Mittag-Lefflerの定理

同義語:ミッタク=レフラーの定理Mittag-Leffler theoremMittag-Leffler's theorem

概要

Mittag-Lefflerの定理(Mittag-Leffler theorem)とは、複素平面の開集合 $\Omega$ の中に集積点をもたない点の集合と、その各点での極の主要部を勝手に指定すると、ちょうどそれらの点を極とし、それらを主要部とする $\Omega$ 上の有理型関数が存在するという定理である。主要部の単純な和は一般に収束しないが、$\Omega=\mathbb{C}$ では各主要部から Taylor 展開の部分和を、一般の $\Omega$ では Runge の近似定理で得た有理関数を引くと収束する。解は $\Omega$ 上の正則関数を足す違いを除いて一意で、$\pi\cot\pi z$ の部分分数展開はその代表例である。零点を指定する Weierstrass の積定理と対をなし、多変数では Cousin の問題へ一般化される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理型関数, 極(複素解析), Taylor展開(複素解析), 一様収束

有理関数は、各極での主要部の和と多項式の和に分けられる(部分分数分解)。逆に、有限個の点 $a_1,\dots,a_m$ と、そこでの主要部 $P_1,\dots,P_m$ を勝手に指定すると、和 $P_1+\dots+P_m$ はちょうどその主要部をもつ有理関数である。では、無限個の点に主要部を指定したらどうなるだろうか。たとえば各正の整数 $n$ に主要部 $\frac{1}{z-n}$ を指定しても、和 $\sum_{n\ge1}\frac{1}{z-n}$ はどの点でも収束しない。
Mittag-Leffler の定理(Mittag-Leffler theorem)は、それでも答えが常に肯定的であることを述べる:複素平面の開集合 $\Omega$ の中に集積点をもたない点の集合と、その各点での主要部を勝手に指定すると、ちょうどそれらを極とし、それらを主要部とする $\Omega$ 上の 有理型関数 が存在する。鍵は、各主要部から多項式(一般の $\Omega$ では有理関数)を引いて、和を収束させることである。$\Omega$ 上で正則な関数を引いても、極とその主要部は変わらないからである。$\pi\cot\pi z$ の部分分数展開はその典型例であり、そこから $\sum_{n\ge1}\frac1{n^2}=\frac{\pi^2}{6}$ も得られる。零点を指定する Weierstrass の積定理とは姉妹の関係にあり、多変数や複素多様体への一般化は Cousin の問題として定式化される。

主要部の指定

$a\in\mathbb{C}$ について、$a$ における主要部とは、$0$ でない有限和
$$ P(z)=\sum_{k=1}^{m}\frac{c_k}{(z-a)^k}\qquad(m\ge1,\ c_m\neq0) $$
のことである。$P$ は $\mathbb{C}\setminus\{a\}$ 上の正則関数で、$a$ を位数 $m$ の極にもつ。有理型関数 $f$ が $a$ に極をもつとき、$f$ の $a$ のまわりの Laurent 展開の負の冪の部分は $a$ における主要部であり、$f-P$ が $a$ で除去可能特異点になるような主要部 $P$ はこれただ 1 つである(極(複素解析) の命題「主要部と係数の公式」)。これを $f$ の $a$ における主要部という。
開集合 $\Omega\subset\mathbb{C}$ の部分集合 $A$ が $\Omega$ の中に集積点をもたないとき、$A$ は $\Omega$ の各コンパクト部分集合と有限個の点でしか交わらない。$\Omega$ は可算個のコンパクト集合の和集合なので、このとき $A$ は有限集合か可算集合である。

主要部の指定

$\Omega\subset\mathbb{C}$ を開集合とする。$\Omega$ 上の主要部の指定とは、$\Omega$ の中に集積点をもたない部分集合 $A\subset\Omega$ と、各 $a\in A$ における主要部 $P_a$ の組 $(A,(P_a)_{a\in A})$ のことである。$\Omega$ 上の有理型関数 $f$ がこの指定の解であるとは、$f$ の極の集合がちょうど $A$ であり、各 $a\in A$ における $f$ の主要部が $P_a$ であることをいう。

解はあっても 1 つとは限らないが、その違いは正則関数だけである。

解の一意性

$f$ を主要部の指定 $(A,(P_a))$ の解とする。$\Omega$ 上の有理型関数 $g$ がこの指定の解であることと、$g-f$(の除去可能特異点を埋めたもの)が $\Omega$ 上の正則関数であることは同値である。

要点:主要部が同じなら、各 $a\in A$ の近くで差 $g-f=(g-P_a)-(f-P_a)$ は除去可能特異点しかもたない。

詳しい証明を開く

$g$ も解なら、各 $a\in A$ の近くで $f-P_a$ と $g-P_a$ は $a$ に除去可能特異点をもつので、差 $g-f=(g-P_a)-(f-P_a)$ も $a$ に除去可能特異点をもつ。$A$ の外では $f,g$ はともに正則である。よって $g-f$ は $\Omega$ 上の正則関数に延びる。逆に $g=f+h$($h$ は $\Omega$ 上で正則)なら、$g$ の極の集合と各極での主要部は $f$ と同じである。$h$ は極をもたず、$a$ の近くで $g-P_a=(f-P_a)+h$ は正則に延びるからである。

複素平面での定理

Mittag-Leffler の定理(複素平面)

$A\subset\mathbb{C}$ を $\mathbb{C}$ の中に集積点をもたない集合(すなわち有界な部分と有限個の点でしか交わらない集合)とし、各 $a\in A$ に主要部 $P_a$ を指定する。このとき、$\mathbb{C}$ 上の有理型関数 $f$ で、極の集合がちょうど $A$ であり、各 $a\in A$ における主要部が $P_a$ であるものが存在する。
より具体的に、各 $a\in A\setminus\{0\}$ について多項式 $p_a$ を適当に選ぶと($p_0:=0$ とする)、級数
$$ f(z)=\sum_{a\in A}\bigl(P_a(z)-p_a(z)\bigr) $$
は $\mathbb{C}\setminus A$ のコンパクト集合の上で絶対かつ一様に収束し、その和がそのような $f$ である。$p_a$ としては $P_a$ の $0$ を中心とする Taylor 展開の部分和をとれる。

$A$ が有限集合なら $f:=\sum_{a\in A}P_a$ でよいので、$A$ は無限集合とし、$A=\{a_1,a_2,\dots\}$ と番号を付ける。$A$ は可算集合で、各点は 1 回ずつ現れるとする。
段 1:補正の多項式を選ぶ.$a=a_k\neq0$ とする。$P_a$ は円板 $|z|<|a|$ で正則なので、$0$ を中心とする Taylor 展開は $|z|<|a|$ で $P_a$ に収束し、閉円板 $|z|\le|a|/2$ の上では一様に収束する(Taylor展開(複素解析) の記事の定理「正則関数の冪級数展開」)。そこで、Taylor 展開の部分和 $p_a$ を
$$ |P_a(z)-p_a(z)|\le2^{-k}\qquad(|z|\le|a|/2) $$
となるようにとる。$0\in A$ なら $p_0:=0$ とする。
段 2:収束.$R>0$ を固定する。$A$ は集積点をもたないので、$|a|\le2R$ となる $a\in A$ は有限個しかない。残りの $a=a_k$ では $|a|/2>R$ なので、閉円板 $|z|\le R$ の上で $|P_{a_k}-p_{a_k}|\le2^{-k}$ である。$\sum_k2^{-k}<\infty$ だから、Weierstrass の M 判定法により
$$ F_R(z):=\sum_{|a_k|>2R}\bigl(P_{a_k}(z)-p_{a_k}(z)\bigr) $$
は $|z|\le R$ で絶対かつ一様に収束する。各項は $|z|< R$ で正則なので、一様収束の極限 $F_R$ も $|z|< R$ で正則である(Leb26c Theorem 3.4.5、p. 84:正則関数の列がコンパクト集合の上で一様に収束すれば、極限は正則である)。
段 3:極と主要部.$|z|< R$ の上で
$$ f(z)=\sum_{|a|\le2R}\bigl(P_a(z)-p_a(z)\bigr)+F_R(z) $$
である。右辺の第 1 項は有限和で、$P_a$ は $\mathbb{C}\setminus\{a\}$ で正則、$p_a$ は多項式である。したがって $|z|< R$ の上で $f$ は有理型であり、その極は $A\cap\{|z|< R\}$ の点に限られ、各 $a$ の近くで $f-P_a$ は正則である($P_a$ 以外の項はすべて $a$ の近くで正則)。主要部 $P_a$ は $0$ でないので、各 $a$ は実際に $f$ の極で、その主要部は $P_a$ である。$R$ は任意だから、$f$ は $\mathbb{C}$ 上の有理型関数で、求める性質をもつ。級数が $\mathbb{C}\setminus A$ のコンパクト集合 $K$ の上で絶対かつ一様に収束することは、$K\subset\{|z|\le R\}$ となる $R$ をとれば段 2 から従う(有限個の残りの項は $K$ の上で連続で有界である)。

補正の $p_a$ は必要である。$A=\{1,2,3,\dots\}$、$P_n(z)=\frac1{z-n}$ のとき、$z\notin A$ を止めると $\frac{1}{z-n}=-\frac1n\cdot\frac{1}{1-z/n}$ は $n\to\infty$ で $-\frac1n$ と同じ速さでしか $0$ に近づかず、$\sum_n\frac1{z-n}$ は発散する。Taylor 展開の定数項 $p_n=-\frac1n$ を引くと
$$ \frac{1}{z-n}+\frac1n=\frac{z}{n(z-n)} $$
は $|z|\le R$、$n\ge2R$ で絶対値が $\frac{2R}{n^2}$ 以下になり、和が収束する。

一般の開集合での定理

$\Omega$ が一般の開集合のときは、$A$ の点が $\Omega$ の境界に向かって集積してよいので、多項式で補正するだけでは足りない。補正には、極を $\Omega$ の外にもつ有理関数を使う。その存在を保証するのが Runge の近似定理である。

Runge の近似定理

$K\subset\mathbb{C}$ をコンパクト集合、$S$ を Riemann 球面 $\hat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ の部分集合で、$S\subset\hat{\mathbb{C}}\setminus K$ かつ $\hat{\mathbb{C}}\setminus K$ のどの連結成分とも交わるものとする。$K$ を含む開集合の上の正則関数 $g$ と $\varepsilon>0$ に対し、極がすべて $S$ に属する有理関数 $R$ で、$K$ の上で $|g-R|<\varepsilon$ となるものがある。

近似定理と取り尽くしの所在

lem-ml-runge はこの記事では証明しない(Leb26c Theorem 9.2.3、p. 212)。$K$ が閉円板で $S=\{\infty\}$ の場合は、Taylor 展開の部分和をとればよく、thm-ml-plane の段 1 はこの場合である。次の取り尽くしの存在もこの記事では証明しない(Leb26c Lemma 9.2.5、p. 213):開集合 $\Omega$ に対し、コンパクト集合の列 $K_1\subset K_2\subset\cdots$ で、$K_n$ が $K_{n+1}$ の内部に含まれ、$\bigcup_nK_n=\Omega$ であり、$\Omega$ の任意のコンパクト部分集合はある $K_n$ に含まれ、$\hat{\mathbb{C}}\setminus K_n$ のどの連結成分も $\hat{\mathbb{C}}\setminus\Omega$ の点を含むものがある。

Mittag-Leffler の定理(開集合)

$\Omega\subset\mathbb{C}$ を開集合、$(A,(P_a))$ を $\Omega$ 上の主要部の指定とする。このとき、その解、すなわち $\Omega$ 上の有理型関数 $f$ で、極の集合がちょうど $A$ であり、各 $a\in A$ における主要部が $P_a$ であるものが存在する。

要点:$\Omega$ をコンパクト集合 $K_1\subset K_2\subset\cdots$ で取り尽くし、$K_n\setminus K_{n-1}$ にある点の主要部の和 $g_n$ から、$K_{n-1}$ の上で $g_n$ に $2^{-n}$ 以内で近い有理関数 $R_n$(極は $\Omega$ の外)を引いて足し合わせる。$R_n$ は $\Omega$ で正則なので主要部を変えず、和はどの $K_N$ の上でも一様に収束する。

詳しい証明を開く

rem-ml-runge-source の取り尽くし $(K_n)$ をとる。$A_1:=A\cap K_1$、$A_n:=A\cap(K_n\setminus K_{n-1})$($n\ge2$)とおくと、$A$ は互いに交わらない有限集合 $A_n$ の和集合である。$g_n:=\sum_{a\in A_n}P_a$ は有理関数で、$\mathbb{C}\setminus A_n$ で正則であり、$A_n\cap K_{n-1}=\emptyset$ だから $K_{n-1}$ を含む開集合の上で正則である。

$R_1:=0$ とし、$n\ge2$ では lem-ml-runge を $K=K_{n-1}$、$S=\hat{\mathbb{C}}\setminus\Omega$ に使って、極がすべて $\Omega$ の外にある有理関数 $R_n$ で $K_{n-1}$ の上で $|g_n-R_n|<2^{-n}$ となるものをとる。$R_n$ は $\Omega$ 上で正則である。$$f:=\sum_{n\ge1}(g_n-R_n)$$とおく。$N$ を固定すると、$n>N$ では $K_N\subset K_{n-1}$ なので $K_N$ の上で $|g_n-R_n|<2^{-n}$ であり、$\sum_{n>N}(g_n-R_n)$ は $K_N$ の上で一様に収束する。各項は $K_N$ の内部 $U_N$ で正則なので、和は $U_N$ で正則である(Leb26c Theorem 3.4.5、p. 84)。したがって $U_N$ の上で$$f=\sum_{n\le N}(g_n-R_n)+(U_N\text{ で正則な関数})$$であり、第 1 項は極を $A\cap K_N$ にもち、各 $a\in A\cap U_N$ での主要部が $P_a$ の有理型関数である(thm-ml-plane の段 3 と同じ理由)。$K_N\subset U_{N+1}$ なので $U_N$ は $\Omega$ を覆い、$f$ は $\Omega$ 上の有理型関数で、求める性質をもつ。

同じ定理と証明は Leb26c Theorem 9.4.1(p. 217)にある。$\Omega=\mathbb{C}$ のときは $K_n$ を閉円板 $|z|\le n$ にとれ、Runge の近似定理の代わりに Taylor 展開の部分和を使えるので、thm-ml-plane はこの証明の特別な場合である。thm-ml-open と prop-ml-uniqueness により、$\Omega$ 上の主要部の指定の解の全体は、1 つの解に $\Omega$ 上の正則関数を足したもの全体である。

単位円板の境界に極が集積する関数

単位円板 $\mathbb{D}=\{|z|<1\}$ の中に、点の集合
$$ A:=\Bigl\{\Bigl(1-\frac1k\Bigr)e^{2\pi ij/k}\Bigm| k\ge2,\ j=0,1,\dots,k-1\Bigr\} $$
をとる。$|z|\le r<1$ の中には $1-\frac1k\le r$ となる有限個の $k$ の点しかないので、$A$ は $\mathbb{D}$ の中に集積点をもたない。各 $a\in A$ に主要部 $\frac{1}{z-a}$ を指定すると、thm-ml-open により $\mathbb{D}$ 上の有理型関数 $f$ で、極がちょうど $A$ の点であるものがある。単位円周のどの点 $\zeta$ も $A$ の点の極限である($k\to\infty$ のとき偏角 $2\pi j/k$ で $\arg\zeta$ を近似すればよい)。したがって $\zeta$ を含むどんな連結な開集合 $W$ をとっても、$W$ 上の有理型関数で $W\cap\mathbb{D}$ の上で $f$ と一致するものはない。そのような関数の極は $W$ の中に集積点をもてないが、$f$ の極は $\zeta$ に集積するからである。

例:余接関数の部分分数展開

各整数 $n$ に主要部 $\frac{1}{z-n}$ を指定したときの解の代表が $\pi\cot\pi z$ である。ここでは補正の多項式を使わず、$n$ と $-n$ の項を組にすると収束する。

余接関数と正弦関数の部分分数展開

$z\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ について
$$ \frac{\pi^2}{\sin^2\pi z}=\sum_{n\in\mathbb{Z}}\frac{1}{(z-n)^2},\qquad\pi\cot\pi z=\frac1z+\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2z}{z^2-n^2} $$
が成り立つ。どちらの級数も $\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ のコンパクト集合の上で絶対かつ一様に収束する。

要点:右辺はどちらも thm-ml-plane の形の級数で、左辺と同じ主要部をもつ。差は整関数になり、周期 $1$ をもち、虚軸方向に無限遠へ行くと $0$ に近づくので有界であり、Liouville の定理により $0$ である。余接の式は、正弦の式を積分したものとして導関数の比較から得る。

詳しい証明を開く

段 1(正弦の式).$|z|\le R$、$|n|\ge2R$ なら $|z-n|\ge|n|/2$ なので $\frac{1}{|z-n|^2}\le\frac{4}{n^2}$ であり、$S(z):=\sum_{n\in\mathbb{Z}}\frac{1}{(z-n)^2}$ は $\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ のコンパクト集合の上で絶対かつ一様に収束し、$\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ で正則である(Leb26c Theorem 3.4.5、p. 84)。整数 $n$ の近くでは $n$ 番目以外の項が正則なので、$S$ の $n$ における主要部は $\frac{1}{(z-n)^2}$ である。一方 極(複素解析) の例「三角関数の極」の 3 により、$w=\pi(z-n)$ について $\frac{1}{\sin^2w}=\frac{1}{w^2}+\frac13+\cdots$ だから、$\frac{\pi^2}{\sin^2\pi z}$ の $n$ における主要部も $\frac{1}{(z-n)^2}$ である。したがって $g(z):=\frac{\pi^2}{\sin^2\pi z}-S(z)$ は整関数に延びる(prop-ml-uniqueness)。

$S(z+1)=S(z)$(絶対収束するので和の番号を 1 つずらせる)と $\sin^2\pi(z+1)=\sin^2\pi z$ により、$g(z+1)=g(z)$ である。$z=x+iy$、$0\le x\le1$、$|y|\ge1$ とする。$|\sin\pi z|^2=\sin^2\pi x+\sinh^2\pi y\ge\sinh^2\pi y$ なので $\bigl|\frac{\pi^2}{\sin^2\pi z}\bigr|\le\frac{\pi^2}{\sinh^2\pi y}$ である。また $n\le-1$ なら $|x-n|\ge|n|$、$n\ge2$ なら $|x-n|\ge n-1$ なので$$|S(z)|\le\sum_{n\in\mathbb{Z}}\frac{1}{(x-n)^2+y^2}\le\frac{2}{y^2}+2\sum_{m\ge1}\frac{1}{m^2+y^2}$$であり、右辺は $|y|\to\infty$ で $0$ に近づく(各項が $0$ に近づき、$\frac1{m^2+1}$ で押さえられる)。よって $|y|\to\infty$ のとき帯 $0\le x\le1$ の上で一様に $g(z)\to0$ である。$g$ は有界閉集合 $[0,1]\times[-1,1]$ の上で連続なので有界であり、周期性と合わせて $g$ は $\mathbb{C}$ 全体で有界である。Liouvilleの定理(複素解析) により $g$ は定数で、その値は極限 $0$ に等しい。

段 2(余接の式).$\frac{2z}{z^2-n^2}=\frac1{z-n}+\frac1{z+n}$ であり、$|z|\le R$、$n\ge2R$ なら $\bigl|\frac{2z}{z^2-n^2}\bigr|\le\frac{2R}{n^2-R^2}\le\frac{8R}{3n^2}$ なので、余接の式の右辺の級数は $\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ のコンパクト集合の上で絶対かつ一様に収束する。Leb26c Theorem 3.4.5 により項別に微分でき、$\bigl(\frac1{z-n}+\frac1{z+n}\bigr)'=-\frac1{(z-n)^2}-\frac1{(z+n)^2}$、$(\pi\cot\pi z)'=-\frac{\pi^2}{\sin^2\pi z}$ である。したがって $h(z):=\pi\cot\pi z-\frac1z-\sum_{n\ge1}\frac{2z}{z^2-n^2}$ は $h'=-\frac{\pi^2}{\sin^2\pi z}+S(z)=0$ を満たし、連結な開集合 $\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ の上で定数である。各項は奇関数なので $h(-z)=-h(z)$ であり、定数 $c$ は $c=-c$ を満たすから $h=0$ である。

平方の逆数の和

prop-ml-cot の余接の式から $\sum_{n\ge1}\frac1{n^2}=\frac{\pi^2}{6}$ が得られる。$0<|z|<1$ で両辺から $\frac1z$ を引いて $z$ で割ると
$$ \frac{\pi\cot\pi z-1/z}{z}=\sum_{n\ge1}\frac{2}{z^2-n^2} $$
である。右辺は $|z|\le\frac12$ で一様に収束するので(各項は $\frac{2}{n^2-1/4}$ 以下)、$z\to0$ の極限は $-2\sum_{n\ge1}\frac1{n^2}$ である。左辺は、$\cot w=\frac{\cos w}{\sin w}=\frac1w\cdot\frac{1-w^2/2+\cdots}{1-w^2/6+\cdots}=\frac1w-\frac w3+\cdots$ より $\pi\cot\pi z=\frac1z-\frac{\pi^2z}{3}+\cdots$ なので、$-\frac{\pi^2}{3}$ に近づく。両者を等しいとおけばよい。

この展開で補正が要らなかったのは、$\frac1{z-n}$ と $\frac1{z+n}$ の $-\frac1n$ と $+\frac1n$ が打ち消し合うからである(Leb26c Example 9.4.2、p. 218)。いつもこのように組にするだけで済むわけではなく、一般には thm-ml-plane の補正が必要である。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
$A$ が $\Omega$ の中に集積点をもたない$\Omega=\mathbb{C}$、$A=\{1/k\mid k\ge1\}$、$P_{1/k}=\frac{1}{z-1/k}$主要部の指定に解がある
主要部から補正を引く$A=\{1,2,\dots\}$、$P_n=\frac1{z-n}$主要部の和 $\sum_aP_a$ が収束する
定義域が $\mathbb{C}$ の開集合複素トーラス $\mathbb{C}/(\mathbb{Z}+i\mathbb{Z})$、$0$ だけに主要部 $\frac1z$主要部の指定に解がある
反例の確かめ
  1. 有理型関数の極の集合は集積点をもたない(有理型関数 の定義)。$\mathbb{C}$ 上の有理型関数 $f$ の極が $1/k$($k\ge1$)をすべて含むとすると、極が $0$ に集積するので矛盾する。
  2. 上の段落のとおり、$\sum_n\frac{1}{z-n}$ は $z\notin A$ で発散する。解自体は thm-ml-plane により存在する(たとえば $\sum_n\bigl(\frac1{z-n}+\frac1n\bigr)$)。
  3. 複素トーラス $X=\mathbb{C}/\Lambda$($\Lambda=\mathbb{Z}+i\mathbb{Z}$、複素トーラス)上の有理型関数は、$\Lambda$ の元だけ平行移動しても変わらない $\mathbb{C}$ 上の有理型関数と同じものである。$X$ の点 $0$ だけを極とし、そこでの主要部が $\frac1z$ であるような有理型関数はない。
    確かめを開く

    そのような $f$ があったとする。$f$ は $\mathbb{C}$ 上の有理型関数で $f(z+1)=f(z+i)=f(z)$ を満たし、極は $\Lambda$ の点だけで、各格子点での主要部は $\frac{1}{z-\omega}$($\omega\in\Lambda$)である。正方形 $Q:=\{x+iy\mid|x|\le\frac12,\ |y|\le\frac12\}$ の境界には格子点がなく、内部の格子点は $0$ だけである。留数定理 により、$\partial Q$ を正の向きに一周する積分は $\int_{\partial Q}f\,dz=2\pi i\operatorname{Res}(f,0)=2\pi i$ である。一方、$Q$ の左右の辺の上の積分は $f(z+1)=f(z)$ により打ち消し合い(向きが逆)、上下の辺も $f(z+i)=f(z)$ により打ち消し合うので、積分は $0$ である。これは矛盾である。

3 行目は、thm-ml-open がコンパクトな Riemann 面では一般には成り立たないこと(複素トーラスがその例)を示している。同じ議論を、境界に極がないように平行移動した正方形で行えば、$X$ 上の有理型関数の留数の和は $0$ でなければならないことが分かる。

補足

Weierstrass の積定理との関係.主要部の代わりに零点とその位数を指定し、それをちょうど零点とする正則関数を求める問題に答えるのが Weierstrass の積定理である($\Omega=\mathbb{C}$ の場合 Leb26c Theorem 8.2.4、p. 201、一般の開集合の場合 Theorem 8.2.7、p. 205)。和の収束のために多項式を引く Mittag-Leffler の定理に対し、積の収束のために収束因子を掛ける。積定理を使うと、開集合上の有理型関数は 2 つの正則関数の商として書ける(同 Corollary 8.2.8、p. 207)。
Cousin の問題.$\Omega$ を開集合 $U_i$ で覆い、各 $U_i$ の上に有理型関数 $f_i$ を、重なりで $f_i-f_j$ が正則になるように与えたとする。重なりで主要部が一致するので、極と主要部は $\Omega$ 全体で矛盾なく定まり、主要部の指定が得られる。thm-ml-open による解 $f$ は、各 $U_i$ で $f-f_i$ が正則になる。つまり $\mathbb{C}$ の開集合の上では第 1 Cousin 問題は常に解ける。一般の複素多様体ではこれが成り立たないことがあり、その障害を層のコホモロジー $H^1(X,\mathcal{O}_X)$ で測るのが Cousin問題 の考え方である。上の複素トーラスの例は、解けない第 1 Cousin 問題を与えている($0$ のまわりの小さな円板では $\frac1z$、$0$ を除いた残りでは $0$ を与えたもの)。
名前の重なり.射影系の Mittag-Leffler条件 は、同じ数学者の名を冠するが別の概念である。

関連項目

参考文献

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