Sorgenfrey平面(Sorgenfrey plane)とは、半開区間を開基とする Sorgenfrey 直線 $\mathbb{R}_L$ の自分自身との直積 $\mathbb{R}_L\times\mathbb{R}_L$ であり、半開長方形 $[a,b)\times[c,d)$ の全体を開基にもつ。第1可算・可分・完全正則な Hausdorff 空間だが、反対角線 $\{(x,-x)\}$ が連続体濃度の閉離散集合になるため、Lindelöf 空間でも正規空間でもなく、パラコンパクトでも距離化可能でもない。因子の $\mathbb{R}_L$ は完全正規かつ Lindelöf でパラコンパクトなので、これらの性質が 2 つの空間の直積でも保たれないことを示す標準的な反例である。
前提知識: Sorgenfrey直線, 直積位相, 正規空間
Sorgenfrey 平面(Sorgenfrey plane)とは、Sorgenfrey直線 $\mathbb{R}_L$ の自分自身との直積 $\mathbb{R}_L\times\mathbb{R}_L$ のことである。点 $(x,y)$ の近さを、右上に開いた正方形 $[x,x+\varepsilon)\times[y,y+\varepsilon)$ で測る平面だと言ってよい。
Sorgenfrey 直線は正規で Lindelöf でパラコンパクトという、よい性質をそろえた空間である。ところがその 2 つの直積をとると、これらの性質がすべて失われる。原因は反対角線 $\{(x,-x)\mid x\in\mathbb{R}\}$ にある。反対角線上の点を左下の角とする半開正方形は、反対角線とその角の 1 点でしか交わらないので、反対角線は非可算な離散集合として平面の中に閉じた形で埋まっている。一方で平面は可分であり、有理点だけで全体を近似できる。この「可算個の点で近似できるのに、非可算個の点がばらばらに並ぶ」という食い違いが、Lindelöf 性と正規性を壊す。この記事では、平面の基本的な性質を確かめてから、Lindelöf でないこと、正規でないことを 2 通りの方法で証明する。
Sorgenfrey直線 $\mathbb{R}_L$(半開区間 $[a,b)$ の全体を開基とする実数直線)の直積空間 $\mathbb{R}_L\times\mathbb{R}_L$ を Sorgenfrey 平面 といい、$\mathbb{R}_L^2$ と書く。その位相を $\mathcal{O}_{L^2}$ と書く。
以下、$\mathbb{R}^2$ の通常の Euclid 位相を $\mathcal{O}_{E^2}$ と書き、
$$
Q(x,y;\varepsilon)=[x,x+\varepsilon)\times[y,y+\varepsilon)\qquad(\varepsilon>0)
$$
を点 $(x,y)$ を左下の角とする半開正方形とよぶ。
平面の中の直線にどのような位相が入るかを見ると、平面の特徴がはっきりする。
$c\in\mathbb{R}$ とし、$\mathbb{R}_L^2$ の部分空間として次の 3 つを考える。
$$
H_c=\mathbb{R}\times\{c\},\qquad \Delta^+=\{(x,x)\mid x\in\mathbb{R}\},\qquad \Delta^-=\{(x,-x)\mid x\in\mathbb{R}\}.
$$
傾きが負の直線 $y=-mx+k$($m>0$)でも、2 と同じ計算で相対位相は離散になる。右下がりの直線上の点を左下の角とする半開正方形は、その直線と角の 1 点でしか交わらない。
$\mathbb{R}_L^2$ は第2可算公理を満たさず、局所コンパクトでもない。
第2可算性は部分空間に遺伝する(第2可算公理 の命題「部分空間への遺伝」)。$\mathbb{R}_L^2$ が第2可算ならば、その部分空間 $H_0$、したがって prop-sorgenfrey-plane-lines の 1 により $\mathbb{R}_L$ も第2可算になるが、これは Sorgenfrey直線 の命題「第2可算公理を満たさないこと」に反する。
点 $(x,y)$ がコンパクトな近傍 $N$ をもつとする。第 1 成分への射影 $\pi_1\colon\mathbb{R}_L^2\to\mathbb{R}_L$ は連続なので $\pi_1(N)$ は $\mathbb{R}_L$ のコンパクト集合であり、$N\supseteq Q(x,y;\varepsilon)$ から $\pi_1(N)\supseteq[x,x+\varepsilon)$ は非可算である。これは Sorgenfrey直線 の命題「コンパクト部分集合の可算性」に反する。$\square$
$\mathbb{R}_L^2$ は Lindelöf空間でない。また、可分な $\mathbb{R}_L^2$ の閉部分空間 $\Delta^-$ は可分でない。
各 $x\in\mathbb{R}$ について $B_x=Q(x,-x;1)$ とおき、
$$
\mathcal{U}=\{\mathbb{R}^2\setminus\Delta^-\}\cup\{B_x\mid x\in\mathbb{R}\}
$$
を考える。prop-sorgenfrey-plane-lines の 2 により $\mathbb{R}^2\setminus\Delta^-$ は開であり、$\Delta^-$ の各点 $(x,-x)$ は $B_x$ に含まれるので、$\mathcal{U}$ は開被覆である。同じく 2 により $B_x\cap\Delta^-=\{(x,-x)\}$ なので、点 $(x,-x)$ を含む $\mathcal{U}$ の元は $B_x$ だけである。したがって $\mathcal{U}$ の部分被覆はすべての $B_x$($x\in\mathbb{R}$)を含み、非可算である。高々可算な部分被覆は存在しない。
$\Delta^-$ は非可算な離散空間であり、その稠密部分集合は $\Delta^-$ 自身しかない(一点集合が開だから)。よって $\Delta^-$ は可分でない。$\square$
同じ結論は、Lindelöf 性が閉部分空間に遺伝すること(Lindelöf空間 の命題「閉部分空間への遺伝」)と、非可算な離散空間 $\Delta^-$ が Lindelöf でないことからも得られる。Sorgenfrey直線 は Lindelöf なので、thm-sorgenfrey-plane-not-lindelof は Lindelöf 性が有限個の直積でも保たれない ことを示している。また後半は、可分性が閉部分空間にさえ遺伝しないことの、Hausdorff で完全正則な空間での例になっている。
$\mathbb{R}_L^2$ は正規空間でない。すなわち、交わらない閉集合 $A,B$ であって、$A\subseteq U$、$B\subseteq V$、$U\cap V=\emptyset$ となる開集合 $U,V$ が存在しないものがある。
$\mathbb{R}_L^2$ が正規であると仮定して矛盾を導く。$D=\mathbb{Q}^2$ とおく。
段 1:単射 $\Phi\colon\mathcal{P}(\Delta^-)\to\mathcal{P}(D)$ を作る。$S\subseteq\Delta^-$ とすると、prop-sorgenfrey-plane-lines の 3 により $S$ と $\Delta^-\setminus S$ はともに $\mathbb{R}_L^2$ の閉集合で、互いに交わらない。正規性により、交わらない開集合 $U_S\supseteq S$、$V_S\supseteq\Delta^-\setminus S$ を、各 $S$ について一つずつ選ぶ(選択公理を用いる)。$\Phi(S)=U_S\cap D$ とおく。
$S\ne T$ とし、$p\in S\setminus T$ とする($p\in T\setminus S$ のときは $S$ と $T$ を入れ替える)。$p\in S\subseteq U_S$ かつ $p\in\Delta^-\setminus T\subseteq V_T$ なので、$U_S\cap V_T$ は空でない開集合であり、prop-sorgenfrey-plane-basic の 2 により $D$ の点 $q$ を含む。$q\in V_T$ と $U_T\cap V_T=\emptyset$ から $q\notin U_T$ である。よって $q\in\Phi(S)\setminus\Phi(T)$ であり、$\Phi$ は単射である。
段 2:単射 $\psi\colon\mathcal{P}(D)\to\mathbb{R}$ を作る。$D$ は可算無限集合なので全単射 $e\colon\mathbb{N}_{\ge1}\to D$ をとる。$T\subseteq D$ に対し
$$
\psi(T)=\sum_{n\ge1,\ e(n)\in T}10^{-n}
$$
とおく。$T\ne T'$ とし、$e(n)$ が $T$ と $T'$ の一方だけに属するような最小の $n$ を $m$ とする。$e(m)\in T$、$e(m)\notin T'$ としてよい。$n< m$ の項は打ち消し合うので
$$
\psi(T)-\psi(T')\ge10^{-m}-\sum_{n>m}10^{-n}=10^{-m}-\frac{10^{-m}}{9}>0
$$
であり、$\psi$ は単射である。
段 3:$\iota(x)=(x,-x)$ は $\mathbb{R}$ から $\Delta^-$ への全単射なので、$X\mapsto\iota(X)$ は単射 $\mathcal{P}(\mathbb{R})\to\mathcal{P}(\Delta^-)$ である。これと $\Phi$、$\psi$ を合成すると、単射 $\mathcal{P}(\mathbb{R})\to\mathbb{R}$ が得られる。しかし任意の集合 $X$ について $\mathcal{P}(X)$ から $X$ への単射は存在しない(Cantorの定理 の定理「Cantorの定理」の 3)。これは矛盾である。$\square$
この証明の要点は、正規な可分空間では閉離散集合 $D'$ の部分集合が $2^{|D'|}$ 個あるのに、それらを可算稠密集合の部分集合 $2^{\aleph_0}$ 個で区別できてしまうことにある。一般の形は「可分な正規空間の閉離散集合の濃度は連続体濃度より小さい」であり、Niemytzki平面 の補題「可分な正規空間の閉離散集合」で扱われている(Jones の補題)。Niemytzki 平面も同じ理由で正規でない。
prf-sorgenfrey-not-normal は、どの 2 つの閉集合が分離できないのかを教えない。次の命題は、反対角線の有理点と無理点が分離できないことを示す。
$$
A=\{(x,-x)\mid x\in\mathbb{Q}\},\qquad B=\{(x,-x)\mid x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}\}
$$
は $\mathbb{R}_L^2$ の交わらない閉集合であり、$A\subseteq U$、$B\subseteq V$ を満たす開集合 $U,V$ は必ず交わる。
$A,B\subseteq\Delta^-$ なので、prop-sorgenfrey-plane-lines の 3 により閉集合である。$V$ を $B$ を含む開集合とする。
段 1:$n\ge1$ について
$$
K_n=\{x\in[0,1]\setminus\mathbb{Q}\mid Q(x,-x;1/n)\subseteq V\}
$$
とおく。無理数 $x\in[0,1]$ については $(x,-x)\in B\subseteq V$ なので、prop-sorgenfrey-plane-basis の 2 により $Q(x,-x;\varepsilon)\subseteq V$ となる $\varepsilon$ があり、$1/n< \varepsilon$ ならば $x\in K_n$ である。したがって
$$
[0,1]=\bigcup_{n\ge1}\overline{K_n}\ \cup\bigcup_{r\in\mathbb{Q}\cap[0,1]}\{r\}
$$
である。ここで $\overline{K_n}$ は $[0,1]$ の通常の位相での閉包とする。右辺は可算個の閉集合の合併である。
段 2:$[0,1]$ は空でない完備距離空間なので、Baireのカテゴリー定理 の系「閉集合による可算被覆」により、右辺の閉集合のどれかは $[0,1]$ の中で空でない内部をもつ。一点集合 $\{r\}$ の内部は空なので、ある $n$ について $\overline{K_n}$ の内部は空でなく、開区間 $(a,b)$($0\le a< b\le1$)を含む。このとき $K_n$ は $(a,b)$ で稠密である。
段 3:有理数 $q\in(a,b)$ をとり、点 $(q,-q)\in A$ の任意の半開正方形 $Q(q,-q;\delta)$ が $V$ と交わることを示す。$0< \varepsilon< \min\{\delta,1/n\}$ をとる。開区間 $(\max\{a,q-\varepsilon\},q)$ は $(a,b)$ の空でない開部分区間なので、$K_n$ の点 $y$ を含む。このとき $q-\varepsilon< y< q$ なので
$$
y< q< y+\varepsilon< y+\frac1n,\qquad -y< -q+\varepsilon< -y+\frac1n
$$
である(後者の左の不等号は $y>q-\varepsilon$、右の不等号は $q-y>0>\varepsilon-1/n$ による)。よって点 $(q,-q+\varepsilon)$ は $Q(y,-y;1/n)\subseteq V$ に属する。一方 $0< \varepsilon< \delta$ なので $(q,-q+\varepsilon)\in Q(q,-q;\delta)$ でもある。
段 4:$U$ を $A$ を含む開集合とすると、$(q,-q)\in U$ から $Q(q,-q;\delta)\subseteq U$ となる $\delta>0$ があり、段 3 によりこれは $V$ と交わる。よって $U\cap V\ne\emptyset$ である。$\square$
prop-sorgenfrey-plane-rational-irrational は thm-sorgenfrey-not-normal の別証明になっている。こちらは濃度の議論を使わず、各 $S$ について開集合を選ぶ操作もしない。
1 は、Urysohnの補題 から正規性の仮定を外せないこと、とくに完全正則な空間でも交わらない閉集合を連続関数で分けられるとは限らないことを示している。点と閉集合は関数で分けられる(prop-sorgenfrey-plane-basic の 3)が、閉集合どうしは分けられない。
Sorgenfrey直線 で成り立つ性質のうち、平面に持ち越せるものと持ち越せないものは次のとおりである。直線の欄の主張と証明は Sorgenfrey直線 の記事にある。
| 性質 | $\mathbb{R}_L$ | $\mathbb{R}_L^2$ | 平面についての根拠 |
|---|---|---|---|
| 第1可算・可分 | はい | はい | prop-sorgenfrey-plane-basic |
| Hausdorff・完全正則 | はい | はい | prop-sorgenfrey-plane-basic |
| 第2可算 | いいえ | いいえ | cor-sorgenfrey-plane-not-second-countable |
| 局所コンパクト | いいえ | いいえ | cor-sorgenfrey-plane-not-second-countable |
| Lindelöf | はい | いいえ | thm-sorgenfrey-plane-not-lindelof |
| 正規 | はい(完全正規) | いいえ | thm-sorgenfrey-not-normal |
| パラコンパクト | はい | いいえ | cor-sorgenfrey-plane-consequences |
| 距離化可能 | いいえ | いいえ | cor-sorgenfrey-plane-consequences |
直線が完全正則であることは、prf-sorgenfrey-plane-basic の 3 と同じ議論で示せる。点 $x$ を含まない閉集合 $F$ に対し、$[x,x+\varepsilon)\cap F=\emptyset$ となる $\varepsilon$ をとると、$[x,x+\varepsilon)$ は開かつ閉なので、その特性関数を $1$ から引いた関数が $x$ と $F$ を分ける連続関数になる。
Lindelöf 性・正規性・パラコンパクト性は、いずれも 2 つの空間の直積で失われうる。一方、第1可算性・可分性・Hausdorff 性・完全正則性は有限個の直積で保たれる性質であり、表の上の 2 行はその例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 一方の因子のコンパクト性(パラコンパクト空間とコンパクト空間の直積はパラコンパクト、パラコンパクト空間 の命題「コンパクト空間との直積」) | $\mathbb{R}_L\times\mathbb{R}_L$(第 2 因子はパラコンパクトだがコンパクトでない) | 直積のパラコンパクト性 |
| 因子の第2可算性(第2可算空間の有限直積は第2可算、とくに Lindelöf。第2可算公理 の命題「可算個の直積」「三つの帰結」) | $\mathbb{R}_L\times\mathbb{R}_L$(因子は Lindelöf だが第2可算でない) | 直積の Lindelöf 性 |
| 正規性(Urysohnの補題) | $\mathbb{R}_L^2$ の $A,B$(完全正則だが正規でない) | 交わらない閉集合を連続関数で分けること |
| 距離化可能性(可分な距離空間の部分空間は可分。第2可算公理 の定理「距離空間における同値性」と命題「部分空間への遺伝」から従う) | $\mathbb{R}_L^2$ の $\Delta^-$ | 閉部分空間の可分性 |
| 直線の傾きが $0$ または $1$ であること(prop-sorgenfrey-plane-lines の 1) | 反対角線 $\Delta^-$ | 直線が $\mathbb{R}_L$ と同相であること(離散になる) |
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