞれ動かした可算個の和をとれば、$L(x)>0$ となる点の全体は測度 $0$ の集合に含まれる。後半は $\bigl|\frac1{\mu(B)}\int_Bf\,d\mu-f(x)\bigr|\le\frac1{\mu(B)}\int_B|f-f(x)|\,d\mu$ から従う。$\square$
$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度の場合は Bass24 Theorem 14.4(p. 126)にある。上の証明が倍加性を使うのは thm-dm-weak を通してだけである。Besicovitchの被覆定理 を使うと、$\mathbb{R}^n$ では倍加的でない Radon 測度についても、中心を固定した球による微分定理が得られる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| prop-dm-growth の倍加性 | $\mathbb{R}$ 上の $e^t\,dt$(ex-dm-exponential) | $\mu(B(0,R))\le C(R/r)^s\mu(B(0,r))$ の形の多項式の評価 |
| prop-dm-covering の倍加性 | $\mathbb{N}$、$m\ne n$ で $d(m,n)=1$、$\mu(\{n\})=2^{-n}$(ex-dm-no-doubling) | $B(n,2)$ を半径 $1$ の開球の有限個で覆うこと |
| cor-dm-lp の $p>1$ | $\mathbb{R}$ の Lebesgue 測度、$f=1_{[0,1]}$ | $\|Mf\|_{L^1}\le C\|f\|_{L^1}$ |
| ex-dm-power の $\alpha>-1$ | $\alpha=-1$、$\mu_{-1}(E)=\int_E\lvert t\rvert^{-1}\,dt$ | 定義の 1($0$ を中心とする球の測度が有限であること) |
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