回転数(winding number)とは、平面の閉曲線 $\gamma$ とその上にない点 $a$ について、$\gamma$ が $a$ のまわりを反時計回りに正味で何周するかを表す整数 $n(\gamma,a)$ のことで、$a$ から見た $\gamma(t)$ の偏角を連続にたどったときの増分を $2\pi$ で割って定める。区分的に滑らかな閉曲線では $n(\gamma,a)=\frac{1}{2\pi i}\oint_\gamma\frac{dz}{z-a}$ が成り立ち、Cauchy の積分公式・留数定理・偏角の原理はこの整数を係数として述べられる。回転数は $a$ を通らない連続的な変形(ホモトピー)で変わらず、$\mathbb{C}\setminus\{a\}$ の基本群と整数の同型を与える。この不変性だけから代数学の基本定理が導かれる。
前提知識: 複素数, 連続写像, ホモトピー, Cauchyの積分公式
平面の閉曲線 $\gamma$ と、その上にない点 $a$ が与えられたとき、$\gamma$ をたどる間に $a$ のまわりを何周するかを数えた整数を、$\gamma$ の $a$ に関する 回転数(winding number)という。反時計回りの 1 周を $+1$、時計回りの 1 周を $-1$ と数える。$a$ から $\gamma(t)$ へ向かうベクトルの偏角を連続にたどり、終点での偏角と始点での偏角の差を $2\pi$ で割ったものが回転数である。
回転数は複素解析と位相幾何の接点にある。滑らかな閉曲線では回転数は積分 $\frac{1}{2\pi i}\oint_\gamma\frac{dz}{z-a}$ に等しく、Cauchyの積分公式・留数定理・偏角の原理 はどれも回転数を係数にもつ形で述べられる。一方で回転数は、曲線を $a$ を通らずに連続的に変形しても変わらない(thm-wn-homotopy)。この不変性だけから、代数学の基本定理のような存在定理が導かれる(thm-wn-fta)。
以下、閉区間 $[\alpha,\beta]$($\alpha<\beta$)から $\mathbb{C}$ への連続写像を 曲線 といい、$\gamma(\alpha)=\gamma(\beta)$ のとき 閉曲線 という。曲線 $\gamma$ の像を $\gamma^*:=\gamma([\alpha,\beta])$ と書く。$\gamma^*$ は コンパクト空間 である。右半平面 $H:=\{w\in\mathbb{C}\mid\operatorname{Re}w>0\}$ 上では、偏角の主値
$$
\operatorname{Arg}w:=\arctan\frac{\operatorname{Im}w}{\operatorname{Re}w}\in\Bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\Bigr)\qquad(w\in H)
$$
は連続であり、$w=|w|e^{i\operatorname{Arg}w}$ を満たす。
$\gamma\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{C}$ を曲線、$a\in\mathbb{C}\setminus\gamma^*$ とする。
1:$t\mapsto|\gamma(t)-a|$ はコンパクトな $[\alpha,\beta]$ 上の正の連続関数なので、正の最小値 $\varepsilon$ をもつ。$\gamma$ は $[\alpha,\beta]$ 上で一様連続だから、分割 $\alpha=t_0< t_1<\dots< t_n=\beta$ を、同じ小区間 $[t_{j-1},t_j]$ に属する $s,t$ について $|\gamma(s)-\gamma(t)|<\varepsilon$ となるようにとれる。$t\in[t_{j-1},t_j]$ に対し
$$
q_j(t):=\frac{\gamma(t)-a}{\gamma(t_{j-1})-a}
$$
とおくと、$|q_j(t)-1|=|\gamma(t)-\gamma(t_{j-1})|/|\gamma(t_{j-1})-a|<\varepsilon/\varepsilon=1$ なので $q_j(t)\in H$ である。$\gamma(\alpha)-a$ の偏角の 1 つ $\theta_0$ を選び、$j=1,\dots,n$ について順に
$$
\theta(t):=\theta(t_{j-1})+\operatorname{Arg}q_j(t)\qquad(t\in[t_{j-1},t_j])
$$
と定める($\theta(t_0):=\theta_0$)。$q_j(t_{j-1})=1$、$\operatorname{Arg}1=0$ なので、隣り合う小区間の定義は分点で一致し、$\theta$ は $[\alpha,\beta]$ 上で連続である。$t\in[t_{j-1},t_j]$ について、帰納法の仮定 $\gamma(t_{j-1})-a=|\gamma(t_{j-1})-a|e^{i\theta(t_{j-1})}$ と $q_j(t)=|q_j(t)|e^{i\operatorname{Arg}q_j(t)}$ を掛け合わせると
$$
\gamma(t)-a=q_j(t)\bigl(\gamma(t_{j-1})-a\bigr)=|\gamma(t)-a|\,e^{i(\theta(t_{j-1})+\operatorname{Arg}q_j(t))}=|\gamma(t)-a|\,e^{i\theta(t)}
$$
である。
2:$e^{i\theta_1(t)}=e^{i\theta_2(t)}$ だから、$(\theta_2(t)-\theta_1(t))/(2\pi)$ は各 $t$ で整数である。これは $[\alpha,\beta]$ 上の連続関数で整数値をとるので、中間値の定理 により定数である。
$\gamma\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{C}$ を閉曲線、$a\in\mathbb{C}\setminus\gamma^*$ とし、$\theta$ を $\gamma$ の $a$ から見た偏角の連続な選び方とする。
$$
n(\gamma,a):=\frac{\theta(\beta)-\theta(\alpha)}{2\pi}
$$
を $\gamma$ の $a$ に関する 回転数(winding number)または 巻き数 という。
この値は整数であり、$\theta$ の選び方によらない。実際、$\gamma(\beta)=\gamma(\alpha)$ より $e^{i\theta(\beta)}=e^{i\theta(\alpha)}$ だから $\theta(\beta)-\theta(\alpha)\in2\pi\mathbb{Z}$ であり、別の選び方 $\theta+2\pi k$ では差が変わらない(lem-wn-lift の 2)。閉じていない曲線についても $(\theta(\beta)-\theta(\alpha))/(2\pi)$ は定まるが、一般には整数でない。
区分的に滑らかな閉曲線については、Cauchyの積分公式 の記事は回転数を積分 $\frac{1}{2\pi i}\oint_\gamma\frac{dz}{z-a}$ で定義している。次の命題により、2 つの定義は一致する。
$\gamma\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{C}$ を区分的に滑らかな閉曲線(Cauchyの積分定理 の記事の定義「区分的に滑らかな曲線と複素線積分」)、$a\notin\gamma^*$ とする。このとき
$$
n(\gamma,a)=\frac{1}{2\pi i}\oint_\gamma\frac{dz}{z-a}
$$
である。
lem-wn-lift の証明の分割と $q_j$ をとり、さらに $\gamma$ が $C^1$ 級でない点をすべて分点に加えておく(分割を細かくしても証明の条件は保たれる)。$\operatorname{Log}w:=\log|w|+i\operatorname{Arg}w$ は $H$ 上の正則関数で $\operatorname{Log}'(w)=1/w$ を満たす(Cauchyの積分定理 の記事の命題「対数の主値の正則性」)。$[t_{j-1},t_j]$ 上で
$$
L(t):=\log|\gamma(t)-a|+i\theta(t)=\log|\gamma(t_{j-1})-a|+i\theta(t_{j-1})+\operatorname{Log}q_j(t)
$$
である(実部・虚部をそれぞれ比べればよい)。右辺は小区間の内部で微分でき、合成関数の微分により
$$
L'(t)=\frac{q_j'(t)}{q_j(t)}=\frac{\gamma'(t)/(\gamma(t_{j-1})-a)}{(\gamma(t)-a)/(\gamma(t_{j-1})-a)}=\frac{\gamma'(t)}{\gamma(t)-a}
$$
である。$L$ は $[\alpha,\beta]$ 上で連続で、各小区間で $C^1$ 級なので、
$$
\oint_\gamma\frac{dz}{z-a}=\sum_{j=1}^n\int_{t_{j-1}}^{t_j}\frac{\gamma'(t)}{\gamma(t)-a}\,dt=\sum_{j=1}^n\bigl(L(t_j)-L(t_{j-1})\bigr)=L(\beta)-L(\alpha)
$$
である。$|\gamma(\beta)-a|=|\gamma(\alpha)-a|$ より実部は打ち消し合い、$L(\beta)-L(\alpha)=i(\theta(\beta)-\theta(\alpha))=2\pi i\,n(\gamma,a)$ を得る。
この命題により、Cauchyの積分公式 の記事の命題「回転数の性質」(整数であること、$\mathbb{C}\setminus\gamma^*$ の連結成分ごとに一定であること、有界でない成分で $0$ であること、円周の内部で $1$・外部で $0$ であること)は、ここで定義した回転数についての主張でもある。以下では、連続な閉曲線についてもこれらが成り立つことを確かめ(def-wn-main の直後の段落、prop-wn-components、ex-wn-circle)、ホモトピー不変性を示す。
$\gamma(t)$ を動く点、$a$ を地面に立てた柱と考える。柱から動く点へ張った糸の向きを追いかけ、点が出発点に戻ったときに糸が柱に何回巻きついたかを数えたものが回転数である。点が柱の向こう側で行ったり来たりしても、巻きつきの正味の回数は変わらない。曲線を少し動かしても、柱をまたがない限り巻きつきの回数は変わらないので、回転数は連続的な変形で不変な整数になる。この「連続に変わる量が整数値しかとらない」という構造が、回転数を位相幾何の不変量にしている。
$c\in\mathbb{C}$、$r>0$、$k\in\mathbb{Z}$ とし、$\gamma(t):=c+re^{ikt}$($0\le t\le2\pi$)とおく。$a=c$ では $\gamma(t)-c=re^{ikt}$ だから $\theta(t)=kt$ が偏角の連続な選び方であり、$n(\gamma,c)=(2\pi k-0)/(2\pi)=k$ である。後の prop-wn-components により、開円板 $|a-c|< r$ は連結で $\gamma^*$ と交わらず $c$ を含むので、その全体で $n(\gamma,a)=k$、$|a-c|>r$ では $n(\gamma,a)=0$ である。$k=0$ なら $\gamma$ は 1 点にとどまる定数の曲線で、回転数は $0$ である。
$\gamma_1(t):=1-e^{it}$、$\gamma_2(t):=-1+e^{-it}$($0\le t\le2\pi$)とおく。$\gamma_1$ は $0$ から出発して円周 $|z-1|=1$ を反時計回りに 1 周し($\gamma_1(t)-1=e^{i(t+\pi)}$)、$\gamma_2$ は $0$ から出発して円周 $|z+1|=1$ を時計回りに 1 周する。$\gamma_1$ のあとに、区間を $[2\pi,4\pi]$ へずらした $\gamma_2$ をたどる閉曲線 $\gamma$ は 8 の字を描く。後の prop-wn-basic の 3 と ex-wn-circle により
$$
n(\gamma,1)=1+0=1,\qquad n(\gamma,-1)=0+(-1)=-1,\qquad n(\gamma,3)=0+0=0
$$
である。同じ閉曲線でも、囲まれた部分ごとに回転数の符号が違いうる。
$p(z)=z^2+1=(z-i)(z+i)$ と、半径 $R\neq1$ の円周 $C_R(t):=Re^{it}$($0\le t\le2\pi$)を考える。$p\circ C_R=(C_R-i)(C_R+i)$ は $0$ を通らず、後の prop-wn-basic の 1・4 により
$$
n(p\circ C_R,0)=n(C_R,i)+n(C_R,-i)=\begin{cases}2&(R>1)\\0&(R<1)\end{cases}
$$
である。像の曲線が原点のまわりを回る回数は、円板 $|z|< R$ の中にある $p$ の零点の個数に等しい。これを一般の有理型関数について述べたのが 偏角の原理 である。
$\gamma,\gamma_1,\gamma_2$ を閉曲線、$a$ をそれらの像にない点とする。
どれも偏角の連続な選び方を作って差を比べればよい。$\theta$ を $\gamma$ の $a$ から見た偏角の連続な選び方とする。
1:$(\gamma(t)-a)-0=\gamma(t)-a$ なので、$\theta$ はそのまま $\gamma-a$ の $0$ から見た偏角の連続な選び方である。
2:$\theta^-(t):=\theta(\alpha+\beta-t)$ は $\gamma^-$ の偏角の連続な選び方で、$\theta^-(\beta)-\theta^-(\alpha)=\theta(\alpha)-\theta(\beta)$ である。
3:$\theta_1,\theta_2$ をそれぞれ $\gamma_1,\gamma_2$ の偏角の連続な選び方とする。$\theta_1(\beta)$ と $\theta_2(\beta)$ はともに同じ複素数 $\gamma_1(\beta)-a$ の偏角だから、差は $2\pi$ の整数倍であり、$\theta_2$ に $2\pi$ の整数倍を足して $\theta_2(\beta)=\theta_1(\beta)$ にできる(lem-wn-lift の 2)。$[\alpha,\beta]$ 上で $\theta_1$、$[\beta,\delta]$ 上で $\theta_2$ に等しい関数は連続で、$\gamma$ の偏角の連続な選び方になる。その差は $\theta_2(\delta)-\theta_1(\alpha)=(\theta_2(\delta)-\theta_2(\beta))+(\theta_1(\beta)-\theta_1(\alpha))$ である。
4:$\theta_1,\theta_2$ をそれぞれ $\gamma_1,\gamma_2$ の $0$ から見た偏角の連続な選び方とすると、$\gamma_1\gamma_2=|\gamma_1||\gamma_2|e^{i(\theta_1+\theta_2)}=|\gamma_1\gamma_2|e^{i(\theta_1+\theta_2)}$ なので、$\theta_1+\theta_2$ は $\gamma_1\gamma_2$ の偏角の連続な選び方である。商も同様に $\theta_1-\theta_2$ をとればよい。
5:$\theta\circ\varphi$ は $\gamma\circ\varphi$ の偏角の連続な選び方で、差は $\theta(\varphi(\beta'))-\theta(\varphi(\alpha'))=\theta(\beta)-\theta(\alpha)$ である。
4 は、ex-wn-polynomial のように関数の積の回転数を因子ごとに足し合わせることを許す。偏角の原理 の証明で、零点の位数が回転数に足し算で効いてくるのはこの性質による。
次の補題が、回転数の不変性を示す道具のすべてである。動く点 $\gamma_0(t)$ を飼い主、$\gamma_1(t)$ を引き綱でつながれた犬、$a$ を木と考えると、綱の長さがいつも飼い主と木の距離より短ければ、犬は木にぶつからず、飼い主と同じ回数だけ木のまわりを回る。
$\gamma_0,\gamma_1\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{C}$ を閉曲線、$a\notin\gamma_0^*$ とし、すべての $t$ について
$$
|\gamma_1(t)-\gamma_0(t)|<|\gamma_0(t)-a|
$$
が成り立つとする。このとき $a\notin\gamma_1^*$ であり、$n(\gamma_1,a)=n(\gamma_0,a)$ である。
三角不等式により $|\gamma_1(t)-a|\ge|\gamma_0(t)-a|-|\gamma_1(t)-\gamma_0(t)|>0$ なので、$a\notin\gamma_1^*$ である。$q(t):=\dfrac{\gamma_1(t)-a}{\gamma_0(t)-a}$ とおくと、$q$ は閉曲線で
$$
|q(t)-1|=\frac{|\gamma_1(t)-\gamma_0(t)|}{|\gamma_0(t)-a|}<1
$$
だから、$q(t)$ はいつも右半平面 $H$ にある。よって $\operatorname{Arg}\circ q$ は $q$ の $0$ から見た偏角の連続な選び方であり、$q(\beta)=q(\alpha)$ より $n(q,0)=(\operatorname{Arg}q(\beta)-\operatorname{Arg}q(\alpha))/(2\pi)=0$ である。$\gamma_1-a=(\gamma_0-a)\,q$ だから、prop-wn-basic の 1・4 により
$$
n(\gamma_1,a)=n(\gamma_1-a,0)=n(\gamma_0-a,0)+n(q,0)=n(\gamma_0,a)
$$
である。
$\gamma$ を閉曲線とする。
1:$a_0\notin\gamma^*$ とし、$d:=\min_t|\gamma(t)-a_0|>0$ とおく。$|a-a_0|< d$ なら、閉曲線 $\gamma_0:=\gamma-a_0$、$\gamma_1:=\gamma-a$ と点 $0$ について $|\gamma_1(t)-\gamma_0(t)|=|a_0-a|< d\le|\gamma_0(t)|$ が成り立つので、lem-wn-dog と prop-wn-basic の 1 により $n(\gamma,a)=n(\gamma-a,0)=n(\gamma-a_0,0)=n(\gamma,a_0)$ である。各点の近傍で一定な整数値関数は連続であり、連結な集合の上では一定である(値ごとの逆像が互いに交わらない開集合に分かれるため)。
2:$|a|>\rho$ とし、$\gamma_0$ を値がいつも $0$ の定数の閉曲線とする。$|\gamma(t)-\gamma_0(t)|=|\gamma(t)|\le\rho<|a|=|\gamma_0(t)-a|$ なので、lem-wn-dog により $n(\gamma,a)=n(\gamma_0,a)$ である。定数の曲線の偏角は定数にとれるので $n(\gamma_0,a)=0$ である。集合 $\{|a|>\rho\}$ は連結で $\gamma^*$ と交わらないので、$\mathbb{C}\setminus\gamma^*$ の 1 つの連結成分に含まれる。$\mathbb{C}\setminus\gamma^*$ の有界でない連結成分は $\{|a|>\rho\}$ と交わるので、この成分にほかならず、1 によりその上で $n(\gamma,a)=0$ である。
2 つの閉曲線 $\gamma_0,\gamma_1\colon[\alpha,\beta]\to U$ が開集合 $U$ の中で 閉曲線としてホモトピック であるとは、連続写像 $H\colon[\alpha,\beta]\times[0,1]\to U$ で、$H(t,0)=\gamma_0(t)$、$H(t,1)=\gamma_1(t)$、かつすべての $s$ について $H(\alpha,s)=H(\beta,s)$ となるものがあることをいう。各 $s$ について $\gamma_s:=H(\cdot,s)$ は閉曲線であり、$\gamma_0$ は閉曲線のまま $\gamma_1$ に連続的に変形される(ホモトピー)。始点を固定する必要はない。
$a\in\mathbb{C}$ とし、閉曲線 $\gamma_0,\gamma_1\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{C}\setminus\{a\}$ が $\mathbb{C}\setminus\{a\}$ の中で閉曲線としてホモトピックであるとする。このとき $n(\gamma_0,a)=n(\gamma_1,a)$ である。
$H$ をホモトピーとする。$K:=[\alpha,\beta]\times[0,1]$ はコンパクトで、$|H-a|$ は $K$ 上の正の連続関数だから、正の最小値 $\varepsilon$ をもつ。$H$ は $K$ 上で一様連続なので、$\eta>0$ を、$|s-s'|<\eta$ ならすべての $t$ について $|H(t,s')-H(t,s)|<\varepsilon$ となるようにとれる。このとき
$$
|\gamma_{s'}(t)-\gamma_s(t)|<\varepsilon\le|\gamma_s(t)-a|\qquad(\alpha\le t\le\beta)
$$
だから、lem-wn-dog により $n(\gamma_{s'},a)=n(\gamma_s,a)$ である。$0=s_0< s_1<\dots< s_N=1$ を $s_k-s_{k-1}<\eta$ となるようにとれば、$n(\gamma_0,a)=n(\gamma_{s_1},a)=\dots=n(\gamma_1,a)$ を得る。
$\gamma,\gamma_0,\gamma_1$ を $[\alpha,\beta]$ 上の閉曲線とし、$a$ をそれらの像にない点とする。
1:定数の曲線の回転数は $0$ だから、thm-wn-homotopy による。3:$H(t,s):=(1-s)\gamma_0(t)+s\gamma_1(t)$ は連続で、$H(\alpha,s)=H(\beta,s)$ を満たし、仮定から $a$ を通らない。thm-wn-homotopy による。2:$c:=\gamma(\alpha)$ とし、$\gamma_1$ を値がいつも $c$ の定数の曲線とする。$D$ は凸なので線分 $[\gamma(t),c]$ は $D$ に含まれ、$a$ を通らない。3 と 1 による。
Koebeの1/4定理 の記事では、円周 $|z|=\rho$ の像の曲線の回転数が $\rho$ によらないことを、半径を動かすホモトピーで導いている。thm-wn-homotopy はこの種の議論の根拠である。
回転数のホモトピー不変性だけを使って、複素係数の多項式が根をもつことを示す。積分も正則性も使わない。
$n\geq1$ とし、$p(z)=z^n+c_{n-1}z^{n-1}+\dots+c_1z+c_0$($c_j\in\mathbb{C}$)とする。このとき $p(z_0)=0$ となる $z_0\in\mathbb{C}$ が存在する。
$p$ が根をもたないと仮定して矛盾を導く。$R:=1+\sum_{j=0}^{n-1}|c_j|$ とおき、$\gamma_1(t):=p(Re^{it})$、$\gamma_0(t):=(Re^{it})^n=R^ne^{int}$($0\le t\le2\pi$)とする。
段 1(大きな円周の像は $n$ 回まわる).$|z|=R\geq1$ のとき、$|z|^j\le R^{n-1}$($j\le n-1$)だから
$$
|p(z)-z^n|\le\sum_{j=0}^{n-1}|c_j||z|^j\le\Bigl(\sum_{j=0}^{n-1}|c_j|\Bigr)R^{n-1}< R\cdot R^{n-1}=|z^n|
$$
である。すなわち $|\gamma_1(t)-\gamma_0(t)|<|\gamma_0(t)-0|$ がすべての $t$ で成り立つ。lem-wn-dog により $n(\gamma_1,0)=n(\gamma_0,0)$ であり、$\gamma_0$ の偏角の連続な選び方は $\theta(t)=nt$ だから $n(\gamma_0,0)=n$ である。よって $n(\gamma_1,0)=n$ である。
段 2(円周を縮めると回転数は 0).$H(t,s):=p(sRe^{it})$($0\le t\le2\pi$、$0\le s\le1$)は連続で、$H(0,s)=H(2\pi,s)$ を満たし、仮定により値は $0$ にならない。$H(\cdot,1)=\gamma_1$ であり、$H(\cdot,0)$ は値がいつも $p(0)$ の定数の曲線である。thm-wn-homotopy により $n(\gamma_1,0)=n(H(\cdot,0),0)=0$ である。
段 1 と段 2 から $n=0$ となり、$n\geq1$ に反する。
最高次の係数が $1$ でない多項式は、最高次の係数で割ればこの形になる。代数学の基本定理 の記事は、絶対値の最小値の議論と Galois 理論による証明を与え、ここでの議論の考え方を「位相幾何による証明」として述べている。上の証明は、その考え方を回転数の言葉で完結させたものである。段 1 の評価は、偏角の原理 の記事で扱う Rouché の定理と同じ形をしている。
$b\in\mathbb{C}\setminus\{a\}$ を基点とする閉曲線の、基点を固定したホモトピー類に回転数を対応させる写像
$$
\pi_1(\mathbb{C}\setminus\{a\},b)\to\mathbb{Z},\qquad[\gamma]\mapsto n(\gamma,a)
$$
は群の同型である(基本群 の記事の定義「基本群」)。
矛盾なく定まること:基点を固定したホモトピー $H$ は $H(\alpha,s)=H(\beta,s)=b$ を満たすので、閉曲線としてのホモトピーであり、thm-wn-homotopy により回転数は類だけで決まる。準同型であること:道の積は 2 つの閉曲線をつないだものなので、prop-wn-basic の 3(区間のずらしは 5)による。
全射:$k\in\mathbb{Z}$ に対し $\gamma_k(t):=a+(b-a)e^{ikt}$($0\le t\le2\pi$)は $b$ を基点とする閉曲線で、$b-a$ の偏角の 1 つを $\theta_0$ とすると $\theta(t)=\theta_0+kt$ が偏角の連続な選び方だから、$n(\gamma_k,a)=k$ である。
単射:準同型なので、$n(\gamma,a)=0$ なら $[\gamma]$ が単位元であることを示せばよい。$\gamma\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{C}\setminus\{a\}$ を $b$ を基点とする閉曲線、$\theta$ をその偏角の連続な選び方とすると、$n(\gamma,a)=0$ より $\theta(\beta)=\theta(\alpha)=:\theta_0$ である。
$$
H(t,s):=a+|\gamma(t)-a|\,e^{i((1-s)\theta(t)+s\theta_0)},\qquad K(t,s):=a+\bigl((1-s)|\gamma(t)-a|+s|b-a|\bigr)e^{i\theta_0}
$$
とおく。どちらも連続で、$a$ からの距離が正なので $a$ を通らない。$t=\alpha,\beta$ では $|\gamma(t)-a|=|b-a|$、$\theta(t)=\theta_0$ だから $H$ と $K$ の値はいつも $b$ であり、基点は固定される。$H(\cdot,0)=\gamma$、$H(\cdot,1)=K(\cdot,0)$、$K(\cdot,1)$ は値がいつも $a+|b-a|e^{i\theta_0}=b$ の定数の曲線である。よって $\gamma$ は基点を固定したまま定数の曲線にホモトピックであり、$[\gamma]$ は単位元である。
基本群 の記事の定理「円周の基本群」は、単位円周について同じ同型を持ち上げで示している。円周から円周への写像の Brouwer次数 も同じ考え方の量で、$z\mapsto z^k$ ではどちらも $k$ になる(Brouwer次数 の記事の命題「円周の冪写像の写像度」と ex-wn-circle)。
自分自身と交わらない区分的に $C^1$ 級の閉曲線 $\gamma$ について、$\mathbb{C}\setminus\gamma^*$ はちょうど 2 つの連結成分をもち、有界な成分の上で $n(\gamma,a)=1$ または $n(\gamma,a)=-1$(成分全体で同じ値)、有界でない成分の上で $0$ である。この記事では証明しない(LebGCCA26 Theorem 4.7.3、p. 118)。値が $1$ のとき $\gamma$ は正の向き(反時計回り)であるという。連続な単純閉曲線の補集合が 2 つの成分に分かれることは Jordan曲線定理 である。留数定理 や 偏角の原理 を「曲線の内部の留数の和」「内部の零点の個数」と読むときは、この事実が背景にある。
回転数という語の別の使い方。 微分幾何では、正則な($\gamma'(t)\neq0$ の)$C^1$ 級閉曲線について、速度ベクトルの曲線 $\gamma'$ の $0$ に関する回転数 $n(\gamma',0)$ を 接線の回転数 という。円周 $c+re^{it}$ では $\gamma'(t)=ire^{it}$ なので接線の回転数は $1$ であり、凸多角形の外角の和が $2\pi$ になることはこの量の多角形版にあたる。また力学系では、円周の同相写像に対して定まる別の量も回転数と呼ばれるが、ここでいう閉曲線の回転数とは別の概念である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 曲線が $a$ を通らない | $\gamma(t)=e^{it}$($0\le t\le2\pi$)、$a=1$ | $\gamma(0)-a=0$ に偏角がなく、回転数が定まらない |
| 曲線が閉じている | $\gamma(t)=e^{it}$($0\le t\le\pi$)、$a=0$ | $(\theta(\pi)-\theta(0))/(2\pi)=1/2$ は整数でない |
| ホモトピーの途中で $a$ を通らない | $H(t,s)=3s+e^{it}$、$a=0$ | $n(\gamma_0,0)=1$ だが $n(\gamma_1,0)=0$ |
| 犬の散歩の補題の不等式 | $\gamma_0(t)=e^{it}$、$\gamma_1(t)=3$、$a=0$ | $n(\gamma_1,0)=0\neq1=n(\gamma_0,0)$ |
表の各行が、仮定を外すと結論が崩れることを確かめる。
1 行目:$\gamma(0)=1=a$ なので、$\gamma(t)-a=|\gamma(t)-a|e^{i\theta(t)}$ を満たす $\theta(0)$ の値がそもそも決まらない。lem-wn-lift は $a\notin\gamma^*$ を使っている。
2 行目:$\theta(t)=t$ が偏角の連続な選び方で、$(\pi-0)/(2\pi)=1/2$ である。整数になるのは $e^{i\theta(\beta)}=e^{i\theta(\alpha)}$、すなわち曲線が閉じているからである。
3 行目:$\gamma_s(t)=3s+e^{it}$ は円周 $|z-3s|=1$ を 1 周する閉曲線で、ex-wn-circle により $n(\gamma_0,0)=1$($0$ は円の中心)、$n(\gamma_1,0)=0$($|0-3|=3>1$)である。$s=1/3$、$t=\pi$ で $\gamma_s(t)=0$ となり、変形の途中で $0$ を通る。thm-wn-homotopy の仮定が破れている。
4 行目:$|\gamma_1(t)-\gamma_0(t)|=|3-e^{it}|\geq2>1=|\gamma_0(t)|$ で、補題の不等式が成り立たない。定数の曲線 $\gamma_1$ の回転数は $0$、$\gamma_0$ の回転数は $1$ である。
連続な閉曲線の回転数を偏角の連続な選び方で定め、積分による定義と一致させる扱い、ホモトピー不変性の証明の流れは LebGCCA26 §4.1.2(Definition 4.1.1、Proposition 4.1.2、pp. 94–95;Proposition 4.1.3、pp. 95–96)と §4.5(Lemma 4.5.3、p. 110;Definition 4.5.4、Lemma 4.5.5、Proposition 4.5.6、p. 111)にある。lem-wn-dog は LebGCCA26 §5.4.2(p. 140)で Rouché の定理の直観的な説明として述べられている考え方を、補題として切り出したものである。
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