Greenberg近似定理

同義語:Greenberg approximation theoremGreenbergの近似定理グリーンバーグ近似定理

概要

Greenberg近似定理(Greenberg approximation theorem)とは、excellent な Hensel 離散付値環 $R$(極大イデアル $\mathfrak{m}$)上の多項式方程式系 $f=0$ について、$f$ だけで決まる整数 $c\ge1$、$d\ge0$ が存在し、$\mathfrak{m}^{cn+d}$ を法とする近似解 $x$ があれば $x$ と $\mathfrak{m}^n$ を法として一致する真の解 $y\in R^r$ がある、という定理である。Hensel の補題が扱えない特異点の近くの近似解も 1 次の精度の損失で真の解に直せ、代数的冪級数環のように完備でない環の中に解がとれる。Artin の近似定理や Popescu の定理と対をなし、Brauer 群やエタール被覆の比較に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Hensel局所環, 離散付値環, 完備化, 多項式環, 剰余体

動機

Hensel の補題(Hensel局所環)は、剰余体の上で見つかった多項式の単根、より一般に Jacobi 行列(Jacobi行列)が可逆な近似解を、環の中の真の解に持ち上げる。しかし方程式系の解のうち Jacobi 行列が可逆でないもの——幾何学的にいえば特異点——については、Hensel の補題は何も言わない。$\mathfrak{m}^N$ を法として方程式をみたす近似解 $x$ があるとき、その近くに真の解 $y$ はあるのか、あるとすれば $y$ を $x$ にどれだけ近くとれるのか。Greenberg の近似定理は、excellent な Hensel 離散付値環(離散付値環)の上の任意の多項式方程式系について、この問いに肯定的に答える。すなわち、$f$ だけで決まる整数 $c\ge1$、$d\ge0$ があって、$\mathfrak{m}^{cn+d}$ を法とする近似解の $\mathfrak{m}^n$ 近くに真の解がある。
底の環が $p$ 進整数環(p進数)$\mathbb{Z}_p$ のように剰余体が有限な完備離散付値環であれば、「すべての $N$ について $\mathfrak{m}^N$ を法とする解があれば真の解がある」ことは $\mathbb{Z}_p^r$ のコンパクト性(コンパクト空間)から初等的に従う。Greenberg の定理の内容はその先にある。第 1 に、精度が $cn+d$ という $n$ の 1 次式で評価される。第 2 に、剰余体が無限の場合($k[\![t]\!]$ など)にも成り立つ。第 3 に、完備でない Hensel 離散付値環——$\mathbb{Z}_p$ の中で $\mathbb{Q}$ 上代数的な元のなす環 $\mathbb{Z}_p\cap\overline{\mathbb{Q}}$ や、代数的冪級数環(代数的冪級数)$k\langle t\rangle$——の上でも成り立ち、真の解が完備化の中ではなく元の環の中にとれる。この最後の点を高次元の底に一般化したのが Artin の近似定理であり、その最終的な形が Popescu の定理である。これらは、完備化の上で構成した対象(Azumaya代数の分裂、エタール被覆、局所環の同型など)を Hensel 環の上の対象で近似する道具として、Brauer群やエタール射の理論で使われる。

仮定と定理

以下、$R$ は離散付値環、$v\colon K^{\times}\to\mathbb{Z}$ はその正規化された付値($K$ は $R$ の分数体)、$\pi$ は一意化元($v(\pi)=1$)、$\mathfrak{m}=\pi R$ は極大イデアル、$k=R/\mathfrak{m}$ は剰余体、$\hat{R}=\varprojlim_nR/\mathfrak{m}^n$ は $\mathfrak{m}$ 進完備化、$\hat{K}$ は $\hat{R}$ の分数体である。$v(0)=\infty$ と約束する。$R$ の元 $a$ に対し $a\in\mathfrak{m}^n$ と $v(a)\ge n$ は同値である。$R^r$ の元 $x=(x_1,\dots,x_r)$、$y$ に対し、$x\equiv y\pmod{\mathfrak{m}^n}$ は各成分について $x_i-y_i\in\mathfrak{m}^n$ が成り立つことを意味する($\mathfrak{m}^0=R$ とするので $n=0$ のときは無条件)。多項式の組 $f=(f_1,\dots,f_s)$、$f_i\in R[x_1,\dots,x_r]$ に対し、$f(x)=0$ はすべての $i$ について $f_i(x)=0$、$f(x)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^N}$ はすべての $i$ について $f_i(x)\in\mathfrak{m}^N$ を意味する。

Hensel 離散付値環と近似解

離散付値環 $R$ が Hensel 離散付値環(Henselian discrete valuation ring)であるとは、$R$ が局所環として Hensel局所環であること、すなわち、任意のモニック多項式(モニック多項式)$g\in R[t]$ と $\bar{g}\in k[t]$ の単根 $\alpha\in k$($\bar{g}(\alpha)=0$、$\bar{g}'(\alpha)\ne0$)に対して $g(a)=0$、$\bar{a}=\alpha$ をみたす $a\in R$ が存在することをいう。
多項式の組 $f=(f_1,\dots,f_s)$、$f_i\in R[x_1,\dots,x_r]$ と整数 $N\ge0$ に対し、$f(x)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^N}$ をみたす $x\in R^r$ を $f$ の $\mathfrak{m}^N$ を法とする近似解、$f(y)=0$ をみたす $y\in R^r$ を $f$ の解という。

完備な離散付値環は Hensel 離散付値環である(完備化 の記事の定理「Hensel の補題」、証明は Hensel局所環 の記事)。逆は成り立たず、$\mathbb{Z}_{(p)}$ の Hensel 化(Hensel化)$\mathbb{Z}_p\cap\overline{\mathbb{Q}}$ や、体 $k$ 上の代数的冪級数環 $k\langle t\rangle=\{\varphi\in k[\![t]\!]\mid\varphi\text{ は }k(t)\text{ 上代数的}\}$($k[t]_{(t)}$ の Hensel 化)は完備でない Hensel 離散付値環である(Hensel局所環 の記事の例「Hensel 化として得られるもの」、Ray70)。

離散付値環の excellent 性

離散付値環 $R$ が excellent であるとは、本記事では、完備化の分数体 $\hat{K}$ が $K$ の分離拡大であることをいう。

excellent 性の同値な言い換え

一般の Noether 環(Noether環)に対する excellent 性(excellent環)の定義は形式ファイバーの幾何学的正則性などを要求するが、離散付値環については、excellent であること、japonais(N-2:分数体の任意の有限次拡大 $L$ における $R$ の整閉包(整閉包)が $R$ 上有限であること)であること、$\hat{K}/K$ が分離拡大であること、の 3 条件は同値である(EGA4 IV §7.6–§7.8、Mat89 Chapter 13)。本記事はこのうち最後の条件を定義に採用した。標数 $0$ の離散付値環はすべて excellent である。完備離散付値環($\hat{K}=K$)、$\mathbb{Z}_{(p)}$ や $k[t]_{(t)}$ のように体または $\mathbb{Z}$ 上有限型の環の局所化(局所化)として得られる離散付値環、およびそれらの Hensel 化は excellent である(excellent な局所環の Hensel 化は excellent、EGA4 IV 18.7.6)。excellent でない離散付値環は $K$ の標数が $p>0$ の場合にしか存在せず、ex-greenberg-approximation-inseparable で 1 つ構成する。

Greenberg の定理

Greenberg の近似定理

$R$ を excellent な Hensel 離散付値環、$f=(f_1,\dots,f_s)$ を $R[x_1,\dots,x_r]$ の元の組とする。このとき、$R$ と $f$ だけで決まる整数 $c\ge1$、$d\ge0$ が存在して、任意の整数 $n\ge0$ と任意の $x\in R^r$ について次が成り立つ:
$$ f(x)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^{cn+d}}\ \Longrightarrow\ f(y)=0,\quad y\equiv x\pmod{\mathfrak{m}^n}\ \text{をみたす}\ y\in R^r\ \text{が存在する。} $$

出典と原論文の形

Greenberg Gre66 Theorem 1 は、仮定を「Hensel 離散付値環 $R$ で $\hat{K}$ が $K$ 上分離的なもの」とし、結論を「整数 $N\ge1$、$c\ge1$、$s\ge0$ が存在して、$\nu\ge N$ なる任意の $\nu$ について、$f(x)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^{\nu}}$ ならば $f(y)=0$、$y\equiv x\pmod{\mathfrak{m}^{\lfloor\nu/c\rfloor-s}}$ をみたす $y$ がある」という形で述べる。この形と上の形は同値である。実際、原論文の形から $d:=cs+N$ とおけば、$\nu:=cn+d\ge N$ について $\lfloor\nu/c\rfloor-s=n+s+\lfloor N/c\rfloor-s\ge n$ となるので上の形が従う。逆に上の形から、$\nu\ge d$ に対し $n:=\lfloor(\nu-d)/c\rfloor$ とおけば $cn+d\le\nu$ なので $\mathfrak{m}^{\nu}$ を法とする近似解は $\mathfrak{m}^{cn+d}$ を法とする近似解であり、$y\equiv x\pmod{\mathfrak{m}^{n}}$ なる解 $y$ が得られ、$n=\lfloor\nu/c-d/c\rfloor\ge\lfloor\nu/c\rfloor-\lceil d/c\rceil$ なので $N:=\max\{d,1\}$、$s:=\lceil d/c\rceil$ とすれば原論文の形になる。
証明は本記事の範囲を超えるので Gre66 と教科書 BLR90 §3.6 に譲る。筋は次のとおりである。方程式系 $f$ の定める $R$ スキーム $V=\operatorname{Spec}R[x]/(f)$ について、Jacobi 行列の小行列式で定義される特異点集合をとり、その次元に関する帰納法を回す。非特異な部分では多変数の Hensel の補題(Hensel局所環 の記事の注意「多変数の Hensel の補題」、Newton 法(Newton法))が近似解を真の解に修正し、近似解が特異点集合に近い場合は、より次元の低い方程式系の近似解とみなして帰納法の仮定を使う。$\hat{K}/K$ の分離性(excellent 性)は、$V$ の生成点での Jacobi 判定法(Jacobi判定法)が $\hat{K}$ 上でも有効であること、すなわち特異点集合が Jacobi 行列で正しく捉えられることを保証するために使う。仮定を外せない理由は ex-greenberg-approximation-zp と ex-greenberg-approximation-inseparable が示す。1 変数で重根をもたない多項式の場合には、Hensel の補題だけから $c=1$ で証明できる(cor-greenberg-approximation-separable)。

定数 $c$ は一般に $1$ にとれない(ex-greenberg-approximation-square)。$n=0$ の場合の主張は「$\mathfrak{m}^{d}$ を法とする近似解があれば真の解がある」であり、$d$ は $f$ だけで決まる。とくに、$f$ がすべての $N$ について $\mathfrak{m}^N$ を法とする近似解をもてば $f$ は真の解をもつ。この存在の部分を、スキームの言葉で述べ直しておく。

有限型スキームの点の近似

$R$ を excellent な Hensel 離散付値環、$F$ を $R$ 上有限型(有限型射)のスキームとする。このとき、整数 $c\ge1$、$d\ge1$ が存在して、任意の $n\ge0$ について、集合 $F(R/\mathfrak{m}^n)$ の中で
$$ \operatorname{Im}\bigl(F(R)\to F(R/\mathfrak{m}^n)\bigr)=\operatorname{Im}\bigl(F(R/\mathfrak{m}^{cn+d})\to F(R/\mathfrak{m}^n)\bigr) $$
が成り立つ。したがって、任意の $\hat{\xi}\in F(\hat{R})$ と $n\ge0$ に対し、$F(R/\mathfrak{m}^n)$ における像が $\hat{\xi}$ の像と一致する $\xi\in F(R)$ が存在する($F(\hat{R})$ の点は $F(R)$ の点で任意の精度で近似できる)。とくに $F(R)\neq\emptyset$ であることと $F(R/\mathfrak{m}^{d})\neq\emptyset$ であることは同値であり、$F(\hat{R})\ne\emptyset$ ならば $F(R)\ne\emptyset$ である。

$F$ は Noether 環 $R$ 上有限型なので準コンパクト(準コンパクト)であり、有限個のアフィン開部分スキーム(アフィンスキーム)$U_1,\dots,U_t$ で覆われる。各 $U_j$ は $R$ 上有限型のアフィンスキームなので、$R$ が Noether 環であることから $U_j\cong\operatorname{Spec}R[x_1,\dots,x_{r_j}]/(f_{j1},\dots,f_{js_j})$ と書ける(Hilbertの基底定理)。組 $f_j=(f_{j1},\dots,f_{js_j})$ に thm-greenberg-approximation-main を適用して定数 $(c_j,d_j)$ をとり、$c:=\max_jc_j$、$d:=\max\{1,d_1,\dots,d_t\}$ とおく。
右辺が左辺に含まれることを示す。$\xi\in F(R/\mathfrak{m}^{cn+d})$ をとり、$\bar{\xi}\in F(R/\mathfrak{m}^n)$ をその像とする。$cn+d\ge1$ なので $R/\mathfrak{m}^{cn+d}$ は $0$ でない局所環であり、$\xi\colon\operatorname{Spec}R/\mathfrak{m}^{cn+d}\to F$ は閉点の像を含むアフィン開集合 $U_j$ に値をとる(局所環のスペクトルからの射は、閉点の像を含む任意の開集合の中に入る)。したがって $\xi$ は $f_j(\bar{x})=0$ をみたす $\bar{x}\in(R/\mathfrak{m}^{cn+d})^{r_j}$ で与えられる。各成分を $R$ に持ち上げて $x\in R^{r_j}$ をとると $f_j(x)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^{cn+d}}$ であり、$cn+d\ge c_jn+d_j$ だから thm-greenberg-approximation-main により $f_j(y)=0$、$y\equiv x\pmod{\mathfrak{m}^n}$ なる $y\in R^{r_j}$ がある。$y$ は点 $\eta\in U_j(R)\subset F(R)$ を定め、$\eta$ の $F(R/\mathfrak{m}^n)$ での像は $y\bmod\mathfrak{m}^n=x\bmod\mathfrak{m}^n$ の定める点、すなわち $\bar{\xi}$ である。
左辺が右辺に含まれることは、$F(R)\to F(R/\mathfrak{m}^n)$ が $F(R)\to F(R/\mathfrak{m}^{cn+d})\to F(R/\mathfrak{m}^n)$ と分解することから明らかである。次に $\hat{\xi}\in F(\hat{R})$ と $n\ge0$ を与える。$\hat{R}/\mathfrak{m}^{N}\hat{R}=R/\mathfrak{m}^{N}$(任意の $N$。完備化 の記事の命題「完備化の完全性と $\hat{A}\otimes_AM$」)なので、$\hat{\xi}$ の $F(R/\mathfrak{m}^{cn+d})$ における像 $\xi'$ が定まり、$\xi'$ の $F(R/\mathfrak{m}^n)$ における像は $\hat{\xi}$ の像に等しい。上で示した包含により $\xi'$ の像は $F(R)$ のある点 $\xi$ の像であり、これが求めるものである。$n=0$ のとき $R/\mathfrak{m}^0$ は零環で $F(R/\mathfrak{m}^0)$ は 1 点集合だから、等式は「$F(R)\ne\emptyset$ と $F(R/\mathfrak{m}^d)\ne\emptyset$ が同値」を意味し、$F(\hat{R})\ne\emptyset$ ならば $F(R/\mathfrak{m}^d)\ne\emptyset$、したがって $F(R)\ne\emptyset$ である。$\square$

Artin の近似定理と Popescu の定理

Greenberg の定理の主張を 2 つの性質に分けて一般の局所環に定式化しておく。

近似性質と強近似性質

$(A,\mathfrak{m})$ を Noether 局所環、$\hat{A}$ をその $\mathfrak{m}$ 進完備化とする。

  1. $A$ が近似性質(approximation property、Artin 近似性質)をもつとは、任意の多項式の組 $f=(f_1,\dots,f_s)$、$f_i\in A[x_1,\dots,x_r]$、任意の $\hat{y}\in\hat{A}^r$ で $f(\hat{y})=0$ をみたすもの、任意の整数 $n\ge0$ に対し、$f(y)=0$ かつ $y\equiv\hat{y}\pmod{\mathfrak{m}^n\hat{A}}$ をみたす $y\in A^r$ が存在することをいう。
  2. $A$ が強近似性質(strong approximation property)をもつとは、任意の多項式の組 $f$ に対し、写像 $\beta\colon\mathbb{N}\to\mathbb{N}$ が存在して、任意の $n\ge0$ と任意の $x\in A^r$ について、$f(x)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^{\beta(n)}}$ ならば $f(y)=0$ かつ $y\equiv x\pmod{\mathfrak{m}^n}$ をみたす $y\in A^r$ が存在することをいう。$\beta$ は $f$ に依存してよい。

Greenberg の定理は「excellent な Hensel 離散付値環は、$\beta(n)=cn+d$ という 1 次関数で強近似性質をもつ」と言い換えられる。2 つの性質のあいだの基本的な関係は次のとおりである。

強近似性質から近似性質

Noether 局所環 $A$ が強近似性質をもてば、$A$ は近似性質をもつ。とくに excellent な Hensel 離散付値環は近似性質をもつ。

$f$、$\hat{y}\in\hat{A}^r$($f(\hat{y})=0$)、$n$ を与え、$f$ に対する写像 $\beta$ をとる。$A\to\hat{A}\to\hat{A}/\mathfrak{m}^{\beta(n)}\hat{A}\cong A/\mathfrak{m}^{\beta(n)}$ は全射なので(完備化 の記事の命題「完備化の完全性と $\hat{A}\otimes_AM$」)、$x\equiv\hat{y}\pmod{\mathfrak{m}^{\beta(n)}\hat{A}}$ をみたす $x\in A^r$ がとれる。多項式の値は法をとる操作と両立するので $f(x)\equiv f(\hat{y})=0\pmod{\mathfrak{m}^{\beta(n)}\hat{A}}$ であり、$f(x)\in A$ と $\mathfrak{m}^{\beta(n)}\hat{A}\cap A=\mathfrak{m}^{\beta(n)}$(同じ命題により $A\to\hat{A}/\mathfrak{m}^{\beta(n)}\hat{A}\cong A/\mathfrak{m}^{\beta(n)}$ は自然な全射なので、その核は $\mathfrak{m}^{\beta(n)}$)から $f(x)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^{\beta(n)}}$ となる。強近似性質により $f(y)=0$、$y\equiv x\pmod{\mathfrak{m}^n}$ なる $y\in A^r$ があり、$\beta(n)\ge n$ としてよいので $y\equiv x\equiv\hat{y}\pmod{\mathfrak{m}^n\hat{A}}$ である($\beta(n)< n$ なら $\beta(n)$ を $n$ に取り替えても強近似性質の主張は保たれる)。$\square$

近似性質と Hensel 性

Noether 局所環 $A$ が近似性質をもてば、$A$ は Hensel 局所環である。

モニック多項式 $g\in A[t]$ と $\bar{g}\in k[t]$ の単根 $\alpha\in k$ を与える。完備局所環 $\hat{A}$ は Hensel 局所環なので(完備化 の記事の定理「Hensel の補題」)、$g(\hat{a})=0$ で剰余体 $\hat{A}/\mathfrak{m}\hat{A}=k$ における像が $\alpha$ となる $\hat{a}\in\hat{A}$ がある。近似性質を $f=g$、$r=s=1$、$n=1$ に適用すると、$g(a)=0$ かつ $a\equiv\hat{a}\pmod{\mathfrak{m}\hat{A}}$ なる $a\in A$ が得られ、$\bar{a}=\alpha$ である。よって $A$ は Hensel 局所環である。$\square$

したがって近似性質をもつ Noether 局所環は Hensel 局所環であり、ex-greenberg-approximation-zp のように Hensel でない環では近似定理は最初から成り立たない。Hensel 性に何を加えれば近似性質が従うかを答えるのが Artin の定理と Popescu の定理である。

Artin の近似定理

$R_0$ を体または excellent な離散付値環とし、$A$ を $R_0$ 上有限型の環の素イデアル(素イデアル)での局所化の Hensel 化とする(たとえば代数的冪級数環 $k\langle x_1,\dots,x_r\rangle$、$R_0$ 上有限型のスキームの点の局所環の Hensel 化 $\mathcal{O}_{X,x}^{h}$)。このとき次が成り立つ。

  1. $A$ は近似性質をもつ。
  2. $F$ を $A$ 代数の圏から集合の圏への関手で局所有限表示のもの(有限表示:フィルター付きの任意の帰納系(帰納極限)$(B_\lambda)$ について $\varinjlim F(B_\lambda)\to F(\varinjlim B_\lambda)$ が全単射)とする。任意の $\hat{\xi}\in F(\hat{A})$ と $n\ge0$ に対し、$F(A/\mathfrak{m}^n)$ における像が $\hat{\xi}$ の像と一致する $\xi\in F(A)$ が存在する。
Artin の定理の出典と読み方

1 は Artin Art69 Theorem 1.10、2 は同 Theorem 1.12 である(原論文は $\mathfrak{m}$ を任意の真のイデアルとし、$\mathfrak{m}$ 進完備化について述べる)。1 は 2 の特別な場合である:$F(B):=\{y\in B^r\mid f(y)=0\}$ は局所有限表示の関手である。逆に、有限表示の環・加群・代数(Azumaya代数、有限エタール代数、局所自由加群、それらの間の同型など)を分類する関手は局所有限表示であり(Art69 §1–§2、EGA4 IV §8)、2 はそれらの $\hat{A}$ 上の対象が $A$ 上の対象で任意の精度で近似できることを述べる。証明は Art69 に譲る。原論文の筋は、変数の個数に関する帰納法と Weierstrass の予備定理(Weierstrassの予備定理)型の議論で $\hat{A}$ 係数の解を段階的に $A$ 係数の解に置き換えるもので、底が離散付値環の場合には Néron の脱特異化(BLR90 §3)を使う。Popescu の定理(thm-greenberg-approximation-popescu)を経由する現代的な証明では、$\hat{A}$ を $A$ 上滑らか(滑らかな射)な代数の帰納極限として書き、$\hat{A}$ 係数の解を滑らかな代数の上の解とみて、Hensel 局所環上の滑らかな代数が切断をもつこと(Hensel局所環 の記事の命題「Hensel 局所環上のエタール代数の切断」の滑らかな場合への拡張)で $A$ の中の解を得る。同じ方法で Artin Art68 は収束冪級数環 $\mathbb{C}\{x_1,\dots,x_r\}$(収束冪級数)が近似性質をもつこと、すなわち解析的方程式系の形式的冪級数解が収束冪級数解で近似できることを先に示していた。

Artin の定理の仮定は、$A$ が excellent な Hensel 局所環であることの特別な場合である。excellent 性だけで十分であることを示したのが Popescu の定理である。

Popescu の定理と近似性質
  1. (Popescu)$A\to B$ を Noether 環の正則準同型(正則準同型:平坦で、すべてのファイバーが幾何学的正則)とすると、$B$ は $A$ 上滑らかで有限表示の代数の帰納極限である。
  2. $A$ を Noether Hensel 局所環とする。$A$ が excellent(より一般に G環、すなわち $A\to\hat{A}$ が正則準同型)ならば $A$ は近似性質をもつ。逆に、$A$ が近似性質をもてば $A$ は excellent である。
  3. Noether 完備局所環は強近似性質をもつ。したがって excellent な Noether Hensel 局所環は強近似性質をもつ。
Popescu の定理の出典

1 は Popescu Pop86(前篇とあわせて一般 Néron 脱特異化と呼ばれる)による。Swan Swa98 と Stacks(Smoothing Ring Maps の章)に整理された証明がある。2 の前半は 1 から従う:$\hat{A}$ 上の解は 1 により $A$ 上滑らかな代数 $B$ の上の解から来て、$B\to\hat{A}\to\hat{A}/\mathfrak{m}^n\hat{A}=A/\mathfrak{m}^n$ を Hensel 局所環 $A$ 上の滑らかな代数の切断に持ち上げると $A$ の中の解が得られる(Stacks 同章)。2 の後半は Rotthaus Rot90 による。3 の前半は Pfister–Popescu PP75、後半は前半と 2 から prop-greenberg-approximation-strong-from-ap のように従う。Greenberg の定理は、この一般論に対して底が離散付値環のときに $\beta$ が 1 次関数にとれることを付け加えるものである。

近似性質と完備化の強近似性質から強近似性質

Noether 局所環 $A$ が近似性質をもち、$\hat{A}$ が強近似性質をもてば、$A$ は強近似性質をもつ。しかも $A$ 上の組 $f$ に対する写像 $\beta$ として、$f$ を $\hat{A}$ 上の組とみたときの写像がそのまま使える。

$f$ を $A$ 上の多項式の組、$\beta$ を $f$ を $\hat{A}$ 上の組とみたときの強近似性質の写像とする。$x\in A^r$ が $f(x)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^{\beta(n)}}$ をみたすとすると、$\mathfrak{m}^{\beta(n)}\subset\mathfrak{m}^{\beta(n)}\hat{A}$ なので $x$ は $\hat{A}$ 上の $\mathfrak{m}^{\beta(n)}\hat{A}$ を法とする近似解であり、$\hat{A}$ の強近似性質から $f(\hat{y})=0$、$\hat{y}\equiv x\pmod{\mathfrak{m}^n\hat{A}}$ なる $\hat{y}\in\hat{A}^r$ がある。次に $A$ の近似性質から $f(y)=0$、$y\equiv\hat{y}\pmod{\mathfrak{m}^n\hat{A}}$ なる $y\in A^r$ がある。$y-x\in A^r$ の各成分は $\mathfrak{m}^n\hat{A}\cap A=\mathfrak{m}^n$ に属するので(完備化 の記事の命題「完備化の完全性と $\hat{A}\otimes_AM$」)$y\equiv x\pmod{\mathfrak{m}^n}$ である。$\square$

証明

Greenberg の定理の一般の証明は上に述べたとおり文献に譲り、ここでは 1 変数の場合を Hensel の補題から完全に証明する。鍵になるのは、Hensel の補題の「単根」の仮定を、$f(x_0)$ が $f'(x_0)^2$ に比べて十分小さいという量的な条件に置き換えることである。この段階では $R$ の excellent 性は要らない。
以下、$f\in R[x]$ と $x_0,h\in R$ に対する Taylor 展開(Taylor展開)
$$ f(x_0+h)=\sum_{j\ge0}f^{[j]}(x_0)\,h^{j},\qquad f^{[0]}=f,\quad f^{[1]}=f' $$
を使う。ここで $f^{[j]}\in R[x]$ は $f(x+h)$ を $h$ の多項式として展開したときの $h^j$ の係数であり($f=x^m$ なら $f^{[j]}=\binom{m}{j}x^{m-j}$、二項係数)、任意の可換環の上で意味をもつ。

1 変数の量的な Hensel の補題

$R$ を Hensel 離散付値環、$f\in R[x]$、$x_0\in R$ とし、$f'(x_0)\ne0$ かつ
$$ v(f(x_0))>2\,v(f'(x_0)) $$
が成り立つとする。このとき、$f(y)=0$ かつ $v(y-x_0)>v(f'(x_0))$ をみたす $y\in R$ がただ 1 つ存在し、それは
$$ v(y-x_0)\ge v(f(x_0))-v(f'(x_0)) $$
をみたす。

$e:=v(f'(x_0))$、$a:=v(f(x_0))$ とおく。$f(x_0)=0$ なら $y:=x_0$ が条件をみたす($v(0)=\infty$)。以下 $f(x_0)\ne0$、すなわち $a$ は有限で $a>2e$ とし、$m:=a-e$ とおく。$m\ge e+1$ である。
存在。$g(z):=\pi^{-(m+e)}f(x_0+\pi^{m}z)\in K[z]$ とおく。Taylor 展開により
$$ g(z)=\sum_{j\ge0}f^{[j]}(x_0)\,\pi^{mj-m-e}\,z^{j} $$
であり、$j=0$ の係数 $u_0:=f(x_0)/\pi^{a}$ と $j=1$ の係数 $u_1:=f'(x_0)/\pi^{e}$ は $R$ の単元(単元)、$j\ge2$ の係数は $mj-m-e=m(j-1)-e\ge m-e=a-2e\ge1$ により $\mathfrak{m}$ に属する。よって $g\in R[z]$ で、$\bar{g}=\bar{u}_0+\bar{u}_1z\in k[z]$ は 1 次式であり、単根 $z_0:=-\bar{u}_0/\bar{u}_1\in k$ をもつ。
$g$ はモニックとは限らないので、Hensel 局所環の定義をそのまま使うために次の置き換えをする。$D:=\deg g$ とおく($u_1\ne0$ より $D\ge1$)。$D=1$ なら $g=u_0+u_1z$ で $z:=-u_0/u_1\in R$ が $g$ の根である。$D\ge2$ のときは、反転多項式
$$ g^{*}(w):=w^{D}g(1/w)=u_0w^{D}+u_1w^{D-1}+\cdots+g_{D}\in R[w] $$
を考える($g_j$ は $g$ の $z^j$ の係数)。$u_0^{-1}g^{*}$ はモニックであり、$\bar{g}_j=0$($j\ge2$)なので $\overline{g^{*}}=\bar{u}_0w^{D}+\bar{u}_1w^{D-1}=w^{D-1}(\bar{u}_0w+\bar{u}_1)$ である。$w_0:=-\bar{u}_1/\bar{u}_0\in k$ は $0$ でないので $w^{D-1}$ の根ではなく、$\overline{g^{*}}$ の単根である。実際 $\overline{g^{*}}'(w_0)=(D-1)w_0^{D-2}(\bar{u}_0w_0+\bar{u}_1)+w_0^{D-1}\bar{u}_0=w_0^{D-1}\bar{u}_0\ne0$ である。$R$ は Hensel 局所環なので、$g^{*}(w)=0$ かつ $\bar{w}=w_0$ をみたす $w\in R$ がある。$\bar{w}\ne0$ より $w$ は単元で、$z:=w^{-1}\in R$ は $g(z)=w^{-D}g^{*}(w)=0$ をみたし、$\bar{z}=1/w_0=-\bar{u}_0/\bar{u}_1=z_0$ である。
どちらの場合も $g(z)=0$ なる $z\in R$ が得られた。$y:=x_0+\pi^{m}z$ とおくと $f(y)=\pi^{m+e}g(z)=0$ であり、$v(y-x_0)\ge m=a-e>e$ である。これで存在と評価が示された。
一意性。$y,y'\in R$ がともに $f$ の根で $v(y-x_0)>e$、$v(y'-x_0)>e$ をみたすとする。$f'$ の $x_0$ における Taylor 展開から $f'(y)=f'(x_0)+(y-x_0)h_1$($h_1\in R$)で $v((y-x_0)h_1)>e=v(f'(x_0))$ だから $v(f'(y))=e$ である。また $f$ の $y$ における Taylor 展開から $0=f(y')-f(y)=(y'-y)f'(y)+(y'-y)^2h_2$($h_2\in R$)なので、$y'\ne y$ なら $f'(y)=-(y'-y)h_2$ となり $v(f'(y))\ge v(y'-y)\ge\min\{v(y'-x_0),v(y-x_0)\}>e$ となって矛盾する。よって $y'=y$ である。$\square$

$f'(x_0)$ が単元のとき($e=0$)、この命題は $\bar{f}$ の単根 $\bar{x}_0$ の持ち上げの存在と一意性、すなわち Hensel の補題そのものである。$e>0$ のときは $\bar{x}_0$ が $\bar{f}$ の重根であってもよく、その代わり $f(x_0)$ に $\mathfrak{m}^{2e+1}$ 以上の小ささを要求している。ここから Greenberg の定理の 1 変数の場合が従う。

重根をもたない 1 変数多項式に対する Greenberg の定理

$R$ を Hensel 離散付値環、$f\in R[x]$ を $K$ の代数閉包(代数閉体)の中に重根をもたない次数 $1$ 以上の多項式($\deg f\ge1$ で $f$ と $f'$ が $K[x]$ で互いに素)とする。$a,b\in R[x]$ と $0\ne\delta\in R$ を $af+bf'=\delta$ となるようにとり、$e:=v(\delta)$ とおく。このとき、任意の $n\ge0$ と $x_0\in R$ について、$f(x_0)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^{n+2e+1}}$ ならば $f(y)=0$、$y\equiv x_0\pmod{\mathfrak{m}^{n+e+1}}$ をみたす $y\in R$ が存在する。すなわち thm-greenberg-approximation-main の結論が $c=1$、$d=2e+1$ で成り立ち、しかも $R$ の excellent 性は要らない。

$f$ と $f'$ が $K[x]$ で互いに素なので、$K[x]$ における Bézout の等式(Euclid整域)$a_1f+b_1f'=1$($a_1,b_1\in K[x]$)があり、係数の分母を払えば $a,b\in R[x]$、$0\ne\delta\in R$ で $af+bf'=\delta$ となるものが得られる。$x_0\in R$ が $v(f(x_0))\ge n+2e+1$ をみたすとする。$\delta=a(x_0)f(x_0)+b(x_0)f'(x_0)$ において $v(a(x_0)f(x_0))\ge 2e+1>e=v(\delta)$ なので $v(b(x_0)f'(x_0))=e$ でなければならず、$f'(x_0)\ne0$ かつ $v(f'(x_0))\le e$ である。したがって $v(f(x_0))\ge n+2e+1>2v(f'(x_0))$ となり、prop-greenberg-approximation-one-variable により $f(y)=0$ かつ $v(y-x_0)\ge v(f(x_0))-v(f'(x_0))\ge n+2e+1-e=n+e+1$ なる $y\in R$ がある。$\square$

定数 $c$ を 1 にとれない例

$R$ を任意の離散付値環、$f(x)=x^{2}$ とする。$f$ の解は $y=0$ だけである。整数 $N\ge0$ に対し $x_0:=\pi^{\lceil N/2\rceil}$ とおくと $f(x_0)=\pi^{2\lceil N/2\rceil}\in\mathfrak{m}^{N}$ なので $x_0$ は $\mathfrak{m}^N$ を法とする近似解であり、唯一の解 $y=0$ との差は $v(y-x_0)=\lceil N/2\rceil$ である。もし定数 $c,d$ が thm-greenberg-approximation-main の結論をみたすなら、$N=cn+d$ について $\lceil(cn+d)/2\rceil\ge n$、したがって $(cn+d+1)/2\ge n$、すなわち $(2-c)n\le d+1$ がすべての $n$ で成り立たねばならず、$c\ge2$ である。一方 $c=2$、$d=0$ は結論をみたす:$x_0^2\in\mathfrak{m}^{2n}$ なら $v(x_0)\ge n$ で $0\equiv x_0\pmod{\mathfrak{m}^n}$ である。
より一般に、$g\in R[x]$ を重根をもたない多項式、$e$ を cor-greenberg-approximation-separable の整数とし、$f:=g^{m}$($m\ge1$)とすると、$f(x_0)\in\mathfrak{m}^{m(n+2e+1)}$ は $g(x_0)\in\mathfrak{m}^{n+2e+1}$ と同値なので、$f$ については $c=m$、$d=m(2e+1)$ で結論が成り立つ。定数 $c$ は解の重複度を反映する量であり、方程式系ごとに決まる。

帰結・補足

応用

Brauer 群への応用

Greenberg の定理の典型的な使い方は、cor-greenberg-approximation-scheme の最後の主張「$F(\hat{R})\ne\emptyset$ ならば $F(R)\ne\emptyset$」を、$R$ 上有限型のスキームで表現される関手(表現可能関手)に適用するものである。Grothendieck の Brauer 群の論文 III(Gro68 §3)にある Artin の定理はその例である。$R$ を excellent(japonais)な Hensel 離散付値環、$X\to\operatorname{Spec}R$ を射影的(射影射)で平坦(平坦射)な射、$X_n:=X\times_R\operatorname{Spec}R/\mathfrak{m}^{n+1}$ とする。$X$ 上の Azumaya 代数 $\mathcal{A}$ がすべての $X_n$ 上で分裂するとき、まず形式関数の定理(形式関数の定理)と Grothendieck の存在定理(形式スキーム の記事)により $\hat{X}:=X\times_R\operatorname{Spec}\hat{R}$ 上で分裂 $\hat{\mathcal{A}}\cong\mathcal{E}nd(\hat{V})$ が得られる。次に、「$\mathcal{A}$ の分裂を与える局所自由層(局所自由層)と同型の組」を分類する関手が $R$ 上局所有限型のスキーム $F$ で表現されることを使うと、この分裂は $F(\hat{R})$ の点であり、Greenberg の定理により $F(R)\ne\emptyset$、すなわち $\mathcal{A}$ は $X$ 上で分裂する。これが $\operatorname{Br}(X)\to\varprojlim_n\operatorname{Br}(X_n)$ の単射性(Picard群の射影系(射影極限)に Mittag-Leffler 条件(Mittag-Leffler条件)を課す)の証明であり、$X$ が正則な 2 次元スキームのときの $H^2(X,\mathbb{G}_m)\cong H^2(X_0,\mathbb{G}_m)$ の証明の一段になる。詳細は参考書 Brauer群の理論 の頁『3-3 Artin の定理(Hensel 離散付値環上の曲面)』にある。同じ型の議論は、Hensel 局所環上のエタール被覆(エタール射)やベクトル束など、完備化の上で構成した有限表示の対象を元の環の上に引き戻す場面で繰り返し使われ、底が離散付値環でないときは Greenberg の定理の代わりに Artin の定理(thm-greenberg-approximation-artin の 2)または Popescu の定理(thm-greenberg-approximation-popescu)を使う。

局所環の同型と代数的冪級数

Artin の近似定理(thm-greenberg-approximation-artin)の代表的な帰結を 2 つ挙げる。

  1. 完備化が同型なら Hensel 化も同型。$R_0$ を体または excellent な離散付値環、$X,Y$ を $R_0$ 上有限型のスキーム、$x\in X$、$y\in Y$ を点とする。完備局所環の $R_0$ 代数としての同型 $\hat{\mathcal{O}}_{X,x}\cong\hat{\mathcal{O}}_{Y,y}$ があれば、Hensel 化の同型 $\mathcal{O}_{X,x}^{h}\cong\mathcal{O}_{Y,y}^{h}$ がある(Art69 §2 の系)。証明の筋は、完備化の同型を有限表示の対象($Y$ の局所座標の行き先)とみて thm-greenberg-approximation-artin の 2 で Hensel 化の間の射 $\varphi$ に近似し、$\mathfrak{m}^2$ を法として同型と一致する $\varphi$ が同型であることを示す、というものである。すなわち、Hensel 化は完備化と同じだけ局所的な情報をもち、しかも代数的な環である。
  2. 代数的冪級数による近似。$A=k\langle x_1,\dots,x_r\rangle$、$\hat{A}=k[\![x_1,\dots,x_r]\!]$ に近似性質を適用すると、$k\langle x\rangle$ 係数(とくに $k[x]$ 係数)の多項式方程式系が形式的冪級数(形式的冪級数)の解をもてば、それを任意の次数まで近似する代数的冪級数解をもつ。1 変数 $t$ の係数環と 1 個の未知数で、多項式が重根をもたないときは、$k\langle t\rangle$ が Hensel 離散付値環であることと cor-greenberg-approximation-separable からも直接わかる(ex-greenberg-approximation-algebraic)。重根をもつ場合や多変数の場合には Artin の定理($k\langle t\rangle$ は excellent なので Popescu の定理でもよい)が要る。収束冪級数環 $\mathbb{C}\{x_1,\dots,x_r\}$ についての同じ主張が Artin Art68 の定理であり、解析的方程式の形式解は収束解で近似できる。

例

$\mathbb{Z}_7$ における $x^2=2$

$R=\mathbb{Z}_7$(完備なので excellent な Hensel 離散付値環)、$f(x)=x^2-2$ とする。$f'=2x$ であり $2f-xf'=-4$ なので、cor-greenberg-approximation-separable の $\delta$ として $-4$ がとれ、$e=v_7(-4)=0$ である。したがって $f(x_0)\equiv0\pmod{7^{n+1}}$ ならば $f(y)=0$、$y\equiv x_0\pmod{7^{n+1}}$ なる $y\in\mathbb{Z}_7$ がある。すなわち $c=1$、$d=1$ であり、近似解と真の解の差は近似の精度そのままである。
実際に計算する。$3^2=9\equiv2\pmod 7$ なので $x_0=3$ は $\mathfrak{m}^1$ を法とする近似解であり、$f'(3)=6$ は単元だから prop-greenberg-approximation-one-variable により $y\equiv3\pmod 7$ なる根 $y=\sqrt{2}\in\mathbb{Z}_7$ がただ 1 つある。$x_0=10$ は $10^2-2=98=2\cdot7^2$ により $\mathfrak{m}^2$ を法とする近似解で、$y\equiv10\pmod{49}$ である。$x_0=108$ は $108^2-2=11662=34\cdot7^3$ により $\mathfrak{m}^3$ を法とする近似解で、$y\equiv108\pmod{343}$ である。よって $\sqrt{2}=3+1\cdot7+2\cdot7^2+\cdots$ である。近似解の列 $3,10,108,\dots$ は、prop-greenberg-approximation-one-variable の証明の置き換え $x_0+\pi^{m}z$ を繰り返して得られる(Newton 法)。

代数的冪級数環における $x^2-x-t=0$

$k$ を体、$R=k\langle t\rangle$ を代数的冪級数環($k[t]_{(t)}$ の Hensel 化。$\mathfrak{m}=tR$、剰余体 $k$)、$f(x)=x^2-x-t\in k[t][x]$ とする。$f'=2x-1$ であり $(2x-1)^2-4f=1+4t$ なので、$\delta=1+4t$ は $R$ の単元で $e=0$ である($k$ の標数が $2$ なら $f'=-1$ が単元で、やはり $e=0$)。cor-greenberg-approximation-separable により、$f(x_0)\in t^{n+1}R$ ならば $f(y)=0$、$y\equiv x_0\pmod{t^{n+1}}$ なる $y\in k\langle t\rangle$ がある。
$x_0=-t$ をとると $f(-t)=t^2+t-t=t^2$ なので $x_0$ は $\mathfrak{m}^2$ を法とする近似解であり、$y\equiv-t\pmod{t^2}$ なる根 $y\in k\langle t\rangle$ がある。$x_0=-t+t^2$ をとると $f(x_0)=t^4-2t^3$ なので、$y\equiv-t+t^2\pmod{t^3}$ である。標数が $2$ でなければ $y=\frac{1-\sqrt{1+4t}}{2}=-t+t^2-2t^3+5t^4-\cdots$ であり、係数は符号を除いて Catalan 数(Catalan数)である。Greenberg の定理の観点で大切なのは、根 $y$ が $k[\![t]\!]$ の中にあるだけでなく(それは $k[\![t]\!]$ の完備性による Hensel の補題からわかる)、$k(t)$ 上代数的な冪級数、すなわち $k\langle t\rangle$ の元としてとれることである。$y$ が $k[t]_{(t)}$ の元でないこと、したがって $k[t]_{(t)}$ では同じ近似解 $x_0=-t$ から真の解が作れないことは ex-greenberg-approximation-zp と同じ理由による(Hensel局所環 の記事の例「反例:$k[t]_{(t)}$ は Hensel 局所環でない」)。

反例

反例:$\mathbb{Z}_{(p)}$ は近似定理をみたさない

$R=\mathbb{Z}_{(7)}=\{a/b\in\mathbb{Q}\mid7\nmid b\}$ は excellent(標数 $0$)な離散付値環で、完備化は $\mathbb{Z}_7$ である。$f(x)=x^2-2$ をとる。ex-greenberg-approximation-sqrt2 により $\mathbb{Z}_7$ には根 $\sqrt{2}$ があり、各 $N$ について $x_N\equiv\sqrt{2}\pmod{7^N}$ なる整数 $x_N$ をとれば $f(x_N)\equiv f(\sqrt{2})=0\pmod{7^N\mathbb{Z}_7}$、すなわち $f(x_N)\in7^N\mathbb{Z}_7\cap\mathbb{Z}=7^N\mathbb{Z}$ なので、$x_N$ は $\mathbb{Z}_{(7)}$ における $\mathfrak{m}^N$ を法とする近似解である。しかし $\sqrt{2}$ は無理数なので $f$ は $\mathbb{Q}\supset\mathbb{Z}_{(7)}$ に根をもたない。したがって、どの $d$ についても「$\mathfrak{m}^{d}$ を法とする近似解があれば真の解がある」は成り立たず、thm-greenberg-approximation-main の結論は $n=0$ の場合ですら破れる。同じことは任意の素数 $p$ について $\mathbb{Z}_{(p)}$ で起こる($f(x)=x^2-x-p^2$ をとればよい。Hensel局所環 の記事の例「反例:$\mathbb{Z}_{(p)}$ は Hensel 局所環でない」)。
満たす性質は excellent な離散付値環であること、満たさない性質は Hensel 性であり、破る含意は「excellent な離散付値環ならば Greenberg の定理の結論が成り立つ」である。$\mathbb{Z}_{(7)}$ の Hensel 化 $\mathbb{Z}_7\cap\overline{\mathbb{Q}}$ に取り替えれば、根 $\sqrt{2}$ はその中にあり、thm-greenberg-approximation-main が成り立つ。Hensel 性が必要であることは一般に prop-greenberg-approximation-ap-implies-henselian が示す。

反例:excellent でない Hensel 離散付値環での破綻

$p$ を素数、$L=\mathbb{F}_p(\!(t)\!)$、$v$ をその $t$ 進付値とする。$\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ は非可算(可算集合)、$\mathbb{F}_p(t)$ の代数閉包(代数閉包)は可算なので、$\mathbb{F}_p(t)$ 上超越的な $s\in\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ がとれる。$K_0:=\mathbb{F}_p(t,s^{p})\subset L$ とおき、$K$ を $K_0$ 上分離代数的な $L$ の元の全体($K_0$ の $L$ における分離閉包(分離閉包)。これは $L$ の部分体である)、$R:=K\cap\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ とおく。

  1. $R$ は完備化が $\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ の離散付値環である。$R$ は $v$ の $K$ への制限の付値環(付値環)であり、$v(K^{\times})\ni v(t)=1$ なので $v(K^\times)=\mathbb{Z}$、$R$ は $t$ を一意化元とする離散付値環で $\mathfrak{m}=tR=R\cap t\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ である。$\mathbb{F}_p[t]\subset R$ なので各 $n$ について $R/\mathfrak{m}^n\to\mathbb{F}_p[\![t]\!]/(t^n)$ は全射であり、$\mathfrak{m}^n=R\cap t^n\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ により単射でもある。よって $\hat{R}=\mathbb{F}_p[\![t]\!]$、$\hat{K}=L$、剰余体は $\mathbb{F}_p$ である。
  2. $R$ は Hensel 離散付値環である。$g\in R[x]$ をモニック、$\alpha\in\mathbb{F}_p$ を $\bar{g}$ の単根とする。$\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ は完備なので Hensel の補題により $g(a)=0$、$\bar{a}=\alpha$ なる $a\in\mathbb{F}_p[\![t]\!]$ がある。$g'(a)$ は $\overline{g'(a)}=\bar{g}'(\alpha)\ne0$ により $0$ でないので $a$ は $g$ の単根であり、$a$ の $K$ 上の最小多項式は $g$ を割るから $a$ はその単根でもあり、したがって $a$ は $K$ 上分離的である。$K/K_0$ は分離代数的なので $a$ は $K_0$ 上も分離代数的であり、$K$ の定義から $a\in K$、よって $a\in K\cap\mathbb{F}_p[\![t]\!]=R$ である。
  3. $R$ は excellent でない。$s\in L=\hat{K}$ は $s^{p}\in K_0\subset K$ をみたすので $K$ 上純非分離的(純非分離拡大)である。もし $s\in K$ なら $s$ は $K_0$ 上分離的かつ純非分離的なので $s\in K_0=\mathbb{F}_p(t,s^p)$ となるが、$s$ は $\mathbb{F}_p(t)$ 上超越的なので $[\mathbb{F}_p(t,s):\mathbb{F}_p(t,s^p)]=p$ であり矛盾する。よって $s\notin K$ で、$\hat{K}/K$ は分離拡大でない。
  4. Greenberg の定理の結論が破れる。$f(x):=x^{p}-s^{p}\in R[x]$($s^{p}\in K\cap\mathbb{F}_p[\![t]\!]=R$)をとる。$s$ の次数 $N$ 未満の部分和 $s_N\in\mathbb{F}_p[t]\subset R$ について、標数 $p$ では $f(s_N)=s_N^{p}-s^{p}=(s_N-s)^{p}\in t^{pN}\mathbb{F}_p[\![t]\!]\cap R=\mathfrak{m}^{pN}$ なので、$s_N$ は $\mathfrak{m}^{pN}$ を法とする近似解である。一方、$y\in R$ が $f(y)=0$ をみたせば $(y-s)^{p}=y^p-s^p=0$、すなわち $y=s$ となるが $s\notin R$ である。よって $f$ はすべての $N$ について $\mathfrak{m}^N$ を法とする近似解をもつのに真の解をもたず、thm-greenberg-approximation-main の結論は $n=0$ の場合ですら成り立たない。
    満たす性質は Hensel 離散付値環であること、満たさない性質は excellent 性($\hat{K}/K$ の分離性)であり、破る含意は「Hensel 離散付値環ならば Greenberg の定理の結論が成り立つ」である。破れる多項式 $x^p-s^p$ が $K$ 上既約(既約多項式。$s\notin K$ より $s^p$ は $K$ の $p$ 乗元でない)かつ非分離であることに注意せよ。cor-greenberg-approximation-separable が excellent 性なしで成り立つのは、重根をもたない多項式に限ったからである。同じ $f$ は $\hat{R}$ に根 $s$ をもつが $R$ に根をもたないので、$R$ は近似性質ももたない。これは Rotthaus の定理(thm-greenberg-approximation-popescu の 2)と整合する。

関連項目

参考文献

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[10]
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[11]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique IV : Étude locale des schémas et des morphismes de schémas, Publications Mathématiques de l'IHÉS 20, 24, 28, 32, 1967, §7.6–§7.8(japonais 環・excellent 環)、§8(局所有限表示の関手と帰納極限)、§18.5–§18.7(Hensel 局所環、Hensel 化、Hensel 化の excellent 性 18.7.6)
[12]
Alexander Grothendieck, Le groupe de Brauer III : exemples et compléments, Dix exposés sur la cohomologie des schémas, North-Holland / Masson, pp. 88–188, 1968, §3(Hensel 離散付値環上の曲面に対する Artin の定理。Greenberg の近似定理の使用)

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