Rieszの補題(ノルム空間)

同義語:リースの補題(ノルム空間)Riesz's lemma (normed spaces)

概要

Rieszの補題(ノルム空間)(Riesz's lemma)とは、ノルム空間 $V$ の閉じた真部分空間 $U$ と $0<\theta<1$ に対して、長さ $1$ で $U$ のどの元からも距離 $\theta$ 以上離れたベクトルが存在するという補題である。これを繰り返すと、無限次元のノルム空間には互いの距離が $1/2$ 以上の単位ベクトルの無限列がとれ、閉単位球がコンパクトなノルム空間は有限次元に限ることが従う(F. Riesz の定理)。$U$ か $V$ が反射的な Banach 空間なら $\theta=1$ にできるが、一般にはできず、連続関数の空間の閉超平面に例がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ノルム空間, Banach空間, Hahn–Banachの定理

Rieszの補題(Riesz's lemma)は、ノルム空間 $V$ の閉じた真部分空間 $U$ と $0<\theta<1$ に対して、長さ $1$ のベクトル $x$ で、$U$ のどの元からも距離 $\theta$ 以上離れたものがとれることを述べる。Hilbert 空間なら、$U$ に直交する単位ベクトル $x$ をとると $\|x-u\|^2=1+\|u\|^2$ なので $U$ からの距離はちょうど $1$ になるが、一般のノルム空間には直交の概念がない。Riesz の補題は、その代わりに「ほとんど直交する」単位ベクトルがいつもとれることを保証する。
この補題を繰り返し使うと、無限次元のノルム空間には、互いの距離が $1/2$ 以上の単位ベクトルの無限列がとれる。そこから、閉単位球がコンパクトなノルム空間は有限次元に限ることが従う(F. Riesz の定理)。有限次元で使えた「有界な列から収束する部分列をとる」議論が無限次元で使えないのはこのためであり、コンパクト作用素の固有空間が有限次元であることなど、関数解析の多くの議論の出発点になる。この記事では、補題と Riesz の定理を証明し、$\theta=1$ にできる場合(部分空間か全体が反射的な場合)とできない例を調べる。

名前の似た定理

Hilbert 空間の連続線形汎関数がある元との内積で表されるという Rieszの表現定理 を「Riesz の補題」と呼ぶ文献もある(Tes09 Theorem 1.8、p. 44)。この記事が扱うのはノルム空間の補題で、別の結果である。

主張

以下、$V$ は $\mathbb K=\mathbb R$ または $\mathbb C$ 上のノルム空間とする。$x\in V$ と部分集合 $U\subset V$ について $\operatorname{dist}(x,U):=\inf_{u\in U}\|x-u\|$ と書く。$V$ の閉単位球を $B_V:=\{x\in V\mid\|x\|\le1\}$、単位球面を $S_V:=\{x\in V\mid\|x\|=1\}$ とする。

Rieszの補題

$U\subsetneq V$ を閉集合である真の線形部分空間とし、$0<\theta<1$ とする。このとき、$\|x\|=1$ かつ $\operatorname{dist}(x,U)\ge\theta$ を満たす $x\in V$ が存在する。

$v\in V\setminus U$ を 1 つとり、$\delta:=\operatorname{dist}(v,U)$ とおく。$\delta=0$ なら $\|v-u_n\|\to0$ となる $u_n\in U$ があり、$U$ が閉なので $v\in U$ となって矛盾するから、$\delta>0$ である。$\delta/\theta>\delta$ なので、下限の定義から $\|v-u_0\|\le\delta/\theta$ となる $u_0\in U$ がとれる。$x:=(v-u_0)/\|v-u_0\|$ とおくと $\|x\|=1$ である。$u\in U$ について $u_0+\|v-u_0\|\,u\in U$ なので
$$ \|x-u\|=\frac{\bigl\|v-\bigl(u_0+\|v-u_0\|\,u\bigr)\bigr\|}{\|v-u_0\|}\ge\frac{\delta}{\|v-u_0\|}\ge\theta $$
であり、$\operatorname{dist}(x,U)\ge\theta$ を得る。$\square$

$0\in U$ なので、単位ベクトル $x$ についていつも $\operatorname{dist}(x,U)\le\|x-0\|=1$ である。したがって $\theta$ は $1$ を超えられず、補題は「距離の上限 $1$ にいくらでも近い単位ベクトルがある」と言っている。上限 $1$ が実際にとれるかどうかは thm-rl-attained と ex-rl-no-attain で調べる。
証明で使ったのは、$U$ の外の点 $v$ に「ほぼ最も近い」点 $u_0$ をとって差を正規化することだけである。最も近い点 $u_0$($\|v-u_0\|=\delta$)がとれれば同じ計算で $\theta=1$ となる。

商空間による言い換え

$U$ が閉部分空間なら、商空間 $V/U$ には $\|x+U\|:=\operatorname{dist}(x,U)$ によってノルムが入る(右辺は代表 $x$ のとり方によらない。斉次性と三角不等式は $U$ が線形部分空間であること($c\ne0$ なら $cU=U$、$U+U\subset U$)と下限の性質から、$\operatorname{dist}(x,U)=0\Rightarrow x\in U$ は補題の証明の最初の段と同じく $U$ が閉であることから従う)。商写像 $q\colon V\to V/U$ は $\|q(x)\|\le\|x\|$ を満たすので $\|q\|\le1$ である。Riesz の補題は、$U\ne V$ なら $\|q\|=\sup_{\|x\|=1}\operatorname{dist}(x,U)=1$ であると言い換えられる。$\theta=1$ にできるかどうかは、この上限が実際にとれるか、すなわち $q$ が単位球面上でノルムを達成するかどうかである。

閉単位球のコンパクト性

補題を $\theta=1/2$ で繰り返し使うと、無限次元の空間に互いに離れた単位ベクトルの列が作れる。

互いに離れた単位ベクトルの列

$V$ が無限次元なら、$0<\theta<1$ について、単位ベクトルの列 $x_1,x_2,\dots$ で、$j\ne k$ なら $\|x_j-x_k\|\ge\theta$ となるものがある。

$x_1\in S_V$ を任意にとる。$x_1,\dots,x_n$ まで選んだとき、$U_n:=\operatorname{span}\{x_1,\dots,x_n\}$ は有限次元なので $V$ の閉集合であり(ノルム空間 の記事の系「有限次元ノルム空間の性質」の 4)、$V$ が無限次元なので $U_n\ne V$ である。lem-rl-main により $\|x_{n+1}\|=1$、$\operatorname{dist}(x_{n+1},U_n)\ge\theta$ となる $x_{n+1}$ がとれる。$j< k$ なら $x_j\in U_{k-1}$ なので $\|x_k-x_j\|\ge\operatorname{dist}(x_k,U_{k-1})\ge\theta$ である。$\square$

閉単位球がコンパクトなノルム空間

ノルム空間 $V$ について、次は同値である。

  1. $V$ は有限次元である。
  2. 閉単位球 $B_V$ はコンパクトである。
  3. 単位球面 $S_V$ はコンパクトである。
  4. $V$ は局所コンパクトである(各点がコンパクトな近傍をもつ)。

1 ⇒ 2:$B_V$ は有界閉集合なので、ノルム空間 の記事の系「有限次元ノルム空間の性質」の 3 によりコンパクトである。
2 ⇒ 3:$S_V$ はノルムという連続関数による閉集合 $\{1\}$ の逆像なので、コンパクトな $B_V$ の閉部分集合であり、コンパクトである。
3 ⇒ 1:対偶を示す。$V$ が無限次元なら、prop-rl-separated を $\theta=1/2$ で使って得た列 $(x_j)$ は $S_V$ に含まれ、$j\ne k$ で $\|x_j-x_k\|\ge1/2$ を満たす。このような列のどの部分列も Cauchy 列でないので、収束する部分列をもたない。距離空間がコンパクトならすべての点列が収束する部分列をもつ(点列コンパクト の記事の定理「距離空間における同値性」)ので、$S_V$ はコンパクトでない。
2 ⇒ 4:点 $x$ の近傍 $x+B_V$ は、連続写像 $y\mapsto x+y$ による $B_V$ の像なのでコンパクトである。
4 ⇒ 2:$0$ のコンパクトな近傍 $K$ をとる。$K$ はある開球 $\{\|y\|< 2\varepsilon\}$($\varepsilon>0$)を含むので、閉球 $\varepsilon B_V$ を含む。$\varepsilon B_V$ はコンパクト集合 $K$ の閉部分集合なのでコンパクトであり、$B_V$ はその $1/\varepsilon$ 倍、すなわち連続写像の像なのでコンパクトである。$\square$

補題とその証明、および 2 ⇒ 1 は Bre11 Lemma 6.1 と Theorem 6.5(p. 160)にある。同じ頁の Remark 3 は、$U$ が有限次元(より一般に反射的)なら $\theta=1$ にできること、一般にはできないことを注意している(下の thm-rl-attained と ex-rl-no-attain)。
この定理から、無限次元のノルム空間ではコンパクト集合は内点をもたない。コンパクト集合 $K$ が球 $x+\varepsilon B_V$ を含めば、4 ⇒ 2 の証明と同じく $B_V$ がコンパクトになってしまうからである。とくに無限次元の Banach 空間では、有界閉集合とコンパクト集合が一致しない。閉球 の記事で扱う $\ell^2$ の標準基底 $e_n$ は、$\|e_j-e_k\|_2=\sqrt2$ を満たす具体的な列である。

標準基底の間の距離

数列の空間(ノルム空間 の記事の例「数列の空間」)の単位ベクトル $e_n=(0,\dots,0,1,0,\dots)$(第 $n$ 成分だけが $1$)について、$j\ne k$ なら
$$ \|e_j-e_k\|_p=2^{1/p}\quad(1\le p<\infty),\qquad\|e_j-e_k\|_\infty=1 $$
である。$\ell^p$($1\le p<\infty$)と $c_0$ のどれでも、$(e_n)$ は閉単位球の中の収束する部分列をもたない列である。$c_0$ では距離はちょうど $1$ で、prop-rl-separated の $\theta<1$ を $\theta=1$ にした列になっている。

定数 1 がとれる場合ととれない場合

$\theta=1$ にできるかどうかは、$U$ の上で $0$ になる汎関数がノルムを達成するかどうかで判定できる。

距離 1 の単位ベクトルと汎関数

$U\subsetneq V$ を閉部分空間とする。次は同値である。

  1. $\|x\|=1$ かつ $\operatorname{dist}(x,U)=1$ となる $x\in V$ がある。
  2. $f\in V^*$ で、$\|f\|=1$、$U$ の上で $f=0$ であり、ある $x\in S_V$ で $|f(x)|=1$ となるものがある。

1 ⇒ 2:Hahn–Banachの定理 の記事の系「閉部分空間の外の点を検出する汎関数」を $x_0=x$、$d=\operatorname{dist}(x,U)=1$ で使うと、$U$ の上で $0$ で、$\|f\|=1$、$f(x)=1$ となる $f\in V^*$ が得られる。
2 ⇒ 1:$c:=\overline{f(x)}$ とおくと $|c|=1$ であり、$x':=cx$ は $\|x'\|=1$、$f(x')=|f(x)|^2=1$ を満たす。$u\in U$ について $1=f(x')=f(x'-u)\le\|f\|\,\|x'-u\|=\|x'-u\|$ なので $\operatorname{dist}(x',U)\ge1$ であり、上の注意から $\operatorname{dist}(x',U)=1$ である。$\square$

$U$ が閉超平面($0$ でない $f\in V^*$ の核)のときは、距離が $f$ で書ける。

閉超平面への距離

$f\in V^*$、$f\ne0$、$H:=\ker f$ とする。すべての $x\in V$ について $\operatorname{dist}(x,H)=|f(x)|/\|f\|$ である。とくに、$\|x\|=1$ かつ $\operatorname{dist}(x,H)=1$ となる $x$ があることは、$f$ が単位球面上でノルムを達成する($|f(x)|=\|f\|$ となる $x\in S_V$ がある)ことと同値である。

$y\in H$ について $|f(x)|=|f(x-y)|\le\|f\|\,\|x-y\|$ なので、$\operatorname{dist}(x,H)\ge|f(x)|/\|f\|$ である。逆に $f(z)\ne0$ となる $z$ をとり、$y:=x-\frac{f(x)}{f(z)}z$ とおくと $f(y)=0$ なので $y\in H$ であり、$\|x-y\|=|f(x)|\,\|z\|/|f(z)|$ である。$\|f\|=\sup_{z\ne0}|f(z)|/\|z\|$ で、$f(z)=0$ の $z$ はこの上限に寄与しないから、$f(z)\ne0$ の $z$ にわたる $\|z\|/|f(z)|$ の下限は $1/\|f\|$ である。よって $\operatorname{dist}(x,H)\le|f(x)|/\|f\|$ である。後半は、$\|x\|=1$ のとき $\operatorname{dist}(x,H)=1$ が $|f(x)|=\|f\|$ と同値であることによる。$\square$

距離 1 の単位ベクトルがとれる場合

$U\subsetneq V$ を閉部分空間とする。次のどちらかが成り立てば、$\|x\|=1$ かつ $\operatorname{dist}(x,U)=1$ となる $x\in V$ がある。

  1. $U$($V$ のノルムを制限したもの)が反射的な Banach 空間である。とくに $U$ が有限次元である。
  2. $V$ が反射的な Banach 空間である。

要点:1 では $U$ の外の点 $v$ に最も近い $U$ の点 $u_0$ が存在することを示し、lem-rl-main の証明を $\theta=1$ で繰り返す。2 では、$U$ の上で $0$ になるノルム $1$ の汎関数がノルムを達成することから prop-rl-functional を使う。

詳しい証明を開く

1。 $v\in V\setminus U$ をとり、$\delta:=\operatorname{dist}(v,U)>0$ とし、$\|v-u_n\|\to\delta$ となる $u_n\in U$ をとる。$\|u_n\|\le\|v\|+\|v-u_n\|$ なので $(u_n)$ は有界であり、反射的Banach空間 の記事の定理「有界列の弱収束部分列」により、部分列(同じ記号で書く)が $U$ の弱位相である $u_0\in U$ に収束する。$g\in V^*$ の $U$ への制限は $U$ の連続線形汎関数なので、$g(u_n)\to g(u_0)$ である。$v\ne u_0$ なので、連続双対空間 の記事の定理「点でノルムを実現する汎関数」により $\|g\|=1$、$g(v-u_0)=\|v-u_0\|$ となる $g\in V^*$ がある。すると $$\|v-u_0\|=g(v-u_0)=\lim_n g(v-u_n)\le\lim_n\|v-u_n\|=\delta$$ である($|g(v-u_n)|\le\|v-u_n\|$)。$u_0\in U$ なので $\|v-u_0\|=\delta$ である。$x:=(v-u_0)/\delta$ とおくと、$u\in U$ について $u_0+\delta u\in U$ なので $\|x-u\|=\|v-(u_0+\delta u)\|/\delta\ge1$ であり、$\operatorname{dist}(x,U)=1$ である。有限次元のノルム空間は完備で(ノルム空間 の記事の系「有限次元ノルム空間の性質」の 1)、反射的である(反射的Banach空間 の記事の例「有限次元のノルム空間」)。

2。 $v\in V\setminus U$ をとり、Hahn–Banachの定理 の記事の系「閉部分空間の外の点を検出する汎関数」で、$U$ の上で $0$ で $\|f\|=1$ となる $f\in V^*$ をとる。反射的Banach空間 の記事の命題「反射的なら汎関数はノルムを達成する」により、$\|x\|\le1$ かつ $|f(x)|=1$ となる $x$ がある。$1=|f(x)|\le\|x\|$ なので $\|x\|=1$ であり、prop-rl-functional の 2 ⇒ 1 から結論を得る。$\square$

Hilbert 空間は反射的なので(反射的Banach空間 の記事の命題「Hilbert 空間は反射的」)、2 により Hilbert 空間ではいつも $\theta=1$ にできる。2 の逆向きについては次が言える。

超平面での判定と反射性

$V$ を Banach 空間とする。次は同値である。

  1. $V$ は反射的である。
  2. $V$ のすべての閉超平面 $H$ について、$\|x\|=1$ かつ $\operatorname{dist}(x,H)=1$ となる $x$ がある。

1 ⇒ 2 は thm-rl-attained の 2 である。2 を仮定すると、prop-rl-hyperplane により、$0$ でないすべての $f\in V^*$ が単位球面上でノルムを達成する。すべての連続線形汎関数がノルムを達成する Banach 空間は反射的である(R. C. James の定理。Bre11 Remark 3、p. 4。この記事では証明しない)。$\square$

2 ⇒ 1 は James の定理に依存している。反射的でない空間では、ノルムを達成しない汎関数の核が、$\theta=1$ にできない閉部分空間の具体例になる。

反例:定数 1 がとれない部分空間

$V:=\{u\in C([0,1])\mid u(0)=0\}$ に上限ノルム $\|u\|=\max_t|u(t)|$ を入れ(関数は実数値)、$f(u):=\int_0^1u(t)\,dt$、$U:=\ker f$ とおく。$V$ は $C([0,1])$ の閉部分空間なので Banach 空間であり、$U$ は閉超平面である。このとき、どの単位ベクトル $u\in V$ についても $\operatorname{dist}(u,U)< 1$ である(Bre11 Exercise 1.17 の 3、p. 24)。

確かめを開く

$|f(u)|\le\|u\|$ なので $\|f\|\le1$ である。$u_n(t):=\min(nt,1)$ は $V$ に属し、$\|u_n\|=1$、$f(u_n)=1-\frac1{2n}$ なので $\|f\|=1$ である。$\|u\|=1$ で $|f(u)|=1$ となる $u\in V$ があるとすると、必要なら $-u$ に替えて $f(u)=1$ としてよく、$\int_0^1(1-u(t))\,dt=0$ で $1-u\ge0$ は連続なので $u\equiv1$ となり、$u(0)=0$ に反する。したがって $f$ はノルムを達成せず、prop-rl-hyperplane により単位ベクトル $u$ について $\operatorname{dist}(u,U)=|f(u)|< 1$ である。thm-rl-attained の 1 から、$U$ は反射的でもない。

定数関数の部分空間

$V=C([0,1])$(実数値、上限ノルム)、$U$ を定数関数の全体とする。$U$ は 1 次元なので thm-rl-attained の 1 が当てはまる。具体的に $v(t)=t$ をとると、定数 $c$ について $\|v-c\|=\max(|c|,|1-c|)\ge\frac12$ で、等号は $c=\frac12$ のときだけである。よって $\operatorname{dist}(v,U)=\frac12$ で、最も近い点は $u_0=\frac12$ である。$x:=(v-u_0)/\frac12=2t-1$ は $\|x\|=1$ を満たし、定数 $c$ について $\|x-c\|=\max(|1+c|,|1-c|)=1+|c|\ge1$ なので $\operatorname{dist}(x,U)=1$ である。

反例:$c_0$ の超平面

$V=c_0$(実数列、上限ノルム)とし、$f(x):=\sum_{k\ge1}2^{-k}x_k$ とおく。$|f(x)|\le\sum_k2^{-k}\|x\|_\infty=\|x\|_\infty$ で、$x=(1,\dots,1,0,0,\dots)$($1$ が $n$ 個)について $f(x)=1-2^{-n}$ なので $\|f\|=1$ である。$\|x\|_\infty=1$ で $|f(x)|=1$ なら、必要なら $-x$ に替えて $\sum_k2^{-k}(1-x_k)=0$、各項は $0$ 以上なので $x_k=1$ がすべての $k$ で成り立ち、$x_k\to0$ に反する。したがって $f$ はノルムを達成せず、prop-rl-hyperplane により $H=\ker f$ について、どの単位ベクトル $x\in c_0$ でも $\operatorname{dist}(x,H)< 1$ である。$c_0$ が反射的でないことと整合している。

この 2 つの反例では、$U$ の外の点 $v$ に最も近い $U$ の点も存在しない。最も近い点 $u_0$ があれば thm-rl-attained の証明の最後の段で $\theta=1$ の単位ベクトルが作れてしまうからである。

コンパクト作用素への応用

コンパクト作用素($T(B_E)$ の閉包がコンパクトな有界線形作用素 $T\colon E\to E$)の理論では、Riesz の補題とその帰結がくり返し使われる。

コンパクト作用素の固有空間の次元

$E$ を Banach 空間、$T\colon E\to E$ をコンパクト作用素、$\lambda\in\mathbb K$、$\lambda\ne0$ とする。$N:=\ker(\lambda I-T)$ は有限次元である。

$N$ は有界作用素の核なので閉部分空間である。$x\in N$ なら $x=\lambda^{-1}Tx$ なので $B_N:=B_E\cap N\subset\lambda^{-1}T(B_E)$ である。右辺の閉包はコンパクトで、$B_N$ はその閉部分集合なのでコンパクトである。$B_N$ はノルム空間 $N$ の閉単位球なので、thm-rl-compact の 2 ⇒ 1 により $N$ は有限次元である。$\square$

$\lambda I-T$ が単射なら全射であること、$0$ でない固有値が $0$ にしか集積しないことの証明では、閉部分空間の真の減少列や増大列に lem-rl-main を $\theta=1/2$ で当てて、各段の部分空間から距離 $1/2$ 以上離れた単位ベクトルの列を作り、その像の列が収束する部分列をもたないことから矛盾を導く(Bre11 Theorem 6.6 の (c) の証明、p. 161、Lemma 6.2 の証明、p. 164。この記事では証明しない)。詳しくは コンパクト作用素・Riesz–Schauder理論・Fredholm作用素 の記事にある。

条件を外した反例

lem-rl-main の条件を 1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
$U$ が閉$V=c_0$、$U=c_{00}$(有限個の項以外が $0$ の数列)単位ベクトルが $U$ から正の距離をもつ
$U\ne V$$U=V$単位ベクトルが $U$ から正の距離をもつ
$\theta< 1$ex-rl-no-attain の $V$ と $U$、$\theta=1$距離 $\theta$ 以上の単位ベクトルの存在
反例:表の各行の確かめ

各行は左の列の条件だけを破っている。

確かめを開く

1 行目:$c_{00}\ne c_0$ は真の部分空間だが閉でない。$x\in c_0$ について $x^{(n)}:=(x_1,\dots,x_n,0,0,\dots)\in c_{00}$ は $\|x-x^{(n)}\|_\infty=\sup_{k>n}|x_k|\to0$ を満たすので、すべての $x$ で $\operatorname{dist}(x,c_{00})=0$ である。$0<\theta<1$ のどれについても結論は成り立たない。

2 行目:$U=V$ は閉部分空間で、すべての $x$ で $\operatorname{dist}(x,U)=0$ である。

3 行目:$U$ は閉な真部分空間で、$\theta=1$ とすると単位ベクトル $u$ で $\operatorname{dist}(u,U)\ge1$ となるものはない(ex-rl-no-attain)。$1<\theta$ の場合は、どの $V$、$U$ でも $\operatorname{dist}(x,U)\le\|x-0\|=1$ なので結論は成り立たない。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, Remark 3(p. 4、James の定理)、Exercise 1.17(p. 24、ノルムを達成しない汎関数と超平面への距離)、Lemma 6.1・Remark 3・Theorem 6.5(p. 160、Riesz の補題と Riesz の定理)、Theorem 6.6 (c) の証明(p. 161)、Lemma 6.2 の証明(p. 164)

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