非Euclid幾何学

同義語:non-Euclidean geometry非ユークリッド幾何学非Euclid幾何

概要

非Euclid幾何学(non-Euclidean geometry)とは、平行線公準が成り立たない幾何の総称で、直線外の点を通る平行線が無数にある双曲幾何と、1本もない楕円幾何がある。双曲平面は、双曲面を原点から平面に射影した Beltrami–Klein モデルでは円板の弦を直線とし、Poincaré 円板とは $z\mapsto 2z/(1+|z|^2)$ で対応する。楕円平面は球面の向かい合う2点を同一視したもので、2点を通る直線はただ1本、どの2直線もただ1点で交わる。三角形の内角の和が楕円幾何では $\pi$ より大きく双曲幾何では小さいことは、Gauss 曲率と Gauss–Bonnet の定理で Euclid 幾何とともに統一的に説明される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Euclid幾何学, 平行線公準, 双曲幾何学

平行線公準が成り立たない幾何

非 Euclid 幾何学 とは、平行線公準が成り立たない平面(や空間)の幾何の総称である。直線 $\ell$ と $\ell$ の上にない点 $P$ について、$P$ を通り $\ell$ と交わらない直線が

  • 2 本以上(実は無数に)ある幾何を 双曲幾何、
  • 1 本もない幾何を 楕円幾何
    という(Hit18 §1.2、p. 5)。双曲幾何では三角形の内角の和が $180^\circ$ より小さく、楕円幾何では大きい。
    2 つの非 Euclid 幾何は対等ではない。長さと角を実数で測る中立平面(平行線公準 の定義「中立平面」)では、直線外の点を通る平行線が必ず 1 本はある(平行線公準(高校数学) の系「平行線の存在」)。そのため中立平面は、平行線がどこでも 1 本の Euclid 平面か、どこでも無数の双曲平面のどちらかで(平行線公準 の定理「平行線公準が 1 か所で崩れるとき」)、楕円幾何は中立平面のほかの公理のいくつかを変えなければ作れない(Lee18 p. 144)。
    この記事では、2 つの非 Euclid 幾何の模型を 1 つずつ詳しく調べる。
  1. 双曲平面を円板の中に描き、双曲直線がまっすぐな弦になる Beltrami–Klein モデル。双曲面からの射影として作り、距離の公式と、Poincaré 円板との対応を示す。→ thm-neg-klein
  2. 球面の向かい合う 2 点を同じ点とみなした 楕円平面。2 点を通る直線がただ 1 本で、どの 2 直線もただ 1 点で交わり、距離が入ることを示す。→ thm-neg-elliptic
    最後に、Euclid 幾何を含めた 3 つの幾何を、内角の和・面積・円周・曲率で比べる。

歴史

平行線公準の問題と非 Euclid 幾何の誕生

Euclid『原論』の第 5 公準(平行線公準)は、ほかの公準より長く複雑で、ほかの公準から証明しようとする試みが長く続いた(Hit18 §1.2、pp. 3–4。Saccheri と Legendre の仕事は Saccheri–Legendreの定理)。19 世紀前半、J. Bolyai と N. Lobachevsky がそれぞれ独立に、平行線公準だけを否定しても矛盾のない幾何が展開できることを見いだした。Gauss も同じ幾何を見いだしていたが発表しなかった(同 pp. 4–5)。これが双曲幾何である。
1868 年、E. Beltrami は双曲幾何を Euclid 平面の中に作り、Euclid 幾何が矛盾しない限り双曲幾何も矛盾しないことを示した(同 p. 6)。F. Klein は、空間とそこに働く変換の群の組で幾何を捉える Erlangen プログラムの立場から、Euclid 幾何・双曲幾何・楕円幾何を 1 つの枠組みで扱った(同 p. 6)。Hilbert は公理系を整え、球の内部に作った模型によって平行線の公理がほかの公理から証明できないことを示した(Hil02 §10、p. 19)。楕円幾何は Riemann の名と結びつけて呼ばれる(Hil02 pp. 80–82 は「Riemann の(楕円)幾何」とよぶ)。

双曲幾何の模型:Beltrami–Klein モデル

双曲空間 の双曲面モデルを 2 次元で使う。$\mathbb R^3$ に
$$ \langle x,y\rangle=x_1y_1+x_2y_2-x_3y_3 $$
を考え、$H^2=\{x\in\mathbb R^3\mid\langle x,x\rangle=-1,\ x_3>0\}$ とする。$H^2$ の 2 点の距離 $d$ は $\cosh d(x,y)=-\langle x,y\rangle$ で与えられ、$p\in H^2$ と $\langle p,v\rangle=0$、$\langle v,v\rangle=1$ を満たす $v$ について、$\gamma(t)=\cosh t\,p+\sinh t\,v$ が $p$ を通る測地線(双曲直線)のすべてである(双曲空間 の定理「測地線と距離の公式」、半径 $a=1$)。また、$p$ での接ベクトルは $\langle p,v\rangle=0$ を満たすベクトルで、その上で $\langle\ ,\ \rangle$ は正定値である(同 補題「双曲面の計量は正定値」)。
$\mathbb R^3$ の点を $x=(\bar x,x_3)$($\bar x\in\mathbb R^2$)と書き、$\mathbb R^2$ の普通の内積を $\bar x\cdot\bar y$ と書く。

Beltrami–Klein モデル

$K=\{w\in\mathbb R^2\mid|w|<1\}$ とし、$\beta\colon H^2\to K$ を $\beta(\bar x,x_3)=\bar x/x_3$ で定める(原点から見て、$H^2$ の点を平面 $x_3=1$ に射影する)。$K$ の 2 点の距離を
$$ d_K(p,q)=d\bigl(\beta^{-1}(p),\beta^{-1}(q)\bigr) $$
で定めたものを Beltrami–Klein モデル(Klein モデル)という。$\mathbb R^2$ の直線 $L$ が $K$ と交わるとき、$L\cap K$ を 開いた弦 という。

Beltrami–Klein モデル
  1. $\beta$ は全単射で、逆写像は $\beta^{-1}(w)=\dfrac{(w,1)}{\sqrt{1-|w|^2}}$ である。
  2. $\beta$ は $H^2$ の各測地線を $K$ の開いた弦の上へ移し、$K$ のどの開いた弦もこうして得られる。つまり Beltrami–Klein モデルの直線は、円板の開いた弦である。
  3. $p,q\in K$ について
    $$ \cosh d_K(p,q)=\frac{1-p\cdot q}{\sqrt{(1-|p|^2)(1-|q|^2)}} $$
    である。とくに $d_K(0,q)=\dfrac12\log\dfrac{1+|q|}{1-|q|}$ である。
  4. $\sigma(\bar x,x_3)=\dfrac{\bar x}{1+x_3}$ を $H^2$ から Poincaré 円板 $D=\{|z|<1\}$ への写像(双曲空間 の定理「上半空間モデルと球体モデル」の 2)とすると、$\beta\circ\sigma^{-1}\colon D\to K$ は
    $$ \kappa(z)=\frac{2z}{1+|z|^2} $$
    である。$\kappa$ は Poincaré 円板の双曲直線(直径と、単位円に直交する円の $D$ の中の部分)を、$K$ の開いた弦に移す。
原点からの射影で平面を直線に移す
  1. $x\in H^2$ なら $x_3^2=1+|\bar x|^2>|\bar x|^2$ なので $|\beta(x)|<1$ である。$w\in K$ について $y=(w,1)/\sqrt{1-|w|^2}$ とおくと、$\langle y,y\rangle=\dfrac{|w|^2-1}{1-|w|^2}=-1$、$y_3>0$ で、$\beta(y)=w$ である。逆に $\beta(x)=w$ なら $x=x_3(w,1)$ で、$\langle x,x\rangle=-1$ から $x_3=1/\sqrt{1-|w|^2}$ と決まる。
  2. 段 1(測地線は平面と $H^2$ の交わり)。測地線 $\gamma(t)=\cosh t\,p+\sinh t\,v$ は 2 次元部分空間 $\Pi=\operatorname{span}\{p,v\}$ に含まれる。逆に $x=ap+bv\in\Pi\cap H^2$ なら、$\langle p,p\rangle=-1$、$\langle p,v\rangle=0$、$\langle v,v\rangle=1$ から $-a^2+b^2=-1$ で、$a=\pm\cosh t$、$b=\sinh t$ となる $t$ がある。$a=-\cosh t$ なら $x=-\gamma(-t)$ で、$\gamma(-t)\in H^2$ の第 3 成分は正なので $x_3< 0$ となり、$x\in H^2$ に反する。よって $\Pi\cap H^2=\gamma(\mathbb R)$ である。
    段 2(像は弦)。$x\in H^2$ について、$x\in\Pi$ と $(\beta(x),1)=x/x_3\in\Pi$ は同値である。$\Pi$ は第 3 成分が正の点 $p$ を含むので平面 $x_3=0$ とは異なり、$L_\Pi=\{w\in\mathbb R^2\mid(w,1)\in\Pi\}$ は $\mathbb R^2$ の直線である。1 と段 1 から、$\beta(\gamma(\mathbb R))=\beta(\Pi\cap H^2)=L_\Pi\cap K$ で、これは $\beta(p)$ を含む開いた弦である。
    段 3(どの弦も現れる)。直線 $L$ が $K$ と交わるとき、$\{(w,1)\mid w\in L\}$ が張る 2 次元部分空間を $\Pi$ とし、$w_0\in L\cap K$ をとって $p=\beta^{-1}(w_0)\in\Pi\cap H^2$ とする。$\Pi$ の上で 1 次式 $y\mapsto\langle p,y\rangle$ は $p$ で $-1\ne0$ なので、その核 $\{y\in\Pi\mid\langle p,y\rangle=0\}$ は 1 次元である。その 0 でない元は $p$ での接ベクトルなので $\langle\ ,\ \rangle$ が正で、長さ 1 に正規化したものを $v$ とすると、測地線 $\gamma(t)=\cosh t\,p+\sinh t\,v$ について段 2 から $\beta(\gamma(\mathbb R))=L\cap K$ である。
  3. $x=\beta^{-1}(p)$、$y=\beta^{-1}(q)$ について
    $$ -\langle x,y\rangle=-\frac{p\cdot q-1}{\sqrt{(1-|p|^2)(1-|q|^2)}}=\frac{1-p\cdot q}{\sqrt{(1-|p|^2)(1-|q|^2)}} $$
    である。$p=0$、$|q|=r$ なら $\cosh d_K=\dfrac1{\sqrt{1-r^2}}$ で、$d=\dfrac12\log\dfrac{1+r}{1-r}$ について $e^{d}=\sqrt{\dfrac{1+r}{1-r}}$ を $\cosh d=\dfrac{e^d+e^{-d}}2$ に代入すると $\dfrac1{\sqrt{1-r^2}}$ になる。
  4. $z\in D$ について $y=\dfrac{(2z,\ 1+|z|^2)}{1-|z|^2}$ とおくと、$\langle y,y\rangle=\dfrac{4|z|^2-(1+|z|^2)^2}{(1-|z|^2)^2}=-1$、$y_3>0$ で、$1+y_3=\dfrac2{1-|z|^2}$ から $\sigma(y)=z$ である。$\sigma$ は全単射なので $\sigma^{-1}(z)=y$ で、$\beta(y)=\dfrac{2z}{1+|z|^2}=\kappa(z)$ である。$\sigma$ は $H^2$ から Poincaré 円板への等長写像なので、$H^2$ の測地線を Poincaré 円板の双曲直線に移す。よって $\kappa=\beta\circ\sigma^{-1}$ は Poincaré 円板の双曲直線を、2 により $K$ の開いた弦に移す。$\square$

$\kappa$ が単位円に直交する円の弧を弦に移すことは、直接の計算でも確かめられる。

直交する円の弧が弦に移ること

単位円に直交する円は、中心 $c\in\mathbb C$($|c|>1$)、半径 $R$ で $R^2=|c|^2-1$ を満たす(交点で 2 つの半径が直交するので三平方の定理)。その上の点 $z$ は $|z-c|^2=|c|^2-1$、つまり
$$ 2\operatorname{Re}(\bar cz)=1+|z|^2 $$
を満たす。$w=\kappa(z)$ とおくと $\operatorname{Re}(\bar cw)=\dfrac{2\operatorname{Re}(\bar cz)}{1+|z|^2}=1$ で、$w$ は直線 $\operatorname{Re}(\bar cw)=1$ の上にある。この直線と原点の距離は $1/|c|<1$ なので、直線は $K$ と交わる。たとえば $c=2$、$R=\sqrt3$ の円の $D$ の中の弧は、直線 $\operatorname{Re}w=\frac12$ の $K$ の中の部分に移る。弧の上の点 $z=2-\sqrt3$(実軸との交点)は $\kappa(z)=\dfrac{2(2-\sqrt3)}{1+(7-4\sqrt3)}=\dfrac{2-\sqrt3}{4-2\sqrt3}=\dfrac12$ に移る。

Beltrami–Klein モデルでは直線がまっすぐなので、平行線が無数にあることが Euclid 平面の図のまま見える。

Beltrami–Klein モデルの平行線

$K$ の開いた弦 $\ell$ の両端(単位円の上の点)を $a$、$b$ とし、$P\in K$ を $\ell$ の上にない点とする。$P$ を通る開いた弦が $\ell$ と交わらないのは、その弦の向きが角 $\angle aPb$ の外にあるとき(弦が直線 $Pa$ または $Pb$ の上にある場合を含む)に限る。とくに $P$ を通り $\ell$ と交わらない直線は無数にあり、そのうち $\ell$ と端点を共有するもの(極限平行線)はちょうど 2 本である。

線分 ab と交わる直線の向きを数える

$\ell$ は普通の開いた線分 $ab$(両端を除く)そのもので、$K$ に含まれる。$P$ を通る直線 $L$ について、開いた弦 $L\cap K$ が $\ell$ と交わることは、$L$ が開いた線分 $ab$ と交わることと同値である(交点は $\ell\subset K$ の上にあるので、自動的に $K$ に入る)。$P$ は直線 $ab$ の上にないので $0<\angle aPb<\pi$ で、$P$ を通る直線のうち開いた線分 $ab$ と交わるのは、半直線 $Pa$ と $Pb$ にはさまれた向き(角 $\angle aPb$ の内部を通る向き)のものに限る。$P$ を通る直線の向きは $\pi$ の幅の範囲を動くので、残りの幅 $\pi-\angle aPb>0$ の向きの直線はどれも $\ell$ と交わらない。そのうち、直線 $Pa$、$Pb$ の弦だけが端点 $a$ または $b$ を $\ell$ と共有する。$\square$

双曲幾何学 の命題「平行線は無数にある」は上半平面で同じことを示している。極限平行線が $\ell$ と「無限遠の点」を共有することは、Beltrami–Klein モデルでは単位円の上の端点の共有として見える。

角は普通の角と一致しない

Poincaré 円板では双曲的な角は普通の角と同じである(計量が普通の計量の正の関数倍なので)。$\kappa$ を $z=\rho$($0<\rho<1$)の近くで見ると、$\kappa$ は半径方向を $g'(\rho)=\dfrac{2(1-\rho^2)}{(1+\rho^2)^2}$ 倍、円周方向を $\dfrac{g(\rho)}{\rho}=\dfrac2{1+\rho^2}$ 倍に伸ばす($g(\rho)=\dfrac{2\rho}{1+\rho^2}$)。2 つの倍率の比は $\dfrac{1+\rho^2}{1-\rho^2}>1$ なので、Poincaré 円板で半径方向と $45^\circ$ をなす向きは、$K$ では半径方向と $\arctan\dfrac{1+\rho^2}{1-\rho^2}>45^\circ$ をなす向きに移る。よって $K$ では、原点以外の点で双曲的な角を普通の角で測ることはできない。直線がまっすぐになる代わりに、角が歪む。

楕円幾何の模型:楕円平面

球面 $S^2$ で大円を直線とすると、どの 2 本の大円も交わるので平行線はない。しかし北極と南極のように向かい合う 2 点を通る大円は無数にあり、「2 点を通る直線はただ 1 本」が成り立たない(Lee18 p. 144)。向かい合う 2 点を同じ点とみなせば、この不都合が消える。

楕円平面

$\mathbb R^3$ の原点を通る直線(1 次元部分空間)を 点 とし、原点を通る平面(2 次元部分空間)を 直線 とする。点は単位ベクトル $u$ で $[u]=\mathbb Ru$ と表され、$[u]=[-u]$ である。点 $[u]$ が直線 $\Pi$ の上にあるとは $u\in\Pi$ のことである。2 点の距離を
$$ d([u],[v])=\arccos|u\cdot v|\qquad(u,v\text{ は単位ベクトル}) $$
で定める。これを 楕円平面 という。点の全体は実射影平面 $\mathbb{RP}^2$(射影平面)で、球面の向かい合う 2 点を同一視したものである(Lee18 Example 5.30、p. 145)。

単位ベクトル $u$、$v$ について、$\theta(u,v)=\arccos(u\cdot v)\in[0,\pi]$ を球面の上の距離(大円の弧の長さ)とする。

球面の三角不等式

単位ベクトル $u$、$v$、$w$ について $\theta(u,w)\le\theta(u,v)+\theta(v,w)$ である。

$v$ に直交する成分に分ける

$a=\theta(u,v)$、$b=\theta(v,w)$ とおく。$a+b\ge\pi$ なら $\theta(u,w)\le\pi$ から明らかなので、$a+b<\pi$ とする。$a=0$ なら $u=v$ で明らかであり、$b=0$ も同じなので、$0< a,b<\pi$ としてよい。$p=\dfrac{u-\cos a\,v}{\sin a}$、$q=\dfrac{w-\cos b\,v}{\sin b}$ とおくと、$p\cdot v=\dfrac{\cos a-\cos a}{\sin a}=0$、$|p|^2=\dfrac{1-2\cos^2a+\cos^2a}{\sin^2a}=1$ で、$q$ も同じである。$u=\cos a\,v+\sin a\,p$、$w=\cos b\,v+\sin b\,q$ から
$$ u\cdot w=\cos a\cos b+\sin a\sin b\,(p\cdot q)\ge\cos a\cos b-\sin a\sin b=\cos(a+b) $$
である($\sin a,\sin b>0$、$p\cdot q\ge-1$)。$\arccos$ は減少関数で $0< a+b<\pi$ なので、$\theta(u,w)\le a+b$ である。$\square$

楕円平面
  1. 相異なる 2 点を通る直線はちょうど 1 本ある。相異なる 2 直線はちょうど 1 点で交わる。とくに平行な 2 直線はない。
  2. $d$ は楕円平面の上の距離で、$0\le d\le\dfrac\pi2$ である。
  3. 直線 $\Pi$ の正規直交基底 $e_1$、$e_2$ をとり、$e(s)=\cos s\,e_1+\sin s\,e_2$ とおくと、$s\mapsto[e(s)]$ は $[0,\pi)$ から $\Pi$ の上の点全体への全単射で、$0\le s\le t<\pi$ について
    $$ d([e(s)],[e(t)])=\min\{t-s,\ \pi-(t-s)\} $$
    である。つまり直線は、周の長さ $\pi$ の円周と同じ形をしている。
部分空間の次元と符号の選び方
  1. $[u]\ne[v]$ なら $u$、$v$ は 1 次独立で、両方を含む 2 次元部分空間は $\operatorname{span}\{u,v\}$ だけである。相異なる 2 次元部分空間 $\Pi_1$、$\Pi_2$ については $\Pi_1+\Pi_2=\mathbb R^3$ なので、$\dim(\Pi_1\cap\Pi_2)=2+2-3=1$ で、共有点はちょうど 1 つである(射影平面 の定理「体の上の射影平面は公理をみたす」と同じ議論)。
  2. $|u\cdot v|$ は $u$、$v$ の符号の選び方によらず、Cauchy–Schwarz の不等式により $0$ 以上 $1$ 以下なので、$d$ は well-defined で $0\le d\le\frac\pi2$ である。$d([u],[v])=0$ は $|u\cdot v|=1$、つまり $u=\pm v$(Cauchy–Schwarz の等号)と同値で、これは $[u]=[v]$ のことである。対称性は明らかである。三角不等式を示す。$\arccos|c|=\min\{\arccos c,\arccos(-c)\}$ なので、$d([u],[v])=\min\{\theta(u,v),\theta(u,-v)\}$ である。3 点 $[u]$、$[v]$、$[w]$ について、必要なら $v$ を $-v$ に替えて $u\cdot v\ge0$、次に $w$ を $-w$ に替えて $v\cdot w\ge0$ とする。このとき $d([u],[v])=\theta(u,v)$、$d([v],[w])=\theta(v,w)$ で、lem-neg-sphere-triangle から
    $$ d([u],[w])\le\theta(u,w)\le\theta(u,v)+\theta(v,w)=d([u],[v])+d([v],[w]) $$
    である。
  3. $\Pi$ の単位ベクトルは $e(s)$($0\le s<2\pi$)の形で、$e(s+\pi)=-e(s)$ なので、$\Pi$ の上の点はどれも $s\in[0,\pi)$ の $[e(s)]$ と書ける。$e(s)\cdot e(t)=\cos(t-s)$ なので $d=\arccos|\cos(t-s)|$ で、$0\le t-s<\pi$ ならこれは $\min\{t-s,\pi-(t-s)\}$ に等しい。$s\ne t$ なら $d>0$ なので、写像は単射でもある。$\square$

1 により楕円平面は平行線を 1 本ももたないが、これは中立平面で平行線が必ずあることと矛盾しない。楕円平面では直線を 1 本除いても残りはつながっていて、直線が平面を 2 つの側に分けない。距離も $\frac\pi2$ を越えない。中立平面の公理のうち順序と長さの公理が成り立っていない(平行線公準 の例「比較:球面と楕円平面」)。

直角を 3 つもつ三角形

楕円平面の 3 点 $[e_1]$、$[e_2]$、$[e_3]$(標準基底)は、どの 2 点の距離も $\arccos0=\frac\pi2$ である。2 点ずつを結ぶ 3 本の直線は座標平面 $x_3=0$、$x_1=0$、$x_2=0$ で、どの 2 本も直交する。これらを球面に戻すと、球面を 8 等分した三角形(内角はどれも $90^\circ$)になる(球面三角形の面積 の例「球面を 8 等分した三角形」)。内角の和は $270^\circ$ で、面積は $\frac{4\pi}8=\frac\pi2$ である。これは内角の和から $\pi$ を引いた $\frac{3\pi}2-\pi=\frac\pi2$ に等しい。

楕円平面の三角形の面積が内角の和から $\pi$ を引いたものに等しいことは一般に成り立ち(Hit18 Theorem 6.3.12、p. 137)、とくに内角の和はいつも $\pi$ より大きい。球面の上では、同じ公式が 球面三角形の面積 の定理「球面三角形の面積の公式」(Girard の定理)である。

3 つの幾何の比べ方

曲率を $1$、$0$、$-1$ にそろえて、楕円平面・Euclid 平面・双曲平面を比べる。

楕円幾何Euclid 幾何双曲幾何
1 点を通る平行線0 本(thm-neg-elliptic)1 本無数(cor-neg-klein-parallel)
三角形の内角の和 $\alpha+\beta+\gamma$$\pi$ より大きい$\pi$$\pi$ より小さい
三角形の面積$(\alpha+\beta+\gamma)-\pi$角だけでは決まらない$\pi-(\alpha+\beta+\gamma)$
半径 $r$ の円周$2\pi\sin r$($r<\frac\pi2$)$2\pi r$$2\pi\sinh r$
主な模型楕円平面、球面(2 点を通る直線の一意性を除く)座標平面上半平面、Poincaré 円板、Beltrami–Klein モデル、双曲面

面積の行は、楕円平面について Hit18 Theorem 6.3.12(p. 137)、双曲平面について 双曲幾何の三角形 の定理「双曲三角形の面積」による。円周の行は、楕円平面について Hit18 Theorem 6.3.7(p. 135)、双曲平面について 双曲幾何学 の例「双曲平面の円」による。球面では、北極から距離 $r$ の点の全体は高さ $\cos r$ の緯線で、普通の半径が $\sin r$ なので円周は $2\pi\sin r$ である。楕円平面では、直交行列が距離を保ってどの点も $[e_3]$ に移すので、中心を $[e_3]$ としてよい。$[e_3]$ から距離 $r<\frac\pi2$ の点 $[u]$ は $\lvert u_3\rvert=\cos r$ を満たし、高さ $\cos r$ と $-\cos r$ の 2 本の緯線が $u\mapsto-u$ で 1 本に重なるので、円周はやはり $2\pi\sin r$ である。Euclid 平面では合同でない相似な三角形があるが、双曲平面では角が等しい三角形は合同である(平行線公準 の定理「平行線公準が 1 か所で崩れるとき」)。
3 つの幾何は、Gauss–Bonnetの定理 の命題「測地三角形の角度の過不足」
$$ (\alpha+\beta+\gamma)-\pi=\int_TK\,dA $$
で 1 つにまとまる。Gauss 曲率 $K$ が $1$ なら右辺は面積、$-1$ なら面積の $-1$ 倍、$0$ なら $0$ で、面積の行の 3 つの式がそろって出てくる。曲率が一定の完備で単連結な曲面は、球面・Euclid 平面・双曲平面(を拡大・縮小したもの)に限られる(Lee18 Theorem 12.4、p. 348。Killing–Hopf の定理)。楕円平面は、そのうちの球面の向かい合う 2 点を同一視して得られる。

連続の公理を外したときの非 Euclid 幾何

平行線の本数と内角の和の対応は、長さを実数で測ることに依存している。Hilbert の公理系から Archimedes の公理を外すと、平行線が無数にあるのに内角の和が 2 直角に等しい平面(半 Euclid 幾何)や、2 直角より大きい平面(非 Legendre 幾何)が作れる。一方、平行線が 1 本もなければ、内角の和は 2 直角より大きくなる(M. Dehn の結果。Hil02 pp. 80–82)。2 つの非 Euclid 幾何は、連続の公理に対してもふるまいが大きく異なる。

例と反例

thm-neg-klein と thm-neg-elliptic の作り方の条件を 1 つずつ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
楕円平面で $u$ と $-u$ を同じ点とすること球面 $S^2$ と大円2 点を通る直線がただ 1 本であること(北極と南極を通る大円は無数)
双曲面の上の葉だけをとること($x_3>0$)2 葉双曲面 $\{\langle x,x\rangle=-1\}$ 全体$\beta$ が単射であること($x$ と $-x$ が同じ点に移る)
Beltrami–Klein モデルで円板を開いた円板にとること閉じた円板 $\lvert w\rvert\le1$距離が定まること($\lvert w\rvert=1$ では $\beta^{-1}$ が定義できず、thm-neg-klein の 3 の分母が $0$)

関連項目

参考文献

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