楕円曲線の導手(conductor of an elliptic curve)とは、代数体上の楕円曲線 $E$ の悪い還元を、素イデアルごとの指数 $f_{\mathfrak{p}}$ にまとめた整イデアル $\prod_{\mathfrak{p}}\mathfrak{p}^{f_{\mathfrak{p}}}$ である。指数は $\ell$ 進表現への惰性群の作用から順分岐の部分と Swan 導手の部分の和として定まり、良い還元で $0$、乗法的還元で $1$、加法的還元で $2$ 以上になる。剰余体の標数が $5$ 以上なら、加法的還元の指数はちょうど $2$ である。導手は同種な曲線で等しく、L 関数の関数等式やモジュラー性定理のレベルに現れる。
前提知識: 楕円曲線, 半安定還元, Tate加群, 分解群と惰性群, 野性分岐とSwan導手
楕円曲線の導手(conductor of an elliptic curve)は、楕円曲線がどの素数でどの程度悪い還元をもつかを、1 つの整数(代数体の上では整イデアル)にまとめたものである。有理数体上の楕円曲線 $E$ の導手は $N_E=\prod_pp^{f_p}$ の形をしており、指数 $f_p$ は、$p$ で良い還元をもつなら $0$、乗法的還元なら $1$、加法的還元なら $2$ 以上である。判別式も悪い還元の素数を記録するが、極小判別式は同種な曲線のあいだで変わりうるのに対し、導手は同種な曲線で等しい。導手は 楕円曲線のL関数 の関数等式と、モジュラー性定理の保型形式のレベルに現れる。
指数 $f_p$ は、$E$ の $\ell$ 進表現(Tate加群)に $p$ の惰性群がどう作用するかで定義され、順分岐の部分 $\varepsilon$ と野性分岐の部分 $\delta$ の和 $f=\varepsilon+\delta$ である。$\delta$ は 野性分岐とSwan導手 の Swan 導手にあたる。この記事では、$\varepsilon$ が還元の型だけで決まること(良い・乗法的・加法的に応じて $0,1,2$)と、剰余体の標数が $5$ 以上なら $\delta=0$ であることを証明する。あわせて導手が同種写像で変わらないことを示し、Ogg–Saito の公式による計算例を挙げる。
この記事では、$K$ を完備離散付値体、$R$ をその付値環、$v$ を正規付値($v(K^\times)=\mathbb{Z}$)、$\pi$ を一意化元、$k=R/\pi R$ を剰余体とし、$k$ は標数 $p>0$ の完全体とする($\mathbb{Q}_p$ やその有限次拡大では $k$ は有限体である)。$K$ の分離閉包 $K^{\mathrm{sep}}$ を固定して $G_K:=\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{sep}}/K)$ とし、$K^{\mathrm{nr}}\subset K^{\mathrm{sep}}$ を最大不分岐拡大、$I:=\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{sep}}/K^{\mathrm{nr}})$ を惰性群とする。$K^{\mathrm{nr}}$ の上に延ばした $v$ の値群は $\mathbb{Z}$ のままで、剰余体は $k$ の代数閉包 $\bar k$ である。$K^{\mathrm{sep}}$ の元で $I$ のすべての元に固定されるものは $K^{\mathrm{nr}}$ の元である。
$E$ を $K$ 上の楕円曲線、$\ell\neq p$ を素数とする。$G_K$ は $\ell^n$ 等分点の群 $E[\ell^n]\subset E(K^{\mathrm{sep}})$ に作用し、Tate加群 $T_\ell(E)=\varprojlim_nE[\ell^n]\cong\mathbb{Z}_\ell^2$ と $V_\ell(E):=T_\ell(E)\otimes_{\mathbb{Z}_\ell}\mathbb{Q}_\ell\cong\mathbb{Q}_\ell^2$ への作用が得られる(Galois表現 の例「楕円曲線の $\ell$ 進表現」)。部分群 $H\subset G_K$ で固定される部分を $V_\ell(E)^H$ のように書く。
還元の型(良い還元・乗法的還元・加法的還元)、極小 Weierstrass 方程式、乗法的還元の分裂・非分裂は、半安定還元 の定義「極小Weierstrass方程式と還元の型」のとおりとする。極小方程式の判別式を $\Delta_{\min}$ と書く。整な方程式で $v(\Delta)<12$ または $v(c_4)<4$ のものは極小である(同じ記事の補題「極小性と型の判定」)。
$L:=K(E[\ell])$ は $K$ の有限次 Galois 拡大で、$G:=\operatorname{Gal}(L/K)$ は $E[\ell]$ に忠実に作用する。$G$ の第 $i$ 分岐群を $G_i$、$g_i:=\lvert G_i\rvert$ とする(分解群と惰性群 の定義「高次分岐群」)。$G_0$ は $L/K$ の惰性群で、制限写像 $I\to G$ の像に等しい。$G_1$ は $G_0$ のただ 1 つの Sylow $p$ 部分群である(野性分岐とSwan導手 の節「設定と野性分岐」)。
$\varepsilon$ は $0,1,2$ のどれかで、$\delta\ge0$ である。$\delta=0$ であることは、$G_1$ が $E[\ell]$ に自明に作用すること、すなわち $G_1=1$ と同値である(野性分岐とSwan導手 の命題「Swan導手の基本性質」の 2)。4 の積が有限積であることは、thm-cond-type により $f_{\mathfrak{p}}\neq0$ となるのが悪い還元の素イデアルだけで、それは $E$ の整な方程式の判別式を割るものに限られることからわかる。
定義では素数 $\ell$ を 1 つ選んでいる。$\varepsilon$ が $\ell$ によらないことは thm-cond-type でわかる。$K$ が代数体の完備化のとき、$\delta$ が $\ell$ によらない $0$ 以上の整数であることは、thm-cond-ogg-saito の右辺が $\ell$ を含まない整数であることからわかる(公式はこの記事では証明しない)。$p\ge5$ や半安定還元のときは、どの $\ell$ でも $\delta=0$ であることをこの記事で示す(thm-cond-type、thm-cond-tame)。$\varepsilon$ を有限の $E[\ell]$ ではなく $V_\ell(E)$ で測るのは本質的である(ex-cond-counterexamples の 1 行目)。
$E$ を $K$ 上の楕円曲線、$\ell\neq p$ を素数とする。
要点:良い還元では、還元写像が $\ell$ 冪等分点を単射に写すので $I$ は自明に作用する。乗法的還元では Tate の一意化 $E(K^{\mathrm{sep}})\cong(K^{\mathrm{sep}})^\times/q^{\mathbb{Z}}$ により、等分点は $1$ の冪根と $q$ の冪根で生成され、$I$ は $1$ の冪根を固定して $q$ の冪根だけを動かす。加法的還元では、$E(K^{\mathrm{nr}})$ の $\ell$ 冪等分点が有限個しかないことを示す。
1.極小方程式の還元が滑らかなので、$p$ と素な整数 $m$ について $E[m]$ と $T_\ell(E)$ は不分岐、すなわち $I$ は $E[m]$ と $T_\ell(E)$ に自明に作用する(Sil09 Proposition VII.4.1、p. 195)。よって $V_\ell(E)^I=V_\ell(E)$ で $\varepsilon=0$ である。$I$ が $E[\ell]$ に自明に作用するので、$G$ の $E[\ell]$ への作用が忠実であることから $G_0=1$ であり、$G_1=1$、$\delta=0$ である。$I$ の $E[\ell]$ への作用の像は自明で、4 も成り立つ。
2.乗法的還元なので極小方程式で $v(c_4)=0< v(\Delta_{\min})$ であり、$j=c_4^3/\Delta_{\min}$ は $v(j)=-v(\Delta_{\min})<0$ を満たす。分裂乗法的還元なら、$q\in K^\times$、$v(q)=-v(j)>0$ で $E$ が Tate 曲線 $E_q$ と $K$ 上同型になるものがあり、$G_K$ の作用と両立する同型 $(K^{\mathrm{sep}})^\times/q^{\mathbb{Z}}\cong E_q(K^{\mathrm{sep}})$ がある(Sil09 Theorem C.14.1 (a)(b)、p. 445。$\ell$ 冪等分点の座標は $K$ 上分離的である。この記事では証明しない)。非分裂乗法的還元なら、不分岐な 2 次拡大 $K'/K$ の上で $E$ はある $E_q$($v(q)=-v(j)$)と同型になる(同 Theorem C.14.1 (d))。$K'\subset K^{\mathrm{nr}}$ なので $I\subset G_{K'}$ であり、$K'$ 上の同型は $I$ の作用と両立する。どちらの場合も、$I$ の作用については $E=E_q$ としてよい。
$q$ の $\ell^n$ 乗根 $q_n\in K^{\mathrm{sep}}$ を $q_{n+1}^\ell=q_n$($q_0=q$)となるようにとり、$\zeta_n$ を $1$ の原始 $\ell^n$ 乗根で $\zeta_{n+1}^\ell=\zeta_n$ となるものとする。同型により $E[\ell^n]$ は $\{u\mid u^{\ell^n}\in q^{\mathbb{Z}}\}/q^{\mathbb{Z}}$ と対応し、$\zeta_n$ と $q_n$ の類を基底とする $(\mathbb{Z}/\ell^n)^2$ である。$X^{\ell^n}-1$ は剰余体で重根をもたないので $\zeta_n\in K^{\mathrm{nr}}$ であり、$I$ は $\zeta_n$ を固定する。$\sigma\in I$ について $\sigma(q_n)^{\ell^n}=q$ なので $\sigma(q_n)=\zeta_n^{a}q_n$ となる $a=a_n(\sigma)\in\mathbb{Z}/\ell^n$ がある。したがって基底 $(\zeta_n,q_n)$ について $\sigma$ は行列 $\begin{pmatrix}1&a_n(\sigma)\\0&1\end{pmatrix}$ で作用する。とくに $n=1$ では、$I$ の $E[\ell]$ への作用の像は $\sigma\mapsto a_1(\sigma)$ の像と同型で、$\mathbb{Z}/\ell$ の部分群、すなわち位数 $1$ か $\ell$ である(4)。
極限をとると、$\zeta_n$ の列は $T_\ell(E)$ の $I$ で固定される元 $t\neq0$ を定めるので $\dim V_\ell(E)^I\ge1$ である。$\dim V_\ell(E)^I=2$ だったとすると、$I$ は $V_\ell(E)$ とその部分 $T_\ell(E)$ に自明に作用し、$E[\ell^n]=T_\ell(E)/\ell^nT_\ell(E)$ にも自明に作用する。すると $\sigma\in I$ について $\sigma(q_n)/q_n\in q^{\mathbb{Z}}$ であるが、これは $1$ の冪根なので付値が $0$ で、$v(q)\neq0$ から $\sigma(q_n)=q_n$ となる。よって $q_n\in K^{\mathrm{nr}}$ であるが、$v(q_n)=v(q)/\ell^n$ は $n$ が大きいと整数でなく、$K^{\mathrm{nr}}$ の値群が $\mathbb{Z}$ であることに反する。ゆえに $\dim V_\ell(E)^I=1$、$\varepsilon=1$ である。また 4 により $G_0$ の位数は $1$ か $\ell$ で $p$ と素なので、その $p$ 部分群 $G_1$ は自明で、$\delta=0$ である。
3.Sil09 Theorem VII.7.1(p. 201)の証明と同じ道具を使う。$K^{\mathrm{nr}}$ は完備でないので、有限次の不分岐拡大 $K'\subset K^{\mathrm{nr}}$ ごとに考える($K'$ は完備離散付値体で、$v$ の延長が正規付値、剰余体 $k'$ は $k$ の有限次拡大である)。還元の型は不分岐拡大で変わらないので、$E$ は $K'$ の上でも加法的還元をもつ(同 Proposition VII.5.4 (a)、p. 197)。$E_0(K')$ を還元が非特異点になる点の群、$E_1(K')$ を還元が原点になる点の群とすると、完全列 $0\to E_1(K')\to E_0(K')\to\tilde E_{\mathrm{ns}}(k')\to0$ があり(同 Proposition VII.2.1、p. 188)、加法的還元なので $\tilde E_{\mathrm{ns}}(k')\cong k'^+$ である(同 Proposition VII.5.1 (c)、p. 196)。$k'^+$ は標数 $p$ なので位数 $\ell$ の元をもたず、$E_1(K')$ も位数 $\ell$ の元をもたない(同 Proposition VII.3.1 (a)、p. 192)。よって $E_0(K')$ には位数 $\ell$ の元がなく、$E(K')$ の $\ell$ 冪位数の元の群は $E(K')/E_0(K')$ に単射に写る。この群の位数は $4$ 以下である(同 Theorem VII.6.1、p. 200)。$E(K^{\mathrm{nr}})$ の $\ell$ 冪位数の元の有限部分集合は、座標を添えた有限次不分岐拡大 $K'$ の上の点からなるので $4$ 個以下である。したがって $E(K^{\mathrm{nr}})$ の $\ell$ 冪位数の元は有限個である。
$t=(P_n)_n\in T_\ell(E)^I$ とすると、$P_n\in E[\ell^n]$ は $I$ で固定されるので $P_n\in E(K^{\mathrm{nr}})$ である。$t\neq0$ なら、ある $n_0$ で $P_{n_0}\neq O$ となり、$\ell P_{n+1}=P_n$ から $n\ge n_0$ で $P_n$ の位数は $\ell^{n-n_0+1}$ 以上になって、上の有限性に反する。よって $T_\ell(E)^I=0$ である。$x\in V_\ell(E)^I$ なら、ある $m$ で $\ell^mx\in T_\ell(E)\cap V_\ell(E)^I=T_\ell(E)^I=0$ なので $x=0$ であり、$\varepsilon=2$ である。
とくに.還元の型は 3 つのどれか 1 つなので、1〜3 により $f=0$ は良い還元、$f=1$ は乗法的還元、$f\ge2$ は加法的還元にちょうど対応する。$\square$
この定理から、Szpiro予想 の定義「極小判別式と導手」で使われている「$f_p$ は良い還元で $0$、乗法的還元で $1$、加法的還元で $2$ 以上」が、Galois 表現による定義から導かれる。乗法的還元で $\varepsilon=1$ となるのは、$V_\ell(E)$ の中で $1$ の冪根に当たる直線だけが惰性群で固定され、$q$ の冪根の方向は動かされるからである。
$E$ を有理数体上の楕円曲線、$\Delta_E$ を大域極小方程式の判別式とする。
1:thm-cond-type により $f_p>0$ は悪い還元と同値で、悪い還元は極小方程式で $v_p(\Delta)>0$ となることである。大域極小方程式は各 $p$ で極小である(Szpiro予想 の「極小判別式と導手」の節)。2:$N_E$ が平方因子をもたないことは、すべての $p$ で $f_p\le1$ となることで、thm-cond-type によりすべての $p$ で半安定還元をもつことと同値である。そのとき $f_p=1$ となる $p$ は 1 により $\Delta_E$ を割る素数なので $N_E=\operatorname{rad}(\Delta_E)$ である。$\square$
野性分岐の部分 $\delta$ が正になりうるのは、加法的還元のときだけである(thm-cond-type)。剰余体の標数が $5$ 以上なら、加法的還元でも $\delta=0$ となる。鍵は、基礎体に一意化元の $12$ 乗根を添えると還元が半安定になることで、この拡大の次数 $12$ が $p$ と素なので野性分岐が生じない。
$p\ge5$ とし、$\varpi\in K^{\mathrm{sep}}$ を $\varpi^{12}=\pi$ となる元、$K_1:=K(\varpi)$ とする。このとき、$K$ 上の任意の楕円曲線 $E$ は $K_1$ の上で良い還元か乗法的還元をもつ。
$X^{12}-\pi$ は Eisenstein 多項式なので、$K_1/K$ は次数 $12$ の完全分岐拡大で、$v_1:=12v$ が $K_1$ の正規付値、$\varpi$ が一意化元である。$K$ の標数は $0$ か $p\ge5$ なので、$E$ は短い Weierstrass 形 $y^2=x^3+Ax+B$($A,B\in K$)で表せる。$a:=v(A)$、$b:=v(B)$ とおく($A=0$ なら $a=\infty$。$\Delta\neq0$ なので $a,b$ の少なくとも一方は有限)。整数 $s:=\min(3a,2b)$ をとり、$x=\varpi^{2s}x'$、$y=\varpi^{3s}y'$ と置き換えると $y'^2=x'^3+A'x'+B'$、$A'=\varpi^{-4s}A$、$B'=\varpi^{-6s}B$ となる。$v_1(A')=12a-4s\ge0$、$v_1(B')=12b-6s\ge0$ で、少なくとも一方は $0$ である。$c_4'=-48A'$、$\Delta'=-16(4A'^3+27B'^2)$ であり、$p\ge5$ より $2,3$ は単元である。$v_1(A')=0$ なら $v_1(c_4')=0$ なので、半安定還元 の補題「極小性と型の判定」により $E$ は $K_1$ 上で良い還元か乗法的還元をもつ。$v_1(A')>0$、$v_1(B')=0$ なら $4A'^3+27B'^2\equiv27B'^2\not\equiv0\pmod{\varpi}$ なので $v_1(\Delta')=0$ で、同じ補題により良い還元をもつ。$\square$
$p\ge5$ なら、$K$ 上の任意の楕円曲線 $E$ について $\delta(E/K)=0$ である。したがって $f(E/K)$ は、良い還元・乗法的還元・加法的還元に応じてそれぞれ $0,1,2$ である。
thm-cond-type により、加法的還元の場合に $\delta=0$ を示せばよい。lem-cond-twelfth-root の $K_1$ をとる。$K_1$ の剰余体は $k$ なので、$K_1$ の最大不分岐拡大は合成体 $K_1K^{\mathrm{nr}}$ であり、$K_1$ の惰性群は $I_1:=\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{sep}}/K_1K^{\mathrm{nr}})\subset I$ である。$\varpi$ の付値は $K^{\mathrm{nr}}$ の正規付値で $1/12$ であり、$K^{\mathrm{nr}}$ の値群は $\mathbb{Z}$ なので $[K_1K^{\mathrm{nr}}:K^{\mathrm{nr}}]\ge12$ である。$\varpi$ は $X^{12}-\pi$ の根なので逆の不等式も成り立ち、$[I:I_1]=12$ である。
$\rho\colon I\to\operatorname{Aut}(E[\ell])$ を作用とし、$H:=\rho(I)$、$H_1:=\rho(I_1)$ とおく。lem-cond-twelfth-root により $E$ は $K_1$ 上で半安定還元をもつので、$K_1$ に thm-cond-type の 4 を当てると $\lvert H_1\rvert$ は $1$ か $\ell$ である。$\rho^{-1}(H_1)=I_1\ker\rho$ は $I_1$ を含む部分群なので、$[H:H_1]=[I:I_1\ker\rho]$ は $[I:I_1]=12$ を割る。よって $\lvert H\rvert$ は $12\ell$ を割り、$p\ge5$、$\ell\neq p$ より $p$ と素である。$G_0\cong H$ なので、その Sylow $p$ 部分群 $G_1$ は自明で、$\delta=0$ である。$\square$
剰余体の標数が $2$ か $3$ のときは、加法的還元で $\delta>0$ となる例がある(ex-cond-32、ex-cond-27)。上の証明が使えないのは、半安定にするのに必要な拡大の次数が $p$ で割り切れうるからである。
$E,E'$ を $K$ 上の楕円曲線とし、$K$ 上定義された同種写像 $\varphi\colon E\to E'$ があるとする。
$d:=\deg\varphi$ とし、$\hat\varphi\colon E'\to E$ を双対同種写像とすると $\hat\varphi\circ\varphi=[d]$、$\varphi\circ\hat\varphi=[d]$ である(Sil09 Theorem III.6.1、p. 81、および 同種写像 の節「双対同種写像と同種関係」)。1:$\varphi$ は $K$ 上定義されているので、$\ell$ 冪等分点の上で $G_K$ の作用と可換で、$\mathbb{Z}_\ell$ 線型写像 $\varphi_\ell\colon T_\ell(E)\to T_\ell(E')$ を定める。$\hat\varphi_\ell\circ\varphi_\ell$ と $\varphi_\ell\circ\hat\varphi_\ell$ は $d$ 倍なので、$\mathbb{Q}_\ell$ に係数を広げた $V_\ell(E)\to V_\ell(E')$ は $G_K$ の作用と両立する同型である。よって固定部分の次元が等しく、$\varepsilon(E/K)=\varepsilon(E'/K)$ である。thm-cond-type により還元の型は $\varepsilon$ で決まる(良い・乗法的・加法的で $0,1,2$)ので、1 が従う。
2:$\ell\nmid d$ とする。$\varphi$ の核の元は $\hat\varphi\circ\varphi=[d]$ により位数が $d$ を割るので、位数 $\ell$ の元を含まない。よって $\varphi\colon E[\ell]\to E'[\ell]$ は単射で、両辺とも $\ell^2$ 個の元をもつので $G_K$ の作用と両立する全単射である。したがって $K(E[\ell])=K(E'[\ell])$ で、分岐群 $G_i$ と固定部分の次元がそろい、$\delta(E/K)=\delta(E'/K)$ である。3:$K$ が代数体の完備化なら $\delta$ は $\ell$ によらないので(「定義」の節の注意)、2 の $\ell$ で計算してよく、1 と合わせて $f$ が等しい。代数体上では各素イデアルで指数が等しい。$\square$
極小判別式は同種写像で変わりうるので、この命題は導手を判別式より扱いやすくする(ex-cond-11、ex-cond-32)。良い還元についての部分は Néron–Ogg–Shafarevich の判定法の系として知られている(Sil09 Corollary VII.7.2、p. 202)。
$K$ を代数体の完備化、$E$ を $K$ 上の楕円曲線とし、$m$ を $E$ の極小正則モデルの特殊ファイバーの既約成分の個数(重複度は数えない)とする。このとき
$$
f(E/K)=v(\Delta_{\min})+1-m
$$
が成り立つ。
この公式はこの記事では証明しない。剰余体の標数が $2$ で $K$ の標数が $0$ の場合を除いて Ogg が証明し、すべての場合を斎藤毅(Takeshi Saito)が任意の種数の曲線についての結果として示した(Sil09 Proposition C.16.2、p. 450)。
$m$ は小平の記号(小平邦彦(Kunihiko Kodaira)にちなむ。Tateのアルゴリズム で求まる)から次のように読める(Sil09 Table 15.1、p. 448)。
| 小平の記号 | $\mathrm{I}_0$ | $\mathrm{I}_n$ | $\mathrm{II}$ | $\mathrm{III}$ | $\mathrm{IV}$ | $\mathrm{I}_0^*$ | $\mathrm{I}_n^*$ | $\mathrm{IV}^*$ | $\mathrm{III}^*$ | $\mathrm{II}^*$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 成分の個数 $m$ | $1$ | $n$ | $1$ | $2$ | $3$ | $5$ | $n+5$ | $7$ | $8$ | $9$ |
$m\ge1$ なので $f(E/K)\le v(\Delta_{\min})$ であり、有理数体上では $N_E$ は $\Delta_E$ を割る。乗法的還元($\mathrm{I}_n$、$n=v(\Delta_{\min})$)では右辺は $1$ になり、thm-cond-type の 2 と合う。
$E\colon y^2+y=x^3-x^2$ は $(a_1,a_2,a_3,a_4,a_6)=(0,-1,1,0,0)$ で、$\Delta=-11$、$c_4=16$ である。$11$ 以外の素数 $p$ では $v_p(\Delta)=0$ なので良い還元をもつ。$p=11$ では $v_{11}(\Delta)=1<12$ でこの方程式は極小、$v_{11}(c_4)=0$ なので乗法的還元をもつ(半安定還元 の補題「極小性と型の判定」)。thm-cond-type により $f_{11}=1$ で、$N_E=11$ である。
$E'\colon y^2+y=x^3-x^2-10x-20$ は $\Delta'=-11^5$、$c_4'=496=2^4\cdot31$ で、同じ理由で $11$ でだけ乗法的還元をもち、$N_{E'}=11$ である。$E$ と $E'$ は次数 $5$ の同種写像で結ばれる(Cre97 Table 1、p. 110 の $11\mathrm{A}3$ と $11\mathrm{A}1$)。極小判別式は $-11$ と $-11^5$ で異なるが、導手は prop-cond-isogeny のとおり等しい。
$E\colon y^2=x^3-x$ は $\Delta=64=2^6$、$c_4=48=2^4\cdot3$ である。奇素数では良い還元をもつ。$p=2$ では $v_2(\Delta)=6<12$ なので方程式は極小で、$v_2(c_4)=4>0$ より加法的還元をもつ。小平の記号は $\mathrm{III}$($m=2$)なので(Cre97 Table 1、p. 111 の $32\mathrm{A}2$)、thm-cond-ogg-saito から $f_2=6+1-2=5$、$N_E=32$ である。thm-cond-type の 3 から $\varepsilon=2$ なので $\delta=3$ である。
$E'\colon y^2=x^3+4x$ は $E$ と 2 次の同種写像で結ばれる($y^2=x^3+ax^2+bx$ と $Y^2=X^3-2aX^2+(a^2-4b)X$ を $a=0$、$b=-1$ で使う。Sil09 Example III.4.5、p. 70)。$\Delta'=-2^{12}$ で、この方程式は極小、小平の記号は $\mathrm{I}_3^*$($m=8$)である(Cre97 Table 1、p. 111 の $32\mathrm{A}1$)。公式は $f_2=12+1-8=5$ を与え、prop-cond-isogeny と合う。
$E\colon y^2+y=x^3$ は $\Delta=-27=-3^3$、$c_4=0$ である。$p\neq3$ では良い還元をもつ。$p=3$ では $v_3(\Delta)=3<12$ で方程式は極小、$v_3(c_4)>0$ で加法的還元をもつ。小平の記号は $\mathrm{II}$($m=1$)で(Cre97 Table 1、p. 111 の $27\mathrm{A}3$)、$f_3=3+1-1=3$、$N_E=27$ である。$\varepsilon=2$ なので $\delta=1$ である。
$E\colon y^2=x^3+5$ を $\mathbb{Q}_5$ 上で考える。$\Delta=-16\cdot27\cdot25$、$c_4=0$ なので $v_5(\Delta)=2<12$ で方程式は極小、加法的還元をもつ。thm-cond-tame により $f_5=2$ である。一意化元を $\pi=5$ にとると、lem-cond-twelfth-root の証明の置き換えでは $a=\infty$、$b=1$、$s=2$ となり、$y'^2=x'^3+5\varpi^{-12}=x'^3+1$ は $K_1$ 上で判別式が単元なので、$E$ は $K_1$ 上で良い還元をもつ。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 惰性群の固定部分を $V_\ell(E)$ で測る | $\mathbb{Q}_{11}$ 上の $E'\colon y^2+y=x^3-x^2-10x-20$ と $\ell=5$ | $I$ は $E'[5]$ に自明に作用するが、$E'$ は乗法的還元をもつ。$E'[5]$ で $\varepsilon$ を測ると $0$ になり、「$f=0$ は良い還元と同値」が崩れる |
| 剰余体の標数が $5$ 以上 | $\mathbb{Q}_2$ 上の $y^2=x^3-x$ | 加法的還元で $f_2=5\neq2$、$\delta=3>0$(ex-cond-32) |
| 判別式を極小方程式でとる | 極小でない方程式 $y^2=x^3-16x$($y^2=x^3-x$ と同型) | $v_2(\Delta)=18$ なので Ogg–Saito の公式の右辺は $18+1-2=17$ で、$f_2=5$ と合わない |
| 導手の代わりに極小判別式を使う | ex-cond-11 の $E$ と $E'$ | 同種な曲線で $-11$ と $-11^5$ と異なり、同種写像での不変性が崩れる |
1 行目:$E'$ は $11$ で乗法的還元をもち、$v_{11}(\Delta_{\min})=5$ である(ex-cond-11)。prf-cond-type の 2 のとおり、$I$ の作用については $E'=E_q$、$v(q)=-v(j)=5$ としてよい。$q=11^5u$($u$ は単元)と書くと、$X^5-u$ は剰余体で重根をもたないので $u$ の $5$ 乗根 $w$ は $K^{\mathrm{nr}}$ に属し、$q_1:=11w$ は $q$ の $5$ 乗根で $K^{\mathrm{nr}}$ の元である。$\zeta_1$ も $K^{\mathrm{nr}}$ に属するので、$E'[5]$ の基底 $\zeta_1,q_1$ はどちらも $I$ で固定される。一方 $V_5(E')^I$ は thm-cond-type により 1 次元である。
3 行目:$y^2=x^3-x$ で $x=x'/4$、$y=y'/8$ とおくと $y'^2=x'^3-16x'$ となる($u=1/2$ の座標変換)。判別式は $u^{-12}=2^{12}$ 倍の $2^{18}$ である。極小方程式の判別式の付値は $6$ であり(ex-cond-32)、公式は極小方程式の付値で成り立つ。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する