積分と和の類似は、和 $\sum$ と積分 $\int$ が 3 つの意味で同じと見なせることと、違うところを扱う 4 本の記事への案内である。第 1 に、積分は長方形の面積の和の極限である(区分求積)。第 2 に、差分 $F(k+1)-F(k)$ が $f(k)$ に等しければ $\sum_{k=a}^{b-1}f(k)=F(b)-F(a)$ で、微分と差分、積分と和の公式が対応する。第 3 に、$f$ が連続なら Stieltjes 積分 $\int f\,d\alpha$ は $\alpha(x)=x$ で積分、$\alpha(x)=\lfloor x\rfloor$ で和になる。一方、$H_n-\log n$ は $0$ にならず、Euler の定数 $0.5772\cdots$ に近づく。読む順と、各記事で分かることを示す。
高校では、数列の和 $\sum$ と積分 $\int$ を別々の単元で習う。しかし、記号も公式もよく似ている。積分記号 $\int$ は、和(ラテン語 summa)の頭文字 S を縦に伸ばした字である。「積分と和は本当に同じものか」という問いを、この記事を含む 5 本の記事で調べる。この記事はその入口で、残りの 4 本(下の ①〜④)への案内である。ここでは定義と例だけを述べ、証明はそれぞれの記事で行う。
答えを先に言うと、積分と和は次の 3 つの意味で同じであり、はっきり違うところもある。
高校で習う公式によると
$$
\sum_{k=1}^nk^2=\frac{n(n+1)(2n+1)}6=\frac{n^3}3+\frac{n^2}2+\frac n6,\qquad\int_0^nx^2\,dx=\left[\frac{x^3}3\right]_0^n=\frac{n^3}3
$$
である。いちばん大きな項 $\frac{n^3}3$ は同じで、和の方には $\frac{n^2}2+\frac n6$ が余分につく。$n=10$ では、和は $385$、積分は $\frac{1000}3=333.33\cdots$ である。
$[0,1]$ を $n$ 等分し、$f(x)=x^2$ の左端和 $L_n=\frac1n\sum_{k=0}^{n-1}\left(\frac kn\right)^2$ と右端和 $R_n=\frac1n\sum_{k=1}^{n}\left(\frac kn\right)^2$ を作る。$n=5$ では
$$
L_5=\frac15(0+0.04+0.16+0.36+0.64)=0.24,\qquad R_5=\frac15(0.04+0.16+0.36+0.64+1)=0.44
$$
である。$n=20$ では $L_{20}=0.30875$、$R_{20}=0.35875$ である。どちらの $n$ でも $\int_0^1x^2\,dx=\frac13=0.333\cdots$ は $L_n$ と $R_n$ の間にあり、差 $R_n-L_n$ は $\frac15$、$\frac1{20}$ と、ちょうど $\frac1n$ である(図 1)。$n\to\infty$ で $L_n$ も $R_n$ も $\frac13$ に近づく。
図1:y=x^2 の左端和(青、曲線の下)と右端和(赤、曲線からはみ出す)。n を 5 から 20 に増やすと、はみ出した部分が細くなる
増加または減少する連続関数では、いつも $L_n\le\int_0^1f\le R_n$(減少なら向きが逆)で、差は $\frac{|f(1)-f(0)|}n$ になる。この証明と、一般の連続関数で和の極限が積分になることの証明は、高校数学の記事 区分求積と積分の定義 にある。和と積分を面積で比べて不等式を作る方法は 積分の評価 で、はさみうちで極限を求める考え方は はさみうちと評価の技法 で扱っている。
2 つ目の意味のために、微分の代わりになる「差分」を定義する。
整数 $k$ に対して値 $f(k)$ が決まっている関数(数列と同じもの)$f$ について、$\Delta f(k):=f(k+1)-f(k)$ を $f$ の 差分 という。数列の差分は、高校でいう階差数列である。
3 つ目の意味は、長方形の「幅」を増加関数 $\alpha$ の増え方 $\alpha(x_i)-\alpha(x_{i-1})$ に取りかえた和 $\sum f(\xi_i)\bigl(\alpha(x_i)-\alpha(x_{i-1})\bigr)$ を考えることである。$\alpha(x)=x$ なら長方形の面積の和で、極限は積分になる。
$f(x)=x^2$、区間 $[0,3]$ を幅 $\frac12$ で 6 等分し、各小区間の右端 $x_i$ で $f$ の値をとる。$\alpha(x)=\lfloor x\rfloor$($x$ 以下の最大の整数)にすると、増え方は $(0,0.5]$ で $0$、$(0.5,1]$ で $1$、$(1,1.5]$ で $0$、$(1.5,2]$ で $1$、$(2,2.5]$ で $0$、$(2.5,3]$ で $1$ である。よって和は $f(1)+f(2)+f(3)=1+4+9=14=\sum_{k=1}^3k^2$ になる。同じ分割で $\alpha(x)=x$ にすると $11.375$ で、分割を細かくすると積分 $9$ に近づく。
最後に、違いを 1 つ見ておく。
$H_n=1+\frac12+\cdots+\frac1n$ を 調和数 という。$\int_1^n\frac{dx}x=\log n$ と比べると(小数第 4 位まで)
| $n$ | $10$ | $100$ | $1000$ | $10^6$ |
|---|---|---|---|---|
| $H_n-\log n$ | $0.6264$ | $0.5822$ | $0.5777$ | $0.5772$ |
で、差は $0$ にならず、ある数 $0.5772\cdots$(Euler の定数 $\gamma$)に近づいていく。和と積分は「ほぼ同じ」だが、ぴったり同じにはならない(図 2)。
図2:y=1/x の曲線と、高さ 1/k(k=1,…,10)の長方形。長方形の面積の和 H_10 は曲線の下の面積 log 11 より大きい
| 高校の計算 | 大学の概念 | 記事 |
|---|---|---|
| 区分求積 | Riemann 和と Riemann 積分 | 区分求積と積分の定義 |
| 階差数列から一般項を求める | 差分と和の基本定理 | 和と積分の対応表 |
| $S-2S$ を作って $\sum k\,2^k$ を求める | 部分和分(部分積分の和の版) | 和と積分の対応表 |
| $H_n$ と $\log n$ を面積で比べる | 和と積分の差の収束、Euler の定数 | 和と積分の差 |
| $\sum\frac1{k^2}$ が収束することを示す | 積分判定法 | 和と積分の差 |
| サイコロの期待値と連続な分布の期待値 | Stieltjes 積分 | Stieltjes積分(高校数学) |
| $\sum k^2=\frac{n^3}3+\frac{n^2}2+\frac n6$ の各項 | Euler–Maclaurin の公式 | Euler–Maclaurinの公式(高校数学) |
①→②→③→④ の順がおすすめである。ただし、①〜④ は使う定義をそれぞれの記事の中で述べ直してあるので、どれから読んでもよい。
| 疑問 | 答える記事 |
|---|---|
| 区分求積の極限はなぜ積分になるのか | 区分求積と積分の定義 |
| $\sum k$、$\sum 2^k$、$\sum k\,2^k$ を積分と同じように計算できるか | ① 和と積分の対応表 |
| $H_n-\log n$ はなぜ収束するのか | ② 和と積分の差 |
| $\sum_{k=1}^{10000}\frac1{\sqrt k}$ の整数部分はいくつか | ② 和と積分の差 |
| 和と積分を 1 つの式で書くとはどういうことか | ③ Stieltjes積分(高校数学) |
| $\sum k^2$ を積分のように計算すると、なぜ $\frac{n^3}3$ にならないのか | ① と ④ |
| $H_n$ を $\log n$ でどこまで精密に近似できるか | ④ Euler–Maclaurinの公式(高校数学) |
冪の和の公式そのものは高校数学の記事 数列の和と差分 で、$n!$ の大きさを積分で見積もる方法は 階乗の大きさの見積もり(その入口は Wallis積分からStirlingの公式へ)で扱っている。部分和分のもとになる部分積分の選び方は 部分積分の使い方 にある。
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