可縮空間(contractible space)とは、恒等写像をある定値写像へ連続的に変形できる位相空間であり、一点空間とホモトピー同値である。非空の凸集合や非空空間の錐が例となり、有限次元球面は可縮でない。可縮性は直積で保たれるが、部分空間や連続像には一般に保たれない。局所可縮性とは別の条件であり、くし空間は可縮でも局所可縮でない。
収縮の終点を $x_0$ とし、唯一の写像 $f\colon X\to\{*\}$ と $g(*)=x_0$ をとる。
すると $fg=\operatorname{id}_{\{*\}}$、$gf=c_{x_0}\simeq\operatorname{id}_X$ なので、$f,g$ はホモトピー逆である。
逆にホモトピー逆 $f\colon X\to\{*\}$、$g\colon\{*\}\to X$ があれば、$gf$ は値 $g(*)$ の定値写像で、$gf\simeq\operatorname{id}_X$ が収縮を与える。
特に後者には $g(*)\in X$ が必要であり、空空間は含まれない。
収縮は各点の道をばらばらに選ぶのではなく、点と時刻の両方について連続な一つの写像を与える条件である。
したがって、各点を個別に一点へ結べるだけでは足りない。
例えば円周は弧状連結空間だが可縮でない。
「点と同じ」とはホモトピー同値という意味であり、同相(同相写像が存在するという意味)ではない。
$[Y,X]$ を連続写像 $Y\to X$ の自由ホモトピー類全体とする。
$X$ が可縮であることと、すべての位相空間 $Y$ に対して $[Y,X]$ が一点集合であることは同値である。
また、$X$ が可縮なら、任意の連続写像 $f\colon X\to Y$ は定値写像とホモトピックである。
収縮 $H$ の終点を $x_0$ とする。
$u\colon Y\to X$ に対し $(y,t)\mapsto H(u(y),t)$ は $u$ と値 $x_0$ の定値写像を結ぶ。
定値写像は存在するので、$[Y,X]$ は一点集合である。
逆に $Y=\{*\}$ とすると $X$ は非空である。
$x_0\in X$ をとり $Y=X$ を適用すると、$\operatorname{id}_X$ と $c_{x_0}$ がホモトピックとなる。
最後の主張は $(x,t)\mapsto f(H(x,t))$ で終点が $f(x_0)$ となることによる。
可縮な $X$ から $Y$ への二つの写像が、互いにホモトピックとは限らない。
例えば $X=\{*\}$、$Y=\{0,1\}$ を離散空間とすると、二つの定値写像を結ぶホモトピーは存在しない。
区間の連続像は連結なので、二点離散空間内で $0$ から $1$ へ道を引けないためである。
収縮 $H_i\colon X_i\times[0,1]\to X_i$ が添字 $i\in I$ ごとに与えられていれば、積位相を入れた $\prod_{i\in I}X_i$ は可縮である。
特に二つの可縮空間の直積は可縮である。
$H_i$ の終点を $a_i$ とし、$a=(a_i)_{i\in I}$ とおく。
$$H((x_i)_{i\in I},t)=(H_i(x_i,t))_{i\in I}$$
は各成分が連続なので積位相の普遍性により連続であり、恒等写像を値 $a$ の定値写像へ結ぶ。
空の積は一点なので、この場合も成り立つ。
各 $X_i$ が可縮であるという存在だけから任意の添字集合について収縮の族を選ぶ場合は、選択公理を使う。
有限個なら有限回の選択で足りる。
1〜7は指定した構成で可縮性が保たれるという含意への反例であり、8は可縮性を保つ構成である。
ここでは $X$ が局所可縮であるとは、各点 $x$ の各開近傍 $U$ に対して、開近傍 $x\in V\subset U$ と連続写像 $F\colon V\times[0,1]\to U$ があり、$F(v,0)=v$、$F(v,1)=u_0$($v\in V$ によらない $u_0\in U$)となることをいう。
可縮な開近傍の基底をもつ、という流儀もある。
後者なら前者を満たすが、前者の収縮は $V$ の外へ出てよいため、定義上同じ条件ではない。
くし空間 の局所非可縮性は前者に対して証明されており、したがって後者に対しても成り立たない。
$[0,1]$ は可縮かつ局所可縮であり、相対開区間を線形に縮めれば両方の局所の流儀を満たす。
$S^1$ は局所可縮だが可縮でなく、小さな開円弧は開区間と同相である。
くし空間 $C$ は可縮だが局所可縮でない。
Hawaiianイヤリングは可縮でも局所可縮でもない。
Hawaiianイヤリングの任意に小さい円は空間全体でも縮まず、これは 半局所単連結空間 のイヤリングの反例の証明にある。
もし局所収縮があれば、十分小さい円の包含写像も定値へ変形できてしまうので矛盾する。
Hawaiianイヤリングとその錐は別の空間であり、後者の可縮性を前者へ移せない。
上で定めた流儀の局所可縮空間は、局所弧状連結空間である。
開集合 $U$ の弧状連結成分 $P$ と $x\in P$ をとる。
包含が $U$ 内で縮む近傍 $V$ をとれば、各 $v\in V$ は収縮の終点を経由して $x$ と $U$ 内の道で結ばれる。
よって $V\subset P$ である。
各 $x\in P$ についてこのような開近傍があるので $P$ は開であり、これらの成分が弧状連結な開近傍基底を与える。
局所可縮空間の位相的直和は局所可縮である。
二つの局所可縮空間の直積は局所可縮である。
いずれも、可縮な開近傍基底を使う強い流儀でも成り立つ。
直和では各成分が開であり、各点の近傍をその成分に限って選べる。
直積では与えられた点の開近傍内に基本開集合 $U_1\times U_2$ を取り、各 $U_i$ の中で縮む $V_i$ を取る。
二つのホモトピーの成分ごとの積が $V_1\times V_2$ を $U_1\times U_2$ の中で縮める。
強い流儀では各 $V_i$ 自身を可縮に取り、直積の可縮性を使う。
以下の空間にはすべて指定した相対位相または直和位相を入れる。
可縮空間は単連結である。
これは 単連結空間 の命題「可縮ならば単連結」が証明付きで与え、特に弧状連結性も含む。
ホモトピー群のホモトピー不変性から、可縮な $X$ では任意の基点と $n\ge1$ に対して $\pi_n(X)=0$ となる。
整数係数の特異ホモロジーについては $\widetilde H_n(X;\mathbb{Z})=0$($n\ge0$)だが、$H_0(X;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ である。
さらに $X$ が有限CW複体ならEuler標数は $\chi(X)=1$ である。
ホモトピー群の一般論は ホモトピー群、ホモロジー不変性と Euler 標数は Hat02 定理2.10・2.44を用いており、ここではこれらの一般定理を証明しない。
非空で弧状連結かつすべての正次数のホモトピー群が自明な空間を弱可縮という。
可縮なら弱可縮であるが、一般の位相空間で逆を同一視してはいけない。
CW 複体に限れば、弱可縮性から可縮性が従うという Whitehead の定理が使える。
また、単連結な CW 複体の被約整数ホモロジーがすべて消えれば可縮である(Hat02 定理4.5・系4.33)。
CW 複体は可縮な開近傍基底をもち、したがって局所可縮である(同書命題A.4)。
これは CW 複体そのものの位相についての主張であり、CW 複体とホモトピー同値な任意の空間が局所可縮になるという意味ではない。
くし空間は一点とホモトピー同値だが局所可縮でないので、この違いを示す。
座標を $x=(x_1,x_2,\ldots)$ と書き、$T(x)=(0,x_1,x_2,\ldots)$、$e_1=(1,0,\ldots)$ とする。
まず $F_t(x)=((1-t)x+tTx)/\|(1-t)x+tTx\|$ で恒等写像を $T$ へ動かす。
分母が零なら、$t<1$ の場合は第1座標から順に $x_1=x_2=\cdots=0$ となり、$t=1$ なら $Tx=0$ となるので、いずれも $\|x\|=1$ に反する。
次に $G_t(x)=((1-t)Tx+te_1)/\|(1-t)Tx+te_1\|$ で $T$ を定値写像へ動かす。
この分母の平方は $(1-t)^2+t^2>0$ である。
ノルム位相の場合、二つの式は連続演算の合成であり、$F_1=G_0$ なので時間を半分ずつにして貼り合わせると収縮になる。
CW 位相の $S^\infty$ では、各有限次元球面上の式は一つ上の有限次元球面内に入り連続である。
$S^\infty\times[0,1]$ の弱位相によりこれらが連続に貼り合うことを用いる(Hat02 例1B.3、付録の CW 空間と区間の積の議論)。
したがって後者も収縮となる。
$S^\infty$ は有限巡回群の分類空間の構成にも現れるが、そこでは作用と商の位相も指定する必要がある(Hat02 例1B.4)。
有限次元球面の非可縮性から、これらの無限次元の結論を推測することはできない。
単体的集合の弱可縮性は一点への射が弱ホモトピー同値であることで定まり、幾何学的実現の可縮性と同値である(KerC26a、KerC26b)。
空間の∞-圏で終対象と同値という主張も、弱ホモトピー型が一点と同じという主張である。
可縮な位相空間はこの条件を満たすが、一般位相空間についてその逆を可縮性の定義に戻してはいけない(KerC26c)。
単体的な定式化の続きは 可縮空間(単体的集合) へ接続する。
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