Schauderの不動点定理(Schauder fixed-point theorem)とは、ノルム空間の空でない閉凸集合 $C$ からそれ自身への連続写像 $F$ について、像 $F(C)$ の閉包がコンパクトならば $F$ が不動点をもつという定理である。とくにコンパクト凸集合からそれ自身への連続写像は不動点をもち、有限次元の Brouwer の不動点定理を無限次元へ広げたものにあたる。証明では、像のコンパクト性を使って $F$ を有限次元の多面体への写像で一様に近似し、近似写像の不動点の極限をとる。微分方程式や積分方程式の解の存在を示す道具として使われ、Banach の不動点定理と違って一意性や反復の収束は主張しない。
前提知識: Brouwerの不動点定理, ノルム空間, 凸集合, コンパクト空間
Brouwerの不動点定理は、有限次元の閉球からそれ自身への連続写像が不動点をもつことを述べる。無限次元の Banach 空間では閉球がコンパクトでないため、この主張はそのままでは成り立たず、実際に Hilbert 空間の閉単位球から自身への連続写像で不動点をもたないものがある(ex-schauder-kakutani)。Schauder の不動点定理 は、写像の像がコンパクト集合に収まるという条件を加えれば、閉凸集合の上で不動点が存在することを保証する。証明は、像のコンパクト性を使って写像を有限次元の多面体への写像で一様に近似し(Schauder の射影)、近似写像に Brouwer の定理を当てて、近似不動点の極限をとるというものである。積分方程式や微分方程式の解を、ある写像の不動点として見つける存在定理の道具として使われる。Banachの不動点定理と違い、不動点の一意性や反復の収束は主張しない。
以下、$X$ を実数体上のノルム空間とする(複素ノルム空間は実ノルム空間とみなせばよい)。部分集合 $S\subset X$ の閉包がコンパクトであるとき、$S$ は 相対コンパクト であるという。
$C\subset X$ を空でない閉凸集合、$F\colon C\to C$ を連続写像とし、$F(C)$ が相対コンパクトであるとする。このとき $F$ は不動点をもつ。すなわち $F(x)=x$ となる $x\in C$ が存在する。不動点は $F(C)$ の閉包に属する。
証明は、有限次元の準備(prop-schauder-brouwer-convex)と近似の補題(lem-schauder-approx)のあとの prf-schauder-main で与える。
$K\subset X$ を空でないコンパクト凸集合とする。連続写像 $f\colon K\to K$ は不動点をもつ。
コンパクト集合は閉集合で、$f(K)\subset K$ は相対コンパクトなので、thm-schauder-main を $C=K$ に当てればよい。$\square$
$X$ の完備性は使わない。また $X=\mathbb{R}^m$ で $C$ が閉球のとき、$F(C)\subset C$ は有界なので閉包はコンパクトであり、thm-schauder-main は Brouwerの不動点定理そのものになる。
証明はまず有限次元の場合に Brouwer の定理を閉球から一般のコンパクト凸集合へ移し、次にそれを無限次元へ近似で持ち上げる。前者は最近点への射影による。
$Q\subset\mathbb{R}^m$ を空でないコンパクト凸集合とし、$|\cdot|$ を Euclid ノルムとする。各 $z\in\mathbb{R}^m$ について $|z-p|$ を最小にする $p\in Q$ はただ 1 つであり、これを $r(z)$ と書くと、$r\colon\mathbb{R}^m\to Q$ は $|r(z)-r(w)|\le|z-w|$ をみたし、$Q$ の各点を動かさない。
要点:存在はコンパクト性、一意性は中点が真に近いこと、Lipschitz 性は変分不等式 $\langle z-r(z),q-r(z)\rangle\le0$($q\in Q$)から従う。
存在:$p\mapsto|z-p|$ は連続でコンパクト集合 $Q$ 上で最小値 $d$ をとる。一意性:$p_1,p_2$ がともに最小なら、凸性より中点 $\frac{p_1+p_2}2\in Q$ で、中線定理から $\bigl|z-\frac{p_1+p_2}2\bigr|^2=d^2-\frac14|p_1-p_2|^2$ なので $p_1=p_2$ である。変分不等式:$p=r(z)$、$q\in Q$、$0< t\le1$ とすると $p+t(q-p)\in Q$ なので $|z-p-t(q-p)|^2\ge|z-p|^2$、展開して $-2t\langle z-p,q-p\rangle+t^2|q-p|^2\ge0$ であり、$t$ で割って $t\to0+$ とすればよい。Lipschitz 性:$p=r(z)$、$p'=r(w)$ について $\langle z-p,p'-p\rangle\le0$、$\langle w-p',p-p'\rangle\le0$ を足すと $|p-p'|^2\le\langle z-w,p-p'\rangle\le|z-w|\,|p-p'|$ である。$q\in Q$ なら $r(q)=q$ は明らか。$\square$
$E$ を有限次元の実ノルム空間、$Q\subset E$ を空でないコンパクト凸集合とする。連続写像 $g\colon Q\to Q$ は不動点をもつ。
$m=\dim E$ とする。$m=0$ なら $Q$ は 1 点で明らかなので $m\ge1$ とする。基底を 1 つとって線形同型 $\Phi\colon E\to\mathbb{R}^m$ をつくる。有限次元では線形写像は連続なので $\Phi$ は同相写像であり、$Q':=\Phi(Q)$ はコンパクト凸集合、$g':=\Phi\circ g\circ\Phi^{-1}\colon Q'\to Q'$ は連続である。$Q'$ を含む閉球 $D=\{z\mid|z|\le R\}$ をとり、lem-schauder-projection の $r$ を使って
$$
h:=g'\circ r\colon D\to Q'\subset D
$$
とおく。$D$ は閉単位球と同相なので、Brouwerの不動点定理(記事の命題「同相な空間への移し替え」とともに)により $h(z)=z$ となる $z\in D$ がある。$z=h(z)\in Q'$ なので $r(z)=z$、したがって $g'(z)=z$ であり、$x:=\Phi^{-1}(z)$ が $g$ の不動点である。$\square$
thm-schauder-main の仮定のもとで、各 $\varepsilon>0$ に対し、有限個の点 $y_1,\dots,y_n\in F(C)$ と連続写像 $F_\varepsilon\colon C\to Q_\varepsilon:=\mathrm{conv}\{y_1,\dots,y_n\}$ で
$$
\|F_\varepsilon(x)-F(x)\|<\varepsilon\qquad(x\in C)
$$
をみたすものがある。ここで $\mathrm{conv}$ は凸包を表し、$C$ の凸性から $Q_\varepsilon\subset C$ である。
$K$ を $F(C)$ の閉包とする。$K$ の各点は $F(C)$ の点から距離 $\varepsilon$ 未満にあるので、開球 $B(y,\varepsilon)$($y\in F(C)$)は $K$ を覆う。$K$ はコンパクトなので有限個 $B(y_1,\varepsilon),\dots,B(y_n,\varepsilon)$ で覆える。$x\in C$ について
$$
m_i(x):=\max\{\varepsilon-\|F(x)-y_i\|,\,0\},\qquad F_\varepsilon(x):=\frac{\sum_{i=1}^nm_i(x)\,y_i}{\sum_{i=1}^nm_i(x)}
$$
とおく。$F(x)\in K$ はある $B(y_i,\varepsilon)$ に入るので分母は正であり、$m_i$ は連続なので $F_\varepsilon$ は連続である。$F_\varepsilon(x)$ は $y_i$ の凸結合なので $Q_\varepsilon$ に属する。$m_i(x)>0$ となるのは $\|F(x)-y_i\|<\varepsilon$ のときだけなので、
$$
\|F_\varepsilon(x)-F(x)\|=\Bigl\|\frac{\sum_im_i(x)\,(y_i-F(x))}{\sum_im_i(x)}\Bigr\|\le\frac{\sum_im_i(x)\,\|y_i-F(x)\|}{\sum_im_i(x)}<\varepsilon
$$
である。$\square$
重み $m_i$ は $i$ ごとに $F(x)$ と $y_i$ の距離で決まることが要る。すべての $i$ に共通の重み(たとえば $\sum_jm_j(x)$)を使うと $F_\varepsilon(x)$ は $y_1,\dots,y_n$ の単純平均という定点になり、$F$ を近似しない。
$k=1,2,\dots$ について $\varepsilon=1/k$ として lem-schauder-approx の $F_{1/k}$ と $Q_k:=Q_{1/k}$ をとる。$Q_k$ は $y_1,\dots,y_n$ の張る有限次元部分空間 $E_k$ に含まれる空でないコンパクト凸集合で(有限個の点の凸包は、単体からの連続写像の像なのでコンパクト)、$Q_k\subset C$ だから $F_{1/k}$ を $Q_k$ に制限した $Q_k\to Q_k$ は連続である。prop-schauder-brouwer-convex により $F_{1/k}(x_k)=x_k$ となる $x_k\in Q_k\subset C$ があり、
$$
\|F(x_k)-x_k\|=\|F(x_k)-F_{1/k}(x_k)\|<\frac1k
$$
である。$F(x_k)$ はコンパクト集合 $K$($F(C)$ の閉包)の点列なので、収束する部分列 $F(x_{k_j})\to x\in K$ がある。$C$ は閉集合で $F(C)\subset C$ なので $K\subset C$、とくに $x\in C$ である。上の評価から $x_{k_j}\to x$ でもあり、$F$ の連続性から $F(x)=\lim_jF(x_{k_j})=x$ である。$\square$
Schauder の定理の典型的な使い方は、方程式を積分方程式 $x=F(x)$ に書き直し、$F$ の像のコンパクト性を Arzelà–Ascoliの定理で確かめることである。右辺が連続なだけで解が存在するという Peanoの存在定理を、この方法で示す。
$t_0\in\mathbb{R}$、$x_0\in\mathbb{R}^n$、$T,\delta>0$ とし、$f$ を $V:=[t_0-T,t_0+T]\times\overline{B}_\delta(x_0)$ 上の $\mathbb{R}^n$ 値連続関数、$M:=\max_V|f|$ とする。$T_0:=\min\{T,\delta/M\}$($M=0$ のときは $T_0:=T$)、$I_0:=[t_0-T_0,t_0+T_0]$ とおくと、$C^1$ 級の $x\colon I_0\to\overline{B}_\delta(x_0)$ で
$$
x'(t)=f(t,x(t))\quad(t\in I_0),\qquad x(t_0)=x_0
$$
をみたすものが存在する。
$X:=C(I_0;\mathbb{R}^n)$ に最大値ノルム $\|x\|_\infty$ を入れ、
$$
C:=\{x\in X\mid |x(t)-x_0|\le\delta\ (t\in I_0)\},\qquad F(x)(t):=x_0+\int_{t_0}^tf(s,x(s))\,ds
$$
とおく。$C$ は定数関数 $x_0$ を含む閉凸集合である。$x\in C$ なら $|F(x)(t)-x_0|\le M|t-t_0|\le MT_0\le\delta$ なので $F(C)\subset C$ である。$f$ はコンパクト集合 $V$ 上で一様連続なので、$\varepsilon>0$ に対し $|y-z|<\eta$ なら $|f(s,y)-f(s,z)|<\varepsilon$ となる $\eta>0$ があり、$\|x-z\|_\infty<\eta$ なら $\|F(x)-F(z)\|_\infty\le T_0\varepsilon$ である。よって $F$ は連続である。
$F(C)$ の元はすべて $|F(x)(t)|\le|x_0|+\delta$、$|F(x)(t)-F(x)(s)|\le M|t-s|$ をみたすので、$F(C)$ の点列は各点有界かつ同程度連続であり、Arzelà–Ascoliの定理により一様収束する部分列をもつ。距離空間では、これから $F(C)$ の閉包の点列も収束する部分列をもつことが従い(閉包の点列 $z_k$ に $\|z_k-w_k\|_\infty<1/k$ となる $w_k\in F(C)$ をとる)、閉包はコンパクトである。
thm-schauder-main により $F(x)=x$ となる $x\in C$ がある。$x(t)=x_0+\int_{t_0}^tf(s,x(s))\,ds$ の右辺は微積分学の基本定理により $C^1$ 級で、微分すると $x'(t)=f(t,x(t))$、また $x(t_0)=x_0$ である。$\square$
Peanoの存在定理の記事は、同じ主張を Euler 法の折れ線と Arzelà–Ascoli の定理で直接証明している。上の証明では、折れ線の代わりに Schauder の射影が有限次元の近似を受け持っている。解の一意性はどちらの証明からも出ず、実際 $x'=2\sqrt{|x|}$、$x(0)=0$ は $x\equiv0$ と $x=t^2$($t\ge0$)の 2 つの解をもつ。
同じ方法は、未知関数が積分の中に入る非線形の方程式にも使える。縮小性がなくても、非線形項が有界で連続でさえあれば解が存在する。
$k$ を $[0,1]^2$ 上の実数値連続関数、$g$ を $[0,1]\times\mathbb{R}$ 上の実数値連続関数で $|g|\le L$ をみたすものとする。このとき積分方程式
$$
x(t)=\int_0^1k(t,s)\,g(s,x(s))\,ds\qquad(0\le t\le1)
$$
は連続な解 $x$ をもつ。$g$ が $x$ について Lipschitz でなくても、Lipschitz 定数が大きくてもよい。
$X=C([0,1])$(最大値ノルム)、右辺を $F(x)(t)$ とし、$R:=L\max|k|$、$C:=\{x\in X\mid\|x\|_\infty\le R\}$ とおく。$|F(x)(t)|\le\int_0^1|k||g|\,ds\le R$ なので $F(X)\subset C$ である。$g$ は $[0,1]\times[-R,R]$ 上で一様連続なので、prf-schauder-peano と同じく $F\colon C\to C$ は連続である。$k$ は一様連続なので、$\varepsilon>0$ に対し $|t-t'|<\eta$ なら $|k(t,s)-k(t',s)|<\varepsilon$(すべての $s$)となる $\eta$ があり、そのとき $|F(x)(t)-F(x)(t')|\le L\varepsilon$ である。よって $F(C)$ は一様有界かつ同程度連続で、Arzelà–Ascoliの定理により相対コンパクトである。thm-schauder-main から不動点 $x=F(x)$ が解である。$\square$
たとえば $g(s,y)=\sin(y^3)$ は $y$ について大域的な Lipschitz 定数をもたないので、Banach の不動点定理を直接は当てられないが、上の例により解は存在する。
有限次元では、閉凸集合の有界性とコンパクト性は同じであり、Brouwer の定理が働く。無限次元では事情が違い、たとえば $\ell^2$ の閉単位球は互いに距離 $\sqrt2$ 離れた点列 $e_1,e_2,\dots$ を含むので、有限個の点で半径 $1/2$ の近似をすることさえできず(全有界でない)、有限次元の外へ「逃げ道」をもつ。ex-schauder-kakutani の写像は、座標を 1 つずつ右へずらすことでこの逃げ道を通り、すべての点を動かしている。Schauder の定理の仮定「$F(C)$ が相対コンパクト」は、$F$ の値が有限個の点で $\varepsilon$ 近似できること、すなわち $F$ が実質的に有限次元の写像の極限であることを保証し、この逃げ道をふさいでいる。証明の lem-schauder-approx は、まさにその有限次元の近似を作る段階である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $F(C)$ の相対コンパクト性 | Hilbert 空間 $\ell^2$ の閉単位球 $B$ と $F(x)=(\sqrt{1-\Vert x\Vert ^2},x_1,x_2,\dots)$(ex-schauder-kakutani) | 不動点がない |
| $C$ の凸性 | $\mathbb{R}^2$ の単位円周 $S^1$ と $90^\circ$ の回転 | 不動点がない |
| $C$ が閉集合であること | $X=\mathbb{R}$、$C=(0,1]$、$F(x)=x/2$ | $F(C)$ は相対コンパクトだが不動点がない |
| $F$ の連続性 | $C=[0,1]$、$x\le1/2$ で $F(x)=1$、$x>1/2$ で $F(x)=0$ | 不動点がない |
2 行目では $S^1$ はコンパクトで像は $S^1$ 自身、回転は連続だが、回転で動かない点は原点だけで $S^1$ に入らない。3 行目では $F(C)=(0,1/2]$ の閉包 $[0,1/2]$ はコンパクトだが $C$ に含まれず、唯一の候補 $0$ が $C$ にない。4 行目では $[0,1/2]$ の点は $1$ に、$(1/2,1]$ の点は $0$ に移るので、どの点も動く。
$\ell^2$ を実数列 $x=(x_1,x_2,\dots)$ で $\|x\|^2=\sum_k x_k^2<\infty$ となるものの Hilbert 空間、$B$ を閉単位球とし、$F(x):=(\sqrt{1-\|x\|^2},x_1,x_2,\dots)$ とおく。$\|F(x)\|^2=(1-\|x\|^2)+\|x\|^2=1$ なので $F(B)\subset B$ で、$F$ は連続である(右へのずらしは等長な線形写像)。$F(x)=x$ とすると $\|x\|=\|F(x)\|=1$ なので第 1 成分から $x_1=\sqrt{1-1}=0$、以下 $x_{k+1}=x_k$ から順に $x_k=0$ となり、$\|x\|=1$ に反する。$B$ は閉凸集合だが、$F(e_k)=e_{k+1}$($e_k$ は第 $k$ 成分だけが $1$ の列)であり、$\|e_k-e_l\|=\sqrt2$($k\ne l$)だから $F(B)$ は収束する部分列をもたない点列を含み、相対コンパクトでない。
Schauder の定理は不動点の個数について何も言わない。恒等写像はすべての点を不動点にもつ。また $F$ の反復 $x,F(x),F(F(x)),\dots$ が不動点に収束するとは限らない。$C=[-1,1]$、$F(x)=-x$ の不動点は $0$ だけだが、$x\ne0$ からの反復は $x,-x$ を往復する。一意性と反復の収束は、縮小性を仮定するBanachの不動点定理の側の結論である。
thm-schauder-main と同じ形(Banach 空間の空でない閉凸集合 $C$ と、$F(C)$ がコンパクト集合 $K\subset C$ に含まれる連続写像 $F$)は、Bre11 の Exercise 6.26(p. 179)に、有限次元の Brouwer の定理から導く演習として挙げられている。この記事の lem-schauder-approx と prf-schauder-main はその道筋を、重みを $i$ ごとに取る形で書いたものである。
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