有理多様体(rational variety)とは、体 $k$ 上の $n$ 次元の多様体で射影空間 $\mathbb{P}^n_k$ と双有理同値なもの、すなわち関数体が $k$ 上の $n$ 変数の有理関数体と同型なもののことである。既約な射影超曲面 $F=0$ が次数 $d$ より 1 小さい重複度の $k$ 有理点をもてば、その点からの射影により有理になり、非特異な有理点をもつ 2 次超曲面や 2 重点をもつ 3 次超曲面がその例である。$k$ が無限体なら有理多様体の $k$ 有理点は稠密で、代数閉体上の滑らかな射影的な有理多様体は次数 1 以上の 0 でない大域的な微分形式をもたない。曲線では射影直線からの支配的な有理写像があれば有理だが、3 次元では単有理でも有理でない例がある。
円 $x^2+y^2=1$ の点は、$(-1,0)$ を通る傾き $t$ の直線との交点として $\bigl(\frac{1-t^2}{1+t^2},\frac{2t}{1+t^2}\bigr)$ と表され、逆に $t=\frac{y}{1+x}$ も座標の有理式である。このように、ほとんどすべての点を $n$ 個の媒介変数の有理式でちょうど 1 回ずつ表せる $n$ 次元の多様体を有理多様体という。正確には射影空間 $\mathbb{P}^n$ と双有理同値(双有理写像)な多様体のことで、関数体が $n$ 変数の有理関数体と同型な多様体のことである。1 次元の場合が有理曲線である。
どの多様体が有理かは代数幾何学の古典的な問題で、答えは基礎体にも依存する。この記事では、既約な射影超曲面が 1 点からの射影で有理になるための簡単な十分条件(その点が $k$ 有理点で、重複度が次数より 1 小さいこと)を任意の体と任意の次元で証明する(thm-rv-projection)。これには非特異な有理点をもつ 2 次超曲面や、2 重点をもつ 3 次超曲面が含まれる。一方で、有理でないことを示す方法として、有理点の稠密性と大域的な微分形式の消滅を述べ、単有理性との違いに触れる。
$k$ を体とする。双有理写像 の記事と同じく、多様体とは $k$ 上分離的かつ有限型の整スキームのことであり、多様体の間の射・有理写像は $k$ 上のものとする。
$X$ を $k$ 上の $n$ 次元の多様体とする。
1・2 は 双有理写像 の定義「有理多様体と単有理多様体」と同じ定義である。双有理写像は支配的なので、有理多様体は単有理である。$X$ が $k$ 上有理で $X_{\bar k}$ が整なら、下の thm-rv-function-field の 3 の開集合の同型を $\bar k$ に係数拡大すれば、$X_{\bar k}$ も有理である。逆は成り立たない(ex-rv-no-point)。
$X$ を $k$ 上の $n$ 次元の多様体とする。
$\mathbb{P}^m_k$ は $\mathbb{A}^m_k=\operatorname{Spec}k[t_1,\dots,t_m]$ を開集合として含むので、$K(\mathbb{P}^m_k)=k(t_1,\dots,t_m)$ である。1 は 双有理写像 の定理「関数体と支配的有理写像」の 3 である。2 は同じ定理の 1 による。支配的な有理写像 $\mathbb{P}^m_k\dashrightarrow X$ と $k$ 代数の準同型 $K(X)\to k(t_1,\dots,t_m)$ が 1 対 1 に対応する(体の準同型は単射なので、これは部分体との同型を与える)。3 は 双有理写像 の命題「双有理同値と同型な開集合」の 1 による。$\mathbb{P}^n_k$ の空でない開集合 $V$ は稠密な開集合 $\mathbb{A}^n_k$ と交わり、$V\cap\mathbb{A}^n_k$ は $\mathbb{A}^n_k$ の空でない開集合である。逆に $\mathbb{A}^n_k$ の開集合は $\mathbb{P}^n_k$ の開集合である。$\square$
$\mathbb{P}^{n+1}_k$($n\ge1$)の斉次座標を $[x_0:x_1:\dots:x_{n+1}]$ とし、$x':=(x_1,\dots,x_{n+1})$、$p:=[1:0:\dots:0]$ とする。次数 $d\ge2$ の斉次多項式 $F$ を $x_0$ の冪で整理して
$$
F=\sum_{j=0}^dx_0^{d-j}F_j(x')\qquad(F_j\in k[x']\text{ は }j\text{ 次の斉次式})
$$
と書く。$F_0$ は $x_0^d$ の係数 $F(p)$ である。$F(p)=0$ のとき、$F_j\neq0$ となる最小の $j$ を、超曲面 $V_+(F)$ の点 $p$ での重複度という。これはアフィン座標 $x_0=1$ での方程式 $F(1,x')$ の原点での重複度である。重複度が $1$ であることは、$p$ で偏微分 $\partial F/\partial x_i$($i\ge1$ のとき $p$ での値は $F_1$ の $x_i$ の係数、$i=0$ のときは $0$)のどれかが $0$ でないこと、すなわち $p$ が非特異な点であることと同じである。重複度がちょうど $d-1$ であることは
$$
F=x_0F_{d-1}(x')+F_d(x'),\qquad F_{d-1}\neq0
$$
と書けることである。
$k$ を体、$n\ge1$、$d\ge2$ とし、$F=x_0G(x')+H(x')$($G=F_{d-1}\neq0$ は $d-1$ 次、$H=F_d$ は $d$ 次の斉次式)とする。
1. $F$ は $x_0$ について 1 次である。$F=AB$ と分解すると、$x_0$ についての次数から一方、たとえば $A$ は $x_0$ を含まず、$x_0$ の係数と定数項を比べて $G=AB_1$、$H=AB_0$($B=x_0B_1+B_0$)となる。よって $A$ が定数でなければ $A$ は $G$ と $H$ の共通因子である。逆に定数でない共通因子 $A$ があれば、$F=A\cdot(x_0G/A+H/A)$ で、$\deg F=d$ より右の因子も定数でないから $F$ は可約である。
2. $F$ は既約なので $S:=k[x_0,\dots,x_{n+1}]/(F)$ は整域である。$d\ge2$ なので各 $x_i$ は $S$ で $0$ でなく、$X\cap D_+(x_i)$ は整域 $(S_{x_i})_0\subset S_{x_i}$ のスペクトルで空でなく、どの 2 つも空でない開集合 $X\cap D_+(x_ix_j)$ で交わる。整なアフィン開集合で覆われ、どの 2 つも交わるスキームは既約かつ被約、すなわち整である。射影的なので $k$ 上分離的かつ有限型である。次元は 3 から従う($X$ の空でない開集合が $n$ 次元の $D_+(G)$ と同型)。
3. $U:=D_+(G)\subset\mathbb{P}^n_k$、$V:=X\cap D_+(G)$ とおく($G$ を $x_0$ を含まない多項式として $\mathbb{P}^{n+1}_k$ でも考える)。射影空間への射は、生成的な切断の組を共通の可逆元倍の違いを除いて与えれば定まる(Har77 II, Theorem 7.1、p. 150)ので、以下の計算は射の等式として成り立つ。
(a) $\pi$ は $D_+(G)$ の上の射である。$G$ は $x_1,\dots,x_{n+1}$ の $d-1$ 次式なので、$G$ が消えない所では $x_1,\dots,x_{n+1}$ は同時には消えず、$\mathcal{O}(1)$ を生成する。$\pi(V)\subset U$ である。
(b) $\psi$ は $U$ の上の射である。$U$ の上で $G$ は消えず、$x'$ も同時には消えないので、$G(x')x_1,\dots,G(x')x_{n+1}$ が $\mathcal{O}(d)$ を生成する。
(c) $\psi(U)\subset V$ である。$\lambda:=G(x')$ とおくと、斉次性から $G(\lambda x')=\lambda^{d-1}G(x')=\lambda^d$、$H(\lambda x')=\lambda^dH(x')$ なので
$$
F(-H,\lambda x')=-H\cdot G(\lambda x')+H(\lambda x')=-\lambda^dH+\lambda^dH=0
$$
であり、$\psi$ は閉部分スキーム $X=V_+(F)$ を経由する。さらに $\psi$ の像の点で $G$ の値は $G(\lambda x')=\lambda^d$ で消えないので、$\psi$ は $V$ に入る。
(d) $U$ の上で $\pi\circ\psi=\mathrm{id}_U$ である。$\pi(\psi([x']))=[\lambda x']=[x']$($\lambda$ は可逆)。
(e) $V$ の上で $\psi\circ\pi=\mathrm{id}_V$ である。$X$ の上では $x_0G(x')=-H(x')$ が成り立つので、$\psi(\pi([x_0:x']))=[-H(x'):G(x')x']=[G(x')x_0:G(x')x']=[x_0:x']$($G$ は $V$ の上で可逆)。
$G\neq0$ は整域 $k[x']$ の冪零でない元なので $U\neq\emptyset$ であり、$V=\psi(U)\neq\emptyset$ である。よって $X$ の空でない開集合 $V$ は $\mathbb{P}^n_k$ の空でない開集合 $U$ と同型で、thm-rv-function-field の 3 により $X$ は有理である。$\square$
幾何的には、$p$ を通る方向 $[x']$ の直線 $\{[s:tx']\}$ に $F$ を制限すると $F(s,tx')=t^{d-1}\bigl(sG(x')+tH(x')\bigr)$ となる。直線は $p$($t=0$)で $X$ と $d-1$ 重に交わり、残りの交点はちょうど 1 つ $[s:t]=[-H(x'):G(x')]$ で、これが $\psi([x'])$ である。重複度が $d-1$ より小さいと残りの交点が複数になり、この方法では媒介変数が 1 つに決まらない。$n=1$ の場合は 有理曲線 の定理「$(d-1)$ 重点をもつ平面曲線は有理曲線」の射影版である。
$d=2$ とする。$F$ を既約な 2 次形式、$X=V_+(F)$ とし、$X$ が非特異な $k$ 有理点 $p$ をもつとする。座標を取り替えて $p=[1:0:\dots:0]$ とすると、$F(p)=0$ より $F=x_0F_1(x')+F_2(x')$ と書け、$p$ が非特異なことは $F_1\neq0$ である。よって thm-rv-projection により $X$ は有理である。標数も次元も問わない(標数 $2$ でない体上の 2 次曲面の場合は 2次曲面 の定理「1 点からの射影」)。
$d=3$ では、$k$ 有理点 $p$ がちょうど 2 重点($F_1=0$、$F_2\neq0$)なら、既約な 3 次超曲面は有理である。
有理であることは開集合の同型を 1 つ見つければ示せるが、有理でないことを示すには双有理同値で変わらない性質が要る。ここでは 2 つの典型を述べる。
$k$ を無限体、$X$ を $k$ 上の単有理な多様体とする。このとき $X$ の $k$ 有理点の全体 $X(k)$ は $X$ で稠密である。とくに有理多様体についても成り立ち、$X(k)\neq\emptyset$ である。
支配的な有理写像 $f\colon\mathbb{P}^m_k\dashrightarrow X$ の代表 $(W,f)$ をとる。$W$ の $k$ 有理点が $W$ で稠密であることを示す。$W'\subset W$ を空でない開集合とすると、$W'\cap\mathbb{A}^m_k$ は $\mathbb{A}^m_k$ の空でない開集合なので、$0$ でない多項式 $g$ について $D(g)\subset W'$ となる。$k$ が無限体なので、$0$ でない多項式 $g\in k[t_1,\dots,t_m]$ には $g(a)\neq0$ となる $a\in k^m$ がある($m$ についての帰納法:$g$ を $t_m$ の多項式とみて、$0$ でない係数に帰納法の仮定を使って $a_1,\dots,a_{m-1}$ を選ぶと、$g(a_1,\dots,a_{m-1},t_m)$ は $0$ でない 1 変数多項式で根は有限個)。この $a$ が $W'$ の $k$ 有理点である。
$k$ 上の射は $k$ 有理点を $k$ 有理点に写すので $f(W(k))\subset X(k)$ である。$f$ は連続なので $f(W)=f\bigl(\overline{W(k)}\bigr)\subset\overline{f(W(k))}$(閉包は $W$ と $X$ でとる)であり、$f(W)$ は $X$ で稠密だから $X(k)$ も稠密である。$\square$
$n\ge1$ とし、$\mathbb{R}$ 上の $X\colon x_0^2+x_1^2+\dots+x_{n+1}^2=0$ を考える。$F=\sum x_i^2$ は $\mathbb{R}$ 上既約である(1 次式 $\ell$ で割り切れれば、$\ell=0$ の $0$ でない実数解 $a$ で $F(a)=0$ となるが、$F(a)>0$)。よって $X$ は多様体で、実数の点をもたない。prop-rv-points により、$X$ は $\mathbb{R}$ 上単有理でなく、とくに有理でない。
$k$ を代数閉体とする。$k$ 上の滑らかな射影多様体 $X,Y$ が双有理同値なら、$1\le p\le\dim X$ で $\dim_kH^0(X,\Omega^p_X)=\dim_kH^0(Y,\Omega^p_Y)$ である。証明は 双有理不変量 の定理「微分形式のテンソルの双有理不変性」にある(Har77 II, Theorem 8.19(p. 181)と Exercise 8.8(p. 190)も参照)。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の $n$ 次元の滑らかな射影多様体とする。$X$ が有理なら、$1\le p\le n$ について $H^0(X,\Omega^p_X)=0$ である。とくに標準層 $\omega_X=\Omega^n_X$ は $0$ でない大域切断をもたない。
$X$ は $\mathbb{P}^n_k$ と双有理同値で、どちらも滑らかな射影多様体なので、上の不変性により $\dim H^0(X,\Omega^p_X)=\dim H^0(\mathbb{P}^n_k,\Omega^p)$ である。Euler完全列 の定理「射影空間の微分形式のコホモロジー」($q=0$、$p\ge1$)により右辺は $0$ である。$\square$
$k$ を代数閉体、$F$ を次数 $d\ge n+2$ の既約な斉次式とし、$Z:=V_+(F)\subset\mathbb{P}^{n+1}_k$ が滑らかであるとする($Z$ が整であることは thm-rv-projection の証明の 2 と同じ理由により、$n$ 次元であることは各 $D_+(x_i)\cong\mathbb{A}^{n+1}_k$ の中の超曲面として 超曲面 の定理「超曲面の既約成分と次元」による)。標準層 の系「超曲面の標準層」により $\omega_Z\cong\mathcal{O}_Z(m)$、$m:=d-n-2\ge0$ である。$x_0^m$ は $F$ で割り切れない($F$ は既約で次数 $2$ 以上)ので、$S=k[x_0,\dots,x_{n+1}]/(F)$ の $0$ でない $m$ 次の元を与え、$D_+(x_0)$ の上の切断 $x_0^m/x_0^m=1$ に制限される $\mathcal{O}_Z(m)$ の大域切断として $0$ でない。よって $H^0(Z,\omega_Z)\neq0$ で、cor-rv-forms により $Z$ は有理でない。
$n=1$、$d\ge3$ の滑らかな平面曲線(たとえば楕円曲線)、$n=2$、$d\ge4$ の滑らかな曲面(4 次曲面)、$n=3$、$d\ge5$ の滑らかな 3 次元多様体がこの例である。$d\le n+1$ では $\omega_Z$ の次数が負になり、この議論は使えない。
単有理な多様体が有理かという問い(Lüroth の問題)の答えは次元による。この記事では次の 3 つを証明しない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 重複度がちょうど $d-1$($F_{d-1}\neq0$) | $\mathbb{Q}$ 上の $x_1^3=2x_2^3$($\mathbb{P}^3$ の中、$p$ の重複度 $3$) | 有理であること |
| $p$ が $k$ 有理点 | $\mathbb{R}$ 上の $\sum_{i=0}^{n+1}x_i^2=0$ | 有理であること |
| $F$ の既約性 | $x_0x_1=0$($G=x_1$、$H=0$) | $V_+(F)$ が多様体であること |
| 双有理同値を同型に強めること | $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ と $\mathbb{P}^2$ | 有理多様体どうしが同型であること |
要点:1 行目は関数体に $\sqrt[3]{2}$ が入ること、2 行目は ex-rv-no-point、3 行目は可約であること、4 行目は引用による。
1. $F=x_1^3-2x_2^3\in\mathbb{Q}[x_0,\dots,x_3]$ は $x_0$ を含まず、$p=[1:0:0:0]$ での重複度は $3=d$ である。$F$ は $\mathbb{Q}$ 上既約である(1 次の因子 $x_1-ax_2$ があれば $a^3=2$、$a\in\mathbb{Q}$ となる)。$X=V_+(F)$ の開集合 $D_+(x_2)$ は $\operatorname{Spec}\mathbb{Q}[u,s,t]/(u^3-2)=\operatorname{Spec}\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})[s,t]$($u=x_1/x_2$、$s=x_0/x_2$、$t=x_3/x_2$)なので、$K(X)\cong\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})(s,t)$ で、$u^3=2$ となる元 $u$ を含む。一方 $\mathbb{Q}(s,t)$ に $h^3=2$ となる $h=f/g$($f,g\in\mathbb{Q}[s,t]$ は互いに素)があれば、$f^3=2g^3$ から $g\mid f^3$、したがって $g$ は定数、すると $f^3$ も定数で $f$ は定数となり、$h\in\mathbb{Q}$ で $h^3=2$ となって矛盾する。よって thm-rv-function-field の 1 により $X$ は $\mathbb{Q}$ 上有理でない。
2. ex-rv-no-point のとおり。
3. $F=x_0x_1$ は $p$ で重複度 $1=d-1$、$G=x_1\neq0$ だが、$G$ と $H=0$ は共通因子 $x_1$ をもち、$V_+(F)$ は 2 つの超平面の和で既約でない。
4. 双有理写像 の例「反例:射影直線の積と射影平面」。どちらも有理多様体である。
有理多様体の定義と関数体による言い換えは Har77 I, Exercise 4.4(p. 30)にある。2 次曲面と特異 3 次曲線の有理性は同書 I, Exercise 4.4・4.5(p. 30)の内容で、thm-rv-projection はそれを任意の次元・次数の超曲面に広げたものである。曲面の有理性判定(Castelnuovo)は Har77 V §6(p. 422)にある。
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