ベクトル解析

同義語:vector calculusvector analysis

概要

ベクトル解析(vector calculus)とは、空間の開集合の上のスカラー場とベクトル場について、勾配・回転・発散という微分作用素と、線積分・面積分・体積積分を扱う多変数の微分積分学の分野である。$C^2$ 級の場では勾配の回転と回転の発散は $0$ になり、原点に関して星型の開集合の上では逆に、回転が $0$ の $C^1$ 級の場は勾配であり、発散が $0$ の $C^1$ 級の場は回転である。星型でない開集合ではこれが崩れることがある。3 つの作用素は線積分の基本定理・Stokes の定理・Gauss の発散定理で積分と結ばれ、微分形式の外微分の特別な場合にあたる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 偏微分, ベクトル場, ベクトル積

ベクトル解析(vector calculus)は、空間の各点に数を対応させる場(スカラー場)と、各点にベクトルを対応させる場(ベクトル場)の微分と積分を扱う、多変数の微分積分学の一分野である。微分の側には勾配・回転・発散という 3 つの微分作用素があり、積分の側には曲線に沿う線積分・曲面を通る流束(面積分)・立体の上の体積積分がある。両者は、線積分の基本定理・Stokes の定理・Gauss の発散定理という 3 つの積分定理で結ばれる。流体の流れ、電場と磁場、重力の場などは、この言葉で書かれてきた。
この記事では、$\mathbb{R}^3$ の開集合の上の 3 つの微分作用素を定義し、それらの間の恒等式(積の公式と 2 階の恒等式)を Levi-Civita 記号を使って証明する。次に、3 つの作用素が「続けて施すと $0$ になる」列をなし、星型の開集合の上ではこの列に穴がないこと、すなわち回転が $0$ の $C^1$ 級の場は勾配であり、発散が $0$ の $C^1$ 級の場は回転であり、どの $C^1$ 級の関数も発散であることを、ポテンシャルを積分で書いて証明する。最後に、星型でない開集合ではこれが崩れる例を挙げ、積分定理と微分形式による見方を案内する。

場と微分作用素

以下、$U\subset\mathbb{R}^3$ は開集合とし、点を $x=(x_1,x_2,x_3)$($(x,y,z)$ とも書く)、偏微分 $\partial/\partial x_i$ を $\partial_i$ と書く。$e_1,e_2,e_3$ は標準基底、$a\cdot b$ は標準内積、$a\times b$ はベクトル積である。

スカラー場とベクトル場

$U$ 上の実数値関数 $f\colon U\to\mathbb{R}$ を スカラー場、写像 $F=(F_1,F_2,F_3)\colon U\to\mathbb{R}^3$ を ベクトル場 という。各成分が $C^k$ 級であるとき、$F$ は $C^k$ 級であるという。

勾配・回転・発散・Laplace 作用素

$C^1$ 級のスカラー場 $f$ と $C^1$ 級のベクトル場 $F$ について
$$ \operatorname{grad}f:=(\partial_1f,\ \partial_2f,\ \partial_3f),\qquad \operatorname{rot}F:=(\partial_2F_3-\partial_3F_2,\ \partial_3F_1-\partial_1F_3,\ \partial_1F_2-\partial_2F_1), $$
$$ \operatorname{div}F:=\partial_1F_1+\partial_2F_2+\partial_3F_3 $$
をそれぞれ $f$ の 勾配、$F$ の 回転、$F$ の 発散 という。$C^2$ 級の $f$ について $\Delta f:=\operatorname{div}(\operatorname{grad}f)=\sum_i\partial_i^2f$ を Laplace 作用素 という。

記号 $\nabla:=(\partial_1,\partial_2,\partial_3)$ を形式的なベクトルとみなすと、$\operatorname{grad}f=\nabla f$、$\operatorname{rot}F=\nabla\times F$、$\operatorname{div}F=\nabla\cdot F$ と書ける。回転を $\operatorname{curl}F$ と書く本も多い。これらの定義は Rud76 10.42(p. 281)と同じである。$\mathbb{R}^3$ の Laplace 作用素は、$C^2$ 級のベクトル場には成分ごとに $\Delta F:=(\Delta F_1,\Delta F_2,\Delta F_3)$ として施す。また、ベクトル場 $G$ と $F$ について、$F$ の各成分を $G$ の方向に微分した場を $(G\cdot\nabla)F:=\bigl(\sum_jG_j\partial_jF_1,\ \sum_jG_j\partial_jF_2,\ \sum_jG_j\partial_jF_3\bigr)$ と書く。
それぞれの作用素の意味は個別の記事で詳しく述べる。勾配 $\nabla f(x)$ は、$0$ でなければ $f$ がもっとも速く増える方向を向き、その長さが増える速さである(偏微分 の定義「方向微分と勾配」と注意「勾配の幾何学的な意味と接平面」)。発散は点のまわりの小さな箱から流れ出る量の密度であり(発散(ベクトル場) の定理「発散は流出量の密度」)、回転は点のまわりの小さな円に沿う循環の密度である(回転(ベクトル場) の定理「循環の密度としての回転」)。$\mathbb{R}^n$ の開集合でも勾配・発散・Laplace 作用素は同じ式で定まるが、回転がベクトル場になるのは $n=3$ のときだけである(平面では $\partial_1F_2-\partial_2F_1$ というスカラーになる。下の「補足」の節)。

恒等式

積の微分の規則と 2 階の微分の規則を、成分の計算を簡単にする記号を使ってまとめて証明する。

Levi-Civita 記号

$\{1,2,3\}$ の添字 $i,j,k$ について、$(i,j,k)$ が $(1,2,3)$ の偶置換なら $\varepsilon_{ijk}:=1$、奇置換なら $\varepsilon_{ijk}:=-1$、添字に重複があれば $\varepsilon_{ijk}:=0$ とおく(Levi-Civita 記号)。$\delta_{ij}$ は Kronecker のデルタである。定義から $\varepsilon_{ijk}$ は添字の巡回置換で変わらず($\varepsilon_{ijk}=\varepsilon_{jki}=\varepsilon_{kij}$)、2 つの添字を入れ替えると符号が変わる。

Levi-Civita 記号の縮約
  1. $a,b\in\mathbb{R}^3$ について $(a\times b)_i=\sum_{j,k}\varepsilon_{ijk}a_jb_k$ である。$C^1$ 級のベクトル場 $F$ について $(\operatorname{rot}F)_i=\sum_{j,k}\varepsilon_{ijk}\partial_jF_k$ である。
  2. すべての $j,k,l,m$ について
    $$ \sum_{i=1}^3\varepsilon_{ijk}\varepsilon_{ilm}=\delta_{jl}\delta_{km}-\delta_{jm}\delta_{kl} $$
    である。
場合分けで両辺を比べる

要点:1 は成分ごとに $\varepsilon$ の $0$ でない値を数える。2 は、左辺の項が $0$ でないとき $i$ が $j,k$ と異なる唯一の添字になり、$\{l,m\}=\{j,k\}$ が要ることから場合分けする。

詳しい証明を開く

1:$i=1$ では $\varepsilon_{1jk}$ が $0$ でないのは $(j,k)=(2,3)$(値 $1$)と $(3,2)$(値 $-1$)だけなので、右辺は $a_2b_3-a_3b_2$ であり、ベクトル積 の定義の第 1 成分に一致する。$i=2,3$ も同じである($\varepsilon_{231}=\varepsilon_{312}=1$)。回転の式は、$a_j$ を $\partial_j$、$b_k$ を $F_k$ に替えた同じ計算である。

2:$j=k$ なら左辺の各項は $0$、右辺は $\delta_{jl}\delta_{jm}-\delta_{jm}\delta_{jl}=0$ であり、$l=m$ も同様である。$j\ne k$ かつ $l\ne m$ とする。左辺の項が $0$ でないには、$i$ が $j,k$ のどちらとも異なり、かつ $l,m$ のどちらとも異なる必要がある。そのような $i$ は $\{1,2,3\}\setminus\{j,k\}$ のただ 1 つの元であり、それが $l,m$ とも異なるのは $\{l,m\}=\{j,k\}$ のときに限る。(i) $\{l,m\}\ne\{j,k\}$ なら左辺は $0$ である。右辺の $\delta_{jl}\delta_{km}$ が $1$ なら $(l,m)=(j,k)$、$\delta_{jm}\delta_{kl}$ が $1$ なら $(l,m)=(k,j)$ で、どちらも仮定に反するので右辺も $0$ である。(ii) $(l,m)=(j,k)$ なら左辺は $\varepsilon_{ijk}^2=1$、右辺は $1-0=1$ である($\delta_{jk}=0$)。(iii) $(l,m)=(k,j)$ なら左辺は $\varepsilon_{ijk}\varepsilon_{ikj}=-\varepsilon_{ijk}^2=-1$、右辺は $0-1=-1$ である。$\square$

公式の一覧

$f,g$ はスカラー場、$F,G$ はベクトル場とする。

公式条件根拠
$\nabla(fg)=f\nabla g+g\nabla f$$f,g$ が $C^1$ 級成分ごとの積の微分
$\operatorname{div}(fF)=\nabla f\cdot F+f\operatorname{div}F$$f,F$ が $C^1$ 級発散(ベクトル場)
$\operatorname{rot}(fF)=\nabla f\times F+f\operatorname{rot}F$$f,F$ が $C^1$ 級回転(ベクトル場)
$\operatorname{div}(F\times G)=G\cdot\operatorname{rot}F-F\cdot\operatorname{rot}G$$F,G$ が $C^1$ 級thm-va-identities
$\operatorname{rot}(F\times G)=(G\cdot\nabla)F-(F\cdot\nabla)G+F\operatorname{div}G-G\operatorname{div}F$$F,G$ が $C^1$ 級thm-va-identities
$\nabla(F\cdot G)=(G\cdot\nabla)F+(F\cdot\nabla)G+F\times\operatorname{rot}G+G\times\operatorname{rot}F$$F,G$ が $C^1$ 級thm-va-identities
$\operatorname{rot}(\nabla f)=0$$f$ が $C^2$ 級回転(ベクトル場)
$\operatorname{div}(\operatorname{rot}F)=0$$F$ が $C^2$ 級発散(ベクトル場)
$\operatorname{rot}(\operatorname{rot}F)=\nabla(\operatorname{div}F)-\Delta F$$F$ が $C^2$ 級thm-va-identities

表の 2・3・7・8 行は、発散(ベクトル場) の命題「発散の計算規則」と 回転(ベクトル場) の命題「回転の計算規則」で証明される。$\operatorname{rot}(\nabla f)=0$ と $\operatorname{div}(\operatorname{rot}F)=0$ は Rud76 Theorem 10.43 (a)・(b)(p. 281)でもある。

ベクトル積を含む恒等式

$F,G$ を $U$ 上の $C^1$ 級のベクトル場とする。

  1. $\operatorname{div}(F\times G)=G\cdot\operatorname{rot}F-F\cdot\operatorname{rot}G$。
  2. $\operatorname{rot}(F\times G)=(G\cdot\nabla)F-(F\cdot\nabla)G+F\operatorname{div}G-G\operatorname{div}F$。
  3. $\nabla(F\cdot G)=(G\cdot\nabla)F+(F\cdot\nabla)G+F\times\operatorname{rot}G+G\times\operatorname{rot}F$。
  4. $F$ が $C^2$ 級なら $\operatorname{rot}(\operatorname{rot}F)=\nabla(\operatorname{div}F)-\Delta F$。
添字で書いて縮約する

和の記号は、繰り返し現れる添字について $1$ から $3$ まで足すものとして明示する。
1:lem-va-epsilon の 1 と積の微分により
$$ \operatorname{div}(F\times G)=\sum_{i,j,k}\varepsilon_{ijk}\,\partial_i(F_jG_k)=\sum_{i,j,k}\varepsilon_{ijk}(\partial_iF_j)G_k+\sum_{i,j,k}\varepsilon_{ijk}F_j(\partial_iG_k) $$
である。第 1 項は $\varepsilon_{ijk}=\varepsilon_{kij}$ により $\sum_kG_k\sum_{i,j}\varepsilon_{kij}\partial_iF_j=G\cdot\operatorname{rot}F$、第 2 項は $\varepsilon_{ijk}=-\varepsilon_{jik}$ により $-\sum_jF_j\sum_{i,k}\varepsilon_{jik}\partial_iG_k=-F\cdot\operatorname{rot}G$ である。
4:lem-va-epsilon の 1 を 2 回使い、$\varepsilon_{ijk}=\varepsilon_{kij}$ と lem-va-epsilon の 2 を使うと
$$ \bigl(\operatorname{rot}(\operatorname{rot}F)\bigr)_i=\sum_{j,k}\varepsilon_{ijk}\,\partial_j\Bigl(\sum_{l,m}\varepsilon_{klm}\partial_lF_m\Bigr)=\sum_{j,l,m}\bigl(\delta_{il}\delta_{jm}-\delta_{im}\delta_{jl}\bigr)\partial_j\partial_lF_m=\sum_j\partial_j\partial_iF_j-\sum_j\partial_j^2F_i $$
である。$F$ は $C^2$ 級なので $\partial_j\partial_iF_j=\partial_i\partial_jF_j$(偏微分 の系「$C^2$ 級関数の偏微分の可換性」)であり、右辺は $\partial_i(\operatorname{div}F)-\Delta F_i$ に等しい。
2・3 も同じ縮約で示せる。

2 と 3 の証明を開く

2:4 と同じ縮約で $\bigl(\operatorname{rot}(F\times G)\bigr)_i=\sum_{j,k}\varepsilon_{ijk}\partial_j\bigl(\sum_{l,m}\varepsilon_{klm}F_lG_m\bigr)=\sum_{j,l,m}(\delta_{il}\delta_{jm}-\delta_{im}\delta_{jl})\partial_j(F_lG_m)=\sum_j\partial_j(F_iG_j)-\sum_j\partial_j(F_jG_i)$ である。積の微分で展開すると $\sum_jG_j\partial_jF_i+F_i\sum_j\partial_jG_j-G_i\sum_j\partial_jF_j-\sum_jF_j\partial_jG_i$ であり、これは $\bigl((G\cdot\nabla)F+F\operatorname{div}G-G\operatorname{div}F-(F\cdot\nabla)G\bigr)_i$ である。

3:同じく $(F\times\operatorname{rot}G)_i=\sum_{j,k}\varepsilon_{ijk}F_j\sum_{l,m}\varepsilon_{klm}\partial_lG_m=\sum_{j,l,m}(\delta_{il}\delta_{jm}-\delta_{im}\delta_{jl})F_j\partial_lG_m=\sum_jF_j\partial_iG_j-\sum_jF_j\partial_jG_i$ なので、$(F\times\operatorname{rot}G)_i+\bigl((F\cdot\nabla)G\bigr)_i=\sum_jF_j\partial_iG_j$ である。$F$ と $G$ を入れ替えた式と足すと、右辺は $\sum_j\partial_i(F_jG_j)=\partial_i(F\cdot G)$ になる。$\square$

2 階の恒等式で $C^2$ 級の仮定を外せないことは、下の反例の表の 3 行目で示す。

微分作用素の列

表の 7・8 行の恒等式は、3 つの作用素を順に並べた列
$$ C^\infty(U)\xrightarrow{\ \operatorname{grad}\ }\mathfrak{X}(U)\xrightarrow{\ \operatorname{rot}\ }\mathfrak{X}(U)\xrightarrow{\ \operatorname{div}\ }C^\infty(U) $$
($\mathfrak{X}(U)$ は $U$ 上の滑らかなベクトル場の全体)で、隣り合う 2 つを続けて施すと $0$ になることを言っている。したがって、勾配として書ける場の回転は $0$、回転として書ける場の発散は $0$ である。逆向きの問い「回転が $0$ の場は勾配か」「発散が $0$ の場は回転か」が、ポテンシャルの存在の問題である。$\operatorname{rot}F=0$ の場を 渦なしの場、$F=\nabla f$ となる $f$ を $F$ の スカラーポテンシャル、$G=\operatorname{rot}A$ となる $A$ を $G$ の ベクトルポテンシャル という。
この列は微分形式の外微分の列と同じものである。ベクトル場 $F$ に 1 次形式 $\lambda_F:=F_1\,dx+F_2\,dy+F_3\,dz$ と 2 次形式 $\omega_F:=F_1\,dy\wedge dz+F_2\,dz\wedge dx+F_3\,dx\wedge dy$ を、関数 $h$ に 3 次形式 $h\,dx\wedge dy\wedge dz$ を対応させると、
$$ df=\lambda_{\nabla f},\qquad d\lambda_F=\omega_{\operatorname{rot}F},\qquad d\omega_F=(\operatorname{div}F)\,dx\wedge dy\wedge dz $$
が成り立つ(外微分 の例「$\mathbb{R}^3$ のベクトル解析」。Rud76 10.42 と Theorem 10.43 の証明、pp. 281–282)。この対応で、表の 7・8 行は $d\circ d=0$ の特別な場合になり、ポテンシャルの存在は「閉形式は完全形式か」という Poincaréの補題 の問いになる。次の節では、この問いにベクトル解析の言葉で答える。

星型の開集合の上のポテンシャル

開集合 $U$ が点 $a$ に関して 星型 であるとは、すべての $x\in U$ と $0\le t\le1$ について $a+t(x-a)\in U$ となることをいう。凸な開集合は、そのどの点に関しても星型である。

星型の開集合の上のポテンシャル

$U\subset\mathbb{R}^3$ を原点に関して星型の開集合とする。

  1. $F$ が $U$ 上の $C^1$ 級のベクトル場で $\operatorname{rot}F=0$ なら、
    $$ f(x):=\int_0^1F(tx)\cdot x\,dt $$
    は $C^2$ 級で、$\nabla f=F$ である。
  2. $G$ が $U$ 上の $C^1$ 級のベクトル場で $\operatorname{div}G=0$ なら、
    $$ A(x):=\int_0^1t\,G(tx)\times x\,dt $$
    は $C^1$ 級で、$\operatorname{rot}A=G$ である。
  3. $h$ が $U$ 上の $C^1$ 級の関数なら、
    $$ H(x):=\int_0^1t^2h(tx)\,x\,dt $$
    は $C^1$ 級で、$\operatorname{div}H=h$ である。
    $F,G,h$ が $C^\infty$ 級なら、$f,A,H$ も $C^\infty$ 級である。
積分記号下で微分し、被積分関数を $t$ の微分として書く

積分記号下の微分. $x^0\in U$ を固定し、$\delta>0$ を、$x^0$ を中心とする辺の長さ $2\delta$ の閉じた立方体 $K$ が $U$ に含まれるようにとる。星型なので、$y\in K$ と $t\in[0,1]$ について $ty\in U$ である。$\Psi(t,y)$ が $[0,1]\times K$ の上で連続で、$y$ についての偏導関数が $[0,1]\times K$ の上で連続なら、$\int_0^1\Psi(t,y)\,dt$ は $\operatorname{int}K$ の上で偏微分でき、$\partial_{y_i}\int_0^1\Psi\,dt=\int_0^1\partial_{y_i}\Psi\,dt$ で、この偏導関数は連続である(他の座標を止めて 積分記号下の微分 の定理「積分記号下の微分(Leibniz の積分法則)」を使う。偏導関数の $y$ についての連続性は、$\partial_{y_i}\Psi$ がコンパクト集合 $[0,1]\times K$ の上で一様連続であることから、同じ記事の補題「連続性」の証明と同じ議論で従う)。以下の 3 つの被積分関数はこの条件を満たすので、$f,A,H$ は $C^1$ 級で、微分を積分の中に入れてよい。同じ議論を繰り返すと、$F,G,h$ が $C^\infty$ 級なら $f,A,H$ も $C^\infty$ 級である。
1:$\operatorname{rot}F=0$ は 1 次形式 $\lambda_F$ が閉形式であることと同じであり(前の節の対応)、$f$ は 線積分 の定理「星型の開集合の上の閉形式」の原始関数($a=0$)なので $\nabla f=F$ である。$\nabla f=F$ は $C^1$ 級なので $f$ は $C^2$ 級である。
2:$t\in[0,1]$ を止め、$P(x):=t\,G(tx)$、$Q(x):=x$ とおく。thm-va-identities の 2 により
$$ \operatorname{rot}(P\times Q)=(Q\cdot\nabla)P-(P\cdot\nabla)Q+P\operatorname{div}Q-Q\operatorname{div}P $$
である。連鎖律 により $\partial_jP(x)=t^2(\partial_jG)(tx)$ なので $(Q\cdot\nabla)P=t^2\sum_jx_j(\partial_jG)(tx)$、$\operatorname{div}P=t^2(\operatorname{div}G)(tx)=0$ である。また $\partial_jQ=e_j$ なので $(P\cdot\nabla)Q=P$、$\operatorname{div}Q=3$ である。よって
$$ \operatorname{rot}\bigl(t\,G(tx)\times x\bigr)=t^2\sum_jx_j(\partial_jG)(tx)+2t\,G(tx)=\frac{d}{dt}\Bigl(t^2G(tx)\Bigr) $$
である(最後の等号は $t$ についての積の微分と連鎖律)。$t$ について $0$ から $1$ まで積分すると、微分積分学の基本定理 により $\operatorname{rot}A(x)=G(x)$ を得る。
3:同じく $\operatorname{div}\bigl(t^2h(tx)\,x\bigr)=t^2\bigl(3h(tx)+t\sum_jx_j(\partial_jh)(tx)\bigr)=\frac{d}{dt}\bigl(t^3h(tx)\bigr)$ であり(発散(ベクトル場) の命題「発散の計算規則」の 1)、積分して $\operatorname{div}H(x)=h(x)$ を得る。$\square$

1・2 は Rud76 Theorem 10.43 の (a′)・(b′)(p. 281)にあたる。同書は、凸集合と $C^2$ 級の写像で移り合う開集合の上で、微分形式の Poincaré の補題(Theorem 10.40)から導いている。ここでは星型の開集合の上で、ポテンシャルを積分で書いて直接確かめた。ポテンシャルは一意ではない。1 の $f$ には定数を足してよく、2 の $A$ には $C^2$ 級の任意の $\varphi$ の勾配 $\nabla\varphi$ を足してよい($\operatorname{rot}\nabla\varphi=0$)。

ポテンシャルを公式で求める
  1. $F=(2xy,\ x^2,\ 0)$ は $\operatorname{rot}F=(0-0,\ 0-0,\ 2x-2x)=0$ である。thm-va-potentials の 1 の式で $F(tx)\cdot x=2t^2xy\cdot x+t^2x^2\cdot y=3t^2x^2y$ なので、$f=\int_0^13t^2x^2y\,dt=x^2y$ であり、たしかに $\nabla(x^2y)=(2xy,x^2,0)$ である。
  2. 一定の場 $G=(0,0,1)$ は $\operatorname{div}G=0$ である。2 の式で $A(x)=\int_0^1t\,e_3\times x\,dt=\frac12e_3\times x=\frac12(-y,\ x,\ 0)$ であり、$\operatorname{rot}A=\bigl(0,\ 0,\ \frac12+\frac12\bigr)=(0,0,1)$ である。同じ $G$ は $A'=(-y,0,0)$ の回転でもあり、$A-A'=\frac12(y,\ x,\ 0)=\nabla\bigl(\tfrac12xy\bigr)$ は勾配である。
  3. $h=1$ なら 3 の式で $H(x)=\int_0^1t^2x\,dt=\frac13x$ であり、$\operatorname{div}H=1$ である。

星型でない開集合

thm-va-potentials の 1・2 は、星型でない開集合では成り立たないことがある。崩れ方は、開集合の「穴」の形で決まる。

渦なしの渦

$U_1:=\mathbb{R}^3\setminus\{x=y=0\}$($z$ 軸を除いた空間)の上の
$$ F:=\Bigl(\frac{-y}{x^2+y^2},\ \frac{x}{x^2+y^2},\ 0\Bigr) $$
を考える。$F_3=0$ で $F_1,F_2$ は $z$ によらないので、$\operatorname{rot}F$ の第 1・第 2 成分は $0$ であり、第 3 成分は
$$ \partial_x\frac{x}{x^2+y^2}-\partial_y\frac{-y}{x^2+y^2}=\frac{y^2-x^2}{(x^2+y^2)^2}-\frac{y^2-x^2}{(x^2+y^2)^2}=0 $$
である。しかし、$C^1$ 級の関数 $f$ で $\nabla f=F$ となるものは $U_1$ の上にない。円 $\gamma(s)=(\cos s,\sin s,0)$($0\le s\le2\pi$)に沿う線積分は $\int_0^{2\pi}F(\gamma(s))\cdot\gamma'(s)\,ds=\int_0^{2\pi}(\sin^2s+\cos^2s)\,ds=2\pi$ だが、$\nabla f$ の閉じた道に沿う線積分は $0$ だからである(線積分 の定理「線積分の基本定理」)。$U_1$ は $z$ 軸に巻き付く閉曲線をもち、その周りの循環が勾配では作れない。

点電荷の場

$U_2:=\mathbb{R}^3\setminus\{0\}$ の上の $G(x):=x/|x|^3$ は滑らかで、$\operatorname{div}G=0$ である(発散(ベクトル場) の例「基本的な場」の $n=3$)。単位球面 $S^2$ の上では外向きの単位法線は $x$ で、$G\cdot x=1$ なので、$G$ の $S^2$ を通る流束(面積分)は $S^2$ の面積 $4\pi$ に等しい。一方、$U_2$ の上の滑らかなベクトル場 $A$ について、2 次形式 $\omega_{\operatorname{rot}A}=d\lambda_A$ は完全形式なので、その $S^2$ の上の積分は $0$ である(Stokesの定理 の系「閉多様体上の積分と完全形式」の 1)。ここで、外向きの法線で向き付けた $S^2$ の上の $\omega_F$ の積分は $F$ の外向きの流束に等しい(Rud76 10.49 の式 (144)、p. 287)。よって $G$ は滑らかなベクトル場の回転にならない。$U_2$ は単連結で、閉曲線はどれも 1 点に縮むが、原点を囲む閉曲面が縮まないことが障害になっている。

微分形式との対応により、開集合 $U$ の上で「回転が $0$ の滑らかな場はすべて勾配」であることは $U$ の 1 次の de Rham コホモロジー $H^1_{dR}(U)$ が $0$ であることと同じであり、「発散が $0$ の滑らかな場はすべて滑らかな場の回転」であることは $H^2_{dR}(U)=0$ と同じである(de Rhamコホモロジー)。2 つの例は、それぞれ $H^1_{dR}(U_1)\ne0$ と $H^2_{dR}(U_2)\ne0$ を示している。単連結な開集合の上では、回転が $0$ の $C^1$ 級の場は勾配である(線積分 の注意「多様体の上の線積分とホモトピー不変性」)。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
$U$ が星型(thm-va-potentials の 1)$z$ 軸を除いた空間の上の $F=\dfrac{(-y,x,0)}{x^2+y^2}$回転が $0$ の場は勾配である
$U$ が星型(thm-va-potentials の 2、滑らかな場合)原点を除いた空間の上の $G=x/\lvert x\rvert^3$発散が $0$ の場は滑らかな場の回転である
$f$ が $C^2$ 級(表の 7 行)$f=\dfrac{xy(x^2-y^2)}{x^2+y^2}$(原点で $f=0$)、$z$ によらない関数とみる$\operatorname{rot}(\nabla f)=0$
表の確かめ

1 行目は ex-va-vortex、2 行目は ex-va-point-charge である。どちらも、場そのものは定義された開集合の上で滑らかで、外しているのは開集合が星型であることだけである。
3 行目:$f$ は $\mathbb{R}^3$ の上で $C^1$ 級で、$\partial_xf(0,y,z)=-y$、$\partial_yf(x,0,z)=x$ である(偏微分 の例「反例:2 階の偏導関数の順序を交換できない関数」)。$\nabla f=(\partial_xf,\partial_yf,0)$ は $C^1$ 級でないが、回転の式は成分の偏導関数が存在する点で各点ごとに意味をもつ(回転(ベクトル場) の定義「回転」)。その第 3 成分は $\partial_x(\partial_yf)-\partial_y(\partial_xf)$ で、原点では $1-(-1)=2$ である。よって $\operatorname{rot}(\nabla f)(0)=(0,0,2)\ne0$ である。$f$ は原点で $C^2$ 級でなく、2 階の偏微分の順序を交換できない。

積分定理

ベクトル解析の 3 つの微分作用素は、それぞれ 1 つの積分定理をもつ。どれも「領域の内部での微分の積分は、境界での値の積分に等しい」という形で、微分形式の Stokesの定理 $\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omega$ の特別な場合である。

定理式微分形式での形記事
線積分の基本定理$\int_\gamma\nabla f\cdot d\mathbf{r}=f(\gamma(b))-f(\gamma(a))$$\int_\gamma df$線積分
Green の定理$\oint_{\partial D}P\,dx+Q\,dy=\iint_D(Q_x-P_y)\,dx\,dy$平面の 1 次形式Greenの定理
Stokes の定理(曲面)$\iint_S\operatorname{rot}F\cdot n\,dS=\oint_{\partial S}F\cdot d\mathbf{r}$$\int_Sd\lambda_F=\int_{\partial S}\lambda_F$Stokesの定理
Gauss の発散定理$\iiint_\Omega\operatorname{div}F\,dV=\iint_{\partial\Omega}F\cdot n\,dS$$\int_\Omega d\omega_F=\int_{\partial\Omega}\omega_F$Gaussの発散定理

Green の定理は、平面の場 $(P,Q,0)$ に Stokes の定理を当てたものと見ることもできる。曲面についての Stokes の定理と発散定理のベクトルの形は Rud76 10.50・10.51(pp. 287–288)にあり、向き付けられた Riemann 3 次元多様体の上の曲面についての形は Lee13 Theorem 16.34(p. 427)にある。微分形式の形は Stokesの定理 の系「古典的な積分定理」である。
これらの定理から、発散と回転の「密度」としての意味が出る。小さな箱に発散定理を当てると、箱から流れ出る量を体積で割ったものが発散に近づき(発散(ベクトル場))、小さな円板に Stokes の定理(平面に移して Green の定理)を当てると、円に沿う循環を面積で割ったものが回転の法線方向の成分に近づく(回転(ベクトル場))。

補足

一般の次元と曲線座標

$\mathbb{R}^n$ では、勾配・発散・Laplace 作用素は同じ式で定まり、勾配は関数($0$ 次形式)の外微分に、発散は $(n-1)$ 次形式の外微分に対応する(Lee13 Exercise 14.28 の後半、p. 368)。回転にあたるのは、成分 $\partial_iF_j-\partial_jF_i$ をもつ反対称行列、すなわち 2 次形式 $d\lambda_F$ であり、これが再びベクトル場とみなせるのは、2 次形式と 1 次形式の成分の個数 $\binom n2$ と $n$ が等しい $n=3$ のときだけである($n=2$ では 1 成分のスカラーになる)。Lee13 の式 (14.27)(p. 368)が $\mathbb{R}^3$ でのこの対応を図式で示している。
座標を取り替えると、成分の偏導関数の式はそのままでは使えない。直交変換で座標を替えるときは、勾配と回転は同じ式で計算でき(回転は向きを逆にする変換で符号が変わる。回転(ベクトル場) の定理「直交変換と回転」)、発散も変わらない(発散(ベクトル場) の命題「線形な座標変換での不変性」)。極座標・球座標のような曲がった座標では、計量を使って作用素を書き直す必要がある。Riemann 多様体の上では、勾配は計量で微分 $df$ をベクトル場に直したもの、発散は体積形式を使って $d(\iota_XdV_g)=(\operatorname{div}X)\,dV_g$ で定め(発散(ベクトル場) の定義「Riemann 多様体の上の発散」)、回転は向き付けられた 3 次元の場合に $\iota_{\operatorname{rot}X}dV_g=d(X^\flat)$ で定める(Lee13 式 (16.14)、p. 426)。微分形式の言葉では、Hodge の $\ast$ 作用素(Hodgeのスター作用素)を使って $\operatorname{div}$ と $\operatorname{rot}$ を外微分に書き直せる。

関連項目

参考文献

[1]
Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, McGraw-Hill, 1976, 10.42(勾配・回転・発散と 1 形式・2 形式、p. 281)、Theorem 10.43(pp. 281–282)、10.49 の式 (144)(p. 287)、10.50 Stokes' formula・10.51 The divergence theorem(pp. 287–288)
[2]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, 2013, 式 (14.27) と Exercise 14.28(p. 368)、式 (16.14)・(16.15)(p. 426)、Theorem 16.34(p. 427)

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