Globally Hyperbolic時空

同義語:大域的双曲時空大域双曲的時空globally hyperbolic spacetime

概要

Globally Hyperbolic時空(globally hyperbolic spacetime)とは、閉因果曲線を持たず、任意の2点 $p,q$ に対する因果ダイヤモンド $J^+(p)\cap J^-(q)$ がコンパクトである時空である。古典的な定義の強因果性は、このコンパクト性のもとでは因果性に置き換えられる。Gerochの定理によりCauchy超曲面をもつことと同値で、位相的に $\mathbb R\times S$ と分裂する。Bernal–Sánchezの定理により、さらに滑らかなCauchy temporal関数と直交分裂 $g=-\beta d\tau^2+h_\tau$ を選べる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 時空, Lorentz多様体, 因果曲線, 因果階層

大域的双曲時空は、閉因果曲線を持たず、2点の間を結ぶ因果的な経路が「無限遠へ逃げない」時空である。前者を因果性、後者を因果ダイヤモンドのコンパクト性で表す。この条件は Lorentz 幾何における大域的な因果構造を強く制御し、波動方程式の初期値問題を定式化する Cauchy 超曲面の存在と同値になる。
以下、時空 $(M,g)$ は境界を持たない連結かつ時間向き付けられた滑らかな Lorentz 多様体とする。$J^+(p)$ と $J^-(p)$ はそれぞれ点 $p$ の因果的未来と因果的過去である。

定義

大域的双曲時空

時空 $(M,g)$ が大域的双曲(globally hyperbolic)であるとは、次の2条件を満たすことをいう。

  1. $(M,g)$ は因果的である。すなわち、非定値な閉じた因果曲線を持たない。
  2. 任意の $p,q\in M$ に対し、因果ダイヤモンド
    $$ J^+(p)\cap J^-(q) $$
    はコンパクトである。

古典的な定義では条件1を、各点が任意に小さな因果的凸近傍をもつという強因果性に置き換えることが多い。強因果性は因果性より強いが、因果ダイヤモンドのコンパクト性を条件2として併せれば、両方の定義は同値であるBS07。したがって、定義を比較するときは「因果的」と「強因果的」の違いだけを見て別概念と判断してはいけない。

例と反例

Minkowski時空

標準 Minkowski 時空
$$ (\mathbb R^{1+n},\eta),\qquad \eta=-dt^2+dx_1^2+\cdots+dx_n^2 $$
は大域的双曲であり、各超平面 $S_c=\{t=c\}$ は Cauchy 超曲面である。

未来向き因果ベクトルは $\dot t>0$ を満たすので、未来向き因果曲線に沿って $t$ は狭義増加であり、非定値な閉因果曲線は存在しない。$p=(t_p,x_p)$、$q=(t_q,x_q)$ とする。因果ダイヤモンドが空でなければ、その各点 $(t,x)$ は
$$ t_p\le t\le t_q,\qquad |x-x_p|\le t-t_p,\qquad |x-x_q|\le t_q-t $$
を満たす。これらは閉条件であり、集合は Euclid 空間で有界だから、Heine–Borel の定理によりコンパクトである。したがって時空は大域的双曲である。
次に、延長不可能な未来向き因果曲線 $\gamma$ を考える。$t\circ\gamma$ は狭義単調増加である。これが未来方向に上から有界なら、因果条件 $|dx/dt|\le1$ により空間成分は $t$ をパラメータとして Cauchy 列となり、$\mathbb R^n$ の完備性から有限の極限点をもつ。その点の先へ因果曲線を延長でき、延長不可能性に反する。よって $t$ の値域は未来に $+\infty$、過去に $-\infty$ まで延びる。したがって各 $S_c$ とちょうど1回交わる。$\square$

完備な空間をもつ静的積時空

$(S,h)$ を完備な連結 Riemann 多様体とする。このとき
$$ (\mathbb R\times S,-dt^2+h) $$
は大域的双曲であり、$\{t=c\}$ は滑らかで空間的な Cauchy 超曲面である。完備性は、有限の時間内に空間方向へ逃げる因果曲線を排除する。これは Minkowski 時空の積構造を曲がった空間 $(S,h)$ へ一般化した例である。

$d_h$ を $(S,h)$ の距離とする。未来向き因果曲線 $s\mapsto(t(s),x(s))$ は $-\dot t^2+h(\dot x,\dot x)\le0$、$\dot t>0$ を満たすので、$\sqrt{h(\dot x,\dot x)}\le\dot t$ である。積分すると、空間成分の $h$ 長さは $t$ の増分以下になる。したがって $(t,x)\in J^+(p)$($p=(t_p,x_p)$)なら $d_h(x_p,x)\le t-t_p$ である。逆に $d:=d_h(x_p,x)\le t-t_p$ とする。$t=t_p$ なら $d=0$ で点は $p$ そのものである。$t>t_p$ なら、完備性と Hopf–Rinow の定理(Riemann幾何学 の定理「Hopf–Rinow の定理」)により、長さ $d$ の最短測地線 $\sigma:[0,1]\to S$(速さ $d$)で $x_p$ と $x$ を結べる。曲線 $s\mapsto(t_p+s(t-t_p),\sigma(s))$ の接ベクトルは $-(t-t_p)^2+d^2\le0$ を満たす未来向き因果ベクトルなので、$(t,x)\in J^+(p)$ である。よって
$$ J^+(p)=\{(t,x)\mid d_h(x_p,x)\le t-t_p\} $$
であり、$d_h$ の連続性から閉集合である。$J^-(q)$ も同様である。
$J^+(p)\cap J^-(q)$ は閉集合で、$[t_p,t_q]\times\bar B_h(x_p,t_q-t_p)$ に含まれる。完備な Riemann 多様体の有界閉集合はコンパクトなので(Hopf–Rinow の定理)、この直積はコンパクトであり、因果ダイヤモンドはコンパクトである。未来向き因果曲線に沿って $t$ は狭義増加するので、閉じた因果曲線はなく、時空は因果的である。以上で大域的双曲である。
最後に、延長不可能な未来向き因果曲線を $t$ でパラメータ付けすると、$d_h(x(t_1),x(t_2))\le\lvert t_2-t_1\rvert$ である。$t$ が上に有界な区間しか動かないとすると、$x(t)$ は $t$ が上限に近づくとき $d_h$ についての Cauchy 列の条件を満たし、完備性から極限をもつので、曲線はその点まで延長でき、延長不可能性に反する。過去側も同じである。よって $t$ は $\mathbb R$ 全体を狭義単調に動き、各 $\{t=c\}$ とちょうど1点で交わる。$\{t=c\}$ の誘導計量は正定値な $h$ なので、これは滑らかで空間的な Cauchy 超曲面である。$\square$

反例:時間を周期化したMinkowski時空

$T>0$ とし、2次元 Minkowski 時空を時間方向の平行移動 $(t,x)\mapsto(t+T,x)$ で割った Lorentz 円筒を考える。$x$ を固定して時間円周を1周する曲線は閉時間的曲線である。したがってこの時空は因果的でなく、大域的双曲でもない。この反例は因果ダイヤモンドだけを形式的に調べる前に、閉因果曲線の不存在を確認する必要があることを示す。

反例:点を除いたMinkowski時空

2次元 Minkowski 時空から原点を除いた
$$ M=\mathbb R^{1+1}\setminus\{(0,0)\} $$
は因果的であるが、大域的双曲でない。実際、$p=(-2,0)$、$q=(2,0)$ とし、$z_k=(0,1/k)$ とおくと、すべての $k$ について
$$ z_k\in J^+(p)\cap J^-(q) $$
である。しかし $(z_k)$ が周囲の Euclid 空間で収束する先は除かれた原点だけであり、$M$ 内で収束部分列を持たない。したがって因果ダイヤモンドはコンパクトでない。これは因果性だけでは大域的双曲性に足りないことを示す。

因果的単純性

大域的双曲時空は因果的に単純

大域的双曲時空では、各 $p\in M$ に対して $J^+(p)$ と $J^-(p)$ は閉集合である。特に大域的双曲時空は因果的に単純である。

$q_k\in J^+(p)$ かつ $q_k\to q$ とする。$r\in I^+(q)$ を選ぶと、$I^-(r)$ は $q$ の開近傍なので、十分大きな $k$ に対して $q_k\in I^-(r)\subset J^-(r)$ である。したがって列の末尾はコンパクト集合
$$ J^+(p)\cap J^-(r) $$
に含まれる。多様体は Hausdorff なのでコンパクト集合は閉であり、極限 $q$ もこの集合、特に $J^+(p)$ に属する。よって $J^+(p)$ は閉である。時間向きを逆にした同じ議論で $J^-(p)$ も閉である。定義により因果性も満たすので、時空は因果的に単純である。$\square$

ここで時空が因果的に単純であるとは、因果的であり、各点 $p$ で $J^+(p)$ と $J^-(p)$ が閉集合であることをいう(MS08 Definition 3.63)。上の証明と同じ考え方で、点の代わりにコンパクト集合から出る因果的未来と過去も制御できる。以下で使う基本事実は次の二つである。$I^+(p)$ は開集合である(MS08 Proposition 2.16)。$p\ll r$ かつ $r\le q$ なら $p\le q$ である(因果曲線をつなげばよい)。ここで $p\ll r$ は $r\in I^+(p)$、$r\le q$ は $q\in J^+(r)$ を表す。また、$p$ から出る過去向き時間的曲線上の点を取れば、$I^-(p)$ の点の列で $p$ に収束するものがある。

因果関係は閉じている

大域的双曲時空では、因果関係 $J^+=\{(p,q)\mid q\in J^+(p)\}$ は $M\times M$ の閉集合である。

$(p_n,q_n)\in J^+$ が $(p,q)$ に収束するとする。まず $p'\in I^-(p)$ を一つ取る。$I^+(p')$ は $p$ を含む開集合なので、十分大きな $n$ で $p_n\in I^+(p')$、すなわち $p'\ll p_n\le q_n$ であり、$q_n\in J^+(p')$ となる。prop-gh-causally-simple により $J^+(p')$ は閉なので $q\in J^+(p')$、言い換えると $p'\in J^-(q)$ である。
次に $I^-(p)$ の点の列 $p'_m\to p$ を取る。各 $m$ で上の議論から $p'_m\in J^-(q)$ であり、$J^-(q)$ は閉なので $p\in J^-(q)$、すなわち $q\in J^+(p)$ である。$\square$

コンパクト集合の間の因果ダイヤモンド

大域的双曲時空 $(M,g)$ のコンパクト集合 $K,K'$ に対し、$J^+(K)\cap J^-(K')$ はコンパクトである。ここで $J^+(K)=\bigcup_{k\in K}J^+(k)$、$J^-(K')=\bigcup_{k'\in K'}J^-(k')$ とする。

各 $k\in K$ に対し $p_k\in I^-(k)$ を選ぶと、開集合 $I^+(p_k)$ は $k$ を含む。$K$ はコンパクトなので、有限個の $p_1,\ldots,p_a$ で $K\subset\bigcup_iI^+(p_i)$ となる。同様に有限個の $q_1,\ldots,q_b$ で $K'\subset\bigcup_jI^-(q_j)$ となる。$x\in J^+(K)\cap J^-(K')$ なら、$x\in J^+(k)$、$k\in I^+(p_i)$ となる $k,i$ があるので $x\in J^+(p_i)$、同様に $x\in J^-(q_j)$ となる $j$ がある。したがって
$$ J^+(K)\cap J^-(K')\subset\bigcup_{i,j}J^+(p_i)\cap J^-(q_j) $$
であり、右辺は有限個のコンパクト集合の和なのでコンパクトである。
左辺が閉であることを示す。左辺の点列 $x_n\to x$ を取り、$x_n\in J^+(k_n)$、$k_n\in K$ とする。$K$ はコンパクトなので部分列を取って $k_n\to k\in K$ としてよい。prop-gh-closed-relation により $(k,x)\in J^+$、すなわち $x\in J^+(K)$ である。同様に $x\in J^-(K')$ である。閉集合とコンパクト集合の共通部分はコンパクトなので、左辺はコンパクトである。$\square$

一つ目の主張は因果的に単純な時空についての MS08 Lemma 3.67 (2) と同じ内容であり、二つ目の証明の閉性の部分は同 Lemma 3.67 (1) に当たる。上の証明は大域的双曲性の定義と prop-gh-causally-simple だけから直接示した。

Cauchy超曲面

時空のCauchy超曲面

時空 $(M,g)$ の部分集合 $S$ が Cauchy 超曲面であるとは、すべての延長不可能な未来向き因果曲線が $S$ とちょうど1点で交わることをいう。

この定義から $S$ は非因果的、すなわち相異なる2点を因果曲線で結べない。Cauchy 超曲面は閉じた位相的超曲面となる(MS08 Definition 3.74 の後の性質 1。この記事では証明しない)が、定義だけから滑らかさを仮定してはいない。「空間的 Cauchy 超曲面」というときは、滑らかな埋め込み超曲面であって、その誘導計量が正定値であることを追加する。
文献によっては、延長不可能な時間的曲線がちょうど1点で交わる集合を Cauchy 超曲面と呼ぶ(MS08 Definition 3.74)。この流儀では、延長不可能な因果曲線は $S$ と交わるが、光的な線分に沿って $S$ と重なることがあり、$S$ は非因果的とは限らない。どちらの流儀でも、Cauchy 超曲面をもつことと大域的双曲性は同値である(下の Geroch の定理。Cauchy 時間関数の各レベルは上の強い意味の Cauchy 超曲面になる)。

角のある Cauchy 超曲面

2次元 Minkowski 時空で $S=\{(t,x)\mid t=\lvert x\rvert/2\}$ とする。$S$ は Cauchy 超曲面だが、原点で角をもち、滑らかな超曲面ではない。

延長不可能な未来向き因果曲線 $\gamma$ を取る。因果ベクトル $(\dot t,\dot x)\ne0$ は $\dot t^2\ge\dot x^2$ を満たし、未来向きなので $\dot t>0$ である。よって $\gamma$ は $t$ でパラメータ付けでき、$\lvert x(t_2)-x(t_1)\rvert\le t_2-t_1$($t_1< t_2$)を満たす。ex-globally-hyperbolic-minkowski の証明により、$t$ は $\mathbb R$ 全体を動く。関数 $\varphi(t)=t-\lvert x(t)\rvert/2$ は、$t_1< t_2$ なら
$$ \varphi(t_2)-\varphi(t_1)\ge(t_2-t_1)-\tfrac12\lvert x(t_2)-x(t_1)\rvert\ge\tfrac12(t_2-t_1)>0 $$
を満たすので狭義単調増加で、$t\to\pm\infty$ で $\pm\infty$ に発散する。連続関数 $\varphi$ は中間値の定理によりちょうど1回 $0$ になる。$\varphi(t)=0$ は $\gamma(t)\in S$ と同値なので、$\gamma$ は $S$ とちょうど1点で交わる。
原点の近くで $S$ は、方向 $(1,2)$ と $(1,-2)$(成分は $(t,x)$ の順)の二本の半直線の和である。$C^1$ 級の埋め込み曲線は各点でただ一つの接線をもつので、$S$ は原点で滑らかな部分多様体でない。$\square$

空間的でも Cauchy 超曲面とは限らない

2次元 Minkowski 時空の双曲線 $H=\{(t,x)\mid t=\sqrt{1+x^2}\}$ は滑らかで空間的な曲線(接ベクトル $(x/\sqrt{1+x^2},1)$ は $-\dot t^2+\dot x^2=1/(1+x^2)>0$)だが、Cauchy 超曲面でない。延長不可能な光的直線 $t=x$ は、$\sqrt{1+x^2}>\lvert x\rvert\ge x$ なので $H$ と交わらないからである。$H$ は $0$ の未来の光円錐の内側だけにあり、その外から来る因果曲線を捉えない。

Gerochの特徴づけ

時空 $(M,g)$ について、次は同値である。

  1. $(M,g)$ は大域的双曲である。
  2. $(M,g)$ は Cauchy 超曲面をもつ。
    このとき連続な Cauchy 時間関数 $t\colon M\to\mathbb R$ を選ぶことができ、その各レベル集合は Cauchy 超曲面である。また、任意のレベル $S=t^{-1}(0)$ に対して $M$ は $\mathbb R\times S$ と同相である。
Gerochの定理の範囲

この同値性と位相的分裂は Geroch の定理である(MS08 Theorem 3.75, p. 44)。この記事では証明しない。証明には極限因果曲線、体積時間関数、因果ダイヤモンドのコンパクト性を組み合わせる長い議論が必要であるため、ここでは定理を正確な仮定とともに引用した。Geroch の定理の結論は連続時間関数と位相的分裂であり、滑らかな空間的超曲面や計量の直交分裂までを同じ原定理の結論としてはいけない。

Cauchy 超曲面は、双曲型偏微分方程式の初期データを置く「空間」の役割を果たす。ただし、幾何学的な大域的双曲性だけで、任意の方程式の存在・一意性が自動的に従うわけではない。方程式側にも正常双曲型などの仮定が必要である。

滑らかな分裂

滑らかな関数 $\tau\colon M\to\mathbb R$ で、勾配 $\nabla\tau$ が至る所で時間的かつ過去向きであり、各レベル集合が Cauchy 超曲面であるものを Cauchy temporal 関数という。

Bernal–Sánchezの滑らかな直交分裂

滑らかな時空 $(M,g)$ が大域的双曲なら、滑らかな Cauchy temporal 関数 $\tau$ が存在する。任意のレベル $S=\tau^{-1}(0)$ を用いて微分同相
$$ M\cong\mathbb R\times S $$
を選ぶことができ、この座標で計量は
$$ g=-\beta(\tau,x)\,d\tau^2+h_\tau $$
と書ける。ここで $\beta$ は正の滑らかな関数、$h_\tau$ は $S$ 上で滑らかに変化する Riemann 計量であり、各 $\{\tau=c\}$ は滑らかで空間的な Cauchy 超曲面である。

滑らかな分裂の出典と注意

滑らかで空間的な Cauchy 超曲面の存在と滑らかな積分裂は BS03、Cauchy temporal 関数と上の直交的な計量分裂は BS05 による。これは Geroch の位相的分裂を滑らかかつ計量的に強化した結果である。さらに、与えられた滑らかで空間的な Cauchy 超曲面を $\tau=0$ のレベルに指定できる精密化は BS06 による。任意の位相的 Cauchy 超曲面を滑らかな temporal 関数の正則レベルにできる、という主張ではない。

分裂は一般に一意でない。異なる Cauchy temporal 関数は異なる Cauchy 葉層と異なる $\beta,h_\tau$ を与える。したがって大域的双曲性は特定の「絶対時間」を選ぶのではなく、そのような良い時間座標が存在することを保証する。

反例の表

大域的双曲性とその周辺の主張から条件を一つ外すと何が起こるかを表にまとめる。各行の反例は右の列の主張を破る。

外す条件反例成り立たなくなること
因果性時間を周期化した Minkowski 時空大域的双曲
因果ダイヤモンドのコンパクト性原点を除いた Minkowski 時空大域的双曲
コンパクト性(閉性だけを仮定)半平面 $\{x>0\}$因果的に単純なら大域的双曲
静的積の空間の完備性半平面 $\mathbb R\times(0,\infty)$静的積 $-dt^2+h$ は大域的双曲
Cauchy 超曲面の滑らかさ$t=\lvert x\rvert/2$Cauchy 超曲面は滑らか
すべての因果曲線と交わること双曲線 $t=\sqrt{1+x^2}$滑らかで空間的な超曲面は Cauchy
因果的に単純だが大域的双曲でない半平面

2次元 Minkowski 時空の開部分集合 $M=\{(t,x)\mid x>0\}$ に同じ計量 $-dt^2+dx^2$ を入れる。$M$ は因果的に単純だが、大域的双曲でない(MS08 Remark 3.72 (2))。これは空間 $(0,\infty)$ が完備でない静的積 $\mathbb R\times(0,\infty)$ でもある。

$M$ の因果曲線は Minkowski 時空 $\mathbb R^{1+1}$ の因果曲線でもある。逆に $\mathbb R^{1+1}$ で $q\in J^+(p)$($p,q\in M$)なら、$p$ と $q$ を結ぶ線分は因果的で、$M$ は凸なので線分は $M$ に含まれる。したがって $J^\pm_M(p)=J^\pm_{\mathbb R^{1+1}}(p)\cap M$ であり、右辺は閉集合と $M$ の共通部分なので $M$ の閉集合である。$\mathbb R^{1+1}$ は因果的なので $M$ も因果的であり、$M$ は因果的に単純である。
$p=(0,1)$、$q=(2,1)$ とし、$z_k=(1,1/k)$ とおく。$\lvert 1/k-1\rvert\le1$ なので $z_k\in J^+(p)\cap J^-(q)$ である。$(z_k)$ は $\mathbb R^{1+1}$ で $(1,0)\notin M$ に収束するので、$M$ の中に収束する部分列をもたない。よって因果ダイヤモンドはコンパクトでなく、$M$ は大域的双曲でない。$\square$

定義と定理を混同しないための注意

  • 大域的双曲性の定義は因果性と因果ダイヤモンドのコンパクト性である。Cauchy 超曲面の存在は同値な定理である。
  • Cauchy 超曲面は最初から滑らか・空間的とは限らない。滑らかな空間的 Cauchy 超曲面を選べることは Bernal–Sánchez の定理である。
  • $M\cong\mathbb R\times S$ という位相的分裂と、$g=-\beta d\tau^2+h_\tau$ という滑らかな直交分裂は結論の強さと出典が異なる。
  • 「因果ダイヤモンドが有界」という座標依存の条件では足りない。必要なのは多様体の位相におけるコンパクト性である。原点を除いた Minkowski 時空はこの違いを示す。

関連項目

参考文献

[5]
Ettore Minguzzi and Miguel Sánchez, The causal hierarchy of spacetimes, Recent Developments in Pseudo-Riemannian Geometry (ESI Lectures in Mathematics and Physics), European Mathematical Society, 2008, arXiv 版:Proposition 2.16 (p. 10)、Definition 3.63・Lemma 3.67 (pp. 40–41)、Definition 3.70・Proposition 3.71・Remark 3.72 (pp. 42–43)、Definition 3.74・Theorem 3.75 (p. 44)

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