線積分

同義語:line integral

概要

線積分(line integral)とは、区分的に $C^1$ 級の道 $\gamma$ に沿って、1 形式 $\sum_iF_i\,dx_i$ やベクトル場と速度ベクトルの内積を積分したもの(弧長についての線積分・複素線積分も同様に定める)である。向きを保つ媒介変数の取り替えでは変わらず、逆向きにたどると符号が変わり、$C^1$ 級関数 $f$ の微分 $df$ の線積分は端点の値の差 $f(\text{終点})-f(\text{始点})$ になる。連続な 1 形式の線積分が道によらないことは原始関数をもつことと同値であり、係数が $C^1$ 級なら閉形式であることが必要条件で、星型の開集合の上では十分条件にもなる。原点を除いた平面の角度形式は閉形式だが完全形式でない例であり、線積分は Green の定理・Cauchy の積分定理・Stokes の定理の出発点になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 偏微分, 連鎖律, 微分積分学の基本定理

曲線に沿って関数やベクトル場を積分する操作を線積分(line integral)という。力の場 $F$ の中を粒子が道 $\gamma$ に沿って動くとき、力が粒子にする仕事は、各瞬間の力と微小な変位の内積 $F\cdot d\boldsymbol{r}$ を道に沿って足し合わせたものであり、これが 1 形式 $F_1\,dx_1+\dots+F_n\,dx_n$ の線積分である。針金の密度 $f$ から針金の質量を求めるときは、長さの要素 $ds$ に $f$ を掛けて足し合わせる。こちらは弧長についての線積分である。
この記事では、区分的に $C^1$ 級の道に沿う 1 形式の線積分、弧長についての線積分、複素線積分を定義し、媒介変数の取り替えに対する振る舞いと長さによる評価を示す。中心となるのは、勾配の線積分が端点の値の差になるという線積分の基本定理と、線積分が道によらないことと原始関数(ポテンシャル)が存在することの同値性である。さらに、原始関数が存在するための必要条件(閉形式であること)が、星型の開集合の上では十分条件にもなることを証明し、原点を除いた平面ではそれが破れることを角度形式で確かめる。

定義

以下、$U\subset\mathbb{R}^n$ は開集合とし、$\|\cdot\|$ は Euclid ノルム、$u\cdot v$ は標準内積を表す。

区分的に $C^1$ 級の道

閉区間 $[a,b]$($a< b$)から $\mathbb{R}^n$ への連続写像 $\gamma=(\gamma_1,\dots,\gamma_n)$ が区分的に $C^1$ 級の道であるとは、分点 $a=t_0< t_1<\dots< t_k=b$ があって、各小区間 $[t_{j-1},t_j]$ への制限が $C^1$ 級(端点では片側微分係数を使う)であることをいう。$\gamma(a)$ を始点、$\gamma(b)$ を終点といい、$\gamma(a)=\gamma(b)$ のとき閉じた道という。道の長さを
$$ L(\gamma):=\sum_{j=1}^{k}\int_{t_{j-1}}^{t_j}\|\gamma'(t)\|\,dt $$
で定める。

分点を細かくしても各小区間の積分の和は変わらないので、以下の定義は分点の選び方によらない。Greenの定理 の記事の定義「区分的に滑らかな道と線積分」は、領域の周の向きを決めるために各区間で $\gamma'(t)\ne0$ も課しているが、線積分を定めるだけならこの条件は要らない。

1 形式の線積分

$F_1,\dots,F_n\colon U\to\mathbb{R}$ を連続関数とし、形式的な和 $\omega=F_1\,dx_1+\dots+F_n\,dx_n$ を $U$ 上の連続な 1 形式という。区分的に $C^1$ 級の道 $\gamma\colon[a,b]\to U$ に沿う $\omega$ の線積分を
$$ \int_\gamma\omega:=\sum_{j=1}^{k}\int_{t_{j-1}}^{t_j}\sum_{i=1}^{n}F_i\bigl(\gamma(t)\bigr)\,\gamma_i'(t)\,dt $$
で定める。ベクトル場 $F=(F_1,\dots,F_n)$ を使って $\int_\gamma F\cdot d\boldsymbol{r}$ とも書き、閉じた道のときは $\oint_\gamma\omega$ とも書く。$F_i$ が複素数値のときも、実部と虚部ごとに同じ式で定める。

被積分関数は $F(\gamma(t))\cdot\gamma'(t)$、すなわち場と速度ベクトルの内積である。滑らかな 1 形式は 微分形式 の記事の定義「微分形式」の $1$ 次の場合にあたり、この記事では係数が連続であるものまで含める。

弧長についての線積分

$f$ を $\gamma([a,b])$ の上の連続関数とする。$\gamma$ に沿う $f$ の弧長についての線積分を
$$ \int_\gamma f\,ds:=\sum_{j=1}^{k}\int_{t_{j-1}}^{t_j}f\bigl(\gamma(t)\bigr)\,\|\gamma'(t)\|\,dt $$
で定める。$f=1$ なら長さ $L(\gamma)$ である。

複素線積分

$\gamma\colon[a,b]\to\mathbb{C}$ を区分的に $C^1$ 級の道($\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ とみる)とし、$f$ を $\gamma([a,b])$ の上の複素数値連続関数とする。
$$ \int_\gamma f(z)\,dz:=\sum_{j=1}^{k}\int_{t_{j-1}}^{t_j}f\bigl(\gamma(t)\bigr)\,\gamma'(t)\,dt $$
を $\gamma$ に沿う $f$ の複素線積分という。

$\gamma=x+iy$ と書くと $f(\gamma)\gamma'=f(\gamma)x'+i\,f(\gamma)y'$ なので、複素線積分は複素数値の 1 形式 $f\,dx+i\,f\,dy$ の線積分であり、$f\,dz=f\,dx+i\,f\,dy$ と書く。Cauchyの積分定理 の記事の定義「区分的に滑らかな曲線と複素線積分」は、この定義と同じものである。

直感

道を細かく分けて $\gamma(t_0),\gamma(t_1),\dots$ とたどると、$\int_\gamma F\cdot d\boldsymbol{r}$ はおおよそ $\sum_jF(\gamma(t_j))\cdot\bigl(\gamma(t_{j+1})-\gamma(t_j)\bigr)$ であり、各段で「場の、進む向きの成分 × 進んだ距離」を足したものになる。場と同じ向きに進めば正、逆らって進めば負であり、逆向きにたどると符号が変わる。一方 $\int_\gamma f\,ds$ はおおよそ $\sum_jf(\gamma(t_j))\,\|\gamma(t_{j+1})-\gamma(t_j)\|$ で、向きによらない。
場が関数 $f$ の勾配 $F=\nabla f$ であれば、各段の量は $f$ の増分 $f(\gamma(t_{j+1}))-f(\gamma(t_j))$ のおおよその値であり、足し合わせると途中の値が打ち消し合って $f(\text{終点})-f(\text{始点})$ だけが残る。線積分が道によらず端点だけで決まるのはこの場合に限られる、というのがこの記事の中心の定理である。

基本性質

媒介変数の取り替え

$\gamma\colon[a,b]\to U$ を区分的に $C^1$ 級の道、$\varphi\colon[c,d]\to[a,b]$ を $C^1$ 級の全単射とし、$\omega$ を $U$ 上の連続な 1 形式、$f$ を $\gamma([a,b])$ 上の連続関数とする。$\gamma\circ\varphi$ は区分的に $C^1$ 級の道であり、

  1. $\varphi$ が増加なら $\int_{\gamma\circ\varphi}\omega=\int_\gamma\omega$、
  2. $\varphi$ が減少なら $\int_{\gamma\circ\varphi}\omega=-\int_\gamma\omega$、
  3. どちらの場合も $\int_{\gamma\circ\varphi}f\,ds=\int_\gamma f\,ds$
    が成り立つ。
置換積分を小区間ごとに使う

連続な全単射 $\varphi$ は狭義単調である。増加の場合、$\gamma$ の分点 $t_j$ に対して $s_j:=\varphi^{-1}(t_j)$ とおくと $c=s_0< s_1<\dots< s_k=d$ であり、$[s_{j-1},s_j]$ の上で $\gamma\circ\varphi$ は $C^1$ 級の写像の合成なので $C^1$ 級で、導関数は $\gamma'(\varphi(s))\,\varphi'(s)$ である。よって $\gamma\circ\varphi$ は区分的に $C^1$ 級である。$g(t):=F(\gamma(t))\cdot\gamma'(t)$ は $[t_{j-1},t_j]$ で連続なので、置換積分 $t=\varphi(s)$ により
$$ \int_{s_{j-1}}^{s_j}F\bigl(\gamma(\varphi(s))\bigr)\cdot\gamma'(\varphi(s))\,\varphi'(s)\,ds=\int_{s_{j-1}}^{s_j}g(\varphi(s))\varphi'(s)\,ds=\int_{t_{j-1}}^{t_j}g(t)\,dt $$
であり、$j$ について足すと 1 を得る。減少の場合は $s_j:=\varphi^{-1}(t_j)$ が $d=s_0>s_1>\dots>s_k=c$ となり、同じ置換積分で $\int_{s_j}^{s_{j-1}}g(\varphi(s))\varphi'(s)\,ds=\int_{t_j}^{t_{j-1}}g(t)\,dt=-\int_{t_{j-1}}^{t_j}g(t)\,dt$ となるので 2 を得る。3 では被積分関数が $f(\gamma(\varphi(s)))\,\|\gamma'(\varphi(s))\|\,|\varphi'(s)|$ であり、増加なら $|\varphi'|=\varphi'$、減少なら $|\varphi'|=-\varphi'$ である。後者の符号は積分の上端と下端の入れ替えの符号と打ち消し合うので、どちらの場合も $\int_\gamma f\,ds$ に等しい。$\square$

これは Leb26b Proposition 9.2.12(p. 76)にあたる。道の像と向きだけが線積分を決め、媒介変数の速さは効かない。
道 $\gamma\colon[a,b]\to U$ の逆向きの道を $\gamma^-(t):=\gamma(a+b-t)$($t\in[a,b]$)で、$\gamma_1\colon[a,b]\to U$ の終点と $\gamma_2\colon[c,d]\to U$ の始点が一致するときのつなげた道 $\gamma_1\cdot\gamma_2\colon[a,b+d-c]\to U$ を、$[a,b]$ では $\gamma_1$、$[b,b+d-c]$ では $t\mapsto\gamma_2(t-b+c)$ で定める。どちらも区分的に $C^1$ 級である。

線積分の基本性質

$\omega=\sum_iF_i\,dx_i$、$\eta$ を $U$ 上の連続な 1 形式、$\gamma,\gamma_1,\gamma_2$ を $U$ の中の区分的に $C^1$ 級の道(3 では $\gamma_1$ の終点と $\gamma_2$ の始点が一致するとする)、$f$ を $\gamma$ の像の上の連続関数、$\lambda,\mu$ を実数とする。

  1. $\int_\gamma(\lambda\omega+\mu\eta)=\lambda\int_\gamma\omega+\mu\int_\gamma\eta$。
  2. $\int_{\gamma^-}\omega=-\int_\gamma\omega$、$\int_{\gamma^-}f\,ds=\int_\gamma f\,ds$。
  3. $\int_{\gamma_1\cdot\gamma_2}\omega=\int_{\gamma_1}\omega+\int_{\gamma_2}\omega$。
  4. $M:=\max_{t}\|F(\gamma(t))\|$ とおくと $\bigl|\int_\gamma\omega\bigr|\le M\,L(\gamma)$。複素線積分では、$\gamma$ の像の上で $|f|\le M$ なら $\bigl|\int_\gamma f\,dz\bigr|\le M\,L(\gamma)$。

1 は積分の線形性による。2 は prop-li-reparam を減少関数 $\varphi(s)=a+b-s$ に使えばよい。3 は、$\gamma_1$ と(平行移動した)$\gamma_2$ の分点を合わせたものを $\gamma_1\cdot\gamma_2$ の分点とし、$[b,b+d-c]$ の部分では平行移動 $t=s-b+c$ の置換積分で $\gamma_2$ の積分に戻せばよい。
4:Cauchy–Schwarzの不等式 により $|F(\gamma(t))\cdot\gamma'(t)|\le\|F(\gamma(t))\|\,\|\gamma'(t)\|\le M\|\gamma'(t)\|$ であり、各小区間で積分して足すと $\bigl|\int_\gamma\omega\bigr|\le M\,L(\gamma)$ を得る。複素線積分では、$I:=\int_\gamma f\,dz$ を $I=|I|e^{i\theta}$ と書くと、$|I|=e^{-i\theta}I$ は実数なので
$$ |I|=\operatorname{Re}\bigl(e^{-i\theta}I\bigr)=\sum_j\int_{t_{j-1}}^{t_j}\operatorname{Re}\bigl(e^{-i\theta}f(\gamma(t))\gamma'(t)\bigr)\,dt\le\sum_j\int_{t_{j-1}}^{t_j}|f(\gamma(t))|\,|\gamma'(t)|\,dt\le M\,L(\gamma) $$
である($\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ で $|\gamma'(t)|=\|\gamma'(t)\|$)。$\square$

線積分の基本定理

$C^1$ 級関数 $f\colon U\to\mathbb{R}$ について、1 形式 $df:=\sum_i\frac{\partial f}{\partial x_i}\,dx_i$ を $f$ の微分という。ベクトル場で書けば勾配 $\nabla f$ である。

線積分の基本定理

$f\colon U\to\mathbb{R}$ を $C^1$ 級、$\gamma\colon[a,b]\to U$ を区分的に $C^1$ 級の道とする。このとき
$$ \int_\gamma df=f\bigl(\gamma(b)\bigr)-f\bigl(\gamma(a)\bigr) $$
である。とくに閉じた道に沿う $df$ の線積分は $0$ である。

小区間ごとに微分積分学の基本定理を使う

$f$ は $C^1$ 級なので全微分可能であり(偏微分 の記事の定理「偏導関数が連続なら全微分可能」)、連鎖律 により、各小区間 $[t_{j-1},t_j]$ の上で $g(t):=f(\gamma(t))$ は $C^1$ 級で $g'(t)=\sum_i\frac{\partial f}{\partial x_i}(\gamma(t))\,\gamma_i'(t)$ である。これは $\int_\gamma df$ の被積分関数そのものなので、微分積分学の基本定理 により $\int_{t_{j-1}}^{t_j}g'(t)\,dt=g(t_j)-g(t_{j-1})$ である。$j$ について足すと途中の値が打ち消し合い、$g(b)-g(a)$ が残る。$\square$

$f$ をポテンシャル(位置エネルギーの符号を変えたもの)とする力の場 $\nabla f$ の仕事は、道によらず端点のポテンシャルの差で決まる。これは Stokesの定理 の $1$ 次元の場合でもある。

道によらない線積分と原始関数

完全形式と道によらない線積分

$U$ 上の連続な 1 形式 $\omega$ について、$C^1$ 級関数 $f\colon U\to\mathbb{R}$ で $df=\omega$ となるものがあるとき、$\omega$ は完全形式であるといい、$f$ を $\omega$ の原始関数という。ベクトル場で言えば $F=\nabla f$ となることで、このような $F$ を保存場という。また、$U$ の 2 点 $p,q$ と $p$ から $q$ への $U$ の中の区分的に $C^1$ 級の道 $\gamma_1,\gamma_2$ がどう与えられても $\int_{\gamma_1}\omega=\int_{\gamma_2}\omega$ となるとき、$\omega$ の線積分は $U$ で道によらないという。

連結な開集合は折れ線で結べる

$U\subset\mathbb{R}^n$ を連結な開集合とする。$U$ の任意の 2 点は、有限個の線分をつないだ $U$ の中の道(折れ線)で結べる。

$p\in U$ を固定し、$p$ と折れ線で結べる $U$ の点全体を $V$ とする。$x\in U$ について開球 $B(x,r)\subset U$ をとると、$B(x,r)$ の各点は $x$ と線分で結べる。よって $x\in V$ なら $B(x,r)\subset V$ であり、$x\notin V$ なら $B(x,r)$ の点が $V$ に属すると $x$ も $V$ に属してしまうので $B(x,r)\cap V=\emptyset$ である。したがって $V$ と $U\setminus V$ はともに開集合で、$p\in V$ なので、$U$ の連結性から $V=U$ である。線分を $1$ 次式で媒介変数表示してつなげば、区分的に $C^1$ 級の道になる。$\square$

道によらないことと原始関数の存在

$\omega=\sum_iF_i\,dx_i$ を開集合 $U$ 上の連続な 1 形式とする。次は同値である。

  1. $\omega$ は完全形式である。
  2. $\omega$ の線積分は $U$ で道によらない。
  3. $U$ の中のすべての閉じた区分的に $C^1$ 級の道 $\gamma$ について $\oint_\gamma\omega=0$。
    さらに $U$ が連結でこれらが成り立つとき、$p_0\in U$ を固定し、$p_0$ から $x$ への道 $\gamma_x$ で $f(x):=\int_{\gamma_x}\omega$ と定めると $f$ は $\omega$ の原始関数であり、$\omega$ の原始関数はすべて $f$ と定数の差しかない。
道に沿って積分した関数を偏微分する

1 ⇒ 3:$\omega=df$ なら thm-li-fundamental による。
3 ⇒ 2:$\gamma_1,\gamma_2$ を $p$ から $q$ への道とすると $\gamma_1\cdot\gamma_2^-$ は閉じた道なので、prop-li-basic の 2・3 により $0=\int_{\gamma_1}\omega-\int_{\gamma_2}\omega$ である。
2 ⇒ 1:$U$ の連結成分は開集合(開球は連結)なので、各連結成分の上で原始関数を作ってつなげばよい。そこで $U$ を連結とする。lem-li-polygonal により $p_0$ から各 $x$ への道があり、2 により $f(x)$ は道の選び方によらない。$x\in U$、$B(x,r)\subset U$、$0< |h|< r$ とし、線分 $\sigma(t):=x+th\,e_i$($0\le t\le1$、$e_i$ は第 $i$ 単位ベクトル)を $\gamma_x$ につなげると $x+he_i$ への道になるので
$$ \frac{f(x+he_i)-f(x)}{h}=\frac1h\int_\sigma\omega=\int_0^1F_i(x+the_i)\,dt $$
である。$|h|\to0$ のとき $\bigl|\int_0^1\bigl(F_i(x+the_i)-F_i(x)\bigr)dt\bigr|\le\sup_{\|y-x\|\le|h|}|F_i(y)-F_i(x)|\to0$($F_i$ の連続性)なので、$\frac{\partial f}{\partial x_i}(x)=F_i(x)$ である。偏導関数 $F_i$ は連続なので $f$ は $C^1$ 級で、$df=\omega$ である。
一意性:$g$ も原始関数なら $d(f-g)=0$ であり、thm-li-fundamental を $\gamma_x$ に使うと $(f-g)(x)-(f-g)(p_0)=\int_{\gamma_x}0=0$ である。$\square$

これは Leb26b Proposition 9.3.3(p. 84)、多様体の上では Lee13 Theorem 11.42(p. 292)にあたる。

閉形式と星型の開集合

完全形式であるための判定は、線積分を全部調べなくても、係数の偏微分で必要条件が得られる。

完全形式の係数の対称性

$\omega=\sum_iF_i\,dx_i$ の係数が $C^1$ 級で、$\omega$ が完全形式ならば、すべての $i,j$ で $\dfrac{\partial F_i}{\partial x_j}=\dfrac{\partial F_j}{\partial x_i}$ である。

$F_i=\partial f/\partial x_i$ が $C^1$ 級なので $f$ は $C^2$ 級であり、偏微分 の記事の系「$C^2$ 級関数の偏微分の可換性」により $\partial_jF_i=\partial_j\partial_if=\partial_i\partial_jf=\partial_iF_j$ である。$\square$

この条件を満たす $C^1$ 級の 1 形式を閉形式という。滑らかな場合は外微分が $d\omega=0$ となることと同じである(外微分 の記事の定義「閉形式と完全形式」)。逆は開集合の形によるが、星型なら成り立つ。$U$ が点 $a$ に関して星型であるとは、すべての $x\in U$ について $a$ と $x$ を結ぶ線分が $U$ に含まれることをいう(Poincaréの補題 の記事の定義「星型開集合」)。

星型の開集合の上の閉形式

$U$ を点 $a$ に関して星型の開集合とし、$\omega=\sum_iF_i\,dx_i$ を $U$ 上の $C^1$ 級の閉形式とする。このとき $a$ から $x$ への線分に沿う線積分
$$ f(x):=\int_0^1\sum_{i=1}^nF_i\bigl(a+t(x-a)\bigr)(x_i-a_i)\,dt $$
は $\omega$ の原始関数である。

積分記号下で微分する

平行移動して $a=0$ とし、$g(t,x):=\sum_iF_i(tx)\,x_i$ とおく。$x\in U$ を固定し、$\delta>0$ を $x$ を中心とする辺の長さ $2\delta$ の閉じた立方体が $U$ に含まれるようにとる。星型なので、この立方体の点 $y$ と $t\in[0,1]$ について $ty\in U$ であり、$g$ と
$$ \frac{\partial g}{\partial x_j}(t,y)=\sum_it\,\frac{\partial F_i}{\partial x_j}(ty)\,y_i+F_j(ty) $$
は $(t,y)$ について連続である。積分記号下の微分(Leb26b Theorem 9.1.1、p. 65)により、閉形式の条件 $\partial_jF_i=\partial_iF_j$ を使って
$$ \frac{\partial f}{\partial x_j}(x)=\int_0^1\Bigl(\sum_it\,\frac{\partial F_j}{\partial x_i}(tx)\,x_i+F_j(tx)\Bigr)dt=\int_0^1\frac{d}{dt}\bigl(t\,F_j(tx)\bigr)\,dt=F_j(x) $$
である(中央の等号は 連鎖律、最後は 微分積分学の基本定理)。$\partial_jf=F_j$ は連続なので $f$ は $C^1$ 級で、$df=\omega$ である。$\square$

この定理は Leb26b Theorem 9.3.6(p. 87)であり、滑らかな形式についての全次数の版が Poincaréの補題 の記事の定理「Poincaré の補題($C^\infty$ 版)」である。とくに $\mathbb{R}^n$ 全体や開球の上では、$C^1$ 級の 1 形式は閉形式であることと完全形式であることが同値になる。

例

原点を除いた平面の角度形式

$U=\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ 上の $\omega=\dfrac{-y\,dx+x\,dy}{x^2+y^2}$ は、$\partial_y\bigl(\frac{-y}{x^2+y^2}\bigr)=\frac{y^2-x^2}{(x^2+y^2)^2}=\partial_x\bigl(\frac{x}{x^2+y^2}\bigr)$ なので閉形式である。単位円周 $\gamma(t)=(\cos t,\sin t)$($0\le t\le2\pi$)に沿うと被積分関数は $\sin^2t+\cos^2t=1$ なので $\oint_\gamma\omega=2\pi\ne0$ であり、thm-li-path-independence により $\omega$ は $U$ 上の完全形式でない。原点と負の実軸を除いた平面 $\mathbb{R}^2\setminus\{(x,0)\mid x\le0\}$ は $(1,0)$ に関して星型なので、そこでは thm-li-star により原始関数があり、それは偏角 $\theta\in(-\pi,\pi)$ である。閉じた道に沿う $\frac1{2\pi}\oint\omega$ は原点の周りの回転数を数える(Poincaréの補題 の記事の例「反例:原点を除いた平面の角度形式」)。

重力の場と回転する場

$\mathbb{R}^3\setminus\{0\}$ 上の $F(x)=-x/\|x\|^3$ は $\nabla(1/\|x\|)$ に等しいので、$p$ から $q$ への仕事は道によらず $1/\|q\|-1/\|p\|$ である。定義域は星型でないが、原始関数が見つかれば十分である。一方、$\mathbb{R}^2$ 上の $F=(-y,x)$ は $\partial_y(-y)=-1\ne1=\partial_x(x)$ なので閉形式でなく、半径 $r$ の円周を反時計回りに 1 周する仕事は $\int_0^{2\pi}r^2\,dt=2\pi r^2\ne0$ である。この値は円の面積の 2 倍であり、Greenの定理 の記事の系「周の線積分で表す面積」の例になっている。

弧長についての線積分

螺旋 $\gamma(t)=(\cos t,\sin t,t)$($0\le t\le2\pi$)では $\|\gamma'(t)\|=\sqrt2$ なので、長さは $2\sqrt2\,\pi$、高さ $z$ を密度とする針金の質量は $\int_\gamma z\,ds=\int_0^{2\pi}\sqrt2\,t\,dt=2\sqrt2\,\pi^2$ である。逆向きにたどっても値は同じである。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
$U$ が星型(thm-li-star)$\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ 上の角度形式閉形式は完全形式
$\omega$ が閉形式(thm-li-star)$\mathbb{R}^2$ 上の $-y\,dx+x\,dy$星型の開集合上で原始関数をもつ
$U$ が連結(thm-li-path-independence の一意性)交わらない 2 つの開円板の和の上で、一方で $0$、他方で $1$ の関数 $g$$dg=0$ なら $g$ は定数
$\varphi$ が増加(prop-li-reparam)$\varphi(s)=a+b-s$、すなわち逆向きの道媒介変数を取り替えても線積分は変わらない
表の確かめ

1 行目は ex-li-angle、2 行目は ex-li-fields による。3 行目の $g$ は各円板の上で定数なので $dg=0$ だが、定数でない。原始関数 $f$ に $g$ を足したものも原始関数なので、原始関数は定数の差だけでは決まらない。4 行目は prop-li-basic の 2 により符号が変わり、$\int_\gamma\omega\ne0$ なら値が変わる。

補足

多様体の上の線積分とホモトピー不変性

滑らかな多様体の上でも、1 形式(余接ベクトル場)の区分的に滑らかな道に沿う線積分が同じように定義され、媒介変数によらないこと、線積分の基本定理、道によらないことと完全形式の同値性が成り立つ(Lee13 Proposition 11.37(p. 290)、Theorem 11.39(p. 291)、Theorem 11.42(p. 292))。さらに、閉じた 1 形式の線積分は、端点を止めたホモトピーで移り合う道について等しい(Lee13 Theorem 16.26、pp. 419–420。この記事では証明しない)。このため単連結な多様体の上では閉じた 1 形式は完全形式である。

複素線積分と Cauchy の積分定理

$f=u+iv$ が $C^1$ 級なら、$f\,dz=f\,dx+i\,f\,dy$ が閉形式であるための条件 $\partial_yf=i\,\partial_xf$ は Cauchy–Riemann の方程式 $u_x=v_y$、$u_y=-v_x$ にほかならない。Cauchyの積分定理 は、導関数の連続性を仮定せずに、正則関数の複素線積分について thm-li-star と同じ型の結論を与える。閉じた道に沿う線積分を領域の上の 2 重積分に書き直すのが Greenの定理 である。

関連項目

参考文献

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