E8格子(E8 lattice)とは、$\mathbb{R}^8$ の点で、成分がすべて整数かすべて半整数で成分の和が偶数のものの全体に標準内積を制限した格子である。正定値な偶ユニモジュラー格子で、階数 $8$ のそのような格子は同型を除いてこれだけである。ノルム $2$ の元は $240$ 個あって例外型のルート系 $E_8$ をなし、格子の自己同型群はその Weyl 群(位数 $696729600$)に一致する。テータ級数は重さ $4$ の Eisenstein 級数 $E_4$ に等しく、ノルム $2m$ の元の個数は $240\sigma_3(m)$ である。
前提知識: 格子(数論), ルート系, モジュラー形式, Poissonの和公式
$E_8$ 格子($E_8$ lattice)は、$\mathbb{R}^8$ の中の格子
$$
E_8=\Bigl\{x\in\mathbb{Z}^8\cup\bigl(\mathbb{Z}+\tfrac12\bigr)^8\ \Big|\ x_1+\cdots+x_8\in2\mathbb{Z}\Bigr\}
$$
に標準内積を制限したものである。どのベクトルの長さの 2 乗も偶数で、判別式は $1$ である。このような正定値の格子は階数 $8$ では $E_8$ しかない(thm-e8l-unique)。長さの 2 乗が $2$ の元(ルート)はちょうど $240$ 個あって、例外型のルート系 $E_8$ をなし、格子の自己同型群はそのルート系の Weyl群 に一致する(thm-e8l-aut)。長さの 2 乗が $2m$ の元の個数は $240\sigma_3(m)$ で、テータ級数は重さ $4$ の Eisenstein 級数 $E_4$ に等しい(thm-e8l-theta)。
この記事では、これら 3 つの定理を証明する。一意性の証明はテータ級数の係数から始まり、$E_8/2E_8$ の 256 個の類を数えて座標系を見つけるという道筋をたどる。$E_8$ の点を中心とする半径 $1/\sqrt2$ の球の並べ方は 8 次元で最も密であること(Viazovska の定理)は、証明せずに紹介する(ex-e8l-packing)。$4$ 次元多様体の交叉形式としての $E_8$ は E8多様体 の記事で扱う。
格子の用語(整・偶・ユニモジュラー・判別式・双対格子)は 格子(数論) の定義に従う。正定値な格子 $L$ では、$x\cdot x$ を $x$ のノルムといい、ノルム $2$ の元をルート、その全体を $\Phi(L)$ と書く。$\mathbb{R}^8$ の標準基底を $e_1,\dots,e_8$、$h:=\frac12(e_1+\cdots+e_8)$ とし、
$$
D_8:=\Bigl\{x\in\mathbb{Z}^8\ \Big|\ \textstyle\sum_ix_i\in2\mathbb{Z}\Bigr\}
$$
とおく。$D_8$ は $e_i\pm e_j$($i\ne j$)で生成され、判別式は $4$ である。
$E_8:=D_8\cup(h+D_8)\subset\mathbb{R}^8$ に標準内積を制限した格子を $E_8$ 格子という。冒頭の式の集合と同じものである。
冒頭の集合で成分がすべて半整数のもの $x$ は、$x-h\in\mathbb{Z}^8$ で成分の和が $\sum_ix_i-4$(偶数)なので $h+D_8$ に入る。逆も同様である。
1.格子(数論) の例「$D_n$ から作るユニモジュラー格子」の $n=8$ の場合である($D_8^+=E_8$ は偶なユニモジュラー格子)。正定値なのは標準内積の制限だからである。2.$D_8$ の元 $x$ でノルム $2$ のものは、整数の成分の 2 乗の和が $2$ なので $\pm e_i\pm e_j$ であり、$4\binom82=112$ 個ある。$h+D_8$ の元のノルムは $8\cdot\frac14=2$ 以上で、等号は成分がすべて $\pm\frac12$ のときである。負の成分が $m$ 個なら成分の和は $4-m$ で、これが偶数であることは $m$ が偶数であることと同値なので、$2^7=128$ 個ある。3 は E8多様体 の命題「$E_8$ 形式の性質」の 2 である。$\square$
$E_8$ はノルム $1$ の元をもたないので、同じ階数のユニモジュラー格子 $\mathbb{Z}^8$ とは同型でない。階数 $4$ 以下の正定値ユニモジュラー格子は $\mathbb{Z}^n$ しかない(格子(数論) の定理「階数 4 以下の正定値ユニモジュラー格子」)が、階数 $8$ では $\mathbb{Z}^8$ と異なる正定値ユニモジュラー格子として $E_8$ が現れる。
格子 $L$ の自己同型群 $\operatorname{Aut}(L)$ を、$L$ をそれ自身に写し内積を保つ $\mathbb{R}$ 線形写像 $L\otimes\mathbb{R}\to L\otimes\mathbb{R}$ の群とする。
$L$ を正定値な偶格子とし、$\Phi(L)$ が $V:=L\otimes\mathbb{R}$ を張るとする。
$r\in\Phi(L)$ と $x\in L$ について $x\cdot r\in\mathbb{Z}$ なので $s_r(x)\in L$ であり、$s_r$ は鏡映なので内積を保つ。よって $s_r\in\operatorname{Aut}(L)$ で、$s_r$ はノルムを保つから $s_r(\Phi(L))=\Phi(L)$ である。これが (RS2) である。$0\notin\Phi(L)$ と仮定から (RS1)、$2(x\cdot r)/(r\cdot r)=x\cdot r\in\mathbb{Z}$ から (RS3) が成り立つ。$cr\in\Phi(L)$ なら $2c^2=2$ で $c=\pm1$ なので (RS4) も成り立つ。$\Phi(L)$ が有限なのは、正定値な格子の有界な部分集合が有限だからである。$\square$
$\operatorname{Aut}(E_8)=W(\Phi(E_8))$ である。この Weyl 群は $E_8$ の基全体に単純推移的に作用する。その位数は $696729600=2^{14}\cdot3^5\cdot5^2\cdot7$ である(FH91 §24.2、p. 414。この記事では証明しない)。
要点:基の Gram 行列は行列式 $1$ の正定値な Cartan 行列なので、その図形は $E_8$ 型の木であり、木には自明でない自己同型がない。
$\Phi:=\Phi(E_8)$ とし、基 $\Delta$ を 1 つとる(ルート系 の定理「正系と基の一対一対応」)。
段 1:$\Delta$ の図形は $E_8$ 型の木である。 相異なる $\alpha,\beta\in\Delta$ について $\alpha\cdot\beta\le0$ である(ルート系 の補題「単純ルートどうしの内積」)。$\alpha\cdot\beta$ は整数で、$\alpha,\beta$ は比例しないので Cauchy–Schwarz の不等式から $\lvert\alpha\cdot\beta\rvert<2$ であり、$\alpha\cdot\beta\in\{0,-1\}$ となる。そこで $\alpha\cdot\beta=-1$ の組を辺で結んだグラフを $\Gamma$ とすると、$\Delta$ の Gram 行列 $G$ は $\Gamma$ の Cartan 行列 $2I-A_\Gamma$($A_\Gamma$ は隣接行列)であり、$\Delta$ が基底なので正定値である。単純鏡映 $s_\alpha(x)=x-(x\cdot\alpha)\alpha$($\alpha\in\Delta$)は $\mathbb{Z}\Delta$ を保ち($\mathbb{Z}\Delta\subset E_8$ の元と $\alpha$ の内積は整数)、どのルートも単純ルートの単純鏡映の積による像なので(ルート系 の命題「Weyl群は単純鏡映で生成される」)、すべてのルートは $\mathbb{Z}\Delta$ に入る。よって、$\mathbb{Z}\Delta$ はルート $b_1,\dots,b_8$ を含み、prop-e8l-basic の 3 から $\mathbb{Z}\Delta=E_8$ である。よって $\Delta$ は $E_8$ の $\mathbb{Z}$ 基底で、$\det G=\operatorname{disc}(E_8)=1$ である。$\Gamma$ の各連結成分の Cartan 行列も正定値なので、成分は $A_n$、$D_n$、$E_6$、$E_7$、$E_8$ のどれかで、行列式はそれぞれ $n+1$、$4$、$3$、$2$、$1$ である(Du Val特異点 の定理「正定値な Cartan 行列をもつグラフ」)。$\det G$ は成分の行列式の積で $1$ なので、どの成分も $E_8$ であり、頂点が $8$ 個なので $\Gamma$ は $E_8$ 型の木そのものである。
段 2:木の自己同型。 $E_8$ 型の木は次数 $3$ の頂点をただ 1 つもち、そこから出る 3 本の腕の頂点の個数は $1,2,4$ で相異なる。グラフの自己同型はこの頂点を固定し、各腕をそれ自身に写すので、すべての頂点を固定する。
段 3。 $g\in\operatorname{Aut}(E_8)$ はノルムを保つので $g(\Phi)=\Phi$ で、線形なので $g(\Delta)$ も基である。Weyl 群 $W:=W(\Phi)$ は基全体に推移的に作用する(ルート系 の命題「Weyl群の正系への推移性」)ので、$wg(\Delta)=\Delta$ となる $w\in W$ がある。$wg$ は $\Delta$ を並べ替えて内積を保つので $\Gamma$ の自己同型を与え、段 2 から $\Delta$ の各元を固定する。$\Delta$ は基底なので $wg=\mathrm{id}$、$g=w^{-1}\in W$ である。逆の包含は prop-e8l-roots の 2 である。$W$ が基全体に単純推移的に作用することは ルート系 の系「Weyl群の単純推移性」である。$\square$
位数 $696729600$ は $E_8$ 型の Weyl 群の位数として知られている値で(FH91 §24.2、p. 414)、この記事では計算しない。thm-e8l-aut により、これは $E_8$ の基の個数でもある。
ルート $r$ を 1 つ固定すると、ルート $s$ との内積 $r\cdot s$ は $2,1,0,-1,-2$ のどれかで、その値をとる $s$ はそれぞれちょうど $1,56,126,56,1$ 個ある。
Cauchy–Schwarz の不等式から $\lvert r\cdot s\rvert\le2$ で、等号は $s=\pm r$ のときに限る。まず $\operatorname{Aut}(E_8)$ はルート全体に推移的に作用する。実際、どのルートもある単純ルートの Weyl 群による像であり(ルート系 の命題「Weyl群は単純鏡映で生成される」)、木で隣り合う単純ルート $\alpha,\beta$($\alpha\cdot\beta=-1$)について $s_\alpha s_\beta(\alpha)=s_\alpha(\alpha+\beta)=\beta$ で、木は連結だからである。そこで $r=e_1+e_2$ の場合を数えればよい。$r\cdot s=1$ となる $s$ は、$e_1\pm e_j$ と $e_2\pm e_j$($3\le j\le8$)の $24$ 個と、第 1・第 2 成分が $+\frac12$ で残り 6 成分の負の符号が偶数個のもの $2^5=32$ 個で、合わせて $56$ 個である。$s\mapsto-s$ で $r\cdot s=-1$ のものも $56$ 個あり、残りの $240-1-56-56-1=126$ 個が $r$ と直交する。
正定値な偶格子 $L$ について、上半平面 $\mathfrak{H}$ の上の関数
$$
\Theta_L(\tau):=\sum_{x\in L}q^{x\cdot x/2}=\sum_{m\ge0}r_L(2m)\,q^m,\qquad q=e^{2\pi i\tau}
$$
を $L$ のテータ級数という。$r_L(2m)$ はノルム $2m$ の元の個数である。$\sigma_3(m)$ は $m$ の正の約数の 3 乗の和とする。
$L$ を階数 $8$ の正定値な偶ユニモジュラー格子とする。$\Theta_L$ は重さ $4$ の モジュラー形式 で、正規化された Eisenstein 級数 $E_4=1+240\sum_{m\ge1}\sigma_3(m)q^m$ に等しい。すなわち、$m\ge1$ についてノルム $2m$ の元はちょうど $240\sigma_3(m)$ 個ある。
要点:$\tau\mapsto\tau+1$ での不変性は偶であることから、$\tau\mapsto-1/\tau$ での変換則は Poisson の和公式から従う。重さ $4$ のモジュラー形式の空間は 1 次元である。
収束。 $L\subset\mathbb{R}^8$(標準内積)とみる。$0$ でない元のノルムは $2$ 以上なので、$L$ の各点を中心とする半径 $\rho:=1/\sqrt2$ の開球は互いに交わらない。ノルム $R$ 以下の元の個数を $N(R)$ とすると、それらを中心とする球は半径 $\sqrt R+\rho$ の球に含まれるので、体積を比べて $N(R)\le(\sqrt R+\rho)^8/\rho^8$ である。$\operatorname{Im}\tau\ge\varepsilon>0$ では $\lvert q^{x\cdot x/2}\rvert=e^{-\pi(x\cdot x)\operatorname{Im}\tau}\le e^{-\pi\varepsilon\,x\cdot x}$ なので、級数は一様に絶対収束し、$\Theta_L$ は $\mathfrak{H}$ 上で正則である。$\operatorname{Im}\tau\ge1$ では $\lvert\Theta_L\rvert\le\sum_xe^{-\pi x\cdot x}<\infty$ で有界である。
2 つの変換則。 $x\cdot x$ は偶数なので $\Theta_L(\tau+1)=\Theta_L(\tau)$ である。$L$ はユニモジュラーなので双対格子は $L$ 自身で、基本領域の体積は $\sqrt{\operatorname{disc}(L)}=1$ である。Poissonの和公式 の例「格子のテータ級数」により、$t>0$ で $\sum_xe^{-\pi\lvert x\rvert^2/t}=t^{4}\sum_xe^{-\pi t\lvert x\rvert^2}$、すなわち $\tau=it$ について $\Theta_L(-1/\tau)=t^4\Theta_L(\tau)=\tau^4\Theta_L(\tau)$ である($i^4=1$)。両辺は $\mathfrak{H}$ 上で正則なので、一致の定理 により $\mathfrak{H}$ 全体で $\Theta_L(-1/\tau)=\tau^4\Theta_L(\tau)$ が成り立つ。
モジュラー性。 $\gamma=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ について $(f|\gamma)(\tau):=(c\tau+d)^{-4}f(\gamma\tau)$ とおく。$j(\gamma,\tau):=c\tau+d$ は $j(\gamma\gamma',\tau)=j(\gamma,\gamma'\tau)\,j(\gamma',\tau)$ を満たすので $f|(\gamma\gamma')=(f|\gamma)|\gamma'$ であり、$f|\gamma=f$ となる $\gamma$ の全体は部分群をなす。上の 2 つの変換則は $\Theta_L|T=\Theta_L$、$\Theta_L|S=\Theta_L$($T=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$、$S=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$)を意味し、$S,T$ は $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ を生成する(上半平面 の定理「$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の生成元」)。有界性と合わせて $\Theta_L\in M_4$ である。
結論。 $\dim M_4=1$(モジュラー形式 の定理「モジュラー形式の空間の構造」の 3)で、$E_4\in M_4$ である。ノルム $0$ の元は $0$ だけなので $\Theta_L$ の定数項は $1$ で、$E_4$ の定数項も $1$ だから $\Theta_L=E_4$ である。$E_4$ の $q$ 展開は モジュラー形式 の記事の正規化された Eisenstein 級数の式による。$\square$
$m=1$ の $240$ は prop-e8l-basic の 2 と一致する。$m=2$ では $240\sigma_3(2)=240\cdot9=2160$ で、$E_8$ のノルム $4$ の元は $\pm2e_i$($16$ 個)、$\pm e_i\pm e_j\pm e_k\pm e_l$($16\binom84=1120$ 個)、成分が $\pm\frac32$ を 1 つと $\pm\frac12$ を 7 つもつもの($8\cdot2^7=1024$ 個)の合計 $2160$ 個であり、直接数えた値と一致する。
階数 $8$ の正定値な偶ユニモジュラー格子は、$E_8$ と同型である。
$L/2L$ の $256$ 個の類に、$0$、ルート、ノルム $4$ の元を振り分けると、ノルム $4$ の元を含む類はどれも直交する $8$ 組 $\pm v_i$ からなることが分かる。$v_i/2$ を正規直交基底にとると $L\supset D_8$ となり、$L$ は $D_8$ の指数 $2$ の拡大として決まる。以下 $L\subset\mathbb{R}^8$ とみる。thm-e8l-theta により $L$ のルートは $240$ 個、ノルム $4$ の元は $2160$ 個ある。$2L$ の $0$ でない元のノルムは $4\cdot2=8$ 以上である。
段 1:同じ類の元。 $x,y\in L$ が $x\equiv y\pmod{2L}$、$x\ne\pm y$ を満たせば、$x\pm y$ は $2L$ の $0$ でない元なので
$$
16\le\lvert x+y\rvert^2+\lvert x-y\rvert^2=2\lvert x\rvert^2+2\lvert y\rvert^2
$$
である。$2L$ の $0$ でない元のノルムは $8$ 以上なので、ノルム $4$ 以下の $0$ でない元は $0$ と同じ類に入らない。上の不等式から、相異なるルート $r\ne\pm s$ は同じ類に入らず(右辺が $8$)、ルートとノルム $4$ の元も同じ類に入らない(右辺が $12$)。ノルム $4$ の元 $x\ne\pm y$ が同じ類に入るなら、$\lvert x\pm y\rvert^2\ge8$ で和が $16$ なので $\lvert x\pm y\rvert^2=8$、すなわち $x\cdot y=0$ である。$2x\in2L$ なので $x\equiv-x$ であることと合わせると、ノルム $4$ の元を含む類のノルム $4$ の元は、互いに直交する $v_1,\dots,v_k$ によって $\pm v_1,\dots,\pm v_k$ と書ける。$\mathbb{R}^8$ の直交する $0$ でないベクトルは $8$ 個以下なので $k\le8$ である。
段 2:数える。 段 1 から、$0$ の類、$120$ 個のルートの類 $\{\pm r\}$、ノルム $4$ の元を含む類は互いに異なる。後者の個数を $N$ とすると、1 つの類のノルム $4$ の元は $16$ 個以下なので $N\ge2160/16=135$ である。$\lvert L/2L\rvert=2^8=256=1+120+135$ なので $N=135$ で、ノルム $4$ の元を含む類はどれも、直交する $8$ 個の $v_1,\dots,v_8$ による $\pm v_1,\dots,\pm v_8$ をちょうど含む。
段 3:$D_8$ を見つける。 そのような類を 1 つとり、$\varepsilon_i:=v_i/2$ とおくと、$\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_8$ は $\mathbb{R}^8$ の正規直交基底である。$v_i\equiv\pm v_j$ なので $v_i\pm v_j\in2L$、すなわち $\varepsilon_i\pm\varepsilon_j\in L$ である。この基底を座標にとって $\mathbb{R}^8$ と同一視すると $D_8\subset L$ である。$L$ は整なので $L\subset L^\vee\subset D_8^\vee=\mathbb{Z}^8\cup(h+\mathbb{Z}^8)$ である($D_8^\vee$ は 格子(数論) の例「$D_n$ から作るユニモジュラー格子」の確認の中で求めてある)。判別式は $\operatorname{disc}(D_8)=[L:D_8]^2\operatorname{disc}(L)$ を満たす(格子(数論) の定理「双対格子と判別式」の 3)ので $[L:D_8]=2$ である。$D_8^\vee/D_8$ は位数 $\operatorname{disc}(D_8)=4$ の群(同定理の 2)で、$0,e_1,h,h-e_1$ の類からなる。よって $L=D_8\cup(c+D_8)$ で、$c$ は $e_1,h,h-e_1$ のどれかである。$c=e_1$ なら $L=\mathbb{Z}^8$ はノルム $1$ の元をもち偶でない。$c=h$ なら $L=E_8$ である。$c=h-e_1$ なら、第 1 座標の符号を変える写像は $D_8$ を保ち $h$ を $h-e_1$ に写すので、$L$ は $E_8$ と同型である。$\square$
この証明は、テータ級数の係数 $240$ と $2160$ だけから座標系を組み立てている。$L=E_8$ そのものに当てはめると、$2e_1$ を含む類のノルム $4$ の元は $\pm2e_1,\dots,\pm2e_8$ で、段 3 の座標は定義の座標に戻る。
$C\subset\mathbb{F}_2^8$ を拡大 Hamming 符号(Hamming符号 の例「自己双対な $[8,4,4]$ 符号」)とし、$\pi\colon\mathbb{Z}^8\to\mathbb{F}_2^8$ を成分ごとの還元とする。$L_C:=\frac1{\sqrt2}\pi^{-1}(C)$ は $E_8$ と同型である(BH11 §8.3、p. 106)。
実際、$x,y\in\pi^{-1}(C)$ について $x\cdot y\equiv\pi(x)\cdot\pi(y)=0\pmod2$($C$ は自己双対)なので $L_C$ は整である。奇数の 2 乗は $8$ を法として $1$、偶数の 2 乗は $4$ の倍数なので $x\cdot x$ は $\pi(x)$ の重みと $4$ を法として合同で、重みは $0,4,8$ なので $\frac12x\cdot x$ は偶数である。$[\mathbb{Z}^8:\pi^{-1}(C)]=2^8/16=16$ なので、$L_C$ の基本領域の体積は $16\cdot(1/\sqrt2)^8=1$ で、$L_C$ はユニモジュラーである。thm-e8l-unique により $L_C\cong E_8$ である。ルートは $\frac1{\sqrt2}(\pm2e_i)$ の $16$ 個と、重み $4$ の符号語 $14$ 個の台に $\pm1$ を置いて $\frac1{\sqrt2}$ 倍した $14\cdot16=224$ 個で、合わせて $240$ 個である。
$E_8$ の各点を中心とする半径 $1/\sqrt2$ の球は、ルートの長さが $\sqrt2$ なので互いに重ならず、$0$ を中心とする球にはちょうど $240$ 個の球が接する(接吻数)。基本領域の体積は $1$、$8$ 次元の単位球の体積は $\pi^4/24$ なので、この詰め込みが空間を占める割合は
$$
\frac{\pi^4}{24}\cdot\Bigl(\frac1{\sqrt2}\Bigr)^8=\frac{\pi^4}{384}=0.2536\cdots
$$
である。Viazovska は、$\mathbb{R}^8$ の合同な球のどんな詰め込みの密度もこの値を超えないことを証明した(Via17 Theorem 1。証明はモジュラー形式を使って Fourier 変換の固有関数を作るもので、この記事では証明しない)。球の詰め込み の問題の答えが分かっている数少ない次元の 1 つである。
階数 $16$ の正定値な偶ユニモジュラー格子として、$E_8\oplus E_8$ と $D_{16}^+:=D_{16}\cup(h_{16}+D_{16})$($h_{16}=\frac12(e_1+\cdots+e_{16})$、格子(数論) の例「$D_n$ から作るユニモジュラー格子」)がある。どちらもルートは $480$ 個だが、同型でない。$E_8\oplus E_8$ のルートは $(r,0)$ と $(0,r)$ で、ルートが生成する部分格子は全体である(prop-e8l-basic の 3)。$D_{16}^+$ のルートは $\pm e_i\pm e_j$ だけ($h_{16}+D_{16}$ の元のノルムは $16\cdot\frac14=4$ 以上)で、生成する部分格子は指数 $2$ の $D_{16}$ である。同型写像はルートをルートに写すので、これらは同型でない。
2 つの格子のテータ級数はどちらも重さ $8$ の Eisenstein 級数に等しい(Zag08 §3.2、p. 34)ので、テータ級数は格子を決めない。
thm-e8l-unique の仮定を 1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 偶 | $\mathbb{Z}^8$ | $E_8$ と同型であること |
| ユニモジュラー | $D_8$ | $E_8$ と同型であること |
| 正定値 | $U\oplus U\oplus U\oplus U$($U$ は双曲平面) | $E_8$ と同型であること |
| 階数 $8$ | $D_{16}^+$ | $E_8\oplus E_8$ と同型であること(階数 16 での一意性) |
1 行目:$\mathbb{Z}^8$ は階数 $8$ の正定値ユニモジュラー格子で、ノルム $1$ の $e_1$ をもつので偶でなく、$E_8$ と同型でない。2 行目:$D_8$ は階数 $8$ の偶な正定値格子で、判別式は $4$ である。判別式は同型で変わらないので $E_8$ と同型でない。3 行目:$U$ の Gram 行列は $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ で、$U^{\oplus4}$ は階数 $8$ の偶ユニモジュラー格子(判別式 $1$)だが、ノルム $0$ の $0$ でない元をもつので正定値でなく、$E_8$ と同型でない。4 行目:ex-e8l-rank16 のとおりで、$D_{16}^+$ は階数 $16$ の正定値な偶ユニモジュラー格子だが $E_8\oplus E_8$ と同型でない。
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