初等同値(elementary equivalence)とは、同じ一階言語の 2 つの構造 $\mathcal M,\mathcal N$ が、その言語のすべての文について真偽を一致させること、すなわち $\operatorname{Th}(\mathcal M)=\operatorname{Th}(\mathcal N)$ であることをいい、$\mathcal M\equiv\mathcal N$ と書く。同型な構造は初等同値であり、有限構造では逆も成り立つが、無限構造では $(\mathbb{Q},<)$ と $(\mathbb{R},<)$ のように初等同値で同型でない例が必ずある。部分同型の往復系があれば初等同値であり、初等同値は 2 つの構造を同時に初等的に埋め込める構造があることと同値である。理論が完全であることは、そのモデルがどれも初等同値であることと同値である。
有理数の順序 $(\mathbb{Q},<)$ と実数の順序 $(\mathbb{R},<)$ は、濃度が違うので同型ではない。しかし「最小元がない」「どの 2 元の間にも別の元がある」のように順序の言葉だけで書ける主張は、どちらでも同じように成り立つ。実は、順序の言語の一階の文で 2 つを見分けるものは 1 つもない。このように、一階の文では区別できない 2 つの構造を 初等同値(elementarily equivalent)であるという。
初等同値は同型より弱い同一視であり、一階述語論理という言葉で構造を見たときに「同じに見える」ことを表す。この記事では、初等同値を定義し、同型との関係、有限構造では両者が一致すること、部分同型の往復系による判定法、共通の初等拡大による特徴づけを証明する。
以下、$L$ は一階言語で、構造の台集合は空でないとする(一階述語論理 の記事の定義「構造」)。$L$ 構造 $\mathcal M$ の台集合を $M$ と書く。文 $\sigma$ が $\mathcal M$ で真であることを $\mathcal M\models\sigma$ と書き(同記事の定義「モデル・妥当性・論理的帰結」)、$\mathcal M$ で真な $L$ の文の全体を $\operatorname{Th}(\mathcal M)$ と書いて $\mathcal M$ の 理論 という。
$L$ 構造 $\mathcal M,\mathcal N$ が 初等同値 であるとは、$L$ のすべての文 $\sigma$ について
$$
\mathcal M\models\sigma\iff\mathcal N\models\sigma
$$
が成り立つことをいい、$\mathcal M\equiv\mathcal N$ と書く。
文は自由変数をもたないので、その真偽は割り当てによらず構造だけで決まる(一階述語論理 の記事の系「文の真偽は割り当てによらない」)。初等同値は、この真偽の一覧が 2 つの構造で一致することである。どの文が使えるかは言語 $L$ で決まるので、言語を明示したいときは「$L$ 構造として初等同値」という。
$L$ 構造 $\mathcal M,\mathcal N$ について、次は同値である。
1 ⇔ 2 は定義そのものである。2 ⇒ 3 は明らかで、3 と 4 は $\operatorname{Th}(\mathcal N)$ の定義により同じことを述べている。
3 ⇒ 2:$\sigma\in\operatorname{Th}(\mathcal N)$ とする。$\sigma\notin\operatorname{Th}(\mathcal M)$ と仮定すると、否定の充足の定義により $\lnot\sigma\in\operatorname{Th}(\mathcal M)$ であり、3 により $\lnot\sigma\in\operatorname{Th}(\mathcal N)$ となる。これは $\sigma\in\operatorname{Th}(\mathcal N)$ と両立しない。よって $\sigma\in\operatorname{Th}(\mathcal M)$ であり、$\operatorname{Th}(\mathcal N)\subset\operatorname{Th}(\mathcal M)$ が示された。
最後の主張は、2 の形にすれば集合の等号の性質である。$\square$
3 ⇒ 2 の証明は、$\operatorname{Th}(\mathcal M)$ がどの文についてもその文かその否定を含むことだけを使っている。これは $\operatorname{Th}(\mathcal M)$ が 完全な理論 であるということである。とくに、モデルをもつ理論 $T$ が完全であることは、$T$ のどの 2 つのモデルも初等同値であることと同値である(同記事の命題「完全性の同値な言い換え」の 1 ⇔ 2)。初等同値は構造どうしの関係、完全性は理論の性質であり、両者はこの同値で結ばれている。
初等同値は言語に依存する。$L\subset L'$ とし、$L'$ 構造 $\mathcal M',\mathcal N'$ の $L$ への簡約を $\mathcal M'|_L,\mathcal N'|_L$ とする(構造(モデル) の記事の定義「簡約と拡張」)。$L$ の文の真偽は簡約しても変わらないので、$\mathcal M'\equiv\mathcal N'$($L'$ 構造として)なら $\mathcal M'|_L\equiv\mathcal N'|_L$ である。逆は成り立たない。$(\mathbb{Q},<)\equiv(\mathbb{R},<)$ であるが(ex-ee-dlo)、順序体の言語 $\{0,1,+,\cdot,<\}$ に広げると文 $\exists x\,(x\cdot x=1+1)$ が $\mathbb{R}$ で真、$\mathbb{Q}$ で偽になる。
一階の文は、量化記号が構造の 元 の上だけを動く有限の式である。「部分集合がすべて上限をもつ」「元が可算個である」「どの元も $1$ から有限回で到達できる」といった、部分集合や自然数の回数にわたる主張は一般に一階の文では書けない。初等同値な構造は、そうした書けない性質では違っていてもよく、書ける性質ではすべて一致する。初等同値は「一階論理という虫めがねで見る限り同じ」という関係である。
同型な構造は初等同値である(一階述語論理 の記事の定理「同型補題」の最後の主張)。より一般に、初等埋め込み $j\colon\mathcal M\to\mathcal N$ があれば $\mathcal M\equiv\mathcal N$ である(初等埋め込み の記事の定義「埋め込みと初等埋め込み」の (ii) で、変数のない論理式の場合)。
逆向きは、無限構造では成り立たない。無限な $L$ 構造 $\mathcal M$ には、$\mathcal M$ と初等同値で同型でない構造が必ずある(Löwenheim–Skolemの定理 の記事の系「無限構造の理論は同型を除いて決まらない」)。上向きの Löwenheim–Skolem の定理で濃度の大きい初等拡大を作れば、全単射が存在しないからである。
| 関係 | 定めるもの | 例 |
|---|---|---|
| 同型 $\mathcal M\cong\mathcal N$ | 構造を保つ全単射がある | $(\mathbb{Z},<)\cong(2\mathbb{Z},<)$($x\mapsto 2x$) |
| 初等埋め込み $\mathcal M\to\mathcal N$ がある | 元を代入した論理式の真偽まで保つ写像がある | $(\mathbb{Q},<)\to(\mathbb{R},<)$ の包含 |
| 初等同値 $\mathcal M\equiv\mathcal N$ | 文の真偽が一致する | $(\mathbb{R},<)\equiv(\mathbb{Q},<)$ |
上の行ほど強く、各行は次の行を導く。表の 2 行目の包含が初等埋め込みであることは 初等部分モデル の記事の命題「有理数は実数の初等部分モデル(順序の言語)」による。3 行目の $(\mathbb{R},<)$ から $(\mathbb{Q},<)$ へは、濃度の理由で単射すらなく、初等埋め込みはない。
有限構造では、初等同値と同型が一致する。言語が無限個の記号をもってもよい。
$\mathcal M$ を有限な $L$ 構造とする。$L$ 構造 $\mathcal N$ が $\mathcal M\equiv\mathcal N$ を満たすなら、$\mathcal M\cong\mathcal N$ である。
$M=\{a_1,\dots,a_n\}$(相異なる $n$ 個の元)とする。
段 1(元の個数). 文
$$
\varepsilon_n:=\exists x_1\cdots\exists x_n\Bigl(\bigwedge_{1\le i< j\le n}\lnot(x_i=x_j)\land\forall y\,\bigvee_{i=1}^n y=x_i\Bigr)
$$
は「元がちょうど $n$ 個ある」ことを表す。$\mathcal M\models\varepsilon_n$ なので $\mathcal N\models\varepsilon_n$ であり、$N$ もちょうど $n$ 個の元をもつ。
段 2(有限個の記号についての同型). $L$ の記号の有限部分集合 $L_0$ をとる。次の有限個の原子論理式とその否定の連言を $\theta_{L_0}(x_1,\dots,x_n)$ とする。
段 3(全部の記号を同時に). $L_0$ ごとに、$M$ から $N$ への全単射で $L_0$ の記号の解釈をすべて保つものの集合を $S(L_0)$ とする。段 2 により $S(L_0)$ は空でなく、$M$ から $N$ への全単射は $n!$ 個しかないので有限集合である。また $L_0\subset L_1$ なら $S(L_1)\subset S(L_0)$ である。
$\lvert S(L_0)\rvert$ が最小になる有限部分集合 $L_0^\ast$ を 1 つとる(値は正の整数なので最小値がある)。任意の有限部分集合 $L_1$ について、$S(L_0^\ast\cup L_1)\subset S(L_0^\ast)$ で、左辺は空でなく、最小性から元の個数は右辺以上である。よって両辺は等しく、$S(L_0^\ast)=S(L_0^\ast\cup L_1)\subset S(L_1)$ となる。
$h\in S(L_0^\ast)$ を 1 つとる。$L$ のどの記号 $s$ についても、$L_1=\{s\}$ に上のことを当てはめれば $h\in S(\{s\})$、すなわち $h$ は $s$ の解釈を保つ。したがって $h$ は $L$ 構造としての同型である。$\square$
段 3 は、記号ごとの条件を同時に満たす全単射を、有限集合 $S(L_0)$ の減少族の共通部分として取り出している。$L$ が有限なら $L_0=L$ として段 2 だけで足りる。
初等同値を示すには、本来は無限にある文を 1 つずつ調べる必要がある。そこで、有限個の元の対応を少しずつ延ばしていく「往復」の議論で、すべての文を一度に扱う。この節では、言語 $L$ は 関係記号だけからなる(定数記号・関数記号をもたない)とする。
$\mathcal M,\mathcal N$ を $L$ 構造とする。
空写像 $\emptyset$ はいつでも部分同型である。$p\subset q$ は写像のグラフとしての包含で、$q$ が $p$ の延長であることを表す。
$L$ は関係記号だけからなるとする。$L$ 構造 $\mathcal M,\mathcal N$ の間に往復系 $I$ があれば、次が成り立つ。自由変数が相異なる変数 $x_1,\dots,x_k$ の中にあるすべての論理式 $\varphi$、すべての $p\in I$、すべての $a_1,\dots,a_k\in\operatorname{dom}p$ について
$$
\mathcal M\models\varphi[a_1,\dots,a_k]\iff\mathcal N\models\varphi[p(a_1),\dots,p(a_k)].
$$
とくに $\mathcal M\equiv\mathcal N$ である。
ここで $\mathcal M\models\varphi[a_1,\dots,a_k]$ は、$x_i$ に $a_i$ を割り当てて $\varphi$ が充足されることを表す(残りの変数への割り当てによらないことは 一階述語論理 の記事の補題「一致補題」)。$a_i$ に重複があってもよい。論理式は $\lnot,\land$ と $\exists$ から作られるとしてよい。ほかの結合子と $\forall$ は、充足の定義の上でこれらと同値な形($\forall y\,\psi$ は $\lnot\exists y\,\lnot\psi$)に置き換えられるからである。主張を、すべての $p\in I$ と $\operatorname{dom}p$ の元の組について同時に、$\varphi$ の組み立てに関する帰納法で示す。
原子論理式. $\varphi$ が $R(x_{i_1},\dots,x_{i_r})$ なら、部分同型の定義そのものである。$\varphi$ が $x_i=x_j$ なら、$p$ が単射なので $a_i=a_j\iff p(a_i)=p(a_j)$ である。言語に定数記号・関数記号がないので、原子論理式はこの 2 つの形に限る。
結合子. $\lnot\psi$ と $\psi\land\chi$ の場合は、同じ $p$ と同じ元の組に帰納法の仮定を当てはめ、充足の定義を使えばよい。
存在量化. $\varphi=\exists y\,\psi$ とする。束縛変数の名前を付け替えて(一階述語論理 の記事の系「束縛変数の付け替え」)、$y$ は $x_1,\dots,x_k$ と異なるとしてよい。$\psi$ の自由変数は $x_1,\dots,x_k,y$ の中にある。
$\mathcal M\models\varphi[\bar a]$ とすると、ある $c\in M$ で $\mathcal M\models\psi[\bar a,c]$ である。(行き)により、$p\subset q$ かつ $c\in\operatorname{dom}q$ となる $q\in I$ がある。$a_i\in\operatorname{dom}p$ なので $q(a_i)=p(a_i)$ である。$q$ と組 $(\bar a,c)$ に帰納法の仮定を当てはめると $\mathcal N\models\psi[p(\bar a),q(c)]$ となり、$\mathcal N\models\varphi[p(\bar a)]$ である。
逆に $\mathcal N\models\varphi[p(\bar a)]$ とすると、ある $d\in N$ で $\mathcal N\models\psi[p(\bar a),d]$ である。(帰り)により、$p\subset q$ かつ $d=q(c)$ となる $q\in I$ と $c\in\operatorname{dom}q$ がある。帰納法の仮定により $\mathcal M\models\psi[\bar a,c]$ となり、$\mathcal M\models\varphi[\bar a]$ である。
文の場合. $k=0$ とすれば、$\operatorname{dom}p$ の元を選ぶ必要がない。$I$ は空でないので $p\in I$ を 1 つとれば、すべての文 $\sigma$ について $\mathcal M\models\sigma\iff\mathcal N\models\sigma$ である。$\square$
この定理は OLT26 Theorem 25.17(p. 388)にある。存在量化の段で(行き)は左から右へ、(帰り)は右から左へ使われている。往復系の 2 つの条件は、量化記号の 2 つの向きにちょうど対応している。
言語が定数記号や関数記号を含む場合も、部分同型を「有限個の元が生成する部分構造の間の同型」に取り替えれば同じ結論が成り立つ(OLT26 Remark 3、p. 388。この記事では証明しない)。また、可算な構造の間に往復系があれば、元を交互に取り込んで延ばしていくことで同型が得られる(同 Theorem 25.16、p. 387)。往復を有限回で打ち切ったものが Ehrenfeucht–Fraïsséゲーム であり、有限個の関係記号の言語では、$n$ 手のゲームで模倣者が勝つことと、量化記号の入れ子の深さが $n$ 以下の文の真偽が一致することとが同値になる(OLT26 Corollary 25.24、p. 389)。
記号をもたない言語(等号だけ)を考える。この言語の構造は空でない集合そのものである。$M,N$ がともに無限集合なら、有限部分集合の間の単射すべてからなる集合 $I$ は往復系である。実際、等号だけの言語では単射はすべて部分同型であり、$p\in I$ と $a\in M\setminus\operatorname{dom}p$ について、$\operatorname{ran}p$ は有限で $N$ は無限なので $b\in N\setminus\operatorname{ran}p$ がとれ、$p\cup\{(a,b)\}\in I$ となる($a\in\operatorname{dom}p$ なら $q=p$ でよい)。(帰り)も同じである。thm-ee-back-and-forth により $M\equiv N$ である。
thm-ee-finite と合わせると、等号だけの言語の 2 つの構造が初等同値であるのは、元の個数が同じ有限数であるか、ともに無限であるときに限る(Bil03 Proposition 9.5、p. 57)。$\mathbb{N}$ と $\mathbb{R}$ はこの言語で初等同値である。
言語 $\{<\}$ で、$\mathcal M,\mathcal N$ を端点のない稠密な全順序とする(量化記号消去 の記事の定義「端点のない稠密な全順序の理論」の公理を満たす構造)。順序を保つ有限の単射 $p$($a< a'\iff p(a)< p(a')$)の全体を $I$ とすると、$I$ は往復系である。
(行き)を確かめる。$p\in I$ の定義域を $a_1< \cdots< a_k$ とすると、$p(a_1)< \cdots< p(a_k)$ である。$a\in M$ が定義域にないとき、$a$ の位置は「$a< a_1$」「$a_i< a< a_{i+1}$」「$a_k< a$」のどれかである。それぞれ、端点がないことから $b< p(a_1)$ となる $b$、稠密性から $p(a_i)< b< p(a_{i+1})$ となる $b$、端点がないことから $p(a_k)< b$ となる $b$ を $N$ からとる($k=0$ なら $N$ の任意の元)。$a$ と各 $a_i$ の大小が $b$ と各 $p(a_i)$ の大小に一致するので、$p\cup\{(a,b)\}\in I$ である。(帰り)は $\mathcal M$ と $\mathcal N$ の役割を入れ替えれば同じである。
thm-ee-back-and-forth により $\mathcal M\equiv\mathcal N$ である。とくに
$$
(\mathbb{Q},<)\equiv(\mathbb{R},<)\equiv(\mathbb{R}\setminus\{0\},<)
$$
である。同じ結論は、量化記号消去を使った別の方法でも得られる(量化記号消去 の記事の系「DLO の完全性と定義可能集合」)。
初等同値は文だけを比べる関係で、元どうしの対応を何も指定しない。しかし、2 つの構造を同時に初等的に埋め込める大きな構造があることと同値になる。この節では言語 $L$ は任意である。
$L$ 構造 $\mathcal M,\mathcal N$ について、次は同値である。
2 ⇒ 1:初等埋め込みは文の真偽を保つので $\mathcal M\equiv\mathcal K$、$\mathcal N\equiv\mathcal K$ であり、prop-ee-equivalent の推移性と対称性により $\mathcal M\equiv\mathcal N$ である。
1 ⇒ 2:$M$ の各元 $a$ に新しい定数記号 $c_a$ を、$N$ の各元 $b$ に新しい定数記号 $d_b$ を用意する(互いに異なり、$L$ の記号とも異なるものとする)。$L_M:=L\cup\{c_a\mid a\in M\}$、$L_N:=L\cup\{d_b\mid b\in N\}$、$L^\ast:=L_M\cup L_N$ とおく。Löwenheim–Skolemの定理 の記事の定義「初等図式」の $\operatorname{Eldiag}(\mathcal M)$($L_M$ の文)と、$d_b$ を使って同様に作った $\operatorname{Eldiag}(\mathcal N)$($L_N$ の文)をとり、
$$
T:=\operatorname{Eldiag}(\mathcal M)\cup\operatorname{Eldiag}(\mathcal N)
$$
とおく。
段 1($T$ は有限充足可能). $T$ の有限部分集合 $T_0$ をとる。$T_0\cap\operatorname{Eldiag}(\mathcal N)$ の文に現れる記号 $d_b$ を $d_{b_1},\dots,d_{b_m}$($b_i$ は相異なる)とすると、これらの文は $L$ の論理式 $\theta_1(y_1,\dots,y_m),\dots,\theta_l(y_1,\dots,y_m)$ の $y_i$ に $d_{b_i}$ を代入した形をしている。$\theta:=\theta_1\land\cdots\land\theta_l$ とおくと($l=0$ なら $m=0$ で、$\theta$ は恒真な文 $\forall x\,(x=x)$ とする)、各文が $\mathcal N$ の初等図式に属することから $\mathcal N\models\theta[b_1,\dots,b_m]$ であり、$L$ の文 $\exists y_1\cdots\exists y_m\,\theta$ が $\mathcal N$ で真である。$\mathcal M\equiv\mathcal N$ なので、これは $\mathcal M$ でも真であり、$\mathcal M\models\theta[a'_1,\dots,a'_m]$ となる $a'_1,\dots,a'_m\in M$ がある。
$\mathcal M$ を $L^\ast$ 構造 $\mathcal K_0$ に拡張する。$c_a$ は $a$ と解釈し、$d_{b_i}$ は $a'_i$ と解釈し、そのほかの $d_b$ は $M$ の任意の 1 つの元と解釈する。$\mathcal K_0$ の $L_M$ への簡約は $\operatorname{Eldiag}(\mathcal M)$ のモデルであり、$\mathcal K_0\models\theta_i(d_{b_1},\dots,d_{b_m})$ は代入補題(一階述語論理 の記事の補題「代入補題」)により $\mathcal M\models\theta_i[a'_1,\dots,a'_m]$ と同値で成り立つ。よって $\mathcal K_0$ は $T_0$ のモデルである。
段 2(モデルを作る). コンパクト性定理(一階論理) の記事の定理「一階論理のコンパクト性定理」により、$T$ はモデル $\mathcal K^\ast$($L^\ast$ 構造)をもつ。$\mathcal K:=\mathcal K^\ast|_L$ とし、$j(a):=c_a^{\mathcal K^\ast}$、$k(b):=d_b^{\mathcal K^\ast}$ とおく。$\mathcal K^\ast|_{L_M}$ は $\operatorname{Eldiag}(\mathcal M)$ のモデルなので、Löwenheim–Skolemの定理 の記事の補題「初等図式の補題」により $j\colon\mathcal M\to\mathcal K$ は初等埋め込みである。同じ補題を $\mathcal K^\ast|_{L_N}$ と $\operatorname{Eldiag}(\mathcal N)$ に当てはめれば、$k\colon\mathcal N\to\mathcal K$ も初等埋め込みである。$\square$
段 1 が要点である。$\mathcal N$ の初等図式の有限個の文は、$\mathcal N$ の有限個の元について述べた 1 つの論理式 $\theta$ にまとまる。その元の存在を述べる文 $\exists\bar y\,\theta$ は $L$ の文なので、初等同値によって $\mathcal M$ に持ち込める。$\mathcal M$ の中に $\theta$ を満たす元を見つけ、それを $d_{b_i}$ の解釈に使えば、2 つの初等図式の有限部分を $\mathcal M$ だけで同時に満たせる。
この定理により、初等同値は「共通の初等拡大に同時に入れられる」ことと言い換えられる。$\mathcal K$ の中では $\mathcal M$ と $\mathcal N$ の像が初等部分構造として並び、両者に共通する一階の性質を $\mathcal K$ の中で比べられる。
初等同値でないことは、一方で真で他方で偽な文を 1 つ示せばよい。
2 と 4 は、濃度が同じ可算な構造でも、初等同値と同型が離れうることを示している。初等同値な構造のあいだの違いは、一階の文では書けない性質、たとえば $\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間としての次元(2)や、すべての元が $0$ から有限回の後者で到達できるかどうか(4)に現れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 有限構造(thm-ee-finite) | $(\mathbb{Q},<)$ と $(\mathbb{R},<)$ | 初等同値なら同型 |
| (帰り)の条件(thm-ee-back-and-forth) | $(\mathbb{Q},<)$ と $(\mathbb{Q}\cap[0,1],<)$、値域が $(0,1)$ に入る部分同型の全体 | 初等同値 |
| $I$ が空でない(thm-ee-back-and-forth) | $I=\emptyset$、$(\mathbb{Q},<)$ と $1$ 点の順序 | 初等同値 |
| 埋め込みが初等的(thm-ee-joint の 2 ⇒ 1) | $(\mathbb{N},<)$ と $(\mathbb{Z},<)$ を包含で $(\mathbb{Z},<)$ に埋め込む | 初等同値 |
1 行目:ex-ee-not-isomorphic の 1 である。
2 行目:$\mathcal M=(\mathbb{Q},<)$、$\mathcal N=(\mathbb{Q}\cap[0,1],<)$ とし、順序を保つ有限の単射 $p\colon\operatorname{dom}p\to\mathbb{Q}\cap[0,1]$ で $\operatorname{ran}p\subset(0,1)$ となるものの全体を $I$ とする。$\emptyset\in I$ なので $I$ は空でない。(行き)は ex-ee-dlo と同じ議論で成り立つ。$\mathbb{Q}\cap(0,1)$ は端点のない稠密な全順序なので、$a$ の位置に対応する $b$ を $(0,1)$ の中からとれるからである。一方、$b=0\in N$ を値域に含む $q\in I$ はないので(帰り)は成り立たない。そして文 $\exists x\,\forall y\,\lnot(y< x)$ は $\mathcal N$ で真($x=0$)、$\mathcal M$ で偽なので、$\mathcal M\not\equiv\mathcal N$ である。
3 行目:$I=\emptyset$ は(行き)(帰り)を「$p\in I$ について」の条件として空虚に満たす。しかし文 $\exists x\,\exists y\,(x< y)$ は $(\mathbb{Q},<)$ で真、$1$ 点の順序で偽である。
4 行目:包含 $\mathbb{N}\hookrightarrow\mathbb{Z}$ と恒等写像 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ はどちらも順序を保つ単射で、初等埋め込み の記事の定義「埋め込みと初等埋め込み」の (i) の意味の埋め込みである。しかし ex-ee-distinguished の 1 により $(\mathbb{N},<)\not\equiv(\mathbb{Z},<)$ である。包含 $\mathbb{N}\hookrightarrow\mathbb{Z}$ は文 $\exists x\,\forall y\,\lnot(y< x)$ の真偽を保たないので、初等埋め込みではない。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する