Dehn手術

同義語:Dehn surgeryデーン手術

概要

Dehn 手術(Dehn surgery)とは、3 次元多様体の中の結び目の管状近傍であるソリッドトーラスをくり抜き、その子午線を境界のトーラスの傾き $p/q$ の曲線に写すように貼り戻して、新しい 3 次元多様体を作る操作である。結果は結び目の枠と $p/q$ だけで決まり、貼り合わせの同相写像の選び方によらない。$S^3$ の結び目に Seifert の枠をとると、手術の結果の 1 次ホモロジー群は結び目によらず $\mathbb{Z}/|p|\mathbb{Z}$($p=0$ なら $\mathbb{Z}$)であり、自明な結び目に沿った手術からは $p\ge1$ でレンズ空間 $L(p;q)$、$p=0$ で $S^1\times S^2$ が得られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 結び目, イソトピー, Mayer–Vietoris完全列, レンズ空間

Dehn 手術(Dehn surgery)は、3 次元多様体の中の結び目の管状の近傍(ソリッドトーラス)をくり抜き、別の向きに貼り戻して新しい 3 次元多様体を作る操作である。貼り戻すソリッドトーラスの子午線(円板の縁)を境界のトーラスのどの曲線に写すかで結果が決まり、その曲線は互いに素な整数の組 $(p,q)$、すなわち有理数 $p/q$ で表される。$S^3$ の自明な結び目に沿った手術からは レンズ空間 と $S^1\times S^2$ が得られる。これらはどれも 2 つのソリッドトーラスを境界で貼り合わせた多様体、すなわち種数 $1$ の Heegaard分解 をもつ多様体である。

問い答え
結果は何で決まるか枠と $p/q$ だけで決まり、貼り合わせの同相写像の取り方によらない(thm-dehn-well-defined)
$S^3$ の結び目に沿った手術の 1 次ホモロジーはSeifert の枠をとれば、どの結び目でも $\mathbb{Z}/\lvert p\rvert\mathbb{Z}$($p=0$ なら $\mathbb{Z}$)(thm-dehn-homology)
自明な結び目に沿った手術で何が得られるかSeifert の枠で、$p\ge1$ ならレンズ空間 $L(p;q)$、$p=0$ なら $S^1\times S^2$(thm-dehn-unknot)

定義

3 次元多様体 $M$ は境界のない滑らかな多様体とする。$D^2\subset\mathbb{C}$ を閉単位円板、$B_\rho:=\{u\in\mathbb{C}\mid\lvert u\rvert<\rho\}$ とし、ソリッドトーラス $V:=S^1\times D^2$ と、その境界のトーラス $\partial V=S^1\times S^1$ を考える。$\partial V$ の点を $(e^{ix},e^{iy})$ と書き、
$$ m:=\{1\}\times S^1,\qquad \ell:=S^1\times\{1\} $$
を $V$ の 子午線(meridian)と 縦線(longitude)という。$m$ は $V$ の中の円板 $\{1\}\times D^2$(子午円板)の縁である。互いに素な整数 $p,q$ について、$\partial V$ の単純閉曲線
$$ c_{p,q}:=\{(e^{iq\theta},e^{ip\theta})\mid\theta\in\mathbb{R}\} $$
を 傾き $p/q$ の直線的な曲線という($q=0$ のときは $p=\pm1$ で傾きを $1/0$ と書く)。$c_{p,q}=c_{-p,-q}$、$c_{1,0}=m$、$c_{0,1}=\ell$ であり、向きを付ければ 1 次ホモロジー類は $\pm(p[m]+q[\ell])$ である。

枠付き結び目

$\rho>1$ とし、$\iota\colon S^1\times B_\rho\to M$ を開埋め込み(開集合の上への微分同相写像)とする。$K:=\iota(S^1\times\{0\})$ を、$\iota$ を 枠(framing)にもつ結び目という。
$$ E:=M\setminus\iota(S^1\times\operatorname{int}D^2),\qquad T:=\iota(\partial V)=\partial E $$
を $K$ の 外部 と境界のトーラスとし、$\mu:=\iota(m)$、$\lambda:=\iota(\ell)$ をそれぞれ $K$ の子午線、枠の縦線という。

Dehn 手術

$\iota$ を枠付き結び目、$p,q$ を互いに素な整数とし、同相写像 $\varphi\colon\partial V\to T$ で $\varphi(m)=\iota(c_{p,q})$ となるものをとる。$E$ と $V$ の直和で $v\in\partial V$ と $\varphi(v)\in T$ を同一視した空間
$$ M_\iota(p/q):=E\cup_\varphi V $$
を、$K$ に沿った 係数 $p/q$ の Dehn 手術 の結果という。$q=\pm1$ のとき 整数手術 という。

このような $\varphi$ はある。$ps-qr=1$ となる整数 $r,s$ をとると、行列 $A=\begin{pmatrix}s&q\\ r&p\end{pmatrix}$ は $(2\pi\mathbb{Z})^2$ を保つので $(x,y)\mapsto A(x,y)$ はトーラス $\partial V$ の微分同相写像を引き起こし、$y$ 軸の像である $m$ を $c_{p,q}$ に写す。$\varphi:=\iota\circ A$ とおけばよい。$\iota(S^1\times\{1\le\lvert u\rvert<\rho\})$ は $E$ の中の $T$ のカラー、$S^1\times\{\frac12<\lvert u\rvert\le1\}$ は $V$ の中の $\partial V$ のカラーなので、貼り合わせた空間の $T$ の点は $T\times(-1,1)$ と同相な近傍をもち、$M_\iota(p/q)$ は 3 次元の位相多様体である。
係数 $1/0$ の手術は何も変えない。$\varphi:=\iota\vert_{\partial V}$ は $\varphi(m)=\mu=\iota(c_{1,0})$ を満たし、$E\cup_\varphi V$ は $M$ そのものだからである(thm-dehn-well-defined により、ほかの $\varphi$ でも同じ)。

主定理 1:結果は傾きと枠で決まる

貼り合わせの同相写像 $\varphi$ には $\varphi(m)$ 以外の自由度がある。次の補題が、その自由度が結果に影響しないことを保証する。

子午線を保つ同相写像の延長

$\psi\colon\partial V\to\partial V$ を同相写像で $\psi(m)=m$ となるものとすると、$\psi$ は $V$ の同相写像 $\Psi$ に延びる。

子午円板で切り開いて錐で延ばす

要点:$V$ を子午円板で切り開くと球体 $B:=[0,2\pi]\times D^2$ になる。$\psi$ は切り開いた円環の同相写像を与え、両端の円板の上には $\psi\vert_m$ を錐で延ばし、球体の中へはもう一度錐で延ばす(イソトピー の例「イソトピーの例」の 3 の Alexander のトリックと同じ考え方)。

詳しい証明を開く

$\pi\colon B\to V$、$\pi(x,u):=(e^{ix},u)$ とし、$\mathcal{A}:=[0,2\pi]\times S^1$、$D_0:=\{0\}\times D^2$、$D_{2\pi}:=\{2\pi\}\times D^2$ とおく。$\partial B=D_0\cup D_{2\pi}\cup\mathcal{A}$ で、$\pi$ は $\mathcal{A}$ の内部を $\partial V\setminus m$ の上へ同相に写す。

段 1(円環への持ち上げ).$\psi(m)=m$ なので $\psi$ は $\partial V\setminus m$ の同相写像を与え、$\operatorname{int}\mathcal{A}$ の同相写像 $\tilde\psi:=\pi^{-1}\psi\pi$ が定まる。$0<\delta<\pi$ について $W_\delta:=\pi\bigl(([0,\delta)\cup(2\pi-\delta,2\pi])\times S^1\bigr)$ は $m$ の開近傍で、$\psi^{-1}(W_\delta)$ も $m$ の開近傍なので、$m$ のコンパクト性から $\pi([0,\varepsilon]\times S^1)\subset\psi^{-1}(W_\delta)$ となる $\varepsilon>0$ がある。連結な $(0,\varepsilon)\times S^1$ の $\tilde\psi$ による像は $(0,\delta)\times S^1$ と $(2\pi-\delta,2\pi)\times S^1$ の一方に入り、どちらに入るかは $\delta$ によらない。よって $\tilde\psi$ は $\{0\}\times S^1$ の近くの点を一方の端の近くへ連続に写し($\{2\pi\}\times S^1$ の近くについても同じ)、$\pi$ がそれぞれの端の近くで単射であることから、$\tilde\psi$ は $\mathcal{A}$ から $\mathcal{A}$ への連続写像に延びる。$\psi^{-1}$ も $\psi^{-1}(m)=m$ を満たすので同じ議論を当てると $\tilde\psi^{-1}=\pi^{-1}\psi^{-1}\pi$ も $\mathcal{A}$ の連続写像に延び、2 つの延長の合成は稠密な $\operatorname{int}\mathcal{A}$ の上で恒等写像なので、$\mathcal{A}$ 全体で恒等写像である。よって $\tilde\psi$ の延長は $\mathcal{A}$ の同相写像で、内部を内部へ写すので両端の円周を両端の円周の上へ写し、両端の円周を入れ替えるか保つ。$\psi(1,e^{iy})=(1,g(e^{iy}))$ と書くと、両端の円周の上で $\tilde\psi$ の第 2 成分はどちらも $g$ である。

段 2($\partial B$ の同相写像).$\tilde\psi$ が $\{0\}\times S^1$ を $\{x'\}\times S^1$($x'\in\{0,2\pi\}$)へ写すとき、$D_0$ の上で $(0,u)\mapsto(x',\lvert u\rvert g(u/\lvert u\rvert))$($u=0$ は $(x',0)$)、$D_{2\pi}$ の上でも同じ式で残りの端 $x''$ へ写す。これは $\mathcal{A}$ の上の $\tilde\psi$ と円周の上で一致し、$\partial B$ の同相写像 $\Psi_\partial$ を定める。

段 3(球体の中へ).$B$ は $\mathbb{R}^3$ の内点をもつコンパクトな凸集合なので、内点 $c$ をとると $B$ の各点は $c+t(b-c)$($b\in\partial B$、$0\le t\le1$)と書け、$c$ 以外ではこの書き方は一意である。$\Psi_B(c+t(b-c)):=c+t(\Psi_\partial(b)-c)$ は $B$ の連続な全単射で、$B$ はコンパクトなので同相写像である。

段 4($V$ へ降ろす).$\pi(0,u)=\pi(2\pi,u)$ であり、$\Psi_B(0,u)$ と $\Psi_B(2\pi,u)$ は第 2 成分が等しく第 1 成分が $0$ と $2\pi$ なので、$\pi$ で同じ点に写る。よって $\Psi:=\pi\Psi_B\pi^{-1}$ は $V$ の連続な全単射として定まり、コンパクト性から同相写像で、$\partial V$ の上で $\psi$ に等しい。$\square$

結果は傾きと枠だけで決まる

$\iota$ を枠付き結び目、$p,q$ を互いに素な整数とする。

  1. 同相写像 $\varphi,\varphi'\colon\partial V\to T$ が $\varphi(m)=\varphi'(m)$ を満たすなら、$E\cup_\varphi V$ と $E\cup_{\varphi'}V$ は $E$ の上で恒等写像となる同相写像で移り合う。とくに $M_\iota(p/q)$ は $\varphi$ の取り方によらない。
  2. $\varphi(m)$ と $\varphi'(m)$ が $T$ の中で滑らかにイソトピックな滑らかな単純閉曲線なら、$E\cup_\varphi V$ と $E\cup_{\varphi'}V$ は同相である。
  3. 枠 $\iota,\iota'\colon S^1\times B_\rho\to M$ がイソトピックなら、$M_\iota(p/q)$ と $M_{\iota'}(p/q)$ は同相である。
子午線の行き先だけが効く

1.$\psi:=\varphi'^{-1}\circ\varphi$ は $\partial V$ の同相写像で $\psi(m)=m$ なので、lem-dehn-extend により $V$ の同相写像 $\Psi$ に延びる。$E$ の上で恒等写像、$V$ の上で $\Psi$ となる写像 $\Phi$ を考える。$v\in\partial V$ は $E\cup_\varphi V$ で $\varphi(v)$ と同一視され、$\Phi(v)=\varphi'^{-1}\varphi(v)$ は $E\cup_{\varphi'}V$ で $\varphi'(\varphi'^{-1}\varphi(v))=\varphi(v)=\Phi(\varphi(v))$ と同一視されるので、$\Phi$ は矛盾なく定まる連続な全単射で、逆写像も同じ形($\Psi^{-1}$ を使う)なので同相写像である。
2.$T$ はコンパクトなので、イソトピー の定理「イソトピー拡張定理」により、$T$ のアンビエントイソトピー $h$ で $h_1(\varphi(m))=\varphi'(m)$ となるものがある。$\varphi'':=h_1\circ\varphi$ とおくと $\varphi''(m)=\varphi'(m)$ なので、1 により $E\cup_{\varphi''}V\cong E\cup_{\varphi'}V$ である。残りは $E\cup_\varphi V\cong E\cup_{\varphi''}V$ で、$E$ のカラー $\kappa\colon T\times[0,1]\to E$、$\kappa(\iota(w,v),s):=\iota(w,(1+s\epsilon)v)$($0< \epsilon<\rho-1$)を使う。$V$ の上と $\kappa(T\times[0,1])$ の外の $E$ の上で恒等写像、カラーの上で $\kappa(z,s)\mapsto\kappa(h_{1-s}(z),s)$ とする写像を考える。$s=0$ では $z\in T$ を $h_1(z)$ に写し、$z$ は $\varphi^{-1}(z)$ と、$h_1(z)$ は $\varphi''^{-1}(h_1(z))=\varphi^{-1}(z)$ と同一視されるので矛盾がなく、$s=1$ では恒等写像につながる。$(s,z)\mapsto h_s^{-1}(z)$ も連続なので(円板定理 の補題「イソトピーで移り合う関係」の証明の対称律)、逆写像も同じ形で書け、同相写像である。
3.$S^1\times D^2$ は $S^1\times B_\rho$ のコンパクト集合なので、イソトピー拡張定理により $M$ の微分同相写像 $H$ で $S^1\times D^2$ の上で $H\circ\iota=\iota'$ となるものがある。$H$ は $\iota$ の外部 $E$ を $\iota'$ の外部 $E'$ の上へ写す。$E$ の上で $H$、$V$ の上で恒等写像とすれば $E\cup_\varphi V\cong E'\cup_{H\circ\varphi}V$ であり、$(H\circ\varphi)(m)=H(\iota(c_{p,q}))=\iota'(c_{p,q})$ なので、右辺は 1 により $M_{\iota'}(p/q)$ である。$\square$

1 と 2 は、Hat3M §2.1 の小節「Classification of Lens Spaces」(pp. 40–41)が述べる「子午円板を貼れば残りの球体の貼り方は 1 通り」「子午線の行き先はイソトピー類だけが効く」の内容である。

枠の取り替え

$k\in\mathbb{Z}$ について $\tau_k(w,u):=(w,w^ku)$ は $S^1\times B_\rho$ の微分同相写像で、$S^1\times D^2$ を保つ。$\iota\circ\tau_k$ も $K$ の枠で、外部 $E$ と子午線 $\mu$ は変わらず、縦線は $\iota(\{(w,w^k)\})$、すなわちホモロジー類が $[\lambda]+k[\mu]$ の曲線に替わる。$\tau_k(e^{iq\theta},e^{ip\theta})=(e^{iq\theta},e^{i(p+kq)\theta})$ なので $\iota\circ\tau_k(c_{p,q})=\iota(c_{p+kq,q})$ であり、定義から
$$ M_{\iota\circ\tau_k}(p/q)=M_\iota\bigl((p+kq)/q\bigr) $$
である。手術の係数は枠を決めて初めて意味をもつ(ex-dehn-framing)。$S^3$ の結び目には次の標準的な枠がある。

Seifert の枠

$\iota$ を $S^3$ の中の枠付き結び目とする。

  1. $H_1(E;\mathbb{Z})$ は $[\mu]$ で生成される無限巡回群であり、$[\lambda]=n[\mu]$ となる整数 $n$ がただ 1 つある。
  2. 枠 $\iota\circ\tau_{-n}$ の縦線は $H_1(E;\mathbb{Z})$ で $0$ である。

縦線が $H_1(E)$ で $0$ である枠を Seifert の枠 という。$S^3$ の結び目の Seifert の枠 $\iota$ について、$M_\iota(p/q)$ を $S^3_\iota(p/q)$ とも書く。thm-dehn-well-defined の 3 により、$\iota$ をイソトピックな枠に替えても結果は変わらない。

Mayer–Vietoris 完全列で外部を測る

1.開集合 $U_1:=S^3\setminus\iota(S^1\times\{\lvert u\rvert\le\frac12\})$ と $U_2:=\iota(S^1\times B_{\rho'})$($1<\rho'<\rho$)は $S^3$ を覆い、$\lvert u\rvert$ の方向に縮めることで $U_1\simeq E$、$U_2\simeq S^1$、$U_1\cap U_2\simeq T$ である。$H_2(S^3)=H_1(S^3)=0$ なので、Mayer–Vietoris完全列 は同型
$$ H_1(T)\xrightarrow{\ \cong\ }H_1(E)\oplus H_1(U_2) $$
を与える。$H_1(T)$ は $[\mu],[\lambda]$ を基底とする階数 $2$ の自由加群で、$H_1(U_2)\cong\mathbb{Z}$ への成分は $[\mu]\mapsto0$、$[\lambda]\mapsto$ 生成元である。よって同型は $[\mu]\mapsto([\mu]_E,0)$、$[\lambda]\mapsto([\lambda]_E,\pm1)$ の形で、$H_1(E)\oplus0$ に入る元は $[\mu]$ の倍数の像に限るので $H_1(E)=\mathbb{Z}[\mu]_E$ であり、同型が単射なので $[\mu]_E$ の位数は無限である。$[\lambda]_E$ は $[\mu]_E$ のただ 1 つの整数倍 $n[\mu]_E$ である。
2.$\iota\circ\tau_{-n}$ の縦線のホモロジー類は $[\lambda]-n[\mu]$ で、$H_1(E)$ での像は $n[\mu]_E-n[\mu]_E=0$ である。$\square$

主定理 2:手術の 1 次ホモロジー

手術のホモロジー

$\iota$ を $S^3$ の結び目の Seifert の枠、$p,q$ を互いに素な整数とすると
$$ H_1\bigl(S^3_\iota(p/q);\mathbb{Z}\bigr)\cong\begin{cases}\mathbb{Z}/\lvert p\rvert\mathbb{Z}&(p\neq0)\\ \mathbb{Z}&(p=0)\end{cases} $$
である。結果は結び目によらず、$q$ にもよらない。

子午円板が殺す類を数える

$X:=E\cup_\varphi V$ とする。prf-dehn-seifert と同じくカラーで太らせた開集合で $X$ を覆うと、$E$、$V$、$T$ とホモトピー同値な開集合の組が得られ、$\tilde H_0(T)=0$ なので Mayer–Vietoris完全列 から
$$ H_1(T)\xrightarrow{\ (i_E,\,-i_V)\ }H_1(E)\oplus H_1(V)\longrightarrow H_1(X)\longrightarrow0 $$
が完全である。$H_1(\partial V)$ の基底 $[m],[\ell]$ の $\varphi_\ast$ による像を $H_1(T)$ の基底にとる。$H_1(V)=\mathbb{Z}[\ell]_V$ で $[m]\mapsto0$、$[\ell]\mapsto[\ell]_V$ である。$\varphi_\ast[m]=\pm(p[\mu]+q[\lambda])$ で、Seifert の枠なので $[\lambda]_E=0$、prop-dehn-seifert により $H_1(E)=\mathbb{Z}[\mu]_E$ だから、$i_E(\varphi_\ast[m])=\pm p[\mu]_E$ であり、$i_E(\varphi_\ast[\ell])=k[\mu]_E$ となる整数 $k$ がある。よって
$$ H_1(X)\cong\mathbb{Z}^2/\bigl\langle(\pm p,0),\,(k,-1)\bigr\rangle $$
で、2 番目の関係で $[\ell]_V$ を $k[\mu]_E$ に置き換えれば $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$($p=0$ なら $\mathbb{Z}$)が残る。$\square$

とくに $p=\pm1$ なら $H_1=0$ である。Poincaréホモロジー球面 の表「ほかの記述」の行「結び目の手術」は、三葉結び目に沿った係数 $-1$ の手術がこの場合の例であることを述べている。逆に $\lvert p\rvert\ge2$ なら $H_1\neq0$ なので、どの結び目に沿った Seifert の枠での係数 $p/q$ の手術からも $S^3$ は得られない。

主定理 3:自明な結び目に沿った手術

$S^3=\{(z_1,z_2)\in\mathbb{C}^2\mid\lvert z_1\rvert^2+\lvert z_2\rvert^2=1\}$ を、結び目 の節「$S^3$ の 2 つの芯と自明な結び目」のように 2 つのソリッドトーラス
$$ V_1:=\{\lvert z_1\rvert^2\le\tfrac12\},\qquad V_2:=\{\lvert z_2\rvert^2\le\tfrac12\} $$
に分け、$T:=V_1\cap V_2$ の点を $(e^{i\alpha},e^{i\beta})/\sqrt2$ と書く。$V_2$ の芯 $C_1:=\{(z_1,0)\}$ は立体射影で自明な結び目に写る(同節)。$1<\rho<\sqrt2$ として
$$ \iota_0(w,u):=\Bigl(w\sqrt{1-\lvert u\rvert^2/2},\ u/\sqrt2\Bigr)\qquad(w\in S^1,\ \lvert u\rvert<\rho) $$
とおくと、$\iota_0$ は $C_1$ の枠で、$\iota_0(S^1\times D^2)=V_2$、外部は $E=V_1$、$\iota_0(e^{ix},e^{iy})$ は角座標 $(\alpha,\beta)=(x,y)$ の点である。縦線 $\lambda=\{\beta=0\}$ は $E$ の中の円板 $\{(z_1,\sqrt{1-\lvert z_1\rvert^2})\mid\lvert z_1\rvert^2\le\frac12\}$ の縁なので、$\iota_0$ は Seifert の枠である。

自明な結び目に沿った手術

$p,q$ を互いに素な整数とする。

  1. $S^3_{\iota_0}(0/1)$ は $S^1\times S^2$ と同相である。
  2. $p\ge1$ なら $S^3_{\iota_0}(p/q)$ はレンズ空間 $L(p;q)$ と同相である。ここで $L(p;q)$ は レンズ空間 の定義「3 次元レンズ空間」の空間で、$q$ は $p$ を法として $1\le q< p$ の代表にとり、$L(1;q):=S^3$ とする。とくに $S^3_{\iota_0}(1/q)$ は $q$ によらず $S^3$ である。
2 つの芯の方向に巻き直す

1.$\iota_0(c_{0,1})=\lambda$ は $V_1$ の子午円板の縁である。$j(w,u):=(u/\sqrt2,\ w\sqrt{1-\lvert u\rvert^2/2})$ は $V$ から $V_1$ への同相写像で $j(m)=\lambda$ なので、thm-dehn-well-defined の 1 により $\varphi:=j\vert_{\partial V}$ を使ってよい。すると $S^3_{\iota_0}(0/1)\cong V\cup_{\mathrm{id}_{\partial V}}V=S^1\times(D^2\cup_{\mathrm{id}}D^2)\cong S^1\times S^2$ である。
2.要点:$G=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ の作用 $(z_1,z_2)\mapsto(\zeta z_1,\zeta^{q'}z_2)$($\zeta=e^{2\pi i/p}$)は $V_1$、$V_2$ を保つので、$L(p;q')=V_1/G\cup V_2/G$ である。$V_1/G$ と $V_2/G$ をそれぞれ $V_1$、$V_2$ と同一視する写像を角座標で書くと、$q'r\equiv1\pmod p$ として $(\alpha,\beta)\mapsto(\alpha-r\beta,\ p\beta)$ と $(\alpha,\beta)\mapsto(p\alpha,\ \beta-q'\alpha)$ になる。$V_2/G$ の子午線($\{\alpha=0\}$ の像)は前者で $\{(-r\beta,p\beta)\}=\iota_0(c_{p,-r})$ に写るので、$L(p;q')\cong S^3_{\iota_0}(-p/r)$ である。$r$ は $p$ を法とする合同類の中で自由に選べるので、$q'\equiv-q^{-1}\pmod p$、$r:=-q$ とすれば $S^3_{\iota_0}(p/q)\cong L(p;-q^{-1})$ を得る。最後に レンズ空間 の注意「記法の流儀と直ちに従うこと」により $L(p;-q^{-1})\cong L(p;q)$ である。

詳しい証明を開く

$q'$ は $p$ と互いに素な整数、$r$ は $q'r=1+ps$($s\in\mathbb{Z}$)となる整数とする($p=1$ なら $G$ は自明で、$r$ は任意)。$G$ の生成元の作用 $g(z_1,z_2)=(\zeta z_1,\zeta^{q'}z_2)$ は $\lvert z_1\rvert$、$\lvert z_2\rvert$ を保つので $V_1$、$V_2$、$T$ を保ち、$L(p;q')=S^3/G$ は閉集合 $V_1/G$ と $V_2/G$ の $T/G$ に沿った和である。

$V_1$ の上では $z_2\neq0$ なので $\Theta_1(z_1,z_2):=\bigl(z_1(z_2/\lvert z_2\rvert)^{-r},\ \lvert z_2\rvert(z_2/\lvert z_2\rvert)^p\bigr)$ は $V_1$ から $V_1$ への連続写像で、$\Theta_1\circ g=\Theta_1$ である(第 1 成分に掛かる因子は $\zeta^{1-q'r}=\zeta^{-ps}=1$)。$\Theta_1(z)=\Theta_1(z')$ なら $z_2'=\zeta^kz_2$ となる $k$ があり、$k\equiv q'j$ となる $j$ をとると $g^jz$ と $z'$ は第 2 成分が等しく、第 1 成分も $\Theta_1$ の式から等しいので $z'=g^jz$ である。$\Theta_1$ は全射でもある($z_2$ を $p$ 乗根で選び、$z_1:=y_1(z_2/\lvert z_2\rvert)^r$ とおく)。よって $\Theta_1$ は同相写像 $\bar\Theta_1\colon V_1/G\to V_1$ を引き起こす(コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射)。同様に $V_2$ の上の $\Theta_2(z_1,z_2):=\bigl(\lvert z_1\rvert(z_1/\lvert z_1\rvert)^p,\ z_2(z_1/\lvert z_1\rvert)^{-q'}\bigr)$ は同相写像 $\bar\Theta_2\colon V_2/G\to V_2$ を引き起こす。$T$ の上では $\Theta_1(\alpha,\beta)=(\alpha-r\beta,p\beta)$、$\Theta_2(\alpha,\beta)=(p\alpha,\beta-q'\alpha)$ である。

したがって $L(p;q')$ は、$V_1$ と $V_2$ の直和で $y\in\partial V_2$ を $f(y)\in\partial V_1$ と同一視した空間と同相である。ここで $f:=\bar\Theta_1\circ\bar\Theta_2^{-1}\vert_T$ である。$\Theta_2$ は $\{\alpha=0\}$ を $\{\alpha=0\}$ に写すので、$f(\{\alpha=0\})=\Theta_1(\{\alpha=0\})=\{(-r\beta,p\beta)\}=\iota_0(c_{p,-r})$ である。$\{\alpha=0\}=\iota_0(m)$ なので、$\varphi:=f\circ\iota_0\vert_{\partial V}$ は $\varphi(m)=\iota_0(c_{p,-r})$ を満たし、$\iota_0$ で $V$ と $V_2$ を同一視すれば $L(p;q')\cong E\cup_\varphi V=S^3_{\iota_0}(p/(-r))$ である。

与えられた $q$ について、$q'\equiv-q^{-1}\pmod p$ ととれば $r:=-q$ は $q'r\equiv1$ を満たすので、$S^3_{\iota_0}(p/q)\cong L(p;q')=L(p;-q^{-1})$ である。レンズ空間 の注意「記法の流儀と直ちに従うこと」の最後の項目により $L(p;q)\cong L(p;\pm q^{\pm1})$ なので、$L(p;-q^{-1})\cong L(p;q)$ である。$p=1$ では $G$ が自明で $S^3/G=S^3$ である。$\square$

レンズ空間 の注意「Heegaard 分解と Dehn 手術」は、同じ多様体を 2 つのソリッドトーラスの貼り合わせとして述べている。thm-dehn-unknot と thm-dehn-homology は $H_1(L(p;q))\cong\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$(レンズ空間 の定理「ホモロジー群とコホモロジー群」)と合っている。

例と反例

手術の例

自明な結び目の Seifert の枠 $\iota_0$ について(thm-dehn-unknot):

係数結果
$1/0$$S^3$(何も変えない)
$1/n$($n\in\mathbb{Z}$)$S^3$
$0$$S^1\times S^2$
$p/q$($p\ge2$)$L(p;q)$

たとえば $S^3_{\iota_0}(7)\cong L(7;1)$ と $S^3_{\iota_0}(7/2)\cong L(7;2)$ はホモトピー同値だが同相でない(レンズ空間 の例「ホモトピー同値だが同相でない組」)。$1$ 次ホモロジーは手術の係数の分子しか見ないので(thm-dehn-homology)、このような組は $H_1$ では区別できない。

反例:枠を変えると結果が変わる

結び目 $C_1$ と係数 $0$ を固定し、枠だけを $\iota_0$ から $\iota_0\circ\tau_1$ に替える。どちらも $C_1$ の枠で外部も同じ $E=V_1$ だが、prop-dehn-seifert の前の式により
$$ M_{\iota_0\circ\tau_1}(0/1)=M_{\iota_0}(1/1)\cong S^3,\qquad M_{\iota_0}(0/1)\cong S^1\times S^2 $$
であり(thm-dehn-unknot)、$H_1$ が $0$ と $\mathbb{Z}$ で異なるので同相でない。満たす性質は「結び目と係数が同じ」、満たさない性質は「結果が同相」であり、「結果は結び目と係数だけで決まる」という主張は枠を指定しないと成り立たない。$\iota_0\circ\tau_1$ の縦線は $H_1(E)$ で $[\mu]_E\neq0$ なので、Seifert の枠ではない。

補足

  • Lickorish–Wallace の定理:連結で向き付け可能な閉 3 次元多様体は、どれも $S^3$ の中の絡み目の各成分に沿った整数手術を同時に行って得られる(Ben19 Theorem 19.10、p. 318。整数手術は同書 Definition 19.7、p. 316 の「枠付き絡み目に沿った手術」にあたる)。この記事では証明しない。手術の係数を有理数に広げた一般の Dehn 手術は、同書 §19.9.2(pp. 359–360)で扱われる。
  • 4 次元との関係:整数手術 $M_\iota(n/1)$ は、$M\times[0,1]$ の $M\times\{1\}$ の側に、$\iota\circ\tau_n$ を貼り付け写像とする 2 ハンドルを付けた 4 次元多様体のもう一方の境界である(ハンドル分解、Ben19 pp. 316–317)。
  • 向き:$M$ と $V$ に向きを付けて向きを込めた結果を考えるときは、$p/q$ と $-p/q$ の扱いや $L(p;q)$ と $L(p;-q)$ の区別に文献ごとの規約の違いがある。向きを忘れれば レンズ空間 の注意「記法の流儀と直ちに従うこと」のとおり $L(p;q)\cong L(p;-q)$ なので、同相の意味での結果は変わらない。

関連項目

参考文献

[2]
Riccardo Benedetti, Lectures on Differential Topology, arXiv:1907.10297, arXiv:1907.10297v1(2019-07-24)。§19.2 Definition 19.7 とその後の説明(枠付き絡み目に沿った手術と 2 ハンドル、pp. 316–317)、Theorem 19.10(Lickorish–Wallace の定理、p. 318)、§19.9.2(一般の Dehn 手術、pp. 359–360)

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