Fenchel–Rockafellarの双対定理

同義語:Fenchel–Rockafellarの定理Fenchel–Rockafellar duality theoremFenchel–Rockafellar theorem

概要

Fenchel–Rockafellarの双対定理(Fenchel–Rockafellar duality theorem)とは、実ノルム空間 $E$ 上の $+\infty$ を許す凸関数 $\varphi,\psi$ について、一方が両者の有効定義域の共通の点で連続なら、$\inf_x(\varphi(x)+\psi(x))=\max_f(-\varphi^*(-f)-\psi^*(f))$ が成り立ち、右辺の上限が連続双対 $E^*$ の元で達成されるという定理である。右辺は Fenchel 共役で書いた双対問題で、その値が左辺以下であること(弱双対性)は凸性なしで成り立つ。証明はエピグラフの内部と下限から作る凸集合を Hahn–Banach の定理で分離することによる。系として最適性条件と劣微分の和の公式が得られ、連続点の条件を外すと双対ギャップが生じる例がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Fenchel共役, 凸関数, Hahn–Banachの定理, 劣微分

ノルム空間の点 $x_0$ から凸集合 $K$ までの距離 $\inf_{x\in K}\|x-x_0\|$ を求める問題を考える。$\|f\|_*\le1$ となる連続線形汎関数 $f$ を 1 つとると、すべての $x\in K$ で $\|x-x_0\|\ge\langle f,x_0-x\rangle\ge\langle f,x_0\rangle-\sup_{y\in K}\langle f,y\rangle$ なので、右辺は距離の下界になる。最小化の問題に、汎関数 $f$ を動かして下界を最大にする問題が対応する。2 つの問題の値が一致し、しかも下界の最大が達成されることを一般の形で述べたのが Fenchel–Rockafellar の双対定理 である。
一般に、2 つの関数の和 $\varphi+\psi$ の下限を求める問題に対し、Fenchel共役 を使った最大化の問題
$$ \inf_{x\in E}\bigl(\varphi(x)+\psi(x)\bigr)\qquad\text{と}\qquad\sup_{f\in E^*}\bigl(-\varphi^*(-f)-\psi^*(f)\bigr) $$
が対になる。右の値はつねに左の値以下である(弱双対性)。双対定理は、$\varphi$、$\psi$ が凸で、一方が両方の有効定義域の共通の点で連続なら、2 つの値が等しく、右の上限が最大値として達成されることを主張する。連続性の条件は外せず、外すと値がずれる例がある。
この記事では、双対問題と弱双対性を述べたあと、双対定理を Hahn–Banachの定理 の第一幾何形から完全に証明する。系として、主問題と双対問題の解を結ぶ最適性条件と、劣微分 の和の公式を導く。凸集合への距離の双対表示を例として計算し、連続性や凸性を外すと双対ギャップが生じる反例を挙げる。

設定と弱双対性

以下、$E$ を実数体上のノルム空間、$E^*$ をその連続双対、$\|\cdot\|_*$ を双対ノルムとする。関数 $\varphi\colon E\to(-\infty,+\infty]$ の有効定義域 $D(\varphi)$、真の関数、共役 $\varphi^*$ は Fenchel共役 の定義「有効定義域と真の関数」「Fenchel 共役」のとおりとする。真の関数の共役は $-\infty$ をとらないので、下の $d(f)$ は $[-\infty,+\infty)$ の値として定まる。

主問題と双対問題

$\varphi,\psi\colon E\to(-\infty,+\infty]$ を真の関数とする。
$$ a:=\inf_{x\in E}\bigl(\varphi(x)+\psi(x)\bigr)\in[-\infty,+\infty],\qquad d(f):=-\varphi^*(-f)-\psi^*(f)\quad(f\in E^*),\qquad b:=\sup_{f\in E^*}d(f) $$
とおく。$a$ を求める問題を 主問題、$b$ を求める問題を 双対問題 という。$\varphi(\bar x)+\psi(\bar x)=a$ となる $\bar x$ を 主問題の解、$d(\bar f)=b$ となる $\bar f$ を 双対問題の解 という。$b< a$ のとき 双対ギャップ があるといい、$a$、$b$ が有限なら差 $a-b$ をその大きさとする。

共役の定義から $-\varphi^*(-f)=\inf_x\bigl(\varphi(x)+\langle f,x\rangle\bigr)$、$-\psi^*(f)=\inf_x\bigl(\psi(x)-\langle f,x\rangle\bigr)$ である。つまり $d(f)$ は、$\varphi+\psi=(\varphi+\langle f,\cdot\rangle)+(\psi-\langle f,\cdot\rangle)$ と線形汎関数で分けてから、2 つの項を別々に最小化した値である。別々に最小化するほうが小さくなるので、次が成り立つ。

弱双対性

$\varphi,\psi$ を真の関数とする。すべての $x\in E$、$f\in E^*$ について $d(f)\le\varphi(x)+\psi(x)$ であり、したがって $b\le a$ である。

$x\notin D(\varphi)\cap D(\psi)$ なら右辺は $+\infty$ で自明である。$x\in D(\varphi)\cap D(\psi)$ とする。Fenchel–Young の不等式(Fenchel共役 の定理「共役の基本性質」の 2)を $\varphi$ と $-f$、$\psi$ と $f$ に使うと
$$ \langle -f,x\rangle\le\varphi(x)+\varphi^*(-f),\qquad\langle f,x\rangle\le\psi(x)+\psi^*(f) $$
である。左辺の和は $0$ である。$\varphi^*(-f)$、$\psi^*(f)$ の一方が $+\infty$ なら $d(f)=-\infty$ で主張は自明であり、どちらも有限なら、足して移項すると $d(f)\le\varphi(x)+\psi(x)$ を得る。$x$ について下限、$f$ について上限をとれば $b\le a$ である。$\square$

準備:凸集合の内部

証明では、凸集合の内部の点と境界の点を結ぶ線分を使う。$X$ をノルム空間、$C\subset X$ を凸集合とし、$\operatorname{Int}C$ をその内部とする。

凸集合の内部

$p\in\operatorname{Int}C$、$c\in C$、$0< t\le1$ なら $(1-t)c+tp\in\operatorname{Int}C$ である。とくに $\operatorname{Int}C$ は凸集合であり、$\operatorname{Int}C\neq\emptyset$ なら $C$ の各点は $\operatorname{Int}C$ の点列の極限である。

$p$ を中心とする半径 $r>0$ の開球が $C$ に含まれるとする。$\|w\|< tr$ なら $(1-t)c+tp+w=(1-t)c+t(p+w/t)$ で、$\|w/t\|< r$ より $p+w/t\in C$ なので、$C$ の凸性からこの点は $C$ に入る。よって $(1-t)c+tp$ を中心とする半径 $tr$ の開球が $C$ に含まれる。$c$ も内部の点にとれば $\operatorname{Int}C$ の凸性が従う。最後の主張は $t=1/n$ とした点 $(1-\frac1n)c+\frac1np$ が $n\to\infty$ で $c$ に収束することによる。$\square$

これは Bre11 Lemma 1.4(p. 15)の内容($\operatorname{Int}C$ の凸性と、内部が空でなければその閉包が $C$ の閉包に一致すること)の、証明に必要な部分である。

Fenchel–Rockafellar の双対定理

Fenchel–Rockafellar の双対定理

$\varphi,\psi\colon E\to(-\infty,+\infty]$ を凸関数とし、ある $x_0\in D(\varphi)\cap D(\psi)$ で $\varphi$ が連続であるとする。このとき
$$ \inf_{x\in E}\bigl(\varphi(x)+\psi(x)\bigr)=\max_{f\in E^*}\bigl(-\varphi^*(-f)-\psi^*(f)\bigr) $$
であり、右辺の上限は達成される。すなわち $a=b$ で、双対問題の解が存在する。$a$ が有限なら、双対問題の解 $\bar f$ では $\varphi^*(-\bar f)$、$\psi^*(\bar f)$ がともに有限である。

$a=-\infty$ のときは「最大値が達成される」は、すべての $f$ で $d(f)=-\infty$ となることを意味する。主問題の下限が達成されるとは主張していない(下の例「凸集合への距離」)。$d$ は $\varphi$ と $\psi$ を入れ替え、$f$ を $-f$ に替えると変わらないので、連続性を $\psi$ に課しても同じ結論が成り立つ。

$x_0$ で $\varphi(x_0)+\psi(x_0)$ は有限なので $a< +\infty$ である。$a=-\infty$ なら、弱双対性(prop-fr-weak)からすべての $f$ で $d(f)=-\infty=a$ であり、主張は成り立つ。以下 $a\in\mathbb{R}$ とする。
段 1:分離する 2 つの凸集合。 $E\times\mathbb{R}$ にノルム $\|(x,\lambda)\|:=\|x\|+|\lambda|$ を入れ、$C:=\{(x,\lambda)\in E\times\mathbb{R}\mid\varphi(x)\le\lambda\}$ を $\varphi$ のエピグラフとする。$\varphi$ は凸なので $C$ は凸集合である(Fenchel–Moreauの定理 の命題「エピグラフによる言いかえ」の 1)。$\varphi$ は $x_0$ で連続なので、$r>0$ を $\|x-x_0\|< r$ なら $\varphi(x)< \varphi(x_0)+1$ となるようにとれる。このとき開集合 $\{x\mid\|x-x_0\|< r\}\times(\varphi(x_0)+1,\infty)$ は $C$ に含まれるので、$A:=\operatorname{Int}C$ は空でなく、lem-fr-interior により凸である。$(x,\lambda)\in A$ なら $\lambda>\varphi(x)$ である。実際 $\lambda=\varphi(x)$ なら、どんなに小さい $\varepsilon>0$ でも $(x,\lambda-\varepsilon)\notin C$ となり、内点であることに反する。
$$ B:=\bigl\{(x,\lambda)\in E\times\mathbb{R}\ \big|\ x\in D(\psi),\ \lambda\le a-\psi(x)\bigr\} $$
とおく。$(x_0,a-\psi(x_0))\in B$ なので $B$ は空でなく、$\psi$ の凸性から $B$ は凸である。$(x,\lambda)\in A\cap B$ があれば $\varphi(x)< \lambda\le a-\psi(x)$ となり、$\varphi(x)+\psi(x)< a$ が $a$ の定義に反する。よって $A\cap B=\emptyset$ である。
段 2:分離。 $A$ は開凸集合なので、Hahn–Banachの定理 の定理「Hahn–Banachの定理(第一幾何形)」により、$0$ でない連続線形汎関数 $\Phi$ と $\alpha\in\mathbb{R}$ で $\Phi< \alpha$($A$ 上)、$\Phi\ge\alpha$($B$ 上)となるものがある。$\Phi$、$\alpha$ を $-\Phi$、$-\alpha$ に替えて、$A$ 上で $\Phi>\alpha$、$B$ 上で $\Phi\le\alpha$ としてよい。Fenchel–Moreauの定理 の命題「エピグラフによる言いかえ」の 3 により $\Phi(x,\lambda)=\langle g,x\rangle+k\lambda$($g\in E^*$、$k\in\mathbb{R}$)と書ける。lem-fr-interior により $C$ の各点は $A$ の点列の極限なので、$\Phi$ の連続性から
$$ \langle g,x\rangle+k\lambda\ge\alpha\quad((x,\lambda)\in C),\qquad\langle g,x\rangle+k\lambda\le\alpha\quad((x,\lambda)\in B)\qquad(1) $$
である。
段 3:$k>0$。 $\lambda\ge\varphi(x_0)$ なら $(x_0,\lambda)\in C$ なので、(1) の左から $\langle g,x_0\rangle+k\lambda\ge\alpha$ がいくらでも大きい $\lambda$ で成り立ち、$k\ge0$ である。$k=0$ と仮定すると、$\Phi\neq0$ より $g\neq0$ である。(1) の左から $D(\varphi)$ 上で $\langle g,x\rangle\ge\alpha$、右から($x=x_0$、$\lambda=a-\psi(x_0)$ として)$\langle g,x_0\rangle\le\alpha$ である。$\|z\|< 1$ なら $x_0+rz\in D(\varphi)$ なので $\langle g,x_0\rangle+r\langle g,z\rangle\ge\alpha\ge\langle g,x_0\rangle$、すなわち $\langle g,z\rangle\ge0$ である。$z$ を $-z$ に替えると $\langle g,z\rangle=0$ となり、単位開球上で $0$ の線形汎関数は $0$ なので $g=0$ となって矛盾する。よって $k>0$ である。
段 4:双対問題の解。 $\bar f:=g/k$ とおく。$x\in D(\varphi)$ について $(x,\varphi(x))\in C$ なので (1) の左を $k$ で割ると $\langle\bar f,x\rangle+\varphi(x)\ge\alpha/k$、すなわち $\langle-\bar f,x\rangle-\varphi(x)\le-\alpha/k$ であり、上限をとって $\varphi^*(-\bar f)\le-\alpha/k$ である。$x\in D(\psi)$ について $(x,a-\psi(x))\in B$ なので (1) の右から $\langle\bar f,x\rangle+a-\psi(x)\le\alpha/k$ であり、$\psi^*(\bar f)\le\alpha/k-a$ である。2 つの共役は真の関数の共役なので $-\infty$ でなく、どちらも有限である。足すと $\varphi^*(-\bar f)+\psi^*(\bar f)\le-a$、すなわち $d(\bar f)\ge a$ である。弱双対性から $d(\bar f)\le b\le a$ なので $d(\bar f)=b=a$ である。$\square$

この定理と証明の筋は Bre11 Theorem 1.12(pp. 15–16)による。段 3 で $k\neq0$ を示す部分は、同書が双対ノルムの評価を使うところを、単位開球上で $0$ になる線形汎関数の議論に置き換えた。連続性の条件は、エピグラフが内点をもち、分離の超平面が鉛直($k=0$)にならないことを保証するために使われている。

最適性条件と劣微分の和

主問題と双対問題の解は、Fenchel–Young の不等式の等号、すなわち 劣微分 で結ばれる。

最適性条件

$\varphi,\psi$ を真の関数、$\bar x\in E$、$\bar f\in E^*$ とする。$\varphi(\bar x)+\psi(\bar x)=d(\bar f)$ かつこの値が有限であることと、
$$ -\bar f\in\partial\varphi(\bar x)\quad\text{かつ}\quad\bar f\in\partial\psi(\bar x) $$
であることは同値である。このとき $\bar x$ は主問題の解、$\bar f$ は双対問題の解であり、$a=b$ である。

4 つの値 $\varphi(\bar x)$、$\psi(\bar x)$、$\varphi^*(-\bar f)$、$\psi^*(\bar f)$ がすべて有限のとき、
$$ \varphi(\bar x)+\psi(\bar x)-d(\bar f)=\bigl(\varphi(\bar x)+\varphi^*(-\bar f)-\langle-\bar f,\bar x\rangle\bigr)+\bigl(\psi(\bar x)+\psi^*(\bar f)-\langle\bar f,\bar x\rangle\bigr) $$
であり、Fenchel–Young の不等式から右辺の 2 つの括弧はどちらも $0$ 以上である。左の条件のもとでは、和が有限なので $\varphi(\bar x)$、$\psi(\bar x)$ は有限(どちらも $-\infty$ をとらない)、$d(\bar f)$ が有限なので 2 つの共役も有限であり、左辺が $0$ なので両方の括弧が $0$ である。右の条件のもとでは、劣微分 の命題「劣微分の基本性質」の 4 により 4 つの値は有限で両方の括弧が $0$ なので、左辺が $0$ である。いずれの場合も括弧が $0$ であることは、同じ命題の 4 により右の条件と同値である。最後の主張は、弱双対性から $d(\bar f)\le b\le a\le\varphi(\bar x)+\psi(\bar x)$ の両端が等しいことによる。$\square$

主問題の解の特徴づけ

thm-fr-main の仮定のもとで、$\bar x\in E$ が $\varphi+\psi$ の最小点であることと、$-\bar f\in\partial\varphi(\bar x)$ かつ $\bar f\in\partial\psi(\bar x)$ となる $\bar f\in E^*$ が存在することは同値である。

$\bar f$ が存在すれば prop-fr-extremality により $\bar x$ は最小点である。逆に $\bar x$ が最小点なら、$a=\varphi(\bar x)+\psi(\bar x)$ は $x_0$ での値以下なので有限である。thm-fr-main により $d(\bar f)=a$ となる $\bar f$ があり、prop-fr-extremality から結論を得る。$\square$

劣微分の和の公式

$\varphi,\psi\colon E\to(-\infty,+\infty]$ を凸関数とし、ある $x_0\in D(\varphi)\cap D(\psi)$ で $\varphi$ が連続であるとする。このとき、すべての $x\in E$ で
$$ \partial(\varphi+\psi)(x)=\partial\varphi(x)+\partial\psi(x) $$
である。

$\supset$ は 劣微分 の命題「劣微分の和」の 1 である。$h\in\partial(\varphi+\psi)(x)$ とすると、$x$ は $(\varphi-\langle h,\cdot\rangle)+\psi$ の最小点である。$\tilde\varphi:=\varphi-\langle h,\cdot\rangle$ は凸で、$x_0$ で連続なので、cor-fr-primal により $-\bar f\in\partial\tilde\varphi(x)$、$\bar f\in\partial\psi(x)$ となる $\bar f$ がある。定義から $\partial\tilde\varphi(x)=\partial\varphi(x)-h$ なので $h-\bar f\in\partial\varphi(x)$ であり、$h=(h-\bar f)+\bar f\in\partial\varphi(x)+\partial\psi(x)$ である。$\square$

この公式は Bre11 Problem 2 の B の 6(p. 438)に、双対定理を使うヒント付きの問題として挙げられている。連続性の条件を外すと等号が成り立たない例は 劣微分 の節「条件を外した反例」にある。

例

以下、$B_*:=\{f\in E^*\mid\|f\|_*\le1\}$ とし、空でない集合 $K\subset E$ の支持関数を $h_K(f):=\sup_{y\in K}\langle f,y\rangle$ と書く(Fenchel共役 の例「指示関数と支持関数」により $h_K$ は指示関数 $I_K$ の共役である)。

凸集合への距離

$K\subset E$ を空でない凸集合、$x_0\in E$ とする。このとき
$$ \operatorname{dist}(x_0,K):=\inf_{x\in K}\|x-x_0\|=\max_{f\in B_*}\bigl(\langle f,x_0\rangle-h_K(f)\bigr) $$
であり、右辺の最大値は達成される。$K$ が閉であることは仮定しない。
実際、$\varphi(x):=\|x-x_0\|$、$\psi:=I_K$ とおくと、$\varphi$ は凸で $E$ 全体で連続なので thm-fr-main が使える。Fenchel共役 の命題「共役の計算規則」の 3 と例「ノルムの共役」から $\varphi^*(g)=\langle g,x_0\rangle+I_{B_*}(g)$ であり、$B_*=-B_*$ なので
$$ d(f)=-\varphi^*(-f)-\psi^*(f)=\langle f,x_0\rangle-I_{B_*}(f)-h_K(f) $$
である。$d(f)$ は $f\notin B_*$ で $-\infty$ なので、最大値は $B_*$ の上でとられる。
$K=M$ が線形部分空間なら、$h_M$ は零化空間 $M^\perp$ の指示関数なので、$\operatorname{dist}(x_0,M)=\max\{\langle f,x_0\rangle\mid f\in M^\perp,\ \|f\|_*\le1\}$ である。
主問題の下限は達成されるとは限らない。$E=\mathbb{R}$、$K=(0,1)$、$x_0=0$ なら距離 $0$ は $K$ の点で達成されないが、双対側は $f=0$ で $d(0)=0$ となり最大値が達成される。

この例は Bre11 Example 3(pp. 16–17)と Remark 8(p. 17)にある。主問題に解がなくても双対問題には解があるという非対称性は、thm-fr-main の結論の形そのものである。

部分空間の上での最小化

$\varphi\colon E\to\mathbb{R}$ を凸で連続な関数、$M\subset E$ を線形部分空間とする。$\psi:=I_M$ とすると $\psi^*=I_{M^\perp}$ であり、$M^\perp=-M^\perp$ なので thm-fr-main から
$$ \inf_{x\in M}\varphi(x)=\max_{f\in M^\perp}\bigl(-\varphi^*(-f)\bigr)=-\min_{f\in M^\perp}\varphi^*(f) $$
を得る(Bre11 Example 4、p. 17)。たとえば $E=\mathbb{R}^2$、$\varphi(x)=\frac12\|x\|^2$(Euclid ノルム)、$M=\{x_1+x_2=0\}$ のとき、$\varphi^*=\varphi$ で $M^\perp=\{(s,s)\mid s\in\mathbb{R}\}$ なので右辺は $-\min_s s^2=0$ であり、左辺の最小値 $0$($x=0$)と一致する。

$\mathbb{R}^n$ の不等式制約つきの問題については、凸最適化 の定理「強双対性(Slater の定理)」が Lagrange 双対について同じ型の主張を述べている。そこでの Slater 条件(制約を真に満たす点の存在)は、この記事の連続点の条件と同じく、分離の超平面が鉛直にならないことを保証する役目をもつ。

条件を外した反例

thm-fr-main の仮定($\varphi$ と $\psi$ の凸性、共通の点での連続性)を 1 つずつ外すと、双対ギャップが生じる。

外す条件反例成り立たなくなること
共通の点での連続性$E=\mathbb{R}^2$、$x_1,x_2\ge0$ で $\varphi(x)=-\sqrt{x_1x_2}$、それ以外で $+\infty$。$\psi$ は直線 $D=\{x_1=0\}$ の指示関数$\varphi$、$\psi$ は凸で下半連続だが、$a=0$、$b=-\infty$
$\psi$ の凸性$E=\mathbb{R}$、$\varphi(x)=x^2$、$\psi$ は 2 点集合 $\{-1,1\}$ の指示関数$\varphi$ は連続で凸だが、$a=1$、$b=0$
$\varphi$ の凸性$E=\mathbb{R}$、$\varphi(x)=-x^2$、$\psi$ は $[-1,1]$ の指示関数$\varphi$ は連続だが、$a=-1$、$b=-\infty$
表の反例の確かめ

1 行目では $\varphi^*$ を計算し、2・3 行目は共役を直接求める。

詳細

1 行目:$P:=\{x\mid x_1,x_2\ge0\}$ とする。$p,q\in P$、$0\le t\le1$ について、Cauchy–Schwarz の不等式から $\bigl(t\sqrt{p_1p_2}+(1-t)\sqrt{q_1q_2}\bigr)^2\le\bigl(tp_1+(1-t)q_1\bigr)\bigl(tp_2+(1-t)q_2\bigr)$ なので、$\sqrt{x_1x_2}$ は $P$ 上で凹であり、$\varphi$ は凸である。$P$ は閉で $\varphi$ は $P$ 上で連続なので、$\varphi$ は下半連続である。次に $f=(u,v)$ について $\varphi^*(f)=\sup_{x\in P}(ux_1+vx_2+\sqrt{x_1x_2})$ を求める。$u>0$ なら $x=(s,0)$、$s\to\infty$ で $+\infty$ である($v>0$ も同様)。$u,v\le0$ とし $U:=-u$、$V:=-v$ とおく。$UV\ge\frac14$ なら $Ux_1+Vx_2\ge2\sqrt{UVx_1x_2}\ge\sqrt{x_1x_2}$ なので上限は $0$($x=0$ でとられる)である。$UV< \frac14$ で $U,V>0$ なら $x=(Vs,Us)$ とすると値は $s\sqrt{UV}(1-2\sqrt{UV})\to+\infty$、$U=0$ なら $x=(s,1)$ で $\sqrt s-V\to+\infty$ である($V=0$ も同様)。よって $\varphi^*$ は $S:=\{(u,v)\mid u\le0,\ v\le0,\ uv\ge\frac14\}$ の指示関数である。$\psi^*=I_{D^\perp}$、$D^\perp=\{f\mid f_2=0\}$ なので、$d(f)$ が有限になるには $-f\in S$ かつ $f_2=0$ が必要だが、$S$ の点は $v< 0$ を満たすので不可能であり、$b=-\infty$ である。一方 $\varphi+\psi$ は $\{0\}\times[0,\infty)$ 上で $0$、外で $+\infty$ なので $a=0$ である。$D(\varphi)\cap D(\psi)=\{0\}\times[0,\infty)$ のどの点でも、$x_1< 0$ の側に $+\infty$ の点が近づくので $\varphi$ は連続でなく、$\psi$ も直線の外で $+\infty$ なので連続でない。

2 行目:$\varphi^*(g)=\frac{g^2}4$、$\psi^*(f)=\max\{f,-f\}=|f|$ なので $d(f)=-\frac{f^2}4-|f|\le0$ で $b=d(0)=0$ である。$a=\min\{(-1)^2,1^2\}=1$ である。$\varphi$ は $x_0=1\in D(\varphi)\cap D(\psi)$ で連続である。

3 行目:$\varphi^*(g)=\sup_x(gx+x^2)=+\infty$ なので、すべての $f$ で $d(f)=-\infty$ である。$a=\min_{|x|\le1}(-x^2)=-1$ である。$\psi$ は凸で、$\varphi$ は $x_0=0$ で連続である。

1 行目の関数は Bre11 Exercise 1.21(p. 26)のものである。1 行目では $\varphi$ も $\psi$ も凸で下半連続なので、Fenchel–Moreauの定理 の仮定は満たしている。双対ギャップをなくすのは連続点の存在であって、下半連続性ではない。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, 2011, Theorem 1.12 と Lemma 1.4(pp. 15–16)、Example 3・Remark 8・Example 4(pp. 16–17)、Exercise 1.21(p. 26)、Problem 2(pp. 436–438)

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