Napoleonの定理(Napoleon's theorem)とは、三角形の 3 辺それぞれの外側に正三角形を立てると、3 つの正三角形の重心がいつも正三角形をなし、その重心はもとの三角形の重心と一致するという定理である。複素数で $\omega=\cos\frac{2\pi}3+i\sin\frac{2\pi}3$ とおくと、3 点 $z_1,z_2,z_3$ が反時計回りの正三角形であることは $z_1+\omega z_2+\omega^2z_3=0$ と同値であり、これを使って計算で証明できる。3 頂点を長さ 3 の数列と見て離散 Fourier 変換すると、重心を作る操作は 3 つの成分を $1$ 倍・$-1$ 倍・$0$ 倍する操作であり、時計回りの成分が消える。内側に立てても正三角形ができ、外側と内側の Napoleon 三角形の面積の差はもとの三角形の面積に等しい。
前提知識: 複素数平面と図形, 複素数の掛け算は回転と拡大, 1の冪根で数を振り分ける, 三角形の重心(高校数学)
どんな三角形でもよいので、その 3 辺それぞれの外側に正三角形を立てる。3 つの正三角形の重心(中心)を結ぶと、もとの三角形の形によらず、いつも正三角形になる。これを Napoleon の定理 という(CG67 Chapter 3)。まず、座標で計算して確かめる。
この記事では、平面の点を複素数で表す(複素数平面と図形)。点 $A$ に対応する複素数を $a$ のように小文字で書く。三角形の重心は 3 頂点の平均 $\frac{a+b+c}3$ である(三角形の重心(高校数学))。複素数 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ を掛けることは、原点のまわりに角 $\theta$ だけ回すことである(複素数の掛け算は回転と拡大)。
$a=0$、$b=2$、$c=2i$ とする。$A\to B\to C$ は反時計回りである。辺 $XY$ の外側(進む向きの右側)に立てる正三角形の 3 つ目の頂点は、$X$ を中心に $Y$ を時計回りに $60^\circ$ 回した点
$$
X+(Y-X)\Bigl(\frac12-\frac{\sqrt3}2i\Bigr)
$$
である。
$a=0$、$b=1$、$c=2$ と、3 点が実軸の上に並んだ場合も同じ式で計算できる。$\frac12-\frac{\sqrt3}2i$ を掛けて「進む向きの右側」に正三角形を立てると、辺 $AB$($0\to1$)と辺 $BC$($1\to2$)では下側に、辺 $CA$($2\to0$)では上側に立つ。
三角形 $A(0)$、$B(4)$、$C(1+3i)$ の各辺の外側に正三角形(青)を立て、その重心 $N_A,N_B,N_C$ を結ぶと正三角形(赤の破線)になることを見る図。
2 つの例から、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| $60^\circ$ 回転 $=$ $e^{\pm i\pi/3}$ を掛ける | $e^{-i\pi/3}=-\omega$ で、$1$ の 3 乗根の言葉に直す | def-nap-omega |
| 正三角形の判定 | $z_1+\omega z_2+\omega^2z_3=0$ | lem-nap-equilateral |
| 3 つの重心を計算して辺の長さを比べる | 離散 Fourier 変換の成分が $1,-1,0$ 倍になる | thm-nap-dft |
| $120^\circ$ の回転を 3 回続ける | 平行移動になり、移動量が Fourier 成分 | prop-nap-three-rotations |
$$
\omega:=\cos\frac{2\pi}3+i\sin\frac{2\pi}3=-\frac12+\frac{\sqrt3}2i
$$
とおく。点 $p$ を中心として点 $z$ を角 $\theta$ だけ回した点は $p+e^{i\theta}(z-p)$ である。
$\omega$ は $x^3=1$ の解のうち虚数のものの 1 つで、1の冪根で数を振り分ける の $\omega$ と同じものである。この記事で使う性質をまとめて確かめる。
ex-nap-right-isosceles で掛けた $\frac12-\frac{\sqrt3}2i$ は、4 の $-\omega$ である。
複素数 $z_1,z_2,z_3$ について、$z_1$ を中心に $z_2$ を反時計回りに $60^\circ$ 回した点が $z_3$ であるとき、すなわち
$$
z_3-z_1=e^{i\pi/3}(z_2-z_1)
$$
のとき、$(z_1,z_2,z_3)$ は 反時計回りの正三角形 であるという。$e^{i\pi/3}$ を $e^{-i\pi/3}$ に替えたものを 時計回りの正三角形 という。
$z_1\ne z_2$ なら、この条件は「$z_1z_2z_3$ が正三角形で、$z_1\to z_2\to z_3$ の順に反時計回りに並ぶ」ことである($z_1z_3=z_1z_2$ で、角 $z_2z_1z_3$ が $60^\circ$ の二等辺三角形は正三角形だから)。$z_1=z_2$ なら $z_3=z_1$ で、3 点が一致する場合もこの定義に含まれる。
複素数 $z_1,z_2,z_3$ について
方針:定義の $e^{i\pi/3}$ を $\omega$ で書き、式を移項する。
段 1($e^{i\pi/3}$ を $\omega$ で書く)。ex-nap-omega の 4 から $e^{i\pi/3}=-\omega^2$、2 から $1-e^{i\pi/3}=1+\omega^2=-\omega$ である。
段 2(1 の証明)。定義の式は $z_3=z_1+e^{i\pi/3}(z_2-z_1)=(1-e^{i\pi/3})z_1+e^{i\pi/3}z_2$ と同じである。段 1 を代入すると $z_3=-\omega z_1-\omega^2z_2$、つまり
$$
\omega z_1+\omega^2z_2+z_3=0
$$
である。両辺に $\omega^2$ を掛けると、$\omega^3=1$、$\omega^4=\omega$ から $z_1+\omega z_2+\omega^2z_3=0$ となる。逆に、この式に $\omega$ を掛ければ $\omega z_1+\omega^2z_2+z_3=0$ に戻る($\omega^2\cdot\omega=1$)ので、2 つの式は同値である。
段 3(2 の証明)。$e^{-i\pi/3}=-\omega$、$1-e^{-i\pi/3}=1+\omega=-\omega^2$ なので、$z_3=(1-e^{-i\pi/3})z_1+e^{-i\pi/3}z_2=-\omega^2z_1-\omega z_2$、つまり $\omega^2z_1+\omega z_2+z_3=0$ である。両辺に $\omega$ を掛けると $z_1+\omega^2z_2+\omega z_3=0$ で、逆も $\omega^2$ を掛ければ戻る。$\square$
三角形 $ABC$ は、$A\to B\to C$ が反時計回りになるように名前をつけておく。このとき三角形の内部は、各辺を $A\to B$、$B\to C$、$C\to A$ の向きに進むときの左側にある。「外側」とは右側のことである。
複素数 $a,b,c$ に対し、辺 $XY$($(X,Y)=(B,C),(C,A),(A,B)$)の右側に立てた正三角形の 3 つ目の頂点を、$X$ を中心に $Y$ を時計回りに $60^\circ$ 回した点
$$
X+e^{-i\pi/3}(Y-X)
$$
とし、その正三角形の重心を $N_A$(辺 $BC$)、$N_B$(辺 $CA$)、$N_C$(辺 $AB$)とする。$N_AN_BN_C$ を 外側の Napoleon 三角形 という。$e^{-i\pi/3}$ を $e^{i\pi/3}$ に替えて(左側、つまり内側に立てて)作る三角形を 内側の Napoleon 三角形 という。
この定義は $a,b,c$ が一直線上にあっても使える(ex-nap-collinear)。
外側の Napoleon 三角形の頂点は
$$
N_A=\frac{(1-\omega^2)b+(1-\omega)c}3,\qquad N_B=\frac{(1-\omega^2)c+(1-\omega)a}3,\qquad N_C=\frac{(1-\omega^2)a+(1-\omega)b}3
$$
である。
方針:辺 $AB$ について計算する。残りの 2 辺は $(a,b)$ を $(b,c)$、$(c,a)$ に替えるだけである。
段 1。ex-nap-omega の 4 から $e^{-i\pi/3}=-\omega$ なので、3 つ目の頂点は $a-\omega(b-a)=(1+\omega)a-\omega b$ である。
段 2。重心は 3 頂点の平均なので
$$
N_C=\frac{a+b+(1+\omega)a-\omega b}3=\frac{(2+\omega)a+(1-\omega)b}3
$$
である。$1+\omega+\omega^2=0$ から $2+\omega=1-\omega^2$ なので、主張の式になる。$\square$
ex-nap-right-isosceles の $a=0$、$b=2$、$c=2i$ で $N_C$ を計算する。$1-\omega^2=\frac32+\frac{\sqrt3}2i$、$1-\omega=\frac32-\frac{\sqrt3}2i$ なので
$$
N_C=\frac{0+\bigl(\frac32-\frac{\sqrt3}2i\bigr)\cdot2}3=1-\frac{\sqrt3}3i
$$
で、ex-nap-right-isosceles の 1 と一致する。$N_A=\frac{\bigl(\frac32+\frac{\sqrt3}2i\bigr)\cdot2+\bigl(\frac32-\frac{\sqrt3}2i\bigr)\cdot2i}3=\frac{(3+\sqrt3)+(3+\sqrt3)i}3$ も 2 と一致する。
任意の複素数 $a,b,c$(3 点が一直線上にあっても、一致していてもよい)について、def-nap-points の外側の Napoleon 三角形 $(N_A,N_B,N_C)$ は反時計回りの正三角形であり、その重心は $a,b,c$ の重心 $\frac{a+b+c}3$ と一致する。$A\to B\to C$ が反時計回りの三角形のとき、$N_A,N_B,N_C$ は各辺の外側に立てた正三角形の重心である。
方針:lem-nap-center の式を lem-nap-equilateral の判定式に代入し、$a,b,c$ の係数がすべて $0$ になることを確かめる。
段 1(判定式を展開する)。$3(N_A+\omega N_B+\omega^2N_C)$ を $a,b,c$ ごとにまとめる。
正三角形の重心は、正三角形を $120^\circ$ 回すと重なる回転の中心である。$N_C$ のまわりに $120^\circ$ 回すと $A$ が $B$ に移り、$N_A$ のまわりでは $B$ が $C$ に、$N_B$ のまわりでは $C$ が $A$ に移る。3 回続けると $A$ は $A$ に戻る。ここから Napoleon 三角形が正三角形であることを導くのが、回転の合成による証明である。まず、$120^\circ$ の回転を 3 回続けるとどうなるかを調べる。
点 $p$ を中心に時計回りに $120^\circ$ 回す写像を $R_p(z):=p+\omega^2(z-p)$ とする。3 点 $p_1,p_2,p_3$ について、すべての複素数 $z$ で
$$
R_{p_3}\bigl(R_{p_2}(R_{p_1}(z))\bigr)=z+(1-\omega^2)\,\omega\,(p_1+\omega p_2+\omega^2p_3)
$$
が成り立つ。特に、この合成が恒等写像(すべての $z$ を動かさない写像)であることと、$(p_1,p_2,p_3)$ が反時計回りの正三角形であることは同値である。
方針:$u:=\omega^2$ とおき、$R_p(z)=uz+(1-u)p$ の形で 3 回代入する。
段 1(1 回目・2 回目)。$R_{p_1}(z)=uz+(1-u)p_1$ である。これを $R_{p_2}$ に入れると
$$
R_{p_2}(R_{p_1}(z))=u\bigl(uz+(1-u)p_1\bigr)+(1-u)p_2=u^2z+(1-u)(up_1+p_2)
$$
である。
段 2(3 回目)。さらに $R_{p_3}$ に入れると
$$
u\bigl(u^2z+(1-u)(up_1+p_2)\bigr)+(1-u)p_3=u^3z+(1-u)(u^2p_1+up_2+p_3)
$$
である。
段 3($u=\omega^2$ を入れる)。$u^3=\omega^6=1$、$u^2=\omega^4=\omega$ なので、$u^2p_1+up_2+p_3=\omega p_1+\omega^2p_2+p_3=\omega(p_1+\omega p_2+\omega^2p_3)$ である(最後の等号は $\omega\cdot\omega^2=1$ による)。これで主張の式が得られた。
段 4(恒等写像の条件)。合成は $z$ に定数 $(1-\omega^2)\omega(p_1+\omega p_2+\omega^2p_3)$ を足す写像である。$1-\omega^2\ne0$、$\omega\ne0$ なので、これが恒等写像であることと $p_1+\omega p_2+\omega^2p_3=0$ は同値であり、lem-nap-equilateral の 1 により、反時計回りの正三角形であることと同値である。$\square$
prop-nap-three-rotations で足される定数のうち $p_1+\omega p_2+\omega^2p_3$ は、後の節で導入する離散 Fourier 変換で、数列 $f(0)=p_1$、$f(1)=p_2$、$f(2)=p_3$ の成分 $\widehat f(2)$ である。つまり、3 回の回転のずれは $\widehat f(2)$ に比例し、ずれが $0$ になるのは $\widehat f(2)=0$、すなわち $(p_1,p_2,p_3)$ が反時計回りの正三角形のときに限る。Napoleon 三角形を作る操作が $\widehat f(2)$ を $0$ にすること(thm-nap-dft)と、同じ成分が主役である。中心を $p_1,p_2,p_3,p_1,p_2,\dots$ とくり返して回し続けると、点は 3 回ごとに同じ量だけずれていく(図2)。
この事実を使う問題(国際数学オリンピック(1986 年)第 2 問)とその解答は 複素数の掛け算は回転と拡大 にある。ただし、そこでは $\omega$ を時計回りの $e^{-2\pi i/3}$ とおいていて向きが逆であり、そこでの $\omega$ は本記事の $\omega^2$ に当たる。
正三角形でない三角形 $A_1A_2A_3$ で、点 $P_0$ を $A_1,A_2,A_3,A_1,\dots$ のまわりに時計回りに $120^\circ$ ずつ回していくと、$P_0\to P_3\to P_6$ が同じ向き・同じ長さだけずれていく(赤の矢印)ことを見る図。
方針:$N_C$、$N_A$、$N_B$ のまわりの時計回り $120^\circ$ の回転を続けると $A$ が動かないことを示し、prop-nap-three-rotations を使う。この証明は thm-nap の 2 つ目の証明である。
段 1($R_{N_C}(a)=b$)。lem-nap-center の $N_C$ を使って $b-N_C$ と $\omega^2(a-N_C)$ を比べる。
$$
3(a-N_C)=(2+\omega^2)a-(1-\omega)b,\qquad 3(b-N_C)=-(1-\omega^2)a+(2+\omega)b
$$
である。$3\omega^2(a-N_C)=(2\omega^2+\omega^4)a-(\omega^2-\omega^3)b=(2\omega^2+\omega)a+(1-\omega^2)b$ で、$a$ の係数の差は $(2\omega^2+\omega)-(\omega^2-1)=\omega^2+\omega+1=0$、$b$ の係数の差は $(1-\omega^2)-(2+\omega)=-(1+\omega+\omega^2)=0$ である。よって $b-N_C=\omega^2(a-N_C)$、すなわち $R_{N_C}(a)=b$ である。
段 2(残りの 2 つ)。段 1 の計算で文字を $a\to b\to c\to a$ と回すと、$N_C\to N_A\to N_B$ と移るので(lem-nap-center の 3 つの式はこの入れかえで互いに移る)、$R_{N_A}(b)=c$、$R_{N_B}(c)=a$ も成り立つ。
段 3(合成は恒等写像)。$T:=R_{N_B}\circ R_{N_A}\circ R_{N_C}$ とすると $T(a)=a$ である。prop-nap-three-rotations により $T$ は定数を足す写像なので、$T(a)=a$ からその定数は $0$ で、$T$ は恒等写像である。
段 4(結論)。prop-nap-three-rotations を $p_1=N_C$、$p_2=N_A$、$p_3=N_B$ で使うと、$(N_C,N_A,N_B)$ は反時計回りの正三角形で、$N_C+\omega N_A+\omega^2N_B=0$ である。両辺に $\omega^2$ を掛けると $\omega^2N_C+N_A+\omega N_B=0$、つまり $N_A+\omega N_B+\omega^2N_C=0$ で、$(N_A,N_B,N_C)$ も反時計回りの正三角形である(lem-nap-equilateral)。重心の一致は prf-thm-nap の段 3 と同じである。$\square$
2 つの証明はどちらも、最後は同じ式 $N_A+\omega N_B+\omega^2N_C=0$ にたどり着く。次の節では、この式に現れる $1,\omega,\omega^2$ の組を、数列の離散 Fourier 変換として見直す。
三角形の 3 頂点 $a,b,c$ を、長さ $3$ の数列 $f(0)=a$、$f(1)=b$、$f(2)=c$ と見る。添字は $3$ で割った余りで考え、$f(3)=f(0)$、$f(4)=f(1)$ のように延ばしておく。離散Fourier変換と反転公式 の定義で $n=3$、$\zeta=\omega$ とすると、$f$ の離散 Fourier 変換は $\widehat f(t)=\sum_{k=0}^{2}f(k)\,\omega^{-tk}$ で、$\omega^{-1}=\omega^2$、$\omega^{-2}=\omega$ なので
$$
\widehat f(0)=a+b+c,\qquad \widehat f(1)=a+\omega^2b+\omega c,\qquad \widehat f(2)=a+\omega b+\omega^2c
$$
である。lem-nap-equilateral の 2 つの判定式は、ちょうど $\widehat f(2)$ と $\widehat f(1)$ である。
$k=0,1,2$ について
$$
f(k)=\frac13\Bigl(\widehat f(0)+\widehat f(1)\,\omega^k+\widehat f(2)\,\omega^{2k}\Bigr)
$$
が成り立つ。また、すべての $k$ に同じ数 $d$ を足すと、$\widehat f(0)$ は $3d$ だけ増え、$\widehat f(1)$、$\widehat f(2)$ は変わらない。
方針:右辺に定義を代入し、$f(0),f(1),f(2)$ ごとの係数を調べる。一般の $n$ での証明は 離散Fourier変換と反転公式 の主定理にあり、ここでは $n=3$ の場合を直接確かめる。
段 1。右辺の 3 倍は
$$
\sum_{t=0}^{2}\widehat f(t)\,\omega^{tk}=\sum_{t=0}^{2}\sum_{l=0}^{2}f(l)\,\omega^{-tl}\omega^{tk}=\sum_{l=0}^{2}f(l)\sum_{t=0}^{2}\omega^{t(k-l)}
$$
である。
段 2。$l=k$ なら内側の和は $1+1+1=3$ である。$l\ne k$ なら $k-l$ は $\pm1,\pm2$ のどれかで、$3$ の倍数でない。このとき $q:=\omega^{k-l}$ は $\omega$ か $\omega^2$ であり($\omega^{-1}=\omega^2$、$\omega^{-2}=\omega$)、内側の和は $1+q+q^2$ である。$q=\omega$ なら $1+\omega+\omega^2=0$、$q=\omega^2$ なら $1+\omega^2+\omega^4=1+\omega^2+\omega=0$ である。
段 3。よって右辺の 3 倍は $3f(k)$ で、反転公式が成り立つ。後半は、$t=1,2$ で $\sum_k d\,\omega^{-tk}=d(1+\omega^{-t}+\omega^{-2t})=0$(段 2 と同じ計算)、$t=0$ で $3d$ となることから従う。$\square$
反転公式を三角形の言葉で読む。$g:=\frac13\widehat f(0)$(重心)、$p:=\frac13\widehat f(1)$、$q:=\frac13\widehat f(2)$ とおくと
$$
a=g+p+q,\qquad b=g+p\,\omega+q\,\omega^2,\qquad c=g+p\,\omega^2+q\,\omega^4=g+p\,\omega^2+q\,\omega
$$
である。$p,\ p\omega,\ p\omega^2$ は原点のまわりに $120^\circ$ ずつ反時計回りに並ぶ正三角形の頂点、$q,\ q\omega^2,\ q\omega$ は時計回りに並ぶ正三角形の頂点である。つまり どんな三角形も「重心 $+$ 反時計回りの正三角形 $+$ 時計回りの正三角形」に分けられる(図3)。三角形が反時計回りの正三角形であるのは時計回りの成分 $q$ が $0$ のとき、すなわち $\widehat f(2)=0$ のときで、これが lem-nap-equilateral の 1 の意味である。
三角形 $A(0)$、$B(4)$、$C(1+3i)$ を、反時計回りの正三角形の成分(左)と時計回りの正三角形の成分(中)に分け、重心に 2 つを足すともとの三角形に戻る(右。破線は重心+反時計回りの成分、矢印が時計回りの成分)ことを見る図。
$a=0$、$b=1$、$c=2$(ex-nap-collinear)では
$$
\widehat f(0)=3,\qquad \widehat f(1)=\omega^2+2\omega=\omega-1,\qquad \widehat f(2)=\omega+2\omega^2=\omega^2-1
$$
である($\omega+\omega^2=-1$ を使った)。反転公式で $k=1$ を確かめると
$$
\frac13\bigl(3+(\omega-1)\omega+(\omega^2-1)\omega^2\bigr)=\frac13\bigl(3+\omega^2-\omega+\omega^4-\omega^2\bigr)=\frac13(3-\omega+\omega)=1=b
$$
である。$|\omega-1|^2=\bigl(-\frac32\bigr)^2+\bigl(\frac{\sqrt3}2\bigr)^2=3$、$|\omega^2-1|^2=3$ で、2 つの成分の大きさは等しい。3 点が一直線上にあるのはこのためである(次の prop-nap-area で、符号つき面積が $|\widehat f(1)|^2-|\widehat f(2)|^2$ に比例することを示す)。
$f=(a,b,c)$ とし、外側の Napoleon 三角形を $F:=(N_A,N_B,N_C)$、内側の Napoleon 三角形を $F'$ とする。このとき
$$
\widehat F(0)=\widehat f(0),\qquad \widehat F(1)=-\widehat f(1),\qquad \widehat F(2)=0,
$$
$$
\widehat{F'}(0)=\widehat f(0),\qquad \widehat{F'}(1)=0,\qquad \widehat{F'}(2)=-\widehat f(2)
$$
である。つまり Napoleon 三角形を作る操作は、3 つの Fourier 成分をそれぞれ $1$ 倍、$-1$ 倍、$0$ 倍(内側では $1$ 倍、$0$ 倍、$-1$ 倍)する操作である。
方針:$F$ をずらした数列 $f(k+1)$、$f(k+2)$ の 1 次結合として書き、ずらしが Fourier 成分に $\omega$ の冪を掛けることを使う。
段 1(ずらしの変換)。整数 $s$ について、数列 $k\mapsto f(k+s)$ の変換は $\omega^{st}\widehat f(t)$ である。実際、$j:=k+s$ とおくと、$k$ が $0,1,2$ を動くとき $j$ の余りも $0,1,2$ を 1 回ずつとり、$\omega^{-tk}=\omega^{-t(j-s)}=\omega^{ts}\omega^{-tj}$ なので
$$
\sum_{k=0}^{2}f(k+s)\,\omega^{-tk}=\omega^{ts}\sum_{j}f(j)\,\omega^{-tj}=\omega^{ts}\,\widehat f(t)
$$
である。
段 2($F$ をずらしで書く)。$\alpha:=\frac{1-\omega^2}3$、$\beta:=\frac{1-\omega}3$ とおくと、lem-nap-center から $F(k)=\alpha f(k+1)+\beta f(k+2)$ である($k=0$ で $N_A=\alpha b+\beta c$、$k=1$ で $N_B=\alpha c+\beta a$、$k=2$ で $N_C=\alpha a+\beta b$)。変換は足し算と定数倍を保つので、段 1 から
$$
\widehat F(t)=\lambda_t\,\widehat f(t),\qquad \lambda_t:=\alpha\,\omega^t+\beta\,\omega^{2t}
$$
である。
段 3($\lambda_t$ の計算)。$\omega^3=1$、$\omega+\omega^2=-1$ を使う。
thm-nap-dft から Napoleon の定理がもう一度出る。$\widehat F(2)=0$ なので、lem-nap-equilateral の 1 により $F$ は反時計回りの正三角形であり、$\widehat F(0)=\widehat f(0)$ なので重心は変わらない。さらに、反転公式から $F(k)=g-p\,\omega^k$($p=\frac13\widehat f(1)$)で、外側の Napoleon 三角形は もとの三角形の反時計回りの成分を重心のまわりに $180^\circ$ 回したもの である。辺の長さは $|p|\cdot|1-\omega|=\frac{|\widehat f(1)|}{\sqrt3}$ である($|1-\omega|^2=\frac94+\frac34=3$)。同じく内側の Napoleon 三角形は時計回りの成分から作られ、辺の長さは $\frac{|\widehat f(2)|}{\sqrt3}$ である。
これは 離散Fourier変換と反転公式 の命題「巡回行列の固有ベクトル」で $n=3$、$c=(0,\alpha,\beta)$ とした場合である。$F(k)=\alpha f(k+1)+\beta f(k+2)$ は、$(a,b,c)$ に $3\times3$ の巡回行列を掛けることで、その固有値が $\lambda_0,\lambda_1,\lambda_2=1,-1,0$ である。固有値の 1 つが $0$ だから、どんな三角形から出発しても、その成分は消えて正三角形しか出てこない。
三角形 $z_0z_1z_2$ の符号つき面積を、$z_k=x_k+y_ki$ として
$$
S(z_0,z_1,z_2):=\frac12\bigl((x_1-x_0)(y_2-y_0)-(x_2-x_0)(y_1-y_0)\bigr)
$$
とする($z_0\to z_1\to z_2$ が反時計回りなら正で、ふつうの面積に等しい)。$f=(z_0,z_1,z_2)$ とすると
$$
S(z_0,z_1,z_2)=\frac{\sqrt3}{12}\Bigl(|\widehat f(1)|^2-|\widehat f(2)|^2\Bigr)
$$
が成り立つ。特に、反時計回りの三角形 $ABC$ の面積を $S$、外側・内側の Napoleon 三角形の面積(符号なし)を $S_{\mathrm{out}}$、$S_{\mathrm{in}}$ とすると
$$
S_{\mathrm{out}}-S_{\mathrm{in}}=S
$$
である。
方針:lem-nap-inversion の分解 $z_k=g+p\omega^k+q\omega^{2k}$ を面積の式に入れる。
段 1(面積を複素数で書く)。$u=u_1+u_2i$、$v=v_1+v_2i$ について $\overline u\,v=(u_1-u_2i)(v_1+v_2i)$ の虚部は $u_1v_2-u_2v_1$ である。よって $S=\frac12\,\mathrm{Im}\bigl(\overline{(z_1-z_0)}\,(z_2-z_0)\bigr)$ である。
段 2(差をとる)。分解から $g$ は消えて、$z_1-z_0=p(\omega-1)+q(\omega^2-1)$、$z_2-z_0=p(\omega^2-1)+q(\omega-1)$ である。$\overline\omega=\omega^2$ なので $\overline{z_1-z_0}=\overline p(\omega^2-1)+\overline q(\omega-1)$ である。
段 3(積を展開する)。
$$
\overline{(z_1-z_0)}(z_2-z_0)=|p|^2(\omega^2-1)^2+\overline pq(\omega^2-1)(\omega-1)+\overline qp(\omega-1)(\omega^2-1)+|q|^2(\omega-1)^2
$$
である。ここで $(\omega^2-1)(\omega-1)=\omega^3-\omega^2-\omega+1=2-(\omega+\omega^2)=3$、$(\omega^2-1)^2=\omega^4-2\omega^2+1=\omega+1-2\omega^2=-3\omega^2$、$(\omega-1)^2=\omega^2-2\omega+1=-3\omega$ である($1+\omega=-\omega^2$、$1+\omega^2=-\omega$)。
段 4(虚部)。中の 2 項の和は $3(\overline pq+\overline qp)=6\,\mathrm{Re}(\overline pq)$ で実数なので、虚部に寄与しない。$\mathrm{Im}(-3\omega^2)=\frac{3\sqrt3}2$、$\mathrm{Im}(-3\omega)=-\frac{3\sqrt3}2$ なので
$$
S=\frac12\cdot\frac{3\sqrt3}2\bigl(|p|^2-|q|^2\bigr)=\frac{3\sqrt3}4\cdot\frac{|\widehat f(1)|^2-|\widehat f(2)|^2}9=\frac{\sqrt3}{12}\Bigl(|\widehat f(1)|^2-|\widehat f(2)|^2\Bigr)
$$
である。
段 5(Napoleon 三角形)。thm-nap-dft から、外側の Napoleon 三角形の成分は $(\widehat f(0),-\widehat f(1),0)$ なので、符号つき面積は $\frac{\sqrt3}{12}|\widehat f(1)|^2\ge0$ で、これが $S_{\mathrm{out}}$ である。内側の成分は $(\widehat f(0),0,-\widehat f(2))$ なので、符号つき面積は $-\frac{\sqrt3}{12}|\widehat f(2)|^2\le0$ で、$S_{\mathrm{in}}=\frac{\sqrt3}{12}|\widehat f(2)|^2$ である。差は $\frac{\sqrt3}{12}\bigl(|\widehat f(1)|^2-|\widehat f(2)|^2\bigr)=S$ である。$\square$
ex-nap-right-isosceles の $a=0$、$b=2$、$c=2i$(面積 $S=2$)で計算する。
$$
\widehat f(1)=2\omega^2+2i\omega=(-1-\sqrt3)+(-1-\sqrt3)i,\qquad \widehat f(2)=2\omega+2i\omega^2=(\sqrt3-1)+(\sqrt3-1)i
$$
である($2\omega^2=-1-\sqrt3\,i$、$2i\omega=-\sqrt3-i$、$2\omega=-1+\sqrt3\,i$、$2i\omega^2=\sqrt3-i$)。$|\widehat f(1)|^2=2(1+\sqrt3)^2=8+4\sqrt3$、$|\widehat f(2)|^2=2(\sqrt3-1)^2=8-4\sqrt3$ である。
thm-nap の作り方を少し変えると、結論が崩れる。thm-nap-dft の言葉では、正方形を立てる場合と 3 つ目の頂点をとる場合は、時計回りの成分の倍率 $\lambda_2$ が $0$ でなくなることが原因である。外側と内側を混ぜる場合は、操作が「$f$ を 1 つずらす」ことと両立しなくなり、倍率そのものが定まらないことが原因である。
| 変えたこと | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 正三角形の代わりに正方形を立てる | 3 つの中心が正三角形をなす | ex-nap-squares |
| 重心の代わりに正三角形の 3 つ目の頂点をとる | 3 点が正三角形をなす | ex-nap-apex |
| 外側と内側を混ぜて立てる | 3 つの重心が正三角形をなす | ex-nap-mixed |
$a=0$、$b=2$、$c=2i$ の各辺の外側(右側)に正方形を立て、その中心をとる。辺 $XY$ の右側の正方形の中心は $X+\frac{1-i}2(Y-X)$ である($X$ から $Y-X$ を時計回りに $45^\circ$ 回して長さを $\frac1{\sqrt2}$ 倍した点)。
ex-nap-collinear の $a=0$、$b=1$、$c=2$ で、正三角形の 3 つ目の頂点 $\frac12-\frac{\sqrt3}2i$(辺 $AB$)、$\frac32-\frac{\sqrt3}2i$(辺 $BC$)、$1+\sqrt3\,i$(辺 $CA$)を結ぶ。距離の 2 乗は、最初の 2 点で $1$、2 番目と 3 番目で $\bigl(-\frac12\bigr)^2+\bigl(\frac{3\sqrt3}2\bigr)^2=\frac14+\frac{27}4=7$ で、正三角形ではない。
変えたこと:重心の代わりに 3 つ目の頂点をとった。崩れる主張:3 点が正三角形をなすこと。3 つ目の頂点の式 $(1+\omega)X-\omega Y$ から倍率は $\lambda_2=(1+\omega)\omega^2-\omega\cdot\omega^4=\omega^2+1-\omega^2=1\ne0$ で、時計回りの成分がそのまま残る。
ex-nap-collinear の $a=0$、$b=1$、$c=2$ で、辺 $BC$、$AB$ には外側(右側)、辺 $CA$ だけ内側(左側)に正三角形を立てる。辺 $CA$ の内側の重心は、prf-thm-nap-dft の段 4 の式から $\frac{(1-\omega)\cdot2+(1-\omega^2)\cdot0}3=\frac23\Bigl(\frac32-\frac{\sqrt3}2i\Bigr)=1-\frac{\sqrt3}3i$ である。外側の $N_A=\frac32-\frac{\sqrt3}6i$、$N_C=\frac12-\frac{\sqrt3}6i$ との距離の 2 乗は
$$
\Bigl|\frac12+\frac{\sqrt3}6i\Bigr|^2=\frac14+\frac1{12}=\frac13,\qquad |N_A-N_C|^2=1
$$
で、正三角形ではない。
変えたこと:3 辺で立てる向きをそろえなかった。崩れる主張:3 つの重心が正三角形をなすこと。3 辺の式が同じでないので、Napoleon 三角形を作る操作が「$f$ を 1 つずらす」ことと両立せず、prf-thm-nap-dft の段 2 の形(巡回行列)にならない。
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