Burnsideのp^a q^b定理

同義語:Burnside's p^a q^b theoremBurnside p^a q^b theorem

概要

Burnsideの$p^a q^b$定理(Burnside's $p^a q^b$ theorem)とは、相異なる素数 $p,q$ と非負整数 $a,b$ に対し、位数 $p^a q^b$ の有限群は必ず可解群になるという定理である。核心は、この位数をもつ非可換単純群が存在しないことであり、正規部分群と剰余群への帰納によって可解性が従う。$S_3$ や $A_4$ のような非可換群も対象となるため、結論は可換性や群の分類ではない。三種類の素数を許すと、位数60の非可解単純群 $A_5$ が現れる。群作用の軌道数公式であるBurnsideの補題とは別の結果である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有限群, 正規部分群, 剰余群, 可解群

定理の主張

可解群の記法

群 $G$ の導来列を
$$ G^{(0)}:=G, \qquad G^{(n+1)}:=[G^{(n)},G^{(n)}] $$
で定める。ある $r\geq0$ について $G^{(r)}=\{e\}$ となるとき、$G$ を 可解群(solvable group)という。

Burnsideの非単純性定理

$p,q$ を相異なる素数、$a,b$ を正整数とする。位数 $p^a q^b$ の有限群は非可換単純群ではない。

出典と証明の境界

この非単純性定理が Burnside の定理の核心であり、複素指標と代数的整数を用いる証明は JL01 Chapter 31, pp. 361–366 にある。本記事ではその長い指標論的証明を再掲せず、非単純性から可解性を導く群論的な帰納部分を完全に証明する。原典の主張を本記事内で証明したものとして扱わない。

Burnsideのp^a q^b定理

$p,q$ を相異なる素数、$a,b$ を非負整数とする。位数
$$ |G|=p^a q^b $$
の有限群 $G$ は可解群である。この主張を Burnsideの$p^a q^b$定理(Burnside's $p^a q^b$ theorem)という。

$|G|$ に関する帰納法を用いる。$|G|=1$ なら明らかである。一方の指数が $0$ なら $G$ は有限 $p$-群または有限 $q$-群であり、後で完全に証明する命題により可解である。
$a,b>0$ とする。$G$ が単純群なら、上の非単純性定理により非可換ではあり得ない。単純な有限アーベル群は素数位数の巡回群であるから可解である。$G$ が単純でなければ、非自明な真の正規部分群 $N\trianglelefteq G$ が存在する。Lagrange の定理により
$$ |N|=p^{a_1}q^{b_1}, \qquad |G/N|=p^{a-a_1}q^{b-b_1} $$
となる非負整数 $a_1,b_1$ があり、$N$ と $G/N$ の位数はいずれも $|G|$ より小さい。帰納法の仮定により $N$ と $G/N$ は可解である。後述の拡大に関する命題から $G$ も可解である。

直感

位数に二種類の素数しか現れないことは、有限群の構造に強い制約を与える。しかし結論は「巡回群」「アーベル群」ではなく、より広い「可解群」である。例えば $S_3$ は位数 $2\cdot3$ で非可換だが可解である。
定理の核心は、位数 $p^a q^b$ の非可換単純群が存在しないことである。単純でなければ正規部分群と剰余群へ分解でき、両者は再び二素数型の位数をもつ。これを繰り返すと、すべての単純な商因子が素数位数の巡回群になり、可解性が得られる。

証明に用いる基本事実

可解群の拡大は可解である

$N\trianglelefteq G$ とする。$N$ と $G/N$ が可解群なら $G$ も可解群である。

自然な全射 $\pi\colon G\to G/N$ は交換子を交換子へ写すので、すべての $r\geq0$ について
$$ \pi(G^{(r)})=(G/N)^{(r)} $$
が帰納的に成り立つ。$G/N$ が可解だから、ある $r$ について $(G/N)^{(r)}=\{N\}$ であり、従って $G^{(r)}\subset N$ である。$N$ も可解だから、ある $s$ について $N^{(s)}=\{e\}$ となる。部分群 $H\subset N$ なら $H^{(s)}\subset N^{(s)}$ なので
$$ G^{(r+s)}=(G^{(r)})^{(s)}\subset N^{(s)}=\{e\}. $$
従って $G$ は可解である。

有限p群は可解である

$p$ を素数とする。位数が $p$ の冪である有限群は可解群である。

まず、非自明な有限 $p$-群 $P$ の中心が非自明であることを示す。$P$ が自分自身へ共役で作用するとき、共役類の大きさは中心化群の指数だから $p$ の冪である。中心に属さない元の共役類の大きさは $p$ で割り切れる。類等式
$$ |P|=|Z(P)|+\sum_i |\mathcal C_i| $$
を $p$ を法として見ると $|Z(P)|\equiv|P|\equiv0\pmod p$ である。単位元は中心に属するので $|Z(P)|\geq p$、従って $Z(P)\neq\{e\}$ である。
$|P|$ に関する帰納法を用いる。$|P|=1$ なら明らかである。$P\neq\{e\}$ なら $Z(P)$ は非自明なアーベル正規部分群であり可解である。また $P/Z(P)$ は位数が真に小さい $p$-群だから帰納法により可解である。拡大に関する直前の命題により $P$ は可解である。

位数pqの群

$p< q$ を素数とする。位数 $pq$ の群は可解である。

Sylow の定理より Sylow $q$-部分群の個数 $n_q$ は $p$ を割り、かつ $n_q\equiv1\pmod q$ を満たす。$p< q$ だから、この二条件を満たすのは $n_q=1$ だけである。従って Sylow $q$-部分群 $Q$ は正規部分群である。$Q$ は位数 $q$、$G/Q$ は位数 $p$ の巡回群なので、ともにアーベル、従って可解である。拡大に関する命題より $G$ は可解である。

例

3次対称群

$S_3$ の位数は $6=2\cdot3$ である。$A_3\trianglelefteq S_3$ は位数 $3$ の巡回群であり、$S_3/A_3$ は位数 $2$ の巡回群である。従って $S_3$ は可解である。一方、二つの互換は一般に可換でないので $S_3$ はアーベル群ではない。これは Burnside の定理の結論を「アーベル群」へ強められない例である。

4次交代群

$A_4$ の位数は $12=2^2\cdot3$ である。単位元と三つの二重互換からなる Klein の四元群 $V_4$ は $A_4$ の正規部分群で、$A_4/V_4$ は位数 $3$ の巡回群である。$V_4$ もアーベル群だから、拡大に関する命題により $A_4$ は可解である。

位数72の非可換群

$S_3\times A_4$ の位数は
$$ 6\cdot12=72=2^3 3^2 $$
である。直積の導来群は成分ごとの導来群の直積
$(H\times K)^{(r)}=H^{(r)}\times K^{(r)}$ だから、可解群の直積は可解である。従ってこの群は可解であるが非可換である。二素数型の群でも構造は一種類に決まらず、定理は分類定理ではない。

位数21952の場合の初等的証明

一般の Burnside の定理には指標論が必要になるが、特定の位数
$$ 21952=2^6\cdot7^3 $$
については、Sylow部分群の交叉と小次数の置換表現だけで非単純性を示せる。次の補題が交叉の大きさを制御する。

Sylow部分群の最大交叉

$P,Q$ を有限群 $G$ の相異なる Sylow $p$-部分群のうち、$|P\cap Q|$ が最大となるものとする。$D:=P\cap Q$ とおけば
$$ n_p(G)\equiv1\pmod{[P:D]} $$
が成り立つ。

$P$ を Sylow $p$-部分群全体の集合へ共役で作用させる。$P$ 自身は固定点である。別の Sylow $p$-部分群 $R$ の安定化群は
$$ P\cap N_G(R) $$
である。この群は $R$ を正規化する $p$-群なので、$(P\cap N_G(R))R$ は $p$-部分群である。$R$ の Sylow 性から
$$ P\cap N_G(R)\subset R, $$
従って $P\cap N_G(R)\subset P\cap R$ である。$D$ の最大性により
$$ |P\cap N_G(R)|\leq|D|. $$
これらの位数はすべて $p$ の冪だから、$R\neq P$ の軌道の大きさ
$$ [P:P\cap N_G(R)] $$
は $[P:D]$ の倍数である。また $P$ 以外に固定点があれば、上の包含で $P\subset R$ となり、Sylow部分群の位数が等しいことから $P=R$ となって矛盾する。従って一つの固定点 $P$ と、いずれも大きさが $[P:D]$ の倍数である軌道とに分解されるので、主張の合同式を得る。

p群の指数p部分群

有限 $p$-群 $P$ の指数 $p$ の部分群は $P$ の正規部分群である。

$H\subset P$ を $[P:H]=p$ とし、$P$ の左剰余類への作用から準同型
$$ \varphi\colon P\longrightarrow S_p $$
を得る。像は推移的な $p$-部分群である。$p!$ に含まれる素因子 $p$ の個数は一つなので、$|\operatorname{Im}\varphi|$ は $p$ 以下である。一方、推移的な作用の軌道の大きさ $p$ は像の位数を割るから、$|\operatorname{Im}\varphi|=p$ である。従って核の指数は $p$ である。核は $H$ に含まれ、両者の指数が等しいので $H=\ker\varphi$、従って $H\trianglelefteq P$ である。

位数21952の群は単純でない

位数 $21952=2^6\cdot7^3$ の有限群は単純群ではない。

$|G|=2^6\cdot7^3$ とする。Sylow の定理により、Sylow $7$-部分群の個数は $64$ の約数で $7$ を法として $1$ に合同だから
$$ n_7(G)\in\{1,8,64\} $$
である。$n_7(G)=1$ なら唯一の Sylow $7$-部分群が非自明な真の正規部分群なので、$G$ は単純でない。
$n_7(G)\neq1$ とする。相異なる Sylow $7$-部分群 $S,T$ を、$|S\cap T|$ が最大となるように選び、$D:=S\cap T$ とおく。最大交叉補題より
$$ n_7(G)\equiv1\pmod{[S:D]}. $$
$S\neq T$ だから $[S:D]$ は $7,49,343$ のいずれかである。$n_7(G)-1$ は $7$ または $63$ なので、これを割る可能性があるのは $[S:D]=7$ だけである。従って $|D|=7^2=49$ である。
$D$ は $S$ と $T$ の双方で指数 $7$ だから、直前の補題により双方の正規部分群である。従って
$$ H:=N_G(D) $$
は $S$ と $T$ を含む。$S,T$ は $H$ の相異なる Sylow $7$-部分群なので、Sylow の定理から $n_7(H)\geq8$ である。さらに
$$ n_7(H)=[H:N_H(S)], \qquad S\subset N_H(S) $$
だから
$$ |H|\geq8|S|=2^3\cdot7^3, \qquad [G:H]\leq8. $$
$H=G$ なら $D\trianglelefteq G$ であり、$1<|D|<|G|$ だから $G$ は単純でない。$H< G$ とする。$G$ の右剰余類 $H\backslash G$ への右作用は非自明であり、準同型
$$ \varphi\colon G\longrightarrow S_{[G:H]} $$
を与える。もし $G$ が単純なら、非自明な作用の核は $G$ ではあり得ず、正規部分群なので自明である。従って $G$ は $S_{[G:H]}$ へ埋め込まれる。しかし $[G:H]\leq8$ である一方、$8!$ は素因子 $7$ を一つしか含まないので
$$ 7^3\nmid [G:H]!, $$
これは Lagrange の定理に反する。従って $G$ は単純でない。

この特殊証明は一般の $p^a q^b$ 定理を使わず、位数の具体的な指数に依存している。一般定理からはさらに、この位数の群がすべて可解であることも直ちに従う。

仮定と結論の境界

三種類の素数を許すと結論は破れる

$A_5$ の位数は
$$ 60=2^2\cdot3\cdot5 $$
で、$A_5$ は非可換単純群である(DF04 §4.6)。非可換だから交換子群は非自明であり、単純性から $[A_5,A_5]=A_5$ となる。従って導来列は自明群へ到達せず、$A_5$ は可解でない。これは位数に現れる素数を二種類から三種類へ増やすと、「必ず可解」という結論が破れることを示す。

逆は成り立たない

位数 $30=2\cdot3\cdot5$ の巡回群はアーベル群、従って可解群であるが、位数は $p^a q^b$ の形ではない。したがって「可解なら位数に現れる素数は高々二種類」という逆向きの含意は成り立たない。

Burnsideの補題との区別

有限群の集合への作用について軌道数を
$$ \frac1{|G|}\sum_{g\in G}|\operatorname{Fix}(g)| $$
で数える公式は、しばしば Burnsideの補題と呼ばれる。これは本記事の $p^a q^b$ 定理とは別の主張である。さらに Burnside の基底定理、Burnside 問題、Burnside 環もそれぞれ異なる主題である。「Burnsideの定理」という旧題名だけでは曖昧なので、本記事では対象を題名に明記した。

何が分かり、何が分からないか

Burnside の定理は、二素数型の位数をもつ有限群が、アーベル群を商因子とする有限段の正規列へ分解できることを保証する。しかし、群の同型型、Sylow 部分群の配置、冪零性、導来長を一意に決めるものではない。具体的な群を分類するには、Sylow の定理、群作用、群拡大、場合によっては群コホモロジーがさらに必要になる。

関連項目

前提となる概念

  • 可解群:定理の結論であり、導来列が有限段で自明になる群である。
  • Sylowの定理:位数 $pq$ の場合や有限群の局所構造を調べる。
  • 正規列:可解性を商因子によって記述する。

比較する定理

  • Burnsideの補題:群作用の軌道数を固定点数から数える別の結果である。
  • Feit–Thompsonの定理:奇数位数の有限群が可解であることを述べる、別方向の一般化である。

発展

  • 有限群の指標理論:Burnside の定理の古典的証明を与える。
  • 群拡大:正規部分群と剰余群から群を組み立て、可解性を伝える。
  • 有限単純群:非可解有限群の組成因子として現れる。

参考文献

[1]
Gordon James, Martin Liebeck, Representations and Characters of Groups, 2nd ed., Cambridge University Press, 2001, Chapter 31, pp. 361–366(Burnsideの定理の指標論的証明)
[2]
David S. Dummit, Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §4.6(A_5の単純性)、§6.1(有限p群と可解群)

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