次数付き環

同義語:次数つき環graded ring

概要

次数付き環(graded ring)とは、環 $S$ で、加法群としての直和分解 $S=\bigoplus_{d\ge0}S_d$ をもち、$S_dS_e\subset S_{d+e}$ を満たすものである。多項式環を斉次多項式の次数で分けたものが代表例で、斉次元で生成されるイデアル(斉次イデアル)による商は再び次数付き環になる。射影空間とその部分スキームを作る Proj 構成の材料であり、ほかにも随伴次数環、Rees 代数、Chow 環などとして現れる。次数 $d,e$ の斉次元 $a,b$ について $ab=(-1)^{de}ba$ となる符号付きの可換性をもつ次数付き可換環は、外積代数やコホモロジー環の枠組みである。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環, イデアル, 多項式環

多項式環 $k[x,y]$ の元は、次数ごとの斉次多項式の和 $f=f_0+f_1+f_2+\cdots$ にただ 1 通りに分かれ、$d$ 次の斉次多項式と $e$ 次の斉次多項式の積は $d+e$ 次の斉次多項式になる。次数付き環とは、この「次数ごとの分解」と「次数の足し算」だけを取り出した環である。射影空間 $\mathbb{P}^n$ の上では多項式の値は定まらず、斉次多項式が $0$ になるかどうかだけが意味をもつので、射影幾何の代数は次数付き環 $k[x_0,\dots,x_n]$ とその斉次イデアルの代数になる。次数付き環は射影スキームを作る $\operatorname{Proj}$ 構成の材料であり、ほかにも、局所環の特異点の様子を記録する随伴次数環、ブローアップを作る Rees 代数、交叉を積で表す Chow 環など、「次数」を足し算する構造を持つ多くの環として現れる。

定義

以下、環は単位元 $1$ をもつ。「次数付き可換」の節を除いて、環は可換環とする。

次数付き環

環 $S$ と、加法群としての直和分解
$$ S=\bigoplus_{d\ge0}S_d=S_0\oplus S_1\oplus S_2\oplus\cdots $$
で、すべての $d,e\ge0$ について $S_dS_e\subset S_{d+e}$ を満たすものの組を 次数付き環(graded ring)という。$S_d$ の元を 次数 $d$ の斉次元 といい、$f\in S$ を $f=\sum_df_d$($f_d\in S_d$、有限個を除いて $0$)と分けたときの $f_d$ を $f$ の $d$ 次の斉次成分 という。イデアル
$$ S_+:=\bigoplus_{d>0}S_d $$
を 無縁イデアル(irrelevant ideal)という。

$0$ はどの次数の斉次元でもある。$S_0$ は $S$ の部分環であり、各 $S_d$ は $S_0$ 加群、$S$ は $S_0$ 代数である。$S_0$ が部分環であること、すなわち $1\in S_0$ であることは定義から従う。

詳細

$1=\sum_de_d$($e_d\in S_d$)と分ける。次数 $n$ の斉次元 $x$ について $x=x\cdot1=\sum_dxe_d$ で $xe_d\in S_{n+d}$ なので、次数を比べて $xe_0=x$ である。$S$ の元は斉次元の和なので、すべての $y\in S$ について $ye_0=y$ となり、$e_0$ は単位元である。単位元は一意なので $1=e_0\in S_0$ であり、$d>0$ では $e_d=0$ である。


加法群の分解 $S=\bigoplus_{d\in\mathbb{Z}}S_d$ で $S_dS_e\subset S_{d+e}$ を満たすものを $\mathbb{Z}$ 次数付き環 という。負の次数を許さないことを強調するときは、上の定義のものを $\mathbb{N}$ 次数付き環 という。この記事で単に次数付き環と書けば $\mathbb{N}$ 次数付き環を指す(負の次数については ex-graded-ring-laurent)。

次数付き加群・準同型・斉次イデアル

$S$ を次数付き環とする。

  1. $S$ 加群 $M$ と加法群の分解 $M=\bigoplus_{n\in\mathbb{Z}}M_n$ で、$S_dM_n\subset M_{d+n}$ を満たすものを 次数付き $S$ 加群 という。整数 $a$ について、$M(a)_n:=M_{a+n}$ で次数をずらした次数付き加群を $M(a)$ と書く。
  2. 次数付き環の準同型 $\varphi\colon S\to T$ で、すべての $d$ について $\varphi(S_d)\subset T_d$ を満たすものを 次数付き準同型 という。次数付き加群の準同型も同じように定める。
  3. $S$ のイデアルで、斉次元からなる集合で生成されるものを 斉次イデアル(homogeneous ideal)という。

$S$ 自身は $S_n=0$($n<0$)とおいて次数付き $S$ 加群であり、$S(a)$ は「次数を $a$ だけずらした」自由加群である。たとえば $S=k[x_0,x_1]$ のとき、$S(-1)\to S$、$f\mapsto x_0f$ は次数付き準同型である($S(-1)_n=S_{n-1}$ の元に $x_0$ を掛けると $S_n$ に入る)。

例

多項式環と重み付きの次数
  1. 環 $A$ 上の多項式環 $A[x_0,\dots,x_n]$ は、$S_d$ を $d$ 次の斉次多項式(係数は $A$)の全体とすると次数付き環である(標準の次数)。$S_0=A$、$S_+=(x_0,\dots,x_n)$ であり、体 $k$ 上の $S_d$ の次元は $\binom{n+d}{d}$ である(斉次多項式 の記事の命題「次数 $d$ の斉次多項式の空間の次元」)。
  2. 正の整数 $w_0,\dots,w_n$ を選び、単項式 $x_0^{a_0}\cdots x_n^{a_n}$ の次数を $\sum_iw_ia_i$ と定めても次数付き環になる(重み付きの次数)。たとえば $k[x,y,z]$ で $\deg x=\deg y=1$、$\deg z=2$ とすると、$S_2$ は $x^2,xy,y^2,z$ を基底とし 4 次元である。
  3. $f\in k[x_0,\dots,x_n]$ が斉次多項式なら、$(f)$ は斉次イデアルであり、商 $k[x_0,\dots,x_n]/(f)$ は次数付き環になる(prop-graded-ring-homogeneous-ideal)。これは射影超曲面 $f=0$ の 斉次座標環 である。たとえば $k[x,y,z]/(y^2z-x^3-z^3)$ は射影平面の 3 次曲線の斉次座標環である。
射影空間の Chow 環

滑らかな代数多様体 $X$ の Chow 環 $CH^*(X)=\bigoplus_iCH^i(X)$ は、余次元 $i$ のサイクルの類を次数 $i$ に置いた次数付き環であり、交叉積は余次元を足す。たとえば $CH^*(\mathbb{P}^n)\cong\mathbb{Z}[h]/(h^{n+1})$($h$ は超平面の類で次数 $1$)である(Chow環 の記事の定理「射影空間のChow環」)。$(h^{n+1})$ は斉次イデアルなので、右辺は次数付き環である。

斉次イデアル

斉次イデアルの特徴づけと商

斉次イデアルの特徴づけ

次数付き環 $S$ のイデアル $I$ について、次は同値である。

  1. $I$ は斉次イデアルである。
  2. $I$ の任意の元 $f$ について、そのすべての斉次成分 $f_d$ が $I$ に属する。
  3. $I=\bigoplus_d(I\cap S_d)$ である。
    このとき $S/I$ は $(S/I)_d:=S_d/(I\cap S_d)$ により次数付き環になり、商写像 $S\to S/I$ は次数付き準同型である。

1 ⇒ 2:$I$ が斉次元の集合 $G$ で生成されるとし、$f=\sum_ja_jh_j\in I$($a_j\in S$、$h_j\in G$ は次数 $e_j$)と書く。$a_j$ を斉次成分に分けると、$a_jh_j$ の $d$ 次の斉次成分は $(a_j)_{d-e_j}h_j$ である($d< e_j$ なら $0$)。よって $f_d=\sum_j(a_j)_{d-e_j}h_j\in I$ である。
2 ⇒ 3:2 により $f=\sum_df_d$ の各 $f_d$ は $I\cap S_d$ に属するので $I=\sum_d(I\cap S_d)$ であり、和が直和であることは $S=\bigoplus_dS_d$ から従う。
3 ⇒ 1:$I$ は斉次元の集合 $\bigcup_d(I\cap S_d)$ で生成される。
商について:3 により、$S=\bigoplus_dS_d$ と $I=\bigoplus_d(I\cap S_d)$ から $S/I\cong\bigoplus_dS_d/(I\cap S_d)$(加法群として)が従う。$S_d/(I\cap S_d)$ の元と $S_e/(I\cap S_e)$ の元の積は $S_{d+e}$ の元の類なので $(S/I)_{d+e}$ に入る。$\square$

多項式環の場合は 斉次多項式 の記事の命題「斉次イデアルの特徴づけ」にある。斉次でないイデアルでは商は次数を受け継がない。

反例:斉次でないイデアルによる商

$S=k[x]$(標準の次数)と $I=(x-1)$ を考える。$I$ は $x-1$ を含むが、その斉次成分 $x$ と $-1$ は $I$ に属さない($x=1$ を代入すると $1\neq0$)ので、$I$ は斉次イデアルでない。商 $S/I\cong k$ では、次数 $1$ の元 $x$ の像と次数 $0$ の元 $1$ の像が等しく $0$ でない。したがって、商写像 $S\to S/I$ が次数付き準同型になるような次数付けは $S/I$ にない(あれば $\bar x=\bar1$ が $(S/I)_1\cap(S/I)_0=0$ に入ってしまう)。この例は prop-graded-ring-homogeneous-ideal の最後の主張が「$I$ は斉次」という仮定なしには成り立たないことを示す。

和・積・根基

斉次イデアルの演算

$I,J$ を次数付き環 $S$ の斉次イデアルとする。$I+J$、$IJ$、$I\cap J$、根基 $\sqrt I$ は斉次イデアルである。

$I+J$ と $IJ$ は、$I$ と $J$ の斉次な生成元の和集合、およびそれらの積の全体で生成され、これらは斉次元である。$I\cap J$ については、$f\in I\cap J$ の斉次成分は prop-graded-ring-homogeneous-ideal の 2 により $I$ にも $J$ にも属する。
根基:$f\in\sqrt I$ のすべての斉次成分が $\sqrt I$ に属することを、$f$ の $0$ でない斉次成分の個数についての帰納法で示す。$f\neq0$ とし、$f$ の $0$ でない斉次成分のうち次数が最大のものを $f_e$ とする。$f^n\in I$ となる $n\ge1$ をとると、$f^n$ の $ne$ 次の斉次成分は $f_e^n$ である(次数が $ne$ に達する積は $f_e$ だけを $n$ 回掛けたものしかない)。$I$ は斉次なので $f_e^n\in I$、すなわち $f_e\in\sqrt I$ である。すると $f-f_e\in\sqrt I$ で、その $0$ でない斉次成分は $f$ より 1 個少ないので、帰納法の仮定によりその斉次成分はすべて $\sqrt I$ に属する。よって $f$ の斉次成分はすべて $\sqrt I$ に属する。$\square$

素イデアルの判定

斉次元による素イデアルの判定

$\mathfrak{p}\neq S$ を次数付き環 $S$ の斉次イデアルとする。斉次元 $a,b$ について $ab\in\mathfrak{p}$ ならば $a\in\mathfrak{p}$ または $b\in\mathfrak{p}$ となるとき、$\mathfrak{p}$ は素イデアルである。

$a,b\in S$ が $ab\in\mathfrak{p}$、$a\notin\mathfrak{p}$、$b\notin\mathfrak{p}$ を満たすとして矛盾を導く。$a$ の斉次成分のうち $\mathfrak{p}$ に属するものをすべて $a$ から引いた元を $a'$ とし、同じく $b'$ を作る。$\mathfrak{p}$ は斉次なので、$a'\notin\mathfrak{p}$($a'\equiv a$)、$b'\notin\mathfrak{p}$ で、$a'b'\equiv ab\equiv0\pmod{\mathfrak{p}}$ である。$a'$ と $b'$ の $0$ でない斉次成分はどれも $\mathfrak{p}$ に属さない。$a'$、$b'$ の $0$ でない斉次成分のうち次数が最大のものを $a_r$、$b_s$ とすると、$a'b'$ の $r+s$ 次の斉次成分は $a_rb_s$ である。$a'b'\in\mathfrak{p}$ で $\mathfrak{p}$ は斉次なので $a_rb_s\in\mathfrak{p}$ であり、仮定から $a_r\in\mathfrak{p}$ または $b_s\in\mathfrak{p}$ となり、矛盾する。$\square$

この判定は斉次イデアルに限る。斉次でないイデアルでは、斉次元だけで調べても素であるとは言えない。

反例:斉次でないイデアルでは判定が崩れる

$S=k[x]$、$I=(x^2-1)$ とする。斉次元は $cx^m$($c\in k$)の形で、2 つの斉次元の積 $cx^m$ が $I$ に属するのは、$x=1$ を代入して $c=0$ となるとき、すなわち積が $0$ のときに限る。このとき一方の因子は $0\in I$ である。よって「斉次元 $a,b$ について $ab\in I$ なら $a\in I$ または $b\in I$」は成り立つ。しかし $(x-1)(x+1)\in I$ で、$x-1$、$x+1$ は $I$ に属さない(次数が $1$ で $0$ でないから $x^2-1$ の倍元でない)ので、$I$ は素イデアルでない。この例は「斉次元での判定」を満たすが「素イデアル」を満たさず、prop-graded-ring-prime の結論を破る。破れている仮定は「$I$ は斉次イデアル」である。

同じ判定から、斉次イデアル $\mathfrak{p}$ が素であるかどうかは斉次元だけで決まる。後で述べる $\operatorname{Proj}$ の点は、$S_+$ を含まない斉次素イデアルである。

有限生成性と Noether 性

代数としての生成とイデアルとしての生成

$S$ を次数付き環、$f_1,\dots,f_r\in S_+$ を正の次数の斉次元とする。$f_1,\dots,f_r$ が $S$ を $S_0$ 代数として生成することと、無縁イデアル $S_+$ をイデアルとして生成することは同値である。とくに、$S$ が $S_0$ 代数として有限生成であることと、$S_+$ が有限生成イデアルであることは同値である。

$f_i$ が $S$ を $S_0$ 代数として生成するとき:$S_+$ の元は $f_i$ の $S_0$ 係数の多項式で、$S_0$ の成分をもたないので定数項のないものとして書ける。定数項のない多項式の各項は $f_i$ のどれかを因子にもつので、$S_+=(f_1,\dots,f_r)$ である。
$S_+=(f_1,\dots,f_r)$ のとき:$d$ 次の斉次元 $g$ が $f_i$ の $S_0$ 係数の多項式で書けることを $d$ についての帰納法で示す($S$ の元は斉次元の和なのでこれで足りる)。$d=0$ なら $g\in S_0$ である。$d>0$ なら $g\in S_+$ なので $g=\sum_ia_if_i$($a_i\in S$)と書け、両辺の $d$ 次の斉次成分をとると $a_i$ をその $d-\deg f_i$ 次の斉次成分に取り替えてよい($d<\deg f_i$ なら $0$)。$\deg f_i>0$ なので $a_i$ の次数は $d$ より小さく、帰納法の仮定により $a_i$ は $f_j$ の多項式である。よって $g$ も $f_j$ の多項式である。
最後の主張:$S_+$ が有限個の元で生成されるなら、それらの斉次成分(有限個で、どれも $S_+$ に属する正の次数の斉次元)でも生成される。逆に $S$ が有限個の元で $S_0$ 代数として生成されるなら、それらの正の次数の斉次成分で生成されるので、前半を使えばよい。$\square$

次数付き環の Noether 性

次数付き環 $S$ が Noether環 であることと、$S_0$ が Noether 環で、かつ $S$ が $S_0$ 代数として有限生成であることは同値である。

$S$ が Noether 環なら、$S_0\cong S/S_+$ は Noether 環の商として Noether 環であり、イデアル $S_+$ は有限生成なので、prop-graded-ring-generation により $S$ は $S_0$ 上有限生成である。逆に $S_0$ が Noether 環で $S=S_0[f_1,\dots,f_r]$ なら、$S$ は多項式環 $S_0[X_1,\dots,X_r]$ の商であり、Noether環 の記事の定理「基底定理(Hilbert)」によりこの多項式環は Noether 環なので、その商 $S$ も Noether 環である。$\square$

たとえば、可算無限個の変数の多項式環 $k[x_1,x_2,\dots]$(標準の次数)は $S_0=k$ が Noether 環だが、$S_+=(x_1,x_2,\dots)$ は有限生成でないので Noether 環でない(Noether環 の記事の例「反例:無限変数の多項式環」)。

Veronese 部分環

Veronese 部分環

次数付き環 $S$ と正の整数 $d$ について、
$$ S^{(d)}:=\bigoplus_{n\ge0}S_{nd},\qquad\bigl(S^{(d)}\bigr)_n:=S_{nd} $$
は次数付き環であり、これを $S$ の $d$ 次の Veronese 部分環 という。

$S$ が $S_0$ 上 $S_1$ で生成されるなら、$S^{(d)}$ は $S_0$ 上 $S_d$ で生成される($S_{nd}$ は $S_1$ の元 $nd$ 個の積の和であり、それを $d$ 個ずつまとめればよい)。一般に、$S$ が $S_0$ 上有限生成なら、十分割り切れる $d$ について $S^{(d)}$ は $S_0$ 上 $S^{(d)}_1=S_d$ で生成される(Stacks26 Tag 0EGH)。Veronese 部分環に取り替えても $\operatorname{Proj}$ は変わらないので、この事実により、多くの議論で「次数 $1$ で生成される」と仮定してよくなる(射影射 の記事の例「次数付き環のProj」、ブローアップ の記事の注意「イデアルの冪と Veronese 部分環」)。

2 変数の多項式環の 2 次の Veronese 部分環

$S=k[x,y]$(標準の次数)とすると、$S^{(2)}=k[x^2,xy,y^2]$ であり、次数付き $k$ 代数の同型
$$ k[u,v,w]/(uw-v^2)\xrightarrow{\ \cong\ }S^{(2)},\qquad u\mapsto x^2,\ v\mapsto xy,\ w\mapsto y^2 $$
がある(左辺は $u,v,w$ を次数 $1$ とする)。幾何学的には、射影直線が平面の円錐曲線 $uw=v^2$ として埋め込まれることにあたる(代数曲線 の記事の定理「2 次曲線 $xz=y^2$ は射影直線と同型」)。

要点:全射は単項式を見ればよく、単射は $uw=v^2$ で左辺の元を単項式 $u^pw^q$、$u^pvw^q$ の和に直すと、それらの像が相異なる単項式になることから分かる。

詳しい証明を開く

写像は $uw-v^2\mapsto x^2y^2-(xy)^2=0$ なので定まり、$S^{(2)}$ の元は偶数次の単項式 $x^ay^b$($a+b$ が偶数)の和で、$x^ay^b$ は $a,b$ がともに偶数なら $u^{a/2}w^{b/2}$、ともに奇数なら $u^{(a-1)/2}vw^{(b-1)/2}$ の像なので、全射である。単射であること:$uw\equiv v^2$ を繰り返し使うと、左辺の元はどれも単項式 $u^pw^q$ と $u^pvw^q$($p,q\ge0$)の $k$ 係数の和で書ける。これらの像はそれぞれ $x^{2p}y^{2q}$ と $x^{2p+1}y^{2q+1}$ で、すべて相異なる単項式であり、$k$ 上一次独立である。よって、この和が $0$ に写るなら係数はすべて $0$ であり、写像は単射である。次数は $u^pw^q$、$u^pvw^q$ の次数 $p+q$、$p+q+1$ が像の $S^{(2)}$ での次数($x,y$ の次数の半分)と一致するので保たれる。$\square$

随伴次数環と Rees 代数

環 $A$ とイデアル $I$ から、次数付き環が 2 つ作られる($I^0:=A$)。

Rees 代数と随伴次数環
  1. $A$ 上の多項式環 $A[t]$ の部分環 $\mathcal{R}_I(A):=\bigoplus_{n\ge0}I^nt^n=A\oplus It\oplus I^2t^2\oplus\cdots$ を、$I^nt^n$ を次数 $n$ に置いて次数付き環とみたものを、$I$ の Rees 代数(Rees algebra)という。
  2. $\operatorname{gr}_IA:=\bigoplus_{n\ge0}I^n/I^{n+1}$ に、$\bar a\in I^m/I^{m+1}$ と $\bar b\in I^n/I^{n+1}$ の積を $\overline{ab}\in I^{m+n}/I^{m+n+1}$ で定めた次数付き環を、$I$ に関する 随伴次数環(associated graded ring)という。

$\operatorname{gr}_IA$ の積が代表元によらないことは、$a\in I^m$、$b'\in I^{n+1}$ なら $ab'\in I^{m+n+1}$ であることから分かる。$\operatorname{gr}_IA$ の次数 $0$ の部分は $A/I$ である。2 つの環は $\operatorname{gr}_IA\cong\mathcal{R}_I(A)/I\mathcal{R}_I(A)$ で結ばれる($I\mathcal{R}_I(A)$ の次数 $n$ の部分は $I^{n+1}t^n$ なので、商の次数 $n$ の部分は $I^nt^n/I^{n+1}t^n$ である)。

随伴次数環の例
  1. $A=k[x_1,\dots,x_n]$、$I=(x_1,\dots,x_n)$ なら、$I^d/I^{d+1}$ は $d$ 次の斉次多項式の空間と同一視され、$\operatorname{gr}_IA\cong k[x_1,\dots,x_n]$(標準の次数)である。
  2. 冪級数環 $A=k[\![x]\!]$、$\mathfrak{m}=(x)$ なら、$\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}$ は $x^d$ の類で生成される 1 次元の $k$ ベクトル空間であり、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong k[x]$ である。
  3. $A=\mathbb{Z}$、$I=(p)$($p$ は素数)なら、$p^d\mathbb{Z}/p^{d+1}\mathbb{Z}\cong\mathbb{F}_p$ は $p^d$ の類で生成され、$\operatorname{gr}_{(p)}\mathbb{Z}\cong\mathbb{F}_p[t]$($t$ は $p$ の類で次数 $1$)である。
  4. $A=k[x,y]/(y^2-x^3)$、$\mathfrak{m}=(x,y)$ なら、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong k[X,Y]/(Y^2)$ である($y^2-x^3$ の最低次の斉次成分が $y^2$ だから)。

Noether 局所環 $(A,\mathfrak{m})$ が正則局所環であることは、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ が多項式環と同型であることと同値である(正則局所環 の記事の定理「随伴次数環が多項式環になること」)。上の 4 の尖点 $y^2=x^3$ の原点での局所環 $A_\mathfrak{m}$ は正則でない。実際、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}A_\mathfrak{m}}A_\mathfrak{m}$ は $\operatorname{gr}_\mathfrak{m}A$ と同型($\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}$ は $\mathfrak{m}$ の外の元が単元として働くので局所化で変わらない)で、$0$ でない冪零元 $Y$ をもつので多項式環でない。幾何学的には、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ は特異点での「接錐」を表し、Rees 代数の $\operatorname{Proj}$ はイデアル $I$ に沿ったブローアップを与える(ブローアップ の記事の定義「ブローアップ」)。

4 の計算を開く

$B=k[x,y]$、$\mathfrak{n}=(x,y)$、$f=y^2-x^3$ とすると、$\mathfrak{m}^d=(\mathfrak{n}^d+(f))/(f)$ なので $\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}\cong\mathfrak{n}^d/(\mathfrak{n}^{d+1}+(f)\cap\mathfrak{n}^d)$ である。$g f\in\mathfrak{n}^d$($g\in B$)の最低次の斉次成分は $g_{\min}\cdot y^2$ の形なので、$(f)\cap\mathfrak{n}^d$ の元の $d$ 次の斉次成分は $y^2$ の倍元である。逆に $y^2h$($h$ は $d-2$ 次の斉次式)は $hf=y^2h-x^3h$ と $x^3h\in\mathfrak{n}^{d+1}$ から $(f)\cap\mathfrak{n}^d+\mathfrak{n}^{d+1}$ に属する。よって $\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}\cong B_d/y^2B_{d-2}$ であり、これが $k[X,Y]/(Y^2)$ の次数 $d$ の部分である。

次数付き可換環

ホモロジー・コホモロジーや微分形式に現れる環は、可換でなく「符号付きで可換」である。

次数付き可換

環 $S$(可換とは限らない)と加法群の分解 $S=\bigoplus_{d\ge0}S_d$($S_dS_e\subset S_{d+e}$)について、すべての斉次元 $a\in S_d$、$b\in S_e$ で
$$ ab=(-1)^{de}\,ba $$
が成り立つとき、$S$ を 次数付き可換(graded-commutative)という。

偶数次の元は他のすべての元と可換であり、奇数次の元どうしは反可換である。とくに $S_0$ と $\bigoplus_dS_{2d}$ は可換環である。

反例:次数付き可換だが可換でない環

体 $k$(標数 $2$ でない)上の 2 次元ベクトル空間の外積代数 $\Lambda=k\oplus(ke_1\oplus ke_2)\oplus k\,e_1\wedge e_2$ は、$e_i\wedge e_j=-e_j\wedge e_i$、$e_i\wedge e_i=0$ を満たし、$\Lambda_0=k$、$\Lambda_1=ke_1\oplus ke_2$、$\Lambda_2=k\,e_1\wedge e_2$ とする次数付き可換環である(次数 $1$ の元どうしの積だけが符号を変え、それは $(-1)^{1\cdot1}=-1$ に合う)。しかし $e_1\wedge e_2=-e_2\wedge e_1\neq e_2\wedge e_1$($e_1\wedge e_2\neq0$ で標数が $2$ でないから)なので、$\Lambda$ は可換環でない。この例は「次数付き可換」を満たすが「可換」を満たさない。標数 $2$ では $-1=1$ なので、次数付き可換と可換は同じ条件になる。

ほかに、体 $F$ の Milnor $K$ 環 $K_*^M(F)$ も次数付き可換である(Milnor K群 の記事の命題「Milnor $K$ 環の次数付き可換性」)。多様体の微分形式の外積と de Rham コホモロジー(de Rhamコホモロジー)の積も次数付き可換である。一方、滑らかな代数多様体の Chow 環は(余次元を次数として)可換である。

注意

反例のまとめ

外す条件反例成り立たなくなること
$I$ が斉次イデアル$k[x]$ の $(x-1)$$S/I$ が次数を受け継ぐ
$I$ が斉次イデアル$k[x]$ の $(x^2-1)$斉次元だけで素イデアルと判定できる
$S$ が可換外積代数 $\Lambda(k^2)$次数付き可換なら可換
次数が $0$ 以上$k[x,x^{-1}]$正の次数の斉次元は単元でない
$S_0$ 上有限生成$k[x_1,x_2,\dots]$$S_0$ が Noether なら $S$ も Noether

各行の確認は ex-graded-ring-nonhomogeneous-quotient、ex-graded-ring-prime-fails、ex-graded-ring-exterior、ex-graded-ring-laurent と、cor-graded-ring-noetherian の直後の段落にある。

$\mathbb{N}$ 次数と $\mathbb{Z}$ 次数

$\mathbb{Z}$ 次数付き環の例:Laurent 多項式環の次数

Laurent 多項式環 $k[x,x^{-1}]$ は、$S_d=kx^d$($d\in\mathbb{Z}$)とすると $\mathbb{Z}$ 次数付き環であり、$S_0=k$ である。$x$ は次数 $1$ の単元で、逆元 $x^{-1}$ は次数 $-1$ である。$\mathbb{N}$ 次数付き環 $S$ では、$S\neq0$ なら正の次数の斉次元 $a$ は単元にならない($ab=1$ とすると、$b$ の各斉次成分 $b_e$ について $ab_e\in S_{\deg a+e}$ で $\deg a+e>0$ なので、$ab$ の次数 $0$ の成分は $0$ になり、$1\neq0$ に反する)。したがって、この次数のもとで $k[x,x^{-1}]$ は $\mathbb{N}$ 次数付き環でない。この例は「$\mathbb{Z}$ 次数付き環」を満たすが「$\mathbb{N}$ 次数付き環」を満たさない。$\mathbb{Z}$ 次数付き環は、$\mathbb{N}$ 次数付き環 $S$ の斉次元 $f$ による局所化 $S_f$ として $\operatorname{Proj}$ の構成に現れる($S_f$ の次数 $0$ の部分 $S_{(f)}$ が $\operatorname{Proj}S$ の開集合 $D_+(f)$ の座標環になる)。

prop-graded-ring-homogeneous-ideal、prop-graded-ring-operations、prop-graded-ring-prime は $\mathbb{Z}$ 次数付き環でもそのまま成り立つ(証明は各元の斉次成分が有限個であることしか使わない)。一方、prop-graded-ring-generation は負の次数を許すと成り立たない。$k[x,x^{-1}]$ で $\bigoplus_{d>0}S_d=xk[x]$ はイデアルでさえなく($x^{-1}\cdot x=1$ が入らない)、正の次数の元だけで $S$ を $S_0=k$ 上生成することもできない($x^{-1}$ が得られない)。

$\operatorname{Proj}$ への入口

次数付き環 $S$ の 斉次スペクトル $\operatorname{Proj}S$ は、$S_+$ を含まない斉次素イデアルの全体に $\operatorname{Spec}S$ からの位相を入れたもので、正の次数の斉次元 $f$ について $D_+(f)=\{\mathfrak{p}\mid f\notin\mathfrak{p}\}$ が開集合の基をなし、$D_+(f)$ は $\operatorname{Spec}S_{(f)}$ と同相である(Stacks26 Tag 00JN、Tag 00JP)。無縁イデアルという名前は、$S_+$ を含む斉次素イデアルが $\operatorname{Proj}S$ の点にならないことによる。$\operatorname{Proj}A[x_0,\dots,x_n]=\mathbb{P}^n_A$ が射影空間である。

Proj を扱うほかの記事を開く

斉次イデアル $I$ による商 $\operatorname{Proj}A[x_0,\dots,x_n]/I$ は $\mathbb{P}^n_A$ の閉部分スキームになる(射影射 の記事の命題「次数付き環の全射が誘導する閉埋め込み」)。アフィン多様体の定義イデアルから射影閉包の斉次イデアルを作る操作は 射影閉包、局所自由層の対称代数の $\operatorname{Proj}$ は 射影束 で扱われている。Veronese 部分環に取り替えても $\operatorname{Proj}$ が変わらないことは 射影射 の記事の例「次数付き環のProj」にある。

文献

次数付き環・無縁イデアル・次数付き加群と $M(a)$ の定義は Stacks26 Tag 00JL(Section 10.56)、斉次イデアルの定義と同値条件、素イデアルの判定は Tag 00JM(Section 10.57 の冒頭)と Vak25 Exercise 4.5.F、prop-graded-ring-generation は Tag 07Z4(Lemma 10.58.1)と Vak25 Exercise 4.5.G、cor-graded-ring-noetherian は Tag 00JW(Lemma 10.58.2)、Veronese 部分環は Tag 0EGH(Lemma 10.56.2)、Rees 代数は Tag 052Q(Definition 10.70.1)にある。$\mathbb{Z}$ 次数付き環と $\mathbb{N}$ 次数付き環の用語は Vak25 4.5.5–4.5.6 に従った(同書は $\mathbb{N}$ 次数付き環を単に graded ring と呼ぶ)。

関連項目

参考文献

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