Green作用素

同義語:Green operatorGreen's operator

概要

Green作用素(Green operator)とは、コンパクトで境界のない多様体上のベクトル束に働く形式的に自己随伴な楕円型微分作用素 $L$ に対し、核 $\mathcal H_L$ への直交射影を $H$ として $LG=GL=I-H$、$HG=GH=0$ を満たす作用素 $G$ のことで、核の直交補空間の上の $L$ の逆を核の上で $0$ として延ばしたものである。核は滑らかな切断からなる有限次元空間で、$L^2$ は核と像に直交分解され、$G$ はただ一つ存在して $L$ の階数だけ滑らかさを上げる。$G$ は $L$ と可換な作用素と可換で、$L^2$ 上のコンパクトな自己随伴作用素として $L$ の固有切断で対角化される。Laplace–de Rham 作用素に当てたものが Hodge の定理に現れる Green 作用素である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 楕円型作用素, 楕円正則性, Rellichの定理, Hodgeの定理

Green作用素(Green operator)とは、コンパクトで境界のない多様体 $M$ 上のベクトル束 $E$ に働く、形式的に自己随伴な楕円型微分作用素 $L$ に対して、$L$ の核 $\mathcal H_L$ への直交射影を $H$ とするとき
$$ LG=GL=I-H,\qquad HG=GH=0 $$
を満たす作用素 $G$ のことである。$L$ は核の上では逆をもたないが、核の直交補空間の上では可逆であり、その逆を核の上では $0$ として延ばしたものが $G$ である。
Green 作用素の存在は「$L u=f$ が解けるのは $f$ が核に直交するときで、解は核の直交補空間の中にただ一つある」ことの言い換えであり、閉多様体の上で方程式を解くときの基本の道具になる。Laplace–de Rham 作用素の Green 作用素は Hodgeの定理 で、微分形式の Hodge 分解と de Rham コホモロジーの調和形式による表現を導くのに使われている。この記事では、一般の自己随伴な楕円型作用素について Green 作用素を作り、その性質($L$ と可換な作用素との可換性、Sobolev 空間での評価、固有関数展開)を証明する。楕円型複体への応用は 楕円型複体 で扱う。

設定

以下、$M$ は $n$ 次元($n\ge1$)のコンパクトで境界のない $C^\infty$ 級多様体(連結とは仮定しない)、$dV$ は $M$ 上の滑らかな正の密度(たとえば Riemann 計量の体積要素)、$E$ は Hermite 計量 $\langle\ ,\ \rangle$ をもつ複素ベクトル束とする。切断の $L^2$ 内積とノルムを
$$ \langle\!\langle u,v\rangle\!\rangle=\int_M\langle u(x),v(x)\rangle\,dV(x),\qquad\|u\|^2=\langle\!\langle u,u\rangle\!\rangle $$
とおき、$L^2(M,E)$ をその完備化とする。整数 $k\ge0$ について、$W^k(M,E)$ を $k$ 階までの弱導関数が $L^2$ に入る切断の Sobolev 空間、$\|\cdot\|_k$ をそのノルムとする(有限個の座標近傍と 1 の分割で定める。Hodgeの定理 の節「形式の Sobolev 空間」と同じ定め方で、楕円正則性 の記事の $H^k(M,F)$ と同じものである)。
$L\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,E)$ を $m$ 階($m\ge1$)の微分作用素、$L^*$ をその形式的随伴とする(楕円型作用素 の節「合成と形式的随伴」)。$L^*=L$ のとき $L$ は形式的に自己随伴であるという。$u,f\in L^2(M,E)$ について、すべての $\varphi\in C^\infty(M,E)$ で $\langle\!\langle u,L^*\varphi\rangle\!\rangle=\langle\!\langle f,\varphi\rangle\!\rangle$ が成り立つとき、超関数の意味で $Lu=f$ という。

引用する解析的事実

次の 3 つはこの記事では証明しない。

  1. (Sobolev 空間)$W^k(M,E)$ は Hilbert 空間で、$\|\cdot\|_0$ は $\|\cdot\|$ と同値なノルムである。$C^\infty(M,E)$ は $W^k(M,E)$ で稠密で、$m$ 階の微分作用素は有界作用素 $W^{k+m}(M,E)\to W^k(M,E)$ に延びる。$\bigcap_kW^k(M,E)=C^\infty(M,E)$ である(Sobolev の補題)。
  2. (Rellich の定理)包含 $W^{k+1}(M,E)\hookrightarrow W^k(M,E)$ はコンパクト作用素である。
  3. (楕円正則性と Gårding の不等式)$L$ が楕円型で、$u\in L^2(M,E)$ について超関数の意味の $Lu$ が $W^k(M,E)$ に入るなら、$u\in W^{k+m}(M,E)$ であり、$u$ によらない定数 $C_k$ について $\|u\|_{k+m}\le C_k\bigl(\|Lu\|_k+\|u\|_0\bigr)$ が成り立つ。
    1 は Wel08 Ch. IV §1(pp. 110–111。Sobolev の補題は Proposition 1.1)と Proposition 2.2(p. 114)、Dem12 Ch. VI (2.1)、Hodgeの定理 の注意「引用する解析的事実」の 1、2 は Dem12 Ch. VI (2.2) と Rellichの定理 の定理「Rellichの定理(コンパクト多様体)」、3 は Dem12 Ch. VI (2.3)(p. 289)と 楕円正則性 の定理「閉多様体上の楕円正則性」である。
Sobolev 空間での部分積分

$u\in W^m(M,E)$ について、有界作用素 $L\colon W^m\to L^2$ による $Lu$ は超関数の意味の $Lu$ と一致する。すなわち、すべての $\varphi\in C^\infty(M,E)$ で $\langle\!\langle Lu,\varphi\rangle\!\rangle=\langle\!\langle u,L^*\varphi\rangle\!\rangle$ である。

$u$ が滑らかなら形式的随伴の定義そのものである。一般の $u$ は、rem-green-cited の 1 により $W^m$ で $u$ に収束する滑らかな切断の列 $u_j$ で近似する。$Lu_j\to Lu$、$u_j\to u$ が $L^2$ で成り立つので、$u_j$ についての等式で極限をとればよい。$\square$

核の有限次元性と下からの評価

次の補題は自己随伴性を使わない。Hodge数の上半連続性 でもこの形で使う。

楕円型作用素の核と核の補空間での評価

$L\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,E)$ を $m$ 階($m\ge1$)の楕円型作用素とし、$\mathcal H_L:=\{u\in C^\infty(M,E)\mid Lu=0\}$ とおく。

  1. 超関数の意味で $Lu=0$ を満たす $u\in L^2(M,E)$ は滑らかで、$\mathcal H_L$ に属する。$\mathcal H_L$ は有限次元である。
  2. 定数 $C>0$ があって、$\mathcal H_L$ に $L^2$ 内積で直交するすべての $u\in W^m(M,E)$ について $\|u\|_m\le C\|Lu\|$ が成り立つ。

1.超関数の意味で $Lu=0$ なら、rem-green-cited の 3 によりすべての $k$ で $u\in W^{k+m}$ であり、同 1 から $u$ は滑らかである。滑らかな $u$ では $\langle\!\langle u,L^*\varphi\rangle\!\rangle=\langle\!\langle Lu,\varphi\rangle\!\rangle$ なので、$Lu=0$ が通常の意味で成り立つ。次に有限次元性を示す。$\mathcal H_L$ は超関数の意味の解の全体と一致するので $L^2$ で閉じている($\langle\!\langle u,L^*\varphi\rangle\!\rangle=0$ は $u$ について $L^2$ 連続な条件である)。$u\in\mathcal H_L$ には同 3 の評価が $\|u\|_m\le C_0\|u\|_0$ の形で当てはまる。したがって $\mathcal H_L$ の $L^2$ の閉単位球は $W^m$ で有界であり、包含 $W^m\hookrightarrow W^0$ はコンパクト(同 2 のコンパクトな包含 $W^m\hookrightarrow W^{m-1}$ と連続な包含の合成)なので、閉単位球は $L^2$ で相対コンパクトかつ閉、すなわちコンパクトである。閉単位球がコンパクトな Hilbert 空間は有限次元である(コンパクト作用素 の例「無限次元の恒等作用素」)。
2.成り立たないとすると、$\mathcal H_L$ に直交する $u_j\in W^m$ で $\|u_j\|_m=1$、$\|Lu_j\|\to0$ となるものがある。包含 $W^m\hookrightarrow L^2$ はコンパクトなので、部分列に取り替えて $u_j$ は $L^2$ で収束するとしてよい。rem-green-cited の 3 を $k=0$ で $u_j-u_l$ に当てると(lem-green-parts により超関数の意味の $L(u_j-u_l)$ は $L^2$ に入る)
$$ \|u_j-u_l\|_m\le C_0\bigl(\|Lu_j-Lu_l\|_0+\|u_j-u_l\|_0\bigr)\longrightarrow0 $$
なので $u_j$ は $W^m$ の Cauchy 列で、極限 $u\in W^m$ は $\|u\|_m=1$ を満たす。$L\colon W^m\to L^2$ は有界なので $Lu=\lim Lu_j=0$ であり、lem-green-parts から $u$ は超関数の意味でも $Lu=0$ を満たす。1 により $u\in\mathcal H_L$ である。一方 $\mathcal H_L^\perp$ は $L^2$ で閉じていて $u_j\to u$ は $L^2$ でも成り立つので $u\perp\mathcal H_L$ であり、$u=0$ となって $\|u\|_m=1$ に反する。$\square$

2 の評価の右辺に $\|u\|$ の項がないことが、核の補空間に制限したことの効果である。Gårding の不等式 $\|u\|_m\le C_0(\|Lu\|+\|u\|)$ の弱いノルムの項を、Rellich の定理による背理法で取り除いている。

主定理:Green 作用素の存在

以下、$L$ は形式的に自己随伴な $m$ 階($m\ge1$)の楕円型作用素とする。$\mathcal H_L$ の元を $L$ 調和な切断という。$\mathcal H_L$ は有限次元なので、$L^2$ の正規直交基底 $h_1,\dots,h_r$ をとり
$$ Hf:=\sum_{i=1}^r\langle\!\langle f,h_i\rangle\!\rangle\,h_i\qquad(f\in L^2(M,E)) $$
とおく。$H$ は $\mathcal H_L$ への直交射影で、基底の選び方によらず、像は滑らかな切断からなる。

Green 作用素の存在と性質

$L\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,E)$ を形式的に自己随伴な $m$ 階($m\ge1$)の楕円型作用素とする。

  1. $L^2$ 内積について直交する直和分解
    $$ L^2(M,E)=\mathcal H_L\oplus L\bigl(W^m(M,E)\bigr),\qquad C^\infty(M,E)=\mathcal H_L\oplus L\bigl(C^\infty(M,E)\bigr) $$
    が成り立つ。
  2. 各 $f\in L^2(M,E)$ に対し、$Lu=f-Hf$ かつ $u\perp\mathcal H_L$ を満たす $u\in W^m(M,E)$ がただ一つある。これを $Gf$ と書くと、$G$ は線形で、整数 $k\ge0$ ごとの定数 $C'_k$ について $\|Gf\|_{k+m}\le C'_k\|f\|_k$($f\in W^k$)が成り立つ。とくに $G$ は $C^\infty(M,E)$ を $C^\infty(M,E)$ に写す。
  3. $C^\infty(M,E)$ の上で $LG=GL=I-H$、$HG=GH=0$ である。
  4. $G$ は $L^2$ の上で自己随伴である:$\langle\!\langle Gf,g\rangle\!\rangle=\langle\!\langle f,Gg\rangle\!\rangle$($f,g\in L^2(M,E)$)。

$G$ を $L$ の Green 作用素という。$G$ は $\mathcal H_L^\perp$ の上の $L$ の逆を $\mathcal H_L$ の上で $0$ として延ばしたものであり、2 の一意性から、3 の等式 $LG=I-H$、$HG=0$ を満たす線形写像 $C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,E)$ は $G$ だけである。

像が閉じていること.$\mathcal H_L$ に直交する $u_j\in W^m$ について $Lu_j\to f$($L^2$)とすると、lem-green-estimate の 2 により $\|u_j-u_l\|_m\le C\|Lu_j-Lu_l\|\to0$ なので、$u_j$ は $W^m$ で収束し、極限 $u$ は $Lu=f$ を満たす。任意の $v\in W^m$ について $Lv=L(v-Hv)$($Hv\in\mathcal H_L$)なので、$L(W^m)$ は $\mathcal H_L$ に直交する元の像の全体と同じであり、$L^2$ で閉じている。
像の直交補空間.$w\in L^2$ が $L(W^m)$ に直交するとする。$C^\infty\subset W^m$ と $L^*=L$ から、すべての $\varphi$ で $\langle\!\langle w,L^*\varphi\rangle\!\rangle=\langle\!\langle w,L\varphi\rangle\!\rangle=0$ なので、$w$ は超関数の意味で $Lw=0$ を満たし、lem-green-estimate の 1 により $w\in\mathcal H_L$ である。逆に $h\in\mathcal H_L$、$v\in W^m$ なら、lem-green-parts により $\langle\!\langle Lv,h\rangle\!\rangle=\langle\!\langle v,Lh\rangle\!\rangle=0$ である。よって $L(W^m)^\perp=\mathcal H_L$ であり、閉部分空間 $L(W^m)$ とその直交補空間 $\mathcal H_L$ の直和として 1 の前半が成り立つ。
2.$f-Hf\perp\mathcal H_L$ なので $f-Hf\in L(W^m)$ であり、$Lv=f-Hf$ となる $v\in W^m$ がある。$u:=v-Hv$ も $Lu=f-Hf$ を満たし、$u\perp\mathcal H_L$ である。$u,u'$ がともに条件を満たせば $L(u-u')=0$ なので $u-u'\in\mathcal H_L$ であり、$u-u'\perp\mathcal H_L$ と合わせて $u=u'$ となる。一意性から $G$ は線形である。評価は、まず lem-green-estimate の 2 から $\|Gf\|_m\le C\|f-Hf\|\le C\|f\|$ である。$f\in W^k$ なら $LGf=f-Hf\in W^k$($Hf$ は滑らか)なので、rem-green-cited の 3 により $Gf\in W^{k+m}$ で
$$ \|Gf\|_{k+m}\le C_k\bigl(\|f-Hf\|_k+\|Gf\|_0\bigr) $$
である。$\|Hf\|_k\le\sum_i\|f\|\,\|h_i\|_k$ と $\|Gf\|_0\le c\|Gf\|_m\le cC\|f\|$ により右辺は $\|f\|_k$ の定数倍で抑えられる($\|f\|\le c'\|f\|_k$)。$f$ が滑らかならすべての $k$ で $Gf\in W^{k+m}$ なので、rem-green-cited の 1 により $Gf$ は滑らかである。これで 1 の後半も分かる:滑らかな $f$ は $f=Hf+L(Gf)$ と書け、$L(C^\infty)\subset L(W^m)$ は $\mathcal H_L$ に直交する。
3.$LG=I-H$ と $HG=0$ は定義である。$h\in\mathcal H_L$ なら $h-Hh=0$ なので $Gh$ は $Lu=0$、$u\perp\mathcal H_L$ の解、すなわち $0$ であり、$GH=0$ である。$u\in C^\infty$ について $Lu\perp\mathcal H_L$ だから $H(Lu)=0$ であり、$u-Hu$ は $\mathcal H_L$ に直交して $L(u-Hu)=Lu=Lu-H(Lu)$ を満たすので、一意性から $G(Lu)=u-Hu$ である。
4.$Gf,Gg\in W^m$ は $\mathcal H_L$ に直交するので、$g=Hg+LGg$ を使って
$$ \langle\!\langle Gf,g\rangle\!\rangle=\langle\!\langle Gf,LGg\rangle\!\rangle=\langle\!\langle LGf,Gg\rangle\!\rangle=\langle\!\langle f-Hf,Gg\rangle\!\rangle=\langle\!\langle f,Gg\rangle\!\rangle $$
である。2 番目の等号は、$v,w\in W^m$ について $\langle\!\langle Lv,w\rangle\!\rangle=\langle\!\langle v,Lw\rangle\!\rangle$ が成り立つことによる($w$ を滑らかな切断で $W^m$ 近似し、lem-green-parts と $L^*=L$ を使って極限をとる)。$\square$

自己随伴性は、像の直交補空間を核 $\mathcal H_L$ そのものと同定するところで使った。一般の楕円型作用素では $L(W^m)^\perp$ は $L^*$ の核になる(楕円型作用素 の節「楕円型作用素の性質」の 3)。
この定理は Wel08 Ch. IV Theorem 4.12(p. 141)にあたり、同書は $G$ を $L$ に付随する Green 作用素と呼んでいる(pp. 141–142)。同書の証明は擬微分作用素のパラメトリクスを使う。この記事では、Dem12 Ch. VI (2.4)(pp. 289–290)と同じく、楕円型評価と Rellich の定理から証明した。

Green 作用素の性質

$L$ と可換な作用素との可換性

$L$ と可換な作用素は $H$ と $G$ とも可換

$L$ を thm-green-main のとおりとし、$T\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,E)$ を $TL=LT$ を満たす線形写像とする。このとき $C^\infty(M,E)$ の上で $TH=HT$、$TG=GT$ である。

thm-green-main の 1 により $C^\infty(M,E)=\mathcal H_L\oplus L(C^\infty(M,E))$ であり、$H$ はこの分解の第 1 成分への射影である。$h\in\mathcal H_L$ なら $L(Th)=T(Lh)=0$ なので $Th\in\mathcal H_L$ であり、$T(Lu)=L(Tu)\in L(C^\infty(M,E))$ である。$T$ は 2 つの成分をそれぞれ保つので、射影 $H$ と可換である。次に $f\in C^\infty(M,E)$ について $u:=TGf$ とおくと
$$ Lu=T(LGf)=T(f-Hf)=Tf-H(Tf),\qquad Hu=T(HGf)=0 $$
であり、thm-green-main の 2 の一意性から $u=G(Tf)$ である。$\square$

$T$ は微分作用素である必要はない。たとえば次のものに当てはまる。

  • $L$ の多項式。とくに $GL=LG$ は 3 の一部である。
  • $E$ と $dV$ と $L$ を保つ微分同相(等長変換など)による引き戻し。
  • Laplace–de Rham 作用素 $\Delta$ を $\Omega^\bullet(M)=\bigoplus_p\Omega^p(M)$ に働く作用素とみたときの $d$、$d^*$、Hodge のスター作用素 $*$。$\Delta$ はこれらと可換なので、Hodgeの定理 の命題「Green 作用素と $d$・$d^*$・$*$ の可換性」がこの命題から従う。楕円型複体の作用素についても同じことが成り立つ(楕円型複体 の主定理の 4)。

Sobolev 空間での評価と固有関数展開

Green 作用素の固有関数展開

$L$ を thm-green-main のとおりとし、$E$ の階数は $1$ 以上とする。

  1. $G$ は $L^2(M,E)$ 上のコンパクトな自己随伴作用素に延び、$\ker G=\mathcal H_L$ である。
  2. $L^2(M,E)$ には、$L$ の固有切断 $\varphi_j$($\varphi_j$ は滑らかで $L\varphi_j=\lambda_j\varphi_j$、$\lambda_j\in\mathbb R$)からなる正規直交基底 $(\varphi_j)_{j\ge1}$ がある。各固有値の固有空間は有限次元で、$|\lambda_j|\to\infty$ である。
  3. $f\in L^2(M,E)$ について
    $$ Gf=\sum_{\lambda_j\neq0}\frac1{\lambda_j}\langle\!\langle f,\varphi_j\rangle\!\rangle\,\varphi_j,\qquad Hf=\sum_{\lambda_j=0}\langle\!\langle f,\varphi_j\rangle\!\rangle\,\varphi_j $$
    であり、右辺は $L^2$ で収束する。

要点:$G$ は $L^2\to W^m$ で有界なので、Rellich の定理により $L^2$ 上のコンパクトな自己随伴作用素であり、スペクトル定理 の定理「コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理」を当てる。$G$ の固有値 $\mu\neq0$ の固有ベクトルは、$G$ が滑らかさを上げることから滑らかで、$L$ の固有値 $\mu^{-1}$ の固有切断になる。

詳しい証明を開く

1.thm-green-main の 2 により $G\colon L^2\to W^m$ は有界で、包含 $W^m\hookrightarrow L^2$ はコンパクトなので、$G\colon L^2\to L^2$ はコンパクトである。同 4 により自己随伴である。$Gf=0$ なら $f-Hf=LGf=0$ なので $f\in\mathcal H_L$ であり、逆に $h\in\mathcal H_L$ なら $Gh=0$ である。

2.スペクトル定理 の定理「コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理」により、$(\ker G)^\perp=\mathcal H_L^\perp$ には $G$ の固有ベクトル $e_j$($Ge_j=\mu_je_j$、$\mu_j$ は $0$ でない実数)からなる正規直交基底があり、各固有空間は有限次元で、$\mu_j$ は $0$ 以外に集積しない。$e_j=\mu_j^{-1}Ge_j\in W^m$ であり、$e_j\in W^k$ なら $Ge_j\in W^{k+m}$ なので $e_j\in W^{k+m}$ である。帰納的にすべての $k$ で $e_j\in W^k$ となり、$e_j$ は滑らかである。$He_j=0$ だから

$$Le_j=\mu_j^{-1}LGe_j=\mu_j^{-1}(e_j-He_j)=\mu_j^{-1}e_j$$

であり、$e_j$ は固有値 $\lambda_j:=\mu_j^{-1}$ の $L$ の固有切断である。これに $\mathcal H_L$ の正規直交基底(固有値 $0$)を合わせたものが $L^2$ の正規直交基底になる。逆に $L\varphi=\lambda\varphi$($\lambda\neq0$、$\varphi$ は滑らか)なら、$\langle\!\langle\varphi,h\rangle\!\rangle=\lambda^{-1}\langle\!\langle\varphi,Lh\rangle\!\rangle=0$($h\in\mathcal H_L$)で、$G\varphi=\lambda^{-1}GL\varphi=\lambda^{-1}\varphi$ なので、$L$ の固有値 $\lambda$ の固有空間は $G$ の固有値 $\lambda^{-1}$ の固有空間と一致し、有限次元である。$n\ge1$ と $E$ の階数が $1$ 以上であることから $L^2(M,E)$ は無限次元(台の交わらない切断が無限個とれる)で、$\mathcal H_L$ は有限次元なので、$\mu_j$ は無限個あって $\mu_j\to0$、すなわち $|\lambda_j|\to\infty$ である。

3.$f=Hf+\sum_{\lambda_j\neq0}\langle\!\langle f,\varphi_j\rangle\!\rangle\varphi_j$ に有界作用素 $G$ を当て、$GH=0$ と $G\varphi_j=\lambda_j^{-1}\varphi_j$ を使えばよい。$\square$

$G$ の作用素ノルムは $1/\min\{|\lambda_j|\mid\lambda_j\neq0\}$ であり、$G$ は「$L$ の $0$ でない固有値の逆数を掛ける作用素」である。2 の評価 $\|Gf\|_{k+m}\le C'_k\|f\|_k$ は、$G$ が $m$ 階だけ滑らかにすることを表している。

例

円周上の $-d^2/dx^2$

$M=S^1=\mathbb R/2\pi\mathbb Z$、$dV=dx$、$E$ を自明な直線束とし、$L=-d^2/dx^2$ とする。$L$ は形式的に自己随伴な 2 階の楕円型作用素で、$\mathcal H_L$ は定数関数の全体、$Hf=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}f\,dx$ である。
$$ k(s):=\frac{s^2}2-\pi s+\frac{\pi^2}3\quad(0\le s\le2\pi) $$
を $2\pi$ 周期的に延ばした連続関数を $K$ とすると
$$ Gf(x)=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}K(x-y)f(y)\,dy $$
である。固有関数 $e^{i\ell x}$($\ell\in\mathbb Z$)の固有値は $\ell^2$ で、$Ge^{i\ell x}=\ell^{-2}e^{i\ell x}$($\ell\neq0$)、$K(s)=\sum_{\ell\neq0}e^{i\ell s}/\ell^2$ である。

確かめを開く

$-u''=0$ を満たす周期関数 $u$ は 1 次関数で周期的なので定数であり、$\mathcal H_L$ は定数関数の全体である。$k(0)=k(2\pi)=\pi^2/3$ なので $K$ は連続である。$0< x< 2\pi$ と滑らかな $f$ について $u(x):=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}K(x-y)f(y)\,dy$ は

$$u(x)=\frac1{2\pi}\Bigl(\int_0^xk(x-y)f(y)\,dy+\int_x^{2\pi}k(x-y+2\pi)f(y)\,dy\Bigr)$$

と書ける。微分すると、$k(0)=k(2\pi)$ から境界項が打ち消し合い、$u'(x)=\frac1{2\pi}\bigl(\int_0^xk'(x-y)f\,dy+\int_x^{2\pi}k'(x-y+2\pi)f\,dy\bigr)$ である。もう一度微分すると、$k'(0)=-\pi$、$k'(2\pi)=\pi$、$k''=1$ から

$$u''(x)=\frac1{2\pi}\Bigl((k'(0)-k'(2\pi))f(x)+\int_0^{2\pi}f\,dy\Bigr)=-f(x)+Hf$$

となる。$u$ は周期的で滑らかなので、$-u''=f-Hf$ がすべての $x$ で成り立つ。また $\int_0^{2\pi}k(s)\,ds=\frac{4\pi^3}3-2\pi^3+\frac{2\pi^3}3=0$ なので、Fubini の定理から $\int_0^{2\pi}u\,dx=0$、すなわち $u\perp\mathcal H_L$ であり、一意性から $u=Gf$ である。$\ell\neq0$ なら $e^{i\ell x}\perp\mathcal H_L$ で $L(\ell^{-2}e^{i\ell x})=e^{i\ell x}$ なので、一意性から $Ge^{i\ell x}=\ell^{-2}e^{i\ell x}$ である。一方、積分の式に $f=e^{i\ell y}$ を代入すると $Ge^{i\ell x}=e^{i\ell x}\cdot\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}K(s)e^{-i\ell s}\,ds$ となるので、$K$ の Fourier 係数は $\ell^{-2}$($\ell\neq0$)と $0$($\ell=0$)である。$K$ は連続で Fourier 係数が絶対収束するので、$K(s)=\sum_{\ell\neq0}e^{i\ell s}/\ell^2$ である。$\square$

この $K/(2\pi)$ は、有界な領域の Green関数 にあたるものである。境界条件の代わりに、定数関数の成分を除く条件 $u\perp\mathcal H_L$ が解を一つに決めている。

Laplace–de Rham 作用素と Dolbeault ラプラシアン

コンパクトで向き付けられた Riemann 多様体の Laplace–de Rham 作用素 $\Delta=dd^*+d^*d$ を $E=\Lambda^pT^*M\otimes\mathbb C$ に働かせると、形式的に自己随伴な 2 階の楕円型作用素であり(楕円型作用素 の系「Laplace–de Rham 作用素と $d+\delta$ の楕円性」)、その Green 作用素は Hodgeの定理 の命題「Green作用素」の $G$ を複素数値の形式に延ばしたものである。$\mathcal H_\Delta$ は調和形式の空間で、thm-green-spectral の展開は $\Delta$ の固有形式による展開になる。コンパクト複素多様体の Dolbeault ラプラシアン $\Delta_{\bar\partial}$ についても同様で、Dolbeaultラプラシアン の主定理「Dolbeault コホモロジーの Hodge の定理」の証明に現れる $G$ がその Green 作用素である。

反例と注意

外す条件反例成り立たなくなること
楕円性$\mathbb T^2=\mathbb R^2/2\pi\mathbb Z^2$ 上の $L=-\partial_x^2$$\mathcal H_L$ の有限次元性
$M$ のコンパクト性$\mathbb R^n$ 上の $L=-\sum_j\partial_j^2$$L^2$ 上の有界な $G$ で $LG=I-H$ となるものの存在
形式的自己随伴性$S^1$ 上の $L=d/dx+\sin x$直交分解 $L^2=\mathcal H_L\oplus L(W^1)$
反例の確認

1 行目の $L$ は形式的に自己随伴な 2 階の作用素だが、主表象 $-\xi_1^2$ が $\xi=(0,1)$ で $0$ になる。2 行目の $L$ は楕円型で形式的に自己随伴だが、$\mathbb R^n$ はコンパクトでない。3 行目の $L$ は 1 階の楕円型作用素(主表象 $\xi$)で $S^1$ はコンパクトだが、$L^*=-d/dx+\sin x\neq L$ である。

各行の確かめを開く

1 行目:$y$ だけの滑らかな関数 $\cos\ell y$($\ell=0,1,2,\dots$)はすべて $-\partial_x^2u=0$ を満たし、一次独立なので、$\mathcal H_L$ は無限次元である。破れるのは lem-green-estimate の 1 で、その証明に使った Gårding の不等式が成り立たないことによる($\|\cos\ell y\|_2$ は $\ell\to\infty$ で発散するが $\|L\cos\ell y\|=0$)。

2 行目:Fourier 変換($L^2$ で等長に正規化したもの)を $\hat{\ }$ と書く。$L^2(\mathbb R^n)$ に入る $u$ で超関数の意味で $Lu=0$ となるものは、$|\xi|^2\hat u=0$ から $\hat u=0$ なので $0$ だけであり、$H=0$ である。有界な $G\colon L^2\to L^2$ で $L(Gf)=f$(超関数の意味)となるものがあったとすると、$|\xi|^2\widehat{Gf}=\hat f$ から $\widehat{Gf}=\hat f/|\xi|^2$ である。$0< \varepsilon< 1$ について $\hat f_\varepsilon$ を $\{\varepsilon/2\le|\xi|\le\varepsilon\}$ の指示関数とすると、$\|Gf_\varepsilon\|=\|\hat f_\varepsilon/|\xi|^2\|\ge\varepsilon^{-2}\|f_\varepsilon\|$ となり、$\varepsilon\to0$ で $G$ の有界性に反する。

3 行目:$Lu=u'+u\sin x=0$ の周期解は $u=ce^{\cos x}$ なので $\mathcal H_L=\mathbb C\,e^{\cos x}$ である。$u\in W^1$ について $(Lu)e^{-\cos x}=(ue^{-\cos x})'$ だから $\int_0^{2\pi}(Lu)e^{-\cos x}dx=0$、すなわち $L(W^1)\perp e^{-\cos x}$ である。$A:=\int_0^{2\pi}e^{2\cos x}dx=\int_0^{2\pi}e^{-2\cos x}dx$ とおくと、Jensen の不等式($\cos$ は定数でなく平均 $0$)から $A>2\pi$ である。$f:=e^{-\cos x}-(2\pi/A)e^{\cos x}$ は $e^{\cos x}$ に直交するが、$\langle\!\langle f,e^{-\cos x}\rangle\!\rangle=A-4\pi^2/A\neq0$ なので $f\notin L(W^1)$ である。したがって $\mathcal H_L^\perp\neq L(W^1)$ で、$H$ を $\mathcal H_L$ への直交射影とするとき $(I-H)f=f$ は $L$ の像に入らず、$LG=I-H$ となる $G$ はない。像の直交補空間は $\mathcal H_{L^*}=\mathbb C\,e^{-\cos x}$ である。

パラメトリクスとしての $G$.$GL=I-H$ で、$H$ は有限階で滑らかな切断に値をとる作用素なので、$G$ は $L$ の逆を有限次元の誤差を除いて与える。擬微分作用素 の理論のパラメトリクス(誤差が平滑化作用素になる近似的な逆)の一つであり、誤差が有限階である点でとくに強いものである(Wel08 Ch. IV §4 の p. 142 の脚注)。
名前.Laplace–de Rham 作用素の場合は Hodge が示し、一般の自己随伴な楕円型作用素に対する呼び方は古典的な用語に倣ったものである(Wel08 pp. 141–142)。

関連項目

参考文献

[1]
Raymond O. Wells, Jr., Differential Analysis on Complex Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 65, Springer, 2008, Ch. IV §1(pp. 110–111、Sobolev 空間と Proposition 1.1)、§2 Proposition 2.2(p. 114)、§4:Theorem 4.12(p. 141、自己随伴な楕円型作用素の Green 作用素と直交分解)、その後の注意と脚注(pp. 141–142、Hodge による場合と Green 作用素の名、パラメトリクスとしての Green 作用素)

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