解析接続

同義語:analytic continuation解析的接続

概要

解析接続(analytic continuation)とは、ある領域で与えられた正則関数を、より広い範囲の正則関数へ延ばすことで、領域への延長と、円板上の関数を道に沿って円板から円板へ延ばす接続とがある。延長は一致の定理により存在すれば一意であり、道に沿った接続の結果も道だけで決まる。端点を止めて道を連続的に変形しても途中で接続できる限り結果は変わらず(一価性定理)、単連結な領域ではすべての道に沿った接続が 1 つの正則関数にまとまるが、対数関数は原点のまわりを 1 周すると $2\pi i$ だけずれ、$\sum z^{2^n}$ は単位円周のどこからも延ばせない。Γ 関数や Riemann ゼータ関数の定義域を広げるのに使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正則関数, 一致の定理, 冪級数, ホモトピー

ある領域で与えられた正則関数を、より広い範囲へ正則関数として延ばすことを 解析接続(analytic continuation)という。冪級数 $\sum_{n\ge0}z^n$ は単位円板 $|z|<1$ でしか収束しないが、その和 $\frac1{1-z}$ は $z\neq1$ のすべての点で正則であり、級数の定める関数は $\mathbb{C}\setminus\{1\}$ へ延びる。Γ関数 や Riemannゼータ関数 は、積分や級数で定義される範囲の外では、この意味の延長として値をもつ。
解析接続の基本的な性質は 2 つある。第 1 は 一意性 で、延長は存在すれば 一致の定理 によって 1 通りに決まる。第 2 は 道への依存 で、関数を円板から円板へと道に沿って延ばしていくと、行き先の値が道の取り方によって変わることがある。対数関数を原点のまわりに 1 周延ばすと、元の値に $2\pi i$ が加わって戻ってくる。道を連続的に変形しても結果が変わらないことを述べるのが 一価性定理(モノドロミー定理)であり、単連結な領域では道に沿った接続が 1 つの正則関数にまとまる。逆に、収束円のどの点からも外へ延ばせない冪級数もあり、そのとき収束円を 自然境界 という。

定義

以下、$D(c,r):=\{z\in\mathbb{C}\mid|z-c|< r\}$ は中心 $c$、半径 $r>0$ の開円板である。2 つの開円板の共通部分は凸集合なので、空でなければ連結である。この事実を 一致の定理 の記事の定理「平面の領域上の一致の定理」と合わせると、2 つの開円板 $D,E$ の上の正則関数 $f,g$ が $D\cap E$ のどこかの空でない開集合の上で一致すれば、$D\cap E$ 全体で一致する。以下この形で一致の定理を何度も使う。

解析接続(拡張)

$U\subset W$ を $\mathbb{C}$ の領域(連結な開集合)、$f$ を $U$ 上の正則関数とする。$W$ 上の正則関数 $F$ で $F|_U=f$ を満たすものを、$f$ の $W$ への 解析接続 という。

$f$ の $W$ への解析接続は、存在すれば 1 つしかない(一致の定理 の記事の系「解析接続の一意性」)。この一意性のおかげで、実軸上の関数や級数で定義された関数を延長したものを、同じ名前・同じ記号で呼ぶことができる。

関数要素と道に沿った解析接続

開円板 $D$ とその上の正則関数 $f$ の組 $(f,D)$ を 関数要素 といい、$D$ の中心をその中心とよぶ。$\gamma\colon[0,1]\to\mathbb{C}$ を連続写像(道)、$(f,D)$ を中心 $\gamma(0)$ の関数要素とする。関数要素の族 $(f_t,D_t)_{t\in[0,1]}$ が次の 3 条件を満たすとき、これを $(f,D)$ の $\gamma$ に沿った 解析接続 という。

  1. 各 $t$ について $D_t$ は中心 $\gamma(t)$ の開円板、$f_t$ は $D_t$ 上の正則関数である。
  2. $f_0=f$ が $\gamma(0)$ のある近傍の上で成り立つ。
  3. 各 $t\in[0,1]$ について $\delta>0$ があり、$|s-t|<\delta$($s\in[0,1]$)ならば $f_s=f_t$ が $D_s\cap D_t$ の上で成り立つ。
    このような族が存在するとき、$f$ は $\gamma$ に沿って解析接続できるという。$(f_1,D_1)$ を終点 $\gamma(1)$ での 終端の要素 とよぶ。

条件 3 は「隣り合う要素は重なりの上で一致する」という意味である。$\gamma$ の連続性により、$s$ が $t$ に近ければ $\gamma(s)\in D_t$ なので、$D_s\cap D_t$ は空でない。道が 1 点にとどまる場合($\gamma$ が定数)には、$(f,D)$ を小さい円板に制限したもの自身が解析接続になる。同じ点を中心とする 2 つの関数要素 $(g,E)$、$(h,E')$ が「その点で一致する」とは、$g=h$ が中心のある近傍で成り立つことをいう。$E\cap E'$ は小さいほうの円板なので、これは $E\cap E'$ 全体で $g=h$ であることと同値である。
道に沿った接続と拡張の関係は次のとおりである。$f$ が領域 $W$ 上の正則関数 $F$ の制限で、$\gamma$ が $W$ の中の道なら、$D_t$ を $W$ に含まれる中心 $\gamma(t)$ の円板、$f_t:=F|_{D_t}$ とおけば $\gamma$ に沿った解析接続が得られる。したがって、ある閉じた道に沿った接続の終端の要素が始点で $f$ と一致しなければ(ex-ac-log)、$f$ はその道を含む領域へは延ばせない。

道に沿った接続の一意性

道に沿った解析接続の一意性

$\gamma\colon[0,1]\to\mathbb{C}$ を道、$(f,D)$ を中心 $\gamma(0)$ の関数要素とし、$(f_t,D_t)$ と $(g_t,E_t)$ をともに $(f,D)$ の $\gamma$ に沿った解析接続とする。このとき、すべての $t\in[0,1]$ について $f_t=g_t$ が $D_t\cap E_t$ の上で成り立つ。特に終端の要素は終点で一致する。

一致する時刻の集合が開かつ閉であることを示す

$T:=\{t\in[0,1]\mid D_t\cap E_t\text{ の上で }f_t=g_t\}$ とおく。$D_t\cap E_t$ は中心 $\gamma(t)$ の小さいほうの円板であり、連結である。
$0\in T$:条件 2 により $f_0$ と $g_0$ はどちらも $\gamma(0)$ のある近傍で $f$ に等しいので、$\gamma(0)$ の近傍で一致する。一致の定理により $D_0\cap E_0$ 全体で一致する。
$t\in[0,1]$ を任意にとる。条件 3 と $\gamma$ の連続性により $\delta>0$ を、$|s-t|<\delta$ ならば (a) $D_s\cap D_t$ 上で $f_s=f_t$、(b) $E_s\cap E_t$ 上で $g_s=g_t$、(c) $\gamma(s)\in D_t\cap E_t$ となるようにとる。$|s-t|<\delta$ のとき、$\gamma(s)$ は 4 つの開円板 $D_s,E_s,D_t,E_t$ のすべてに属するので、$\gamma(s)$ を中心とする小さい開円板 $B$ で 4 つすべてに含まれるものがある。$B$ の上では (a)(b) により $f_s=f_t$、$g_s=g_t$ である。
$T$ が開集合であること:$t\in T$ なら $B$ 上で $f_s=f_t=g_t=g_s$ であり、一致の定理により $D_s\cap E_s$ 全体で $f_s=g_s$、すなわち $s\in T$ である。
$T$ が閉集合であること:$t$ が $T$ の閉包に属すれば、$|s-t|<\delta$ を満たす $s\in T$ がある。$B$ 上で $f_t=f_s=g_s=g_t$ であり、一致の定理により $D_t\cap E_t$ 全体で $f_t=g_t$、すなわち $t\in T$ である。
$[0,1]$ は連結で $T$ は空でない開かつ閉の部分集合だから、$T=[0,1]$ である。

この定理により、道に沿った接続の終端の要素は(終点の近くでは)道だけで決まる。これを「$f$ を $\gamma$ に沿って接続した結果」とよぶ。実際の計算では、道を有限個の円板で覆って順に延ばせば十分である。

有限個の円板による言い換え

$\gamma$ と $(f,D)$ を def-ac-path のとおりとする。$f$ が $\gamma$ に沿って解析接続できるための必要十分条件は、分点 $0=t_0< t_1<\dots< t_m=1$、開円板 $\Delta_1,\dots,\Delta_m$、正則関数 $\varphi_k\colon\Delta_k\to\mathbb{C}$ で、次を満たすものが存在することである。

  1. $\gamma([t_{k-1},t_k])\subset\Delta_k$($k=1,\dots,m$)。
  2. $\varphi_1=f$ が $\gamma(0)$ のある近傍の上で成り立つ。
  3. $\varphi_k=\varphi_{k+1}$ が $\Delta_k\cap\Delta_{k+1}$ の上で成り立つ($k=1,\dots,m-1$)。
    このとき、$\gamma$ に沿った任意の解析接続の終端の要素は、終点の近くで $\varphi_m$ に一致する。
コンパクト性で有限個に減らす

必要性:$(f_t,D_t)$ を解析接続とする。各 $\tau\in[0,1]$ について $\varepsilon_\tau>0$ を、$|s-\tau|<\varepsilon_\tau$ ならば $\gamma(s)\in D_\tau$ かつ $D_s\cap D_\tau$ 上で $f_s=f_\tau$ となるようにとる。開区間 $(\tau-\varepsilon_\tau,\tau+\varepsilon_\tau)$ たちはコンパクトな $[0,1]$ を覆うので、コンパクト距離空間の開被覆に対する Lebesgue の数の補題(細分 の定理「Lebesgue 数の存在」)により、十分細かい分点 $0=t_0<\dots< t_m=1$ をとれば、各 $[t_{k-1},t_k]$ はある $\tau_k$ の区間 $(\tau_k-\varepsilon_{\tau_k},\tau_k+\varepsilon_{\tau_k})$ に含まれる。$\Delta_k:=D_{\tau_k}$、$\varphi_k:=f_{\tau_k}$ とおく。1 は $\varepsilon_\tau$ のとり方から従う。$1\le k\le m-1$ について、$t_k$ は $\tau_k$ の区間にも $\tau_{k+1}$ の区間にも属するので、$D_{t_k}\cap\Delta_k$ 上で $f_{t_k}=\varphi_k$、$D_{t_k}\cap\Delta_{k+1}$ 上で $f_{t_k}=\varphi_{k+1}$ である。よって $\gamma(t_k)$ を含む開集合 $D_{t_k}\cap\Delta_k\cap\Delta_{k+1}$ の上で $\varphi_k=\varphi_{k+1}$ であり、一致の定理により $\Delta_k\cap\Delta_{k+1}$ 全体で 3 が成り立つ。同様に $0$ は $\tau_1$ の区間に属するので $\varphi_1=f_0$ が $\gamma(0)$ の近くで成り立ち、条件 2 と合わせて 2 を得る。$1$ は $\tau_m$ の区間に属するので $f_1=\varphi_m$ が $D_1\cap\Delta_m$ 上で成り立つ。
十分性:各 $t$ に中心 $\gamma(t)$ の開円板 $D_t$ と $f_t$ を次のように選ぶ。$t_{k-1}< t< t_k$ なら $D_t\subset\Delta_k$、$f_t:=\varphi_k|_{D_t}$。$1\le k\le m-1$ について $t=t_k$ なら、$\gamma(t_k)\in\Delta_k\cap\Delta_{k+1}$ なので $D_t\subset\Delta_k\cap\Delta_{k+1}$ ととり、$f_t:=\varphi_k|_{D_t}=\varphi_{k+1}|_{D_t}$。$t=0$ なら $D_0\subset\Delta_1$ を $\varphi_1=f$ が成り立つ近傍の中にとり $f_0:=\varphi_1|_{D_0}$、$t=1$ なら $D_1\subset\Delta_m$、$f_1:=\varphi_m|_{D_1}$。条件 1・2 は明らかである。条件 3:$t$ が開区間 $(t_{k-1},t_k)$ にあれば、近くの $s$ も同じ区間にあり、$f_s,f_t$ はどちらも $\varphi_k$ の制限なので重なりで一致する。$t=t_k$ なら、近くの $s$ に対する $f_s$ は $\varphi_k$ か $\varphi_{k+1}$ の制限であり、$f_t$ は $D_t$ 上で両方に等しいので、やはり $D_s\cap D_t$ 上で $f_s=f_t$ である。$t=0,1$ も同様である。こうして得た接続の終端の要素は $\varphi_m$ の制限であり、thm-ac-uniqueness により、ほかのどの接続の終端の要素も終点の近くで $\varphi_m$ に一致する。

例:対数関数と平方根

対数を原点のまわりに 1 周接続する

$\operatorname{Log}$ を対数の主値とする(対数関数 の記事の定義「対数の主値」)。$\operatorname{Log}$ は $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ の上で正則であり(Cauchyの積分定理 の記事の命題「対数の主値の正則性」)、$|\theta|<\pi$ なら $\operatorname{Log}e^{i\theta}=i\theta$ である。単位円を反時計回りに 1 周する道 $\gamma(t):=e^{2\pi it}$($0\le t\le1$)と関数要素 $(\operatorname{Log},D(1,1))$ を考え、
$$ D_t:=D(\gamma(t),1),\qquad f_t(z):=\operatorname{Log}\bigl(ze^{-2\pi it}\bigr)+2\pi it\qquad(z\in D_t) $$
とおく。このとき $(f_t,D_t)$ は $\gamma$ に沿った解析接続であり、終端の要素は
$$ f_1(z)=\operatorname{Log}z+2\pi i\qquad(z\in D(1,1)) $$
である。したがって、$\operatorname{Log}$ を原点のまわりに 1 周接続すると、元の関数に $2\pi i$ を加えたものに戻る。

確かめ

$z\in D_t$ なら $|ze^{-2\pi it}-1|=|z-\gamma(t)|<1$ なので $ze^{-2\pi it}\in D(1,1)$ であり、$D(1,1)$ は右半平面に含まれるから $f_t$ は $D_t$ 上で正則である。また $e^{f_t(z)}=ze^{-2\pi it}e^{2\pi it}=z$ である。$|s-t|<\frac16$ とすると $|\gamma(s)-\gamma(t)|=2|\sin\pi(s-t)|<1$ なので $\gamma(s)\in D_s\cap D_t$ である。$h:=f_s-f_t$ は凸集合 $D_s\cap D_t$ 上の連続関数で $e^{h}=z/z=1$ を満たすから、値は $2\pi i\mathbb{Z}$ に属する(Eulerの公式(指数関数) の定理「指数関数の周期」)。連結集合上の整数値の連続関数は定数なので、$h$ は定数である。$z=\gamma(s)$ では $f_s(\gamma(s))=\operatorname{Log}1+2\pi is=2\pi is$、$f_t(\gamma(s))=\operatorname{Log}e^{2\pi i(s-t)}+2\pi it=2\pi i(s-t)+2\pi it=2\pi is$($|2\pi(s-t)|<\pi$ を使った)なので $h=0$ である。よって条件 3 が成り立つ。$t=0$ では $f_0=\operatorname{Log}$ であり、$t=1$ では $e^{-2\pi i}=1$ から $f_1=\operatorname{Log}+2\pi i$ である。

thm-ac-uniqueness により、$\operatorname{Log}$ を $\gamma$ に沿ってどのように接続しても、終端の要素は $1$ の近くで $\operatorname{Log}+2\pi i$ である。これから、$\operatorname{Log}|_{D(1,1)}$ を $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 全体の正則関数 $F$ に延ばすことはできないことがわかる。もし延ばせたら、$F$ の制限 $(F|_{D_t},D_t)$ が $\gamma$ に沿った解析接続になり、その終端の要素は $F=\operatorname{Log}$($1$ の近く)であって、$\operatorname{Log}+2\pi i$ と一致しないからである。$\mathbb{C}\setminus\{0\}$ の上で「$e^w=z$ を満たす正則関数 $w$」を 1 つに選べないのは、このためである。
$\sqrt z:=e^{\frac12\operatorname{Log}z}$(平方根の主値)についても、$g_t:=e^{f_t/2}$ が $\gamma$ に沿った解析接続になり、終端の要素は $e^{(\operatorname{Log}z+2\pi i)/2}=-\sqrt z$ である。1 周で符号が変わり、2 周で元に戻る。

一価性定理

道を端点を止めたまま連続的に変形するとき、各段階の道に沿って接続できるなら、終端の要素は変わらない。

一価性定理

$a,b\in\mathbb{C}$ とし、$H\colon[0,1]\times[0,1]\to\mathbb{C}$ を連続写像で、すべての $s$ について $H(0,s)=a$、$H(1,s)=b$ を満たすものとする(端点を止めたホモトピー)。$\gamma_s:=H(\cdot,s)$ とおく。中心 $a$ の関数要素 $(f,D)$ が、すべての $s\in[0,1]$ について $\gamma_s$ に沿って解析接続できるならば、$\gamma_0$ に沿った接続と $\gamma_1$ に沿った接続の終端の要素は $b$ で一致する。

終端の要素が局所的に一定であることを示す

$s\in[0,1]$ について、$\gamma_s$ に沿った接続の終端の要素の $b$ での一致の類を $\Phi(s)$ と書く(thm-ac-uniqueness により接続の選び方によらない)。$\Phi$ が局所的に一定であることを示す。
$s$ を固定し、$\gamma_s$ について lem-ac-chain の分点 $t_k$、円板 $\Delta_k$、関数 $\varphi_k$ をとる。各 $k$ についてコンパクト集合 $\gamma_s([t_{k-1},t_k])$ は開集合 $\Delta_k$ に含まれるので、$\Delta_k$ の補集合までの距離は正であり、その最小値を $\varepsilon>0$ とする。$H$ はコンパクトな正方形の上で一様連続なので、$\eta>0$ を、$|\sigma-s|<\eta$ ならばすべての $t$ で $|H(t,\sigma)-H(t,s)|<\varepsilon$ となるようにとる。すると $|\sigma-s|<\eta$ のとき $\gamma_\sigma([t_{k-1},t_k])\subset\Delta_k$ がすべての $k$ で成り立つ。さらに $\gamma_\sigma(0)=a=\gamma_s(0)$ なので、lem-ac-chain の条件 2・3 は $\gamma_\sigma$ に対してもそのまま成り立つ。同じ補題により、$\gamma_\sigma$ に沿った接続の終端の要素は $b$ の近くで $\varphi_m$ に一致する。これは $\gamma_s$ についても同じなので、$\Phi(\sigma)=\Phi(s)$ である。
したがって $S:=\{\sigma\in[0,1]\mid\Phi(\sigma)=\Phi(0)\}$ とその補集合はどちらも開集合であり、$0\in S$ と $[0,1]$ の連結性から $S=[0,1]$ である。特に $\Phi(1)=\Phi(0)$ である。

証明は、仮定「すべての $\gamma_s$ に沿って接続できる」を、$\Phi(s)$ がすべての $s$ で定まるためだけに使っている。実際、1 つの $s$ で接続できれば、近くの $\sigma$ でも同じ円板の列で接続できることが証明の中で示されている。仮定を落とせない理由は、接続できる $s$ の集合が閉集合とは限らないことにあり、反例は後の表の 4 行目にある。

単連結な領域への延長

$W\subset\mathbb{C}$ を単連結(単連結空間)な領域、$a\in W$、$(f,D)$ を中心 $a$ の関数要素で $D\subset W$ を満たすものとする。$f$ が、$a$ から出発する $W$ の中のすべての道に沿って解析接続できるならば、$W$ 上の正則関数 $F$ で $F|_D=f$ を満たすものがただ 1 つ存在する。

終端の値で関数を定める

領域は弧状連結なので、各 $z\in W$ について $a$ から $z$ への $W$ の中の道 $\gamma$ がある。$\gamma$ に沿った接続の終端の要素を $(g,E)$ として $F(z):=g(z)$ と定める。
矛盾なく定まること:$a$ から $z$ への $W$ の中の 2 つの道は、$W$ が単連結なので、端点を止めて $W$ の中でホモトピックである(単連結空間 の記事の命題「道による特徴づけ」)。そのホモトピーの途中の道はすべて $W$ の中の $a$ から出発する道なので、仮定により接続できる。thm-ac-monodromy により 2 つの道の終端の要素は $z$ で一致し、$F(z)$ は道によらない。
正則であること:$z\in W$、道 $\gamma$、終端の要素 $(g,E)$ を上のとおりとし、$E\subset W$ としてよい(円板を小さくする)。$z'\in E$ について、$\gamma$ のあとに線分 $[z,z']$ をつないだ道($[0,1]$ に径数を付け直す)を考える。前半は $\gamma$ に沿った接続、後半は線分上の点を中心とする $E$ の中の円板に $g$ を制限した要素とすれば、これはつないだ道に沿った解析接続であり、終端の要素は $z'$ の近くで $g$ である。よって $E$ 上で $F=g$ となり、$F$ は $E$ で正則である。
$F|_D=f$ であること:$z'\in D$ について、$a$ から $z'$ への線分は $D$ に含まれ、その上の点を中心とする $D$ の中の円板に $f$ を制限した要素が接続を与えるので、$F(z')=f(z')$ である。一意性は 一致の定理 の記事の系「解析接続の一意性」による。

この系の単連結性は外せない。$W=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ では $\operatorname{Log}$ はすべての道に沿って接続できるが、ex-ac-log のとおり $W$ 全体へは延びない。単連結な領域で $0$ にならない正則関数の対数がとれること(Cauchyの積分定理 の記事の系「単連結領域上の原始関数と対数の分枝」)は、この系の特別な場合とみることもできる。

延ばせない関数:自然境界

冪級数はいつでも収束円の外へ延ばせるわけではない。

自然境界

冪級数 $f(z)=\sum a_nz^n$ の収束半径を $R$($0< R<\infty$)とする。円周 $|z|=R$ の点 $\zeta$ について、$\zeta$ を中心とする開円板 $B$ と $B$ 上の正則関数 $g$ で、$B\cap D(0,R)$ の上で $g=f$ となるものが存在するとき、$\zeta$ を $f$ の 正則点 という。円周のどの点も正則点でないとき、円周 $|z|=R$ を $f$ の 自然境界 という。

正則点でない点を 特異点 という。$\sum z^n$ では、和 $\frac1{1-z}$ が $z\neq1$ で正則なので $z=1$ 以外の円周の点はすべて正則点であり、$z=1$ では $|f(r)|=\frac1{1-r}\to\infty$($r\to1-0$)なので特異点である。次の級数では、円周のすべての点が特異点になる。

すき間の大きい冪級数の自然境界

$f(z):=\sum_{n=0}^{\infty}z^{2^n}=z+z^2+z^4+z^8+\cdots$ の収束半径は $1$ であり、単位円周は $f$ の自然境界である。

1 の 2 冪乗根の方向で発散させる

$|z|<1$ なら $|z^{2^n}|\le|z|^n$ なので級数は収束し、$z=1$ では発散するから、収束半径は $1$ である。
$m\ge0$ と整数 $k$ について $\zeta:=e^{2\pi ik/2^m}$ とおく。$n\ge m$ なら $\zeta^{2^n}=e^{2\pi ik2^{n-m}}=1$ なので、$0< r<1$ について
$$ f(r\zeta)=\sum_{n< m}(r\zeta)^{2^n}+\sum_{n\ge m}r^{2^n},\qquad |f(r\zeta)|\ge\sum_{n\ge m}r^{2^n}-m $$
である。任意の $N$ について、$r\to1$ のとき $\sum_{n=m}^{m+N-1}r^{2^n}\to N$ だから、$\sum_{n\ge m}r^{2^n}\to\infty$ であり、$|f(r\zeta)|\to\infty$($r\to1-0$)である。
単位円周の点 $\zeta_0$ が正則点だったとし、$B$、$g$ を定義のとおりとする。$B$ を小さくして $g$ が $B$ の閉包を含む開集合で正則としてよく、$g$ は閉包の上で有界、$|g|\le M$ である。$e^{2\pi ik/2^m}$ の形の点は単位円周の上で稠密なので、そのような点 $\zeta\in B$ がある。$r$ が $1$ に十分近ければ $r\zeta\in B\cap D(0,1)$ で $f(r\zeta)=g(r\zeta)$、したがって $|f(r\zeta)|\le M$ となり、$|f(r\zeta)|\to\infty$ に反する。よってどの点も正則点でない。

$f$ は単位円板の中では正則で何の異常もないが、円周のどこから外へ出ようとしても延ばせない。ex-ac-log の対数は道によって値が変わるが、どの道に沿っても接続はできた。$\sum z^{2^n}$ では、円板から外へ出るどの道に沿っても接続そのものができない。解析接続の可能性は、関数の局所的な形からは見えない大域的な性質である。

解析接続の使われ方

  • 関数の定義域を広げる。 Γ関数 は $\operatorname{Re}z>0$ で積分 $\int_0^\infty t^{z-1}e^{-t}\,dt$ で定義され、関数等式 $\Gamma(z+1)=z\Gamma(z)$ を使って $\mathbb{C}\setminus\{0,-1,-2,\dots\}$ へ延ばされる(Γ関数 の記事の定理「解析接続と極・留数」)。Riemannゼータ関数 は $\operatorname{Re}s>1$ の級数 $\sum n^{-s}$ から $\operatorname{Re}s>0$($s\neq1$)へ(同記事の定理「$\operatorname{Re}s>0$ への解析接続」)、さらに全平面へ延ばされる。延ばした先の値は元の級数の和ではない(同記事の例「解析接続の値は級数の和ではない」)。
  • 等式を延長する。 実軸上で成り立つ $\sin^2x+\cos^2x=1$ のような等式は、両辺が領域上の正則関数なら、一致の定理によって領域全体で成り立つ(一致の定理 の例「三角関数の恒等式の複素化」)。関数を延長したあとも、元の範囲で成り立っていた関係式はそのまま保たれる。
  • 冪級数の展開し直し。 $\frac1{1-z}=\sum z^n$ を点 $b=-\frac12$ を中心に展開し直すと、収束半径は $1$ から $b$ までの距離 $\frac32$ になり(Taylor展開(複素解析) の記事の命題「収束半径と定義域の関係」)、新しい円板は単位円板の外の点 $z=-1.9$ なども含む。中心を少しずつずらして展開し直すことを繰り返すのが、lem-ac-chain の円板の列の具体的な作り方である。
  • 鏡像による延長。 実軸に関して対称な領域 $U$ の上半分で正則で、実軸上まで連続に延びて実軸上で実数値をとる関数 $f$ は、下半分で $\overline{f(\bar z)}$ とおくことで $U$ 全体の正則関数に延びる(Schwarz の鏡像原理。この記事では証明しない。LebGCCA26 Theorem 10.1.1、p. 220)。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
延長先が連結$W=D(0,1)\cup D(3,1)$、$U=D(0,1)$、$f=0$$W$ への延長が一意でない
関数が正則$\varphi(x)=e^{-1/x^2}$($x>0$)、$\varphi(x)=0$($x\le0$)負の半直線上の $0$ との一致から全体の一致が従わない
領域が単連結$W=\mathbb{C}\setminus\{0\}$、$(\operatorname{Log},D(1,1))$すべての道に沿って接続できるのに $W$ 全体へは延びない
途中のすべての道に沿って接続できる$W=\mathbb{C}$、$(\sqrt z,D(1,1))$、上半円と下半円端点を止めてホモトピックな 2 つの道で、終端の値が $i$ と $-i$
反例の確かめ

表の各行を確かめる。

4 つの反例の確かめを開く

1 行目:$F_1:=0$ と、$D(0,1)$ 上で $0$、$D(3,1)$ 上で $1$ をとる $F_2$ は、どちらも $W$ 上の正則関数で $U$ 上では $f$ に等しい。$W$ は交わらない 2 つの円板の和で連結でなく、一致の定理が $D(3,1)$ に届かない。

2 行目:$\varphi$ は $\mathbb{R}$ 上の $C^\infty$ 級関数で(一致の定理 の注意「反例:仮定を外した場合」の 3)、$(-\infty,0]$ 上で $0$ と一致するが、$x>0$ では $0$ でない。「延長」は実解析的・正則な関数に限って一意である。

3 行目:$W$ の中の任意の道 $\gamma$ について、lem-ac-chain の 1 を満たす分点と円板 $\Delta_k=D(c_k,|c_k|)$($c_k:=\gamma(t_k)$、$\Delta_k\subset W$)を、$\gamma$ の一様連続性と $\min|\gamma|>0$ を使ってとれる。$\Delta_k$ の上では $\psi_k(z):=\operatorname{Log}(z/c_k)$ が対数の分枝である($z/c_k\in D(1,1)$)。$\varphi_1:=\psi_1+\text{定数}$ を $1$ の近くで $\operatorname{Log}$ に合わせ、順に $\varphi_{k+1}:=\psi_{k+1}+\text{定数}$ を $\Delta_k\cap\Delta_{k+1}$ 上で $\varphi_k$ に合わせる(2 つの対数の差は連結な共通部分の上で $2\pi i$ の整数倍の定数)。こうして条件 2・3 が満たされ、接続できる。一方、ex-ac-log により $W$ 全体へは延びない。

4 行目:$\gamma_0(t):=e^{i\pi t}$、$\gamma_1(t):=e^{-i\pi t}$ は $1$ から $-1$ への道で、$H(t,s):=(1-s)\gamma_0(t)+s\gamma_1(t)$ は $\mathbb{C}$ の中の端点を止めたホモトピーである。ex-ac-log と同じ計算で、$\operatorname{Log}$ の $\gamma_0$、$\gamma_1$ に沿った接続の終端の値はそれぞれ $i\pi$、$-i\pi$ なので、$\sqrt z=e^{\frac12\operatorname{Log}z}$ の終端の値は $e^{i\pi/2}=i$、$e^{-i\pi/2}=-i$ で異なる。thm-ac-monodromy に反しないのは、途中の道 $\gamma_{1/2}$ が $\gamma_{1/2}(\frac12)=\frac{i+(-i)}2=0$ を通り、$0$ を通る道に沿っては $\sqrt z$ を接続できないからである。実際、接続 $(g_t,E_t)$ があれば、$g_t^2=z$ が成り立つ $t$ の集合は一致の定理により開かつ閉で、$t=0$ を含むから、$0$ を中心とする円板上で $g^2=z$ となる正則関数 $g$ がある。$g(0)^2=0$ から $g(0)=0$ で、微分すると $2g(0)g'(0)=1$ となり矛盾する。

道に沿った接続の定義・有限個の円板による言い換え・一価性定理の扱いは LebGCCA26 §10.2(Definition 10.2.1、Propositions 10.2.2・10.2.3、p. 224;Proposition 10.2.4、p. 225;Definition 10.2.5・Example 10.2.6、p. 226;Definition 10.2.12・Proposition 10.2.13・Theorem 10.2.14、p. 228)にある。同書は一価性定理を Riemann の写像定理を使って示している。cor-ac-simply-connected は単連結性の位相的な特徴づけから直接導いた。

関連項目

参考文献

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