随伴関手(豊穣圏)(enriched adjunction)とは、二つの豊穣圏のHom対象を自然な同型で対応させる関手の組である。単位・余単位、テンソルと内部Hom、重み付き極限との関係と∞圏への接続を説明する。
前提知識: 随伴関手, モノイダル圏, 豊穣圏, 関手(豊穣圏), 自然変換(豊穣圏)
$\mathcal V$ を局所小な対称モノイダル閉圏(モノイダル圏)、$\mathcal A,\mathcal B$ を $\mathcal V$-豊穣圏とする。Hom対象は $\mathcal V$ に属し、合成は $\otimes$ に関して結合的・単位的である。$L:\mathcal A\to\mathcal B$ と $R:\mathcal B\to\mathcal A$ は豊穣関手(関手(豊穣圏))とする。
$L$ が $R$ の豊穣左随伴であるとは、$a,b$ に豊穣自然な $\mathcal V$ の同型
$$
\Phi_{a,b}:\mathcal B(La,b)\xrightarrow{\cong}\mathcal A(a,Rb)
$$
が与えられることをいう。$L\dashv R$ と書き、$R$ を豊穣右随伴と呼ぶ。豊穣自然性は、$a,b$ のHom対象による前合成・後合成の作用と、この同型が可換することである。
集合の全単射でなくHom対象の同型を要求する。定義の同値な形は Kel82 §1.11 にある。
同じ随伴は、豊穣自然変換(自然変換(豊穣圏))
$$\eta:1_{\mathcal A}\to RL,\qquad\epsilon:LR\to1_{\mathcal B}$$
で、三角恒等式
$$R\epsilon\circ\eta R=1_R,\qquad \epsilon L\circ L\eta=1_L$$
を満たすものとして表せる。豊穣自然変換の成分は、単位対象 $I$ から対応するHom対象への射であり、自然性はHom対象全体に関する等式である。この形はHom対象の同型による定義と同値である(証明は下の命題)。
随伴(随伴関手)は、$La$ から $b$ への写像問題と、$a$ から $Rb$ への写像問題を同じものとして翻訳する。豊穣版では解の集合だけでなく、解の加法やパラメータの構造も保つ。
豊穣随伴から通常の台圏の随伴が得られるが、逆は無条件には成り立たない。ただし $U=\operatorname{Hom}_{\mathcal V}(I,-)$ が同型を反映する場合、豊穣関手 $R$ の台関手 $R_0$ に通常の左随伴 $L_0$ があれば、$L_0$ を台関手とする豊穣左随伴を構成できる。通常の単位 $\eta_a:a\to R_0L_0a$ から $\mathcal B(L_0a,b)\to\mathcal A(a,Rb)$ を $f\mapsto R(f)\eta_a$ により作ると、$U$ を施した写像は通常の随伴の全単射になるため、元のHom対象の射も同型となる。$U$ が忠実であるだけではこの判定はできない。Kel82 §1.11、印刷p.24。
$\mathbf{Ab}$ の恒等関手同士を考え、候補 $\eta:1\to1$ を零変換とする。これは豊穣自然だが、誘導される $\operatorname{Hom}(A,B)\to\operatorname{Hom}(A,B)$ は $f\mapsto f\eta_A=0$ である。$A=B=\mathbb Z$ なら同型でない。恒等関手同士は随伴するが、この零変換はその随伴の単位ではない。
Hom同型は
$$
\Phi(f)=R(f)\eta_a,\qquad
\Phi^{-1}(g)=\epsilon_bL(g)
$$
という形で与えられる。$\eta_a$ は $\Phi_{a,La}$ による $1_{La}$ の像、$\epsilon_b$ は $\Phi^{-1}_{Rb,b}$ による $1_{Rb}$ の像である。式はHom対象からの射として解釈する。Kel82 §1.11、式(1.51)。
豊穣自然性により
$$
\epsilon_bL(R(f)\eta_a)
=f\,\epsilon_{La}L(\eta_a)=f,
$$
$$
R(\epsilon_bL(g))\eta_a
=R(\epsilon_b)\eta_{Rb}g=g
$$
となる。最後に三角恒等式を使った。これらは合成と自然性の図式の等式なので、任意のHom対象上で成立する。逆に豊穣自然なHom同型から恒等射の像として両成分を作ると、逆同型の等式が三角恒等式を与える。
その際、$\eta_a=\Phi_{a,La}(1_{La})$ が $a$ について豊穣自然であることは、$\Phi$ の $a$・$b$ に関する自然性から次のように従う。$f:a\to a'$ に対し、$a$ に関する自然性は $g:La'\to b$ について $\Phi_{a,b}(g\circ Lf)=\Phi_{a',b}(g)\circ f$ を、$b$ に関する自然性は $h:b\to b'$ と $g:La\to b$ について $\Phi_{a,b'}(h\circ g)=Rh\circ\Phi_{a,b}(g)$ を与える。前者を $b=La'$、$g=1_{La'}$ で評価すると $\Phi_{a,La'}(Lf)=\eta_{a'}\circ f$、後者を $b=La$、$b'=La'$、$h=Lf$、$g=1_{La}$ で評価すると $\Phi_{a,La'}(Lf)=RLf\circ\eta_a$ となる。よって $RLf\circ\eta_a=\eta_{a'}\circ f$ である。$\Phi$ の自然性は $\mathcal V$ の射の図式の可換性なので、この等式も $f$ を元として代入した形にとどまらず、$\mathcal A(a,a')$ から $\mathcal A(a,RLa')$ への $\mathcal V$ の射の等式として成り立つ。$\epsilon$ の $b$ に関する豊穣自然性も同様である。
上の議論で「$\mathcal V$ の射の等式として成り立つ」と述べた段階は、$\Phi$ の自然性の二つの正方形を、$\mathcal A(a,a')$ を変数とする射として書き直す作業である。具体的には、$\mathcal A(a,a')\xrightarrow{L_{a,a'}}\mathcal B(La,La')\xrightarrow{\Phi_{a,La'}}\mathcal A(a,RLa')$ が、一方では $\mathcal A(a,a')\xrightarrow{(RL)_{a,a'}}\mathcal A(RLa,RLa')$ と $\eta_a$ による前合成の合成に、他方では $\eta_{a'}$ による後合成に一致することを示す。この図式の詳細な検証は Kel82 §1.11 に委ねる。
$L:\mathcal A\rightleftarrows\mathcal B:R$ と $L':\mathcal B\rightleftarrows\mathcal C:R'$ が豊穣随伴なら、$L'L\dashv RR'$ である。Kel82 §1.11、式(1.54)。
豊穣自然な同型を合成して
$$
\mathcal C(L'La,c)\cong\mathcal B(La,R'c)
\cong\mathcal A(a,RR'c)
$$
を得る。これは合成関手の豊穣随伴の定義を満たす。
$R:\mathcal B\to\mathcal A$ に対し、各 $a$ について表現対 $(La,\Phi_{a,-})$ を選び、$\Phi_{a,b}:\mathcal B(La,b)\cong\mathcal A(a,Rb)$ が $b$ に豊穣自然であるとする。このとき、これらの同型を $a$ にも豊穣自然にする $L$ のHom写像が一意に定まり、$L\dashv R$ を得る。具体的に $\eta_{a'}=\Phi_{a',La'}(j_{La'})$ と置くと、$L_{a,a'}$ は $\mathcal A(a,a')$ から $\eta_{a'}$ との後合成で $\mathcal A(a,RLa')$ へ進み、$\Phi_{a,La'}^{-1}$ を施す射である。表現の存在だけから出発する場合は、指定された対象の宇宙でこれらの表現対を選べることも仮定する。逆向きは随伴のHom同型そのものである。Kel82 §§1.10–1.11。
左随伴は存在する重み付き余極限を、右随伴は存在する重み付き極限(重み付き極限(豊穣圏))を保つ。例えば小さい $\mathcal J$、重み $U:\mathcal J^{\mathrm{op}}\to\mathcal V$、図式 $F:\mathcal J\to\mathcal A$ について、
$$
\mathcal B(L(U\star F),b)
\cong[\mathcal J^{\mathrm{op}},\mathcal V]
(U,\mathcal B(LF(-),b))
$$
となり、$L(U\star F)$ は $U\star LF$ の普遍性を満たす。ここで右辺は豊穣自然変換対象であり、必要な完備性と大きさを仮定する。Kel82 §3.2。
∞圏版ではHom対象の厳密な同型でなく、導来写像空間の自然な同値を用いる。単体的モデル圏の適切なQuillen随伴では、cofibrant・fibrant置換を用いた導来関手がこの随伴を与える。未置換の写像対象の同型だけで導来随伴を判定しない。HTT09 Proposition 5.2.4.6。
一般の豊穣随伴を任意の基礎圏から自動的に∞随伴へ変換できるわけではない。まず単体的・DG的・スペクトル的な表示に必要な条件を確かめ、正しい写像空間に移して比較する。
関手が忠実であるとは、各射集合上の写像が単射であることをいう。一方、同型を反映するとは、射 $u$ の像が同型なら $u$ 自身も同型であることをいう。前者は射の等しさを判定する性質であって、後者の代わりにはならない。上の持上げの証明で必要なのは、Hom対象間の射に $U$ を施して得た全単射から、元の射が同型だと結論する段階である。
具体的に、半順序集合と単調写像の圏 $\mathbf{Poset}$ を基礎圏とする。テンソルを直積とし、内部Homを単調写像の集合に点ごとの順序を入れたものとすれば直積閉となる。$U=\operatorname{Hom}_{\mathbf{Poset}}(1,-)$ は台集合を取る関手であり、忠実である。しかし、離散順序の整数集合 $\mathbb Z_{\mathrm{disc}}$ から通常の順序の $\mathbb Z$ への恒等集合写像は単調な全単射でも、逆は単調でない。従って $U$ は同型を反映しない。
これを随伴の反例にする。$\mathcal A,\mathcal B$ を一対象の豊穣圏とし、Hom対象をそれぞれ $\mathbb Z,\mathbb Z_{\mathrm{disc}}$、合成を加算、単位を $0$ とする。加算はそれぞれの順序について単調であり、結合律・単位律を満たす。恒等集合写像は豊穣関手 $R:\mathcal B\to\mathcal A$ を定める。両方の台圏は一対象群 $\mathbb Z$ で、$R_0$ はその恒等関手だから、自分自身を通常の左随伴に持つ。しかし $R$ に豊穣左随伴があれば、豊穣随伴の定義から $\mathbb Z_{\mathrm{disc}}\cong\mathbb Z$ という順序同型が必要になる。一方には異なる比較可能な元がなく、他方には $0<1$ があるので、そのような同型は存在しない。
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