原始根

同義語:primitive root

概要

原始根(primitive root)とは、整数 $n\geq2$ と互いに素な整数 $g$ で、$n$ を法とする乗法的位数が $\varphi(n)$ に等しいもの、すなわち冪 $g,g^2,\dots,g^{\varphi(n)}$ が $n$ と互いに素な剰余類をちょうど一度ずつ表すもののことである。たとえば $7$ を法とすると $3$ の冪は $3,2,6,4,5,1$ となり、$3$ は原始根である。原始根が存在することは単元群 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}$ が巡回群であることと同値で、$n$ が $2,4,p^k,2p^k$($p$ は奇素数)のときに限って存在する。特に素数 $p$ を法とする原始根はつねに存在し、$p$ を法として $\varphi(p-1)$ 個ある。原始根を底とする指数(離散対数)は掛け算を足し算に変える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 合同式, 互いに素, 元の位数, Eulerのφ関数, Eulerの定理(整数論)
$7$ を法として $3$ の冪を順に計算すると、
$$ 3^1=3,\quad 3^2=9\equiv2,\quad 3^3\equiv6,\quad 3^4\equiv4,\quad 3^5\equiv5,\quad 3^6\equiv1\pmod 7 $$
となり、$7$ で割った余り $1,2,3,4,5,6$ がちょうど一度ずつ現れてから $1$ に戻る。一方 $2$ の冪は $2,4,1$ で $1$ に戻ってしまい、$3,5,6$ は現れない。$3$ のように、冪を取るだけで $0$ 以外のすべての余りを尽くす数を $7$ を法とする原始根という。身近な例として、$1/7=0.142857142857\cdots$ の循環節の長さが $6$ であるのは、$10$ が $7$ を法とする原始根であることの表れである。$1$ を $7$ で割る筆算で順に現れる余り $3,2,6,4,5,1$ は $10^k$ を $7$ で割った余りであり、それが $6$ 個すべて現れてから $1$ に戻るので、商の数字も $6$ 桁ごとに繰り返す(ex-primitive-root-decimal)。

定義

以下、$n\geq2$ を整数とし、合同 $a\equiv b\pmod n$ は $n\mid a-b$ を意味する(合同式)。$\gcd(a,n)=1$ のとき、Eulerの定理(整数論) により $a^{\varphi(n)}\equiv1\pmod n$ である。ここで $\varphi$ は Eulerのφ関数 である。したがって $a^k\equiv1\pmod n$ を満たす正の整数 $k$ が存在する。

乗法的位数と原始根

$n\geq2$ とし、$a$ を $n$ と互いに素な整数とする。$a^k\equiv1\pmod n$ を満たす最小の正の整数 $k$ を、$n$ を法とする $a$ の 乗法的位数(multiplicative order)といい、$\operatorname{ord}_n(a)$ と書く。
$\operatorname{ord}_n(a)=\varphi(n)$ であるとき、$a$ を $n$ を法とする 原始根(primitive root)という。

$a\equiv b\pmod n$ なら $a^k\equiv b^k\pmod n$ なので、$\operatorname{ord}_n(a)$ と、$a$ が原始根であるかどうかは、$a$ を $n$ で割った余り(剰余類)だけで決まる。$n$ と互いに素な剰余類の全体 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}$ は乗法について位数 $\varphi(n)$ の群をなし(単元の群)、$\operatorname{ord}_n(a)$ はこの群における剰余類 $[a]$ の元の位数にほかならない。$n$ と互いに素でない $a$ については、どんな $k\geq1$ でも $a^k\equiv1\pmod n$ とならない($a^k-1$ と $a^k$ の両方を $\gcd(a,n)>1$ が割ることになる)ので、位数は定義しない。

原始根の言い換え

$n\geq2$ とし、$a$ を $n$ と互いに素な整数とする。次は同値である。

  1. $a$ は $n$ を法とする原始根である。
  2. $a^0,a^1,\dots,a^{\varphi(n)-1}$ を $n$ で割った余りが、$n$ と互いに素な $\varphi(n)$ 個の剰余類をちょうど一度ずつ表す。
  3. 剰余類 $[a]$ が群 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}$ を生成する。すなわち $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}$ は巡回群であり、$[a]$ はその生成元である。
生成される部分群の位数による

$d=\operatorname{ord}_n(a)$ とおく。元の位数 の記事の命題「生成する部分群の位数」により、$[a]$ が生成する部分群は $\{[a]^0,[a]^1,\dots,[a]^{d-1}\}$ であり、この $d$ 個は相異なる。
1 ⇒ 2:$d=\varphi(n)$ なら $[a]^0,\dots,[a]^{\varphi(n)-1}$ は相異なる $\varphi(n)$ 個の元であり、$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}$ の元はちょうど $\varphi(n)$ 個なので、すべての元を一度ずつ表す。
2 ⇒ 3:2 の $\varphi(n)$ 個の元はすべて $[a]$ の冪なので、$[a]$ が生成する部分群が全体に一致する。
3 ⇒ 1:$[a]$ が生成する部分群の位数は $d$ であり、それが全体なら $d=\varphi(n)$ である。

したがって「$n$ を法とする原始根が存在する」ことは「$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}$ が巡回群である」ことと同じである。$n=p$ が素数のとき $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は有限体 $\mathbb{F}_p$ であり、$p$ を法とする原始根は乗法群 $\mathbb{F}_p^{\times}$ の生成元のことである。原始根の存在は $n$ によって異なり、素数の法では必ず存在する(thm-primitive-root-prime)が、たとえば $8$ を法とする原始根は存在しない(ex-primitive-root-eight)。存在する法の完全な決定は thm-primitive-root-classification で述べる。

直感

$n$ を法とする掛け算を、目盛りが $\varphi(n)$ 個の時計にたとえることができる。原始根 $g$ があれば、$n$ と互いに素な剰余類はすべて $g^k$ と書けるので、各剰余類に目盛り $k$($\varphi(n)$ を法として定まる)を割り当てられる。すると $g^k\cdot g^l=g^{k+l}$ により、掛け算は目盛りの足し算に変わる。これは実数の対数 $\log(xy)=\log x+\log y$ と同じ仕組みであり、原始根は「$n$ を法とする対数の底」の役割をする(def-primitive-root-index)。原始根がないとき、たとえば $8$ を法とすると、$1,3,5,7$ はどれも $2$ 乗すると $1$ になり、1 本の時計には並ばない。

例と反例

小さな素数の原始根

素数 $p$ を法とする最小の正の原始根は次のとおりである。

$p$$2$$3$$5$$7$$11$$13$$17$$19$$23$$29$$31$$37$$41$
最小の原始根$1$$2$$2$$3$$2$$2$$3$$2$$5$$2$$3$$2$$6$

$p=2$ では $\varphi(2)=1$ なので $1$ が原始根である。$p=13$ では $2$ の冪は
$$ 2,\ 4,\ 8,\ 3,\ 6,\ 12,\ 11,\ 9,\ 5,\ 10,\ 7,\ 1\pmod{13} $$
で $12$ 個の余りを尽くすので $2$ は原始根であり、$13$ を法とする原始根は $2,6,7,11$ の $4=\varphi(12)$ 個である(cor-primitive-root-count)。$p=41$ では $2,3,4,5$ はどれも原始根でなく、最小の原始根は $6$ である。

分数の循環節

$p$ を $2,5$ 以外の素数とすると、$1/p$ の小数展開の循環節の長さは $\operatorname{ord}_p(10)$ に等しい。実際、$1$ を $p$ で割る筆算で小数第 $k$ 位を求めた直後の余りは $10^k$ を $p$ で割った余りであり、余りが $1$ に戻ったところから同じ計算が繰り返されるからである。したがって循環節の長さが最大の $p-1$ になるのは、$10$ が $p$ を法とする原始根であるときに限る。$p<50$ では
$$ \operatorname{ord}_7(10)=6,\ \operatorname{ord}_{17}(10)=16,\ \operatorname{ord}_{19}(10)=18,\ \operatorname{ord}_{23}(10)=22,\ \operatorname{ord}_{29}(10)=28,\ \operatorname{ord}_{47}(10)=46 $$
がその場合であり、たとえば $1/17=0.\overline{0588235294117647}$ の循環節は $16$ 桁である。一方 $\operatorname{ord}_{11}(10)=2$、$\operatorname{ord}_{13}(10)=6$ であり、$1/11=0.\overline{09}$、$1/13=0.\overline{076923}$ となる。

素数冪の法

$9$ を法とすると $\varphi(9)=6$ であり、$2$ の冪は
$$ 2,\ 4,\ 8,\ 7,\ 5,\ 1\pmod 9 $$
で、$9$ と互いに素な余り $1,2,4,5,7,8$ を尽くす。よって $2$ は $9$ を法とする原始根である。素数でない法でも原始根が存在することがある。

反例:法 8 には原始根がない

$8$ と互いに素な余りは $1,3,5,7$ の $\varphi(8)=4$ 個であるが、
$$ 1^2=1,\quad 3^2=9\equiv1,\quad 5^2=25\equiv1,\quad 7^2=49\equiv1\pmod 8 $$
なので、どの元の位数も $2$ 以下であり、位数 $4$ の元はない。したがって $8$ を法とする原始根は存在しない。この例は「どの法 $n$ にも位数 $\varphi(n)$ の元がある」という主張を破る。同様に $15$ を法とすると $\varphi(15)=8$ であるが、$2$ の冪は $2,4,8,1$ で、どの元の位数も $4$ 以下である(lem-primitive-root-no-two-factors)。

反例:法 p の原始根が法 p^2 の原始根とは限らない

$14$ は $29$ を法とする原始根である($\operatorname{ord}_{29}(14)=28$)。しかし $14^{28}\equiv1\pmod{29^2}$ が成り立ち、$\operatorname{ord}_{841}(14)=28<\varphi(841)=812$ なので、$14$ は $841=29^2$ を法とする原始根ではない。これは「法 $p$ の原始根はそのまま法 $p^2$ の原始根になる」という推論を破る。一方 $14+29=43$ は $841$ を法とする原始根である($\operatorname{ord}_{841}(43)=812$)。lem-primitive-root-lift は、このように $g$ か $g+p$ のどちらかを選べばよいことを示す。

性質

位数の基本性質と判定法

位数の整除性

$n\geq2$、$\gcd(a,n)=1$ とし、$d=\operatorname{ord}_n(a)$ とおく。

  1. 整数 $k\geq0$ について、$a^k\equiv1\pmod n$ であることと $d\mid k$ であることは同値である。
  2. $d$ は $\varphi(n)$ を割り切る。
元の位数の性質への帰着

1 は、群 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}$ の元 $[a]$ に 元の位数 の記事の命題「位数と冪の整除関係」を適用したものである。2 は、Eulerの定理(整数論) の $a^{\varphi(n)}\equiv1\pmod n$ に 1 を適用すれば得られる。

原始根であるかどうかを確かめるのに、$a^1,a^2,\dots,a^{\varphi(n)}$ をすべて計算する必要はない。

原始根の判定法

$n\geq2$、$\gcd(g,n)=1$ とする。$g$ が $n$ を法とする原始根であるための必要十分条件は、$\varphi(n)$ のすべての素因数 $q$ について
$$ g^{\varphi(n)/q}\not\equiv1\pmod n $$
が成り立つことである($\varphi(n)=1$ のときは条件は空であり、$g$ はつねに原始根である)。

真の約数は極大な真の約数を割る

$d=\operatorname{ord}_n(g)$ とおくと、prop-primitive-root-order-divides により $d\mid\varphi(n)$ である。$g$ が原始根なら $d=\varphi(n)$ であり、$\varphi(n)/q<\varphi(n)=d$ は $d$ の倍数でないので、prop-primitive-root-order-divides の 1 により $g^{\varphi(n)/q}\not\equiv1$ である。
逆に $g$ が原始根でないとすると、$d$ は $\varphi(n)$ の真の約数であり、$\varphi(n)/d>1$ はある素数 $q$ で割り切れる。このとき $\varphi(n)/q=d\cdot\bigl(\varphi(n)/(dq)\bigr)$ は $d$ の倍数なので、$g^{\varphi(n)/q}\equiv1\pmod n$ となり、条件が破れる。

たとえば $p=7$ では $\varphi(7)=6=2\cdot3$ なので、$g^3$ と $g^2$ を調べればよい。$3^3=27\equiv6$、$3^2\equiv2$ なので $3$ は原始根であり、$2^3=8\equiv1$ なので $2$ は原始根でない。

素数を法とする原始根の存在

素数 $p$ を法とする合同式では、$0$ でない余りで割ることができるので、$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は体になる。体の上の多項式について、次数 $d$ の $0$ でない多項式の根は高々 $d$ 個である(有限体 の記事の補題「体上の多項式の根の個数」。合同式の言葉では、$p$ で割り切れない係数をもつ次数 $d$ の多項式 $f$ について、$f(x)\equiv0\pmod p$ の解は $p$ を法として高々 $d$ 個)。これが存在証明の鍵である。

1 の d 乗根の個数

$p$ を素数、$d$ を $p-1$ の正の約数とする。合同式 $x^d\equiv1\pmod p$ は、$p$ を法としてちょうど $d$ 個の解をもつ。

Fermatの小定理と根の個数の上界

$p-1=de$ と書く。多項式の恒等式
$$ x^{p-1}-1=(x^d-1)\,h(x),\qquad h(x)=x^{d(e-1)}+x^{d(e-2)}+\cdots+x^d+1 $$
が成り立つ。Fermatの小定理により、$1,2,\dots,p-1$ の $p-1$ 個の剰余類はすべて $x^{p-1}-1\equiv0\pmod p$ の解である。各解 $a$ について $p\mid(a^d-1)h(a)$ なので、$p$ が素数であることから(素数 の記事の Euclid の補題)、$a^d\equiv1$ か $h(a)\equiv0\pmod p$ の少なくとも一方が成り立つ。$h$ は最高次の係数が $1$ の次数 $d(e-1)=p-1-d$ の多項式なので、$h(x)\equiv0$ の解は高々 $p-1-d$ 個である。したがって $x^d\equiv1$ の解は少なくとも $(p-1)-(p-1-d)=d$ 個ある。一方、$x^d-1$ は次数 $d$ なので解は高々 $d$ 個である。よってちょうど $d$ 個である。

素数を法とする原始根の存在

任意の素数 $p$ について、$p$ を法とする原始根が存在する。すなわち $(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$ は位数 $p-1$ の巡回群である。

素数冪の位数の元を掛け合わせる

$p=2$ なら $1$ が原始根である。$p\geq3$ とし、$p-1=q_1^{e_1}q_2^{e_2}\cdots q_r^{e_r}$ を素因数分解する($q_i$ は相異なる素数、$e_i\geq1$)。
各 $i$ について、lem-primitive-root-roots-of-unity により $x^{q_i^{e_i}}\equiv1$ の解はちょうど $q_i^{e_i}$ 個、$x^{q_i^{e_i-1}}\equiv1$ の解はちょうど $q_i^{e_i-1}$ 個ある。後者の解は前者の解でもあるので、$a^{q_i^{e_i}}\equiv1$ かつ $a^{q_i^{e_i-1}}\not\equiv1$ を満たす $a$ が存在する($q_i^{e_i}-q_i^{e_i-1}>0$ 個ある)。このような $a_i$ を一つとると、prop-primitive-root-order-divides により $\operatorname{ord}_p(a_i)$ は $q_i^{e_i}$ を割るが $q_i^{e_i-1}$ を割らないので、$\operatorname{ord}_p(a_i)=q_i^{e_i}$ である。
$g=a_1a_2\cdots a_r$ とおく。$(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}$ は可換群であり、位数 $q_1^{e_1},\dots,q_r^{e_r}$ は対ごとに互いに素なので、元の位数 の記事の命題「可換な元の積の位数」を繰り返し用いて
$$ \operatorname{ord}_p(g)=q_1^{e_1}q_2^{e_2}\cdots q_r^{e_r}=p-1 $$
を得る。よって $g$ は原始根である。

別の証明と出典

上の証明は Ste17 §2.5(Theorem 2.5.8, Proposition 2.5.12、pp. 42–43)の筋による。$p=13$ で辿ると、$x^4\equiv1$ の解 $1,5,8,12$ から位数 $4$ の $5$ を、$x^3\equiv1$ の解 $1,3,9$ から位数 $3$ の $3$ を選び、$5\cdot3=15\equiv2$ が原始根になる。別の証明として、位数 $d$ の元の個数を $\sum_{d\mid n}\varphi(d)=n$ と比較する方法があり、有限体一般について 有限体 の記事の定理「有限体の乗法群の構造」で証明されている。素数を法とする原始根は Gauss が『Disquisitiones Arithmeticae』第 3 節(Sectio III)で体系的に扱い、存在を証明した(Gau01 第 52–57 条)。同じ主張は Mos11 Chapter 5, p. 44 にも述べられている。

原始根の個数

$n\geq2$ を法とする原始根 $g$ が存在するとする。このとき、$n$ と互いに素な整数 $a$ が原始根であるための必要十分条件は、$a\equiv g^k\pmod n$ かつ $\gcd(k,\varphi(n))=1$ を満たす整数 $k$ が存在することである。したがって $n$ を法とする原始根は、$n$ を法として $\varphi(\varphi(n))$ 個ある。特に素数 $p$ を法とする原始根は $\varphi(p-1)$ 個ある。

冪の位数の公式による

prop-primitive-root-equivalent により、$n$ と互いに素な $a$ は $0\leq k<\varphi(n)$ のただ一つの $k$ で $a\equiv g^k$ と書ける。元の位数 の記事の命題「冪の位数の公式」により
$$ \operatorname{ord}_n(g^k)=\frac{\varphi(n)}{\gcd(k,\varphi(n))} $$
であり、これが $\varphi(n)$ に等しいことは $\gcd(k,\varphi(n))=1$ と同値である。$0\leq k<\varphi(n)$ でこの条件を満たす $k$ は $\varphi(\varphi(n))$ 個ある($\varphi(n)=1$ のときは $k=0$ の $1$ 個で、$\varphi(1)=1$ と一致する)。

指数(離散対数)

指数

$g$ を $n$ を法とする原始根とする。$n$ と互いに素な整数 $a$ に対し、$g^k\equiv a\pmod n$ を満たす整数 $k$ は $\varphi(n)$ を法としてただ一つに定まる(prop-primitive-root-equivalent と prop-primitive-root-order-divides)。この $k$ を $g$ を底とする $a$ の 指数(index)または 離散対数(discrete logarithm)といい、$\operatorname{ind}_g(a)$ と書く。

定義から、$n$ と互いに素な $a,b$ について
$$ \operatorname{ind}_g(ab)\equiv\operatorname{ind}_g(a)+\operatorname{ind}_g(b),\qquad \operatorname{ind}_g(a^m)\equiv m\operatorname{ind}_g(a)\pmod{\varphi(n)} $$
が成り立つ($g^{\operatorname{ind}a+\operatorname{ind}b}\equiv ab$ だから)。これにより、冪の合同式が一次の合同式に変わる。

指数による冪の合同式の解法

$7$ を法とし、原始根 $g=3$ を底にとると、冒頭の計算から指数の表は次のとおりである。

$a$$1$$2$$3$$4$$5$$6$
$\operatorname{ind}_3(a)$$0$$2$$1$$4$$5$$3$

合同式 $x^3\equiv6\pmod 7$ を解く。$x$ は $7$ と互いに素でなければならないので、$y=\operatorname{ind}_3(x)$ とおくと、両辺の指数をとって $3y\equiv\operatorname{ind}_3(6)=3\pmod 6$、すなわち $y\equiv1\pmod 2$ である。よって $y\in\{1,3,5\}$、$x\equiv3^1,3^3,3^5\equiv3,6,5\pmod 7$ である。実際 $3^3=27$、$6^3=216$、$5^3=125$ はいずれも $7$ で割って $6$ 余る。

離散対数問題

大きな素数 $p$ と原始根 $g$ に対して、$g^k$ を $p$ で割った余りは繰り返し 2 乗法により速く計算できるが、逆に余り $a$ から $\operatorname{ind}_g(a)$ を求める問題(離散対数 問題)を、古典的な計算機で一般に速く解く方法は知られていない。この非対称性は Diffie–Hellman鍵共有 などの暗号方式の基礎として使われている(Ste17 §3.2, pp. 51–55)。

原始根をもつ法の決定

原始根が存在する法

整数 $n\geq2$ を法とする原始根が存在するための必要十分条件は、$n$ が
$$ 2,\qquad 4,\qquad p^k,\qquad 2p^k\qquad(p\text{ は奇素数},\ k\geq1) $$
のいずれかであることである。

証明の構成

以下の 4 つの補題で証明する。存在しない側は、$n$ の単元の群のすべての元が $\varphi(n)$ より小さい共通の指数で $1$ になることを示す(lem-primitive-root-no-two-factors、lem-primitive-root-power-of-two)。存在する側は、法 $p$ の原始根を法 $p^k$ に持ち上げる(lem-primitive-root-lift、lem-primitive-root-lte)。定理の主張は 合成数を法とする合同式 の記事でも述べられている。

互いに素な 2 つの因子に分かれる法

$n=ab$、$\gcd(a,b)=1$、$a\geq3$、$b\geq3$ とする。このとき $n$ を法とする原始根は存在しない。

共通の指数を作る

まず、$m\geq3$ なら $\varphi(m)$ は偶数である。実際、$x\mapsto m-x$ は $1\leq x\leq m-1$ で $m$ と互いに素な $x$ の集合をそれ自身に移し($\gcd(m-x,m)=\gcd(x,m)$)、2 回施すと元に戻る。固定点 $x=m-x$ があれば $m=2x$ で $\gcd(x,m)=x=1$、すなわち $m=2$ となるので、$m\geq3$ では固定点がなく、元は 2 個ずつ組になる。
よって $\varphi(a)$ と $\varphi(b)$ はともに偶数であり、$L=\operatorname{lcm}(\varphi(a),\varphi(b))$ は $\varphi(a)\varphi(b)/\gcd(\varphi(a),\varphi(b))\leq\varphi(a)\varphi(b)/2$ を満たす。$u$ を $n$ と互いに素な整数とすると、$u$ は $a$ とも $b$ とも互いに素なので、Eulerの定理(整数論) により $u^{\varphi(a)}\equiv1\pmod a$、$u^{\varphi(b)}\equiv1\pmod b$ であり、$L$ はその両方の倍数だから $a\mid u^L-1$ かつ $b\mid u^L-1$ である。$\gcd(a,b)=1$ なので $ab\mid u^L-1$、すなわち $u^L\equiv1\pmod n$ である(互いに素 の記事の命題「互いに素な因子の消去」から従う)。したがって $\operatorname{ord}_n(u)\leq L$ である。一方、互いに素 の記事の系「Euler関数の乗法性」により $\varphi(n)=\varphi(a)\varphi(b)\geq2L>L$ なので、位数 $\varphi(n)$ の元はない。

2 の冪の法

$k\geq3$ とする。任意の奇数 $u$ について $u^{2^{k-2}}\equiv1\pmod{2^k}$ である。したがって $2^k$ を法とする原始根は存在しない。

k に関する帰納法

$k=3$ のとき、$u=2t+1$ と書くと $u^2=4t(t+1)+1$ であり、$t(t+1)$ は偶数なので $u^2\equiv1\pmod 8$ である。$k\geq3$ で $u^{2^{k-2}}=1+2^ks$($s$ は整数)と書けたとすると、
$$ u^{2^{k-1}}=(1+2^ks)^2=1+2^{k+1}s+2^{2k}s^2\equiv1\pmod{2^{k+1}} $$
である($2k\geq k+1$)。よってすべての $k\geq3$ で主張が成り立つ。$2^k$ と互いに素な数は奇数なので、どの元の位数も $2^{k-2}<2^{k-1}=\varphi(2^k)$ 以下であり、原始根はない。

法 p から法 p^2 への持ち上げ

$p$ を奇素数、$g$ を $p$ を法とする原始根とする。$g^{p-1}\equiv1\pmod{p^2}$ ならば $(g+p)^{p-1}\not\equiv1\pmod{p^2}$ である。したがって、$p$ を法とする原始根 $g$ で $g^{p-1}\not\equiv1\pmod{p^2}$ を満たすものが存在する。

二項展開

二項定理により
$$ (g+p)^{p-1}=g^{p-1}+(p-1)g^{p-2}p+\sum_{i=2}^{p-1}\binom{p-1}{i}g^{p-1-i}p^i\equiv g^{p-1}+(p-1)pg^{p-2}\pmod{p^2} $$
である。$g^{p-1}\equiv1\pmod{p^2}$ なら、右辺は $1-pg^{p-2}+p^2g^{p-2}\equiv1-pg^{p-2}\pmod{p^2}$ であり、$p\nmid g$ なので $pg^{p-2}\not\equiv0\pmod{p^2}$ である。よって $(g+p)^{p-1}\not\equiv1\pmod{p^2}$ である。$g+p\equiv g\pmod p$ なので $g+p$ も $p$ を法とする原始根であり、後半が従う。

p 乗による p 進の深さの増加

$p$ を奇素数とし、整数 $x$ が $x=1+pt$、$p\nmid t$ と書けるとする。このとき各整数 $j\geq0$ について
$$ x^{p^j}=1+p^{j+1}t_j,\qquad p\nmid t_j $$
となる整数 $t_j$ が存在する。

j に関する帰納法

$j=0$ では $t_0=t$ でよい。$x^{p^j}=1+p^{j+1}t_j$、$p\nmid t_j$ とすると、二項定理により
$$ x^{p^{j+1}}=(1+p^{j+1}t_j)^p=1+p\cdot p^{j+1}t_j+\sum_{i=2}^{p}\binom{p}{i}p^{i(j+1)}t_j^i $$
である。$i=2$ の項は $\binom p2p^{2(j+1)}=\frac{p-1}{2}p^{2j+3}$ であり、$p$ が奇数なので $(p-1)/2$ は整数、$2j+3\geq j+3$ なので $p^{j+3}$ で割り切れる。$3\leq i\leq p$ の項は $i(j+1)\geq3(j+1)\geq j+3$ なので $p^{j+3}$ で割り切れる。よって $x^{p^{j+1}}=1+p^{j+2}(t_j+ps)$($s$ は整数)と書け、$t_{j+1}=t_j+ps$ は $p$ で割り切れない。

原始根が存在する法の定理の証明

存在しないこと:$n\geq2$ が $2,4,p^k,2p^k$ のいずれでもないとする。$n$ が 2 の冪なら $n=2^k$、$k\geq3$ であり、lem-primitive-root-power-of-two により原始根はない。$n$ が奇素因数 $p$ をもつとし、$n=2^ep^km$($p\nmid m$、$m$ は奇数)と書く。$m\geq3$ なら $a=2^ep^k\geq3$、$b=m\geq3$ は互いに素であり、lem-primitive-root-no-two-factors により原始根はない。$m=1$ なら、$n$ が $p^k,2p^k$ でないことから $e\geq2$ であり、$a=2^e\geq4$、$b=p^k\geq3$ に lem-primitive-root-no-two-factors を適用すればよい。
存在すること:$n=2$ では $1$、$n=4$ では $3$($3^1\equiv3$、$3^2\equiv1\pmod 4$、$\varphi(4)=2$)が原始根である。$p$ を奇素数、$k\geq1$ とする。thm-primitive-root-prime と lem-primitive-root-lift により、$p$ を法とする原始根 $g$ で $g^{p-1}=1+pt$、$p\nmid t$ となるものがとれる。$d=\operatorname{ord}_{p^k}(g)$ とおく。prop-primitive-root-order-divides により $d\mid\varphi(p^k)=p^{k-1}(p-1)$ である。また $g^d\equiv1\pmod{p^k}$ から $g^d\equiv1\pmod p$ であり、$g$ は $p$ を法とする原始根なので $p-1\mid d$ である。よって $d=(p-1)p^j$、$0\leq j\leq k-1$ と書ける。$j\leq k-2$ とすると、lem-primitive-root-lte により $g^{d}=(g^{p-1})^{p^j}=1+p^{j+1}t_j$、$p\nmid t_j$ で、$j+1\leq k-1$ だから $g^d\not\equiv1\pmod{p^k}$ となり矛盾する。よって $j=k-1$、$d=\varphi(p^k)$ であり、$g$ は $p^k$ を法とする原始根である。
最後に $n=2p^k$ とする。$g$ を $p^k$ を法とする原始根とし、$g$ が偶数なら $g+p^k$ に取り替えて奇数にする($p^k$ を法とする剰余類は変わらない)。奇数 $u$ については $u^s-1$ がつねに偶数なので、$u^s\equiv1\pmod{2p^k}$ と $u^s\equiv1\pmod{p^k}$ は同値である。よって $\operatorname{ord}_{2p^k}(g)=\operatorname{ord}_{p^k}(g)=\varphi(p^k)=\varphi(2p^k)$ であり、$g$ は $2p^k$ を法とする原始根である。

この定理により、$n\leq40$ で原始根をもたない法は $8,12,15,16,20,21,24,28,30,32,33,35,36,39,40$ である。ex-primitive-root-nine の $9=3^2$ は存在する側の例である。

未解決の問題

Artinの原始根予想

$a$ を $-1$ でも平方数でもない整数とする。このとき、$a$ が $p$ を法とする原始根となる素数 $p$ は無限に存在する。

予想の現状

この予想は E. Artin によるもので、Artin はさらに、そのような素数の割合が $a$ だけで決まる正の定数($a=2$ ではおよそ $0.3739$)になると予想した。$a=2$ の場合は Mos11 の未解決問題の一覧(Classical Unsolved Problems 第 22 問、p. 74)にも挙げられている。Hooley は 一般化Riemann予想 を仮定してこの予想を証明した(Hoo67)。無条件の結果としては、Heath-Brown が、$2,3,5$ の少なくとも一つは無限に多くの素数を法として原始根になること、また予想が成り立たない素数 $a$ は高々 2 個であることを示した(HB86)。しかし 2026 年の時点でも、予想が無条件に証明された具体的な整数 $a$ は一つも知られていない(Ste17 §2.5.3, pp. 43–44 は 2017 年時点で同じ状況を述べている)。

関連項目

参考文献

[2]
Carl Friedrich Gauss, Disquisitiones Arithmeticae, 1st ed., Gerhard Fleischer, Leipzig, 1801, Sectio III, art. 52–57(原始根の存在、指数)、art. 82–92(素数冪・2 の冪・合成数の法)。条番号は訳書でも共通

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