Banach–Saksの定理

同義語:Banach-Saksの定理Banach–Saks性Banach–Saksの性質Banach–Saks theoremBanach–Saks property

概要

Banach–Saksの定理(Banach–Saks theorem)とは、Hilbert 空間で弱収束する点列から部分列を選び、その算術平均(Cesàro 平均)がノルムで弱極限に収束するようにできるという定理で、部分列を内積が小さくなるように帰納的に選び、平均のノルムの 2 乗を展開して評価することで証明される。この性質を Banach–Saks 性といい、一様凸な Banach 空間、とくに $1<p<\infty$ の $L^p$ 空間ももつ(角谷の定理)。部分列を選ぶことは外せず、$\ell^1$ は弱収束列については成り立つが有界列については成り立たない。Mazurの補題の凸結合を等しい重みに固定した形にあたる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Hilbert空間, 弱収束(Banach空間), Mazurの補題

無限次元のノルム空間では、弱収束する点列が強収束(ノルムで収束)するとは限らない。Mazurの補題 は、弱収束する点列の有限個の凸結合をうまく選べば強収束する列が作れることを保証するが、凸結合の係数がどうなるかは何も言わない。Banach–Saks の定理(Banach–Saks theorem)は、Hilbert 空間ではこの係数を最も単純な形、すなわち部分列の算術平均にとれることを述べる。
弱収束する点列から部分列を選び、その算術平均(Cesàro 平均)が強収束するようにできる空間は、Banach–Saks 性 をもつという。Hilbert 空間に加えて、一様凸な Banach 空間、とくに $1< p<\infty$ の $L^p$ 空間もこの性質をもつ(角谷静夫(Shizuo Kakutani)の定理)。部分列を選ぶことは外せず、$\ell^1$ のように弱収束列については成り立っても有界列については成り立たない空間もある。
以下 $X$ は実または複素のノルム空間、$H$ は Hilbert 空間で内積を $\langle\cdot,\cdot\rangle$ と書き、弱位相 $\sigma(X,X^*)$ での収束を $x_n\rightharpoonup x$ と書く。点列 $(x_n)$ の Cesàro 平均 を $\sigma_N=\frac1N\sum_{n=1}^Nx_n$ とする。

定義

Banach–Saks性

ノルム空間 $X$ について、

  1. $X$ が Banach–Saks 性 をもつとは、$X$ の任意の有界な点列 $(x_n)$ が、Cesàro 平均 $\frac1N\sum_{k=1}^Nx_{n_k}$ がノルムで収束する部分列 $(x_{n_k})$ をもつことをいう。
  2. $X$ が 弱 Banach–Saks 性 をもつとは、$X$ で弱収束する任意の点列 $(x_n)$ が、Cesàro 平均がノルムで収束する部分列をもつことをいう。

弱収束する点列は有界なので(弱位相(関数解析) の命題「弱収束列の基本性質」の 2)、1 をもつ空間は 2 ももつ。2 の Cesàro 平均の極限は、次の補題により弱極限と一致する。

Cesàro平均の弱収束

$x_n\rightharpoonup x$ なら、Cesàro 平均も $\sigma_N\rightharpoonup x$ を満たす。とくに、部分列の Cesàro 平均がノルムで収束するなら、その極限は $x$ である。

$f\in X^*$ を固定し、$a_n=f(x_n)-f(x)$ とおくと $a_n\to0$ で、$f(\sigma_N)-f(x)=\frac1N\sum_{n\le N}a_n$ である。$\varepsilon>0$ に対し、$n>m$ なら $|a_n|<\varepsilon$ となる $m$ をとり、$A=\sum_{n\le m}|a_n|$ とおくと、$N>m$ について
$$ \Bigl|\frac1N\sum_{n\le N}a_n\Bigr|\le\frac AN+\frac{N-m}N\varepsilon<\frac AN+\varepsilon $$
である。$N\to\infty$ で上極限は $\varepsilon$ 以下となり、$\varepsilon$ は任意なので $f(\sigma_N)\to f(x)$ である。部分列 $(x_{n_k})$ も $x$ に弱収束するので、その Cesàro 平均も $x$ に弱収束する。ノルムで収束すれば弱収束もするので、極限は弱極限の一意性(弱位相の Hausdorff 性)から $x$ に等しい。

この補題は Bre11 Exercise 3.2(pp. 79–80)の形である。

Hilbert 空間での Banach–Saks の定理

Banach–Saksの定理

Hilbert 空間 $H$ の点列が $x_n\rightharpoonup x$ を満たすなら、部分列 $(x_{n_k})$ で
$$ \Bigl\|\frac1N\sum_{k=1}^Nx_{n_k}-x\Bigr\|\to0\qquad(N\to\infty) $$
となるものがある。

$y_n=x_n-x$ とおくと $y_n\rightharpoonup0$ であり、$\frac1N\sum_k x_{n_k}-x=\frac1N\sum_ky_{n_k}$ なので、$y_n$ について示せばよい。$M=\sup_n\|y_n\|$ は有限である(弱収束列の有界性)。
部分列を帰納的に選ぶ。$n_1=1$ とする。$n_1<\dots< n_{k-1}$ まで決まったとき、各 $j< k$ について $y\mapsto\langle y,y_{n_j}\rangle$ は $H$ 上の連続線形汎関数だから、$y_m\rightharpoonup0$ より $\langle y_m,y_{n_j}\rangle\to0$($m\to\infty$)である。有限個の $j$ について同時に成り立つように、$n_k>n_{k-1}$ を
$$ |\langle y_{n_k},y_{n_j}\rangle|\le2^{-k}\qquad(1\le j< k) $$
となるように選べる。$s_N=\sum_{k=1}^Ny_{n_k}$ とおくと、内積を展開して
$$ \|s_N\|^2=\sum_{k=1}^N\|y_{n_k}\|^2+2\operatorname{Re}\sum_{k=2}^N\sum_{j< k}\langle y_{n_k},y_{n_j}\rangle\le NM^2+2\sum_{k=2}^N(k-1)2^{-k}\le NM^2+2 $$
である($\sum_{k\ge2}(k-1)2^{-k}=1$)。したがって
$$ \Bigl\|\frac{s_N}N\Bigr\|^2\le\frac{M^2}N+\frac2{N^2}\to0 $$
となる。

この定理は Bre11 Exercise 5.24(p. 153)の形で、そこでは $|\langle y_{n_j},y_{n_k}\rangle|\le1/k$ と選ぶ。どちらの選び方でも、交差項の和が対角の和 $NM^2$ に比べて小さくなることが要点で、平均のノルムは $O(N^{-1/2})$ で $0$ に近づく。内積による展開 $\|s_N\|^2=\sum\|y_{n_k}\|^2+2\operatorname{Re}\sum\langle y_{n_k},y_{n_j}\rangle$ と、交差項の内積を小さくする部分列の選び方が、この証明で内積を使う箇所である。

Hilbert空間のBanach–Saks性

Hilbert 空間は Banach–Saks 性をもつ。すなわち、有界な点列は、Cesàro 平均がノルムで収束する部分列をもつ。

Hilbert 空間は反射的なので(反射的Banach空間 の命題「Hilbert 空間は反射的」)、有界な点列は弱収束する部分列をもつ(同記事の定理「有界列の弱収束部分列」)。その部分列に thm-bs-hilbert を使い、部分列の部分列をとればよい。

これは Bre11 Exercise 5.24 の 2 の形である。

例

正規直交系

$(e_n)$ を Hilbert 空間の正規直交系とすると $e_n\rightharpoonup0$ であり(Besselの不等式 の定理「Besselの不等式」により各 $y$ で $\langle e_n,y\rangle\to0$)、部分列をとらなくても $\bigl\|\frac1N\sum_{n\le N}e_n\bigr\|=N^{-1/2}\to0$ である。交差項がすべて $0$ なので、thm-bs-hilbert の証明の選び方が最初から満たされている。

部分列が必要な例

$\ell^2$ の標準基底 $e_k$($k\ge1$)を使い、$k!\le n<(k+1)!$ のとき $x_n=e_k$ とおく。$e_1$ を $1$ 回、$e_2$ を $4$ 回、$e_3$ を $18$ 回、一般に $e_k$ を $k\cdot k!$ 回並べた列である。$n\to\infty$ で $k\to\infty$ であり $e_k\rightharpoonup0$ だから $x_n\rightharpoonup0$ である。
$N=(K+1)!-1$ までの Cesàro 平均は $\frac1N\sum_{k=1}^Kk\cdot k!\,e_k$ で、その $e_K$ 成分の大きさは
$$ \frac{K\cdot K!}{(K+1)!-1}>\frac{K\cdot K!}{(K+1)!}=\frac K{K+1} $$
である。成分は $\ell^2$ ノルム以下なので $\|\sigma_N\|_2>K/(K+1)$ となり、$\sigma_N$ は $0$ に強収束しない(強収束するならこの部分列のノルムも $0$ に近づくはずである)。一方、各ブロックから一つずつとった部分列 $x_{k!}=e_k$ は正規直交系なので、ex-bs-orthonormal によりその Cesàro 平均は $0$ に強収束する。

一様凸空間:角谷の定理

Banach と Saks は $1< p<\infty$ の $L^p$ 空間について、弱収束する点列が Cesàro 平均の強収束する部分列をもつことを示した(1930 年。Kak39 p. 188 による)。角谷静夫はこれを一様凸な空間に広げた(Kak39)。一様凸性の定義は 一様凸Banach空間 の定義「一様凸Banach空間」に従う。

角谷の定理(Banach–Saks性)

一様凸な Banach 空間は弱 Banach–Saks 性をもつ。すなわち、$x_n\rightharpoonup x$ なら、部分列 $(x_{n_k})$ で $\frac1N\sum_{k=1}^Nx_{n_k}\to x$(ノルムで)となるものがある。

証明の所在

この定理はこの記事では証明しない。主張は Kak39 p. 188 の Theorem にあり、証明は pp. 189–193 にある。証明は、一様凸性を使って、組の平均のノルムが元の上界の定数倍(定数 $\theta<1$ は空間だけで決まる)以下になるように項を二つずつ組にして選び、組の平均の列にまた同じ操作をくり返すものである。Hilbert 空間の prf-bs-hilbert が内積の展開で一度に評価したところを、一様凸性による段階的な縮小で置き換えている。

一様凸空間と $L^p$ 空間のBanach–Saks性

一様凸な Banach 空間は Banach–Saks 性をもつ。とくに、$\Omega\subset\mathbb R^N$ を可測集合、$1< p<\infty$ とすると、$L^p(\Omega)$ は Banach–Saks 性をもつ。

一様凸な Banach 空間は反射的なので(一様凸Banach空間 の定理「Milman–Pettisの定理」)、有界な点列は弱収束する部分列をもつ(反射的Banach空間 の定理「有界列の弱収束部分列」)。その部分列に thm-bs-kakutani を使えばよい。$L^p(\Omega)$ が一様凸であることは、$p\ge2$ では 一様凸Banach空間 の命題「$p\ge2$ の $L^p$ 空間」、$1< p<2$ では Clarksonの不等式 の系「$L^p$ の一様凸性」による。

同値なノルムでの不変性と角谷の定理の逆

同値なノルムでの不変性

ノルム空間 $X$ の二つのノルムが同値なら、Banach–Saks 性と弱 Banach–Saks 性は、一方のノルムでもつことと他方のノルムでもつことが同値である。

同値なノルムは同じ有界集合、同じノルム収束の点列、同じ開集合をもつ(ノルム空間 の命題「同値なノルムが共有するもの」)。開集合が同じなので連続な線形汎関数も同じであり、連続双対が一致する。連続双対が同じなので弱収束も同じである。Banach–Saks 性と弱 Banach–Saks 性の定義は、有界性・弱収束・ノルム収束だけで書かれているので、両方のノルムで同時に成り立つか同時に成り立たない。

一様凸性はノルムの形の性質であり、同値なノルムに替えると失われることがある。たとえば $\ell^2$ に $N(x)=\max\bigl(|x_1|,(\sum_{n\ge2}|x_n|^2)^{1/2}\bigr)$ を入れると、$N\le\|\cdot\|_2\le\sqrt2N$ なので同値なノルムだが、$N(e_1)=N(e_1+e_2)=1$ かつ中点 $e_1+\frac12e_2$ も $N=1$ なので、単位球面が線分を含み、一様凸でない。cor-bs-bounded と prop-bs-renorm により $(\ell^2,N)$ は Banach–Saks 性をもつ。したがって thm-bs-kakutani の逆は成り立たない(Kak39 p. 189 も、同じ空間でもノルムによって一様凸かどうかが変わることから逆が成り立たないと注意している)。

$\ell^1$:弱収束列と有界列の違い

$\ell^1$

$\ell^1$ では弱収束する点列はノルムで収束する(ℓp空間 の定理「Schurの定理」)。ノルムで収束する点列の Cesàro 平均は同じ極限にノルムで収束するので(lem-bs-cesaro の証明で $a_n=\|x_n-x\|$ とすればよい)、$\ell^1$ は弱 Banach–Saks 性をもつ。
一方、有界な点列 $e_n$(標準基底)は、どの部分列 $(e_{n_k})$ をとっても Cesàro 平均 $\sigma_N=\frac1N\sum_{k\le N}e_{n_k}$ が $\|\sigma_N\|_1=1$ を満たし、各座標は $N\to\infty$ で $0$ に近づく(第 $m$ 座標は $1/N$ か $0$ である)。ノルムで収束するなら極限は座標ごとの極限 $0$ でなければならないが、$\|\sigma_N\|_1=1$ なので矛盾する。よって $\ell^1$ は Banach–Saks 性をもたない。

$\ell^1$ は反射的でなく、cor-bs-bounded の証明の「有界列から弱収束部分列をとる」段が使えない。弱収束の仮定と有界性の仮定の差が、ここで現れる。

応用:凸関数の弱下半連続性

Banach–Saks の定理から、Hilbert 空間の連続な凸関数が弱下半連続であることが、Hahn–Banach の定理を経由せずに直接従う。

連続な凸関数の弱下半連続性

$\varphi\colon H\to\mathbb R$ を連続な凸関数とする。$x_n\rightharpoonup x$ なら $\varphi(x)\le\liminf_n\varphi(x_n)$ である。

$L=\liminf_n\varphi(x_n)$ とし、$L<+\infty$ としてよい。$\varphi(x_{m_j})\to L$ となる部分列をとる($L=-\infty$ なら $\varphi(x_{m_j})\to-\infty$)。$x_{m_j}\rightharpoonup x$ なので、thm-bs-hilbert によりさらに部分列 $z_k=x_{m_{j_k}}$ を選んで $\sigma_N=\frac1N\sum_{k\le N}z_k\to x$(ノルムで)とできる。凸性から
$$ \varphi(\sigma_N)\le\frac1N\sum_{k=1}^N\varphi(z_k) $$
であり、右辺は収束する数列 $\varphi(z_k)\to L$ の Cesàro 平均なので $L$ に近づく($L=-\infty$ のときは $-\infty$ に発散する)。左辺は $\varphi$ の連続性により $\varphi(x)$ に近づく。$\varphi(x)$ は実数なので $L=-\infty$ はありえず、$\varphi(x)\le L$ である。

一般のノルム空間では、同じ結論が Mazurの補題 の系「凸関数の弱下半連続性」で、凸集合の弱閉性から示される。Banach–Saks の定理は凸結合の係数を等しい重みに固定できる分だけ Mazur の補題より強く、その代わり、ノルム空間一般に対する結論ではない。この記事で弱 Banach–Saks 性を確かめたのは、証明した Hilbert 空間(thm-bs-hilbert)、引用した角谷の定理(thm-bs-kakutani)による一様凸空間、prop-bs-renorm で同値なノルムへ移した空間、$\ell^1$(ex-bs-l1)である。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
部分列をとることex-bs-subsequence の列列全体の Cesàro 平均の強収束
平均をとること$\ell^2$ の標準基底 $e_n$部分列そのものの強収束($\|e_n-e_m\|_2=\sqrt2$)
cor-bs-bounded の Hilbert 空間($\ell^1$ に替える)ex-bs-l1 の $e_n$有界列の部分列の Cesàro 平均の強収束
prop-bs-lsc の凸性$\varphi(y)=-\|y\|^2$ と $\ell^2$ の $e_n\rightharpoonup0$弱下半連続性($\varphi(0)=0>-1=\varphi(e_n)$)

4 行目では証明の不等式 $\varphi(\sigma_N)\le\frac1N\sum\varphi(z_k)$ が崩れる。実際 $\sigma_N=\frac1N\sum_{k\le N}e_k$ について $\varphi(\sigma_N)=-\frac1N>-1$ である。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, 2011, Exercise 3.2(pp. 79–80)、Exercise 5.24(The Banach–Saks property、p. 153)
[2]
Shizuo Kakutani, Weak convergence in uniformly convex spaces, Tôhoku Mathematical Journal, First Series, 1939, Theorem(p. 188、一様凸な Banach 空間は性質 (P) をもつ)、証明 pp. 189–193、逆が成り立たない注意(p. 189)

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