Steiner–Lehmusの定理(Steiner–Lehmus theorem)とは、2 本の内角の二等分線の長さが等しい三角形は二等辺三角形である、という定理である。三角形 $ABC$ で $b=CA$、$c=AB$ とし、頂点 $B$、$C$ から向かい合う辺まで引いた内角の二等分線の長さを $t_b$、$t_c$ とすると、$t_b^2-t_c^2$ は正の因数と $c-b$ の積に分解できる。これから $b>c$ ならば $t_b<t_c$、$t_b=t_c$ ならば $b=c$ が従う。逆に二等辺三角形では 2 本は等しい。外角の二等分線では同じ主張は成り立たず、二等辺でない三角形で 2 本の長さが等しくなる例がある。
前提知識: Stewartの定理, 角の二等分線の定理, 三角形の合同条件, 三角形の辺と角の大小
二等辺三角形では、底角の 2 つの頂点から引いた角の二等分線の長さは等しい。では逆に、2 本の角の二等分線の長さが等しい三角形は、二等辺三角形だろうか。まず長さを計算してみる。
角の二等分線の長さは、Stewartの定理 の例「角の二等分線の長さ」で求めた次の式で計算できる。頂点から向かい合う辺へ引いた角の二等分線について
$$
(\text{二等分線の長さ})^2=(\text{はさむ 2 辺の積})-(\text{向かい合う辺が分けられた 2 つの部分の積})
$$
である。分けられる比は 角の二等分線の定理 により、はさむ 2 辺の比に等しい。
$BC=4$、$CA=AB=5$ の二等辺三角形 $ABC$ で、頂点 $B$ の角の二等分線が辺 $CA$ と交わる点を $E$ とする。$E$ は $CA$ を $BA:BC=5:4$ に分けるので
$$
AE=5\cdot\frac59=\frac{25}9,\qquad EC=5\cdot\frac49=\frac{20}9
$$
である。はさむ 2 辺は $BA=5$、$BC=4$ なので
$$
BE^2=5\cdot4-\frac{25}9\cdot\frac{20}9=20-\frac{500}{81}=\frac{1120}{81}
$$
である。頂点 $C$ の二等分線 $CF$ も、$B$ と $C$ の役目を入れかえた同じ計算で $CF^2=\dfrac{1120}{81}$ となる。$BE=CF$ である。
$a=BC=6$、$b=CA=5$、$c=AB=4$ の三角形で、頂点 $B$、$C$ の角の二等分線を $BE$、$CF$ とする(図 1)。
(1) $BE$。$E$ は $CA=5$ を $BA:BC=4:6$ に分けるので $AE=2$、$EC=3$ である。はさむ 2 辺は $BA=4$、$BC=6$ なので
$$
BE^2=4\cdot6-2\cdot3=18,\qquad BE=3\sqrt2\fallingdotseq4.24
$$
である。
(2) $CF$。$F$ は $AB=4$ を $CA:CB=5:6$ に分けるので $AF=\dfrac{20}{11}$、$FB=\dfrac{24}{11}$ である。はさむ 2 辺は $CA=5$、$CB=6$ なので
$$
CF^2=5\cdot6-\frac{20}{11}\cdot\frac{24}{11}=30-\frac{480}{121}=\frac{3150}{121},\qquad CF=\frac{15\sqrt{14}}{11}\fallingdotseq5.10
$$
である。
(3) 比べる。$b=5>c=4$ なのに、$BE< CF$ である。長い辺 $CA$ の向かいの頂点 $B$ から引いた二等分線の方が短い。
3 辺が 6、5、4 の三角形。頂点 B の二等分線 BE は約 4.24、頂点 C の二等分線 CF は約 5.10
ex-sl-start では、辺の大小と二等分線の長さの大小が逆になった。これがいつも成り立つなら、2 本の二等分線が等しいとき 2 辺も等しくなるはずである。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| Stewart の定理で二等分線の長さを出す | 長さの公式(lem-sl-length) | 辺の長さの有理式 |
| 2 つの長さの 2 乗の差を因数分解する | 差の公式(lem-sl-diff) | 交代式は $b-c$ で割り切れる |
| 残りの因数が正であることを見る | 大小の比較 thm-sl-main | 符号の決定 |
| 外角の二等分線では因数が $0$ になりうる | ex-sl-cx-external | 係数の符号が混ざる |
以下、三角形 $ABC$ の辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とする。
三角形 $ABC$ の頂点 $A$ の内角の二等分線が辺 $BC$ と交わる点を $D$ とするとき、線分 $AD$ の長さを 頂点 $A$ の角の二等分線の長さ といい、$t_a$ と書く。頂点 $B$、$C$ についても同じく、二等分線が辺 $CA$、$AB$ と交わる点を $E$、$F$ として $t_b=BE$、$t_c=CF$ とする。
二等分線は内角の内部を通るので、向かい合う辺と頂点以外の点で必ず交わる。$t_a$ は「頂点から向かい合う辺まで」の長さで、内心までの長さではない。角の二等分線の定理 で扱う「足までの長さ」$BD$、$DC$ とも別のものである。
$$
t_a^2=\frac{bc\,\bigl((b+c)^2-a^2\bigr)}{(b+c)^2}=\frac{bc\,(a+b+c)(b+c-a)}{(b+c)^2}
$$
である。頂点の名前を回して
$$
t_b^2=\frac{ca\,(a+b+c)(c+a-b)}{(c+a)^2},\qquad t_c^2=\frac{ab\,(a+b+c)(a+b-c)}{(a+b)^2}
$$
である。
段 1(足の位置)。角の二等分線の定理 により $BD:DC=c:b$ で、$BD+DC=a$ なので
$$
BD=\frac{ac}{b+c},\qquad DC=\frac{ab}{b+c}
$$
である。
段 2(長さ)。Stewartの定理 の例「角の二等分線の長さ」により $t_a^2=bc-BD\cdot DC$ である。段 1 を代入すると
$$
t_a^2=bc-\frac{a^2bc}{(b+c)^2}=\frac{bc\,\bigl((b+c)^2-a^2\bigr)}{(b+c)^2}
$$
である。$(b+c)^2-a^2=(b+c+a)(b+c-a)$ と因数分解すると 2 つ目の形になる。$\square$
三角形 $ABC$ は二等分線 $AD$ で三角形 $ABD$ と $ADC$ に分かれ、どちらも頂点 $A$ の角が $\dfrac A2$ である。三角形の面積の公式(2 辺とその間の角の正弦)から
$$\frac12bc\sin A=\frac12c\,t_a\sin\frac A2+\frac12b\,t_a\sin\frac A2$$
である。$\sin A=2\sin\dfrac A2\cos\dfrac A2$ を代入して $\dfrac12\sin\dfrac A2\;(>0)$ で割ると $t_a=\dfrac{2bc\cos\frac A2}{b+c}$ となる。2 乗して半角の公式 $2\cos^2\dfrac A2=1+\cos A$ と余弦定理 $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ を使うと
$$t_a^2=\frac{2b^2c^2(1+\cos A)}{(b+c)^2}=\frac{bc\,(2bc+b^2+c^2-a^2)}{(b+c)^2}=\frac{bc\,\bigl((b+c)^2-a^2\bigr)}{(b+c)^2}$$
となる。
ex-sl-start の $a=6$、$b=5$、$c=4$($a+b+c=15$)で、lem-sl-length を使う。
$$
t_b^2=\frac{4\cdot6\cdot15\cdot(4+6-5)}{10^2}=\frac{1800}{100}=18,\qquad t_c^2=\frac{6\cdot5\cdot15\cdot(6+5-4)}{11^2}=\frac{3150}{121}
$$
で、ex-sl-start と一致する。残りの 1 本は $t_a^2=\dfrac{5\cdot4\cdot15\cdot(5+4-6)}{9^2}=\dfrac{900}{81}=\dfrac{100}9$、$t_a=\dfrac{10}3$ である。
座標でも確かめる。$B(0,0)$、$C(6,0)$ とおくと、$A$ の $x$ 座標は $\dfrac{a^2+c^2-b^2}{2a}=\dfrac{36+16-25}{12}=\dfrac94$、$y$ 座標は $\sqrt{16-\dfrac{81}{16}}=\dfrac{5\sqrt7}4$ である。$E$ は $CA$ を $AE:EC=2:3$ に分ける点なので $E=\dfrac{3A+2C}5=\left(\dfrac{15}4,\dfrac{3\sqrt7}4\right)$ で、$BE^2=\dfrac{225}{16}+\dfrac{63}{16}=\dfrac{288}{16}=18$ である。
3 本を並べると $t_a=\dfrac{10}3\fallingdotseq3.33$、$t_b\fallingdotseq4.24$、$t_c\fallingdotseq5.10$ で、辺の長さ $a=6>b=5>c=4$ とちょうど逆の順になっている。次の節で、これがいつも成り立つことを 2 本ずつ比べて示す。
ex-sl-start で見た大小の入れかわりを、2 乗の差を因数分解して示す。
$$
t_b^2-t_c^2=\frac{a\,(a+b+c)\,(c-b)\,K}{(a+b)^2(a+c)^2},\qquad K=a^3+a^2(b+c)+3abc+bc(b+c)
$$
である。
方針:lem-sl-length の 2 つの式を通分する。分子は $b$ と $c$ を入れかえると符号が変わる式なので、$c-b$ でくくれるはずである。展開して実際にくくる。
段 1(通分)。lem-sl-length の $t_b^2$、$t_c^2$ は共通の因数 $a(a+b+c)$ をもつので
$$
t_b^2-t_c^2=\frac{a\,(a+b+c)\,N}{(a+b)^2(a+c)^2},\qquad N=c\,(a+c-b)(a+b)^2-b\,(a+b-c)(a+c)^2
$$
である($t_b^2$ の分子分母に $(a+b)^2$、$t_c^2$ の分子分母に $(a+c)^2$ を掛けた)。
段 2(1 つ目の項の展開)。$c(a+c-b)=ac+c^2-bc$ と $(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$ を掛けると
$$
\begin{aligned}
c\,(a+c-b)(a+b)^2&=a^3c+2a^2bc+ab^2c+a^2c^2+2abc^2+b^2c^2-a^2bc-2ab^2c-b^3c\\
&=a^3c+a^2bc-ab^2c+a^2c^2+2abc^2+b^2c^2-b^3c
\end{aligned}
$$
である。
段 3(2 つ目の項)。2 つ目の項 $b(a+b-c)(a+c)^2$ は、1 つ目の項の $b$ と $c$ を入れかえたものなので、段 2 の結果の $b$ と $c$ を入れかえて
$$
b\,(a+b-c)(a+c)^2=a^3b+a^2bc-abc^2+a^2b^2+2ab^2c+b^2c^2-bc^3
$$
である。
段 4(引き算)。段 2 から段 3 を引くと、$a^2bc$ と $b^2c^2$ は打ち消し合い、残りは同じ種類の項ごとにまとめて
$$
\begin{aligned}
N&=a^3(c-b)+(-ab^2c+abc^2)+a^2(c^2-b^2)+(2abc^2-2ab^2c)+(bc^3-b^3c)\\
&=a^3(c-b)+abc\,(c-b)+a^2(c-b)(c+b)+2abc\,(c-b)+bc\,(c-b)(c+b)
\end{aligned}
$$
となる。どの項も $c-b$ を因数にもつので、くくり出して
$$
N=\underbrace{(c-b)}_{\text{符号を決める因数}}\,\underbrace{\bigl(a^3+a^2(b+c)+3abc+bc(b+c)\bigr)}_{K}
$$
である。段 1 に代入して結論を得る。$\square$
ex-sl-start の $a=6$、$b=5$、$c=4$ で、$K=216+36\cdot9+3\cdot120+20\cdot9=216+324+360+180=1080$ である。lem-sl-diff により
$$
t_b^2-t_c^2=\frac{6\cdot15\cdot(4-5)\cdot1080}{11^2\cdot10^2}=-\frac{97200}{12100}=-\frac{972}{121}
$$
である。直接の差も $18-\dfrac{3150}{121}=\dfrac{2178-3150}{121}=-\dfrac{972}{121}$ で一致する。
三角形 $ABC$ で、頂点 $B$、$C$ の内角の二等分線の長さを $t_b$、$t_c$ とする。
(1) $b>c$ ならば $t_b< t_c$ である。つまり、長い辺の向かいの頂点から引いた内角の二等分線の方が短い。
(2) $t_b=t_c$ ならば $b=c$ である。つまり、2 本の内角の二等分線の長さが等しい三角形は二等辺三角形である。
方針:lem-sl-diff の右辺で、$c-b$ 以外の因数がすべて正であることを確かめる。すると $t_b^2-t_c^2$ の符号は $c-b$ の符号と同じになる。
段 1(ほかの因数は正)。$a$、$b$、$c$ は正の数なので、$a>0$、$a+b+c>0$、$(a+b)^2(a+c)^2>0$ である。$K=a^3+a^2(b+c)+3abc+bc(b+c)$ は正の数の和なので $K>0$ である。
段 2((1) の証明)。$b>c$ なら $c-b<0$ である。段 1 と lem-sl-diff から、$t_b^2-t_c^2$ は「正の数 $\times$ 負の数 $\mathbin{÷}$ 正の数」で負である。$t_b^2< t_c^2$ で、$t_b$、$t_c$ は正なので $t_b< t_c$ である。
段 3((2) の証明)。$t_b=t_c$ なら $t_b^2-t_c^2=0$ である。lem-sl-diff の分母は $0$ でないので、分子 $a(a+b+c)(c-b)K=0$ である。段 1 より $a(a+b+c)K\ne0$ なので、$c-b=0$、つまり $b=c$ である。$\square$
段 3 は背理法を使っていない。「差が $0$ なら、$0$ でない因数で割って $c-b=0$」という直接の計算である。$b$ と $c$ の役目を入れかえると、$b< c$ ならば $t_b>t_c$ であることも分かる。まとめると、$b$ と $c$ の大小と $t_b$ と $t_c$ の大小はちょうど逆になる。
逆向き(二等辺三角形なら 2 本の二等分線は等しい)は合同から出る。$b=c$ なら底角が等しく $\angle B=\angle C$ である。三角形 $EBC$ と $FCB$ は、辺 $BC$ を共有し、$\angle EBC=\dfrac B2=\dfrac C2=\angle FCB$、$\angle ECB=\angle C=\angle B=\angle FBC$ なので、1 辺とその両端の角が等しく合同である(三角形の合同条件)。よって $BE=CF$ である。ex-sl-start-iso はこの場合の数値例である。
計算を使わない古典的な証明の筋道も紹介する。三角形の辺と角の大小 の 2 つの定理(辺と角の大小の関係、蝶番の定理)を使う背理法である(背理法)。途中の点の位置関係の確認は省くので、完全な証明ではない。
$BE=CF$ で、$b\ne c$ と仮定する。$b>c$ としてよい($b< c$ なら $B$ と $C$ の名前を入れかえる)。大きい辺の向かいの角は大きいので $\angle B>\angle C$、つまり $\dfrac B2>\dfrac C2$ である。
段 1(蝶番の定理)。三角形 $EBC$ と $FCB$ は辺 $BC$ を共有し、$BE=CF$ である。辺 $BC$ と辺 $BE$ のはさむ角は $\dfrac B2$、辺 $CB$ と辺 $CF$ のはさむ角は $\dfrac C2$ で、$\dfrac B2>\dfrac C2$ である。蝶番の定理により、向かい合う辺について $EC>FB$ である。
段 2(平行四辺形)。$BEGF$ が平行四辺形になる点 $G$ をとる($G=E+F-B$)。向かい合う辺は等しいので $GE=FB$、$GF=BE=CF$ である。また向かい合う角は等しいので $\angle FGE=\angle FBE=\dfrac B2$ である。
段 3(二等辺三角形 $FGC$)。$FG=FC$ なので、三角形 $FGC$ は二等辺三角形で、$\angle FGC=\angle FCG$ である。
段 4(三角形 $EGC$ の角)。半直線 $GE$ は角 $FGC$ の内部に、半直線 $CE$ は角 $FCG$ の内部にある(この位置関係の証明は、この記事では省く。そのため、この別証明は完全な証明ではなく筋道の紹介である)。すると $\angle EGC=\angle FGC-\dfrac B2$、$\angle ECG=\angle FCG-\angle FCE=\angle FCG-\dfrac C2$ である。段 3 と $\dfrac B2>\dfrac C2$ から $\angle EGC<\angle ECG$ である。
段 5(矛盾)。三角形 $EGC$ で、小さい角 $\angle EGC$ の向かいの辺 $EC$ は、大きい角 $\angle ECG$ の向かいの辺 $EG$ より短い。$EG=FB$ なので $EC< FB$ となり、段 1 の $EC>FB$ に矛盾する。よって $b=c$ である。$\square$
「2 本が等しいなら二等辺三角形」は、ほかの線ではどうだろうか。頂点 $B$、$C$ から引いた 2 本の線を比べる。
| 2 本の線 | 長さ(2 乗)の式 | 差の因数 | 「2 本が等しい ならば $b=c$」 |
|---|---|---|---|
| 中線 | $m_b^2=\dfrac{2a^2+2c^2-b^2}4$ | $m_b^2-m_c^2=\dfrac34(c-b)(c+b)$ | 成り立つ |
| 高さ | $h_b=\dfrac{2S}b$($S$ は面積) | $h_b-h_c=\dfrac{2S\,(c-b)}{bc}$ | 成り立つ |
| 内角の二等分線 | lem-sl-length | lem-sl-diff | 成り立つ(thm-sl-main) |
| 外角の二等分線 | ex-sl-cx-external | $c-b$ 以外の因数(「大学数学で見る」の $K'$)が $0$ になりうる | 成り立たない |
ex-sl-start の $a=6$、$b=5$、$c=4$ で比べる。
(1) 中線。中線定理(Stewartの定理 の例「中線の長さ」)から $m_b^2=\dfrac{2\cdot36+2\cdot16-25}4=\dfrac{79}4$、$m_c^2=\dfrac{2\cdot36+2\cdot25-16}4=\dfrac{106}4=\dfrac{53}2$ で、$m_b^2-m_c^2=\dfrac{79-106}4=-\dfrac{27}4$ である。表の式でも $\dfrac34\cdot(4-5)\cdot9=-\dfrac{27}4$ である。
(2) 高さ。ex-sl-length の座標から面積は $S=\dfrac12\cdot6\cdot\dfrac{5\sqrt7}4=\dfrac{15\sqrt7}4$ で、$h_b=\dfrac{2S}5=\dfrac{3\sqrt7}2$、$h_c=\dfrac{2S}4=\dfrac{15\sqrt7}8$ である。$h_b< h_c$ である。
中線でも高さでも二等分線でも、長い辺 $b$ の側(頂点 $B$ から引いた線)の方が短い。中線と高さでは差の式が 1 行で因数分解でき、「等しいなら $b=c$」は 1 行の計算で済む。内角の二等分線では、lem-sl-diff の展開が必要になるところが Steiner–Lehmus の定理の難しさである。
thm-sl-main の「内角の二等分線」「頂点から向かい合う辺までの長さ」という条件を変えると、結論が崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 内角の二等分線 | 外角の二等分線:$a=2$、$c=1$、$b=\frac{1+\sqrt{17}}2$ の三角形 | 2 本が等しいならば $b=c$ |
| 頂点から向かい合う辺までの長さ | 内心 $I$ から先の部分 $IE$、$IF$:$a=7$、$b=8$、$c=5$ の三角形 | 2 本が等しいならば $b=c$ |
二等辺三角形では、2 本の内角の二等分線 BE と CF の長さが等しい
二等辺でない三角形でも、頂点 B と C の外角の二等分線 BE' と CF' の長さが等しくなることがある
頂点 $A$ の外角の二等分線が直線 $BC$ と交わる点を $D'$ とし($b\ne c$ のとき交わる。角の二等分線の定理 の外角の場合)、$t_a'=AD'$ とする。$b\ne c$ のとき
$$
t_a'^2=\frac{bc\,\bigl(a^2-(b-c)^2\bigr)}{(b-c)^2}
$$
である(下の「導き方」)。頂点を回すと、$c\ne a$ のとき $t_b'^2=\dfrac{ca\,\bigl(b^2-(c-a)^2\bigr)}{(c-a)^2}$、$a\ne b$ のとき $t_c'^2=\dfrac{ab\,\bigl(c^2-(a-b)^2\bigr)}{(a-b)^2}$ である。ここで $t_b'=BE'$、$t_c'=CF'$ で、$E'$、$F'$ は頂点 $B$、$C$ の外角の二等分線が直線 $CA$、$AB$ と交わる点である。
$a=2$、$c=1$ とし、$b$ を 2 次方程式 $b^2=b+4$ の正の解 $b=\dfrac{1+\sqrt{17}}2\fallingdotseq2.56$ にとる。$1+2>2.56$ なので三角形ができ、$b\ne c$ で、二等辺三角形ではない(3 辺がすべて異なる)。
(1) $t_b'^2=\dfrac{1\cdot2\,(b^2-1)}{1^2}=2b^2-2=2(b+4)-2=2b+6=7+\sqrt{17}$ である。
(2) $(2-b)^2=4-4b+b^2=8-3b$ なので $1-(2-b)^2=3b-7$ で、$t_c'^2=\dfrac{2b\,(3b-7)}{8-3b}=\dfrac{6b^2-14b}{8-3b}=\dfrac{6(b+4)-14b}{8-3b}=\dfrac{8(3-b)}{8-3b}$ である。$(2b+6)(8-3b)=-6b^2-2b+48=-6(b+4)-2b+48=24-8b=8(3-b)$ なので、$t_c'^2=2b+6=7+\sqrt{17}$ である。
よって $t_b'=t_c'=\sqrt{7+\sqrt{17}}\fallingdotseq3.34$ で、外角の二等分線の長さは等しいのに $b\ne c$ である(図 3)。内角の二等分線は $t_b^2\fallingdotseq0.54$、$t_c^2\fallingdotseq4.88$ で、thm-sl-main (1) のとおり $t_b< t_c$ である。
$b>c$ とする($b< c$ なら $B$ と $C$ を入れかえる)。外角の二等分線は直線 $BC$ を $c:b$ に外分するので、$D'$ は辺 $BC$ の $B$ の側の延長にあり、$D'B=\dfrac{ac}{b-c}$、$D'C=\dfrac{ab}{b-c}$ である。三角形 $AD'C$ と、辺 $D'C$ の上の点 $B$ に Stewart の定理を使うと
$$b^2\cdot D'B+t_a'^2\cdot a=D'C\,(c^2+D'B\cdot a)$$
である。代入して $t_a'^2$ について解くと
$$t_a'^2=\frac{b}{b-c}\Bigl(c^2+\frac{a^2c}{b-c}\Bigr)-\frac{b^2c}{b-c}=\frac{bc}{b-c}\Bigl(c-b+\frac{a^2}{b-c}\Bigr)=\frac{bc\,\bigl(a^2-(b-c)^2\bigr)}{(b-c)^2}$$
となる。図 3 の座標($B(0,0)$、$C(2,0)$、$A\left(\dfrac{1-\sqrt{17}}8,\ldots\right)$)でも、$BE'^2=CF'^2=7+\sqrt{17}$ を確かめた。
$a=7$、$b=8$、$c=5$ の三角形は、余弦定理 $\cos A=\dfrac{64+25-49}{80}=\dfrac12$ より $\angle A=60^\circ$ である。$B(0,0)$、$C(7,0)$、$A\left(\dfrac57,\dfrac{20\sqrt3}7\right)$ とおくと、内心は $I(2,\sqrt3)$、二等分線の足は $E\left(\dfrac{10}3,\dfrac{5\sqrt3}3\right)$、$F\left(\dfrac13,\dfrac{4\sqrt3}3\right)$ である。
$$
IE^2=\left(\frac43\right)^2+\left(\frac{2\sqrt3}3\right)^2=\frac{16+12}9=\frac{28}9,\qquad IF^2=\left(\frac53\right)^2+\left(\frac{\sqrt3}3\right)^2=\frac{25+3}9=\frac{28}9
$$
で $IE=IF$ だが、$b\ne c$ である。二等分線全体は $t_b^2=\dfrac{175}9$、$t_c^2=\dfrac{448}9$ で等しくない。
内心について $\angle BIC=180^\circ-\dfrac B2-\dfrac C2=90^\circ+\dfrac A2$ である。$\angle A=60^\circ$ なら $\angle EIF=\angle BIC=120^\circ$ で、$\angle A+\angle EIF=180^\circ$ である。向かい合う角の和が $180^\circ$ なので、四角形 $AEIF$ は円に内接する。この円で、$AI$ は角 $A$ を 2 等分するので、円周角 $\angle EAI=\angle IAF$ に対する弦 $IE$ と $IF$ は等しい。つまり、$IE=IF$ だけからは $b=c$ は出ない($\angle A=60^\circ$ の三角形は、二等辺でなくても $IE=IF$ になる)。
lem-sl-diff の分子 $N$ は、$b$ と $c$ を入れかえると $-N$ になる式(交代式)だった。交代式に $b=c$ を代入すると $N=-N$ から $N=0$ になるので、因数定理により $N$ は $b-c$ で割り切れる(不等式の証明の技法 の「差をとって因数分解する」型)。Steiner–Lehmus の定理の要点は、割った残り $K$ の符号が一定であることにある。
外角の二等分線で同じ計算をすると、次のようになる(展開の手順は prf-sl-diff と同じなので、結果だけ述べる。記号計算ソフトで確かめた)。
$$
t_b'^2-t_c'^2=\frac{a\,(b-c)\,(a-b-c)\,K'}{(a-b)^2(a-c)^2},\qquad K'=a^3-a^2(b+c)+3abc-bc(b+c)
$$
内角の場合の $K=a^3+a^2(b+c)+3abc+bc(b+c)$ とは、$b+c$ を含む 2 つの項の符号だけが違う。$K$ はすべての項が正なので $0$ にならないが、$K'$ は正の項と負の項が混ざるので $0$ になりうる。ex-sl-cx-external の $a=2$、$c=1$ では $K'=8-4(b+1)+6b-b(b+1)=4+b-b^2$ で、$b^2=b+4$ のとき $K'=0$ となる。反例は、この因数が $0$ になる三角形だったのである。
証明の形も比べておく。背理法の証明(prf-sl-main の後の「別の証明」)は「$b\ne c$ と仮定して矛盾を導く」形である。prf-sl-main はこの形をとらず、$0$ でない因数で割って $c-b=0$ を直接導いている。因数分解で符号を決める証明は、等号の場合だけでなく大小の向きまで同時に教えてくれる。
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