Riemann–Hurwitzの公式

同義語:Riemann–Hurwitzの定理Riemann-Hurwitzの公式Riemann–Hurwitz formula

概要

Riemann–Hurwitzの公式(Riemann–Hurwitz formula)とは、コンパクト連結Riemann面の間の非定数正則写像について、定義域と終域の種数、写像の次数、分岐の総量を結ぶ等式である。局所分岐指数を $e_x$、写像の次数を $d$ とすると $2g_X-2=d(2g_Y-2)+\sum_x(e_x-1)$ となり、非分岐被覆におけるEuler標数の乗法性を分岐写像へ拡張する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: リーマン面, 正則写像, 被覆次数, 因子, 標準因子

この公式が測るもの

コンパクトなRiemann面の間の非定数正則写像は、ほとんどすべての点の上では有限枚の被覆写像である。ただし、有限個の点では複数のシートが合流しうる。Riemann–Hurwitzの公式は、定義域と終域の種数の差を、この「合流の総量」で正確に測る。
写像の次数だけを見れば、分岐しない被覆と分岐する写像は区別できない。公式の補正項
$$ \sum_{x\in X}(e_x(f)-1) $$
は、各点で失われたシート数を重複度つきで足し合わせたものである。この補正を入れると、Euler標数の乗法性が分岐のある場合にも回復する。

局所分岐指数と分岐因子

以下、$X,Y$ をコンパクトかつ連結なRiemann面、$f\colon X\to Y$ を非定数正則写像とする。非定数性とコンパクト性から $f$ は全射であり、その 被覆次数 $d:=\deg(f)$ は正の整数として定まる。

局所分岐指数

$x\in X$ と $y=f(x)$ をとる。$x,y$ の周りに適切な局所座標 $z,w$ を選ぶと、$f$ は
$$ w\circ f=z^{e_x(f)} $$
と書ける。正の整数 $e_x(f)$ を $x$ における局所分岐指数または局所次数という。$e_x(f)>1$ である点を分岐点といい、その像を分岐値という。Mir95 第II章を参照。

分岐点と分岐値は異なる集合である。分岐点は $X$ の点であり、分岐値は $Y$ の点である。また、一つの分岐値の逆像に分岐点と非分岐点が同時に含まれることもある。

分岐因子

$f$ の分岐因子を
$$ \mathcal R_f:=\sum_{x\in X}\bigl(e_x(f)-1\bigr)x $$
と定める。非定数正則写像の分岐点は孤立し、$X$ はコンパクトなので、この和で非零の項は有限個しかない。したがって $\mathcal R_f$ は有効因子であり、
$$ \deg \mathcal R_f=\sum_{x\in X}\bigl(e_x(f)-1\bigr) $$
である。

各 $y\in Y$ について、局所次数の和は
$$ \sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f)=d $$
に等しい。この等式は、分岐値の上で逆像の点数が減った分を局所分岐指数が補うことを表す。

Riemann–Hurwitzの公式

Riemann–Hurwitzの公式

$X,Y$ をコンパクトかつ連結なRiemann面、$f\colon X\to Y$ を次数 $d$ の非定数正則写像とする。$g_X,g_Y$ をそれぞれの種数とすると、
$$ 2g_X-2=d(2g_Y-2)+\deg \mathcal R_f $$
すなわち
$$ 2g_X-2=d(2g_Y-2)+\sum_{x\in X}\bigl(e_x(f)-1\bigr) $$
が成り立つ。Mir95 第II章を参照。

$Y$ 上の恒等的に $0$ でない有理型 $1$ 形式 $\eta$ をとる。$x\in X$、$y=f(x)$ とし、局所座標で $w\circ f=z^e$、$e=e_x(f)$ と書く。さらに
$$ \eta=h(w)\,dw $$
と書けば、
$$ f^*\eta=h(z^e)e z^{e-1}\,dz $$
である。$h$ の $y$ における位数を $m$ とすると、$h(z^e)$ の $x$ における位数は $em$ だから、
$$ \operatorname{ord}_x(f^*\eta) =e_x(f)\operatorname{ord}_{f(x)}(\eta)+e_x(f)-1. $$
各点で係数を比較すると、因子の等式
$$ \operatorname{div}(f^*\eta)=f^*\operatorname{div}(\eta)+\mathcal R_f $$
を得る。ここで点 $y\in Y$ の引き戻しは
$$ f^*(y)=\sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f)x $$
である。
$D=\sum_y n_y y$ を $Y$ 上の因子とする。局所次数の和が各ファイバーで $d$ なので、
$$ \deg f^*D =\sum_y n_y\sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f) =d\sum_y n_y =d\deg D. $$
$K_Y:=\operatorname{div}(\eta)$ と $K_X:=\operatorname{div}(f^*\eta)$ はそれぞれ $Y,X$ の標準因子である。標準因子の次数公式 $\deg K_X=2g_X-2$、$\deg K_Y=2g_Y-2$ を上の因子等式に適用すると、
$$ 2g_X-2=d(2g_Y-2)+\deg \mathcal R_f $$
となる。

同じ公式は三角形分割からも理解できる。$Y$ をすべての分岐値が頂点になるように三角形分割して $X$ へ引き戻すと、辺と面はそれぞれ $d$ 倍になる。頂点だけは分岐によって $\deg \mathcal R_f$ 個分だけ減るため、
$$ \chi(X)=d\chi(Y)-\deg \mathcal R_f $$
となる。$\chi(X)=2-2g_X$、$\chi(Y)=2-2g_Y$ を代入すれば同じ公式を得る。これは旧Mathpedia記事の計数の筋道であり、上の証明ではその補正項を微分形式の局所計算から厳密に取り出した。

基本的な帰結

非分岐被覆の場合

$f$ が非分岐、すなわちすべての $x\in X$ で $e_x(f)=1$ なら、
$$ 2g_X-2=d(2g_Y-2) $$
である。特に、$Y$ が種数 $1$ の複素トーラスなら $X$ も種数 $1$ である。

非分岐なら $\mathcal R_f=0$ であるから、Riemann–Hurwitzの公式に代入すれば最初の等式を得る。$g_Y=1$ なら右辺は $0$ なので $2g_X-2=0$、したがって $g_X=1$ である。

次数1の写像

$d=1$ なら $\mathcal R_f=0$ であり、$f$ は双正則写像である。

任意の $y\in Y$ について
$$ 1=d=\sum_{x\in f^{-1}(y)}e_x(f) $$
である。各項は正の整数なので、各ファイバーはただ一つの点からなり、その点で $e_x(f)=1$ である。よって $f$ は全単射かつ局所双正則である。局所逆写像は正則であり、互いに一致して大域的な正則逆写像を与えるので、$f$ は双正則である。

分岐総数の偶奇

分岐因子の次数 $\deg \mathcal R_f$ は偶数である。

Riemann–Hurwitzの公式を変形すると
$$ \deg \mathcal R_f=2g_X-2-d(2g_Y-2) =2\bigl(g_X-1-d(g_Y-1)\bigr) $$
であるから偶数である。

例と反例

Riemann球面上の冪写像

$f\colon\mathbb P^1\to\mathbb P^1$、$f(z)=z^n$($n\ge2$)を考える。$0$ と $\infty$ で局所分岐指数は $n$、それ以外では $1$ である。したがって
$$ \deg \mathcal R_f=(n-1)+(n-1)=2n-2. $$
両方の種数は $0$、次数は $n$ なので、公式は
$$ -2=n(-2)+(2n-2)=-2 $$
となる。

複素トーラスの倍写像

複素トーラス $X=\mathbb C/\Lambda$ 上の $n$ 倍写像
$$ [z]\longmapsto[nz] $$
は次数 $n^2$ の非分岐被覆である。$g_X=g_Y=1$ かつ $\mathcal R_f=0$ なので、公式の両辺はともに $0$ になる。これは「次数が $2$ 以上なら必ず分岐する」という含意を破る反例である。

超楕円二重被覆

$2g+2$ 個の相異なる複素数 $a_1,\ldots,a_{2g+2}$ に対し、
$$ y^2=\prod_{i=1}^{2g+2}(x-a_i) $$
の滑らかなコンパクト化 $X$ から $\mathbb P^1$ への $x$ 座標による写像を考える。これは次数 $2$ で、$a_1,\ldots,a_{2g+2}$ の上に各1点の単純分岐をもつ。各点の寄与は $e_x(f)-1=1$ なので、
$$ \deg \mathcal R_f=2g+2. $$
したがって
$$ 2g_X-2=2(-2)+(2g+2)=2g-2, $$
ゆえに $g_X=g$ である。

重みを無視できない

分岐補正は「分岐点の個数」ではなく $\sum_x(e_x(f)-1)$ である。例えば $z\mapsto z^n$ には分岐点が2点しかないが、補正項は $2$ ではなく $2n-2$ である。したがって
$$ \#\{\text{分岐点}\}=\deg \mathcal R_f $$
という含意は、高次分岐があると破れる。

仮定を外すときの注意

コンパクト性

コンパクト性を外すと、非定数正則写像に有限の被覆次数が定まるとは限らない。指数写像
$$ \exp\colon\mathbb C\longrightarrow\mathbb C^* $$
は分岐しない全射正則写像だが、各ファイバーは可算無限である。これは「非コンパクトRiemann面の間の任意の非定数正則写像にも、同じ有限次数の公式がそのまま成り立つ」という含意を破る。

非定数性と連結性

定数写像では一般の点の逆像が空で、像の点の逆像は $X$ 全体になるため、正の有限次数 $d$ は定まらない。また $X$ が非連結なら単一の種数 $g_X$ は定義されない。非連結な場合は各連結成分への制限を分けて扱う必要があり、定理の形をそのまま適用してはいけない。

代数曲線版

本記事は複素Riemann面について述べている。任意標数の代数曲線へ移すときは、写像の分離性や微分の消滅、野生分岐を考慮する必要がある。正標数で同じ補正項 $e_x-1$ だけを無条件に用いてはいけない。

関連項目

参考文献

[1]
Rick Miranda, Algebraic Curves and Riemann Surfaces, Graduate Studies in Mathematics 5, American Mathematical Society, 1995, Chapter II(正則写像の局所正規形、分岐指数、次数、Riemann–Hurwitzの公式)

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