冪零元(nilpotent element)とは、環 $R$ の元 $x$ で、ある正の整数 $n$ について $x^n=0$ となるもののことである。$\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z}$ の $p$ の倍数の類、$k[x]/(x^n)$ の $x$ の類、狭義上三角行列が代表例である。零環でない環では冪零元は零因子であり、整域には $0$ 以外の冪零元がない。可換環では冪零元全体が冪零根基と呼ばれるイデアルをなし、それはすべての素イデアルの共通部分に等しいので、冪零元は素スペクトルのすべての点で消える「無限小」の元とみなせる。$1+x$ は単元になる。$0$ 以外に冪零元をもたない可換環を被約環という。可換でない環では冪零元の和は冪零とは限らない。
前提知識: 環, 可換環, 素イデアル
冪零元は、環の元のうち、何回か自分自身を掛けると $0$ になる元である。$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の $[2]$ は $[2]^2=[4]=[0]$ を満たし、$2$ 次正方行列 $\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ は $2$ 乗すると零行列になる。$0$ でない冪零元は零因子であり、整域には $0$ 以外の冪零元はない。可換環では冪零元全体がイデアルをなし、それはすべての素イデアルの共通部分に一致する。冪零元は素イデアルという「点」の上ではすべて $0$ に見えるが、環の構造としては「無限小」の情報を担っている。本記事では、環は乗法の単位元 $1$ をもつものとし(環の記事の流儀)、乗法の可換性は必要なときだけ仮定する。
$R$ を環とする。$x\in R$ が 冪零元(nilpotent element)である、あるいは $x$ が 冪零(nilpotent)であるとは、ある正の整数 $n$ について
$$
x^n=0
$$
となることをいう。$x^n=0$ となる最小の $n\geq1$ を $x$ の 冪零指数(nilpotency index)という。
$0$ は $0^1=0$ により冪零元であり、冪零指数 $1$ をもつ唯一の元である。$x^n=0$ なら $m\geq n$ について $x^m=x^{m-n}x^n=0$ である。零環でない環では、冪零元は単元でない。実際、$x^n=0$ で $x$ が単元なら $1=x^n(x^{-1})^n=0$ となり矛盾する。
整域 $A$ には $0$ 以外の冪零元がない。$x^n=0$ とし、$n$ についての帰納法で $x=0$ を示す。$n=1$ なら明らかであり、$n\geq2$ なら $x\cdot x^{n-1}=0$ と整域の性質から $x=0$ または $x^{n-1}=0$ で、後者なら帰納法の仮定により $x=0$ である。とくに体の冪零元は $0$ だけである。
可換環 $A$ の冪零元全体の集合を
$$
\operatorname{nil}(A):=\{x\in A\mid\text{ある }n\geq1\text{ について }x^n=0\}
$$
と書く。$\operatorname{nil}(A)=\{0\}$、すなわち $0$ 以外に冪零元がないとき、$A$ は 被約(reduced)であるという。
$\operatorname{nil}(A)$ は $A$ のイデアルであり、冪零根基(nilradical)と呼ばれる。被約な可換環を被約環という。$\operatorname{nil}(A)$ がイデアルであることの証明は 可換環の記事の命題「冪零根基はイデアル」にある。要点は、$x^m=0$、$y^n=0$ なら二項定理
$$
(x+y)^{m+n-1}=\sum_{i=0}^{m+n-1}\binom{m+n-1}{i}x^iy^{m+n-1-i}
$$
の各項で $i\geq m$ か $m+n-1-i\geq n$ のどちらかが成り立つので $(x+y)^{m+n-1}=0$ となること、および $(rx)^m=r^mx^m=0$ である。どちらも乗法の可換性を使う。可換でない環でも、互いに交換する 2 つの冪零元 $x,y$($xy=yx$)については二項定理が成り立つので、同じ議論で $x+y$ は冪零である。
冪零元は「十分高い次数を無視すると $0$ になる微小量」とみなせる。双対数の環 $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ では $\varepsilon\neq0$、$\varepsilon^2=0$ であり、多項式 $f$ について $f(a+\varepsilon)=f(a)+f'(a)\varepsilon$ が成り立つ($f(a+\varepsilon)$ を展開すると $\varepsilon^2$ 以上の項が消える)。ここで $\varepsilon$ は「1 次の無限小の方向」を表している。
一方、冪零元はすべての素イデアルに含まれる(thm-nilpotent-element-primes)。可換環 $A$ の元を素イデアル全体(素スペクトル)$\operatorname{Spec}A$ 上の「関数」とみて、点 $\mathfrak p$ での値を剰余環 $A/\mathfrak p$ における像と考えると、冪零元はすべての点で値が $0$ の関数である。したがって点の集合だけを見ても冪零元は検出できない。$k$ と $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ はどちらも素イデアルを 1 つしかもたないが、環としては異なる。この差が、代数幾何学で点の集合に加えて関数の環を保持する理由の 1 つになる。
$p$ を素数とし、$A=\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z}$ とする。$[a]\in A$ が冪零であることと $p\mid a$ は同値である。実際、$p\mid a$ なら $p^2\mid a^2$ なので $[a]^2=[0]$ である。逆に $p\nmid a$ なら、素数の性質から $p\nmid a^k$($k\geq1$)なので $p^2\nmid a^k$、すなわち $[a]^k\neq[0]$ である。よって
$$
\operatorname{nil}(\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z})=\{[0],[p],[2p],\dots,[(p-1)p]\}=p\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z}
$$
であり、これは $p$ 個の元からなる。たとえば $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の冪零元は $[0],[2]$、$\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}$ の冪零元は $[0],[3],[6]$ である。$p\nmid a$ のとき $\gcd(a,p^2)=1$ なので $[a]$ は単元であり、$A$ の元は単元か冪零元のどちらかである。
一般の $n\geq2$ については、$\operatorname{nil}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ は $n$ の相異なる素因数の積 $r$ の倍数の類全体 $r\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ であり、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が被約であることと $n$ が平方因子をもたないことは同値である(可換環の記事の例「整数の剰余環の冪零根基」)。
体 $k$ 上の多項式環 $k[x]$ と $n\geq1$ に対し、$A=k[x]/(x^n)$ を考え、$x$ の類を $\bar x$ と書く。このとき $\operatorname{nil}(A)=(\bar x)$、すなわち冪零元は定数項が $0$ の多項式の類である。
実際、$\bar x^n=0$ なので $\bar x$ は冪零であり、冪零元全体はイデアルだから $(\bar x)\subset\operatorname{nil}(A)$ である。逆に $f=a_0+xg$($a_0\in k$、$g\in k[x]$)で $a_0\neq0$ とすると、$\bar f=a_0(1+a_0^{-1}\bar x\bar g)$ であり、$a_0^{-1}\bar x\bar g$ は冪零だから $1+a_0^{-1}\bar x\bar g$ は単元である(単元の記事の命題「冪零元と単元」)。よって $\bar f$ は単元であり、上で見たように冪零でない。したがって $\operatorname{nil}(A)=(\bar x)$ であり、$A/\operatorname{nil}(A)\cong k$ である。$n=2$ のとき $A$ は双対数の環 $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ である。
体 $k$ 上の $n$ 次正方行列で、対角成分とそれより下の成分がすべて $0$ のもの(狭義上三角行列)$N$ は $N^n=0$ を満たす。実際、$N$ は標準基底 $e_1,\dots,e_n$ について $Ne_j\in\langle e_1,\dots,e_{j-1}\rangle$ を満たすので、$N^je_j=0$、したがって $N^n$ はすべての $e_j$ を $0$ に写す。たとえば
$$
N=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&1\\0&0&0\end{pmatrix},\qquad N^2=\begin{pmatrix}0&0&1\\0&0&0\\0&0&0\end{pmatrix},\qquad N^3=0
$$
であり、$N$ の冪零指数は $3$ である。一般に $M_n(k)$ の冪零元の冪零指数は $n$ 以下である(prop-nilpotent-element-matrix)。
$M_2(k)$ で $E_{12}=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$、$E_{21}=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ とおくと、$E_{12}^2=E_{21}^2=0$ でどちらも冪零である。しかし
$$
(E_{12}+E_{21})^2=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}^2=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix},\qquad E_{12}E_{21}=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}
$$
であり、$E_{12}+E_{21}$ は $2$ 乗が単位行列なので冪零でなく、$E_{12}E_{21}$ は $2$ 乗しても自分自身に戻る $0$ でない冪等元なので冪零でない。したがって $M_2(k)$ の冪零元全体は和についても積についても閉じておらず、加法についての部分群でもイデアルでもない。この例が満たさない仮定は「乗法が可換である」($E_{12}E_{21}\neq E_{21}E_{12}$)であり、破る含意は「冪零元の和は冪零である」「冪零元を掛けた元は冪零である」である。
体 $k$ 上の $A=k[x,y]/(xy)$ は被約だが整域でない。整域でないのは $\bar x\bar y=0$、$\bar x\neq0$、$\bar y\neq0$ だからである。被約であることを示す。$xy$ で割り切れる単項式を消すと、$A$ の各元は $c+xp(x)+yq(y)$($c\in k$、$p,q$ は 1 変数多項式)の形の多項式の類としてただ 1 通りに表される。環準同型
$$
\varphi\colon A\to k[x]\times k[y],\qquad \bar f\mapsto(f(x,0),\,f(0,y))
$$
($xy$ はどちらの成分でも $0$ に写るので定まる)は、上の表示の元を $(c+xp(x),\,c+yq(y))$ に写すので単射である。$k[x]\times k[y]$ は整域の直積なので被約であり(冪は成分ごとにとるので、冪零元は各成分が冪零、すなわち $0$ である)、その部分環と同型な $A$ も被約である。この例が破る含意は「被約ならば整域」である。幾何学的には $A$ は 2 本の座標軸の和集合の座標環であり、既約でないが「厚み」はもたない。
$A$ を可換環とする。$x\in A$ が冪零であることと、$x$ が $A$ のすべての素イデアルに含まれることは同値である。すなわち
$$
\operatorname{nil}(A)=\bigcap_{\mathfrak p\in\operatorname{Spec}A}\mathfrak p
$$
である($A$ が零環のときは $\operatorname{Spec}A=\emptyset$ で、空な族の共通部分は $A$ と約束する)。
$A$ が零環なら両辺とも $A=\{0\}$ なので、$A$ は零環でないとする。
(冪零なら全素イデアルに含まれる)$x^n=0$ とし、$\mathfrak p$ を素イデアルとする。$x^n=0\in\mathfrak p$ である。$n\geq2$ なら $x\cdot x^{n-1}\in\mathfrak p$ から $x\in\mathfrak p$ または $x^{n-1}\in\mathfrak p$ であり、後者なら同じ議論を繰り返す。こうして $n$ についての帰納法で $x\in\mathfrak p$ を得る。
(全素イデアルに含まれるなら冪零)対偶を示す。$x$ が冪零でないとし、$x$ を含まない素イデアルを作る。$S:=\{1,x,x^2,\dots\}$ は $1$ を含み積について閉じた集合(積閉集合)であり、$x$ が冪零でないので $0\notin S$ である。$S$ による局所化 $A_x:=S^{-1}A$ を考える。$0\notin S$ なので $A_x$ は零環でない(局所化の記事の命題「標準写像の基本性質」の 4)。
ここで Zornの補題 を用いる。零環でない可換環には極大イデアルが存在する(可換環の記事の系「極大イデアルと非単元」の 1。その証明は同じ記事の定理「極大イデアルの存在」で Zorn の補題を使う)。そこで $A_x$ の極大イデアル $\mathfrak m$ をとる。極大イデアルは素イデアルである(可換環の記事の命題「極大イデアルは素イデアル」)。本証明で Zorn の補題を使うのはこの極大イデアルの存在だけである。
標準写像 $\iota\colon A\to A_x$、$a\mapsto a/1$ は環準同型なので、$\mathfrak p:=\iota^{-1}(\mathfrak m)$ は $A$ の素イデアルである(素イデアルの記事の命題「素イデアルの逆像」)。$x/1$ は $A_x$ の単元(逆元 $1/x$)なので $\mathfrak m$ に属さず、したがって $x\notin\mathfrak p$ である。以上で、冪零でない $x$ はある素イデアルに含まれないことが示された。
この定理は 可換環の記事の定理「冪零根基は素イデアルの共通部分」と同じ主張であり、そこでは $S$ と交わらないイデアルの中の極大元を Zorn の補題で直接とる方法で証明されている。上の証明は同じ Zorn の補題の使用を「極大イデアルの存在」にまとめ、局所化を通して言い換えたものである。
帰結として、剰余環 $A/\operatorname{nil}(A)$ は被約であり、$A$ が被約であることとすべての素イデアルの共通部分が $(0)$ であることは同値である(可換環の記事の系「被約環と剰余環」)。$A/\operatorname{nil}(A)$ を $A_{\mathrm{red}}$ と書き、$A$ の被約化という。すべての素イデアルは $\operatorname{nil}(A)$ を含むので、剰余写像 $A\to A_{\mathrm{red}}$ は $\operatorname{Spec}A_{\mathrm{red}}$ から $\operatorname{Spec}A$ への同相写像を与える(Zariski位相の記事で、全射 $A\to A/I$ が $\operatorname{Spec}(A/I)$ から閉集合 $V(I)$ への同相写像を与えると述べられている。ここでは $V(\operatorname{nil}(A))=\operatorname{Spec}A$ である)。また $f\in A$ について、$f$ を含まない素イデアル全体 $D(f)$ が空であることと $f$ が冪零であることは同値である(Zariski位相の記事の命題「基本開集合の性質」の 2)。
冪零元 $x$ について $1+x$ と $1-x$ は単元であり、$(1-x)^{-1}=1+x+\cdots+x^{m-1}$($x^m=0$)である。可換環では、単元と冪零元の和は単元である。これらの証明は 単元の記事の命題「冪零元と単元」にある。ex-nilpotent-element-truncated ではこれを使って $k[x]/(x^n)$ の冪零元を決定した。可換環 $A$ の冪零根基はJacobson根基(すべての極大イデアルの共通部分)に含まれ、両者は一般に異なる(可換環の記事の注意「Jacobson根基との比較」)。
$k$ を体、$A\in M_n(k)$ とする。$A$ が冪零であることと $A^n=0$ は同値である。
$A^n=0$ なら $A$ は冪零である。逆に $A$ が冪零であるとし、$i\geq0$ について $K_i:=\{v\in k^n\mid A^iv=0\}$ とおく($K_0=\{0\}$)。各 $K_i$ は $k^n$ の部分空間であり、$A^iv=0$ なら $A^{i+1}v=0$ なので $K_0\subset K_1\subset K_2\subset\cdots$ である。
ある $i$ で $K_i=K_{i+1}$ なら、$K_{i+1}=K_{i+2}$ である。実際 $v\in K_{i+2}$ なら $A^{i+1}(Av)=0$ より $Av\in K_{i+1}=K_i$、すなわち $A^{i+1}v=A^i(Av)=0$ であり、$v\in K_{i+1}$ である。したがって、列はある番号で等号になると以後ずっと一定である。
初めて $K_{i_0}=K_{i_0+1}$ となる番号を $i_0$ とする(次元は $n$ を超えないので、このような番号は存在する)。$K_0\subsetneq K_1\subsetneq\cdots\subsetneq K_{i_0}$ であり、部分空間の真の包含は次元を真に増やす(基底と次元)ので、$0=\dim K_0<\dim K_1<\cdots<\dim K_{i_0}\leq n$ から $i_0\leq n$ である。上で示したことにより $i\geq i_0$ ではすべて $K_i=K_{i_0}$ である。$A^m=0$ となる $m$ をとると $K_m=k^n$ であり、$m\leq i_0$ なら $K_m\subset K_{i_0}$、$m>i_0$ なら $K_m=K_{i_0}$ なので、いずれにせよ $K_{i_0}=k^n$ である。$i_0\leq n$ だから $K_n\supset K_{i_0}=k^n$、すなわち $A^n=0$ である。
体上の $n$ 次の冪零行列の冪零指数は $n$ 以下であり、ex-nilpotent-element-matrix の $3$ 次の $N$ は上限 $3$ を実現している。冪零行列の固有値は $0$ だけである($Av=\lambda v$、$v\neq0$ なら $A^mv=\lambda^mv=0$ から $\lambda^m=0$、よって $\lambda=0$)。
$A$ を可換環、$f=a_0+a_1x+\cdots+a_mx^m\in A[x]$ とする。$f$ が $A[x]$ の冪零元であることと、$a_0,a_1,\dots,a_m$ がすべて $A$ の冪零元であることは同値である。とくに $\operatorname{nil}(A[x])=\operatorname{nil}(A)[x]$ であり、$A$ が被約なら $A[x]$ も被約である。
各 $a_i$ が冪零なら、$a_ix^i$ も $A[x]$ で冪零($(a_ix^i)^n=a_i^nx^{in}$)であり、可換環 $A[x]$ の冪零元全体はイデアルで和について閉じているので、$f=\sum_ia_ix^i$ は冪零である。
逆を $m$ についての帰納法で示す。$m=0$ なら $f=a_0$ で明らかである。$m\geq1$ とし、$f^k=0$ とする。$f^k$ の $x^{mk}$ の係数は $a_m^k$ である($x^{mk}$ の項は各因子から $a_mx^m$ を選んだときにだけ現れる)。よって $a_m^k=0$ であり、$a_m$ は冪零である。すると前半により $a_mx^m$ は冪零であり、$g:=f-a_mx^m=a_0+\cdots+a_{m-1}x^{m-1}$ は冪零元の差なので冪零である。帰納法の仮定により $a_0,\dots,a_{m-1}$ は冪零である。
最後の主張は、前半の同値を係数ごとに読み替えたものである。
この命題は AM69 Chapter 1, Exercise 2 の一部である。同じ演習の他の部分は、多項式が単元であるための条件(単元の記事の注意「一般の可換環上の多項式の単元」)と零因子であるための条件(零因子の記事の例「多項式の零因子」)を与える。また、環準同型 $\varphi\colon A\to B$ は冪零元を冪零元に写す($x^n=0$ なら $\varphi(x)^n=\varphi(x^n)=0$)ので、$\varphi(\operatorname{nil}(A))\subset\operatorname{nil}(B)$ である。
可換環 $A$ のイデアル $I$ について、ある $m\geq1$ で $I^m=0$($I$ の元の $m$ 個の積の和がすべて $0$)となるとき、$I$ を冪零イデアルという。冪零イデアルの元はすべて冪零だが、冪零元だけからなるイデアルが冪零イデアルとは限らない。たとえば $A=k[x_1,x_2,x_3,\dots]/(x_1,x_2^2,x_3^3,\dots)$ で $x_i$ の類 $\bar x_i$ は $\bar x_i^{\,i}=0$ を満たすが、$\bar x_m^{\,m-1}\neq0$ である($x_m^{m-1}$ はどの $x_i^i$ でも割り切れない単項式なので、単項式で生成されたイデアル $(x_1,x_2^2,\dots)$ に属さない)。よって $\operatorname{nil}(A)$ は $\bar x_1,\bar x_2,\dots$ を含むが、どの $m$ についても $\operatorname{nil}(A)^{m-1}\ni\bar x_m^{\,m-1}\neq0$ であり、$\operatorname{nil}(A)$ は冪零イデアルでない。Noether環では冪零根基はつねに冪零イデアルである(AM69 Chapter 7)。
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