局所Noetherスキーム

同義語:局所ネータースキームlocally Noetherian scheme

概要

局所Noetherスキーム(locally Noetherian scheme)とは、各点が Noether 環 $A$ のスペクトル $\operatorname{Spec}A$ に同型な開近傍をもつスキームである。このときすべてのアフィン開集合の環が Noether 環になり、局所環・開部分スキーム・閉部分スキームや、その上で局所的に有限型なスキームも同じ性質をもつ。底空間は各点の近くで Noether 位相空間であり、既約成分は局所有限で、連結成分は開集合である。準コンパクトなものが Noetherスキームであり、無限個のアフィン空間の非交和は局所 Noether だが Noether でない。局所環がすべて Noether 環でも局所 Noether とは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: スキーム, Noether環, 既約空間, 局所閉集合

Noether環は「イデアルの昇鎖が必ず止まる」環であり、可換環論の有限性の議論の多くがこの条件の上に立っている。スキームは環のスペクトル $\operatorname{Spec}A$ を貼り合わせたものなので、貼り合わせに使う環がすべて Noether 環であることを要求するのは自然である。局所Noetherスキーム(locally Noetherian scheme)はこの条件をみたすスキームである。Noetherスキームがさらに「有限個のアフィン開集合で覆える」という大域的な有限性も要求するのに対し、局所Noetherスキームは各点の近くだけの条件であり、無限個の部品の非交和のようなスキームも含む。連接層が「有限生成加群を貼り合わせたもの」として扱えること、有限型射の定義域がふたたび同じ種類のスキームになること、固有射による連接層の押し出しが連接になることなど、代数幾何学の基本定理の多くはこの仮定の上で述べられる。局所的な条件で足りるのは、これらの主張がどれも各点の近くで確かめられる性質だからである。

定義

局所Noetherスキーム

スキーム $X$ が局所 Noether(locally Noetherian)である、または局所Noetherスキーム(locally Noetherian scheme)であるとは、$X$ の各点 $x$ が、Noether環 $A$ のスペクトル $\operatorname{Spec}A$ に同型な開近傍をもつことをいう。言い換えると、$X$ は Noether 環のスペクトルからなるアフィン開被覆 $X=\bigcup_i\operatorname{Spec}A_i$ をもつ。

この定義は Noetherスキーム の記事の定義「局所Noetherスキームと Noetherスキーム」と同じものであり、Vak25 5.3.4、Stacks Tag 01OV とも一致する。局所 Noether で、しかも位相空間として準コンパクト(任意の開被覆が有限部分被覆をもつ)なスキームが Noetherスキームである。

定義は「ある」アフィン開被覆の環が Noether であることを要求しているだけだが、実際には「すべての」アフィン開集合の環が Noether 環になる。この事実が、局所 Noether 性を扱いやすい性質にしている。

局所 Noether 性の言い換え

スキーム $X$ について、次は同値である。

  1. $X$ は局所 Noether である。
  2. $X$ のすべてのアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ で、$A$ は Noether 環である。
  3. $X$ のあるアフィン開被覆 $X=\bigcup_i\operatorname{Spec}A_i$ で、すべての $A_i$ が Noether 環である。
  4. $X$ のある開被覆 $X=\bigcup_jX_j$ で、すべての開部分スキーム $X_j$ が局所 Noether である。

とくに、アフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ が局所 Noether であることと $A$ が Noether 環であることは同値である。

条件 (i) から (ii) は Noetherスキーム の記事の定理「局所 Noether スキームのアフィン開集合」である。その要点は、2 つのアフィン開集合の共通部分が両方の側から見て基本開集合になる開集合で覆えること(同記事の補題「2 つのアフィン開集合に共通な基本開集合」)と、環 $A$ の Noether 性が「単位イデアルを生成する有限個の元 $f_1,\dots,f_n$ による局所化 $A_{f_i}$ がすべて Noether」から従うこと(同記事の補題「局所化による Noether 性の判定」)である。

条件 (ii) から (iii) はスキームがアフィン開被覆をもつことによる。条件 (iii) から (iv) は、$X_j:=\operatorname{Spec}A_i$ とすればよい(アフィンスキーム $\operatorname{Spec}A_i$ は自分自身を開被覆として条件 (iii) をみたし、定義により局所 Noether である)。条件 (iv) から (i):$x\in X$ は、ある $X_j$ の中で Noether 環のスペクトルに同型な開近傍 $V$ をもち、$X_j$ は $X$ の開集合なので $V$ は $X$ の開近傍でもある。$\operatorname{Spec}A$ についての主張は、$\operatorname{Spec}A$ 自身がアフィン開集合であることと (ii) による。$\square$

条件 (i)〜(iv) の同値は Stacks Tag 01OW(Properties, Lemma 5.2)、(ii) と (iii) の同値の証明の骨組み(アフィン開集合の間の通信の補題)は Vak25 5.3.2–5.3.3 にある。条件 (iv) は、局所 Noether 性が開被覆で確かめられる局所的な性質であることを表している。

例

Noether 環のスペクトルとその上の有限型スキーム

体 $k$、整数環 $\mathbb{Z}$、離散付値環は Noether 環なので、そのスペクトルは局所 Noether(しかも Noether)である。Noether 環 $R$ 上の多項式環 $R[x_1,\dots,x_n]$ とその剰余環は Noether 環であり(Noether環 の記事の系「有限生成代数」)、したがって $\mathbb{A}^n_R$ や $\operatorname{Spec}R[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_m)$ は局所 Noether である。射影空間 $\mathbb{P}^n_R$ は $n+1$ 個のアフィン空間 $\mathbb{A}^n_R$ で覆われるので、prop-locally-noetherian-scheme-equivalent の条件 (iii) により局所 Noether である(Noetherスキーム の記事の例「射影空間」)。より一般に、局所 Noether スキームの上で局所的に有限型なスキームは局所 Noether である(prop-locally-noetherian-scheme-finite-type)。

無限個のアフィン空間の非交和

$k$ を体とし、$X:=\coprod_{n\ge1}\mathbb{A}^n_k$($n$ 次元アフィン空間すべての非交和)とする。各 $\mathbb{A}^n_k$ は $X$ の開集合で、その環 $k[x_1,\dots,x_n]$ は Noether 環なので、prop-locally-noetherian-scheme-equivalent の条件 (iii) により $X$ は局所 Noether である。

$X$ は Noetherスキームでない。開被覆 $\{\mathbb{A}^n_k\}_{n\ge1}$ から有限個を選んでも $X$ を覆えないので、準コンパクトでないからである(可算個の $\operatorname{Spec}k$ の非交和も同じ理由で局所 Noether だが Noether でない。Noetherスキーム の記事の例「反例:無限個の点の非交和」)。

さらに $X$ の Krull次元は無限大である。各 $\mathbb{A}^n_k$ は $X$ の開かつ閉な集合なので、その既約閉集合は $X$ の既約閉集合でもあり、$\mathbb{A}^n_k$ の中には長さ $n$ の既約閉集合の鎖がある($\dim k[x_1,\dots,x_n]=n$。Krull次元 の記事の定理「体上有限生成な環の次元」の 1 と命題「素スペクトルの次元」)。一方、$X$ の各点の局所環は Noether 局所環であり、その次元は有限である(Krull次元 の記事の定理「Noether環の次元」の 1)。局所 Noether という条件は、各点の近くの有限性しか保証しない。

反例

条件を 1 つ外したり弱めたりしたときの反例を並べる。

外す条件・弱める条件反例成り立たなくなること
アフィン開集合の環が Noether(局所環が Noether だけにする)$\operatorname{Spec}\prod_{n\in\mathbb{N}}k$局所 Noether であること
環が Noether(底空間は Noether 位相空間)$\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\dots]/(x_1,x_2,\dots)^2$局所 Noether であること
準コンパクト(局所 Noether は満たす)$\coprod_{n\ge1}\mathbb{A}^n_k$Noether であること、次元が有限であること
環が Noether(準コンパクトは満たす)$\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\dots]$局所 Noether であること

3 行目は ex-locally-noetherian-scheme-disjoint-union で確かめた。2 行目と 4 行目は Noetherスキーム の記事の例「反例:底空間は 1 点だが Noether でないスキーム」と例「反例:無限変数の多項式環」にある(どちらのスキームもアフィンなので、prop-locally-noetherian-scheme-equivalent により局所 Noether であることは環が Noether であることと同値であり、その環が Noether でないことが同記事で示されている)。1 行目は次の例で確かめる。

反例:局所環はすべて体だが局所 Noether でないスキーム

$k$ を体とし、$A:=\prod_{n\in\mathbb{N}}k$($k$ の可算無限個の直積環。演算は成分ごと)、$X:=\operatorname{Spec}A$ とする。

  1. $A$ は Noether 環でない。$I_m:=\{a\in A\mid n\ge m\text{ ならば }a_n=0\}$ とおくと、$I_0\subset I_1\subset\cdots$ はイデアルの昇鎖で、第 $m$ 成分だけが $1$ の元 $e_m$ は $I_{m+1}$ に属するが $I_m$ に属さないので、昇鎖は止まらない。prop-locally-noetherian-scheme-equivalent により、$X$ は局所 Noether でない。
  2. $X$ のすべての点 $\mathfrak{p}$ で、局所環 $A_{\mathfrak{p}}$ は体であり、とくに Noether 環である。

2 の確かめ:$a\in A$ に対し、$b\in A$ を $a_n\neq0$ なら $b_n:=a_n^{-1}$、$a_n=0$ なら $b_n:=0$ で定め、$e:=ab$ とおく。$e$ の各成分は $0$ か $1$ なので $e^2=e$(冪等元)であり、$ae=a$ である。局所環 $A_{\mathfrak{p}}$ の冪等元は $0$ か $1$ に限る($e(1-e)=0$ で、$e$ と $1-e$ の一方は極大イデアルに属さず単元なので、他方が $0$ になる)。$a/1$ が $A_{\mathfrak{p}}$ の極大イデアル $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ に属するとすると、$e/1=(a/1)(b/1)$ も極大イデアルに属するので $e/1\neq1$、したがって $e/1=0$ であり、$a/1=(a/1)(e/1)=0$ となる。よって $A_{\mathfrak{p}}$ の極大イデアルは $0$ であり、$A_{\mathfrak{p}}$ は体である。

この例は、満たす性質「すべての局所環が Noether 環」、満たさない性質「局所 Noether」を示し、含意「局所環がすべて Noether ならば局所 Noether」を破る。被約性は局所環で判定できる性質であるが(被約スキーム の記事の定理「被約性の同値条件」)、局所 Noether 性は、アフィン開集合ごとには判定できても局所環ごとには判定できない性質である。

性質

局所環と部分スキーム

局所環と部分スキームへの遺伝

$X$ を局所Noetherスキームとする。

  1. すべての点 $x\in X$ で、局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ は Noether 環である。
  2. $X$ の開部分スキームと閉部分スキームは局所 Noether である。
  3. $X$ の局所閉集合 $Z$ に局所閉部分スキームの構造(開集合 $U_Z=X\setminus(\overline{Z}\setminus Z)$ の閉部分スキームとしての構造)を入れたものは局所 Noether である。

1.$x$ を含むアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ をとり、$x$ に対応する素イデアルを $\mathfrak{p}$ とすると、$\mathcal{O}_{X,x}\cong A_{\mathfrak{p}}$ である(スキーム の記事の注意「アフィンスキームから使う事実」の 2)。prop-locally-noetherian-scheme-equivalent により $A$ は Noether 環であり、その局所化 $A_{\mathfrak{p}}$ は Noether 環である(Noether環 の記事の命題「局所化への遺伝」)。

2.Noetherスキーム の記事の命題「開部分スキームと閉部分スキーム」である。開部分スキームについては prop-locally-noetherian-scheme-equivalent の条件 (iv) からも直ちに分かり、閉部分スキームについては、アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の上で閉部分スキームが $\operatorname{Spec}A/I$ の形になり、Noether 環の剰余環 $A/I$ が Noether 環であることによる。

3.$Z$ は開集合 $U_Z$ の閉集合である(局所閉集合 の記事の命題「局所閉性の言い換え」)。2 により開部分スキーム $U_Z$ は局所 Noether であり、その閉部分スキーム $Z$ も 2 により局所 Noether である。$\square$

2・3 は Stacks Tag 02IK(Properties, Lemma 5.6)にある。1 の逆が成り立たないことは ex-locally-noetherian-scheme-product-of-fields で見た。

局所的に有限型の射

局所的に有限型なスキーム

$Y$ を局所Noetherスキーム、$f\colon X\to Y$ を局所的に有限型の射とすると、$X$ は局所 Noether である。とくに、体や $\mathbb{Z}$ の上で局所的に有限型なスキームは局所 Noether である。

$x\in X$ をとり、$f(x)$ のアフィン開近傍 $V=\operatorname{Spec}B$ と、$x$ のアフィン開近傍 $U=\operatorname{Spec}A\subset f^{-1}(V)$ で $A$ が $B$ 上有限生成な代数となるものをとる(局所的に有限型の射の定義)。$B$ は Noether 環なので(prop-locally-noetherian-scheme-equivalent)、Hilbert の基底定理により $A$ は Noether 環である(Noether環 の記事の系「有限生成代数」)。よって $x$ は Noether 環のスペクトルに同型な開近傍をもつ。$\square$

これは 有限型射 の記事の系「有限型スキームの Noether 性」の前半と同じ主張である。$\mathbb{Z}$ や体の上の「多項式で定まる図形」を貼り合わせたスキームはすべて局所 Noether であり、代数幾何学でふつうに扱うスキームはこの範囲に入る。

底空間の有限性

局所 Noether スキームの底空間は、各点の近くで Noether 位相空間になっている。この局所的な有限性から、既約成分や連結成分についての次の性質が従う。

底空間の局所的な有限性

$X$ を局所Noetherスキームとする。

  1. $X$ のアフィン開集合はすべて Noether 位相空間であり、とくに $X$ の各点は Noether 位相空間であるような開近傍をもつ。
  2. $X$ のアフィン開集合の任意の部分集合(とくに開部分集合)は準コンパクトである。したがって $X$ は準分離的である。すなわち、$X$ の任意の 2 つのアフィン開集合の共通部分は準コンパクトである。
  3. $X$ の既約成分の族は局所有限である。すなわち、$X$ の各点は、$X$ の有限個の既約成分としか交わらない開近傍をもつ。
  4. $X$ の各点は連結な開近傍をもつ。したがって $X$ の連結成分はすべて開集合であり、$X$ は連結成分の非交和(開部分スキームの非交和)である。

1.Noetherスキーム の記事の定理「Noetherスキームの底空間は Noether 位相空間」の 3 である(アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の $A$ は Noether 環で、$\operatorname{Spec}A$ の閉集合の降鎖は $A$ の根基イデアルの昇鎖に対応するので止まる)。

2.Noether 位相空間の任意の部分集合は準コンパクトである(Noetherスキーム の記事の補題「Noether 位相空間の基本性質」の 3)。2 つのアフィン開集合 $U,V$ の共通部分 $U\cap V$ は Noether 位相空間 $U$ の部分集合なので準コンパクトである。

3.$x\in X$ を含むアフィン開集合 $U$ をとる。1 により $U$ は Noether 位相空間なので、$U$ の既約成分は有限個である(既約成分 の記事の命題「Noether位相空間の既約分解」)。$X$ の既約成分のうち $U$ と交わるものは、$Z\mapsto Z\cap U$ によって $U$ の既約成分と 1 対 1 に対応する(既約成分 の記事の命題「開集合の既約成分」)ので、有限個である。

4.3 と同じ $U$ をとり、その既約成分を $Z_1,\dots,Z_n$ とする。$x$ を含まない $Z_i$ の和を $F$ とし、$W:=U\setminus F$ とおく。$F$ は $U$ の閉集合なので $W$ は $U$ の、したがって $X$ の開集合で、$x\in W$ である。$W=\bigcup_{x\in Z_i}(Z_i\cap W)$ であり、各 $Z_i\cap W$($x\in Z_i$)は既約な $Z_i$ の空でない開集合なので既約(既約空間 の記事の命題「既約性の同値条件」)、したがって連結である。これらはすべて $x$ を含むので、その和 $W$ は連結である(連結空間 の記事の命題「共通点をもつ族の和」)。

連結成分が開集合であることの詳細

$C$ を $X$ の連結成分とし、$y\in C$ とする。前段により $y$ は連結な開近傍 $W_y$ をもつ。$C\cup W_y$ は共通点 $y$ をもつ連結集合の和なので連結であり、連結成分 $C$ の極大性から $W_y\subset C$ である。よって $C=\bigcup_{y\in C}W_y$ は開集合である。連結成分は互いに交わらず $X$ を覆う(連結空間 の記事の命題「連結成分は閉であり空間を分割する」)ので、$X$ は開集合である連結成分の非交和であり、各連結成分に開部分スキームの構造を入れればスキームの非交和になる。$\square$

1 は Stacks Tag 01OZ(Properties, Lemma 5.5)、2 の準分離性は Stacks Tag 01OY(Properties, Lemma 5.4)と Vak25 Exercise 5.3.A、4 の「各点が連結な開近傍をもつ」(局所連結性)は Stacks Tag 04MF(Topology, Lemma 9.6)にある。準分離的な射の定義は 分離射 の記事の定義「準分離的な射の定義」にある。4 により、局所 Noether スキームについての多くの問題は連結な場合に帰着できる。

局所 Noether の仮定がなければ、たとえば 2 の前半は成り立たない。$\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\dots]$ から点 $(x_1,x_2,\dots)$ を除いた開集合は準コンパクトでない(Noetherスキーム の記事の命題「開部分スキームと閉部分スキーム」の後の説明)。

整スキームであることの局所的な判定

底空間の有限性を使うと、スキームが整であること(整スキーム)を「連結」という大域的な条件と「局所環が整域」という点ごとの条件に分けて判定できる。

連結性と局所環による整性の判定

$X$ を局所Noetherスキームとする。$X$ が整スキームであるための必要十分条件は、$X$ が空でなく連結であり、すべての点 $x\in X$ で局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ が整域であることである。

必要性:整スキームは既約なので空でなく連結であり、空でないアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の $A$ は整域である(整スキーム の記事の定理「整であることと被約かつ既約であること」)。点 $x$ の局所環は、$x$ を含むアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ での局所化 $A_{\mathfrak{p}}$ であり、整域の局所化は整域である。

十分性:整域は被約なので、すべての局所環が被約であり、$X$ は被約である(被約スキーム の記事の定理「被約性の同値条件」)。$X$ が既約であることを示せば、同じく 整スキーム の記事の定理により $X$ は整である。

点 $x\in X$ を含むアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ をとり、$x$ に対応する素イデアルを $\mathfrak{p}$ とする。$A$ は Noether 環なので $U$ の既約成分は有限個 $V(\mathfrak{q}_1),\dots,V(\mathfrak{q}_n)$ であり、$\mathfrak{q}_1,\dots,\mathfrak{q}_n$ は $A$ の極小素イデアルの全体である(極小素イデアル の記事の命題「極小素イデアルと既約成分」)。$x$ を含む既約成分は $\mathfrak{q}_i\subset\mathfrak{p}$ となる $V(\mathfrak{q}_i)$ であり、このような $\mathfrak{q}_i$ はちょうど 1 つである。

詳細

$A_{\mathfrak{p}}$ の素イデアルは、$\mathfrak{p}$ に含まれる $A$ の素イデアルと包含を保って 1 対 1 に対応する(局所化 の記事の定理「素イデアルの対応」)。$\mathfrak{p}$ に含まれる素イデアルのうち包含について極小なものは、$A$ の極小素イデアルでもある(それより小さい素イデアルもやはり $\mathfrak{p}$ に含まれるから)。したがって $\mathfrak{p}$ に含まれる極小素イデアル $\mathfrak{q}_i$ は、$A_{\mathfrak{p}}$ の極小素イデアルと 1 対 1 に対応する。$A_{\mathfrak{p}}$ は整域なので、その極小素イデアルは $(0)$ だけであり、$\mathfrak{q}_i\subset\mathfrak{p}$ となる $i$ はちょうど 1 つである。

その $i$ を $i_0$ とし、$W_x:=U\setminus\bigcup_{i\neq i_0}V(\mathfrak{q}_i)$ とおく。有限個の閉集合の和を除いたので $W_x$ は $X$ の開集合で、$x\in W_x\subset V(\mathfrak{q}_{i_0})$ である。$W_x$ は既約な $V(\mathfrak{q}_{i_0})$ の空でない開集合なので既約である(既約空間 の記事の命題「既約性の同値条件」)。

こうして $X$ は既約な開集合 $W_x$($x\in X$)で覆われる。$X$ は連結なので、既約空間 の記事の命題「開被覆による既約性の判定」の 2 により $X$ は既約である。$\square$

この定理は、Noetherスキームについての Vak25 Exercise 5.3.C と同じ主張であり、同所の説明のとおり局所 Noether スキームへ広げたものである。証明で Noether 性を使ったのは、$U$ の既約成分が有限個であることで、$x$ を含まない成分の和が閉集合になり、$W_x$ が開集合になるところである。Vak25 の同所は、この判定には何らかの Noether 性の仮定が必要であることを注意している。

有限生成と有限表示

有限生成加群は有限表示
  1. Noether 環 $A$ 上の有限生成加群 $M$ は有限表示である。すなわち、完全列 $A^{\oplus m}\to A^{\oplus n}\to M\to0$ が存在する。
  2. $X$ を局所Noetherスキームとし、$\mathcal{F}$ を準連接層とする。$\mathcal{F}$ が有限型(各点の近くで有限個の切断で生成される)であることと、各アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の上で有限表示の $A$ 加群から来ることは同値である。

1.$M$ の生成元 $m_1,\dots,m_n$ により全射 $\varphi\colon A^{\oplus n}\to M$ をとる。$A^{\oplus n}$ は有限生成 $A$ 加群なので、その部分加群 $\ker\varphi$ は有限生成である(Noether環 の記事の命題「Noether加群との関係」の 2)。$\ker\varphi$ の生成元 $k_1,\dots,k_m$ で $A^{\oplus m}\to A^{\oplus n}$ を定めれば、求める完全列が得られる。

2.局所 Noether スキームの上では、準連接層が有限型であることと、各アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の上で有限生成 $A$ 加群 $M$ により $\widetilde{M}$ と書けることは同値である(連接層 の記事の定理「Noether スキーム上の連接層の特徴づけ」)。$A$ は Noether 環なので(prop-locally-noetherian-scheme-equivalent)、1 によりこの $M$ は有限表示である。逆に有限表示の加群は有限生成である。$\square$

一般の環では、有限生成加群は有限表示とは限らない(有限表示加群 の記事の例「反例:有限生成だが有限表示でない加群」)。局所 Noether スキームの上で「連接層=有限型の準連接層」と簡単に言えるのは、この命題のおかげである。同じ理由で、局所 Noether スキームへの局所的に有限型の射は局所的に有限表示である(有限型射 の記事の命題「Noether 底上の有限型射は有限表示」)。

閉点の存在

局所 Noether スキームの閉点

空でない局所Noetherスキームは閉点をもち、さらに空でない閉集合はどれも閉点を含む。言い換えると、局所 Noether スキームのどの点も、ある閉点へ特殊化する(Stacks Tag 02IL(Properties, Lemma 5.9)。証明は局所環の次元の議論を使うので、この記事では述べない)。

この性質は底空間の位相だけからは出てこない。自然数全体 $\{1,2,3,\dots\}$ に、$\emptyset$、$\{1,\dots,n\}$($n\ge1$)、全体を開集合とする位相を入れると、各点は Noether 位相空間である開近傍 $\{1,\dots,n\}$ をもつが、閉点をもたない(点 $n$ の閉包は $\{n,n+1,\dots\}$)。したがってこの位相空間は、どんな局所Noetherスキームの底空間にもならない(Stacks Tag 02HZ(Topology, Example 9.5))。

注意

局所 Noether の仮定が使われる場面

代数幾何学の多くの記事で「$X$ を局所Noetherスキームとする」という仮定が置かれる。仮定の役割は、ほとんどの場合、アフィン開集合ごとの環が Noether 環であることを使って「有限生成」を「有限表示」や「連接」に言い換えることにある(prop-locally-noetherian-scheme-finite-presentation)。主な場面を並べる。

記事局所 Noether の仮定のもとで述べられていること
連接層連接層であることと、有限型の準連接層であることと、アフィン開集合ごとに有限生成加群から来ることが同値(定義「Noetherスキーム上の連接層」)
有限型射局所 Noether スキームへの局所的に有限型の射は局所的に有限表示(命題「Noether 底上の有限型射は有限表示」)
エタール射底が局所 Noether なら、エタール射は局所的に有限型・平坦・不分岐な射(定義「エタール射の定義」)
局所自由層階数有限の局所自由層は連接層(命題「階数の局所定数性と連接性」の 2)
固有射固有射による連接層の高次順像は連接(定理「固有射による連接層の押し出し」)
アフィン射固有かつアフィンな射は有限射(命題「固有かつアフィンな射は有限射」)
Cartier双対有限局所自由な群スキームは有限かつ平坦な群スキームと同じ(定義「有限局所自由な可換群スキーム」)
形式スキーム閉部分集合に沿った完備化が局所 Noether な形式スキームになる(命題「完備化は局所 Noether 形式スキームである」)

大域的な有限性(準コンパクト性)が要る主張、たとえば既約成分や連結成分が有限個であることや Noether 帰納法には、局所 Noether ではなく Noetherスキーム の仮定が必要である(ex-locally-noetherian-scheme-disjoint-union)。

Noetherスキームとの比較

局所NoetherスキームNoetherスキーム
定義Noether 環のスペクトルで覆えるさらに有限個で覆える(準コンパクト)
アフィン開集合の環すべて Noether 環すべて Noether 環
底空間各点の近くで Noether 位相空間Noether 位相空間
既約成分局所有限有限個
連結成分開集合開集合で有限個
開集合の準コンパクト性アフィン開集合の中の開集合は準コンパクトすべての開集合が準コンパクト
例$\coprod_{n\ge1}\mathbb{A}^n_k$$\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}$、$\mathbb{A}^n_k$
表の各行の確かめを開く

局所Noetherスキームの列は prop-locally-noetherian-scheme-equivalent、prop-locally-noetherian-scheme-topology、ex-locally-noetherian-scheme-disjoint-union による。Noetherスキームの列は Noetherスキーム の記事の定理「局所 Noether スキームのアフィン開集合」、定理「Noetherスキームの底空間は Noether 位相空間」、系「既約成分の有限性」、補題「Noether 位相空間の基本性質」の 3 による。Noetherスキームの連結成分が有限個であることは、各連結成分が有限個の既約成分の和であること(既約成分は連結なので 1 つの連結成分に含まれる)から従う。

関連項目

参考文献

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