Fermat点(Fermat point)とは、三角形 $ABC$ の内部の点 $F$ で $\angle AFB=\angle BFC=\angle CFA=120^\circ$ を満たすものである。すべての角が $120^\circ$ 未満の三角形では、Fermat 点はただ 1 つあり、3 頂点までの距離の和 $PA+PB+PC$ を最小にするただ 1 つの点である。最小値は、辺 $AB$ の外側に立てた正三角形の頂点 $C'$ までの長さ $CC'$ に等しく($AA'$、$BB'$ も同じ)、3 本の直線 $AA'$、$BB'$、$CC'$ は $F$ で交わる。証明は、$60^\circ$ の回転で 3 本の距離を 1 本の折れ線に並べ、線分 $CC'$ と比べる。1 つの角が $120^\circ$ 以上なら、最小にする点はその頂点である。
前提知識: ベクトルの内積(高校数学), 回転・鏡映と行列の群, 円に内接する四角形, Ptolemyの定理, 中間値の定理
平面に 3 つの町 $A,B,C$ があり、1 か所に集配所 $P$ を置いて、3 つの町へそれぞれまっすぐな道を引くとする。道の長さの合計
$$
f(P)=PA+PB+PC
$$
をいちばん短くするには、$P$ をどこに置けばよいか。距離の 2 乗 の和なら、最小にする点は重心である(三角形の重心(高校数学))。距離そのものの和では、答えは重心ではない。まず数で調べる。
$F(0,0)$ から見て、$A$ を距離 $1$、$B$ を距離 $2$、$C$ を距離 $3$ の位置に、互いに $120^\circ$ ずつ回った向きにとる:
$$
A(1,0),\qquad B\bigl(-1,\sqrt3\bigr),\qquad C\Bigl(-\frac32,-\frac{3\sqrt3}2\Bigr).
$$
$\angle AFB=\angle BFC=\angle CFA=120^\circ$ で、$f(F)=1+2+3=6$ である。辺の長さは余弦定理(余弦定理(高校数学))で $AB^2=1+4-2\cdot1\cdot2\cos120^\circ=7$、$BC^2=4+9+6=19$、$CA^2=9+1+3=13$ である。
ほかの点での値と比べる。
$A(0,1)$、$B\bigl(-\frac{\sqrt3}2,-\frac12\bigr)$、$C\bigl(\frac{\sqrt3}2,-\frac12\bigr)$ は 1 辺 $\sqrt3$ の正三角形で、中心 $O(0,0)$ から各頂点までは $1$、3 本の線分は $120^\circ$ で出会う。$f(O)=3$ である。頂点では $f(A)=\sqrt3+\sqrt3=2\sqrt3\approx3.464$ で、中心のほうが小さい。
どちらの例でも、最小に見える点では 3 本の線分が $120^\circ$ で出会っている。この点を Fermat 点 という。
3 本の線分の長さが 1, 2, 3 の例の三角形 $ABC$(黒)と、3 辺の外側に立てた正三角形(橙)。$A'$、$B'$、$C'$ はその 3 つ目の頂点。3 本の破線 $AA'$、$BB'$、$CC'$ は 1 点 $F$ で交わり、$F$ から 3 頂点への線分(赤)は $120^\circ$ で出会うことを見る図。
次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 折れ線の長さは両端を結ぶ線分以上 | 3 本の距離を 1 本の折れ線に並べる | lem-fer-broken-line |
| 点を $60^\circ$ 回転する | $PA$ を $PP'$ に、$PB$ を $P'C'$ に移す | lem-fer-rotation |
| 正三角形の外接円の上の点で $PA=PB+PC$(Ptolemy) | 最小値 $CC'$ をとる点を作る | thm-fer-main |
| 内積 $\le$ 長さの積 | 単位ベクトルの和が $\vec0$ なら最小 | prop-fer-unit-vectors |
三角形 $ABC$ の辺 $AB$ を 1 辺とする正三角形を、直線 $AB$ について $C$ と反対側に作り、その 3 つ目の頂点を $C'$ とする。同じく辺 $BC$ について $A$ と反対側に $A'$、辺 $CA$ について $B$ と反対側に $B'$ をとる。
三角形 $ABC$ の内部の点 $F$ で
$$
\angle AFB=\angle BFC=\angle CFA=120^\circ
$$
を満たすものを、三角形 $ABC$ の Fermat 点 という(Torricelli 点 ともいう)。
Fermat 点がいつあるのか、ただ 1 つか、は定義からはわからない。すべての角が $120^\circ$ 未満の三角形ではただ 1 つあることを thm-fer-main と prop-fer-unit-vectors で示す。$\angle A\ge120^\circ$ の三角形にはない(内部の点 $P$ では $\angle BPC>\angle BAC\ge120^\circ$ となるため。prop-fer-obtuse の後の段落)。
ex-fer-first の三角形では $A'(-5,0)$、$B'\bigl(2,-2\sqrt3\bigr)$、$C'\bigl(\frac32,\frac{3\sqrt3}2\bigr)$ である。$C'$ を確かめる:$AC'^2=\frac14+\frac{27}4=7$、$BC'^2=\frac{25}4+\frac34=7$ で、$AB^2=7$ と合わせて三角形 $ABC'$ は正三角形である。$C'$ は直線 $y=\sqrt3x$ の上の $x>0$ の側、$C$ も同じ直線の上の反対側にある。$CC'=2\sqrt{\frac94+\frac{27}4}=2\cdot3=6$ である。同じ計算で $AA'=6$、$BB'=\lvert(3,-3\sqrt3)\rvert=6$ である。3 本の直線 $AA'$($x$ 軸)、$BB'$($y=-\sqrt3x$)、$CC'$($y=\sqrt3x$)はどれも原点 $F$ を通る。
証明の道具は 2 つある。折れ線の長さについての不等式と、$60^\circ$ の回転である。
4 点 $X_0,X_1,X_2,X_3$ について
$$
X_0X_1+X_1X_2+X_2X_3\ge X_0X_3
$$
である。等号が成り立つのは、$X_1,X_2$ が線分 $X_0X_3$ の上に $X_0,X_1,X_2,X_3$ の順に並ぶ(重なってもよい)ときに限る。
方針:まず 2 本のベクトルについて、三角不等式と等号の条件を内積で示す。それを 2 回使う。
段 1(2 本のベクトル)。ベクトル $\vec u,\vec v$ について $\lvert\vec u+\vec v\rvert^2=\lvert\vec u\rvert^2+2\vec u\cdot\vec v+\lvert\vec v\rvert^2$ で、$\vec u\cdot\vec v\le\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert$($\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\theta$。ベクトルの内積(高校数学))なので $\lvert\vec u+\vec v\rvert^2\le(\lvert\vec u\rvert+\lvert\vec v\rvert)^2$、すなわち $\lvert\vec u+\vec v\rvert\le\lvert\vec u\rvert+\lvert\vec v\rvert$ である。等号は $\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert$ のとき、つまり $\vec u,\vec v$ の一方が $\vec0$ か、なす角が $0^\circ$(同じ向き)のときに限る。
段 2(3 点)。$\vec u=\overrightarrow{X_0X_1}$、$\vec v=\overrightarrow{X_1X_2}$ とすると段 1 から $X_0X_1+X_1X_2\ge X_0X_2$ で、等号は $X_1$ が線分 $X_0X_2$ の上にあるときに限る。
段 3(4 点)。段 2 を 2 回使って $X_0X_1+X_1X_2+X_2X_3\ge X_0X_2+X_2X_3\ge X_0X_3$ である。全体で等号が成り立つのは、2 つの不等号がどちらも等号のとき、つまり $X_1$ が線分 $X_0X_2$ の上にあり、$X_2$ が線分 $X_0X_3$ の上にあるときである。これは $X_0,X_1,X_2,X_3$ がこの順に線分 $X_0X_3$ の上に並ぶことと同じである。$\square$
三角形 $ABC$ と def-fer-outer の $C'$ について、$A$ を中心とし $B$ を $C'$ に移す $60^\circ$ の回転を $\rho$ とする。どの点 $P$ についても、$P'=\rho(P)$ とおくと
$$
PA=PP',\qquad PB=P'C',\qquad f(P)=CP+PP'+P'C'\ge CC'
$$
である。等号は、$P$、$P'$ が線分 $CC'$ の上に $C,P,P',C'$ の順に並ぶときに限る。
方針:回転で距離が保たれることから 2 つの等式を出し、lem-fer-broken-line を使う。
段 1($PA=PP'$)。回転は長さを変えない(回転・鏡映と行列の群)。$\rho$ は $A$ を動かさないので $AP'=AP$ である。$P=A$ なら $P'=A$ で $PP'=0=PA$ である。$P\ne A$ なら、三角形 $APP'$ は $AP=AP'$、$\angle PAP'=60^\circ$ の二等辺三角形で、底角は $\frac{180^\circ-60^\circ}2=60^\circ$ なので正三角形であり、$PP'=PA$ である。
段 2($PB=P'C'$)。$\rho(P)=P'$、$\rho(B)=C'$ で、回転は長さを変えないので $P'C'=PB$ である。
段 3(折れ線)。段 1・段 2 から $f(P)=PC+PA+PB=CP+PP'+P'C'$ である。lem-fer-broken-line を $X_0=C$、$X_1=P$、$X_2=P'$、$X_3=C'$ に使えば、不等式と等号の条件を得る。$\square$
$60^\circ$ の回転の補題の図。$A$ を中心とする $60^\circ$ の回転で $B$ は $C'$ に、$P$ は $P'$ に移る。緑の三角形 $APP'$ は正三角形で $PP'=PA$、点線の $PB$ と、赤の折れ線の最後の部分 $P'C'$ は等しい。3 本の距離の和は赤の折れ線 $C\to P\to P'\to C'$ の長さになり、青の破線 $CC'$ 以上であることを見る図。
ex-fer-first の三角形で、$A(1,0)$ を中心とする時計回りの $60^\circ$ の回転は $\rho(X)=A+\begin{pmatrix}\frac12&\frac{\sqrt3}2\\-\frac{\sqrt3}2&\frac12\end{pmatrix}(X-A)$ である。$B-A=(-2,\sqrt3)$ は $\bigl(-1+\frac32,\ \sqrt3+\frac{\sqrt3}2\bigr)=\bigl(\frac12,\frac{3\sqrt3}2\bigr)$ に移り、$\rho(B)=\bigl(\frac32,\frac{3\sqrt3}2\bigr)=C'$ である。
lem-fer-rotation で、どの点でも $f(P)\ge CC'$ であることがわかった。残る仕事は、等号が成り立つ点を実際に作ることである。そのために、正三角形 $ABC'$ の外接円と Ptolemyの定理 を使う。
三角形 $ABC$ のすべての角が $120^\circ$ 未満であるとする。
要点:正三角形 $ABC'$ の外接円 $\Gamma$ が線分 $CC'$ と交わる、$C'$ 以外の点 $F$ をとる($F$ は $C'$ を含まない弧 $AB$ の上にある)。Ptolemy の定理で $FA+FB=FC'$ となるので、$f(F)=CC'$ となり、lem-fer-rotation の下からの評価に届く。一意性と $120^\circ$ は、同じ議論を 3 辺に使って出す。
段 1(下からの評価)。lem-fer-rotation により、どの点 $P$ でも $f(P)\ge CC'$ である。頂点の名前を入れかえて同じ補題を使えば、$f(P)\ge AA'$、$f(P)\ge BB'$ でもある。
段 2($CC'$ は辺 $AB$ の内部を通る)。$C$ と $C'$ は直線 $AB$ について反対側にあるので、線分 $CC'$ は直線 $AB$ とただ 1 点 $X$ で交わる。$\angle CAB+\angle BAC'=A+60^\circ<180^\circ$ なので、半直線 $AB$ は $\angle CAC'$ の内側を通り、三角形 $ACC'$ の辺 $CC'$ と交わる。その交点は直線 $AB$ と線分 $CC'$ の交点なので $X$ である。同じく $B+60^\circ<180^\circ$ から、$X$ は半直線 $BA$ の上にもある。よって $X$ は線分 $AB$ の上にある。$X=A$ なら $A$ は線分 $CC'$ の上にあり $\angle CAC'=180^\circ$ となるが、$\angle CAC'=A+60^\circ<180^\circ$ に反する。$X=B$ も同じである。したがって $X$ は線分 $AB$ の $A$、$B$ 以外の点である。
段 3(弧の上の点は $120^\circ$ で見る)。$\Gamma$ の点 $Q$ で、直線 $AB$ について $C'$ と反対側にあるものは、四角形 $AQBC'$ が $\Gamma$ に内接し $Q$ と $C'$ が向かい合うので、$\angle AQB=180^\circ-\angle AC'B=120^\circ$ である(円に内接する四角形)。
段 4($C$ は $\Gamma$ の外)。$C$ が $\Gamma$ の内部か周上にあるとする。$A$ は $\Gamma$ の上にあるので、半直線 $AC$ は $\Gamma$ と $A$ 以外の点 $Q$ で交わり、$C$ は線分 $AQ$ の上にある($C$ が周上なら $Q=C$)。$Q$ は直線 $AB$ について $C$ と同じ側、つまり $C'$ と反対側にあるので、段 3 から $\angle AQB=120^\circ$ である。$Q=C$ なら $\angle ACB=120^\circ$ で仮定に反する。$Q\ne C$ なら、$\angle ACB$ は三角形 $BCQ$ の $C$ における外角なので $\angle ACB=\angle CQB+\angle CBQ>\angle CQB=\angle AQB=120^\circ$ で、やはり仮定に反する。よって $C$ は $\Gamma$ の外部にある。
段 5($F$ をとる)。$X$ は弦 $AB$ の $A$、$B$ 以外の点なので $\Gamma$ の内部にある。$\Gamma$ の中心を $K$、半径を $\rho_0$ とし、線分 $CX$ の上の点 $Y(t)=C+t(X-C)$($0\le t\le1$)を考える。$KY(t)$ は $t$ について連続で、$t=0$ では $\rho_0$ より大きく(段 4)、$t=1$ では $\rho_0$ より小さい。中間値の定理(中間値の定理)により、$0< t_0<1$ で $KY(t_0)=\rho_0$ となるものがある。$F=Y(t_0)$ とおく。$F$ は $\Gamma$ の上にあり、線分 $CX$ の $C$、$X$ 以外の点なので、直線 $AB$ について $C$ と同じ側にある。よって $F$ は $\Gamma$ の $C'$ を含まない弧 $AB$ の上にあり、$F\ne A,B$ である。
段 6($f(F)=CC'$)。正三角形 $C'AB$ の外接円の、$C'$ を含まない弧 $AB$ の上の点 $F$ について、Ptolemyの定理 の「正三角形の外接円上の点」により $FC'=FA+FB$ である。$F$ は線分 $CX$ の上、$X$ は線分 $CC'$ の上にあるので、$F$ は線分 $CC'$ の上にあり $CF+FC'=CC'$ である。よって$$f(F)=FA+FB+FC=FC'+FC=CC'$$である。段 1 と合わせて、$F$ で $f$ は最小になり、最小値は $CC'$ である。
段 7(3 本の長さは等しい)。辺 $BC$ について段 2〜段 6 と同じことをすると、$f(F_1)=AA'$ となる点 $F_1$ がある。段 1 から $CC'=f(F)\ge AA'=f(F_1)\ge CC'$ なので、$AA'=CC'$ である。同じく $BB'=CC'$ である。
段 8(ただ 1 つ)。$f$ を最小にする点 $P$ をとる。$f(P)=CC'$ なので、lem-fer-rotation の等号の条件から $P$ は線分 $CC'$ の上にある。$f(P)=AA'$ でもあるので、頂点を入れかえた同じ補題から $P$ は線分 $AA'$ の上にある。直線 $CC'$ は直線 $AB$ と $X\ne A$ で交わるので $A$ を通らず、直線 $AA'$ とは異なる。異なる 2 直線の共有点は 1 つ以下なので、最小にする点はただ 1 つで、$P=F$ である。同じ理由で $F$ は線分 $BB'$ の上にもある。これで 1 と 2 の後半が示せた。
段 9($120^\circ$ と内部)。段 5 から $F$ は $C'$ を含まない弧 $AB$ の上にあるので、段 3 により $\angle AFB=120^\circ$ である。段 7 の $F_1$ は段 8 により $F$ に等しいので、辺 $BC$ について同じ理由で $\angle BFC=120^\circ$ である。$F$ は線分 $CX$ の内部の点で、$X$ は辺 $AB$ の内部の点なので、$F$ は三角形の内部にある。内部の点のまわりの 3 つの角の和は $360^\circ$ なので、$\angle CFA=360^\circ-120^\circ-120^\circ=120^\circ$ である。$\square$
段 5 の $F$ は $\Gamma$、つまり三角形 $ABC'$ の外接円の上にある。段 7 の $F_1$ は、辺 $BC$ について段 5 と同じ作り方で三角形 $BCA'$ の外接円の上にとった点で、段 8 により $F_1=F$ なので、$F$ は三角形 $BCA'$ の外接円の上にもある。辺 $CA$ についても段 2〜段 6 と同じことをすると、三角形 $CAB'$ の外接円の上にあって $f(F_2)=BB'$ となる点 $F_2$ がとれる。段 7 から $BB'=CC'$ なので $F_2$ も $f$ を最小にし、段 8 により $F_2=F$ である。よって $F$ は三角形 $CAB'$ の外接円の上にもある。3 つの外接円は Fermat 点で交わる。3 つの円の中心は外側の正三角形の重心で、それらが正三角形をなすというのが Napoleonの定理 である。
ex-fer-first の三角形の角は、およそ $\angle A\approx87.0^\circ$、$\angle B\approx55.7^\circ$、$\angle C\approx37.3^\circ$ で、すべて $120^\circ$ 未満である($\cos A=\frac{7+13-19}{2\sqrt{91}}=\frac1{2\sqrt{91}}$ など)。
三角形 $ABC$ で $\angle A\ge120^\circ$ ならば、$f(P)=PA+PB+PC$ は $P=A$ のときに限り最小になり、最小値は $AB+AC$ である。
要点:$A$ から $B$、$C$ に向かう単位ベクトル $\vec u$、$\vec v$ を使い、$PB$、$PC$、$PA$ を内積で下から押さえる。$\angle A\ge120^\circ$ は $\lvert\vec u+\vec v\rvert\le1$ という形で効く。
段 1(内積で押さえる)。どのベクトル $\vec w$ と長さ $1$ のベクトル $\vec e$ についても $\vec e\cdot\vec w\le\lvert\vec e\rvert\lvert\vec w\rvert=\lvert\vec w\rvert$ である(ベクトルの内積(高校数学))。$\vec u=\frac{\overrightarrow{AB}}c$、$\vec v=\frac{\overrightarrow{AC}}b$、$\vec x=\overrightarrow{AP}$ とおく。$\overrightarrow{PB}=c\vec u-\vec x$ なので$$PB\ge\vec u\cdot(c\vec u-\vec x)=c-\vec u\cdot\vec x,\qquad PC\ge\vec v\cdot(b\vec v-\vec x)=b-\vec v\cdot\vec x$$である。
段 2($\lvert\vec u+\vec v\rvert\le1$)。$\lvert\vec u+\vec v\rvert^2=2+2\vec u\cdot\vec v=2+2\cos A$ で、$120^\circ\le A<180^\circ$ から $\cos A\le-\frac12$ なので、$\lvert\vec u+\vec v\rvert^2\le1$ である。
段 3($PA$)。段 1 の不等式と段 2 から $(\vec u+\vec v)\cdot\vec x\le\lvert\vec u+\vec v\rvert\lvert\vec x\rvert\le\lvert\vec x\rvert=PA$ である。
段 4(足す)。段 1・段 3 を足すと$$f(P)=PA+PB+PC\ge(\vec u+\vec v)\cdot\vec x+c-\vec u\cdot\vec x+b-\vec v\cdot\vec x=b+c=f(A)$$である。
段 5(等号)。等号のときは段 1 の 2 つの不等式も等号である。$PB=\vec u\cdot\overrightarrow{PB}$ は、$\overrightarrow{PB}$ が $\vec0$ か $\vec u$ と同じ向きであることを表す(段 1 の不等式の等号は $\cos\theta=1$ のとき)ので、$P$ は直線 $AB$ の上にある。同じく $P$ は直線 $AC$ の上にある。2 直線の共有点は $A$ だけなので $P=A$ である。$\square$
$\angle A\ge120^\circ$ の三角形に Fermat 点がないことも確かめておく。内部の点 $P$ をとり、直線 $BP$ が辺 $AC$ と交わる点を $Q$ とする。三角形 $PQC$ の外角として $\angle BPC=\angle PQC+\angle PCQ>\angle PQC$、三角形 $ABQ$ の外角として $\angle PQC=\angle BQC=\angle BAQ+\angle ABQ>\angle BAC$ なので、$\angle BPC>\angle BAC\ge120^\circ$ である。よって内部に $\angle BPC=120^\circ$ となる点はない。
$A(0,0)$、$B(1,0)$、$C(-1,1)$ では $\angle A=135^\circ$ である。$\vec u=(1,0)$、$\vec v=\frac1{\sqrt2}(-1,1)$ で、$\lvert\vec u+\vec v\rvert^2=2+2\cdot\bigl(-\frac1{\sqrt2}\bigr)=2-\sqrt2\approx0.586\le1$ である。$f(A)=1+\sqrt2\approx2.414$ で、$f(B)=1+\sqrt5\approx3.236$、$f(C)=\sqrt2+\sqrt5\approx3.650$、重心 $G\bigl(0,\frac13\bigr)$ では $f(G)=\frac13+\frac{\sqrt{10}}3+\frac{\sqrt{13}}3\approx2.589$ である。どれも $f(A)$ より大きい。
$A(0,0)$、$B(2,0)$、$C(-1,\sqrt3)$ では $AB=AC=2$、$\angle A=120^\circ$ である。prop-fer-obtuse により最小値は $f(A)=4$ である。近くの点では $f\bigl(\frac1{10},\frac1{10}\bigr)\approx4.012$、$f\bigl(\frac12,\frac12\bigr)\approx4.229$ で、たしかに大きい。この場合、頂点 $A$ そのものから $B$、$C$ への線分が $120^\circ$ をなしていて、thm-fer-main の $120^\circ$ の条件の境目にあたる。
距離の和 $f(P)$ の等高線(青)と最小にする点(赤の星)。左は 3 本の線分の長さが 1, 2, 3 の例の三角形で、最小は内部の Fermat 点。右は $\angle A=135^\circ$ の三角形で、最小は頂点 $A$ になることを見る図。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| すべての角が $120^\circ$ 未満 | $f$ を最小にする点で 3 本の線分が $120^\circ$ で出会う | ex-fer-obtuse |
| 正三角形を辺の外側に立てる | $CC'$ が $f$ の最小値に等しい | ex-fer-inner |
| 距離の和を考える(距離の 2 乗の和に替える) | 最小にする点が Fermat 点 | ex-fer-squares |
| 点が 3 つ(4 つに替える) | 最小にする点で線分どうしが $120^\circ$ で出会う | ex-fer-square |
ex-fer-first の三角形で、辺 $AB$ の正三角形を $C$ と同じ側に立てると、3 つ目の頂点は $A$ を中心に $B$ を反時計回りに $60^\circ$ 回した点 $C''=\bigl(-\frac32,-\frac{\sqrt3}2\bigr)$ である($AC''^2=\frac{25}4+\frac34=7$、$BC''^2=\frac14+\frac{27}4=7$)。$CC''=\frac{3\sqrt3}2-\frac{\sqrt3}2=\sqrt3$ で、最小値 $6$ とは違う。lem-fer-rotation と同じ議論で $f(P)\ge CC''$ は成り立つが、等号はとれない。外した仮定:正三角形を外側に立てること。崩れる主張:$CC''$ が最小値に等しいこと。
ex-fer-first の三角形で、距離の 2 乗の和 $g(P)=PA^2+PB^2+PC^2$ を比べる。$g(F)=1+4+9=14$、重心では $g(G)=\frac{21+39+57}9=13$ で、$g$ は Fermat 点ではなく重心で最小になる(三角形の重心(高校数学) の「距離の 2 乗の和の分解」により $g(F)=g(G)+3FG^2$、$FG^2=\frac14+\frac1{12}=\frac13$)。外した仮定:距離の和を考えること。崩れる主張:最小にする点が Fermat 点であること。
正方形の頂点 $A(1,1)$、$B(-1,1)$、$C(-1,-1)$、$D(1,-1)$ について $PA+PB+PC+PD$ を最小にする。lem-fer-broken-line と同じく $PA+PC\ge AC=2\sqrt2$ で等号は $P$ が線分 $AC$ の上のとき、$PB+PD\ge BD=2\sqrt2$ で等号は $P$ が線分 $BD$ の上のときである。よって最小値は $4\sqrt2$ で、最小にする点は対角線の交点 $(0,0)$ だけである。そこで 4 本の線分は $90^\circ$ で出会い、$120^\circ$ ではない。外した仮定:点が 3 つであること。崩れる主張:線分どうしが $120^\circ$ で出会うこと。
thm-fer-main の $120^\circ$ は、最小にする点で「3 頂点へ向かう単位ベクトルの和が $\vec0$」になることの言いかえである。この見方では、回転も円も使わずに最小であることが示せる。
点 $F$ は $A,B,C$ のどれとも異なるとし、$F$ から $A$、$B$、$C$ に向かう長さ $1$ のベクトルを $\vec e_A,\vec e_B,\vec e_C$ とする。
要点:1 は長さの 2 乗の計算である。2 は、$PA$ を $\vec e_A$ 方向の成分で下から押さえ、3 つを足すと $\vec e_A+\vec e_B+\vec e_C$ の項が消えることを使う。
段 1(1 の $\Leftarrow$)。3 つの角が $120^\circ$ なら $\vec e_A\cdot\vec e_B=\vec e_B\cdot\vec e_C=\vec e_C\cdot\vec e_A=\cos120^\circ=-\frac12$ なので$$\lvert\vec e_A+\vec e_B+\vec e_C\rvert^2=3+2\Bigl(-\frac12-\frac12-\frac12\Bigr)=0$$である。
段 2(1 の $\Rightarrow$)。$\vec e_A+\vec e_B=-\vec e_C$ の長さの 2 乗をとると $2+2\vec e_A\cdot\vec e_B=1$ で、$\vec e_A\cdot\vec e_B=-\frac12$、つまり $\angle AFB=120^\circ$ である。ほかの 2 つも同じである。
段 3(2 の不等式)。どの点 $P$ でも、段 1 の不等式 $\vec e\cdot\vec w\le\lvert\vec w\rvert$(prf-prop-fer-obtuse の段 1)から$$PA=\lvert\overrightarrow{PA}\rvert\ge\vec e_A\cdot\overrightarrow{PA}=\vec e_A\cdot\overrightarrow{PF}+\vec e_A\cdot\overrightarrow{FA}=\vec e_A\cdot\overrightarrow{PF}+FA$$である($\overrightarrow{FA}=FA\,\vec e_A$)。$PB$、$PC$ も同じで、3 つを足すと$$f(P)\ge(\vec e_A+\vec e_B+\vec e_C)\cdot\overrightarrow{PF}+FA+FB+FC=f(F)$$である。
段 4(ただ 1 つ)。等号のときは 3 つの不等式がすべて等号で、$\overrightarrow{PA}$ は $\vec0$ か $\vec e_A$ と同じ向きである。どちらの場合も $P$ は直線 $FA$ の上にある。同じく $P$ は直線 $FB$ の上にある。$\vec e_A$ と $\vec e_B$ のなす角は $120^\circ$ なので 2 直線は異なり、共有点は $F$ だけである。よって $P=F$ である。$\square$
prop-fer-unit-vectors から、Fermat 点(def-fer-point)はあればただ 1 つであることもわかる。Fermat 点はどれも $f$ を最小にし、最小にする点はただ 1 つだからである。
ex-fer-first では $\vec e_A=(1,0)$、$\vec e_B=\bigl(-\frac12,\frac{\sqrt3}2\bigr)$、$\vec e_C=\bigl(-\frac12,-\frac{\sqrt3}2\bigr)$ で、和は $\vec0$ である。重心 $G\bigl(-\frac12,-\frac{\sqrt3}6\bigr)$ では、$G$ から頂点へ向かう単位ベクトルは $\frac3{\sqrt{21}}\bigl(\frac32,\frac{\sqrt3}6\bigr)$、$\frac3{\sqrt{39}}\bigl(-\frac12,\frac{7\sqrt3}6\bigr)$、$\frac3{\sqrt{57}}\bigl(-1,-\frac{4\sqrt3}3\bigr)$ で、和の $x$ 成分は $\frac{4.5}{\sqrt{21}}-\frac{1.5}{\sqrt{39}}-\frac3{\sqrt{57}}\approx0.344\ne0$ である。重心では和が $\vec0$ にならない。
$f(P)$ は、頂点以外の点で微分でき、座標で書いた勾配は $\overrightarrow{AP}/PA+\overrightarrow{BP}/PB+\overrightarrow{CP}/PC=-(\vec e_A+\vec e_B+\vec e_C)$ である(ここでの $\vec e$ は $P$ から頂点へ向かう単位ベクトル)。また、1 点からの距離は凸関数で、その和 $f$ も凸関数である(凸関数)。凸関数では「勾配が $\vec0$ の点」が最小点なので、prop-fer-unit-vectors は凸関数の最小点の条件を幾何の言葉で言ったものである。prf-prop-fer-unit-vectors の段 3 の不等式は、凸関数のグラフが接平面の上にあることにあたる。
点の数を増やし、距離に重みをつけた問題(与えられた点までの重み付きの距離の和を最小にする点を求める問題)は Weber 問題 と呼ばれ、凸最適化の基本的な例である(BV04 §8.7.1 Example 8.4 は、重みのない場合の最小点を Weber 点と呼んでいる)。一般の場合、最小点を与える簡単な式は知られておらず、ふつうは数値計算で求める。
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