距離化可能空間(metrizable space)とは、その位相が何らかの距離の開球から生成される位相空間である。適合する距離は一意ではなく、任意の適合距離 $d$ を $\min\{d,1\}$ に切り詰めれば同じ位相を与える有界距離が得られる。また可算個の距離化可能空間の直積は、各座標の有界距離を重み $2^{-n}$ で足した距離によって距離化可能である。一方、非可算積は一般に第1可算性を失い、距離化可能とは限らない。
前提知識: 距離空間, 位相空間, 直積位相, 第1可算公理
距離化可能性が要求するのは適合する距離の存在であり、距離が一意に定まることではない。同じ位相に適合する二つの距離は、点どうしの数値的な遠さ、直径、有界性、Cauchy列や完備性まで共有するとは限らない。本記事では、位相だけから決まる距離化可能性と、選んだ距離に依存する性質を区別する。
空集合には空写像として一意な距離があり、1点空間には恒等的に $0$ である距離があるので、どちらも距離化可能である。
通常の位相をもつ $\mathbb R^n$ は
$$
d(x,y)=\left(\sum_{k=1}^n|x_k-y_k|^2\right)^{1/2}
$$
と適合するので距離化可能である。距離化可能空間 $(X,d)$ の部分空間 $A\subset X$ には制限距離 $d|_{A\times A}$ が入り、それが相対位相を誘導する。したがって距離化可能性は部分空間に遺伝する。
$a\in A$ と $r>0$ に対し、制限距離による $A$ の開球は
$$
B_{d|_A}(a,r)=A\cap B_d(a,r)
$$
である。よって制限距離の開球は相対位相で開である。逆に、相対位相の開集合 $U=A\cap V$ と $a\in U$ をとる。$V$ は $X$ で開だから、ある $r>0$ について $a\in B_d(a,r)\subset V$ である。したがって
$$
a\in B_{d|_A}(a,r)\subset U
$$
となり、相対位相の各開集合は制限距離の開球の和集合である。二つの位相は一致する。$\square$
相異なる2点 $a,b$ からなる集合に密着位相 $\{\emptyset,\{a,b\}\}$ を入れた空間は距離化可能でない。実際、もし距離 $d$ がこの位相を誘導すれば、$r=d(a,b)/2>0$ に対して $B_d(a,r)$ と $B_d(b,r)$ は交わらない開近傍になり、この空間がHausdorff空間になってしまう。したがって Hausdorffであることは距離化可能性の必要条件であり、この例は「任意の位相空間が距離化可能」という含意を破る。
距離空間が有界であるとは、ある $M>0$ が存在して、すべての $x,y\in X$ について $d(x,y)\le M$ となることをいう。距離の有界性は、位相空間としての性質ではない。同じ位相を誘導したまま、距離を有界に変えられるからである。
$(X,d)$ を距離空間とし、
$$
\delta(x,y):=\min\{d(x,y),1\}
$$
とおく。このとき $\delta$ は $X$ 上の距離であり、$d$ と同じ位相を誘導する。また $\delta(x,y)\le1$ なので $\delta$ は有界である。
したがって、任意の距離化可能空間は有界な適合距離をもつ。
非負性、対称性、および $\delta(x,y)=0$ と $x=y$ の同値は $d$ の対応する性質から従う。三角不等式を示す。非負実数 $s,t$ について
$$
\min\{s+t,1\}\le \min\{s,1\}+\min\{t,1\}
$$
が成り立つ。実際、右辺が $1$ 以上なら明らかであり、右辺が $1$ 未満なら $s<1$、$t<1$ で右辺は $s+t$ に等しい。$d$ の三角不等式とこの評価から
$$
\begin{aligned}
\delta(x,z)
&=\min\{d(x,z),1\}\\
&\le\min\{d(x,y)+d(y,z),1\}\\
&\le\delta(x,y)+\delta(y,z)
\end{aligned}
$$
を得る。よって $\delta$ は距離である。
$0< r<1$ に対しては
$$
B_\delta(x,r)=B_d(x,r)
$$
である。実際、$\delta(x,y)< r<1$ なら $d(x,y)<1$ かつ $\delta(x,y)=d(x,y)< r$ であり、逆向きは明らかである。各点で半径 $1$ 未満の開球だけを使っても距離位相の開基になるので、$d$ と $\delta$ は同じ位相を誘導する。最後の主張は、距離化可能空間に適合する距離 $d$ を一つ選び、この構成を適用すれば従う。$\square$
たとえば通常の距離をもつ $\mathbb R$ は距離空間として有界でないが、$\min\{|x-y|,1\}$ は同じ通常の位相を誘導する有界距離である。したがって「空間が有界である」という言い方は、位相空間だけを与えた段階では意味をもたず、どの距離を選んだかを明示する必要がある。
有限積の距離化には、たとえば最大距離を使える。可算無限積では、各座標の寄与を小さくして級数へまとめる。
距離化可能空間の可算族 $(X_n)_{n\ge1}$ の直積
$$
X:=\prod_{n=1}^{\infty}X_n
$$
に直積位相を入れると、$X$ は距離化可能である。
各 $X_n$ に適合する距離 $d_n$ を選び、$\delta_n:=\min\{d_n,1\}$ とおけば、
$$
D(x,y):=\sum_{n=1}^{\infty}2^{-n}\delta_n(x_n,y_n)
$$
は直積位相に適合する距離である。
いずれかの $X_n$ が空なら $X$ は空で距離化可能なので、以下すべての因子を空でないとする。各 $\delta_n$ は prop-metrizable-space-bounded-metric により $X_n$ の位相に適合する距離で、$0\le\delta_n\le1$ である。したがって $D$ の級数は絶対収束し $0\le D\le1$ である。非負性と対称性は項ごとに従う。$D(x,y)=0$ ならすべての $n$ で $\delta_n(x_n,y_n)=0$、従って $x_n=y_n$ なので $x=y$ である。逆は明らかである。各 $\delta_n$ の三角不等式を重み $2^{-n}$ で足せば $D$ の三角不等式を得る。よって $D$ は距離である。
次に位相の一致を示す。まず $D$ の開球が各点で直積位相の近傍を含むことを示す。$x\in X$ と $\varepsilon>0$ をとる。$\varepsilon>1$ なら $B_D(x,\varepsilon)=X$ なのでよい。$0<\varepsilon\leq1$ とし、
$$
\sum_{n>N}2^{-n}<\frac{\varepsilon}{2}
$$
となる $N$ をとる。有限個の座標を制限した直積位相の基本近傍
$$
U:=\bigcap_{n=1}^{N}\pi_n^{-1}
\left(B_{\delta_n}\left(x_n,\frac{\varepsilon}{2}\right)\right)
$$
を考える。$y\in U$ なら
$$
\begin{aligned}
D(x,y)
&=\sum_{n=1}^{N}2^{-n}\delta_n(x_n,y_n)
+\sum_{n>N}2^{-n}\delta_n(x_n,y_n)\\
&<\frac{\varepsilon}{2}\sum_{n=1}^{N}2^{-n}
+\sum_{n>N}2^{-n}
<\varepsilon
\end{aligned}
$$
だから $U\subset B_D(x,\varepsilon)$ である。従って $D$ の距離位相は直積位相より細かくない。
逆に、$x$ を含む直積位相の基本近傍
$$
V=\bigcap_{n\in F}\pi_n^{-1}(V_n)
$$
をとる。ここで $F$ は有限集合で、各 $V_n$ は $x_n$ を含む $X_n$ の開集合である。$F=\emptyset$ なら $V=X$ なのでよい。各 $n\in F$ について $r_n>0$ を
$$
B_{\delta_n}(x_n,r_n)\subset V_n
$$
となるように選び、
$$
\eta:=\frac12\min_{n\in F}(2^{-n}r_n)>0
$$
とおく。$D(x,y)<\eta$ なら、各 $n\in F$ について
$$
2^{-n}\delta_n(x_n,y_n)\le D(x,y)<\eta<2^{-n}r_n
$$
なので $y_n\in V_n$ である。よって $B_D(x,\eta)\subset V$ となる。従って直積位相は $D$ の距離位相より細かくない。二つの位相は一致する。$\square$
適合距離 $d_n$ を可算個同時に選ぶ箇所では、通常のZFCの枠組みでは問題がない。ZFで選択原理を追跡する場合、この選択には可算選択が関わる。一方、各 $d_n$ が最初からデータとして与えられていれば、上の距離 $D$ の構成そのものに追加の選択は要らない。
$I$ を非可算集合とし、$[0,1]^I$ に直積位相を入れる。各因子は距離化可能だが、$[0,1]^I$ は距離化可能でない。
距離化可能空間では、各点 $x$ における半径 $1/m$ の開球 $(m\ge1)$ が可算な基本近傍系になるので、第1可算公理を満たす。そこで $[0,1]^I$ が零点 $0=(0)_{i\in I}$ で第1可算でないことを示す。
$0$ の可算な基本近傍系 $(U_m)_{m\ge1}$ があると仮定する。各 $m$ について、有限個の座標だけを制限する直積位相の基本近傍 $W_m$ を
$$
0\in W_m\subset U_m
$$
となるようにとり、$W_m$ が制限する有限座標集合を $F_m\subset I$ とする。$J:=\bigcup_mF_m$ は可算なので、$I$ の非可算性から $j\in I\setminus J$ をとれる。
$$
O:=\{x\in[0,1]^I\mid x_j<1/2\}
$$
は $0$ の開近傍である。基本近傍系の仮定により、ある $m$ で $U_m\subset O$ となる。ところが $j\notin F_m$ なので $W_m$ は第 $j$ 座標を制限しない。第 $j$ 座標だけを $1$、他を $0$ とした点は $W_m\subset U_m$ に属するが $O$ には属さず、矛盾する。従って $[0,1]^I$ は第1可算でなく、距離化可能でない。これは thm-metrizable-space-countable-product の「可算積」を任意積へ置き換えられないことを示す。$\square$
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