永田環は、素イデアルによる任意の商整域について、その分数体の任意の有限次拡大における整閉包が、もとの商整域上の有限生成加群となるネーター環である。整閉包に必要な加群生成元を有限個に抑える条件であり、環自身が整閉であることとは異なる。体上の有限型代数や完備ネーター局所環が代表例となる。
前提知識: 可換環、素イデアル、整域、分数体、有限次体拡大
環は単位元をもつ可換環とする。ネーター環はすべてのイデアルが有限生成である環である。
整域 $A$ の分数体の拡大 $L$ における整閉包とは、$A$ 係数のモニック多項式の根となる $L$ の元全体の環である。これを $\overline A^{\,L}$ と書く。$\overline A^{\,L}$ が $A$ 上有限であるとは、$A$-加群として有限生成であることを意味し、集合の元数が有限という意味ではない。
整域 $A$ とその分数体 $K$ に対して、次の条件を区別する。
環 $R$ が 永田環(Nagata ring、Nagata環)であるとは、$R$ がネーター的であり、すべての素イデアル $\mathfrak p$ に対して整域 $R/\mathfrak p$ がN-2条件を満たすことをいう。 Stacks, Definition 10.162.1
正規化では、環に足りない整な元を加える。永田条件は、素イデアルによる商から得られる整域について、分数体を有限次拡大した先でも、整な元を有限個の加群生成元で扱えることを要求する。
整閉であることは「自分の分数体内の整な元を既に含む」という条件である。永田条件はそれとは違い、有限次体拡大まで調べる。整域でない環にも定義でき、零因子や冪零元を排除する条件ではない。
体 $k$ はネーター環で、素イデアルは $(0)$ だけである。有限次拡大 $L/k$ のすべての元は $k$ 上代数的であり、従って $k$ 上整である。整閉包は $L$ 全体で、仮定により有限次元 $k$-ベクトル空間である。従って $k$ はN-2であり、永田環である。
$R=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ は二次元の $k$-ベクトル空間なのでネーター的である。任意の素イデアルは冪零元 $\varepsilon$ を含み、$R/(\varepsilon)=k$ は体なので、素イデアルは $(\varepsilon)$ のみである。
体の例
より、この環は永田環である。
しかし $\varepsilon\neq0$、$\varepsilon^2=0$ なので被約ではない。従って永田環であることから正規性や整域性を結論してはいけない。
体上の有限生成可換代数は永田環である。従って $k[x_1,\ldots,x_n]/I$ は、被約性や整域性を仮定せずに例となる。これは永田環の有限型拡大に関する定理と、体が永田環であることを用いる。 Stacks, Proposition 10.162.15
ネーター環 $R$ について、次の三条件は同値である。
第3条件では「すべての有限型整域」という量化が重要である。$R$ 自身が整域かつN-1というだけの条件ではない。有限次体拡大の内部を直接調べる定義と、有限型代数全体の正規化を調べる判定が結びつく。
被約な永田環 $R$ について、非零因子全体を逆にした全商環 $Q(R)$ の中での $R$ の整閉包は有限 $R$-加群である。これを $R$ の正規化という。被約の仮定を明示したうえで、整域でなく複数の極小素をもつ場合にも適用できる。 Stacks, Lemma 10.162.2
$R=k[t^2,t^3]\subset k[t]$ は体上有限生成整域なので永田環であるが、整閉でない。その正規化は $k[t]$ であり、有限 $R$-加群として $1,t$ で生成される。
$t=t^3/t^2$ より $R$ の分数体は $k(t)$。$t$ はモニック多項式 $T^2-t^2\in R[T]$ の根なので $R$ 上整であるが、$R$ の多項式には一次の項がないため $t\notin R$。よって $R$ は整閉でない。
すべての整数 $n\geq2$ は2と3の非負整数係数の和で書けるので、$t^n\in R$。従って $k[t]=R+Rt$ であり有限である。最後に $k[t]$ はPIDであり分数体 $k(t)$ の中で整閉なので、$R$ 上整な元は $k[t]$ 上も整であることから $k[t]$ に入る。逆に $k[t]=R[t]$ は整元 $t$ で生成されるため $R$ 上整である。これで正規化がちょうど $k[t]$ であることが分かる。
$R$ を永田環、$I$ をイデアルとする。$R/I$ はネーター環である。その素イデアル $\mathfrak q$ は $I$ を含む $R$ の素イデアル $\mathfrak p$ に対応し、$(R/I)/\mathfrak q\cong R/\mathfrak p$。右辺は定義によりN-2であるため、$R/I$ も永田環となる。
局所環では形式的ファイバーによる別の特徴づけがある。ネーター局所環 $(A,\mathfrak m)$ の完備化を $\widehat A=\varprojlim A/\mathfrak m^n$ とし、素イデアル $\mathfrak p$ の剰余体を $\kappa(\mathfrak p)=\operatorname{Frac}(A/\mathfrak p)$ とする。
ネーター局所環 $A$ が永田であることは、すべての素イデアル $\mathfrak p$ に対する $\widehat A\otimes_A\kappa(\mathfrak p)$ が $\kappa(\mathfrak p)$ 上幾何学的に被約であることと同値である。幾何学的に被約とは、任意の体拡大で基底変換しても被約であることをいう。 Stacks, Lemma 15.53.4
この判定から、ネーター局所G環は永田環である。G環は形式的ファイバーに幾何学的正則性を要求し、それは幾何学的被約性を含むからである。ただし、永田性だけでCM性やGorenstein性は従わない。例えば $k[x,y]_{(x,y)}/(x^2,xy)$ は体上有限型環の局所化なので永田だが、Cohen–Macaulay環の記事中の計算のとおり次元1・深さ0である。
逆方向の限界として、永田でない離散付値環も存在する。従って整閉・ネーター・正則局所という条件だけでも永田性は保証されない。この反例の構成は深いため外部例として引用し、ここで構成を証明したとはしない。
Stacks, Example 10.162.17
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