符号なしLaplacian

同義語:signless Laplacian符号なしLaplacian行列signless Laplacian matrix符号なしラプラシアン

概要

符号なしLaplacian(signless Laplacian)とは、グラフの次数を並べた対角行列 $D$ に隣接行列 $A$ を足した行列 $Q=D+A$ のことである。$x^{\mathsf T}Qx$ は隣り合う頂点の値の和の 2 乗の和になるので $Q$ は半正定値で、固有値 $0$ の重複度は二部グラフである連結成分の個数に等しい。グラフが二部グラフであることは、Laplacian 行列 $D-A$ とスペクトルが一致することと同値であり、連結なグラフでは $Q$ の最大固有値は Laplacian の最大固有値以上で、等号は二部グラフのときに限る。正の固有値から $2$ を引くと線グラフの固有値が得られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Laplacian行列, 隣接行列, 二部グラフ, スペクトル定理, Rayleigh商

符号なし Laplacian(signless Laplacian)とは、グラフ $G$ の次数を並べた対角行列 $D$ に隣接行列 $A$ を足した行列 $Q=D+A$ のことである。Laplacian行列 $L=D-A$ の非対角成分の符号を反転したもので、頂点の上の関数 $x$ に対して「隣どうしの値の和の 2 乗の和」
$$ x^{\mathsf T}Qx=\sum_{uv\in E}(x_u+x_v)^2 $$
を与える。この式から $Q$ の固有値はすべて $0$ 以上であり、Laplacian 行列では固有値 $0$ の重複度が連結成分の個数であったのに対し、符号なし Laplacian では 二部グラフである連結成分の個数 に等しい。これがこの記事の主定理で、記事の中で完全に証明する。
二部グラフでは $Q$ と $L$ は相似で、同じ固有値をもつ。逆にスペクトルが一致すれば二部グラフである。二部でないグラフでは $Q$ は $L$ と異なる情報をもち、最大固有値は $L$ の最大固有値以上になる。また $Q$ は向きをつけない接続行列 $B$ によって $Q=BB^{\mathsf T}$ と書け、$B^{\mathsf T}B$ と $0$ でない固有値を共有する。単純グラフでは $B^{\mathsf T}B-2I$ は 線グラフ の隣接行列なので、その固有値は、$Q$ の正の固有値から $2$ を引いたものと、残りの重複度の $-2$ である(cor-sl-line-graph)。

定義

この記事では、グラフは有限で無向とし、ループはもたないとする。多重辺は、とくに断らない限り許す。頂点集合を $V=\{1,\dots,n\}$、辺集合を $E$、辺数を $m$ とする。

符号なし Laplacian

$G$ の隣接行列を $A$($A_{uv}$ は $u$ と $v$ を結ぶ辺の本数)、頂点 $u$ の次数を $d_u$、$D=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_n)$ とする。
$$ Q:=D+A,\qquad Q_{uu}=d_u,\qquad Q_{uv}=A_{uv}\ (u\neq v) $$
を $G$ の 符号なし Laplacian(符号なし Laplacian 行列)という。$Q$ の固有値を重複度こめて $q_1\ge q_2\ge\dots\ge q_n$ と並べたものを $G$ の 符号なし Laplacian スペクトル($Q$-スペクトル)という。

定義は BH11 §1.1(p. 1)による。$Q$ の各行の和は $2d_u$ であり、$G$ が $k$-正則なら $Q=kI+A=2kI-L$ である。$Q$ は非負の成分をもつ実対称行列なので、固有値は実数で、固有ベクトルからなる正規直交基底がある(スペクトル定理)。

接続行列

$n\times m$ 行列 $B$ を、頂点 $u$ が辺 $e$ の端点なら $B_{ue}=1$、そうでなければ $B_{ue}=0$ と定め、$G$ の(向きをつけない)接続行列 という。

3 頂点の場合

道 $P_3$(辺 $12$、$23$)と三角形 $K_3$ の符号なし Laplacian は
$$ Q(P_3)=\begin{pmatrix}1&1&0\\1&2&1\\0&1&1\end{pmatrix},\qquad Q(K_3)=\begin{pmatrix}2&1&1\\1&2&1\\1&1&2\end{pmatrix} $$
である。$Q(P_3)$ の固有値は $0,1,3$ で、固有値 $0$ の固有ベクトルは $(1,-1,1)$ である。これは Laplacian行列 の $P_3$ の固有値 $0,1,3$ と一致する。$Q(K_3)=I+J$($J$ は全成分 $1$)の固有値は $4,1,1$ で、$0$ をもたない。$K_3$ の Laplacian 固有値は $0,3,3$ なので、こちらは一致しない。

半正定値性と 2 次形式

符号なし Laplacian の分解と 2 次形式

$Q=BB^{\mathsf T}$ である。したがって、任意の $x\in\mathbb{R}^n$ について
$$ x^{\mathsf T}Qx=\|B^{\mathsf T}x\|^2=\sum_{e\in E}\bigl(x_{u(e)}+x_{w(e)}\bigr)^2\ \ge0 $$
($u(e),w(e)$ は $e$ の両端)であり、$Q$ は半正定値で、固有値はすべて $0$ 以上である。

$(BB^{\mathsf T})_{uv}=\sum_eB_{ue}B_{ve}$ である。$u=v$ なら、$B_{ue}^2$ は $e$ が $u$ に接続するとき $1$ なので(ループはない)、和は $d_u$ である。$u\neq v$ なら、$B_{ue}B_{ve}=1$ となるのは $e$ の両端が $u,v$ のときなので、和は $u$ と $v$ を結ぶ辺の本数 $A_{uv}$ である。よって $BB^{\mathsf T}=D+A=Q$ である。$B^{\mathsf T}x$ の $e$ 成分は $x_{u(e)}+x_{w(e)}$ なので $x^{\mathsf T}Qx=\|B^{\mathsf T}x\|^2$ はその 2 乗の和である。$Qx=qx$、$x\neq0$ なら $q\,x^{\mathsf T}x=x^{\mathsf T}Qx\ge0$ から $q\ge0$ である。$\square$

この分解は BH11 §1.1(p. 1)にある。Laplacian 行列の分解 $L=NN^{\mathsf T}$($N$ は向き付き接続行列。Laplacian行列 の命題「Laplacian 行列の分解と 2 次形式」)で $\pm1$ を両方 $1$ に替えたものにあたる。固有値の和は $\operatorname{tr}Q=\sum_ud_u=2m$ で、Laplacian と同じである。

主定理:固有値 0 の重複度と二部成分

$G$ の連結成分のうち二部グラフであるものを 二部成分 と呼ぶ。孤立点(辺をもたない頂点)だけからなる成分も二部成分である。

核の次元と二部成分の個数

$G$ の二部成分を $G_1,\dots,G_b$ とし、$G_i$ の二部分割を $(X_i,Y_i)$ とする。$G_i$ の上で、$X_i$ では $1$、$Y_i$ では $-1$、ほかの頂点では $0$ をとるベクトルを $s_i$ とする。このとき
$$ \ker Q=\operatorname{span}\{s_1,\dots,s_b\} $$
であり、$\dim\ker Q=b$ である。$Q$ は対称なので、固有値 $0$ の重複度は $G$ の二部成分の個数 $b$ に等しい。

段 1($s_i\in\ker Q$).$G_i$ の辺は $X_i$ と $Y_i$ を結ぶので、両端での $s_i$ の値の和は $1+(-1)=0$ である。ほかの成分の辺では両端の値が $0$ である。よって $B^{\mathsf T}s_i=0$、したがって $Qs_i=B(B^{\mathsf T}s_i)=0$ である。
段 2(核の元の形).$Qx=0$ とすると、prop-sl-quadratic により $0=x^{\mathsf T}Qx=\sum_e(x_{u(e)}+x_{w(e)})^2$ なので、すべての辺で $x_{w(e)}=-x_{u(e)}$ である。連結成分 $C$ を 1 つとり、頂点 $v_0\in C$ を固定する。$C$ の頂点 $v$ を $v_0$ と結ぶ歩道 $v_0,v_1,\dots,v_k=v$ に沿って符号が交互に変わるので、$x_v=(-1)^kx_{v_0}$ である。
$C$ が二部成分でなければ、$C$ は長さ奇数の閉路をもつ(二部グラフ の定理「閉路の長さによる特徴付け」)。$v_0$ からその閉路の頂点 $w$ へ歩道で行き、閉路を 1 周して $w$ に戻り、同じ歩道で $v_0$ に戻ると、長さが奇数の閉歩道が得られる。上の式から $x_{v_0}=-x_{v_0}$、すなわち $x_{v_0}=0$ であり、したがって $C$ の上で $x=0$ である。
$C=G_i$ が二部成分なら、$v_0\in X_i$ とすると、$v$ が $X_i$ にあるか $Y_i$ にあるかで $v_0$ からの歩道の長さの偶奇が決まる(辺は $X_i$ と $Y_i$ を行き来する)。よって $C$ の上で $x=x_{v_0}s_i$ である。合わせて $x=\sum_ic_is_i$ の形になる。
段 3(次元と重複度).$s_1,\dots,s_b$ は台が互いに交わらない $0$ でないベクトルなので線形独立であり、$\dim\ker Q=b$ である。実対称行列では固有値の代数的重複度は固有空間の次元に等しい(スペクトル定理)。$\square$

この定理は BH11 Proposition 1.3.9(pp. 7–8)にある。とくに、連結なグラフ $G$ について、$0$ が $Q$ の固有値であることと $G$ が二部グラフであることは同値であり、そのとき $0$ は単純な固有値である。

二部グラフでの Laplacian との関係

二部グラフでは L と Q は相似

$G$ が二部分割 $(X,Y)$ をもつ二部グラフなら、$X$ の頂点で $1$、$Y$ の頂点で $-1$ を対角に並べた行列 $S$ について $Q=SLS$、$S^{-1}=S$ である。とくに $Q$ と $L$ の固有値は重複度こめて一致し、$L$ の固有ベクトル $x$ に対して $Sx$ が $Q$ の固有ベクトルである。

$(SLS)_{uv}=S_{uu}L_{uv}S_{vv}$ である。$u=v$ なら $L_{uu}=d_u=Q_{uu}$ である。$u\neq v$ で $A_{uv}\neq0$ なら、$u,v$ は二部分割の異なる側にあるので $S_{uu}S_{vv}=-1$ となり、$(SLS)_{uv}=-(-A_{uv})=A_{uv}=Q_{uv}$ である。$A_{uv}=0$ ならどちらも $0$ である。$S^2=I$ も明らかである。$\square$

次の定理は、2 つのスペクトルを比べると二部性が分かることを述べる。

スペクトルの一致と二部性

$G$ が二部グラフであることと、$G$ の Laplacian スペクトルと符号なし Laplacian スペクトルが重複度こめて一致することは同値である。

二部グラフなら prop-sl-similar により一致する。逆にスペクトルが一致すれば、固有値 $0$ の重複度も一致する。Laplacian 側ではそれは連結成分の個数(Laplacian行列 の定理「核の次元と連結成分の個数」)、符号なし側では二部成分の個数(thm-sl-kernel)である。よってすべての連結成分が二部成分であり、$G$ は二部グラフである。$\square$

この定理は BH11 Proposition 1.3.10(p. 8)にあり、証明もこれに従った。符号なし Laplacian スペクトルだけからは二部性は分からない(後の節「反例」の 3 行目)。

最大固有値

符号なし Laplacian の最大固有値 $q_1$ は、Laplacian の最大固有値 $\mu_{\max}$ と次のように比べられる。

最大固有値の比較

$G$ を連結なグラフとする($n\ge2$)。このとき $\mu_{\max}\le q_1$ であり、等号が成り立つのは $G$ が二部グラフのときに限る。

段 1(不等式).実対称行列 $M$ の最大固有値 $\theta$ は、単位ベクトル $y$ にわたる $y^{\mathsf T}My$ の最大値であり、最大値をとる $y$ は $\theta$ の固有ベクトルに限る(Rayleigh商。固有ベクトルの正規直交基底で $y=\sum c_iw_i$ と展開すると $y^{\mathsf T}My=\sum\theta_ic_i^2\le\theta\sum c_i^2=\theta$ で、等号は $\theta_i< \theta$ の $i$ で $c_i=0$ のときに限る)。$x$ を $L$ の $\mu_{\max}$ の単位固有ベクトルとし、$\lvert x\rvert:=(\lvert x_1\rvert,\dots,\lvert x_n\rvert)$ とおく。各辺で $(x_u-x_v)^2\le(\lvert x_u\rvert+\lvert x_v\rvert)^2$ なので
$$ \mu_{\max}=\sum_{uv\in E}(x_u-x_v)^2\ \le\ \sum_{uv\in E}(\lvert x_u\rvert+\lvert x_v\rvert)^2=\lvert x\rvert^{\mathsf T}Q\lvert x\rvert\ \le\ q_1 $$
である。
段 2(等号の場合).$\mu_{\max}=q_1$ なら、上の 2 つの不等号はどちらも等号である。2 つ目の等号から、$\lvert x\rvert$ は $Q$ の $q_1$ の固有ベクトルである。もし $\lvert x_v\rvert=0$ となる頂点 $v$ があれば、$0=q_1\lvert x_v\rvert=(Q\lvert x\rvert)_v=d_v\lvert x_v\rvert+\sum_{u}A_{vu}\lvert x_u\rvert$ から $v$ の隣接頂点でも $\lvert x_u\rvert=0$ であり、$G$ は連結なのですべての頂点で $x=0$ となって矛盾する。よって $x$ はどの頂点でも $0$ でない。1 つ目の等号から、各辺で $(x_u-x_v)^2=(\lvert x_u\rvert+\lvert x_v\rvert)^2$、すなわち $x_ux_v=-\lvert x_u\rvert\lvert x_v\rvert< 0$ である。したがって $x_v>0$ の頂点と $x_v< 0$ の頂点への分割は二部分割であり、$G$ は二部グラフである。逆に二部グラフなら prop-sl-similar により $\mu_{\max}=q_1$ である。$\square$

連結性は外せない(「反例」の 2 行目)。次の評価は、$q_1$ を次数で挟む。

最大固有値の評価

$G$ を単純グラフとし、辺をもつとする。$\Delta$ を最大次数とすると
$$ \max\Bigl\{\frac{4m}{n},\ \Delta+1\Bigr\}\ \le\ q_1\ \le\ \max_{uv\in E}(d_u+d_v)\ \le\ 2\Delta $$
である。とくに $G$ が $k$-正則($k\ge1$)なら $q_1=2k$ である。

下界:Rayleigh商 により $q_1\ge\mathbf 1^{\mathsf T}Q\mathbf 1/n=\sum_e(1+1)^2/n=4m/n$ である。また次数 $\Delta$ の頂点 $v$ をとり、$x_v=\Delta$、$v$ の $\Delta$ 個の隣接頂点で $x_u=1$、ほかで $0$ とおくと、$x^{\mathsf T}x=\Delta^2+\Delta$ である。$v$ に接続する $\Delta$ 本の辺はそれぞれ $(\Delta+1)^2$ を寄与し、ほかの辺の寄与は $0$ 以上なので $x^{\mathsf T}Qx\ge\Delta(\Delta+1)^2$ である。よって $q_1\ge\Delta(\Delta+1)^2/(\Delta^2+\Delta)=\Delta+1$ である(この $x$ は星 $K_{1,\Delta}$ の $Q$ の最大固有値 $\Delta+1$ の固有ベクトルである)。
上界:$Q=BB^{\mathsf T}$ と $B^{\mathsf T}B$ は同じ $0$ でない固有値をもつ(線グラフ の定理「線グラフの固有値」の証明の中の等式 $t^{\,n}\det(tI_m-B^{\mathsf T}B)=t^{\,m}\det(tI_n-BB^{\mathsf T})$)。$B^{\mathsf T}B$ は非負行列で、辺 $e=uv$ の行の和は $\sum_f\sum_wB_{we}B_{wf}=\sum_wB_{we}d_w=d_u+d_v$ である。非負行列の固有値の絶対値は行和の最大値以下なので(固有ベクトルの成分の絶対値が最大の行を見る)、$q_1\le\max_{uv\in E}(d_u+d_v)$ である。$k$-正則なら $4m/n=2k$ と $2\Delta=2k$ が一致する。$\square$

例

グラフ符号なし Laplacian スペクトル二部成分の個数
$K_n$($n\ge3$)$2n-2,\ (n-2)^{(n-1)}$$0$
$C_n$$2+2\cos(2\pi k/n)$($k=0,\dots,n-1$)$n$ が偶数なら $1$、奇数なら $0$
$P_n$$2+2\cos(\pi i/n)$($i=1,\dots,n$)$1$
星 $K_{1,n-1}$($n\ge3$)$n,\ 1^{(n-2)},\ 0$$1$
$K_{1,3}$ と $K_1+K_3$どちらも $4,1,1,0$$1$

右肩の括弧の中の数は重複度である。

表の確認
表の各行の計算を開く

$K_n$:$Q=(n-2)I+J$ で、$J$ の固有値 $n$(重複度 $1$)と $0$(重複度 $n-1$)から従う。$C_n$:$2$-正則なので $Q=2I+A$ で、閉路の隣接行列の固有値 $2\cos(2\pi k/n)$(BH11 §1.4.3、pp. 8–9)に $2$ を足す。$n$ が奇数のとき $\cos(2\pi k/n)=-1$ となる $k$ はないので $0$ は現れない。$P_n$:二部グラフなので Laplacian スペクトル $2-2\cos(\pi k/n)$($k=0,\dots,n-1$)と一致し、$i=n-k$ と置き直すとこの形になる(BH11 §1.4.5 の例、p. 9)。星:二部グラフなので Laplacian スペクトル(Laplacian行列 の表)と一致する(BH11 §15.3.3、p. 223 にも同じ値がある)。最後の行:$K_{1,3}$ は星の $n=4$ の場合、$K_1+K_3$ は孤立点の $0$ と $K_3$ の $4,1,1$ を合わせたもの(BH11 §1.3.6、p. 7)。

BH11 §14.3.2(p. 201)は、11 頂点までの全グラフについて、ほかのグラフとスペクトルを共有するグラフの割合を、隣接行列・Laplacian・符号なし Laplacian などで比べた計算機の結果(Haemers–Spence)を表 14.1 に引いている。$n=10,11$ では符号なし Laplacian の割合($0.053$、$0.038$)がいちばん小さい。$4$ 頂点では、隣接行列と Laplacian ではスペクトルを共有する組がないのに、符号なし Laplacian では上の表の $K_{1,3}$ と $K_1+K_3$ の 1 組がある。

線グラフとの関係

$G$ の 線グラフ $L(G)$ は、$G$ の辺を頂点とし、端点を共有する 2 辺を結んだグラフである。単純グラフ $G$ について $B^{\mathsf T}B=2I_m+A(L(G))$ である(線グラフ の定理「線グラフの固有値」の 1)。

線グラフの固有値

$G$ を $m$ 辺の単純グラフとし、$Q$ の正の固有値を重複度こめて $q_1\ge\dots\ge q_r>0$ とする。このとき $L(G)$ の隣接行列の固有値は、重複度こめて $q_i-2$($i=1,\dots,r$)と、$m-r$ 個の $-2$ である。

$BB^{\mathsf T}=Q$ と $B^{\mathsf T}B$ は $0$ でない固有値を重複度こめて共有する(prf-sl-bounds で引いた等式)。$B^{\mathsf T}B$ は $m$ 次で半正定値なので、残りの $m-r$ 個の固有値は $0$ である。$A(L(G))=B^{\mathsf T}B-2I_m$ から従う。$\square$

この系は BH11 Proposition 1.4.1(p. 9)にある。例えば $G=K_3$ では $Q$ の固有値 $4,1,1$ から、$L(K_3)\cong K_3$ の固有値 $2,-1,-1$ が得られる。正則グラフの場合は 線グラフ の定理「線グラフの固有値」の 3 と同じことである。

反例

外す条件・替える条件反例成り立たなくなること
prop-sl-similar の「二部グラフ」三角形 $K_3$$L$ のスペクトル $0,3,3$ と $Q$ のスペクトル $4,1,1$ が異なる
thm-sl-largest の「連結」$K_3$ と星 $K_{1,4}$ の非交和$\mu_{\max}=q_1=5$ だが二部グラフでない
thm-sl-bipartite-iff の「$L$ のスペクトルと比べる」を「$Q$ のスペクトルだけを見る」に替える$K_{1,3}$ と $K_1+K_3$$Q$-スペクトルは等しいが、一方だけが二部グラフ
prop-sl-quadratic の「辺の重みが正」(重み付きに広げた場合)2 頂点を重み $-1$ の辺で結ぶ$Q=\begin{pmatrix}-1&-1\\-1&-1\end{pmatrix}$ の固有値が $-2,0$ で、半正定値でない
反例の確認
各行の確認を開く

1 行目:ex-sl-small の計算である。

2 行目:スペクトルは成分ごとの和集合である(BH11 Proposition 1.3.6、p. 7)。$L$ の最大固有値は $K_3$ の $3$ と $K_{1,4}$ の $5$ の大きいほうで $5$、$Q$ の最大固有値は $K_3$ の $4$ と $K_{1,4}$ の $5$(二部なので $L$ と同じ)の大きいほうで $5$ である。段 2 の「$\lvert x_v\rvert=0$ なら隣も $0$」は連結成分の中でしか伝わらず、$x$ が $K_3$ の上で $0$ になりうる。

3 行目:ex-sl-table の最後の行である。$K_{1,3}$ の Laplacian スペクトルは $0,1,1,4$、$K_1+K_3$ のものは $0,0,3,3$ で、thm-sl-bipartite-iff のとおり $K_{1,3}$ では $Q$ と一致し、$K_1+K_3$ では一致しない。

4 行目:重み $c_e$ の辺について $Q_{uu}=\sum_{e\ni u}c_e$、$Q_{uv}=\sum_{e:\,u\text{–}v}c_e$ とおくと、$x^{\mathsf T}Qx=\sum_ec_e(x_{u(e)}+x_{w(e)})^2$ となり、$c_e>0$ なら prop-sl-quadratic と thm-sl-kernel はそのまま成り立つ。$c=-1$ では $x=(1,1)$ で $x^{\mathsf T}Qx=-4$ である。

関連項目

参考文献

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