正接定理

同義語:正接法則law of tangents

概要

正接定理(law of tangents)とは、三角形 $ABC$ の辺 $a=BC$、$b=CA$ と角 $A,B$ について成り立つ等式 $\frac{a-b}{a+b}=\frac{\tan\frac{A-B}2}{\tan\frac{A+B}2}$ である(文字を回した式も成り立つ)。Mollweide の公式の 2 式を割るか、正弦定理と和積の公式から導かれる。2 辺 $a,b$ と間の角 $C$ が分かれば、$\frac{A+B}2=90^\circ-\frac C2$ とこの式から $\frac{A-B}2$ が $-90^\circ$ と $90^\circ$ の間にただ 1 つ定まり、$A,B$ が求まる。正弦定理で角を出すときの鋭角か鈍角かの判断が要らない。系として、$a>b$ と $A>B$ は同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Mollweideの公式, 正弦定理(高校数学)

高校での出発点:2 辺と間の角から残りの角を求める

2 辺と、その間の角が分かっている三角形は、ただ 1 つに決まる(三角形の決定と解の個数)。高校では、まず 余弦定理(高校数学) で残りの辺を求め、次に 正弦定理(高校数学) で角を求めることが多い。ところが正弦から角を求めるときには、同じ正弦をもつ角が $0^\circ$ と $180^\circ$ の間に 2 つあるので、どちらをとるかを判断しなければならない。

$a=8$、$b=3$、$C=60^\circ$ の三角形
  1. 余弦定理で残りの辺を求める。
    $$ c^2=a^2+b^2-2ab\cos C=64+9-2\cdot8\cdot3\cdot\frac12=73-24=49 $$
    なので $c=7$ である。
  2. 正弦定理 $\dfrac a{\sin A}=\dfrac c{\sin C}$ で角 $A$ を求める。
    $$ \sin A=\frac{a\sin C}c=\frac{8\cdot\frac{\sqrt3}2}7=\frac{4\sqrt3}7\approx0.9897 $$
    である。正弦がこの値になる角は、$0^\circ$ と $180^\circ$ の間に約 $81.79^\circ$ と約 $98.21^\circ$ の 2 つある(図 1)。
  3. どちらかを決めるために、余弦定理で $\cos A$ の符号を調べる。
    $$ \cos A=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\frac{9+49-64}{2\cdot3\cdot7}=-\frac6{42}=-\frac17<0 $$
    なので $A$ は鈍角で、$A\approx98.21^\circ$ である。残りは $B=180^\circ-60^\circ-A\approx21.79^\circ$ である。
  4. で鋭角の方の約 $81.79^\circ$ をとると誤りになる。$a=8$ はいちばん長い辺なので $A$ はいちばん大きい角だが、$A\approx81.79^\circ$(このとき $B\approx38.21^\circ$)としても $A$ はいちばん大きく、辺の大小だけではどちらの候補か決まらない。
0° から 180° までの y=sin θ のグラフと、高さ 4√3/7 の横線。交点は約 81.79° と約 98.21° の 2 つある 0° から 180° までの y=sin θ のグラフと、高さ 4√3/7 の横線。交点は約 81.79° と約 98.21° の 2 つある
−90° から 90° までの y=tan θ のグラフと、高さ 5√3/11 の横線。交点は約 38.21° の 1 つだけである −90° から 90° までの y=tan θ のグラフと、高さ 5√3/11 の横線。交点は約 38.21° の 1 つだけである

図 1 のように、正弦は $0^\circ$ から $90^\circ$ まで増え、$90^\circ$ から $180^\circ$ まで減るので、同じ値をとる角が 2 つある。図 2 の正接は $-90^\circ$ から $90^\circ$ までずっと増えるので、値から角がただ 1 つに決まる。図 2 の横線の高さ $\dfrac{5\sqrt3}{11}$ は、この記事の方法で ex-lot-start を解き直すときに現れる値である(ex-lot-sas)。

$a=5$、$b=3$、$C=120^\circ$ の三角形
  1. $c^2=25+9-2\cdot5\cdot3\cdot\left(-\dfrac12\right)=34+15=49$ なので $c=7$ である。
  2. $\sin A=\dfrac{5\cdot\frac{\sqrt3}2}7=\dfrac{5\sqrt3}{14}\approx0.6186$ で、候補は約 $38.21^\circ$ と約 $141.79^\circ$ である。$C=120^\circ$ がすでに鈍角なので、三角形の角の和から $A<60^\circ$ で、$A\approx38.21^\circ$ に決まる。$B\approx21.79^\circ$ である。
    この例では $C$ が鈍角なので判断はすぐにつくが、ex-lot-start のように $C$ が鋭角だと、余弦の符号などをもう一度調べる必要がある。

どちらの例でも、最後に知りたいのは 2 つの角 $A$、$B$ である。その和 $A+B=180^\circ-C$ は初めから分かっている。差 $A-B$ が分かれば、$A$ と $B$ は足し算と引き算で出る。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 2 辺 $a,b$ から、角の差 $A-B$ を直接求める式はあるか。→ thm-lot-main
  2. その式で角を求めると、鋭角か鈍角かの判断はどうなるか。→ prop-lot-sas
  3. 式から何が分かるか。→ cor-lot-order
    高校の計算この記事の式見方
    正弦定理で角を出す(候補が 2 つ)$\tan\dfrac{A-B}2=\dfrac{a-b}{a+b}\cdot\dfrac1{\tan\frac C2}$正接は $-90^\circ$ から $90^\circ$ で 1 対 1
    角の和 $A+B=180^\circ-C$$A=\dfrac{A+B}2+\dfrac{A-B}2$和と差から 2 つの数を求める
    Mollweide の 2 つの式割り算で $c$ と $\dfrac C2$ が消える2 辺と 2 角だけの式
    大きい辺の向かいの角は大きい$a-b$ と $\tan\dfrac{A-B}2$ は同じ符号符号で大小を読む

主定理:正接定理

以下、三角形 $ABC$ の辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とし、頂点の角の大きさを $A$、$B$、$C$ で表す。

正接定理

三角形 $ABC$ で
$$ \frac{a-b}{a+b}=\frac{\tan\frac{A-B}2}{\tan\frac{A+B}2} $$
が成り立つ。文字を $a\to b\to c\to a$、$A\to B\to C\to A$ と回した式も成り立つ。

右辺の分母は $0$ にならない。$A+B=180^\circ-C$ より $0^\circ<\dfrac{A+B}2<90^\circ$ なので、$\tan\dfrac{A+B}2>0$ である。また $\dfrac{A-B}2$ は $-90^\circ$ と $90^\circ$ の間にあるので、$\tan\dfrac{A-B}2$ も定まる。

Mollweide の 2 つの式を割る

方針:Mollweideの公式 の差の式を和の式で割ると、辺 $c$ が消える。残った $\dfrac C2$ の三角比を $\dfrac{A+B}2$ の三角比に直す。
段 1(Mollweide の公式)。Mollweideの公式 により
$$ \frac{a+b}c=\frac{\cos\frac{A-B}2}{\sin\frac C2},\qquad \frac{a-b}c=\frac{\sin\frac{A-B}2}{\cos\frac C2} $$
である。$a+b>0$ なので、和の式の両辺は $0$ でない。
段 2(割る)。差の式を和の式で割ると、左辺は $\dfrac{a-b}c\cdot\dfrac c{a+b}=\dfrac{a-b}{a+b}$ である。右辺は
$$ \frac{\sin\frac{A-B}2}{\cos\frac C2}\cdot\frac{\sin\frac C2}{\cos\frac{A-B}2}=\underbrace{\frac{\sin\frac{A-B}2}{\cos\frac{A-B}2}}_{\tan\frac{A-B}2}\cdot\underbrace{\frac{\sin\frac C2}{\cos\frac C2}}_{\tan\frac C2} $$
である。よって
$$ \frac{a-b}{a+b}=\tan\frac{A-B}2\,\tan\frac C2 $$
である。
段 3($\tan\dfrac C2$ を書き直す)。$\dfrac C2=90^\circ-\dfrac{A+B}2$ なので、$\sin\dfrac C2=\cos\dfrac{A+B}2$、$\cos\dfrac C2=\sin\dfrac{A+B}2$ で
$$ \tan\frac C2=\frac{\cos\frac{A+B}2}{\sin\frac{A+B}2}=\frac1{\tan\frac{A+B}2} $$
である。段 2 の式に代入して、定理の式を得る。$\square$

段 2 の途中の形
$$ \frac{a-b}{a+b}=\tan\frac{A-B}2\,\tan\frac C2 $$
も、同じ内容の式としてよく使う。

正弦定理から直接示す

Mollweide の公式を経由しなくても、正弦定理と和積の公式から直接示せる。正弦定理 $a=2R\sin A$、$b=2R\sin B$($R$ は外接円の半径)と、和積の公式(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)から
$$ \frac{a-b}{a+b}=\frac{\sin A-\sin B}{\sin A+\sin B}=\frac{2\cos\frac{A+B}2\sin\frac{A-B}2}{2\sin\frac{A+B}2\cos\frac{A-B}2}=\frac{\tan\frac{A-B}2}{\tan\frac{A+B}2} $$
である。最後の等号では、分子と分母を $\cos\dfrac{A+B}2\cos\dfrac{A-B}2$($0$ でない)で割った。

3 辺が分かっている三角形で確かめる
  1. 3 辺 $3,4,5$($a=3$、$b=4$、$C=90^\circ$)。$\dfrac{a-b}{a+b}=-\dfrac17$ である。$\dfrac{A+B}2=45^\circ$ で $\tan45^\circ=1$ なので、正接定理から $\tan\dfrac{A-B}2=-\dfrac17$ となる。確かめる。$\tan A=\dfrac34$、$\tan B=\dfrac43$ なので、正接の加法定理で
    $$ \tan(A-B)=\frac{\frac34-\frac43}{1+\frac34\cdot\frac43}=\frac{-\frac7{12}}2=-\frac7{24} $$
    である。一方、$t=\tan\dfrac{A-B}2=-\dfrac17$ とすると、2 倍角の公式 $\tan(A-B)=\dfrac{2t}{1-t^2}$ から $\dfrac{-\frac27}{1-\frac1{49}}=-\dfrac27\cdot\dfrac{49}{48}=-\dfrac7{24}$ で、一致する。
  2. 3 辺 $7,5,8$($a=7$、$b=5$、$A=60^\circ$)。Mollweideの公式 の例で $\sin\dfrac{A-B}2=\dfrac{\sqrt7}{14}$、$\cos\dfrac{A-B}2=\dfrac{3\sqrt{21}}{14}$ を求めたので、$\tan\dfrac{A-B}2=\dfrac{\sqrt7}{3\sqrt{21}}=\dfrac1{3\sqrt3}$ である。三角形の半角公式 の例の $\tan\dfrac C2=\dfrac{\sqrt3}2$ と掛けると
    $$ \tan\frac{A-B}2\,\tan\frac C2=\frac1{3\sqrt3}\cdot\frac{\sqrt3}2=\frac16=\frac{7-5}{7+5}=\frac{a-b}{a+b} $$
    となり、段 2 の形の式が成り立っている。

図形で見る:半角の和と差

$\dfrac{A+B}2$ と $\dfrac{A-B}2$ は、図の上の角として見える。$a>b$ の三角形で、頂点 $C$ を中心とする半径 $b$ の円をかき、直線 $CB$ との交点のうち辺 $CB$ の上にある方を $D$、$C$ をはさんで反対側にある方を $E$ とする(図 3)。$CD=CE=CA=b$ なので、$BD=a-b$、$BE=a+b$ である。
a=8、b=3、C=60° の三角形で、C を中心とする半径 b の円と直線 CB の交点 D、E をとった図。A での角 CAD が (A+B)/2、角 DAB が (A−B)/2 で、角 DAE は直角になる a=8、b=3、C=60° の三角形で、C を中心とする半径 b の円と直線 CB の交点 D、E をとった図。A での角 CAD が (A+B)/2、角 DAB が (A−B)/2 で、角 DAE は直角になる

半角の和と差が見える角

$a>b$ の三角形 $ABC$ で、$D$、$E$ を上のようにとると
$$ \angle CAD=\frac{A+B}2,\qquad \angle DAB=\frac{A-B}2,\qquad \angle DAE=90^\circ,\qquad \angle AEB=\frac C2 $$
である。

2 つの二等辺三角形

段 1($\angle CAD$)。三角形 $CAD$ は $CA=CD=b$ の二等辺三角形で、頂角は $\angle ACD=C$ である。底角は
$$ \angle CAD=\angle CDA=\frac{180^\circ-C}2=\frac{A+B}2 $$
である($180^\circ-C=A+B$)。
段 2($\angle DAB$)。$b< a$ なので $D$ は辺 $CB$ の上にあり、半直線 $AD$ は角 $\angle CAB$ の内部を通る。よって $\angle DAB=\angle CAB-\angle CAD=A-\dfrac{A+B}2=\dfrac{A-B}2$ である。
段 3($\angle DAE$)。$D$、$E$ は $C$ を中心とする円の直径の両端で、$A$ はこの円の上にある。直径の上の円周角は直角なので(円周角の定理)、$\angle DAE=90^\circ$ である。
段 4($\angle AEB$)。三角形 $CAE$ は $CA=CE=b$ の二等辺三角形で、頂点 $C$ での外角は $\angle ACB=C$ である。外角は隣り合わない 2 つの内角の和に等しく、2 つの底角は等しいので、$\angle CEA=\dfrac C2$ である。$E$、$C$、$B$ はこの順に一直線に並ぶので、$\angle AEB=\angle AEC=\dfrac C2$ である。$\square$

図 3 の数では、$C=60^\circ$ なので三角形 $CAD$ は正三角形で、$\angle CAD=60^\circ=\dfrac{A+B}2$ である。$\angle DAB$ は約 $38.21^\circ$ で、ex-lot-start の $A\approx98.21^\circ$、$B\approx21.79^\circ$ の差の半分に等しい。
prop-lot-figure から、正接定理を三角形 $ABD$ と $ABE$ の正弦定理で示すこともできる。

図形による正接定理の別証明を開く

三角形 $ABD$ で、$\angle ADB=180^\circ-\angle CDA=180^\circ-\dfrac{A+B}2$ なので $\sin\angle ADB=\sin\dfrac{A+B}2$ である。正弦定理 $\dfrac{BD}{\sin\angle DAB}=\dfrac{AB}{\sin\angle ADB}$ から

$$BD=\frac{c\sin\frac{A-B}2}{\sin\frac{A+B}2}$$

である。三角形 $ABE$ で、$\angle EAB=\angle EAD+\angle DAB=90^\circ+\dfrac{A-B}2$ なので $\sin\angle EAB=\cos\dfrac{A-B}2$ である。また $\sin\angle AEB=\sin\dfrac C2=\cos\dfrac{A+B}2$ である。正弦定理 $\dfrac{BE}{\sin\angle EAB}=\dfrac{AB}{\sin\angle AEB}$ から

$$BE=\frac{c\cos\frac{A-B}2}{\cos\frac{A+B}2}$$

である。$BD=a-b$、$BE=a+b$ なので、割り算して

$$\frac{a-b}{a+b}=\frac{BD}{BE}=\frac{\sin\frac{A-B}2}{\cos\frac{A-B}2}\cdot\frac{\cos\frac{A+B}2}{\sin\frac{A+B}2}=\frac{\tan\frac{A-B}2}{\tan\frac{A+B}2}$$

を得る。$a=b$ のときは両辺とも $0$、$a< b$ のときは $a$ と $b$ の役を入れかえればよい。

2 辺と間の角から残りの角を求める

正接定理を使うと、2 辺 $a,b$ と間の角 $C$ から、残りの 2 つの角が正弦を経由せずに求まる。

2 辺と間の角から角を求める手順

三角形 $ABC$ で 2 辺 $a,b$ と間の角 $C$ が分かっているとする。$\theta$ を
$$ \tan\theta=\frac{a-b}{a+b}\cdot\frac1{\tan\frac C2},\qquad -90^\circ<\theta<90^\circ $$
を満たすただ 1 つの角とすると、
$$ A=\left(90^\circ-\frac C2\right)+\theta,\qquad B=\left(90^\circ-\frac C2\right)-\theta $$
である。

和と差から 2 つの角を求める

段 1(和の半分)。$A+B=180^\circ-C$ なので $\dfrac{A+B}2=90^\circ-\dfrac C2$ で、$\tan\dfrac{A+B}2=\dfrac1{\tan\frac C2}$ である(prf-lot-main の段 3)。
段 2(差の半分の正接)。thm-lot-main の両辺に $\tan\dfrac{A+B}2$ を掛けると
$$ \tan\frac{A-B}2=\frac{a-b}{a+b}\tan\frac{A+B}2=\frac{a-b}{a+b}\cdot\frac1{\tan\frac C2} $$
である。
段 3(差の半分が 1 つに決まる)。$0^\circ< A<180^\circ$、$0^\circ< B<180^\circ$ なので $-180^\circ< A-B<180^\circ$、つまり $-90^\circ<\dfrac{A-B}2<90^\circ$ である。正接は $-90^\circ< x<90^\circ$ の範囲でつねに増える関数なので、同じ値をとる角はこの範囲にただ 1 つしかない(図 2)。段 2 から $\tan\dfrac{A-B}2=\tan\theta$ で、どちらの角もこの範囲にあるので、$\dfrac{A-B}2=\theta$ である。
段 4(和と差から求める)。$A=\dfrac{A+B}2+\dfrac{A-B}2$、$B=\dfrac{A+B}2-\dfrac{A-B}2$ に段 1 と段 3 を代入すればよい。$\square$

段 3 で、正弦定理のときのような「鋭角か鈍角か」の判断が要らなくなっている。$\theta$ の値は関数電卓の $\tan^{-1}$ で求まる。関数電卓の $\tan^{-1}$ が $-90^\circ$ と $90^\circ$ の間の値を返すことは、逆三角関数(高校数学) の $\arctan$ の値域と同じである。

正接定理で解き直す
  1. ex-lot-start の $a=8$、$b=3$、$C=60^\circ$。$\dfrac{a-b}{a+b}=\dfrac5{11}$、$\tan\dfrac C2=\tan30^\circ=\dfrac1{\sqrt3}$ なので
    $$ \tan\theta=\frac5{11}\cdot\sqrt3=\frac{5\sqrt3}{11}\approx0.7873,\qquad \theta\approx38.21^\circ $$
    である。$90^\circ-\dfrac C2=60^\circ$ なので
    $$ A\approx60^\circ+38.21^\circ=98.21^\circ,\qquad B\approx60^\circ-38.21^\circ=21.79^\circ $$
    となる。$A$ が鈍角であることは、足し算の結果として自動的に出ている。残りの辺は正弦定理で $c=\dfrac{a\sin C}{\sin A}\approx\dfrac{8\cdot0.8660}{0.9897}\approx7.000$ で、ex-lot-start の $c=7$ と一致する。
  2. ex-lot-start2 の $a=5$、$b=3$、$C=120^\circ$。$\dfrac{a-b}{a+b}=\dfrac14$、$\tan\dfrac C2=\tan60^\circ=\sqrt3$ なので
    $$ \tan\theta=\frac14\cdot\frac1{\sqrt3}=\frac{\sqrt3}{12}\approx0.1443,\qquad \theta\approx8.21^\circ $$
    である。$90^\circ-\dfrac C2=30^\circ$ なので $A\approx38.21^\circ$、$B\approx21.79^\circ$ で、ex-lot-start2 と一致する。

2 つの手順を比べる。

余弦定理 → 正弦定理正接定理
最初に求めるもの残りの辺 $c$角の差の半分 $\dfrac{A-B}2$
角を出す関数$\sin^{-1}$($0^\circ$ から $180^\circ$ に候補が 2 つ)$\tan^{-1}$(候補は 1 つ)
鋭角か鈍角かの判断要る要らない
平方根の計算$c$ を出すのに要る角を出すまでは要らない
残りの辺最初に出る最後に正弦定理で出す

系:辺の大小と角の大小

大きい辺の向かいに大きい角

三角形 $ABC$ で、$a>b$ と $A>B$ は同値である。$a=b$ と $A=B$ も同値である。

正接定理の両辺の符号

段 1。thm-lot-main の左辺の分母 $a+b$ と、右辺の分母 $\tan\dfrac{A+B}2$ は正である。よって $a-b$ と $\tan\dfrac{A-B}2$ は同じ符号をもつ(どちらかが $0$ なら他方も $0$)。
段 2。$-90^\circ<\dfrac{A-B}2<90^\circ$ の範囲では、$\tan\dfrac{A-B}2$ は $\dfrac{A-B}2$ と同じ符号をもつ($\tan0^\circ=0$ で、正接はこの範囲で増える)。
段 3。段 1・2 から、$a-b$ と $A-B$ は同じ符号をもつ。$a-b>0\iff A-B>0$、$a-b=0\iff A-B=0$ である。$\square$

これは 三角形の辺と角の大小 の主定理である。同記事では図形による証明のほか、正弦の差 $b-c=4R\cos\dfrac{B+C}2\sin\dfrac{B-C}2$ の符号による証明を示している。ここでの証明は、その式を $b+c$ で割った形を使ったものにあたる。

例と反例

2 辺と間の角から角を求めるときに起こりやすい誤りを並べる。

外す条件・取り違え反例成り立たなくなること
正弦から出した角の候補を正しく選ぶ$a=8$、$b=3$、$C=60^\circ$ で $A\approx81.79^\circ$ とする正弦定理の比 $\dfrac a{\sin A}=\dfrac b{\sin B}$
分母は $\tan\dfrac{A+B}2$($\tan\dfrac C2$ ではない)$a=8$、$b=3$、$C=60^\circ$ で $\tan\dfrac C2$ を使う求めた角が正しい
$\tan\dfrac{A-B}2$ の符号を保つ$a=3$、$b=8$、$C=60^\circ$ で符号を落とす$A$ と $B$ の対応
反例:正弦から鋭角の方をとる

$a=8$、$b=3$、$C=60^\circ$ で、ex-lot-start の (2) の候補のうち $A\approx81.79^\circ$ をとると、$B=180^\circ-60^\circ-81.79^\circ\approx38.21^\circ$ となる。角の和は $180^\circ$ で合っているが、正弦定理の比を調べると
$$ \frac a{\sin A}\approx\frac8{\sin81.79^\circ}\approx\frac8{0.9897}\approx8.08,\qquad \frac b{\sin B}\approx\frac3{\sin38.21^\circ}\approx\frac3{0.6186}\approx4.85 $$
で、一致しない。$\sin A$ を出すのに使った比 $\dfrac a{\sin A}=\dfrac c{\sin C}$ は候補のどちらでも成り立つので、誤りは $b$ と $B$ の組で初めて現れる。正接定理の手順(ex-lot-sas)では、この選び方の問題が起こらない。

反例:$\tan\frac{A+B}2$ を $\tan\frac C2$ と取り違える

$a=8$、$b=3$、$C=60^\circ$ で、prop-lot-sas の $\dfrac1{\tan\frac C2}$ を誤って $\tan\dfrac C2$ にすると
$$ \tan\theta=\frac5{11}\cdot\frac1{\sqrt3}\approx0.2624,\qquad \theta\approx14.70^\circ $$
となり、$A\approx74.70^\circ$、$B\approx45.30^\circ$ という誤った答えになる。$\tan\dfrac{A+B}2$ と $\tan\dfrac C2$ は逆数どうしで、$C=90^\circ$ のときだけ等しい。$\dfrac{A+B}2$ は $90^\circ-\dfrac C2$ であって、$\dfrac C2$ ではない。

反例:符号を落とす

$a=3$、$b=8$、$C=60^\circ$ とすると、$\tan\theta=\dfrac{3-8}{3+8}\cdot\sqrt3=-\dfrac{5\sqrt3}{11}$ で、$\theta\approx-38.21^\circ$ である。正しくは $A\approx60^\circ-38.21^\circ=21.79^\circ$、$B\approx98.21^\circ$ である。$\theta$ の符号を落として $38.21^\circ$ とすると $A\approx98.21^\circ$、$B\approx21.79^\circ$ となり、$A$ と $B$ が入れかわる。短い辺 $a=3$ の向かいに大きい角がくるので、cor-lot-order に反する。

大学数学で見る

正接が 1 対 1 になる区間

関数 $y=\tan x$ は $-90^\circ< x<90^\circ$ でつねに増え、この区間の上ですべての実数の値をちょうど 1 回ずつとる。そのため逆関数 $\arctan$($\tan^{-1}$)が、値域 $-90^\circ< y<90^\circ$ の関数として定まる(逆三角関数(高校数学))。一方、$y=\sin x$ は $0^\circ< x<180^\circ$ の上で $90^\circ$ を境に増加から減少に変わり、$0< k<1$ の値を 2 回ずつとる(図 1)。逆正弦 $\arcsin$ の値域は $-90^\circ\le y\le90^\circ$ で、三角形の鈍角は返さない。
三角形の角の差の半分 $\dfrac{A-B}2$ は、ちょうど正接が 1 対 1 になる区間 $(-90^\circ,90^\circ)$ に入っている。正接定理が角の選び方の問題を起こさないのは、未知の角を「差の半分」という形で、この区間の中に入れているからである。

和と差の比

正接定理の左辺は、正弦定理の比 $a:b=\sin A:\sin B$ から作った「和と差の比」である。$a:b=p:q$($p,q>0$)なら $\dfrac{a-b}{a+b}=\dfrac{p-q}{p+q}$ が成り立つ($a=kp$、$b=kq$ と書けば $k$ が約分される)。rem-lot-direct の計算は、和積の公式によって、この比が $\dfrac{\tan\frac{A-B}2}{\tan\frac{A+B}2}$ という「差の半分と和の半分の正接の比」になることを示している。この等式
$$ \frac{\sin A-\sin B}{\sin A+\sin B}=\frac{\tan\frac{A-B}2}{\tan\frac{A+B}2} $$
自体は、三角形とは関係なく、両辺が定まる(分母が $0$ にならない)すべての角 $A,B$ で成り立つ三角関数の恒等式である。三角形であることを使うのは、正弦定理で辺の比を正弦の比に置き換えるところだけである。

さらに先へ

  • 3 辺が分かっている三角形の角は、三角形の半角公式 の $\tan\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}}$ で、やはり正接から 1 通りに求まる。2 辺と間の角のときの正接定理と、3 辺のときの半角公式が、正接で角を求める 2 つの手順になっている。
  • 2 辺と間の角以外の条件(2 辺と挟まない角など)では、三角形が 2 つできることもある。どの条件で三角形がいくつ決まるかは 三角形の決定と解の個数 で扱う。

関連項目

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する