K3曲面(K3 surface)とは、体上固有で滑らかな幾何的に連結な曲面 $X$ で、標準層が自明 $\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ かつ $H^1(X,\mathcal{O}_X)=0$ をみたすものである。$\mathbb{P}^3$ の滑らかな 4 次曲面が代表例である。K3 曲面では Riemann–Roch の定理が $\chi(\mathcal{O}_X(D))=D^2/2+2$ となり、ここから交点形式が偶であること、曲線の自己交点数が $-2$ 以上であること、Picard 群に捩れがないことが従う。複素数体上では $H^2(X,\mathbb{Z})$ は階数 $22$ の偶ユニモジュラー格子で、周期による Torelli 型定理が成り立つ。
K3 曲面(K3 surface)とは、滑らかで固有な代数曲面であって、標準層(2 次の微分形式の層)が自明であり、構造層の 1 次コホモロジーが消えているものである。1 次元で標準層が自明な曲線は楕円曲線であり、その意味で K3 曲面は楕円曲線の 2 次元での類似の一つである。ただし楕円曲線と違って $H^1(X,\mathcal{O}_X)=0$ を課すので、同じく標準層が自明なアーベル曲面(2 次元のアーベル多様体)とは別の種類になる。
代表例は射影空間 $\mathbb{P}^3$ の滑らかな 4 次曲面である。この記事では、4 次曲面が K3 曲面であることを示したあと、K3 曲面の上では Riemann–Roch の定理が $\chi(\mathcal{O}_X(D))=D^2/2+2$ という簡単な形になることから、交点数が偶数になること、自己交点数が $-2$ 以上の因子が(符号を除いて)有効になること、Picard 群に捩れがないことを証明する。複素数体上の位相的な性質($H^2$ の格子、Torelli 定理)は出典を示して紹介する。
$k$ を体とする。曲面とは $k$ 上の 2 次元の分離的な有限型スキームのことで、滑らかな曲面 $X$ の標準層を $\omega_X:=\Omega^2_{X/k}$(2 次の Kähler 微分の層、局所的には $f\,dx\wedge dy$ の形の元からなる可逆層)とおく。$\omega_X$ に対応する因子類を $K_X$ と書き、標準因子と呼ぶ。
体 $k$ 上の K3 曲面とは、$k$ 上固有で滑らかな、幾何的に連結な曲面 $X$ であって、次の 2 条件をみたすものをいう。
この形の定義は Vak25 Exercise 21.5.I(p. 624)による。そこでは Calabi–Yau 曲面($\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ をみたす滑らかな射影曲面)のうち (ii) をみたすものとして導入される(Calabi–Yau多様体)。名前は Weil によるもので、Kummer・Kähler・小平邦彦の 3 人と山の K2 にちなむ(Vak25 同所の注記)。
複素数体上では、同じ条件 (i)(ii) をコンパクト複素曲面(2 次元のコンパクト複素多様体)に課したものも K3 曲面と呼ぶ。この意味の K3 曲面は代数的とは限らないが、すべて Kähler 多様体になる(Todorov と Siu の定理。Yau09 §3.1, p. 286。この記事では証明しない)。
以下、コホモロジーの次元を $h^i(\mathcal{F}):=\dim_kH^i(X,\mathcal{F})$ と書く。直線束 $L=\mathcal{O}_X(D)$ の Euler 標数を $\chi(L)=\sum_i(-1)^ih^i(L)$ とし、射影曲面の上の交点数 $D\cdot D'$(交叉理論の「曲面の交叉形式」)を用いる。$D^2:=D\cdot D$ である。
曲線の世界では、標準層の次数 $2g-2$ の符号で射影直線($g=0$)、楕円曲線($g=1$)、一般型の曲線($g\ge2$)が分かれる。曲面でも標準層の「正負」で振る舞いが大きく変わり、標準層が自明な曲面は、その境目にある。標準層が自明な曲面のうち、正則な 1 次微分形式を持たないもの(複素数体上の射影曲面では、Hodge分解による $h^{0,1}=h^{1,0}$ から、条件 (ii) は $H^0(X,\Omega^1_X)=0$ と同じ意味になる)が K3 曲面である。標準層の自明性は Riemann–Roch の公式から $K_X$ を含む項を消し、条件 (ii) は Euler 標数 $\chi(\mathcal{O}_X)$ を $2$ に固定する。この二つが、次の節以降の証明の主な材料になる。
以下の証明で使う射影空間の事実をまとめておく。$\mathbb{P}^n=\mathbb{P}^n_k$ の上で、
$F\in k[x_0,x_1,x_2,x_3]$ を 4 次の斉次多項式とし、$X=V(F)\subset\mathbb{P}^3$ が $k$ 上滑らかであるとする。このとき $X$ は K3 曲面であり、
$$
h^0(\mathcal{O}_X)=1,\qquad h^1(\mathcal{O}_X)=0,\qquad h^2(\mathcal{O}_X)=1
$$
が成り立つ。
標準層.$X$ は $\mathbb{P}^3$ の因子で $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^3}(X)\cong\mathcal{O}(4)$ だから、随伴公式により
$$
\omega_X\cong(\omega_{\mathbb{P}^3}\otimes\mathcal{O}(4))|_X\cong(\mathcal{O}(-4)\otimes\mathcal{O}(4))|_X\cong\mathcal{O}_X .
$$
コホモロジー.$F$ 倍の写像により、閉部分スキームの完全列
$$
0\to\mathcal{O}_{\mathbb{P}^3}(-4)\xrightarrow{\ \cdot F\ }\mathcal{O}_{\mathbb{P}^3}\to\mathcal{O}_X\to0
$$
がある($\mathbb{P}^3$ は整なので $F$ 倍は単射)。コホモロジーの長完全列の各段に上の事実を代入する。
幾何的連結性.代数閉包 $\bar k$ への基底変換 $X_{\bar k}=V(F)\subset\mathbb{P}^3_{\bar k}$ も滑らかな 4 次曲面なので、同じ計算で $H^0(X_{\bar k},\mathcal{O})=\bar k$ となる。$X_{\bar k}$ が 2 つの空でない開かつ閉な部分に分かれるなら、それぞれの上で $1$ と $0$ をとる関数が $\bar k$ の外の大域切断を与えるから、$X_{\bar k}$ は連結である。$X$ は射影的なので固有であり、以上で K3 曲面の条件がすべて確かめられた。
同じ議論で、$\mathbb{P}^3$ の滑らかな $d$ 次曲面の標準層は $\mathcal{O}_X(d-4)$ になる。$d\le3$ なら $\omega_X^{-1}$ が豊富、$d\ge5$ なら $\omega_X$ が豊富で、$d=4$ だけが標準層の自明な場合である。
$X=V(x_0^4+x_1^4+x_2^4+x_3^4)\subset\mathbb{P}^3$ は、$k$ の標数が $2$ でなければ滑らかで、prop-k3-quartic により K3 曲面である。
実際、アフィン開集合 $x_3\neq0$ では $X$ は $f=x^4+y^4+z^4+1=0$($x=x_0/x_3$ など)で与えられ、代数閉体上の超曲面の特異点は $f$ と偏導関数 $\partial f/\partial x=4x^3$、$\partial f/\partial y=4y^3$、$\partial f/\partial z=4z^3$ の共通零点である(Vak25 Exercise 13.2.F, p. 366 の超曲面の場合のヤコビ判定)。$4\neq0$ なら偏導関数がすべて消えるのは $x=y=z=0$ だけで、そこでは $f=1\neq0$ だから特異点はない。4 つの座標は対称なので、他の 3 つのアフィン開集合でも同じである。滑らかさは代数閉包に上げて確かめればよい。
$k$ を標数 $2$ でない代数閉体とし、$\varepsilon^4=\varepsilon'^4=-1$ となる $\varepsilon,\varepsilon'\in k$ をとる。直線
$$
L=\{x_0=\varepsilon x_1,\ x_2=\varepsilon' x_3\}\subset\mathbb{P}^3
$$
の上では $x_0^4+x_1^4=(\varepsilon^4+1)x_1^4=0$、$x_2^4+x_3^4=0$ だから、$L$ は ex-k3-fermat の曲面 $X$ に含まれる。$-1$ の 4 乗根は 4 個あるので、変数の組み分け $\{0,1\}\{2,3\}$ だけで 16 本、組み分けの仕方が 3 通りで、互いに異なる直線が 48 本得られる。
$L\cong\mathbb{P}^1$ だから、後の thm-k3-curves により $L^2=-2$ である。このように K3 曲面の上の $\mathbb{P}^1$ と同型な曲線を $(-2)$ 曲線という。
$\mathbb{P}^4$ の 2 次式と 3 次式の完全交叉、$\mathbb{P}^5$ の 3 つの 2 次式の完全交叉も、滑らかなら K3 曲面である。これは Calabi–Yau多様体 の「完全交叉の Calabi–Yau 多様体」で、次数の和が $N+1$ になる完全交叉として、途中の交わりもすべて滑らかな場合に証明する。途中の交わりが特異になりうる一般の場合はこの記事では証明しない(Vak25 Exercise 21.5.G, 21.5.I, p. 624 に演習として挙がっている)。
この節では $k$ を代数閉体とし、$X$ を $k$ 上の射影的な K3 曲面とする。道具は次の 3 つで、いずれも滑らかな射影曲面について成り立つ(この記事では証明しない)。
$h^0(\mathcal{O}_X)=1$、$h^1(\mathcal{O}_X)=0$、$h^2(\mathcal{O}_X)=1$ で、$\chi(\mathcal{O}_X)=2$ である。さらにすべての $m\ge1$ で $h^0(\omega_X^{\otimes m})=1$ である。
$X$ は滑らかなので各局所環は正則局所環、とくに整域であり、既約成分どうしは交わらない。$X$ は連結だから既約で、被約でもあるので整スキームである。$H^0(X,\mathcal{O}_X)$ は有限次元の $k$ 代数(射影スキーム上の連接層のコホモロジーの有限性、Vak25 Theorem 18.1.3, p. 495)で、$X$ が整だから零因子をもたない。有限次元の整域は体であり、それは $k$ の有限次拡大だから、$k$ が代数閉体であることより $H^0(X,\mathcal{O}_X)=k$ となる。
$h^1(\mathcal{O}_X)=0$ は定義の条件 (ii) である。Serre 双対性を $\mathcal{F}=\mathcal{O}_X$ に使い、$\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ を代入すると $h^2(\mathcal{O}_X)=h^0(\omega_X)=h^0(\mathcal{O}_X)=1$。よって $\chi(\mathcal{O}_X)=1-0+1=2$。最後に $\omega_X^{\otimes m}\cong\mathcal{O}_X$ だから $h^0(\omega_X^{\otimes m})=h^0(\mathcal{O}_X)=1$。
最後の主張は、すべての多重種数が $1$ であること、したがって小平次元が $0$ であることを意味する(多重種数と小平次元の定義は双有理幾何学の「多重種数と小平次元」)。
$X$ 上の任意の因子 $D$ について
$$
\chi(\mathcal{O}_X(D))=\frac{D^2}{2}+2 .
$$
曲面の Riemann–Roch の定理に $K_X=0$($\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ だから標準因子は $0$ と線形同値)と prop-k3-invariants の $\chi(\mathcal{O}_X)=2$ を代入すればよい。
$X$ 上の任意の因子 $D$ について、自己交点数 $D^2$ は偶数である。
thm-k3-rr より $D^2=2\chi(\mathcal{O}_X(D))-4$ で、右辺は偶数である。
一般の滑らかな射影曲面では、Riemann–Roch の定理から $D\cdot(D-K_X)=2(\chi(\mathcal{O}_X(D))-\chi(\mathcal{O}_X))$ が偶数、すなわち $D^2\equiv D\cdot K_X\pmod 2$ が従うだけである。$K_X=0$ だから $D^2$ そのものが偶数になる。射影平面の直線 $L$ では $L^2=1$ で、この性質は成り立たない(下の反例の表)。
$C\subset X$ を整な曲線(既約で被約な 1 次元の閉部分スキーム)とする。
(a) 随伴公式に $K_X=0$ を代入すると $C^2=2p_a(C)-2$。$C$ は整で固有なので、prf-k3-invariants の第 1 段落と同じ理由で $h^0(\mathcal{O}_C)=1$、したがって $p_a(C)=1-h^0(\mathcal{O}_C)+h^1(\mathcal{O}_C)=h^1(\mathcal{O}_C)\ge0$ となり、$C^2\ge-2$。
(b) $C\cong\mathbb{P}^1$ なら $h^1(\mathcal{O}_C)=0$ だから $p_a(C)=0$、(a) より $C^2=-2$。逆に $C^2=-2$ なら (a) より $p_a(C)=0$ で、代数閉体上の算術種数 $0$ の整な射影曲線は $\mathbb{P}^1$ と同型である(双有理幾何学の補題「算術種数 0 の整曲線」)。
(c) $C^2$ は cor-k3-even により偶数なので $-1$ にならない。
(c) は、K3 曲面が極小($(-1)$ 曲線をもたない)であることを意味する。$(-1)$ 曲線は点のブローアップで現れる曲線なので(ブローアップ)、K3 曲面は、滑らかな曲面の点をブローアップして得られることがない。
$D$ を $X$ 上の因子で $D^2\ge-2$ をみたすものとする。
(a) Serre 双対性と $\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ より $h^2(\mathcal{O}_X(D))=h^0(\mathcal{O}_X(-D))$ である。thm-k3-rr と合わせて
$$
h^0(\mathcal{O}_X(D))+h^0(\mathcal{O}_X(-D))=\chi(\mathcal{O}_X(D))+h^1(\mathcal{O}_X(D))\ge\frac{D^2}{2}+2\ge1 .
$$
よって $\mathcal{O}_X(D)$ か $\mathcal{O}_X(-D)$ が $0$ でない大域切断 $s$ をもつ。$s$ の零点の因子は有効因子で、それぞれ $D$ または $-D$ と線形同値である。
(b) (a) より、$D$ が有効因子と線形同値でないとすると、$-D\sim E$ となる有効因子 $E$ がある。$E=0$ なら $D\sim0$ で $D\cdot H=0$、$E\neq0$ なら豊富な因子との交点数は正だから(Vak25 Exercise 20.1.K, p. 580)$E\cdot H>0$ で $D\cdot H=-E\cdot H<0$。どちらも $D\cdot H>0$ に反する。
たとえば $D^2=-2$ の因子は、$D$ か $-D$ のどちらかが必ず曲線の和(重複度つき)と線形同値になる。一般の曲面ではこのような結論はない。$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の $D=F_1-F_2$(2 つの方向のファイバーの差)は $D^2=-2$ なのに、$D$ も $-D$ も有効因子と線形同値でない(下の反例の表)。
$\operatorname{Pic}(X)$ は捩れ元をもたない。すなわち可逆層 $L$ と $n\ge1$ について $L^{\otimes n}\cong\mathcal{O}_X$ なら $L\cong\mathcal{O}_X$ である。
$L^{\otimes n}\cong\mathcal{O}_X$ かつ $L\not\cong\mathcal{O}_X$ と仮定して矛盾を導く。$L=\mathcal{O}_X(D)$ とすると $nD\sim0$ だから、交点数の双線形性より $n^2D^2=(nD)^2=0$、よって $D^2=0$ で、thm-k3-rr より $\chi(L)=2$。
次に $h^0(L)=0$ を示す。$0$ でない切断 $s\in H^0(X,L)$ があるとする。$X$ は整なので、局所的に $L$ の生成元 $e$ で $s=fe$ と書くと $f\neq0$、したがって $s^{\otimes n}=f^ne^{\otimes n}\neq0$ である。$s^{\otimes n}$ は $H^0(X,L^{\otimes n})\cong H^0(X,\mathcal{O}_X)=k$ の $0$ でない元、つまり至るところ $0$ にならない定数なので、$s$ も至るところ $0$ にならず、$s$ により $\mathcal{O}_X\cong L$ となって仮定に反する。同じ議論を $L^{-1}$(これも $(L^{-1})^{\otimes n}\cong\mathcal{O}_X$ をみたし自明でない)に使うと $h^0(L^{-1})=0$。Serre 双対性より $h^2(L)=h^0(\omega_X\otimes L^{-1})=h^0(L^{-1})=0$。以上から
$$
\chi(L)=h^0(L)-h^1(L)+h^2(L)=-h^1(L)\le0
$$
となり、$\chi(L)=2$ に反する。
この証明は条件 (ii) を直接には使っていないように見えるが、$\chi(\mathcal{O}_X)=2$ を通じて使っている。条件 (ii) を外したアーベル曲面では、Picard 群に捩れ元が現れる(下の反例の表)。
この節では $X$ をコンパクト複素曲面としての K3 曲面とする。$\operatorname{Pic}(X)=H^1(X,\mathcal{O}_X^\ast)$ を正則な直線束の同型類の群とする。
第 1 Chern 類 $c_1\colon\operatorname{Pic}(X)\to H^2(X,\mathbb{Z})$ は単射である。
指数写像 $f\mapsto\exp(2\pi\sqrt{-1}f)$ による層の完全列 $0\to\mathbb{Z}\to\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_X^\ast\to0$ のコホモロジー長完全列の一部
$$
H^1(X,\mathcal{O}_X)\to H^1(X,\mathcal{O}_X^\ast)\xrightarrow{\ \delta\ }H^2(X,\mathbb{Z})
$$
は完全であり、連結準同型 $\delta$ が第 1 Chern 類である(第1Chern類)。条件 (ii) より左端が $0$ なので、$\delta=c_1$ は単射である。
したがって K3 曲面の直線束は、その Chern 類、つまり $H^2(X,\mathbb{Z})$ の元で決まる。この $H^2$ については次のことが知られている(この記事では証明しない。Yau09 §3.1, pp. 285–286)。
定義の条件を 1 つずつ外すと、上で証明した性質が崩れる。以下 $k$ は代数閉体とする。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| (ii) $H^1(X,\mathcal{O}_X)=0$ | アーベル曲面 $E\times E'$ | $h^1(\mathcal{O}_X)\neq0$。Picard 群が捩れ元をもつ(thm-k3-pic) |
| (i) $\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ | 射影平面 $\mathbb{P}^2$ | $h^2(\mathcal{O})=0$ で $\chi(\mathcal{O})=1$。直線 $L$ は $L^2=1$ で奇数(cor-k3-even) |
| (i) $\omega_X\cong\mathcal{O}_X$ | $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ | $D^2=-2$ の $D$ で、$D$ も $-D$ も有効でないものがある(thm-k3-effective) |
| 滑らかさ | 標数 $2$ の Fermat の 4 次式 | $V(F)$ が被約でなく、K3 曲面にならない(prop-k3-quartic の仮定) |
| 固有性 | アフィン平面 $\mathbb{A}^2$ | $\omega\cong\mathcal{O}$ かつ $H^1(\mathcal{O})=0$ だが $h^0(\mathcal{O})=\infty$(prop-k3-invariants) |
$k$ の標数を $2$ でないとし、$E,E'$ を楕円曲線、$X=E\times E'$、$p_1\colon X\to E$ を射影とする。
標準層は自明.楕円曲線の不変微分は零点も極ももたないので $\Omega^1_E\cong\mathcal{O}_E$ である(楕円曲線の「不変微分の因子」)。積の微分の層は $\Omega^1_X\cong p_1^\ast\Omega^1_E\oplus p_2^\ast\Omega^1_{E'}\cong\mathcal{O}_X^{\oplus2}$ だから、$\omega_X=\det\Omega^1_X\cong\mathcal{O}_X$。
条件 (ii) が成り立たない.$s\colon E\to X$、$x\mapsto(x,O')$($O'$ は $E'$ の原点)は $p_1\circ s=\mathrm{id}_E$ をみたすので、$s^\ast\circ p_1^\ast$ は $H^1(E,\mathcal{O}_E)$ の恒等写像である。よって $p_1^\ast\colon H^1(E,\mathcal{O}_E)\to H^1(X,\mathcal{O}_X)$ は単射で、$E$ の種数が $1$ だから $h^1(\mathcal{O}_X)\ge1$。
Picard 群の捩れ.$E$ の原点 $O$ と異なる位数 $2$ の点 $P$ をとる(楕円曲線の「位数 2 の点」)。$P\mapsto[P-O]$ は群 $E(k)$ から次数 $0$ の因子類群への単射準同型なので(楕円曲線の「群構造と因子類群」)、$M=\mathcal{O}_E(P-O)$ は自明でなく、$M^{\otimes2}=\mathcal{O}_E(2P-2O)$ は自明である。すると $p_1^\ast M$ は $(p_1^\ast M)^{\otimes2}\cong\mathcal{O}_X$ をみたし、$s^\ast p_1^\ast M\cong M$ が自明でないので $p_1^\ast M$ も自明でない。
$\mathbb{P}^2$ では $\omega\cong\mathcal{O}(-3)$ であり、prop-k3-quartic の前にまとめた射影空間のコホモロジーから $h^1(\mathcal{O})=h^2(\mathcal{O})=0$、$\chi(\mathcal{O})=1$ である。直線 $L$ どうしは 1 点で横断的に交わるので $L^2=1$ は奇数である。
$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ では、2 つの方向のファイバー $F_1=\{a\}\times\mathbb{P}^1$、$F_2=\mathbb{P}^1\times\{b\}$ について $F_1^2=F_2^2=0$、$F_1\cdot F_2=1$ である(Vak25 Exercise 20.2.C, p. 582)。$D=F_1-F_2$ とおくと $D^2=-2$ である。もし有効因子 $E\sim D$ があれば、$E$ の成分でないファイバー $\{a'\}\times\mathbb{P}^1$ をとると $E\cdot F_1\ge0$ となるはずだが、$E\cdot F_1=D\cdot F_1=-1$ で矛盾する。同様に $-D$ についても $(-D)\cdot F_2=-1$ から矛盾する。これは $\omega\cong\mathcal{O}(-2,-2)$ が自明でないため、prf-k3-effective の Serre 双対性の段で $h^2(\mathcal{O}(D))$ が $h^0(\mathcal{O}(-D))$ に一致しないことによる。
標数 $2$ では $(a+b)^2=a^2+b^2$ を 2 回使って $x_0^4+x_1^4+x_2^4+x_3^4=(x_0+x_1+x_2+x_3)^4$ となる。$\ell=x_0+x_1+x_2+x_3$ とおくと $V(\ell^4)$ の局所環では $\ell\neq0$ かつ $\ell^4=0$ なので、このスキームは被約でない。滑らかなスキームは被約だから、$V(F)$ は滑らかでなく K3 曲面ではない。
アフィン平面 $\mathbb{A}^2=\operatorname{Spec}k[x,y]$ では $\Omega^2$ は $dx\wedge dy$ で生成される自由加群層だから $\omega\cong\mathcal{O}$、アフィンスキームなので準連接層の高次コホモロジーは消え $H^1(\mathcal{O})=0$ である。しかし $H^0(\mathcal{O})=k[x,y]$ は無限次元で、$\chi(\mathcal{O})$ も Riemann–Roch の公式も意味をもたない。固有性は、コホモロジーを有限次元にして数値的な議論を可能にする条件である。
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