Rückertの零点定理

同義語:Rückert NullstellensatzRückert's Nullstellensatz

概要

Rückertの零点定理(Rückert Nullstellensatz)とは、収束冪級数環 $\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_n\}$ のイデアル $I$ について、$I$ の生成元の共通零点集合の原点での芽の上で $0$ になる正則関数の芽の全体が $I$ の根基 $\sqrt I$ に等しいという定理である。言い換えると、$g_1,\dots,g_k$ の共通零点の上で $0$ になる $f$ は、ある冪 $f^m$ が $g_1,\dots,g_k$ の正則関数係数の一次結合になる。これにより原点での解析集合の芽と根基イデアルが一対一に対応し、既約な芽は素イデアルに対応する。Hilbert の零点定理の局所的な類似で、実数係数の冪級数や大域的な整関数の環では成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 解析集合(複素解析), Weierstrassの予備定理, Weierstrassの割り算定理, 収束冪級数環, 根基イデアル

Rückert の零点定理は、多項式についての Hilbertの零点定理 の、正則関数の芽についての類似である。原点の近くで正則な関数 $g_1,\dots,g_k$ の共通零点集合の上で、原点の近くの正則関数 $f$ が $0$ になるなら、ある $m\ge1$ について
$$ f^m=a_1g_1+\dots+a_kg_k\qquad(a_j\text{ は原点の近くで正則}) $$
と書ける。イデアルの言葉では、収束冪級数環 $\mathcal{O}_n=\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_n\}$ のイデアル $I$ について、$I$ の零点の芽の消滅イデアルは $I$ の根基 $\sqrt I$ に等しい。これによって、原点での解析集合(複素解析)の芽と $\mathcal{O}_n$ の根基イデアルが一対一に対応し、既約な芽は素イデアルに対応する。
証明は「零点集合の射影が原点の近傍を覆うこと」に帰着する。素イデアル $\mathfrak{p}$ について、座標をうまくとると $\mathcal{O}_n/\mathfrak{p}$ は $\mathcal{O}_d=\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_d\}$ 上の有限加群になり(Weierstrass の割り算定理)、零点の芽を $\mathbb{C}^d$ へ射影すると原点の近傍を覆う。その上で、$f\notin\mathfrak{p}$ ならば $f$ の「ノルム」が $\mathcal{O}_d$ の $0$ でない元になることを使う。

定義

$\mathcal{O}_n$ のイデアル $I$ の根基を $\sqrt I:=\{f\mid f^m\in I\text{ となる }m\ge1\text{ がある}\}$ と書く(根基イデアル)。原点での解析集合の芽 $X$ の消滅イデアル $I_0(X)$ と、イデアル $I$ の零点の芽 $V_0(I)$ は 解析集合(複素解析) の定義「消滅イデアルと零点の芽」のとおりとする。すなわち $I=(g_1,\dots,g_k)$ のとき $V_0(I)$ は $Z(g_1,\dots,g_k)=\{g_1=\dots=g_k=0\}$ の原点での芽で、$I_0(X)$ は $X$ の上で $0$ になる代表をもつ芽の全体である。$I\subset J$ なら $V_0(J)\subset V_0(I)$ である。

Rückert の零点定理

$\mathcal{O}_n$ の任意のイデアル $I$ について
$$ I_0(V_0(I))=\sqrt I $$
が成り立つ。すなわち、$f\in\mathcal{O}_n$ が $V_0(I)$ の上で $0$ になれば、ある $m\ge1$ について $f^m\in I$ である。

証明の筋

包含 $\sqrt I\subset I_0(V_0(I))$ はやさしい:$f^m\in I$ なら $f^m$ は $V_0(I)$ の上で $0$ なので $f$ も $0$ である。逆の包含は、次の節「証明」で、素イデアルへの帰着(lem-rn-reduce)、座標の取り方(lem-rn-normal)、ノルム(lem-rn-norm)、零点の持ち上げ(lem-rn-lift)を順に示してから証明する(prf-rn-main)。

芽と根基イデアルの対応
  1. $X\mapsto I_0(X)$ と $I\mapsto V_0(I)$ は、原点での解析集合の芽の全体と $\mathcal{O}_n$ の根基イデアルの全体の間の、包含を逆にする全単射で、互いに逆である。
  2. この対応で、既約な芽は素イデアルに、点の芽 $\{0\}$ は極大イデアル $\mathfrak{m}=(z_1,\dots,z_n)$ に、空の芽は $\mathcal{O}_n$ に対応する。
  3. イデアル $I$ について、$V_0(I)\subset\{0\}$ であることと、ある $N$ で $\mathfrak{m}^N\subset I$ となることは同値である。
  1. $V_0(I_0(X))=X$ は 解析集合(複素解析) の命題「芽とイデアルの対応」の 2 で、$I_0(V_0(I))=\sqrt I=I$($I$ が根基イデアルのとき)は thm-rn-main である。包含を逆にすることは同じ命題の 3 による。2. 既約な芽と素イデアルの対応は同じ記事の定理「既約分解」の 1 である。$I_0(\{0\})=\mathfrak{m}$ と $V_0(\mathcal{O}_n)=\emptyset$ は定義から従う。3. $V_0(I)\subset\{0\}$ なら $\mathfrak{m}=I_0(\{0\})\subset I_0(V_0(I))=\sqrt I$ なので、各 $z_j$ のある冪が $I$ に入り、$N$ を大きくとれば $\mathfrak{m}^N\subset I$ である。逆に $\mathfrak{m}^N\subset I$ なら $z_j^N\in I$ なので $V_0(I)\subset V_0((z_1^N,\dots,z_n^N))=\{0\}$ である。$\square$

証明

以下、$0\le j\le n$ について $\mathcal{O}_j:=\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_j\}\subset\mathcal{O}_n$($\mathcal{O}_0=\mathbb{C}$)とみなす。$\mathbb{C}^j$ の点を $(z_1,\dots,z_j)$ と書き、$\pi_j\colon\mathbb{C}^n\to\mathbb{C}^j$ を最初の $j$ 個の座標への射影とする。

素イデアルへの帰着

素イデアルの場合に帰着する

すべての素イデアル $\mathfrak{p}\subset\mathcal{O}_n$ について $I_0(V_0(\mathfrak{p}))=\mathfrak{p}$ が成り立てば、thm-rn-main はすべてのイデアルについて成り立つ。

$I=\mathcal{O}_n$ なら $V_0(I)$ は空で、両辺は $\mathcal{O}_n$ である。$I\ne\mathcal{O}_n$ とする。$\mathcal{O}_n$ は Noether 環なので(Weierstrassの予備定理 の系「収束冪級数環は Noether 環」)、$\sqrt I=\mathfrak{p}_1\cap\dots\cap\mathfrak{p}_m$($\mathfrak{p}_i$ は素イデアル)と書ける(極小素イデアル の定理「Noether環における有限性」の 1)。$I\subset\mathfrak{p}_i$ だから $V_0(\mathfrak{p}_i)\subset V_0(I)$ である。$f$ が $V_0(I)$ の上で $0$ なら、各 $V_0(\mathfrak{p}_i)$ の上でも $0$ なので、仮定により $f\in\mathfrak{p}_i$ がすべての $i$ で成り立ち、$f\in\sqrt I$ である。$\square$

座標の取り方と有限性

素イデアルに合わせた座標

$\mathfrak{p}\subset\mathcal{O}_n$ を $0$ でも $\mathcal{O}_n$ でもない素イデアルとする。線形な座標変換をすると、次を満たす整数 $0\le d< n$ がある。

  1. $\mathfrak{p}\cap\mathcal{O}_d=0$。
  2. 各 $j=d+1,\dots,n$ について、$z_j$ の Weierstrass 多項式 $W_j\in\mathcal{O}_{j-1}[z_j]$ で $W_j\in\mathfrak{p}\cap\mathcal{O}_j$ となるものがある。
  3. $\mathcal{O}_n/\mathfrak{p}$ は $\mathcal{O}_d$ 上の有限生成加群で、$\mathcal{O}_d\to\mathcal{O}_n/\mathfrak{p}$ は単射である。

要点:$\mathfrak{p}$ から $0$ でない元をとり、予備定理で最後の変数の Weierstrass 多項式に直す。$\mathfrak{p}\cap\mathcal{O}_{n-1}$ がまた $0$ でなければ、残りの変数で同じことを繰り返す。

詳しい証明を開く

$\mathfrak{p}_j:=\mathfrak{p}\cap\mathcal{O}_j$ は $\mathcal{O}_j$ の素イデアルである。$j=n$ から下へ、次の操作を $\mathfrak{p}_{j}\ne0$ である限り続ける:$0\ne g\in\mathfrak{p}_j$ をとり、$z_1,\dots,z_j$ だけの線形な座標変換で $g$ を $z_j$ について正則にする(Weierstrassの予備定理 の補題「一般の関数を $w$ 正則にする座標変換」)。予備定理で $g=uW_j$($u$ は単元、$W_j\in\mathcal{O}_{j-1}[z_j]$ は Weierstrass 多項式)と書くと $W_j=u^{-1}g\in\mathfrak{p}_j$ である。$\mathfrak{p}_j\ne\mathcal{O}_j$ なので $g$ は単元でなく、$W_j$ の次数は $1$ 以上である。後の段の座標変換は $z_1,\dots,z_{j-1}$ だけを線形に変えるので、それまでに作った $W_{j+1},\dots,W_n$ の係数は原点で $0$ のままで、Weierstrass 多項式のままである。$\mathfrak{p}_n=\mathfrak{p}\ne0$ なので少なくとも 1 回は操作し、$\mathfrak{p}_0=0$($\mathfrak{p}_0\subset\mathbb{C}$ は $1$ を含まない)なので、$\mathfrak{p}_d=0$ となる最大の $d$ で止まる。これで 1・2 を得る。3:Weierstrassの割り算定理 の系「剰余環の同型」により、$W_j$ の次数を $b_j$ とすると、$\mathcal{O}_j/(W_j)$ は $\mathcal{O}_{j-1}$ 上 $1,z_j,\dots,z_j^{b_j-1}$ で生成されるので、$\mathcal{O}_j/\mathfrak{p}_j$ は $\mathcal{O}_{j-1}/\mathfrak{p}_{j-1}$ 上有限生成である($\mathcal{O}_{j-1}/\mathfrak{p}_{j-1}\to\mathcal{O}_j/\mathfrak{p}_j$ は単射)。有限性は推移的なので(整拡大 の補題「有限性の推移性」)、$\mathcal{O}_n/\mathfrak{p}$ は $\mathcal{O}_d/\mathfrak{p}_d=\mathcal{O}_d$ 上有限生成である。$\square$

ノルム

lem-rn-normal の座標で、$f\in\mathcal{O}_n\setminus\mathfrak{p}$ とする。このとき $0$ でない $N\in\mathcal{O}_d$ と $h\in\mathcal{O}_n$ で $N-fh\in\mathfrak{p}$ となるものがある。

$B:=\mathcal{O}_n/\mathfrak{p}$ は整域で、lem-rn-normal の 3 により $\mathcal{O}_d$ を部分環として含み、その上で有限生成加群である。よって $f$ の像 $\bar f$ は $\mathcal{O}_d$ 上整であり(整拡大 の定理「有限生成な加群による判定」)、$\bar f^m+c_{m-1}\bar f^{m-1}+\dots+c_0=0$($c_i\in\mathcal{O}_d$、$m\ge1$)の形の関係式のうち $m$ が最小のものをとる。$c_0=0$ なら、$m\ge2$ のとき $\bar f(\bar f^{m-1}+\dots+c_1)=0$ と $\bar f\ne0$ から次数 $m-1$ の関係式が得られ、$m=1$ のときは $\bar f=0$ となって、どちらも矛盾する。よって $c_0\ne0$ で、$N:=-c_0=\bar f\,(\bar f^{m-1}+c_{m-1}\bar f^{m-2}+\dots+c_1)$ は $\bar fB$ に入る。$h$ を括弧の中の元の代表にとればよい。$\square$

零点の持ち上げ

次の補題が証明の中心である。1 変数ずつ、下の空間の零点を上の空間の零点へ持ち上げる。

零点の持ち上げ

$k\ge0$ とし、$\mathfrak{q}\subset\mathcal{O}_{k+1}$ をイデアル、$\mathfrak{q}':=\mathfrak{q}\cap\mathcal{O}_k$ とする。$\mathfrak{q}$ が $z_{k+1}$ の次数 $b\ge1$ の Weierstrass 多項式 $W\in\mathcal{O}_k[z_{k+1}]$ を含むとし、$\mathfrak{q}=(g_1,\dots,g_s)$、$\mathfrak{q}'=(c_1,\dots,c_l)$ と生成元を固定する。このとき任意の $\varepsilon>0$ と $\mathbb{C}^k$ の原点の近傍 $U$ に対し、原点を中心とする多重円板 $\Delta'\subset U$ と $0<\rho\le\varepsilon$ があって、$g_i$ は $\Delta'\times D(\rho)$ で、$c_\lambda$ は $\Delta'$ で正則であり、次が成り立つ:$a\in\Delta'$ が $c_1(a)=\dots=c_l(a)=0$ を満たせば、$|t|<\rho$ となる $t\in\mathbb{C}$ で $g_1(a,t)=\dots=g_s(a,t)=0$ となるものがある。

割り算で余りに直す。 Weierstrassの割り算定理 により $g_i=Q_iW+R_i$($Q_i\in\mathcal{O}_{k+1}$、$R_i\in\mathcal{O}_k[z_{k+1}]$、$\deg R_i< b$)と書け、$W\in\mathfrak{q}$ なので $W=\sum_i\lambda_ig_i$($\lambda_i\in\mathcal{O}_{k+1}$)とも書ける。これらの有限個の等式が成り立ち、すべての関数が正則な多重円板 $\Delta'_0\times D(\rho)$($\Delta'_0\subset U$、$\rho\le\varepsilon$)をとる。$W$ の係数は原点で $0$ なので、多重円板 $\Delta'\subset\Delta'_0$ を小さくとれば、$a\in\Delta'$ について $W(a,\cdot)$ の $b$ 個の根はすべて $D(\rho)$ に入る(Weierstrassの予備定理 の注意「根の大きさの評価」)。$\Delta'\times D(\rho)$ の上では、2 つの等式から
$$ \{g_1=\dots=g_s=0\}=\{W=0,\ R_1=\dots=R_s=0\} $$
である。
行列式。 $u=(u_1,\dots,u_s)$ を不定元とし、環 $S:=\mathcal{O}(\Delta')[u]$ の上で $G_u(T):=\sum_iu_iR_i(z',T)\in S[T]$ を考える($z'\in\Delta'$ は $\mathbb{C}^k$ の点)。$W$ はモニックなので $S[T]/(W)$ は $1,T,\dots,T^{b-1}$ を基底とする自由 $S$ 加群で、$G_u$ を掛ける写像の表現行列を $M_u$ とし、$\delta_u:=\det M_u\in S$ とおく。$M_u$ の固有多項式 $\chi(X)=\det(X-M_u)$ について、Cayley–Hamiltonの定理 により $\chi(M_u)=0$、すなわち $\chi(G_u)\in W\cdot S[T]$ である。$\chi(G_u)=G_u\cdot H+\chi(0)$($H\in S[T]$)、$\chi(0)=(-1)^b\delta_u$ なので、
$$ \delta_u=(-1)^{b}\bigl(K\,W-H\,G_u\bigr)\qquad(H,K\in S[T]) $$
と書ける。両辺を $u$ の単項式 $u^\alpha$ の係数で比べると、$\delta_u=\sum_\alpha\delta_\alpha u^\alpha$ の各係数 $\delta_\alpha\in\mathcal{O}(\Delta')$ は、$W,R_1,\dots,R_s$ の $\mathcal{O}(\Delta')[T]$ 係数の一次結合である。$R_i=g_i-Q_iW$、$W=\sum\lambda_ig_i$ なので、$\delta_\alpha$ の原点での芽は $\mathfrak{q}$ に入り、$z_{k+1}$ によらないので $\mathfrak{q}\cap\mathcal{O}_k=\mathfrak{q}'$ に入る。$\delta_\alpha$ は有限個なので、$\Delta'$ をさらに小さくとれば、各 $\delta_\alpha$ は $\Delta'$ 上で $c_1,\dots,c_l$ の正則関数係数の一次結合になる。
根で値を取る。 $a\in\Delta'$、$c_1(a)=\dots=c_l(a)=0$ とすると、すべての $\delta_\alpha(a)=0$ なので、任意の $u\in\mathbb{C}^s$ で $\det M_u(a)=0$ である。$M_u(a)$ は $\mathbb{C}[T]/(W(a,T))$ の上で $G_u(a,T)$ を掛ける写像の行列で、$W(a,\cdot)$ の根を重複度こみで $\theta_1,\dots,\theta_b$ とすると
$$ \det M_u(a)=\prod_{\nu=1}^b G_u(a,\theta_\nu)=\prod_{\nu=1}^b\Bigl(\sum_{i=1}^su_iR_i(a,\theta_\nu)\Bigr) $$
である(rem-rn-det)。右辺は $u$ の一次式の積で、$\mathbb{C}^s$ 全体で $0$ なので多項式として $0$ であり、$\mathbb{C}[u]$ は整域だから、ある $\nu$ について一次式 $\sum_iu_iR_i(a,\theta_\nu)$ が $0$、すなわち $R_1(a,\theta_\nu)=\dots=R_s(a,\theta_\nu)=0$ である。$W(a,\theta_\nu)=0$、$|\theta_\nu|<\rho$ なので、$t:=\theta_\nu$ とおけば $g_1(a,t)=\dots=g_s(a,t)=0$ である。$\square$

掛け算写像の行列式と根

$P\in\mathbb{C}[T]$ をモニックな $b$ 次多項式、相異なる根 $\beta$ の重複度を $m_\beta$ とする。中国剰余定理により $\mathbb{C}[T]/(P)\cong\prod_\beta\mathbb{C}[T]/((T-\beta)^{m_\beta})$ で、各因子の上で $G$ を掛ける写像は $G(\beta)$ 倍と冪零な写像($T-\beta$ の倍元を掛けること)の和なので、行列式は $G(\beta)^{m_\beta}$ である。よって $G$ を掛ける写像の行列式は $\prod_\beta G(\beta)^{m_\beta}$ に等しい。また、モニックな $W$ の係数に点 $a$ を代入する操作は、基底 $1,\dots,T^{b-1}$ に関する表現行列の成分への代入と両立する。

射影は原点の近傍を覆う

lem-rn-normal の座標をとり、$\mathfrak{p}=(g_1,\dots,g_s)$ と生成元を固定する。任意の $\varepsilon>0$ に対し、$\mathbb{C}^d$ の原点の近傍 $\Delta_d$ があって、各 $a\in\Delta_d$ について、$\pi_d(x)=a$、$|x|<\varepsilon$、$g_1(x)=\dots=g_s(x)=0$ となる $x\in\mathbb{C}^n$ がある。

要点:lem-rn-lift を $j=d,d+1,\dots,n-1$ の各段に使い、原点の近くの点 $a\in\mathbb{C}^d$ を 1 座標ずつ持ち上げる。各段の近傍は、上の段の多重円板に収まるように上から順に選んでおく。

詳しい証明を開く

$\mathfrak{p}_j:=\mathfrak{p}\cap\mathcal{O}_j$ とし、各 $j=d,\dots,n$ について生成元の組 $\Gamma_j$ を固定する($\Gamma_n$ は $g_1,\dots,g_s$、$\mathfrak{p}_d=0$ なので $\Gamma_d$ は空)。$d\le j< n$ について、$\mathfrak{q}=\mathfrak{p}_{j+1}$ は $W_{j+1}$ を含み、$\mathfrak{q}\cap\mathcal{O}_j=\mathfrak{p}_j$ だから lem-rn-lift が使える。$j=n-1$ から下へ順に、$\varepsilon':=\varepsilon/n$ と、一つ上の段で得た多重円板 $\Delta^{(j+1)}\subset\mathbb{C}^{j+1}$($j=n-1$ では $\mathbb{C}^n$ の原点の $\varepsilon'$ 近傍)を $\Delta''\times D(\sigma)$ と書いたときの $U:=\Delta''$、$\min(\varepsilon',\sigma)$ を与えて、lem-rn-lift の $\Delta^{(j)}:=\Delta'$ と $\rho_j$ をとる。$\Delta^{(j)}$ は原点の $\varepsilon'$ 近傍に入るようにとっておく。$\Delta_d:=\Delta^{(d)}$ とおく。

$a\in\Delta_d$ をとる。$\Gamma_d$ は空なので条件はなく、lem-rn-lift により $t_{d+1}$($|t_{d+1}|<\rho_d$)で $(a,t_{d+1})$ が $\Gamma_{d+1}$ の共通零点になるものがある。作り方から $(a,t_{d+1})\in\Delta''\times D(\sigma)=\Delta^{(d+1)}$ なので、次の段の補題が使え、$t_{d+2}$ がとれる。これを $n$ まで続けると $x=(a,t_{d+1},\dots,t_n)$ は $\Gamma_n$ の共通零点で、各座標の大きさは $\varepsilon'$ 未満なので $|x|<\varepsilon$ である。$\square$

主定理の証明

lem-rn-reduce により、$\mathfrak{p}$ が素イデアルのとき $I_0(V_0(\mathfrak{p}))\subset\mathfrak{p}$ を示せばよい。$\mathfrak{p}=0$ のとき、$V_0(0)$ は原点の近傍全体の芽で、その上で $0$ になる芽は $0$ である。以下 $\mathfrak{p}\ne0$ とし($\mathfrak{p}\ne\mathcal{O}_n$ は素イデアルの定義に含まれる)、lem-rn-normal の座標と $\mathfrak{p}=(g_1,\dots,g_s)$ をとる。
$f\in I_0(V_0(\mathfrak{p}))$ とし、$f\notin\mathfrak{p}$ と仮定して矛盾を導く。$f$ はある $\varepsilon_1>0$ について $\{|x|<\varepsilon_1,\ g_1(x)=\dots=g_s(x)=0\}$ の上で $0$ である。lem-rn-norm により、$0$ でない $N\in\mathcal{O}_d$ と $h\in\mathcal{O}_n$、$e_i\in\mathcal{O}_n$ で
$$ N(\pi_d(x))=f(x)\,h(x)+\sum_{i=1}^se_i(x)\,g_i(x) $$
となるものがある。これは原点の近傍 $\{|x|<\varepsilon_2\}$ で成り立つとしてよい。$\varepsilon:=\min(\varepsilon_1,\varepsilon_2)$ として lem-rn-surj の $\Delta_d$ をとる(必要なら $N$ が $\Delta_d$ で正則になるよう小さくする)。$a\in\Delta_d$ に対し、$\pi_d(x)=a$、$|x|<\varepsilon$ となる $g_1,\dots,g_s$ の共通零点 $x$ がある。そこで $f(x)=0$、$g_i(x)=0$ なので、上の式から $N(a)=0$ である。$a\in\Delta_d$ は任意なので、$N$ は原点の近傍で恒等的に $0$ になり、$N\ne0$ に反する($d=0$ のときは $N$ は $0$ でない定数で、$a$ は $\mathbb{C}^0$ のただ一つの点)。よって $f\in\mathfrak{p}$ である。$\square$

例

尖点

$n=2$、座標を $(z,w)$ とし、$g=w^2-z^3$ とする。$g$ は $w$ の 2 次の Weierstrass 多項式で、$\mathbb{C}\{z\}[w]$ の中で既約である(一次の因子 $w-a(z)$ があれば $a^2=z^3$ だが、左辺の零点の位数は偶数、右辺は $3$ で矛盾)。したがって $g$ は $\mathbb{C}\{z,w\}$ の素元で(収束冪級数環 の補題「既約な Weierstrass 多項式は素元」)、$(g)$ は素イデアルである。thm-rn-main により、尖点 $\{w^2=z^3\}$ の上で $0$ になる芽はすべて $g$ の倍元である。
これは直接にも確かめられる。$f$ が尖点の上で $0$ だとし、Weierstrassの割り算定理 で $f=qg+A(z)+B(z)w$ と割る。尖点は $z=\tau^2$、$w=\tau^3$ で径数付けられるので、$A(\tau^2)+B(\tau^2)\tau^3=0$ が $\tau$ の恒等式として成り立つ。第 1 項は $\tau$ の偶数次の項だけ、第 2 項は奇数次の項だけからなるので、どちらも $0$ であり、$A=B=0$、$f=qg$ である。

根基が必要な場合
  1. $I=(z_1^2,z_2^2)\subset\mathcal{O}_2$ では $V_0(I)=\{0\}$ で、$I_0(\{0\})=\mathfrak{m}=(z_1,z_2)$ である。$z_1\notin I$ だが $z_1^2\in I$ であり、$\sqrt I=\mathfrak{m}$ と thm-rn-main は一致する。cor-rn-correspondence の 3 の $N$ は $3$ でよい($\mathfrak{m}^3\subset I$)。
  2. $I=(z_1^2,z_1z_2)\subset\mathcal{O}_2$ では $V_0(I)=\{z_1=0\}$ で、消滅イデアルは $(z_1)$ である。$z_1\notin I$、$z_1^2\in I$ で、$\sqrt I=(z_1)$ である。$I=(z_1)\cap(z_1^2,z_2)$ と書けるが、$(z_1^2,z_2)$ の零点の芽は原点だけで、$\{z_1=0\}$ に含まれてしまう。零点の芽は根基しか見ないので、このような埋め込まれた成分は見えない。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
係数体が $\mathbb{C}$実収束冪級数環 $\mathbb{R}\{x,y\}$ の $I=(x^2+y^2)$$I_0(V_0(I))=\sqrt I$
原点での芽で考える$\mathbb{C}$ 上の整関数の環 $\mathcal{O}(\mathbb{C})$ の、有限個を除くすべての整数で $0$ になる関数のイデアル $I$$I_0(V(I))=\sqrt I$($V(I)$ は $\mathbb{C}$ 全体での共通零点集合)
反例の確かめ
  1. 実の点 $(x,y)$ で $x^2+y^2=0$ となるのは原点だけなので $V_0(I)=\{0\}$ で、$x$ はその上で $0$ になる。しかし $x^m\in(x^2+y^2)$、すなわち $x^m=(x^2+y^2)h$ と書けたとすると、$\mathbb{C}\{x,y\}$ の中で $y=ix$ を代入して $x^m=0$ となり矛盾する。よって $x\notin\sqrt I$ である。
  2. $I$ はイデアルで、定数 $1$ は零点をもたないので $1\notin I$、したがって $1\notin\sqrt I$ である。一方 $I$ は共通零点をもたない:$a\notin\mathbb{Z}$ なら $\sin\pi z\in I$ で $\sin\pi a\ne0$、$a\in\mathbb{Z}$ なら $\sin(\pi z)/(z-a)\in I$($z=a$ で除去可能)で、$z=a$ での値は $\pi\cos\pi a\ne0$ である。よって $V(I)=\emptyset$、$I_0(\emptyset)=\mathcal{O}(\mathbb{C})\ne\sqrt I$ である。原点での芽に限れば、この $I$ の芽は単元 $\sin(\pi z)/z$ を含み $\mathcal{O}_1$ 全体になる。

補足

thm-rn-main は層の言葉では次のように述べられる:$\mathbb{C}^n$ の開集合 $\Omega$ の上の連接なイデアル層 $\mathcal{J}$ について、$\mathcal{J}$ の根基 $\operatorname{rad}\mathcal{J}$ は $\mathcal{J}$ の零点集合 $A$($\mathcal{O}_\Omega/\mathcal{J}$ の台)の消滅イデアル層に等しい。実際、各点 $x\in\Omega$ の近くで $\mathcal{J}$ は有限個の切断 $f_1,\dots,f_k$ で生成されるので、その近くで $A=Z(f_1,\dots,f_k)$ となり、$x$ での茎に thm-rn-main を当てはめればよい。Hilbertの零点定理 との違いは、代数閉体の仮定の代わりに複素数体の上の収束冪級数を使うことと、大域的な多項式環でなく局所環で述べることにある。
証明で使った座標の取り方(lem-rn-normal)は Noether の正規化(Noetherの正規化定理)の局所版で、Hor90 Proposition 6.5.4 の (i)・(ii)(p. 169)にも同じ形の座標の選び方がある。Hor90 はそこからさらに原始元と判別式を使って $V_0(\mathfrak{p})$ のうち判別式が $0$ にならない点の上にある部分 $V^0$ を $d$ 次元の連結な複素多様体として記述し(同 (v))、消滅イデアルが有限個の素イデアルの共通部分であること(Lemma 6.5.3、p. 168)と合わせて、消滅イデアルの層が近傍の各点で同じ有限個の関数から生成されること(Theorem 6.5.2、p. 168)を示している。この記事の lem-rn-lift は、判別式を使わず、一次式の積が恒等的に $0$ にならないことだけで零点を持ち上げている。

関連項目

参考文献

[1]
Lars Hörmander, An Introduction to Complex Analysis in Several Variables, North-Holland, 1990, §6.5 Theorem 6.5.2・Lemma 6.5.3(p. 168)、Proposition 6.5.4(pp. 169–173)

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