特異点(singular point)とは、スキームの点で局所環が正則でない点である。複素数上有限型のスキームでは、その点の接空間の次元が局所次元より大きいことで検出でき、閉点では方程式の Jacobi 行列から判定できる。節点、尖点、非被約な二重直線を比較すると違いがわかる。正標数の不完全体では、局所環の正則性と基礎体上の滑らかさが一致しないことがある。
前提知識: スキーム, 局所環, Zariski接空間, 正則局所環
平面曲線 $y^2=x^3$ の原点は尖って見える。この「尖り」を絵に頼らず定義するには、点の近くの関数がつくる局所環を調べる。代数幾何での特異点(singular point)は、局所環が正則でない点である。複素数上で有限型のスキームを扱うとき、この条件はその点で複素多様体のように滑らかでないことと一致する(Sta04QM Lemma 33.25.8)。
この記事では複素数体上の有限型スキームを主な対象にし、閉点での判定を中心にする。Zariski接空間は一次方向そのものを、正則局所環は環論的な判定条件を扱う。ここでは、それらを組み合わせてどの点が特異かを決め、節点・尖点・非被約な点で何が異なるかを計算する。代数曲線の記事の個別の曲線や複素解析空間の記事の解析的局所模型とは、点ごとの判定という役割を分ける。
解析で「$1/z$ は $z=0$ に極を持つ」と言うときの特異点は、関数の特異点である。ここでいう特異点は空間自体の特異点であり、両者を混同しない。例えば滑らかなアフィン直線の上でも、有理関数 $1/t$ は原点に極を持つが、アフィン直線の原点は滑らかな点である。
$X$ を複素数体 $\mathbb C$ 上局所有限型のスキーム、$x\in X$ を点とする。局所環を $A=\mathcal O_{X,x}$、その極大イデアルを $\mathfrak m_x$、剰余体を $\kappa(x)$ と書く。有限型の局所環は Noether 環なので、$\mathfrak m_x/\mathfrak m_x^2$ は有限次元の $\kappa(x)$ ベクトル空間である。
$x$ を正則点(regular point)というのは
$$
\dim_{\kappa(x)}\mathfrak m_x/\mathfrak m_x^2=\dim\mathcal O_{X,x}
$$
が成り立つときである。成り立たない点を 特異点 という。左辺は局所環の埋め込み次元、右辺は Krull 次元である。特異点の集合を $\operatorname{Sing}(X)$、正則点の集合を $\operatorname{Reg}(X)$ と書く。
一般の Noether 局所環では埋め込み次元は Krull 次元以上であり、等号が正則局所環の条件である。従って特異点では左辺が厳密に大きい。閉点 $x$ なら $\kappa(x)=\mathbb C$ なので、左辺は Zariski 接空間の複素次元に等しい。ただし一般点で局所環からつくる $\mathfrak m_x/\mathfrak m_x^2$ の双対を、体 $\mathbb C$ に相対的な接空間と無条件に同一視してはいけない。例えば $\mathbb A^1_{\mathbb C}$ の一般点の局所環は $\mathbb C(t)$ で極大イデアルは零だが、$\Omega_{\mathbb C(t)/\mathbb C}$ には $dt$ が残る。ここでは点の正則性を局所環で定義し、Jacobi 行列での接空間の計算は閉点に限って行う(Sta0C2G)。
「滑らか」は構造射 $X\to\operatorname{Spec}\mathbb C$ に対する条件であり、「正則」は局所環の条件である。有限型の複素スキームでは両者は同じ点集合を指定するが、言葉の定義は異なる。$\mathbb C$ は完全体なので Stacks の滑らかさと正則性の比較が適用できる。基礎体を任意の体に替えた場合の注意は後で述べる(Sta04QM)。
$X=\mathbb A^1_{\mathbb C}=\operatorname{Spec}\mathbb C[t]$ はどの点でも正則である。一方、有理関数 $1/t$ は閉点 $(t)$ で正則関数として定義されない。
閉点 $(t-a)$ の局所環 $\mathbb C[t]_{(t-a)}$ は1次元で、極大イデアルは $t-a$ の一元で生成される。従って $\mathfrak m/\mathfrak m^2$ も1次元であり、この点は正則である。一般点 $(0)$ の局所環は体 $\mathbb C(t)$ なので、Krull 次元も埋め込み次元も零である。したがって全点が正則である。他方、$1/t$ は $\mathbb C[t]_{(t)}$ に含まれない。分母 $t$ は $(t)$ に属し、局所化で単元にならないからである。$\square$
$X=\operatorname{Spec}A\subset\mathbb A^n_{\mathbb C}$ を閉部分スキームとし、$A=\mathbb C[x_1,\ldots,x_n]/I$、$I=(f_1,\ldots,f_r)$ と表示する。閉点 $a=(a_1,\ldots,a_n)$ は全ての $f_i(a)=0$ を満たす。Jacobi 行列を
$$
J(a)=\left(\frac{\partial f_i}{\partial x_j}(a)\right)_{1\le i\le r,\,1\le j\le n}
$$
とする。生成元を別に選ぶと行列は変わるが、その点で得られる接空間と階数は変わらない。接ベクトル $v=(v_1,\ldots,v_n)$ は各方程式を一次まで満たす方向であり、$J(a)v=0$ を満たす(Sta00TQ Lemmas 10.140.1–2)。
上の仮定のもとで、閉点 $a$ の Zariski 接空間は $\ker J(a)$ であり、その次元は $n-\operatorname{rank}J(a)$ である。従って
$$
a\in\operatorname{Reg}(X)\quad\Longleftrightarrow\quad n-\operatorname{rank}J(a)=\dim\mathcal O_{X,a}.
$$
特に $X$ が $a$ の近くで余次元 $c$ の完全交叉であれば、正則性は $\operatorname{rank}J(a)=c$ と同値である。$I$ に冗長な生成元が含まれていても、必要なのは行数そのものではなく階数 $c$ である。
$x_j=a_j+h_j$ と置き、$h_j$ の二次以上の項を捨てる。$f_i(a)=0$ だから、$f_i$ の一次項は $\sum_j(\partial f_i/\partial x_j)(a)h_j$ である。従って $\mathbb C[x_1,\ldots,x_n]$ の極大イデアル $\mathfrak n=(x_1-a_1,\ldots,x_n-a_n)$ を使うと、商局所環の $\mathfrak m/\mathfrak m^2$ は $\mathfrak n/\mathfrak n^2\cong\mathbb C^n$ を、$I$ の一次項の張る部分空間で割ったものになる。双対をとると接空間は $J(a)$ の核であり、次元は階数・退化次数の公式から $n-\operatorname{rank}J(a)$。定義の等式と合わせれば正則性の判定式が得られる。近くで余次元 $c$ の完全交叉なら局所次元は $n-c$ なので、等式は $\operatorname{rank}J(a)=c$ となる。$\square$
方程式が一つの非零多項式 $f$ で、点の近くの局所次元が $n-1$ なら、$\nabla f(a)\ne0$ が滑らかさの条件である。全ての偏導関数が零なら接空間は $n$ 次元に膨らみ、その点は特異である。ただし $f=0$ が空間全体の方程式になったり、複数方程式が互いに従属したりする場合には、「偏導が一つでも非零」という単純な言い方は適用できない。局所次元と Jacobi 行列の階数を比較する形に戻る必要がある。
まず滑らかな基準例として放物線 $P=V(y-x^2)\subset\mathbb A^2_{\mathbb C}$ をとる。勾配は $(-2x,1)$ で常に零にならない。$P\cong\mathbb A^1_{\mathbb C}$ だから、全ての点で局所環は正則である。同じ平面曲線でも、節点と尖点では原点で勾配が零になる。どちらも接空間は2次元に膨らむが、最低次の項を見ると幾何が異なる。
節点の例を $N=V(y^2-x^2-x^3)$、尖点の例を $C=V(y^2-x^3)$ とし、ともに原点 $o=(0,0)$ を考える。$N$ の Jacobi 行列は $(-2x-3x^2,2y)$、$C$ のそれは $(-3x^2,2y)$ である。原点ではどちらも零行列なので $\dim_{\mathbb C}T_oN=\dim_{\mathbb C}T_oC=2$。両曲線の原点での局所次元は1であるから、原点は特異点である。一方、最低次数の非零な斉次項は節点では $y^2-x^2=(y-x)(y+x)$、尖点では $y^2$ となる。前者は異なる二本の接方向、後者は重なった一本の接方向を示す。
$C$ では偏導がともに零となるのは $x=y=0$ だけである。$N$ では $2y=0$ と $-2x-3x^2=-x(2+3x)=0$ から候補は $(0,0)$ と $(-2/3,0)$。後者を方程式に代入すると $-4/9+8/27=-4/27\ne0$ なので $N$ 上にない。従って両曲線の特異点集合は原点だけである。各曲線は平面内の非零な一方程式で切られ、原点の局所次元は1である。原点で Jacobi 行列の階数は零、他の点では1だから、前節の判定により主張が従う。$\square$
節点で二本の接方向があることは、二本の代数的な大域成分に分解するという意味ではない。$1+x$ は原点近くの複素解析では平方根を持ち、$y^2=x^2(1+x)$ は局所的に二枝へ分かれる。しかし $y^2-x^2-x^3$ が $\mathbb C[x,y]$ で二つの因子に分かれるわけではない。正規化では節点の上に二点、尖点の上に一点が現れるという別の見方を扱う。接空間の次元2という数だけでは両者を区別できないため、最低次の斉次項や局所環のさらに高次の情報を見る。
次に $D=V(y^2)\subset\mathbb A^2_{\mathbb C}$ を考える。台集合は直線 $L=V(y)$ と同じである。ところが $D$ の座標環 $\mathbb C[x,y]/(y^2)$ には、零でない冪零元 $y$ の像が残る。点集合を描くだけでは、この違いは見えない。
$D=V(y^2)$ の任意の閉点 $(a,0)$ は特異点である。これに対し、被約な直線 $L=V(y)$ の全ての点は正則である。
$D$ の方程式の Jacobi 行列は $(0,2y)$ で、台集合上の全点 $(a,0)$ で階数零となる。そのため接空間は2次元である。局所環の Krull 次元は、冪零元を除いた $\mathbb C[x]$ の対応する局所環と同じく1次元だから、正則性の等式は成り立たない。対して $L$ の Jacobi 行列は $(0,1)$ で常に階数1、接空間次元は局所次元と同じ1である。$\square$
二重直線の特異性は、交点や尖りがあるからではない。台集合はまっすぐな線だが、非被約な構造が全点で正則性を壊している。さらに小さい例 $\operatorname{Spec}\mathbb C[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ では、台集合は一つの点で局所次元は零、極大イデアル $(\varepsilon)$ の商 $(\varepsilon)/(\varepsilon^2)$ は1次元なので、その唯一の点は特異である。この例は「集合としての次元」と「無限小の方向」を分けて測る意義を示す。
| 空間と点 | 局所次元 | 接空間次元 | 一次方向と判定 |
|---|---|---|---|
| $V(y-x^2)$ の原点 | 1 | 1 | 一本、正則 |
| $V(y^2-x^2-x^3)$ の原点 | 1 | 2 | 異なる二本、特異 |
| $V(y^2-x^3)$ の原点 | 1 | 2 | 重なった一本、特異 |
| $V(y^2)$ の任意の閉点 | 1 | 2 | 冪零元を含み、特異 |
一つの点だけを判定するだけでなく、空間全体で滑らかな部分と特異な部分を分けられる。複素数上局所有限型の被約スキームでは、正則点は稠密な開部分をなし、特異点集合は真の閉部分集合となる(Sta04QM Lemma 33.25.8)。既約な代数曲線では、有限型であれば特異点は有限個である。これは特異点が閉集合であり、正則点が稠密なので曲線全体にはなれず、曲線の真の閉集合は有限点だからである。
この主張の「被約」は大切である。二重直線 $V(y^2)$ の滑らかな部分は空で、特異点は全体である。被約性を落としたまま「特異点は少数の例外」とは言えない。一方、被約な空間でも次元が高ければ、特異集合は正の次元を持ち得る。例えば $V(xy)\subset\mathbb A^3_{\mathbb C}$ は二枚の平面の和であり、交線 $V(x,y)$ の全点が特異である。交線の閉点では接空間が3次元、局所次元は2であるが、交線の一般点では両方の次元が一つ下がる。以下で局所環も調べる。
$X=V(xy)\subset\mathbb A^3_{\mathbb C}$ では、特異点集合は二平面の交線 $V(x,y)$ に等しい。
交線の閉点は $(x,y,z-a)$($a\in\mathbb C$)である。ここでは偏導行列 $(y,x,0)$ が零なので埋め込み次元は3、二枚の平面の交わる場所で局所次元は2であり、特異である。交線の一般点は素イデアル $(x,y)$ に対応する。その局所環は $\mathbb C(z)[x,y]_{(x,y)}/(xy)$ と同型で、極大イデアル $(x,y)$ の一次部分は $x,y$ の二つの像を基底とするから埋め込み次元は2である。一方、$xy=0$ で切ったこの局所環の Krull 次元は1なので、やはり特異である。交線外の点では $x$ または $y$ が可逆になる。$x$ が可逆な開集合 $D(x)$ では $y=0$ となり、座標環は $\mathbb C[x,x^{-1},z]$ である。$D(y)$ も同様に正則なアフィン平面の開部分だから、交線外には特異点がない。$\square$
高次元ではこのように特異集合自体が正の次元を持ち得る。「特異点」は孤立した一点を指すとは限らない。また、交わる二成分の例は被約でも局所環が正則でなくなることを示す。非被約性、複数の枝、尖点は別々の原因であり、Jacobi 行列はそれらをまず検出し、詳しい型の分類にはさらに情報が必要になる。
複素数体は完全体なので、有限型の複素スキームで正則点と基礎体上滑らかな点は一致する。この同値を任意の体へ移してはいけない。標数 $p>0$ の不完全体では、局所環が体で正則でも、基礎体上は滑らかでない例がある(Sta04QM、Sta00TQ)。
$k=\mathbb F_p(s)$ とし、$s$ を不定元とする。$K=k[t]/(t^p-s)$ は $k$ の次数 $p$ の純非分離な体拡大である。$X=\operatorname{Spec}K$ の唯一の局所環は体なので正則である。しかし $X\to\operatorname{Spec}k$ は滑らかでない。$k'=k(s^{1/p})$ に基礎体を拡大すると、$K\otimes_k k'\cong k'[t]/((t-s^{1/p})^p)$ となり、非被約だからである。
$s$ は $\mathbb F_p(s)$ の $p$ 乗でない。実際、$s=0$ における有理関数の零点の位数は $s$ では1だが、$p$ 乗では必ず $p$ の倍数になる。従って $t^p-s$ は $k[t]$ 上既約で、商 $K$ は体となる。したがって $\operatorname{Spec}K$ の局所環は次元零の正則局所環である。一方 $k'$ で $t^p-s=(t-s^{1/p})^p$。基礎体拡大後の座標環には、零でない冪零元 $t-s^{1/p}$ がある。体上滑らかなスキームは任意の体拡大後も滑らかで、特に被約であるから、この $X$ は $k$ 上滑らかでない。$\square$
この例では $X$ の唯一の点を、この記事の局所環による定義では特異点と呼ばない。対して、構造射の非滑らか点としては挙がる。Jacobi 行列を単に $\partial(t^p-s)/\partial t=0$ と計算して「局所環が非正則」と結論するのは誤りである。$k$ 上の相対的な接空間と局所環の $\mathfrak m/\mathfrak m^2$ の次元が、この純非分離な剰余体では異なるためである。正則性と滑らかさを混ぜないことが、正標数の例を読むうえで重要になる。
特異点を調べる順序は、まず基礎体、方程式が定めるスキーム、調べる点とその局所次元を確定し、次に Jacobi 行列で閉点の接空間次元を計算する、というものである。局所次元との不一致は特異性を示す。節点・尖点の区別には最低次数の項、枝、正規化などをさらに使い、非被約構造には冪零元の有無を見る。接空間の数値一つで型が全て分かるわけではない。
特異な点を滑らかにする操作を考える際にも、この判定は出発点となる。正規化は特異曲線を正則にするが、高次元では正規化後も特異点が残り得る。特異点解消は、変更後の空間の正則性を目標にする。いずれも元の空間と変更後の空間を混同せず、どの局所環について正則性を判定しているかを明示する必要がある。
本文の判定と主張の仮定を一つずつ外した反例を並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 被約(特異点集合は真の閉集合) | 二重直線 $V(y^2)$ | 正則点が稠密な開集合をなす |
| 次元 $1$ と既約(既約曲線の特異点は有限個) | $V(xy)\subset\mathbb A^3_{\mathbb C}$ | 特異点集合が有限 |
| 方程式の個数と余次元の取り違え(prop-singular-jacobian の注意) | $V(xy,xz)\subset\mathbb A^3_{\mathbb C}$(平面と直線の和) | 正則 $\Leftrightarrow$ $\operatorname{rank}J(a)=$ 方程式の個数 |
| 基礎体が完全(正則 ⇒ 滑らか) | $k=\mathbb F_p(s)$ 上の $\operatorname{Spec}k[t]/(t^p-s)$ | 正則点は $k$ 上滑らか |
| 基礎体が完全(Jacobi 判定 ⇒ 正則性) | $k=\mathbb F_p(a)$ 上の曲線 $y^2=x^p-a$($p$ は奇素数) | 偏導関数が全て零の点は非正則 |
| 空間の特異点と関数の極の区別 | $\mathbb A^1_{\mathbb C}$ 上の $1/t$ | 関数が極をもつ点は空間の特異点 |
| 接空間の次元だけで型が決まる | 節点と尖点 | 接空間の次元が同じなら同じ型 |
各行の確認は次のとおりである。
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