Hilbert類体

同義語:ヒルベルト類体最大不分岐アーベル拡大狭義Hilbert類体Hilbert class fieldnarrow Hilbert class field

概要

Hilbert類体(Hilbert class field)とは、代数体 $K$ のアーベル拡大で、すべての素イデアルで分岐せず実素点が実素点のままであるもののうち最大のもの $H_K$ である。$K$ 上有限次で、Artin 写像はイデアル類群 $\operatorname{Cl}_K$ から $\operatorname{Gal}(H_K/K)$ への同型を与え、次数は類数 $h_K$ に等しく、素イデアルが $H_K$ で完全分解するのは単項イデアルのときに限る。たとえば $\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の Hilbert 類体は $\mathbb{Q}(\sqrt{-5},i)$ である。$K$ のイデアルは $H_K$ ですべて単項イデアルになる(単項イデアル定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: イデアル類群, Artin写像とArtin相互法則, 射類体と導手, 存在定理(類体論)

代数体 $K$ の Hilbert 類体(Hilbert class field)$H_K$ とは、$K$ のアーベル拡大で、すべての素イデアルで分岐せず、すべての実素点が実素点のままであるもののうち最大のものである。類体論によると、Artin 写像はイデアル類群 $\operatorname{Cl}_K$ から $\operatorname{Gal}(H_K/K)$ への同型を与え、$[H_K:K]$ は類数 $h_K$ に等しく、$K$ の素イデアルが $H_K$ で完全分解することと単項イデアルであることは同値になる。さらに $K$ のイデアルはすべて $H_K$ では単項イデアルになる(単項イデアル定理)。
この記事では、Hilbert 類体が存在して $K$ 上有限次であり、Artin 写像が類群から $\operatorname{Gal}(H_K/K)$ への全射を与えることを、射類体と導手 の記事の導手の定理から証明する(thm-hcf-main)。全射が単射でもあることは一般にはこの記事では証明しないが、$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ と $\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ では Hilbert 類体を具体的に求めて同型を確かめ(ex-hcf-minus5、ex-hcf-minus23)、$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ では単項イデアル定理も確かめる。

定義

以下 $K$ を 代数体 とし、アーベル拡大はすべて $K$ の 1 つの代数閉包の中で考える。法、Artin 写像 $\psi_{L/K}$、定義法は Artin写像とArtin相互法則 の記事の定義「法と射類群」と定義「Artin写像」のとおり、導手 $\mathfrak{f}(L/K)$ と法 $\mathfrak{m}$ の射類体 $K_{\mathfrak{m}}$ は 射類体と導手 の記事の定義「導手」と定義「射類体」のとおりとする。$h_K:=\lvert\operatorname{Cl}_K\rvert$ を類数とする。

すべての素点で不分岐な拡大

$K$ の有限次 Galois 拡大 $L/K$ が すべての素点で不分岐 であるとは、$K$ のすべての素イデアルが $L$ で分岐せず、$K$ のすべての実素点 $v$ について、$v$ の上の $L$ の素点がすべて実素点であることをいう。

実素点 $v$(実埋め込み $K\to\mathbb{R}$)の上の $L$ の素点が実素点であるとは、$v$ を延ばす埋め込み $L\to\mathbb{C}$ の像が $\mathbb{R}$ に含まれることである。$L/K$ が Galois 拡大なら、$v$ を延ばす埋め込みは互いに $\operatorname{Gal}(L/K)$ の元の合成で移り合い像が等しいので、すべて実であるかすべて実でないかのどちらかである。

Hilbert類体

$K$ の有限次アーベル拡大で、すべての素点で不分岐なもののうち最大のもの(thm-hcf-main の 2 で存在を示す)を $K$ の Hilbert 類体 といい、$H_K$ と書く。

実素点の条件を外し、素イデアルで分岐しないことだけを課したものの最大は、法 $\infty_K$($K$ のすべての実素点の積)の射類体 $K_{\infty_K}$ に含まれ、狭義 Hilbert 類体と呼ばれる。Neu99 はこれを big Hilbert class field、$H_K$ を small Hilbert class field と呼ぶ(Chapter VI, (6.8) と (6.9) の前, p. 399)。

主定理

不分岐なアーベル拡大の合成

$L_1,L_2$ がすべての素点で不分岐な $K$ の有限次アーベル拡大なら、合成体 $L_1L_2$ もそうである。

惰性群と埋め込みの制限

制限による写像 $\operatorname{Gal}(L_1L_2/K)\to\operatorname{Gal}(L_1/K)\times\operatorname{Gal}(L_2/K)$ は単射($L_1L_2$ は $L_1$ と $L_2$ で生成される)なので、$L_1L_2/K$ はアーベル拡大である。
素イデアル $\mathfrak{p}$ の上の $L_1L_2$ の素イデアル $\mathfrak{P}$ と、惰性群の元 $\sigma\in I(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})$ をとる(分解群と惰性群 の記事の定義「惰性群」)。$\sigma$ は $\mathfrak{P}$ を保ち、$\mathcal{O}_{L_1L_2}$ の各元を $\mathfrak{P}$ を法として動かさないので、$\sigma|_{L_i}$ は $\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_{L_i}$ を保ち、$\mathcal{O}_{L_i}$ の各元を $\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_{L_i}$ を法として動かさない。すなわち $\sigma|_{L_i}\in I(\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_{L_i}\mid\mathfrak{p})$ である。惰性群の位数は分岐指数に等しい(同記事の系「惰性群の位数と完全列」)ので、仮定からこの群は自明で、$\sigma|_{L_1}=\sigma|_{L_2}=1$、よって $\sigma=1$ である。したがって $e(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})=\lvert I(\mathfrak{P}\mid\mathfrak{p})\rvert=1$ である。
実素点 $v$ を延ばす埋め込み $\tau\colon L_1L_2\to\mathbb{C}$ について、$\tau|_{L_i}$ は $v$ を延ばす $L_i$ の埋め込みなので仮定から $\tau(L_i)\subset\mathbb{R}$ であり、$\tau(L_1L_2)$ は $\tau(L_1)$ と $\tau(L_2)$ で生成される体なので $\mathbb{R}$ に含まれる。$\square$

Hilbert類体の存在と Artin 写像
  1. $L/K$ をすべての素点で不分岐な有限次アーベル拡大とする。Artin 写像 $\psi_{L/K}$ は分数イデアル全体の群 $I_K$ の上で定義され、単項イデアルを単位元に写し、全射準同型 $\operatorname{Cl}_K\to\operatorname{Gal}(L/K)$ を引き起こす。とくに $[L:K]$ は $h_K$ を割る。
  2. Hilbert 類体 $H_K$ が存在し、$[H_K:K]$ は $h_K$ を割る。
  3. $\operatorname{Cl}_K\to\operatorname{Gal}(H_K/K)$ は同型であり、$[H_K:K]=h_K$、$H_K=K_{(1)}$ である。
    1 と 2 をこの記事で証明する。3 はこの記事では一般には証明しない(rem-hcf-unproved)。
導手が $(1)$ であることを使う

1。$L/K$ で分岐する素イデアルはないので、射類体と導手 の記事の定理「導手の存在と基本性質」の 2 により導手の有限部分は $\mathcal{O}_K$ である。$K$ の実素点の上の $L$ の素点はすべて実素点なので、同定理の 3 により導手の無限部分は空である。よって $\mathfrak{f}(L/K)=(1)$ であり、同定理の 1 により法 $(1)$ は定義法である。すなわち $\psi_{L/K}$ は $I_K^{(1)}=I_K$ の上で定義され、$\psi_{L/K}(P_K)=1$ である。Artin写像とArtin相互法則 の記事の命題「Artin写像の基本性質」の 4 により $\psi_{L/K}$ は全射なので、全射 $\operatorname{Cl}_K=I_K/P_K\to\operatorname{Gal}(L/K)$ が得られる。$[L:K]=\lvert\operatorname{Gal}(L/K)\rvert$ は $\operatorname{Cl}_K$ の商の位数なので $h_K$ を割る。
2。1 により、すべての素点で不分岐な有限次アーベル拡大の次数は $h_K$ 以下である($K$ 自身もその 1 つである)。次数が最大のもの $H$ をとる。すべての素点で不分岐な有限次アーベル拡大 $L$ について、lem-hcf-compositum により $HL$ もそうであり、$[HL:K]\ge[H:K]$ と最大性から $HL=H$、すなわち $L\subset H$ である。よって $H$ は最大のものであり、そのようなものはただ 1 つである。$[H:K]$ が $h_K$ を割ることは 1 による。$\square$

Hilbert類体の判定

$L/K$ をすべての素点で不分岐な有限次アーベル拡大とし、$[L:K]=h_K$ とする。このとき $L=H_K$ であり、Artin 写像は同型 $\operatorname{Cl}_K\cong\operatorname{Gal}(L/K)$ を引き起こす。とくに $h_K=1$ なら $H_K=K$ であり、$K$ にはすべての素点で不分岐な $K$ でないアーベル拡大はない。

$H_K$ の最大性から $L\subset H_K$ で、thm-hcf-main の 2 から $[H_K:K]\le h_K=[L:K]$ なので $L=H_K$ である。thm-hcf-main の 1 の全射 $\operatorname{Cl}_K\to\operatorname{Gal}(L/K)$ は位数の等しい有限群の間の全射なので同型である。$\square$

$K=\mathbb{Q}$ では $h_{\mathbb{Q}}=1$ なので $H_{\mathbb{Q}}=\mathbb{Q}$ である。より強く、$\mathbb{Q}$ と異なる代数体では必ずある素数が分岐する(判別式(代数体) の記事の定理「Minkowskiの判別式定理」と 差積と分岐 の記事の系「Dedekindの判別式定理」)。

射類体との関係

法 $(1)$ の射類体

$H_K\subset K_{(1)}$ であり、$[K_{(1)}:K]=h_K$ である。$K_{(1)}/K$ は、下の素数が $h_K$ を割らない素イデアルで分岐しない。$H_K=K_{(1)}$ であることと、$K_{(1)}/K$ がすべての素点で不分岐であることと、thm-hcf-main の 3 の同型は、互いに同値である。

thm-hcf-main の 1 の証明で見たとおり $\mathfrak{f}(H_K/K)=(1)$ なので、射類体と導手 の記事の命題「射類体に含まれるための条件」の 1 により $H_K\subset K_{(1)}$ である。$\operatorname{Gal}(K_{(1)}/K)\cong\operatorname{Cl}_{(1)}=\operatorname{Cl}_K$ から $[K_{(1)}:K]=h_K$ である。分岐しない素イデアルについての主張は同記事の定理「次数と素な素イデアルでの不分岐性」の後半($\mathfrak{m}=(1)$)である。$K_{(1)}$ がすべての素点で不分岐なら最大性から $K_{(1)}\subset H_K$、よって $H_K=K_{(1)}$ で、cor-hcf-criterion により同型が成り立つ。同型が成り立てば $[H_K:K]=h_K=[K_{(1)}:K]$ で $H_K\subset K_{(1)}$ なので $H_K=K_{(1)}$ であり、$H_K$ はすべての素点で不分岐である。$\square$

素イデアルの分解

単項素イデアルは完全分解する

$\mathfrak{p}$ を $K$ の素イデアルとする。$\mathfrak{p}$ の $H_K$ での剰余次数は、$\mathfrak{p}$ の $\operatorname{Cl}_K$ での類の位数を割る。とくに $\mathfrak{p}$ が単項イデアルなら、$\mathfrak{p}$ は $H_K$ で完全分解する。さらに $\operatorname{Cl}_K\to\operatorname{Gal}(H_K/K)$ が同型なら、剰余次数は類の位数に等しく、$\mathfrak{p}$ が $H_K$ で完全分解することと $\mathfrak{p}$ が単項イデアルであることは同値である。

$\mathfrak{p}$ は $H_K$ で分岐しないので、Frobenius元 の記事の命題「Frobenius元の基本性質」の 1 により剰余次数は $\operatorname{Frob}_{\mathfrak{p}}=\psi_{H_K/K}(\mathfrak{p})$ の位数に等しい。thm-hcf-main の 1 により $\psi_{H_K/K}(\mathfrak{p})$ は $\mathfrak{p}$ の類の、準同型 $\operatorname{Cl}_K\to\operatorname{Gal}(H_K/K)$ による像なので、その位数は類の位数を割り、同型なら等しい。完全分解は剰余次数が $1$ であること(同命題の 3)なので、残りの主張が従う。$\square$

例

$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の Hilbert 類体

$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の Hilbert 類体は $H_K=K(i)=\mathbb{Q}(\sqrt{-5},i)$ である。$K$ の類数は $2$ である(代数体 の記事の例「小さい 2 次体」)。
$i\sqrt{-5}=-\sqrt5$ なので $K(i)$ は $\beta:=(1+\sqrt5)/2$ を含み、$\beta\notin K$ から $K(i)=K(\beta)$ である。$i$ の最小多項式 $X^2+1$ の判別式は $-4$、$\beta$ の最小多項式 $X^2-X-1$ の判別式は $5$ なので、代数体における素イデアルの分解 の記事の系「分岐する素イデアルは有限個」により、$2$ の上にない $K$ の素イデアルは $i$ で、$2$ の上の素イデアルは $\beta$ で見て $K(i)$ で分岐しない。$K$ は実素点をもたない。$i\notin K$($\mathbb{Q}(i)\ne\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$)なので $[K(i):K]=2=h_K$ であり、cor-hcf-criterion により $H_K=K(i)$、$\operatorname{Cl}_K\cong\operatorname{Gal}(K(i)/K)$ である。
prop-hcf-split を確かめる。代数体における素イデアルの分解 の記事の例「$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ における分解」により $3\mathcal{O}_K=(3,1+\sqrt{-5})(3,1-\sqrt{-5})$ で、$x^2+5y^2=3$ は整数解をもたないのでこれらは単項でない。剰余体 $\mathbb{F}_3$ で $X^2+1$ は既約なので、同記事の定理「Kummer–Dedekindの定理」によりこれらは $H_K$ で惰性する。一方 $29=3^2+5\cdot2^2$ なので $29\mathcal{O}_K=(3+2\sqrt{-5})(3-2\sqrt{-5})$ は単項素イデアルの積で、$12^2=144\equiv-1\pmod{29}$ から $X^2+1$ は $\mathbb{F}_{29}$ で 1 次式の積になり、これらは $H_K$ で完全分解する。
単項イデアル定理も確かめられる。$\mathfrak{p}_2:=(2,1+\sqrt{-5})$ について $\mathfrak{p}_2^2=2\mathcal{O}_K$ である(同記事の例)。$(1+i)^2=2i$ なので $\mathcal{O}_{H_K}$ で $((1+i)\mathcal{O}_{H_K})^2=2\mathcal{O}_{H_K}=(\mathfrak{p}_2\mathcal{O}_{H_K})^2$ であり、素イデアル分解の一意性から $\mathfrak{p}_2\mathcal{O}_{H_K}=(1+i)\mathcal{O}_{H_K}$ は単項である。$\operatorname{Cl}_K$ は $\mathfrak{p}_2$ の類で生成されるので、$K$ のすべてのイデアルが $H_K$ で単項になる。

$\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ の Hilbert 類体

$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ の Hilbert 類体は、$f(X):=X^3-X-1$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小分解体 $L$ である。$K$ の類数は $3$ である(イデアル類群 の記事の例「虚 2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ の類数は $3$」)。
要点:$f$ の判別式は $-23$ なので $L$ は $K$ を含み、$L/K$ は 3 次の巡回拡大である。$23$ の上以外では判別式から、$23$ の上では分岐指数の比較から、$L/K$ は分岐しない。

確認を開く

$f$ は $\pm1$ を根にもたないので $\mathbb{Q}$ 上既約で、判別式は $-4(-1)^3-27=-23$ である。$f$ の根を $\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3$ とすると $\prod_{i< j}(\alpha_i-\alpha_j)\in L$ の 2 乗が $-23$ なので $K\subset L$ である。3 根がすべて実なら判別式 $\prod_{i< j}(\alpha_i-\alpha_j)^2$ は正なので、判別式が負の $f$ の実根はただ 1 つで、それを $\alpha$ とすると $M:=\mathbb{Q}(\alpha)\subset\mathbb{R}$ は $K$ を含まない。よって $[MK:\mathbb{Q}]=6$ で、$[L:\mathbb{Q}]\le6$ から $L=MK=K(\alpha)$、$[L:K]=3$ であり、$L/K$ は Galois 拡大($L$ は最小分解体)で位数 $3$ の群は巡回群なのでアーベル拡大である。

$f$ は $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式で判別式は $-23$ なので、代数体における素イデアルの分解 の記事の系「分岐する素イデアルは有限個」により、$23$ の上にない $K$ の素イデアルは $L$ で分岐しない。$23$ の上の $K$ の素イデアルを $\mathfrak{q}$ とすると $e(\mathfrak{q}\mid23)=2$ である($(\sqrt{-23})^2=(-23)$)。同記事の例「分岐指数が異なる例」により $23\mathcal{O}_M=\mathfrak{P}_1\mathfrak{P}_2^2$、$e(\mathfrak{P}_1\mid23)=1$ である。$L/\mathbb{Q}$ は Galois 拡大なので $23$ の上の $L$ の素イデアルの分岐指数はすべて等しく(分解群と惰性群 の記事の系「Galois 拡大での $efg=n$」)、その値を $e$ とする。$\mathfrak{P}_1$ の上の素イデアルを見ると、代数体における素イデアルの分解 の記事の定理「基本等式」から $e(\cdot\mid\mathfrak{P}_1)\le[L:M]=2$ なので $e\le2$、$\mathfrak{q}$ の上の素イデアル $\mathfrak{Q}$ を見ると $e=e(\mathfrak{Q}\mid\mathfrak{q})\cdot2$ である。よって $e=2$、$e(\mathfrak{Q}\mid\mathfrak{q})=1$ で、$\mathfrak{q}$ も $L$ で分岐しない。$K$ は実素点をもたない。


よって $L/K$ はすべての素点で不分岐な 3 次のアーベル拡大であり、cor-hcf-criterion により $H_K=L$、$\operatorname{Cl}_K\cong\operatorname{Gal}(L/K)$ である。たとえば $59=5^2+5\cdot2+6\cdot2^2$ なので、$\omega:=(1+\sqrt{-23})/2$ について $N(5+2\omega)=59$ で、$59$ の上の $K$ の素イデアル $(5+2\omega)$ は単項である。実際 $f$ は $59$ を法として 3 つの根 $4,13,42$ をもつので、Kummer–Dedekind の定理によりこの素イデアルは $L$ で完全分解する。一方 $2$ は $K$ で 2 つの単項でない素イデアルに分かれ($4N(a+b\omega)=(2a+b)^2+23b^2=8$ は解をもたない)、$f\equiv X^3+X+1\pmod2$ は既約なので、それらは $L$ で惰性し、剰余次数 $3$ は類の位数 $3$ に等しい。

実 2 次体 $K=\mathbb{Q}(\sqrt3)$ では $h_K=1$ なので $H_K=K$ である。一方 $K(i)/K$ はすべての素イデアルで分岐しない 2 次のアーベル拡大で、2 つの実素点がどちらも複素素点になる。これは狭義 Hilbert 類体(法 $\infty_K$ の射類体)である(射類体と導手 の記事の例「狭義 Hilbert 類体」)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
素イデアルで分岐しない$\mathbb{Q}(\sqrt5)/\mathbb{Q}$$[L:K]$ が $h_K$ を割る
実素点が実素点のまま$\mathbb{Q}(\sqrt3,i)/\mathbb{Q}(\sqrt3)$$[L:K]$ が $h_K$ を割る
すべての素点で不分岐(完全分解の判定)$\mathbb{Q}(i)/\mathbb{Q}$ と $3$単項素イデアルは完全分解する
反例の確認

各行は、表の条件だけを外すと結論が破れることを示す。

各行の確認を開く

1 行目:$\mathbb{Q}(\sqrt5)\subset\mathbb{R}$ なので実素点は実素点のままで、$\mathbb{Q}(\sqrt5)/\mathbb{Q}$ は 2 次のアーベル拡大である。$5\mathcal{O}=(\sqrt5)^2$ なので $5$ が分岐する。$h_{\mathbb{Q}}=1$ なので $[L:K]=2$ は $h_K$ を割らない。

2 行目:射類体と導手 の記事の例「狭義 Hilbert 類体」により、$\mathbb{Q}(\sqrt3,i)/\mathbb{Q}(\sqrt3)$ はすべての素イデアルで分岐しない 2 次のアーベル拡大だが、$h_{\mathbb{Q}(\sqrt3)}=1$ である。実素点は複素素点になる。

3 行目:$(3)$ は単項素イデアルだが、$3\equiv3\pmod4$ なので $3$ は $\mathbb{Z}[i]$ で惰性し($X^2+1$ は $\mathbb{F}_3$ で既約)、完全分解しない。$\mathbb{Q}(i)/\mathbb{Q}$ は $2$ で分岐し、実素点も複素素点になる。

補足

この記事で証明しないこと

thm-hcf-main の 3、すなわち $\operatorname{Cl}_K\cong\operatorname{Gal}(H_K/K)$ と $H_K=K_{(1)}$ は、prop-hcf-ray により $K_{(1)}/K$ がすべての素点で不分岐であることと同値であり、局所成分と局所相互写像の一致から従う(Neu99 Chapter VI, Proposition (6.9), p. 399 とその後の注意, pp. 400–401、Corollary (7.4), p. 409。CF67 Exercises, Exercise 3 (The Hilbert Class Field), pp. 355–356。射類体と導手 の記事の注意「この記事で証明しないこと」)。この記事で証明したのは、下の素数が $h_K$ を割らない素イデアルについての部分(prop-hcf-ray)までである。
単項イデアル定理:$K$ のすべてのイデアルは $H_K$ で単項イデアルになる。Hilbert の予想であり、Artin が群の移送(transfer)の問題に帰着させ、Furtwängler が証明した(CF67 Exercise 3, p. 356)。証明は Neu99 Chapter VI, Theorem (7.5) と (7.6), pp. 410–413 にある(Witt による群論の証明)。ex-hcf-minus5 はその最小の場合の確認である。
類体塔:$K_0:=K$、$K_{i+1}:=H_{K_i}$ と Hilbert 類体を繰り返してできる列を $K$ の類体塔という。途中で類数 $1$ の体に達して止まるとは限らず、Golod と Šafarevič は $\mathbb{Q}(\sqrt{-2\cdot3\cdot5\cdot7\cdot11\cdot13\cdot17\cdot19})$ の 2 類体塔が無限に続くことを示した(NSW20 Chapter X, §10, pp. 697–698。Neu99 Chapter VI, §7, p. 413。CF67 Chapter IX(P. Roquette, On Class Field Towers), pp. 231–248)。

文献

cor-hcf-criterion で求めた $\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ と $\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ の Hilbert 類体は、CF67 Exercise 3, p. 356 に、判別式 $-15,-20,-23,-24,-31$ の虚 2 次体の Hilbert 類体が $X^2+3$、$X^2+1$、$X^3-X-1$、$X^2+3$、$X^3+X-1$ の根の添加で得られるという形で挙げられている。実 2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt3)$ の狭義 Hilbert 類体が $K(\sqrt{-1})$ であることも同 p. 357 にある。

関連項目

参考文献

[1]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, 1999, Chapter VI, Proposition (6.8) と (6.9), p. 399、(6.9) の後の注意, pp. 400–401、Corollary (7.4), p. 409、Theorem (7.5) と (7.6), pp. 410–413、類体塔の段落, p. 413
[2]
J. W. S. Cassels, A. Fröhlich (eds.), Algebraic Number Theory, Academic Press, 1967, Exercises, Exercise 3 (The Hilbert Class Field), pp. 355–357; Chapter IX(P. Roquette, On Class Field Towers), pp. 231–248

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