測度(measure)とは、集合 $X$ 上の σ-代数の各元に $0$ 以上 $\infty$ 以下の値を割り当てる写像で、空集合に $0$ を与え、互いに交わらない可算個の集合の和集合の値が各値の和に等しい(可算加法性)ものである。個数・長さ・面積・確率に共通する加法性を抽象化したもので、数え上げ測度、Dirac 測度、Lebesgue 測度、確率測度が代表例である。単調性、可算劣加法性、単調な列についての連続性、有限の値での包除原理、Borel–Cantelli の補題が定義から従い、Lebesgue 積分と確率論の土台となる。
有限集合の元の個数、区間の長さ、図形の面積、事象の確率は、どれも「集合の大きさ」を数で表したものである。これらに共通するのは、重なりのない 2 つの集合を合わせた集合の大きさが、それぞれの大きさの和になるという性質(加法性)である。1 から 6 までの目のうち偶数の目の個数は $\{2\}$、$\{4\}$、$\{6\}$ の個数の和 $3$ であり、区間 $[0,2]$ の長さは $[0,1]$ と $(1,2]$ の長さの和 $2$ であり、さいころで偶数の目が出る確率は $\frac16+\frac16+\frac16=\frac12$ である。
| 個数 | 長さ・面積 | 確率 | |
|---|---|---|---|
| 大きさを測る集合 | 有限集合(無限集合なら $\infty$) | 区間・図形 | 事象 |
| 値の範囲 | $0,1,2,\dots,\infty$ | $[0,\infty]$ | $[0,1]$ |
| 空集合の大きさ | $0$ | $0$ | $0$ |
| 重なりのない集合の和 | 個数の和 | 長さ・面積の和 | 確率の和 |
| 全体の大きさ | 全体の元の個数 | 直線全体・平面全体なら $\infty$ | $1$ |
| 測度としての名前 | 数え上げ測度 | Lebesgue 測度 | 確率測度 |
円の面積を内接する正多角形の面積の極限として求めるときや、「表が出るまで硬貨を投げる」ときの確率 $\frac12+\frac14+\frac18+\cdots=1$ のように、大きさについての議論では無限個の集合に分けて足すことが必要になる。そこで、有限個ではなく可算個の重なりのない集合について加法性を要求し、この加法性を満たす「大きさの割り当て」を抽象的に定義したものが測度(measure)である。ただし、実数直線のすべての部分集合に長さを矛盾なく割り当てることはできない(rem-measure-no-length で述べる)ので、大きさを割り当てる集合を σ-代数 に属するものに制限する。個数・長さ・面積・確率についての多くの計算規則(単調性、包除原理、極限との関係)は、測度の定義だけから導かれる。
$[0,\infty]$ の元の和については、$a+\infty=\infty+a=\infty$ と約束する。$[0,\infty]$ の元の列 $(t_n)_{n\in\mathbb{N}}$ の和 $\sum_{n}t_n$ は部分和の増加列の極限($\infty$ を許す)と定め、この和は項の順序を並べ替えても変わらない(Lebesgue測度 の記事の外測度の節の冒頭と同じ約束)。
$(X,\mathcal{S})$ を可測空間(集合 $X$ とその上の σ-代数 $\mathcal{S}$ の組)とする。写像 $\mu\colon\mathcal{S}\to[0,\infty]$ が次の 2 条件を満たすとき、$\mu$ を $(X,\mathcal{S})$ 上の測度(measure)という。
(R1) $\mu(\emptyset)=0$。
(R2) (可算加法性)$E_0,E_1,E_2,\ldots\in\mathcal{S}$ が互いに交わらない($m\neq n$ なら $E_m\cap E_n=\emptyset$)ならば $\mu\bigl(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n\bigr)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu(E_n)$。
3 つ組 $(X,\mathcal{S},\mu)$ を測度空間(measure space)という。
この定義は Lebesgue測度 の記事の定義「σ-代数と測度」、Axler20 2.54・2.56、Tao11 Definition 1.4.27 と同じである。条件 (i) は、すべての集合の測度が $\infty$ になる退化した場合を除くためのものである。
$(X,\mathcal{S},\mu)$ を測度空間とする。
確率空間は全体の測度が $1$ の測度空間であり、確率空間 の記事の定義「確率空間」と同じものである(Axler20 12.1)。有限測度と σ-有限測度の定義は Axler20 5.18 と同じである。
$(X,\mathcal{S},\mu)$ を測度空間とする。$N\in\mathcal{S}$ で $\mu(N)=0$ となるものを $\mu$-零集合という。$X$ の点についての性質 $P(x)$ が $\mu$-ほとんどいたるところ($\mu$-a.e.)で成り立つとは、$P(x)$ が成り立たない点 $x$ の全体がある $\mu$-零集合に含まれることをいう。確率空間では「ほとんど確実に」(a.s.)ともいう。
たとえば、2 つの関数 $f,g$ が $\mu$-ほとんどいたるところで等しいとは、$\{x\mid f(x)\neq g(x)\}$ がある零集合に含まれることである(Axler20 3.27)。$\mu$-零集合の部分集合がすべて $\mathcal{S}$ に属するとき、$\mu$ は完備であるという。Lebesgue測度 は完備である(同記事の定理「Carathéodoryの定理」)。この零集合は測度に関する概念であり、位相空間で連続関数の零点の集合を指す 零集合(位相) とは別のものである。
有限個の和についてだけ加法性を課したものも使う。
$\mathcal{A}$ を $X$ 上の有限加法族($\emptyset$ を含み、補集合と有限個の和集合で閉じた族)とする。写像 $\mu\colon\mathcal{A}\to[0,\infty]$ が $\mu(\emptyset)=0$ と、互いに交わらない $E,F\in\mathcal{A}$ について $\mu(E\cup F)=\mu(E)+\mu(F)$ を満たすとき、$\mu$ を有限加法的測度という(Tao11 Definition 1.4.19)。
帰納法により、有限加法的測度は互いに交わらない有限個の集合について $\mu(E_1\cup\cdots\cup E_n)=\mu(E_1)+\cdots+\mu(E_n)$ を満たす。測度は、残りを空集合で埋めれば可算加法性から有限加法性が従うので、有限加法的測度である。逆は成り立たない(ex-measure-finitely-additive)。
集合 $X$ と σ-代数 $\mathcal{P}(X)$(すべての部分集合)の上で、$E$ が有限集合なら $\#(E):=E$ の元の個数、無限集合なら $\#(E):=\infty$ と定める。$\#$ は測度であり、数え上げ測度という(Axler20 2.55、Tao11 Example 1.4.29)。
$E_0,E_1,\ldots$ が互いに交わらず、$E=\bigcup_nE_n$ とする。$E$ が有限なら、空でない $E_n$ は有限個しかなく、それらはすべて有限集合なので、$\#(E)$ はそれらの元の個数の和である。$E$ が無限なら、ある $E_n$ が無限集合であるか、空でない $E_n$ が無限個あるかのどちらかであり、いずれの場合も $\sum_n\#(E_n)=\infty=\#(E)$ である。
$(X,\mathcal{S})$ を可測空間、$c\in X$ とする。$c\in E$ なら $\delta_c(E):=1$、$c\notin E$ なら $\delta_c(E):=0$ と定めると、$\delta_c$ は確率測度である(Dirac 測度)。互いに交わらない $E_n$ のうち $c$ を含むものは高々 1 つなので、可算加法性が成り立つ。
より一般に、関数 $w\colon X\to[0,\infty]$ に対し
$$
\mu(E):=\sum_{x\in E}w(x)\qquad(E\in\mathcal{S})
$$
(右辺は $E$ の有限部分集合 $D$ にわたる $\sum_{x\in D}w(x)$ の上限)は測度である(Axler20 2.55)。点 $x_0,x_1,\ldots$ と重み $a_n\ge0$ について $\mu=\sum_na_n\delta_{x_n}$ はこの形である。さいころの目の確率は $X=\{1,\dots,6\}$、$w\equiv\frac16$ とした場合であり、$\mu(\{2,4,6\})=\frac12$ である。数え上げ測度は $w\equiv1$ の場合である。
$\mu(\emptyset)=0$ は明らかである。$E_0,E_1,\ldots$ が互いに交わらず $E=\bigcup_nE_n$ とする。$E$ の有限部分集合 $D$ は互いに交わらない $D\cap E_n$(有限個を除いて空)に分かれるので $\sum_{x\in D}w(x)=\sum_n\sum_{x\in D\cap E_n}w(x)\le\sum_n\mu(E_n)$ であり、$D$ について上限をとると $\mu(E)\le\sum_n\mu(E_n)$ である。逆に、$N$ と $E_n$ の有限部分集合 $D_n$($n\le N$)を任意にとると $\bigcup_{n\le N}D_n\subset E$ は互いに交わらない和なので $\sum_{n\le N}\sum_{x\in D_n}w(x)\le\mu(E)$ であり、各 $D_n$ について上限をとって $\sum_{n\le N}\mu(E_n)\le\mu(E)$、$N\to\infty$ とすれば $\sum_n\mu(E_n)\le\mu(E)$ である。
Lebesgue測度 $\lambda$ は、Lebesgue 可測集合の σ-代数 $\mathcal{L}$ の上の測度で、区間にその長さを割り当てる(同記事の定理「Carathéodoryの定理」「区間の外測度は長さに等しい」)。その $\mathcal{B}(\mathbb{R})$(Borel集合 の族)への制限も測度である。$\lambda$ は σ-有限だが有限ではない($\mathbb{R}=\bigcup_n[-n,n]$、$\lambda([-n,n])=2n$)。区間 $[0,1]$ に制限したものは確率測度であり、$[0,1]$ から一様に点を選ぶ試行を表す(確率空間 の記事の例「区間 [0,1] 上の一様な確率」)。$\mathbb{Q}$ は $\lambda$-零集合なので、「ほとんどすべての実数は無理数である」。
$X$ を非可算集合とし、$\mathcal{C}$ を「可算であるか補集合が可算である」部分集合の全体(σ-代数 の記事の例「可算集合と補集合が可算な集合」)とする。$E\in\mathcal{C}$ が可算なら $\mu(E):=0$、補集合が可算なら $\mu(E):=1$ と定めると、$\mu$ は $(X,\mathcal{C})$ 上の確率測度である(Axler20 2.55 は値 $3$ で同じ例を挙げている)。すべての 1 点集合の測度は $0$ なので、$\mu$ は重み付きの点の和 $\sum_{x\in E}w(x)$ の形には書けない。
$X$ が非可算なので、補集合が可算な 2 つの集合は交わる(2 つの補集合の和集合は可算で $X$ に等しくない)。したがって互いに交わらない列 $E_0,E_1,\ldots\in\mathcal{C}$ のうち、補集合が可算なものは高々 1 つである。1 つあれば和集合の補集合も可算で、両辺はともに $1$ である。1 つもなければ、和集合は可算個の可算集合の和集合なので可算であり(可算集合 の記事の定理「可算個の可算集合の和集合」)、両辺はともに $0$ である。
以下、$(X,\mathcal{S},\mu)$ を測度空間とし、現れる集合はすべて $\mathcal{S}$ に属するとする。
2 の差の公式に $\mu(E)<\infty$ が要るのは、$\infty-\infty$ が定まらないからである(ex-measure-difference)。3 は 2 つの集合についての包除原理で、引き算を含まない形に書いてあるので無限の値でも成り立つ。4 の証明は $D_n$ を式で与えているので選択公理を使わない。$\mathbb{R}$ の外測度の可算劣加法性(Lebesgue測度 の記事の定理「外測度の可算劣加法性」)が可算選択公理を使うのと対照的である。4 から、$\mu$-零集合の可算個の和集合は $\mu$-零集合である。したがって、可算個の性質 $P_0,P_1,\ldots$ のそれぞれが成り立たない点の集合 $N_n$ が $\mu$-零集合なら、どれか 1 つの $P_n$ が成り立たない点の集合 $\bigcup_nN_n$ も $\mu$-零集合であり、すべての $P_n$ が同時に $\mu$-ほとんどいたるところで成り立つ。
2 の仮定は「ある $m$ で $\mu(E_m)<\infty$」に弱めてよい($E_m,E_{m+1},\ldots$ に使えばよい。Tao11 Exercise 1.4.23)。この仮定は外せない(ex-measure-decreasing)。Lebesgue測度 の記事の命題「測度の単調性と連続性」は、prop-measure-basic の 2 とこの定理を一般の測度空間について述べた同じ主張であり、確率空間 の記事の命題「確率の基本性質」「確率の連続性」は、prop-measure-basic とこの定理を確率測度に当てはめた場合である(確率測度では全体の測度が $1$ なので、上からの連続性の仮定はつねに満たされる)。Axler20 2.57〜2.60 にも同じ主張がある。
連続性は可算加法性の言い換えでもある。
$\mathcal{S}$ を $X$ 上の σ-代数、$\mu\colon\mathcal{S}\to[0,\infty]$ を有限加法的測度とする。
$\mu(X)<\infty$ なので、有限加法的測度についても差の公式 $\mu(F\setminus E)=\mu(F)-\mu(E)$($E\subset F$)が prop-measure-basic の 2 と同じ証明で使える。下からの連続性を仮定し、$E_n\downarrow\emptyset$ とすると、$X\setminus E_n$ は $X$ に増加するので $\mu(X)-\mu(E_n)=\mu(X\setminus E_n)\to\mu(X)$、すなわち $\mu(E_n)\to0$ である。逆に 2 の条件を仮定し、$E_n$ を増加列、$E:=\bigcup_nE_n$ とすると、$E\setminus E_n$ は減少列で共通部分は空なので、$\mu(E)-\mu(E_n)=\mu(E\setminus E_n)\to0$ である。$\square$
有限加法的な量が可算加法的かどうかは、この定理により単調な列の極限だけで判定できる。ex-measure-finitely-additive は下からの連続性が破れる有限加法的測度の例である。
包除原理 の記事の定理「包除原理の等式」は、有限集合の元の個数についての等式である。同じ等式は、有限の値をとる測度で成り立つ。
$E_1,\dots,E_m\in\mathcal{S}$ とし、$\mu(E_1\cup\cdots\cup E_m)<\infty$ とする。$k=1,\dots,m$ について
$$
S_k:=\sum_{1\le i_1<\cdots< i_k\le m}\mu(E_{i_1}\cap\cdots\cap E_{i_k})
$$
とおくと、
$$
\mu(E_1\cup\cdots\cup E_m)=\sum_{k=1}^m(-1)^{k-1}S_k
$$
である。
要点:$m=2$ の場合 $\mu(E\cup F)=\mu(E)+\mu(F)-\mu(E\cap F)$ は prop-measure-basic の 3 で、値がすべて有限なので引き算できる。$A:=E_1\cup\cdots\cup E_{m-1}$ と $E_m$ にこれを使い、$A$ と $A\cap E_m=\bigcup_{i< m}(E_i\cap E_m)$ に帰納法の仮定を使う。
$m$ についての帰納法で示す。現れる集合はどれも $E_1\cup\cdots\cup E_m$ に含まれるので、単調性により測度は有限である。$m=1$ は明らかである。$m\ge2$ とし、$m-1$ 個の集合について主張が成り立つとする。$A:=E_1\cup\cdots\cup E_{m-1}$ とおくと、prop-measure-basic の 3 から $$\mu(E_1\cup\cdots\cup E_m)=\mu(A)+\mu(E_m)-\mu(A\cap E_m)$$ である。$\mu(A)$ に帰納法の仮定を使うと、添字が $\{1,\dots,m-1\}$ に含まれる共通部分の項が得られる。$A\cap E_m=\bigcup_{i< m}(E_i\cap E_m)$ に帰納法の仮定を使うと、$$\mu(A\cap E_m)=\sum_{j=1}^{m-1}(-1)^{j-1}\sum_{i_1<\cdots< i_j< m}\mu(E_{i_1}\cap\cdots\cap E_{i_j}\cap E_m)$$ であり、右辺の各項は添字 $m$ を含む $j+1$ 個の共通部分である。したがって $-\mu(A\cap E_m)$ は、$m$ を含む $k=j+1\ge2$ 個の共通部分に符号 $(-1)^{k-1}$ を付けた和になる。$\mu(E_m)$ は $m$ を含む 1 個の共通部分の項である。これらを合わせると、すべての $1\le i_1<\cdots< i_k\le m$ にわたる $(-1)^{k-1}\mu(E_{i_1}\cap\cdots\cap E_{i_k})$ の和、すなわち右辺になる。$\square$
$X$ が有限集合で $\mu$ が数え上げ測度なら、これは 包除原理 の記事の定理「包除原理の等式」そのものであり、確率測度なら同記事の注意「確率での形」である(Tao11 Exercise 1.4.20 は $m=2$ の場合、Exercise 1.4.35 は一般の場合を扱っている)。有限性の仮定は外せない(ex-measure-difference)。
$E_0,E_1,\ldots\in\mathcal{S}$ が $\sum_{n}\mu(E_n)<\infty$ を満たすならば、
$$
\mu\Bigl(\limsup_{n\to\infty}E_n\Bigr)=0,\qquad \limsup_{n\to\infty}E_n:=\bigcap_{m\in\mathbb{N}}\bigcup_{n\ge m}E_n
$$
である。すなわち、$\mu$-ほとんどすべての点 $x$ は、有限個の $n$ についてしか $E_n$ に属さない。
$\limsup_nE_n$ は σ-代数 の記事の命題「σ-代数で閉じている演算」により $\mathcal{S}$ に属する。すべての $m$ について $\limsup_nE_n\subset\bigcup_{n\ge m}E_n$ なので、単調性と可算劣加法性(prop-measure-basic)により
$$
\mu\Bigl(\limsup_{n\to\infty}E_n\Bigr)\le\sum_{n\ge m}\mu(E_n)
$$
である。右辺は収束する級数の $m$ 番目以降の和なので、$m\to\infty$ で $0$ に近づく。$\square$
$x\in\limsup_nE_n$ は「$x$ が無限個の $n$ について $E_n$ に属する」ことと同値である。確率論では「$\sum_nP(E_n)<\infty$ なら、事象 $E_n$ が無限回起こる確率は $0$」と読む(Axler20 12.6、Tao11 Exercise 1.4.44・1.4.45)。
$[0,1]$ 上の Lebesgue 測度 $\lambda$ を考える。$n\ge1$ について、ある整数 $p$ で $\lvert x-p/n\rvert<1/n^3$ となる $x\in[0,1]$ の全体を $E_n$ とする。$x\in[0,1]$ で $\lvert x-p/n\rvert<1/n^3\le1/n$ なら $-1/n< p/n<1+1/n$、すなわち $-1< p< n+1$ なので $p\in\{0,1,\dots,n\}$ である。よって $E_n$ は長さ $2/n^3$ の開区間 $n+1$ 個の和集合と $[0,1]$ の共通部分であり、$\lambda(E_n)\le2(n+1)/n^3\le4/n^2$ である。$\sum_n4/n^2<\infty$ なので、Borel–Cantelli の補題により、$[0,1]$ のほとんどすべての $x$ について、$\lvert x-p/n\rvert<1/n^3$ を満たす整数 $p$ が存在するような $n$ は有限個しかない。
$[0,\infty]$ の元の積について $c\cdot\infty=\infty$($c>0$)、$0\cdot\infty=0$ と約束する。
どれも $\emptyset$ の値が $0$ であることは明らかなので、可算加法性を示す。$E_0,E_1,\ldots$ を互いに交わらない集合とする。
$b_{n,k}\in[0,\infty]$ について、$\sum_n\sum_kb_{n,k}$ と $\sum_k\sum_nb_{n,k}$ はどちらも、有限個の $(n,k)$ にわたる和 $\sum_{n\le N,\,k\le K}b_{n,k}$ の上限に等しい。実際、$\sum_n\sum_kb_{n,k}=\sup_N\sum_{n\le N}\sup_K\sum_{k\le K}b_{n,k}$ であり、有限個の増加列の極限の和は和の極限なので $\sum_{n\le N}\sup_K\sum_{k\le K}b_{n,k}=\sup_K\sum_{n\le N,\,k\le K}b_{n,k}$ である。もう一方も同様である。
1 で $\mu_A$ を $A$ の上の σ-代数 $\{E\in\mathcal{S}\mid E\subset A\}$ に制限したものも測度であり、これも $\mu$ の $A$ への制限と呼ぶ(Tao11 Example 1.4.30)。2 から、ex-measure-dirac の $\sum_na_n\delta_{x_n}$ が測度であることがもう一度わかる(Tao11 Exercise 1.4.22)。3 の像測度は $f$ による押し出しともいう(Tao11 Exercise 1.4.38)。
$(\Omega,\mathcal{F},P)$ を確率空間、$X\colon\Omega\to\mathbb{R}$ を確率変数とする。$X$ は $(\mathcal{F},\mathcal{B}(\mathbb{R}))$-可測である(Borel集合 の記事の例「確率変数が定める事象」)ので、像測度 $P_X:=X_*P$、すなわち $P_X(B)=P(X\in B)$ は $\mathcal{B}(\mathbb{R})$ 上の確率測度であり、$X$ の分布という(Axler20 12.27)。たとえば $\Omega=[0,1]$ に Lebesgue 測度を入れ、$X(\omega)=\omega^2$ とすると、$0\le t\le1$ について $P_X([0,t])=\lambda(\{\omega\mid\omega^2\le t\})=\lambda([0,\sqrt t])=\sqrt t$ である。さいころ 2 個の目の和の分布は、$\{1,\dots,6\}^2$ 上の一様な確率の、和をとる写像による像測度であり、$P_X(\{7\})=\frac16$ である。
上の性質の仮定を外すと、次のように結論が崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 上からの連続性の $\mu(E_0)<\infty$ | $\mathbb{N}$ 上の数え上げ測度、$E_k=\{k,k+1,\dots\}$ | $\mu\bigl(\bigcap_kE_k\bigr)=\lim_k\mu(E_k)$ |
| 差の公式・包除原理の有限性 | $\mathbb{N}$ 上の数え上げ測度、偶数全体と $\mathbb{N}$ | $\mu(F\setminus E)=\mu(F)-\mu(E)$ |
| 可算加法性(有限加法性だけにする) | $\mathcal{P}(\mathbb{N})$ 上で有限集合に $0$、無限集合に $\infty$ | 可算加法性、下からの連続性 |
| Borel–Cantelli の $\sum_n\mu(E_n)<\infty$($\mu(E_n)\to0$ に弱める) | $[0,1]$ を往復して動く区間の列 | ほとんどすべての点が有限個の $E_n$ にしか属さない |
| 定義域を σ-代数に制限すること | $\mathbb{R}$ のすべての部分集合 | 区間に長さを与え平行移動で変わらない測度の存在 |
$\mathbb{N}$ 上の数え上げ測度 $\#$ と $E_k:=\{k,k+1,k+2,\dots\}$ を考える。$(E_k)$ は減少列で、すべての $k$ について $\#(E_k)=\infty$ だが、$\bigcap_kE_k=\emptyset$ なので $\#\bigl(\bigcap_kE_k\bigr)=0\neq\infty=\lim_k\#(E_k)$ である。$\#$ は測度(可算加法性を満たす)で、$(E_k)$ は減少列だが、thm-measure-continuity の 2 の仮定 $\mu(E_0)<\infty$ を満たさない(Axler20 2.60 の前の注意は、この仮定が外せないことを節 2C の演習 10 で示すとしている)。Lebesgue 測度でも $E_k=[k,\infty)$ で同じことが起こる(Lebesgue測度 の記事の命題「測度の単調性と連続性」の後の注意)。
$\mathbb{N}$ 上の数え上げ測度で、$E$ を偶数全体、$F:=\mathbb{N}$ とすると、$E\subset F$、$\#(E)=\#(F)=\infty$ だが、$\#(F\setminus E)$(奇数全体の個数)は $\infty$ であり、$\#(F)-\#(E)=\infty-\infty$ は意味をもたない。$E=F=\mathbb{N}$ の 2 つの集合について包除原理の右辺 $\#(E)+\#(F)-\#(E\cap F)$ も同じく定まらない(包除原理 の記事の例「反例:無限集合では引き算が意味をもたない」)。一方、引き算を含まない形 $\#(E\cup F)+\#(E\cap F)=\#(E)+\#(F)$(prop-measure-basic の 3)は無限の値でも成り立つ。
$\mathcal{P}(\mathbb{N})$ の上で、$E$ が有限集合なら $\mu(E):=0$、無限集合なら $\mu(E):=\infty$ と定める。$\mu$ は有限加法的測度であるが、可算加法的でない。
互いに交わらない $E,F$ について、両方が有限なら $E\cup F$ も有限で $0=0+0$、少なくとも一方が無限なら $E\cup F$ も無限で $\infty=\infty$ である。一方、$\mathbb{N}=\bigcup_n\{n\}$ は互いに交わらない和だが、$\mu(\mathbb{N})=\infty\neq0=\sum_n\mu(\{n\})$ である。下からの連続性も破れている。$E_n:=\{0,1,\dots,n\}$ は $\mathbb{N}$ に増加するが $\mu(E_n)=0$、$\mu(\mathbb{N})=\infty$ である(thm-measure-additivity-continuity の 1 と整合する)。
$k\in\mathbb{N}$ と $0\le j<2^k$ について $n:=2^k+j$ とおき、$E_n:=[j2^{-k},(j+1)2^{-k}]$ と定める。$[0,1]$ 上の Lebesgue 測度で $\lambda(E_n)\to0$ だが、$\limsup_nE_n=[0,1]$ で、その測度は $1$ である。$\sum_n\lambda(E_n)=\sum_k2^k\cdot2^{-k}=\infty$ なので、thm-measure-borel-cantelli の仮定は満たされていない(Tao11 Exercise 1.4.45 は、仮定を $\mu(E_n)\to0$ に弱めると補題が成り立たないことを演習にしている)。
$n\ge1$ はこの形にただ 1 通りに書け、$\lambda(E_n)=2^{-k}$ である。各 $k$ について $E_{2^k},\dots,E_{2^{k+1}-1}$ の和集合は $[0,1]$ なので、すべての $x\in[0,1]$ は各 $k$ ごとに少なくとも 1 つの $E_n$ に属し、したがって無限個の $n$ について $E_n$ に属する。
次の 3 つを同時に満たす写像 $\mu\colon\mathcal{P}(\mathbb{R})\to[0,\infty]$ は存在しない(Axler20 2.22):(a) 開区間 $I$ について $\mu(I)$ は $I$ の長さ、(b) 可算加法性、(c) 平行移動で変わらない($\mu(A+t)=\mu(A)$)。証明は選択公理を使って作る Vitali 集合による(選択公理 の記事の例「Vitali集合の構成」、Lebesgue測度 の記事の注意「外測度は加法的でない」)。したがって長さを延長した測度は、すべての部分集合ではなく σ-代数(Lebesgue 可測集合の族 $\mathcal{L}$ や Borel集合 の族)の上で考える。外測度はすべての部分集合に定まるが、$\mathcal{P}(\mathbb{R})$ の上では測度でない(有限加法的でさえない)。測度の定義に σ-代数が入っている理由はここにある。
測度を具体的に作るのは、定義を確かめるより難しいことが多い。典型的な方法は、区間や直方体のような簡単な集合に大きさを与え、それを可算個の簡単な集合による被覆で外側から近似して外測度を作り、Carathéodory の条件を満たす集合の σ-代数に制限するものである(Lebesgue測度 の記事の定理「Carathéodoryの定理」)。$\mathbb{R}^n$ の Hausdorff 測度も同じ方法で作られる(Hausdorff測度と面積・余面積公式)。
測度空間 $(X,\mathcal{S},\mu)$ があれば、可測関数 $f\colon X\to[0,\infty]$ の積分 $\int f\,d\mu$ が定まる(Lebesgue積分 の記事の定義「単関数とその積分」「非負可測関数の積分」)。集合 $E$ の測度は、その特性関数 $\mathbf{1}_E$ の積分 $\int\mathbf{1}_E\,d\mu=\mu(E)$ である。数え上げ測度による積分は級数の和であり、確率測度による積分は期待値である。和と積分が同じ性質(線形性・単調性・極限との交換)をもつのは、どちらも測度による積分だからである(積分と和の類似)。
高校数学では、図形の面積について「重ならない図形に分けて足せる」「合同な図形の面積は等しい」ことを認めて使う(定積分と面積 の記事の注意「この記事で認める面積の性質」)。前者は平面の Lebesgue 測度の加法性であり、後者は Lebesgue 測度が平行移動や回転などで変わらないことにあたる(Lebesgue測度 の記事の注意「$\mathbb{R}^n$ の Lebesgue 測度の性質」)。区分求積と積分の定義 の記事の定義「測度0の集合」は、実数直線の Lebesgue 測度の零集合と同じものである(Lebesgue測度 の記事の例「区間・有理数・無理数・Cantor集合」)。さいころや硬貨の確率の計算規則(余事象、和事象の確率)は、確率測度についての prop-measure-basic と prop-measure-inclusion-exclusion である。
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